説明

経年劣化した熱遮へいコーティングの非接触非破壊検査手法

【課題】先進ガスタービンなどに用いられる耐熱性金属材料における熱遮へいコーティングの経年劣化を非接触・非破壊評価する技術の開発。
【解決手段】金属基材上に施された熱遮へいコーティングを有する耐熱性材料の当該コーティングに生成する熱成長酸化物(例えば、遮熱コーティング(TBC)/ボンドコート界面に形成される)の生成・成長を高周波伝送特性を使用して定量的に非接触・非破壊評価する。これにより、当該コーティングのはく離や脱落の発生する前に劣化の様子を把握できて、適切な時期に部品交換などを実施できることとなり、安全性及び経済的に優れた作用効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性金属材料における熱遮へいコーティングの経年劣化を非接触・非破壊評価する技術に関する。本発明は、金属基材上に施された熱遮へいコーティングを有する耐熱性材料の当該コーティングに生成する熱成長酸化物の生成・成長を非接触・非破壊測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題が世界の最重要課題の1つとして大きく取り上げられている。地
球温暖化問題は、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、代替フロン等の温室効果ガスの大気中濃度が上昇し、これにより地球規模で気温が上昇するとされている問題であり、気温の上昇に伴い、海面水位の上昇、降水分布の変化等を生じ、生態系、社会・経済、生活環境への影響が懸念されている。温室効果ガスの約7割は二酸化炭素(CO2)であり、そのうち
約8割が化石燃料消費により発生すると言われている。化石燃料を大量に使用する火力発
電においては、その高効率化に向けた着実な取り組みが求められている。本高効率化の一つとして、発電プラントではガスタービンを導入したり、タービン入り口ガス温度(TIT)
をより高温にするなどして効率化が図られ、逐次、1100℃級、1300℃級および1500℃級のタービン入り口ガス温度のものの稼動に至ってきている。このような過酷な熱的条件に耐えうるよう、空冷技術とともに、ガス温度の上昇に貢献したのは、ガスタービンの燃焼器、タービン動翼等に使用される高温部材の進歩である。タービン翼材料などには、高温強度に優れるCo基やNi基超合金が用いられ、さらに冷却性能の向上が図られるとともに、1300℃級の一部および1500℃級では、動静翼や燃焼器等の表面に遮熱コーティング又は熱遮へいコーティング(TBC:Thermal Barrier Coating)が施工されている。遮熱コーティング技術は、冷却空気を増加させることなくメタル基材の温度上昇を防ぐことを目的に応用されている。図1には、熱遮へいコーティングシステム(TBCシステム)の構造概念図を示
す。
【0003】
TBCシステムは、一般に、Ni基超合金の上にボンドコートを減圧プラズマ溶射法(LPPS: Low Pressure Plasma Spraying)により施工し、さらにその上に大気圧プラズマ溶射法(APS: Atmospheric Plasma Spraying)もしくは電子ビーム物理蒸着法(EB-PVD: Electron Beam-Physical Vapor)でトップコートを施工したものである。最近ではボンドコートの溶射
法として、加圧燃焼ガスを用いる高速フレーム溶射(HVOF)も用いられおり、LPPSと比較して、溶射温度が低く溶射粒子の速度が高速であるため、形成された皮膜は酸化が少なく緻密で基材との密着性が高い。トップコートの役割は熱遮へいであり、その材料として熱伝導率の低いイットリア部分安定化ジルコニアが使用されている。ボンドコートはトップコートと基材の密着性を向上させるために用いられ、その材料として基材とトップコートの中程度の熱膨張率を有し、耐食コーティングとしても実績のあるMCrAlY合金(M=Co and/or Ni)が採用されている。表1に、ボンドコートに使用されているMCrAlYに含まれる各元素の役割を示す。Mは基本構成要素であり、高温での強度あるいは耐硫化性や耐酸化性
確保のためCo、Niあるいはそれらを複合したものが使用される。Alは良好な耐酸化性をもつAl2O3を形成し、CrはAl2O3の硫化腐食を補い、自らもCr2O3を形成する。YはAl2O3 やCr2O3の保護酸化皮膜の補強維持を行う役割を持つ。
【0004】
【表1】

