説明

経口用肌改善剤および肌改善用食品組成物

【課題】加熱したり、酸性条件下におかれた際にも分解され難く、肌改善効果を十分に発揮する経口用肌改善剤およびこれを含有する肌改善用食品組成物を提供する。
【解決手段】経口用肌改善剤は、主成分として純度が90%以上、好ましくは95%以上で、平均分子量が20万以上であり、平均粒子径が50〜500μmであるヒアルロン酸および/またはその塩を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの肌状態を改善するための経口用肌改善剤および肌改善用食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、生体、特に皮下組織に存在するムコ多糖類である。ヒアルロン酸の皮膚細胞中の存在量は加齢とともに減少し、それに伴い皮膚の弾力性や柔軟性が低下し、肌荒れや小皺が発生する。このため、肌の潤いを保持することや肌荒れを改善することを期待し、ヒアルロン酸を保湿剤として化粧料に配合し、これを皮膚に塗布することが従来より行われている。
【0003】
しかし、人間の皮膚には、本来的に外的要因から身体を保護する作用、つまり生体防御作用が備わっているために、高分子量のヒアルロン酸自体が皮膚の表皮を通り抜けて真皮組織まで到達するのは難しいと考えられる。つまり、ヒアルロン酸含有化粧料は主にヒアルロン酸を皮膚に塗布したときの「保湿効果」を利用しているのが殆どで、皮膚の内部にまで作用するような本質的な肌荒れ改善効果が得られていないというのが現状である。
【0004】
そこで、本出願人は、ヒアルロン酸を含有することを特徴とする経口用肌改善剤に関する発明を行い、既に特許出願している(特許文献1)。上記のヒアルロン酸を使用することにより、経口摂取した際に優れた肌改善効果を発揮させるとともに、保存安定性に優れた経口用肌改善剤を得ることができる。
【0005】
しかしながら、ヒアルロン酸および/またはその塩は、加熱や酸性条件下では低分子化しやすいため、経口摂取した際の体内での挙動によっては、期待した肌改善効果が得られない場合があった。
【特許文献1】特開2002−356432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、加熱や酸性条件下においても低分子化し難いヒアルロン酸および/またはその塩を含有する経口用肌改善剤ならびに肌改善用食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、ヒアルロン酸および/またはその塩について鋭意研究を重ねた結果、特定の平均粒子径を有するヒアルロン酸および/またはその塩を含有する経口用肌改善剤が、意外にも、加熱や酸性条件下においても安定であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)平均分子量が20万以上であって、平均粒子径が50〜500μmである、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する経口用肌改善剤。
(2)(1)の経口用肌改善剤を含有する肌改善用食品組成物、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のヒアルロン酸および/またはその塩を含有する経口用肌改善剤は、加熱や酸性条件下においても、ヒアルロン酸および/またはその塩が低分子化することなく、長期間安定に分子量を保つことができ、経口摂取した際に期待される肌改善効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
本発明における「ヒアルロン酸」とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。また、「ヒアルロン酸の塩」としては、特に限定されないが、食品または薬学上許容しうる塩であることが好ましく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0011】
本発明の経口用肌改善剤に含有されるヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量は20万以上であり、好ましくは50万〜150万であり、より好ましくは75万〜120万である。ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量が上記範囲外の場合、該ヒアルロン酸および/またはその塩を経口摂取することによる肌改善効果が小さいおそれがあり、好ましくない。
【0012】
また、本発明で使用する精製ヒアルロン酸の平均分子量は下記の方法に求めた値として定義される。
【0013】
約0.05gの精製ヒアルロン酸を精密に量り、0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液に溶かし、正確に100mLとした溶液およびこの溶液8mL、12mL並びに16mLを正確に量り、それぞれに0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液を加えて正確に20mLとした溶液を試料溶液とする。この試料溶液および0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液につき、日本薬局方(第十四改正)一般試験法の粘度測定法(第1法 毛細管粘度測定法)により30.0±0.1℃で比粘度を測定し(式(1))、各濃度における還元粘度を算出する(式(2))。還元粘度を縦軸に、本品の換算した乾燥物に対する濃度(g/100mL)を横軸にとってグラフを描き、各点を結ぶ直線と縦軸との交点から極限粘度を求める。ここで求められた極限粘度をLaurentの式(式(3))に代入し、平均分子量を算出する(T.C.