【0005】
TBCシステムは基材温度上昇の防止、あるいは基材の使用可能限界温度の上昇を可能に
する。しかし、高温環境中で長時間使用することにより、図1-7に示すようにTBC内のはく離やき裂の発生によりTBCが脱落すると、基材が耐用温度を超えた環境に曝されて破壊し
てしまい最終的に大事故につながる危険性がある。したがって、ガスタービンシステムの信頼性確保のためTBCシステムにおけるはく離、き裂あるいは脱落といった損傷の発生過
程については、これまで多くの研究がなされてきた。
TBCの損傷に大きく関与しているものの一つに熱成長酸化物(TGO:Thermally Grown Oxide)がある。TGOは、ガスタービン稼動中に、ボンドコートが高温酸化することによって、トップコート/ボンドコート界面に生成、成長する。TBCのはく離、き裂および脱落をTBCシステムの損傷、TBC中に生成するTGOの成長をTBCシステムの劣化ということができる。TGOの成長はTBCの損傷を助長すると考えられるため、TGOの成長を抑制することはガスタ
ービン高温部材の信頼性向上と長寿命化を図る上で極めて重要な課題であり、酸化物の成長挙動とその抑制について、詳細な研究が行われている。またTGOの微細組織とTBCの寿命の相関性についても研究が行われており、損傷に至るまでの時間が長いTBC中のTGOは結晶粒径が小さく、層の厚さが均一で、気孔が少ないとの報告がある。
【0006】
また、TGOの成長量とTBCのはく離強度には相関性があるという報告もあり、そのメカニズム解明についての研究も行われている。セラミックスであるトップコートやTGOは、金
属であるボンドコートと熱膨張係数(CTE: Coefficient of Thermal Expansion)の値が
大きく異なるため、起動‐停止時の温度変化により界面に大きな熱応力が発生する。特にTGOはCTEが小さいため、TGOの成長によりTGOとボンドコート界面の熱応力は顕著に大きくなる。実際は、TGOとボンドコートの界面では、はく離が多く観察されるが、この原因はTGOとボンドコート界面の熱応力であり、他にはTGO成長期の体積膨張によって生じる応力
に起因するものが考えられている。このTGO層に起因した熱応力の発生が界面接合力の低
下を引き起こすと述べて、TGOの厚さは損傷の重要支配パラメータであるとしている報告
もある。さらに、TGO厚さが一定値を超えると、TGO/ボンドコート界面近傍で密着強度の
極端な低下が発生し、その限界膜厚は5.5〜6μmであるとか、8〜10μmあるいは13μmであるとかの報告もある。
これらのことからTGOの成長量はTBCの損傷度合いを知る上で重要な指標となる可能性がある。また、EB-PVDにより施工されたTBCにおいては損傷が寿命の最終段階で短時間の間
に起こるとの報告もあるから、TGOの成長量に着目したTBCの劣化評価はTBCの安全性・信
頼性確保に極めて重要であると考えられる。
【0007】
TBCの非破壊検査手法としては赤外線サーモグラフィー法、超音波パルス法、放射線散
乱法などがある(非特許文献1: 澤田佳也; セラミック遮熱コーティングの検査と評価, 非破壊検査51巻7号, pp.392-396 (2002); 非特許文献2: Committee on Coatings for High-temperature Structural Materials; Coatings for High-Temperature Structural Materials, National Academy Press, pp.39-43 (1996))。渦流探傷法(ECT:Eddy Current Teting)は、TBCのボンドコートにあたる耐食コーティング用金属材料(CoNiCrAlY)
に適用されており、深さ0.1 mmのノッチ検出や耐食コーティング厚さ、メタル温度の測定が可能である(非特許文献3: 福冨広幸, 野本明義, 緒方隆志; 電力中央研究所報告, T01045 (2002))。ECT法は電気伝導性の低い絶縁材料であるトップコートセラミック材料のき裂は検出できないが、金属であるボンドコートや基材にき裂が達した場合には、金属部に達したき裂の検出やTBCとボンドコートとの境界からき裂先端までの深さなどを測定す
ることは可能である。
【0008】
ところで、上記したようにTGOの膜厚の増加に着目することは重要なことであるが、TGOの膜厚の増加に対する非破壊検査方法としては、インピーダンス・スペクトロスコピー法(IS: Impedance Spectroscopy )がある(非特許文献4: Kazuhiro Ogawa, Tetsuo Shoji,
Iwao Abe, Hideo Hashimoto; Material Evaluation, Vol. 58, No. 31, pp.476-481 (2000))。IS法では体積抵抗率・比誘電率・厚さの変化に伴い変化するインピーダンスの大
きさ、位相角等を検出することでTBCの減肉量を定量的に評価することが可能で、さらにTGOの厚さを定量的に評価できるという利点がある。しかし、問題点としては、微細き裂やはく離などの構造的な変化の検出の難しさが指摘されている。これは、このIS法と併用できる部分放電法(非特許文献5: 渡邊孝; 部分放電法を用いた遮熱セラミックコーティングの損傷評価法の開発に関する研究 平成15年度東北大学修士学位論文 (2004))を用い
ることにより、検出が可能になるものと期待される。しかし、IS法や部分放電法はTGOの
成長挙動の詳細なモニタリングや観察に有効であると考えられているが、測定では電極を表面の凸凹が激しいTBCトップコート表面に接触させる必要があることや電極の接触面積
の大小が測定結果を大きく左右することなどの問題が実用上懸念されている。
したがって、実機適用を考えた場合、非接触かつ高速でTGO膜厚の変化を測定可能な計
測手法の開発が切望されている。
【0009】
【非特許文献1】澤田佳也; セラミック遮熱コーティングの検査と評価, 非破壊検査51巻7号, pp.392-396 (2002)
【非特許文献2】Committee on Coatings for High-temperature Structural Materials; Coatings for High-Temperature Structural Materials, National Academy Press, pp.39-43 (1996)
【非特許文献3】福冨広幸, 野本明義, 緒方隆志; 電力中央研究所報告, T01045 (2002)
【非特許文献4】Kazuhiro Ogawa, Tetsuo Shoji, Iwao Abe, Hideo Hashimoto; Material Evaluation, Vol. 58, No. 31, pp.476-481 (2000)
【非特許文献5】渡邊孝; 部分放電法を用いた遮熱セラミックコーティングの損傷評価法の開発に関する研究 平成15年度東北大学修士学位論文 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在、TBC施工部品の保守・管理は、メーカーの経験的あるいは工学的な管理基準に基
づいて実施されている。しかし、TBC補修やTBC施工部品廃却は必ずしも部品の余寿命に基づいてはおらず、科学的に合理性のある判断基準は残念ながら確立されてはいない。したがって、信頼性確保や補修費削減の観点から、ガスタービン主要高温部品に対する合理的な保守管理方法および非破壊検査手法の確立が求められている。
さらに、金属基材に熱遮へいコーティング(TBCシステム)の施されている金属材料(
すなわち、耐熱性金属材料)を使用しているガスタービンなどにおいて、当該施工されている熱遮へいコーティング(TBCシステム)の劣化状況は、はく離・脱落といった損傷に
至る前段階で評価することが重要である。この段階では、熱成長酸化物層(TGO)の膜厚
変化がTBCシステムの劣化過程を知る重要な指標と考えられる。したがって、本発明では
、TBCへ応用できる非接触非破壊評価技術を開発し、TGO膜厚の定量的評価をも可能とする手法並びにシステム・装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
近年、セラミックス、ポリマなど絶縁性材料を検査することを目的としてマイクロ波あるいはミリ波の応用が検討され、様々な分野への利用が期待されている。これらは原理的には電磁場を用いた非接触計測法である。マイクロ波は周波数300 MHz〜300 GHz(波長1 m〜1 mm)の帯域の電磁波であり、同帯域の電磁波のうち周波数30〜300 GHzの領域の波はミリ波とも呼ばれる。マイクロ波は、空気中を良好に伝播でき、その周波数の応答は照射材料の電磁物性値に依存するため、非接触の評価が可能である。マイクロ波による材料評価は、欠陥等の検査と材質・物性値の計測という二つの分野に大別できる。本発明者は、後者の応用に着目し、これまでセラミックス材料中の人工欠陥や自然欠陥形状の評価に適用し、欠陥形状の定量評価の可能性を見出している(Mikiko Suzuki, Kazuhiro Ogawa, Tetsuo Shoji; The Third US-Japan Symposium on Advancing Applications and Capabilities in NDE, pp.394-400, The American Society for Nondestructive Testing, Inc. Hawaii(2004))が、TBCシステムの劣化といった材質変化の計測を目的として、鋭意研究を進めた結果、高周波伝送特性を用いた非破壊検査手法により、当該熱遮へいコーティング(TBCシステム)におけるTGO膜厚の定量評価、並びにTBCシステムの劣化評価に成功し、本
発明を完成した。
【0012】
本発明では、次のものが提供される。
〔1〕金属基材上に生成した酸化皮膜の定量的評価に関し、1G〜100GHzの高周波を用い、非接触かつ非破壊で評価することを特徴とする非破壊評価システム。
〔2〕金属基材上に成膜したMCrAlY等のボンドコートおよびさらにその上に成膜したセラミックコーティングの界面に生成・成長を非接触かつ非破壊で評価することを特徴とする非破壊評価システム。
〔3〕1G〜100GHの高周波に対応し,酸化皮膜あるいはコーティング界面の信号を評価す
ることを特徴とする非破壊評価用センサ。
〔4〕高周波伝送特性を使用して、金属基材上に施された熱遮へいコーティングを有する耐熱性材料の当該コーティングに生成する熱成長酸化物の生成・成長を非接触・非破壊測定することを特徴とする熱遮へいコーティング検査法。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、高周波伝送特性を用い、非破壊且つ非接触で部材のTBCシステムにおける
劣化、例えば、TGOの生成・成長の程度を定量的に測定し、把握することを可能にする。
よって、過酷な環境下で使用されるガスタービンなどの合理的保守管理基準の確立に貢献する。本発明の検査を利用することにより、高価な部品を適切な寿命まで使用するための定量的な寿命評価と非破壊評価が可能であり、本発明の技術では定量的に非破壊評価を行うことができて、補修あるいは廃棄せずに合理的に継続使用が可能という保証も得られるなど、材料を本来の寿命まで使用することができるという利点も与える。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されてい
る全ての特許文献又は参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いる高周波伝送特性を用いた非破壊検査手法(以下、高周波伝送特性法と呼ぶ)は、対象物表面に高周波信号を印加し、入射波と反射波の電圧振幅比で定義される反射比を測定する方法である。高周波伝送特性法は非接触で計測が行えるという利点の他、電磁気信号を扱うためデータ処理が簡便で、自動操作が可能なことから測定者の技術レベルに依存しない、あるいは探触子の構造が単純であるといった利点がある。
本発明では、マイクロ波が使用される。マイクロ波は比較的波長の短い電磁波で、波長が約30 cmから3mm、周波数では1〜1000 GHzの帯域である。マイクロ波は光と同様に、直
進、反射、屈折、吸収および散乱などの性質があり、これらの性質を利用して、非金属の吸水率、厚さの測定、プラスチックやセラミックス中のボイド、ポロシティ、介在物の検査、複合材料やハニカム材接合部の欠陥検査等に利用されている。マイクロ波は空気中を伝播可能なため、超音波のように接触媒質を必要しないが、金属中には表皮効果のためほとんど侵入しないことから、これまでは主に非金属材料に使用されてきた。
【0015】
本発明の検査の対象であるTBCシステムは、表面側からトップコート層(セラミック)/
使用中に生成するTGO層(酸化物)/ボンドコート層(金属)/基材(Ni基超合金)という構成
になっており、ボンドコート上に成長するTGOの厚さが直接の検査対象である。したがっ
て、原理的にマイクロ波をTBC表面側から照射した場合には、マイクロ波はセラミックス
であるトップコートを透過し、金属であるボンドコート界面で反射される。TGOが成長し
た場合、TGOもセラミックスの一種であることから、基本的には同様の現象が生じるが、
電気的インピーダンスがトップコートとTGOで異なるため、TGOの成長に依存して反射波に変化が生じ、そしてそれにより測定が可能になる。
本発明ではTBCシステムの基材としては、耐熱合金が包含され、例えば、Ni基合金ある
いはCo基合金などの実質的な割合のニッケル(Ni)を基体としている合金あるいはコバルト(Co)を基体としている合金であって、当該分野で「超合金(super alloy)」として知られ
ている群に含まれるものが挙げられる。用語「超合金」とは、非常に高い強度、優れた機械的特性並びに耐食性を持っているものを一般的に表すのに使用されている技術用語であって、代表的な超合金は独特の安定的なミクロな組織を備えていることが認められている。火力発電プラントの発電用ガスタービンなどの部材用にはNiを基体としている合金(Ni
基合金)が広く使用されており、本発明における熱遮へいコーティング(TBC)を施す基材の代表例として挙げられる。該Ni基合金は、高温での耐酸化性に優れ、高温耐食性も優れ、高温で高い機械的特性も有しているものである。該Ni基合金の代表的なものは、ASTM(American Society for Testing and Materials; アメリカ材料試験協会)規格、例えば、ASTM
B166、ASTM B167、ASTM B168、ASTM B751、ASTM B775、ASTM B829など、ISO(International Organization for Standardization; 国際標準化機構)規格、例えば、ISO 6207、ISO
6208、ISO 9723-9725など、JIS(Japanese Industrial Standards; 日本工業規格)の規格、例えば、JIS G4901, JIS G4902などを挙げることができ、製品INCONEL 601(INCONEL又
はInconelは、Special Metals Corporation の登録商標である)として市販されているものが挙げられる。該Ni合金にはその他、INCONEL 600, INCONEL 601GC, INCONEL 617, INCONEL 625, INCONEL 625CF, INCONEL 718, INCONEL X-750, INCONEL 751, INCONEL MA758,
INCONEL HX, INCOLOY MA956, INCOLOY DS(INCOLOY又はIncoloyは、Special Metals Corporation の登録商標である)として市販されているものが挙げられ、ASTM B163, JIS G4903, JIS G4904などののものも挙げられる。
代表的なNi基合金の合金組成(重量%(wt%))は、次のようなものである:
Ni: 58.0〜63.0 wt%、Cr: 21.0〜25.0 wt%、Al: 1.00〜1.70 wt%、Cu: ≦1.0 wt%、
Si: ≦0.50 wt%、Mn: ≦1.00 wt%、C: ≦0.10 wt%、そして
残部が、Feである
ここで、残部のFeとは、痕跡量で付随してくる不純物を除いたFe量を意味している。また、典型例では、S: ≦0.015 wt%である。
【0016】
本発明ではTBCはNi基超合金基材などの超合金基材上に、ボンドコートと呼ばれるMCrAlY(MはNi、Coまたはそれらの合金)合金を減圧プラズマ溶射〈LPPS:Low Pressure Plasma Spray〉や高速フレーム溶射(HVOF:High Velocity Oxy-fuel Frame-spraying)により適切な厚さに施工し、さらにトップコートとして、セラミックス、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ:Yttria Stabilized Zirconia)を大気圧プラズマ溶射(APS: Air Plasma Spray)または電子ビーム物理蒸着法(EB-PVD:Electron Beam Physical Vapor Deposition)により適切な厚さに施工せしめることにより形成せしめられるものが包含され
る。代表的には、ボンドコートである接着層(ボンドコート層)は厚さ約100μm程度に施工せしめられ、トップコートである熱遮蔽皮膜層(熱遮蔽コーティング層)は、厚さ250
〜300μm程度に施工せしめられたものである。
【0017】
本発明では耐酸化性や耐高温腐食性を補償するとともに、前記熱遮へいコーティング(TBC)を構成するトップコート層との接着性向上の観点から、優れた耐酸化性を発揮するMCrAlX1合金(但しMは、Fe, Ni, Coから選ばれるいずれか1種以上の金属、X1は、Y, Hf, Ta, Cs, Pt, Zr, LaおよびThから選ばれるいずれか1種以上の金属)を基本のボンドコート用材として使用しているものが包含され、さらに、これに、Ce及びSiからなる群から選択されたものを配合したボンドコート用合金からなる接着層(ボンドコート層)が、前記Ni基超合金等の耐熱合金の表面に形成せしめられ、さらに該接着層(ボンドコート層)上に前記熱遮へい性に優れたトップコートが形成されたものも包含されてよい。一般的には該基本のボンドコート用合金は、MCr1530Al516 X10.11(下付数字は元素のwt%を示す)の組成を有するもので、典型的にはMはNi及びCoであり、X1がイットリウム(Y)であるものが挙げられる。代表的な場合、該基本ボンドコート合金は、CoNiCrAlY合金であり、そ
の基本の化学組成は、Ni: 29〜35 wt%、Cr: 19〜23 wt%、Al: 7〜9 wt%、Y: 0.4〜0.6 wt%、残部が、Coである(ここで、残部のCoとは、痕跡量で付随してくる不純物を除いたCo
量を意味している)。より好ましい場合、該CoNiCrAlY合金は、Ni: 約32 wt%、Cr: 約21 wt%、Al: 約8 wt%、Y: 約0.5 wt%、残部が、Coである(ここで、残部のCoとは、痕跡量で付随してくる不純物を除いたCo量を意味している)。便利には市販の溶射用合金を利用されたものであり、例えば、38.5Co-32Ni-21Cr-8Al-0.5Yの組成を有するものが合金微粉末
体として使用されたものなどが挙げられる。その他、基本のボンドコート用合金は、当該分野で広く知られており、例えば、米国特許第3,928,026号明細書などに開示されている