Laurent, M. Ryan, A. Pietruszkiewicz,:B.B.A., 42, 476-485(1960))。

【0014】
ヒアルロン酸および/またはその塩は、動物等の天然物(例えば鶏冠、さい帯、皮膚、関節液などの生体組織など)から抽出されたものでもよく、または、微生物もしくは動物細胞を培養して得られたもの(例えばストレプトコッカス属の細菌等を用いた発酵法)、化学的もしくは酵素的に合成されたものなどいずれも使用することができる。
【0015】
本発明の経口用肌改善剤に含有されるヒアルロン酸および/またはその塩は、市販品を使用することができるが、例えば、以下の製造法1および2に従って製造することもできる。
【0016】
1.1.製造法1(鶏冠からの抽出) 鶏冠に加熱処理を施す。加熱処理方法、加熱温度、時間は、鶏冠中の蛋白質が変性したり、酵素が失活したりする範囲内であれば、特に制限がなく、熱水による加熱法を採用する場合は、60〜100℃の熱水中に原料を浸漬するとよい。
【0017】
次に、加熱処理した鶏冠をペースト化し、塩酸、硫酸等の酸剤、または水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ剤を添加し酸処理またはアルカリ処理してヒアルロン酸を低分子化し、処理後のヒアルロン酸の平均分子量を調整する。調整方法としては、酸剤あるいはアルカリ剤の濃度、添加量および処理時間等を適宜組み合わせて、処理後のヒアルロン酸が所望の分子量となるようにすればよいが、アルカリ処理による方法がヒアルロン酸の分子量をコントロールし易く好ましい。
【0018】
次に、分子量を調整した原料に蛋白分解酵素を添加して、プロテアーゼ処理する。使用する蛋白分解酵素は、市販しているものであれば種類を問わず使用することができ、例えば、ペプシン、トリプシン、パパイン、プロメリン等が挙げられる。
【0019】
最後に、得られたプロテアーゼ処理物からヒアルロン酸を分取して、粗製のヒアルロン酸を得た後、このヒアルロン酸を精製することにより純度90%以上のヒアルロン酸が得られる。
【0020】
ここで、ヒアルロン酸の分取・精製は、常法に従って行うことができる。例えば、まず、プロテアーゼ処理した原料を濾過して固形物を除去して、粗製のヒアルロン酸を含有した濾液を得る。なお、濾過に先立ち、脱臭・脱色や一部の蛋白分解物を除去する目的で、プロテアーゼ処理物に活性炭を添加し処理してもよい。そして得られた濾液に食塩を溶解させた後、エタノールを添加してヒアルロン酸を沈殿させ、沈殿物を分取する。その後、この沈殿物にエタノール濃度約80〜95容量%の含水エタノールを添加し、ホモゲナイザーで洗浄し、沈殿物を分取する。この含水エタノールによる洗浄を2〜10回程度繰り返し、分取した沈殿物を乾燥することで、製造例1のヒアルロン酸を得ることができる。
【0021】
1.2.製造法2(微生物発酵法)
ヒアルロン酸産出ストレプトコッカス属の微生物(Streptococcus Zoopidemicus)の培養液に活性炭を添加して脱臭・脱色処理を行った後、濾過処理する。得られた濾液に食塩を溶解させた後、エタノールを添加してヒアルロン酸を沈殿させ、沈殿物を分取する。その後、この沈殿物にエタノール濃度約80〜95容量%の含水エタノールを添加し、ホモゲナイザーで洗浄し、沈殿物を分取する。この含水エタノールによる洗浄を2〜10回程度繰り返し、分取した沈殿物を乾燥することで、製造例2のヒアルロン酸を得ることができる。
【0022】
なお、本発明において使用するヒアルロン酸の純度は、食品で使用できるレベルであればよく、好ましくは90%以上であればよく、より好ましくは95%以上であればよい。この純度は乾物換算で100%よりヒアルロン酸以外の不純物を除いた値として定義される。ここで、不純物としては、蛋白分解物、脂肪分(粗脂肪)、コンドロイチン硫酸等が挙げられる。具体的に鶏冠を原料とするヒアルロン酸の純度は、以下式(4)で求めることができる。

【0023】
式(4)中、蛋白分解物(%)はLowry法により求めた値であり、粗脂肪(%)は新・食品分析法(光琳(株)発行)「第1章一般成分および関連成分、1−4脂質、1−4−2エーテル抽出法」により求めた値であり、また、コンドロイチン硫酸(%)は、以下に説明する方法により得た値である。