以下、TBCシステムに照射されたマイクロ波の反射特性に着目し、TGOの成長に伴う反射波の変化を定量的に検討し、TGO膜厚変化を非破壊検査することが可能であることを説明
する。特に本発明の非破壊検査方法は、高周波信号の伝送特性解析に使用される回路網理論を適用し、信号の伝播特性を記述するSパラメータを用いるものである。
【0018】
〔高周波伝送特性法の測定原理〕
〔反射係数〕
図3において送信側のインピーダンスをZ0、受信側の負荷インピーダンスZLにかかる電圧をVL、負荷に流れ込む電流をIL、入射電圧をV1、反射電圧をV2、入射電圧をI1、反射電流をI2とすれば、次の式が成立する。
【0019】
【数1】

【0020】
負荷インピーダンスZLに流れる電流ILとVLの関係は
【0021】
【数2】

【0022】
これより、入射電圧V1に対する反射電圧V2の比である電圧反射係数ρVを求めると、
【0023】
【数3】

【0024】
で表すことができる。一般にこの電圧反射係数ρVは反射電圧の大きさΓ、位相差φ(入
射波に対する反射はの位相)をもった複素数と考えることができる。電流についても同様に
【0025】
【数4】

【0026】
また負荷においてVL=IL・ZLの関係があるからVL=ZL(I1+I2)となる。式(2-6)と式(2-2)か
ら、
I1・Z0-I2・Z0=ZL・I1+ZL・I2となる。これより入射電流I1と反射電流I2の関係を求める
と電流反射係数ρi=(I2/I1)は
【0027】
【数5】

【0028】
式(2-7)より電圧の反射係数と電流の反射係数は大きさが等しく、符号が逆となる。
〔Sパラメータ〕
回路網の伝送特性は、様々な回路パラメータを計測すれば、定量的に論じることが可能となる。一般の電気回路や電子回路では、回路の特性を表わすのに、Hパラメータ,Yパラメータ,Zパラメータなどが使われている。図4に表わす線形4端子回路を考えた場合、H、Y、Zパラメータは次式で定義される。
【0029】
【数6】

【0030】
これらのパラメータを得るには、回路の入力端または出力端で、周波数の関数として電圧値や電流値を測定しなければならない。しかし高周波領域では、電圧測定のためにプローブを接続すると、プローブ自体が無視できないほどのインピーダンスを有するために、回路特性が変化してしまう。このため、低周波のように電圧や電流を直接計測することは非常に困難である。一方、電力は高周波領域でも正確に計測可能である。そのため、高周波回路の特性評価を行うのに、電力と関連付けられたパラメータが開発された。これがS
パラメータである。前述したH、Y、Zパラメータに比べて、Sパラメータには以下に示すように多くの長所がある。
1)利得、損失、反射係数などと直接的に関連付けられる。
2)比較的簡単に計測でき、試験回路に好ましくない負荷を接続する必要がない。
3)複数回路を有していても、それぞれのSパラメータが分かっていれば、システム全体
の特性を予測することができる。
4)SパラメータからH、Y、Zパラメータのいずれも導くことができる。
【0031】
Sパラメータの計測原理を図5に示す。信号aは回路の入力端に入射される波を表し、
信号bは出力端から出て行く波をそれぞれ表している。端子1において、信号b1は端子1
への入射波の中の反射された信号と、端子2側から入射され通過してきた伝送信号の和によって表される。同様に端子2において信号b2は端子1側から入射され通過して来た伝送信号と端子2側の入射波中の反射された信号の和により表される。このようにそれぞれ定義されたaιとbιは図5中に示した線形方程式によって関係付けられている。この各信号間の相関係数としてパラメータSijが定義される。
図6にSパラメータS11およびS21の計測方法の概略を示す。まず、S11およびS21を決定する場合は、端子2を伝送線路の特性インピーダンスと整合をとるZ0で終端する。
そして入射信号、反射信号および伝送信号を計測し、図6に示した式を用て入力反射係数および入力伝送係数を決定することができる。本発明では、反射特性S11を計測する。図
6から、S11は端子1への入射波のうち、入力端で反射された波の割合を表している。すなわち、S11は式(2-5)の反射係数Γ(入射波と反射波の振幅比)を表わすことになる。
【0032】
〔TGOの成長による高周波伝送特性の変化〕
図7(a)に示すように、試験片上に平行に伝送線を配置し、高周波信号を印加すると、
図7(a)のTGOが生成していない場合、伝送線からの高周波信号は各層中で透過または吸収される。信号の一部はトップコートおよびボンドコート界面で反射され、各層の厚さ、物性等によりある一定の反射係数が得られる。TGOが生成、成長した場合、図7(b)のようにインピーダンスの不整合界面が増える。TGO層の厚さや物性等に依存して、インピーダン
スの異なる第三層が、トップコート・ボンドコート間に入り込むため、反射係数も変化する。この変化を測定することにより、TGOの成長状態を非接触非破壊評価可能となる。な
お、この手法においては、試験体上に配置する伝送線が探触子の役割を果たす。
【0033】
〔探触子〕
〔共振現象〕
本発明技術では、非接触探傷を実現している。したがって、電源には探触子のみを接続し、試験片には直接通電しない。よって、完全な伝送線路とは言えず、探触子に流れる電流は完全な伝送線路よりも小さくなると考えられる。また、高周波領域では様々な抵抗成分が存在するため、探触子に流れる電流はさらに小さくなる。しかし、高感度で反射係数を測定するためには、一定以上の電流が不可欠である。そこで、探触子に大きな電流を流すために、共振現象を利用して試験体に高周波電流を印加する。本発明技術では、試験体上に配置する探触子端は電気的に開放状態とされている。この状態を図8の伝送線路モデルに対応させて考えると、負荷のインピーダンスが無限大となる状態である。したがって、ZL = ∞を(2-5)式に代入すると、ΓL= 1となる。これは終端に到達した進行波の電圧は全て同位相で反射し、反射波の電圧となって電源の方向へ戻ってくることを意味している。一方、開放端での電流はZL = ∞のため0でなければならない。そのため、終端に到達した進行波の電流は位相が180°反転して反射されることになる。このようにして反射され
た高周波は入射波と干渉し合う。このとき、探触子の長さが高周波電流の半波長と一致する場合には、入射波と反射波による定在波が発生し、探触子を流れる電流が大きくなる。これを共振現象という。共振現象が発生する時の探触子の長さと周波数の関係は次式で表わされる。
【0034】
【数7】

【0035】
λλは高周波の波長、cは光速、f は高周波の周波数、lは探触子の長さである。βは波長短縮率と呼ばれ、比誘電率εSに依存し、次式で表わされる。
【0036】
【数8】

【0037】
共振現象が発生している場合の、探触子上の電圧・電流分布の時間変化を図9に示す。共振現象が発生している時は、電圧は探触子の中心で節を作り、電流は探触子の両端で節を作るように定在波が発生している。
【0038】
〔探触子の形状とサイズ〕
本発明で使用できる探触子の一つの形状を図10に示す。探触子は、例えば、長さ30 mm、幅1 mm、厚さ35μmの銅箔を使用した伝送線であってよいが、これには限定されない。そしてそれは、通常、試験片表面に平行に配置される。これを、例えば、長さ8 mmの銅箔で同軸ケーブルの内導体に接続できる。また、同軸ケーブルまで到達した高周波が良好に探触子まで伝送するように、同軸ケーブルの内導体と伝送線を接続せしめる。
一つの態様では、探触子の長さlは(2-11)式より、光速cを3.0×108m/s、高周波の周
波数fを5.0 GHz、波長短縮率βを1として、30 mmと決定できる。なお、実際は探触子と
同軸ケーブルを接続している銅箔や試験片の影響を受け、共振周波数が理論値と若干異なることが考えられ、適宜、共振周波数を確認してから、計測を行うことも好ましい。
【0039】
〔計測システム〕
〔ネットワークアナライザー〕
本発明の技術による計測システムにおいては、試験対象物(例えば、試験片なども含む)に対する高周波信号の印加および計測にネットワークアナライザを用いることができる。一般的に、ネットワークアナライザとは、線形回路の伝送特性および反射特性を、正弦波を用いて測定する装置である。ネットワークアナライザのうちの一つのものにつきその構成図を図11に示す。
電気信号は基本的にその振幅比(レベル)、位相、周波数の3つを測定すれば決定する
ことが可能であるが、ネットワークアナライザはそのうち振幅および位相を同時に計測することが可能である。実際には反射信号および伝送信号と入力信号との振幅比および位相差をSパラメータを用いて評価する。本発明では、例えば、反射特性S11を計測する。図12に示しているように、図11におけるD.U.T(device under test)を探触子(及び試験体)としたものが、本発明の計測システムの基本構成図となる。代表的なネットワークアナライザとしては、例えば、ヒューレット・パッカード社製HP8753Dなどが挙げられ、例え
ば、測定可能な周波数領域は30 kHz〜6 GHzであるものである。測定値はdB単位で表現さ
れ(2-5)式を用いて求められる。
【0040】
【数9】