【0024】
まず、ヒアルロン酸を乾燥し、その50mgを精密に量り、精製水を加えて溶かし、正確に100mLとして試験溶液とし、その試験溶液4mLを試験管にとり、0.5mol/L濃度の硫酸1mLを加えて混和し、水浴中で10分間加熱し、その後冷却して得られた溶液に0.04mol/L濃度の臭化セチルトリメチルアンモニウムを0.2mL加えて混和し、室温で1時間放置し、層長10mm、波長660nmにおける吸光度を測定する。
【0025】
次に、得られた吸光度データをコンドロイチン硫酸の検量線に適用して精製ヒアルロン酸中のコンドロイチン硫酸量(%)を求める。ここで、その検量線は、クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩(SG(Special Grade)、生化学工業株式会社製)を乾燥(減圧、五酸化リン、60℃、5時間)させたものを精密に量り、精製水を加えて溶かし、1mL中に10μg、20μg、30μg、40μgのコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含む溶液をそれぞれ調製し、それぞれの溶液4mLについて、0.5mol/L濃度の硫酸1mLを加えて混和した後、0.04mol/L濃度の臭化セチルトリメチルアンモニウムを0.2mL加えて混和し、室温で1時間放置した後、同様に吸光度を測定し、その吸光度を縦軸に、対応するコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩溶液(μg/mL)を横軸にプロットすることによって作成したものである。
【0026】
本発明の経口用肌改善剤に含有されるヒアルロン酸および/またはその塩の平均粒子径は、50〜500μmである。平均粒子径が上記範囲以下の場合は、ヒアルロン酸および/またはその塩が不安定化する場合がある。また、ヒアルロン酸および/またはその塩の平均粒子径が上記範囲以上に大きい場合は、経口摂取した際に、体内で溶解し難い場合がある。なお、平均粒子径の測定方法は、一般的に知られたレーザー回折式測定法や、動的光散乱式測定法等を挙げることができる。
【0027】
上記のヒアルロン酸および/またはその塩の粒子径の調整方法は、特に限定されるものではない。例えば、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する溶液を、噴霧乾燥、凍結乾燥等により乾燥処理を施した後、必要に応じて粉砕を行う方法等が挙げられる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る食品組成物は、本発明の経口用肌改善剤を含有する。すなわち、本発明の肌改善効果を有する食品組成物は、平均粒子径が20万以上であり、平均粒子径が50〜500μmであるヒアルロン酸および/またはその塩を含む。
【0029】
上記食品組成物の態様は、平均粒子径が20万以上であり、平均粒子径が50〜500μmであるヒアルロン酸および/またはその塩を含むものであれば特に限定されるものではないが、例えば、乾燥食品、カプセル状等のサプリメント類等の一般食品全般、生理機能を表現することを許可された特定保健用食品全般を挙げることができる。サプリメントを調製する場合、種々の食品素材または飲料品素材を添加することによって、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状、カプセル状などの形態の食品製剤とすることができる。また、この食品製剤には、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤などを適宜添加してもよい。さらに、その他の肌改善成分を含むこともできる。
【0030】
次に、本発明を実施例、比較例および試験例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
[実施例]
平均粒子径が異なる、平均分子量80万のヒアルロン酸からなる粉末(ヒアルロン酸の純度97%)を使用して、人工胃液中での溶解速度を評価した。具体的には、平均分子量80万のヒアルロン酸を篩い分けして表1に記載の各平均粒子径を有するヒアルロン酸を調製した。