【0041】
〔探触子の配置〕
本発明の技術で使用される探触子は、図13に示すように、発電ガスタービン用動静翼等の試験片表面から一定距離を保って配置できるものである。この距離をリフトオフと呼ぶ。このリフトオフを維持することで非接触での計測が可能となる。電波源の近傍における電磁波の特性インピーダンスは距離を変数とした複雑な振る舞いをする。よって、本実施例では、リフトオフを一定に保ち計測を行うことに留意した。
【0042】
〔自動計測システム〕
本発明で使用可能な自動計測システムのの一つの態様につき、その概略図を図14に示す。自動計測システムは、指定された計測範囲内を指定されたピッチで探触子を移動させるX-Y-Z微動台、微動台制御装置システム、制御用およびデータ保存用のパーソナルコン
ピュータ、計測装置であるネットワークアナライザ、及び探触子により構成されていてよい。探触子移動装置は、制御用パーソナルコンピュータによりX軸、Y軸、Z軸方向移動用
モータを制御することにより、探触子を3次元の任意の位置に移動させることが可能であ
ることが好適である。計測装置としてネットワークアナライザを使用し、反射特性S11
計測を行うことができる。ネットワークアナライザーの端子1と探触子は、例えば、50
Ωの同軸ケーブルで接続できる。例えば、探触子の線路方向と欠陥は平行になるように配置し、移動方向はY軸方向とすることが好ましい。探触子と試験体との距離(リフトオフ)は、例えば、0.1 mmから7 mm程度の間で共振状態を確認して最適なものを選択し、計測できる。自動計測システムによる計測は、各点において複数回、例えば、5回程度実施し
、その際それぞれの計測データセットの標準偏差計算を行い、規定値以上である場合再び同一場所で計測を行うことにするなどしてよい。規定値以下であればデータセットの平均値を保存し、次の計測位置に移動する。この動作を所定の領域に対して繰り返し行い、欠陥の位置と深さを評価できる。
【0043】
本発明の技術によれば、非破壊検査を行うことカ゛可能となっており、破壊試験と異なり、検査した材料、構造物が試験後もそのまま使用可能である。また、全数検査も可能であることから、抜取り検査に比較して、検査の信頼度は飛躍的に向上する。全数検査を行
うには自動探傷が好ましい。また、自動探傷によって、人為的なミスも防ぐことができる。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0044】
〔アルミナ板に含まれるき裂の計測〕
1.試験片の形状および寸法
高周波伝送特性法による欠陥深さ計測の定量性を評価することを目的に、代表的なセラミックスであるアルミナの表面に人工矩形欠陥を形成し、さらに閉じたき裂を含む試験片を用意し、本発明の手法の有効性を検討した。
人工矩形欠陥を含む試験片として、直径157 mm、厚さ8.5 mmの円盤状アルミナ板を3枚
準備し、図15のように欠陥幅0.5 mmで深さ1 mm、3 mm、5 mmの3種類の人工矩形欠陥を
それぞれ導入した。自然欠陥を含む試験片は、長さ315 mm、幅42 mm、厚さ8 mmの板状ア
ルミナ板とし、図16のように約半分の長さの位置に、長さ約20 mmのサイズで含まれて
いる。自然欠陥とは、製造時に偶発的に発生したものを言う。
【0045】
2.人工矩形欠陥の計測結果
欠陥に対し探触子を平行真上に配置し、欠陥が存在する位置をY=0として、その両脇Y=
−20 mmからY=20 mmまでの領域を計測した。測定には、図10に示した探触子及び図11の構成を有するネットワークアナライザ(ヒューレット・パッカード社製HP8753D)を備
えた自動計測システム(図14)を使用した。計測の際には入力信号を1.00 GHzから5.50
GHzの範囲で変化させ、共振状態が保たれる最適な周波数を予備実験で測定し、その周波数を用い、反射係数の変化を測定した。予備試験の結果から欠陥材料は4.56 GHz、無欠陥材料は4.96 GHzでそれぞれ計測を行った。欠陥深さ5 mm、3 mm、1 mmの順で計測を行い、無欠陥材料(欠陥深さ0 mm)と比較した。図17に結果を示す。いずれの欠陥においても欠陥の存在するY=0付近で反射係数が大きく減少していることがわかる。
欠陥深さと振幅比の変化を定量的に把握するためにΔdBという評価パラメータを導入した。ΔdBは図17中にも示したように最小の反射係数の左右の極小点を結んだ直線に向かって最小の反射係数から垂直な線を引き、その交点と最小の反射係数との距離と定義した。ΔdBと欠陥深さとの関係を図18に示す。欠陥深さにほぼ比例して、ΔdBが減少し、欠陥深さとΔdBの間には良い相関が見られた。感度は深さ1mmで約2dBである。
本結果から、セラミックス表面に含まれる欠陥を定量評価することができる可能性が認められた。欠陥が存在すると電界に変化が生じ、それにより探触子上の電流が減少することで、振幅比も減少すると考えられる。欠陥が存在する場合には欠陥真上の最大電流密度が変化し、この際に得られる振幅比から欠陥深さを定量的に評価することが可能であるとおもわれる。
【0046】
3.自然欠陥の計測結果
人工矩形欠陥の場合と同様に欠陥に対し探触子を平行真上に配置し、欠陥が存在する位置をY=0として、その両側10 mmを計測した。計測の際には入力信号の周波数を1.00〜5.50
GHzの範囲で変化させ、反射係数が最小となる値を読み取った。計測結果を図19に示す。人工矩形欠陥の場合と同様に欠陥の存在するY=0付近で反射係数が減少する結果となっ
た。
図19の結果からΔdBは約9 dBであり、図18において欠陥深さ1 mmに対する感度が2 dB
であるため、自然欠陥の深さは約4.5 mmであると見積もることができる。
以上より、高周波伝送特性による非破壊検査法をセラミックスの人工欠陥および自然欠陥の定量評価に適用すると、セラミックスに含まれる欠陥を深さ1 mmあたり2dBの感度で、定量評価できる可能性が示されたことから、TBCシステムに対しても有効である可能性
が示唆されると考えられた。
【実施例2】
【0047】
〔電圧反射係数に影響するTBCシステムの主要因子の検討〕
高周波伝送特性法をTGO(Thermally Grown Oxide:熱成長酸化物)層の厚さ測定に適用
する場合の、測定値に影響を及ぼす様々な因子について検討を行った。本実施例では、測定値に影響を及ぼすと考えられる因子を取り上げ、各因子の感度解析を行った。その結果を踏まえ、本発明の手法のTGO厚さ測定技術の有効性の解析を行った。
〔TBC測定システム〕
本発明の高周波伝送特性法を用いたTBCシステム劣化評価法の全体概念図を図20に示
す。入力信号は高周波信号、出力信号は反射信号である。実際の測定では反射係数を測定することになる。反射係数に影響する主要因子として挙げられるものは、YSZ(Yttria Stabilized Zirconia)層やTGO層の誘電率、膜厚、抵抗、MCrAlY層の抵抗、周波数などである。TGO層は大きく分けてCr、Ni、およびCoの酸化物が混ざった混合酸化物層とアルミナ層
からなっている。また、ノイズ源として考えられる因子としては、TBC施工時のトップコ
ート層やボンドコート層の膜厚のばらつき、測定時のリフトオフ量、表面粗さ、周囲の高周波の影響、時効によるトップコートの緻密化などが考えられる。
【0048】
〔等価回路〕
計算は図21(a)に示す等価回路を用いた。伝送線と各層との間に容量が発生すると考
え、膜厚方向に静電容量を配置した。また、各層は抵抗成分を持つと考えられ、伝送線から生じる電界の変化と平行方向に抵抗を配置した。図21(b)は走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)により撮影した経年劣化したTBCシステムの断面観察像
である。画像の上方がTBCシステムの表面側で、上から順にYSZ層、混合酸化物層、アルミナ層、MCrAlY層である。等価回路も各層ごとに分け、4層構造としている。非導電性材料であるYSZ層、混合酸化物層、アルミナ層は静電容量と抵抗を図21(a)に示すように配列し、導電性材料であるボンドコートは抵抗のみとした。また、ボンドコート下の基材であるNi基超合金の表皮深さ(信号侵入深さ)δは、以下の式で算出した。
【0049】
【数10】

【0050】
Cuに対するNiの比導電率σr=約0.26で、周波数5 GHzのとき、表皮深さδは約1.8μmとな
る。ボンドコート(CoNiCrAlY)の表皮深さも同程度であると仮定すると、ボンドコート
の厚さは100μmあるので、その下のNi基超合金までは高周波信号は侵入できないと考えることができる。したがって、Ni基超合金は等価回路には考慮していない。前述したように、TGO層は混合酸化物(もしくは複合酸化物とも呼ばれる)層とアルミナ層からなってお
り、アルミナ層が初めに成長し、その後アルミナ層上に混合酸化物が成長する。これはガスタービン稼働中の高温環境下では、Al、Co、NiおよびCrがボンドコートからトップコート界面へ拡散する。この中で、Al2O3(アルミナ)形成の自由エネルギーが、Ni、Crおよ
びCoの酸化物の形成自由エネルギーより低いため、Alが選択的に酸化され、まずボンドコート側にAl2O3が成長する。しかし、このAl2O3はち密な膜ではないことから残りのNi、Cr、CoがAl2O3中を拡散しトップコート界面でOと結びつき混合酸化物を形成する。計算においても劣化の段階により場合分けを行い、感度解析に用いる等価回路を図22に示すよう
に3通り用意した。
【0051】
〔計算方法〕
図22に示したようにTBCシステムは、上からトップコート層(YSZ 下付文字をyとす
る)、混合酸化物層(Mixed Oxide 下付文字をoとする)、アルミナ層(Al2O3 下付文
字をaとする)、ボンドコート層(CoNiCrAlY 下付文字をmとする)の積層構造となって
おり、劣化の初期段階から終盤にかけて3種類に場合分けされている。各層のインピーダンスパラメータの値は表2に示すように各水準を3条件で変化させている。水準値は参考文献(後藤憲毅:熱遮へい/ボンドコーティング海面のおける熱成長酸化物の動力学に基づく熱遮へいコーティングの経年劣化機構の解明, pp.53-61, 平成13年度修士論文(2001); 小川和洋:非破壊検査第51巻5号, pp.275-280 (2002))の値を使用した。YSZの抵抗率ρy
、混合酸化物の抵抗率ρoおよびアルミナの抵抗率ρaは水準が上がるほど小さくなるよう設定してある。これは温度上昇に従って、抵抗率は減少すると考えたためである。トップコートの容量Cyは式(3-1)より求める。
【0052】
【数11】

【0053】
ここで、εyはトップコート層の誘電率、tyはトップコート層の膜厚である。伝送線か
らの高周波の影響は幅W=5mm、長さL=30mmの範囲と仮定した。よって、εyとtyよりCyが求まる。同様に、アルミナ層の容量Ca、混合酸化物層の容量Coについてもそれぞれの誘電率εa、εoおよび膜厚ta、toを用いて求める。トップコートの抵抗Ryは式(3-2)より求め
る。
【0054】
【数12】

【0055】
ここで、ρyはトップコートの抵抗率、tyとWとLは式(3-1)と同様である。アルミナ層の抵抗Ra、混合酸化物層の抵抗R oについても同様にそれぞれの誘電率εa、εoおよび膜
厚t a、toを用いて求める。次にボンドコートの抵抗Rmについて考える。CoNiCrAlYの化学組成は表3に示す通りである。最も添加量の多いCoの導電率は、 17.2×106 [/mΩ]。次に多いNiの導電率は、 15×106 [/mΩ]。よって、CoNiCrAlYの導電率を16×106 [/mΩ]
と仮定する。したがって、抵抗率は
【0056】
【数13】

【0057】
5 GHzでのボンドコートの表皮深さが約2μmと仮定すると、
【0058】
【数14】

【0059】
このように、それぞれのパラメータから各層の容量および抵抗を算出し、反射係数を決定した(図23)。表2に示すようにそれぞれのパラメータは3種類の水準値を持ち、これらをL18(第1段階の場合)およびL36(第2・3段階の場合)の直行表を参考に、パラメータを組み合わせ反射係数を算出し感度解析を行った。第2段階での値の組み合わせ例を
表4に示す。
【0060】
【表2】

【表3】

【表4】

【0061】
〔計算結果〕
1.第1段階の計算結果
トップコート(YSZ)層とボンドコート(MCrAlY)層からなる第1段階の反射係数Γy-mは図24のようになった。縦軸が反射係数で横軸が水準を表している。反射係数は0に近
づくほど、つまり、図中では上方の値をとるほど反射する傾向を示し、下方の値をとるほど透過する傾向を示す。図24よりトップコートの膜厚tyが最も反射係数に大きな影響を与えており、膜厚tyが大きくなるにつれて反射係数は増加し、反射する傾向へ近づくことがわかる。このことからTBC施工時のトップコートの膜厚のばらつきが測定値に影響する
ことが考えられるが、1μmあたりの感度は0.00585 dBと小さいことから、実際の実験への影響は小さいと予測される。図24において2番目に大きく反射係数に影響を与えているものはトップコートの抵抗率ρyである。表2と図24より抵抗率ρyが小さくなるほど、反射係数は減少している。抵抗率が変化する原因として、TBCの緻密化が考えられる。TBCの緻密化は高温に曝されることにより生じるため、熱時効処理の時間に依存して測定値が変化する可能性が考えられる。
【0062】
2.第2段階の計算結果
トップコート層、アルミナ層、およびボンドコート層の3層からなる第2段階の計算結果を図25と図26に示す。図25はトップコート層とアルミナ層界面での反射係数Γy-
amについて、図26はアルミナ層とボンドコート層の界面での反射係数Γya-mについて示している。図25において反射係数に最も影響を及ぼすものはトップコートの膜厚tyであり、膜厚が増加するにつれ反射係数は増加する傾向を示している。これは第1段階と同様の傾向である。しかし、その感度は1μmあたり約0.00116 dBと低い。また、図26にお
いて反射係数に最も影響を及ぼすものはアルミナの膜厚taであり、膜厚が増加するにつれ反射係数が増加する傾向を示している。その感度は1μmあたり約0.03529 dBとトップコートの膜厚に対して約30倍である。したがって、アルミナ層の成長により反射係数に大きな変化が生じ、反射係数の変化を測定することによりアルミナ層の膜厚の成長量が評価できる可能性があることが示唆された。
【0063】
3.第3段階の計算結果
トップコート層、混合酸化物層、アルミナ層、およびボンドコート層の4層からなる第3段階の計算結果を図27、図28および図29に示す。図27はトップコート層と混合酸化物層界面での反射係数Γy-aomについて、図28は混合酸化物層とアルミナ層の界面
での反射係数Γyo-amについて、また図29はアルミナ層とボンドコート層界面での反射
係数Γyoa-mをそれぞれ示している。図27、図28および図29において変化が最も大
きく現れているものは、図27に示されるトップコート層と混合酸化物層界面の反射係数である。この図27で、反射係数の変化に最も影響を及ぼすものは混合酸化物層の膜厚toであり、膜厚が増加するにつれ反射係数が増加する傾向を示している。その感度は1μmあたり0.67 dBである。一方、同じく図27においてアルミナ層の膜厚増加に伴って、反射
係数は減少の傾向を示している。これは第2段階のアルミナ層の膜厚増加が与える反射係数への影響とは逆である。混合酸化物層が存在する場合において、その下のアルミナ層の膜厚の増加は反射係数を減少させることが推測される。図27、図28、および図29において縦軸のスケールは同じであるが、図28、図29においてはほとんど変化が見られず、他のパラメータは反射係数へ実質的に影響しないと考えられる。
以上のようにして、等価回路を作成し、各パラメータの反射係数に及ぼす影響の感度解析を実施し、高周波伝送特性法を用いたTBCの経年劣化の評価における測定システムの解
析を行った。その結果、TBCシステムがトップコート層、アルミナ層、およびボンドコー
ト層の3層からなる場合には、アルミナ層の膜厚増加が反射係数の増加に影響することが確認された。しかし、トップコート層、混合酸化物層、アルミナ層、およびボンドコート層の4層構造となった場合には混合酸化物層の膜厚増加が反射係数を増加させるのに対し、アルミナ層の膜厚増加は反射係数を減少させることが明らかとなった。
以上の解析結果から、高周波伝送特性法を用いたTBCシステムの経年劣化評価において
、熱成長酸化物であるアルミナ層および混合酸化物層の成長が反射係数に変化を生じさせることが明らかとなった。反射係数の変化を測定することで熱成長酸化物(TGO)の成長
膜厚を定量的に評価できる可能性があることが示された。
【実施例3】
【0064】
〔高周波伝送特性法を用いたTBCシステムの経年劣化評価〕
高周波伝送特性法を用いてTBCシステムの非接触非破壊測定を行い、走査型電子顕微鏡
による断面観察と合わせてTGO成長状況の定量評価の可能性を検討した。
1.供試材料
(基材)
基材には、縦49 mm×横49 mm×厚さ4 mmのNi基超合金Inconel 601を使用した。図30
に(a)試験片の概略図と(b)TBC施工前の写真と(c)施工後の写真を示す。また、Inconel 601の化学組成を表5に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
(溶射皮膜)
ボンドコートの材料にはCoNiCrAlY (SULZER METCO製:AMDRY9951)を、トップコートの
材料には8wt%イットリア安定化ジルコニア(SULZER METCO製:204NS)をそれぞれ使用した
。CoNiCrAlYの化学組成を表6に示す。基材をブラスト処理後、減圧プラズマ溶射法にて
約100μmに施工し、その上にYSZを大気圧プラズマ溶射法にて約300μmに施工した。
【0067】
【表6】