【0032】
平均分子量80万のヒアルロン酸を使用して、篩い分けは、篩1(65メッシュ(目開き208μm))、篩2(150メッシュ(目開き104μm))、篩3(250メッシュ(目開き61μm))の篩を用いた。
【0033】
篩1を通過したが篩2を通過しなかった粒子を試験例1の粉末とし、篩2を通過したが篩3を通過しなかった粒子を試験例2の粉末とし、篩1を通過しなかった粒子を試験例3の粉末とし、篩3を通過した粒子を比較試験例1の粉末とした。
【0034】
各ヒアルロン酸0.3gを人工胃液(pH1.2のNaCl0.2%水溶液)100mLに加え、同時に攪拌を行い、目視で完全溶解するまでの時間(溶解時間)を測定した。試験例1〜3および比較試験例1のヒアルロン酸からなる粉末の溶解時間を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
以上の結果から、比較試験例1(平均粒子径50μm未満)のヒアルロン酸に対して、試験例1〜3のヒアルロン酸(平均粒子径50〜500μm)の胃液中への溶解性が低いことがわかる。さらに、試験例1および3のヒアルロン酸(平均粒子径80〜500μm)の溶解性がより低く、試験例3のヒアルロン酸(平均粒子径200〜500μm)の溶解性がさらに低い。このことから、平均粒子径50〜500μmである試験例1〜3のヒアルロン酸は、平均粒子径50μm未満である比較試験例1のヒアルロン酸と比べて胃液中での加水分解を受けにくく、低分子化されにくいことがわかる。
【0037】
以上により、平均粒子径50〜500μm、なかでも平均粒子径200〜500μmである平均分子量80万のヒアルロン酸は胃液による加水分解を受けにくく、低分子化されにくいことがわかる。すなわち、経口摂取した際に体内で低分子化が起こり難く、特に効果的に肌を改善することができる。
【0038】
[配合例1]
試験例1のヒアルロン酸(経口用肌改善剤)を用いて、内容物が下記の配合であるソフトカプセルを製した。配合例1のソフトカプセルは、肌改善効果に優れていた。
<配合割合>
試験例1のヒアルロン酸 20%
オリーブ油 50%
ミツロウ 10%
中鎖脂肪酸トリグリセリド 10%
乳化剤 10%
――――――――――――――――――――
計 100%
【0039】
[配合例2]
試験例2のヒアルロン酸(経口用肌改善剤)を用いて、下記の配合の錠剤を製した。配合例2の錠剤は、肌改善効果に優れていた。
<配合割合>
試験例2のヒアルロン酸 25%
乳糖 24%
結晶セルロース 20%
トウモロコシデンプン 15%
デキストリン 10%
乳化剤 5%
二酸化ケイ素 1%
――――――――――――――――――――
計 100%
【0040】
[配合例3]
試験例3のヒアルロン酸(経口用肌改善剤)を用いて、下記の配合の散剤(顆粒剤)を製した。配合例3の散剤は、肌改善効果に優れていた。
<配合割合>
試験例3のヒアルロン酸 10%
乳糖 60%
トウモロコシデンプン 25%
ヒプロメロース 5%
――――――――――――――――――――
計 100%

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のヒアルロン酸および/またはその塩を含有する経口用肌改善剤は、加熱や酸性条件下でも低分子化が起こりにくいことから、経口摂取した際に十分な肌改善効果を発揮することができる。また、本発明のヒアルロン酸および/またはその塩を含有する経口用肌改善剤を、食品に配合して使用することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量が20万以上であって、平均粒子径が50〜500μmであるヒアルロン酸および/またはその塩を含有する、経口用肌改善剤。
【請求項2】
請求項1記載の経口用肌改善剤を含有する肌改善用食品組成物。

【公開番号】特開2011−63526(P2011−63526A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213961(P2009−213961)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】