【0068】
(熱時効処理)
TGOの成長挙動メカニズムは、トップコート中を拡散した酸素がボンドコート中のアル
ミニウムと反応してアルミナを形成し、その後、アルミナ中を拡散したCoやCrなどと混合酸化物を形成する。高温環境に曝された時間と温度に依存してTGOの厚さは異なる。した
がって、本実施例においてはTBCシステムの高温環境中での使用を模擬し、数種類の熱時
効時間で熱時効処理を行い、TGO成長量の異なる試験片を作製した。
先進ガスタービンの入り口ガス温度は、約1500℃である。一方、現在の動静翼材料では最高使用温度は1000℃以下(850℃〜950℃)とされ、TBCおよび空気冷却等によりおよそ900℃程度にまで冷却された環境中で使用されている。本実施例では熱時効処理は1100℃で行ったため、酸化反応は加速されている。そこで今回の1100℃での時効時間(1h、7h、25h、100h、225h)を実機翼表面温度が950℃とした場合の時効時間にLarson-Miller パラメータ(LMP)を用いて換算した。LMPは次式の通りである。
【0069】
【数15】

【0070】
ここで、T: 温度(K)、C=20、tr: 時間(h)である。換算結果を表7に示す。表7では1100℃、100時間以降において、実際の補修間隔の2年と比較してかなり長い年数が算出されている。したがって、1100℃で225時間の時効は十分実使用範囲をカバーできているもの
と判断できる。
【0071】
【表7】

【0072】
2.測定手順
試験片を図31に示すように、約15 mm間隔で一列に並べ、X軸方向に探触子を走査し測定を行った。反射係数を測定する場合には、未時効材の中央に探触子を配置して、周波数を1GHzから5GHzの間で変化させ、反射係数の値が最小となる条件で測定を行った。また、リフトオフは予備実験結果に基づき最も感度よく探傷可能である4 mm一定とした。なお実際の測定では、周波数特性やリフトオフの影響なども考慮した。
【0073】
〔測定結果〕
1.周波数特性
図32は伝送線が試験片の中央に位置する場合の反射係数の周波数特性の測定結果である。0 hと225 hの結果を比較したところ、反射係数が最小となる周波数は未時効材においては2.12 GHz、225 h時効材は2.09 GHzとなり、時効時間により異なっていることがわか
る。また、未時効材の反射係数最小となる周波数2.12 GHzにおける振幅比は−44.3 dB、225 h時効材は−21.0 dBとなり約23.3 dBもの差がある。2.12 GHzで周波数を固定し反射係数変化を測定した場合、この差が反射係数変化となる。
未時効材の中央でリフトオフを4 mmから2 mmに変化させ、周波数特性を測定した結果を図33に示す。反射係数が最小となる周波数は、2 mm、4 mmいずれの場合でも2.12 GHzと一定であった。最小の反射係数は4 mmで-44.3 dB、2 mmで-26.2 dBと18.1 dBの差があっ
た。この結果から、本発明の測定手法においては、反射係数に及ぼすリフトオフの影響は非常に大き鋳物と判断された。よって、リフトオフの厳密な制御が必要であることが確認された。
【0074】
2.反射係数の時効時間依存性
反射係数変化の測定に使用した周波数は図33の測定と同様に未時効材中央において反射係数が最小となる値とし、2.15 GHzで固定した。図34に反射係数変化の測定結果を示す。試験片の境界ごとに図中に線を引いて時効時間を示している。0 hから時効時間が長
くなるほど、反射係数は増加することがわかる。時効時間が長くなるほど、TGO膜厚が増
加するため、この変化はTGO膜厚の増加を検出している可能性がある。なお、25 hを過ぎ
ると反射係数は逆に減少しており、実施例2の検討結果から混合酸化物の成長やトップコートの緻密化などが生じていることが考えられる。
【0075】
3.反射係数の最小値と時効時間の関係
図35は反射係数の最小値と時効時間の関係について整理したもので、縦軸は反射係数の最小値、横軸は時効時間tである。反射係数は、時効時間0 hから25 hまでは、急激に
増加しているが、その後100 h、225 hでは、大きな変化は見られない。この原因としては、TGOの成長が拡散律速となり、時間の平方根に比例する放物線則に従っていることが推
測される。トップコート中に局所的な大きな気孔が含まれていた可能性やノイズ等の影響も考えられることから、本結果がTGOの厚さを反映しているかは、下記実施例4で組織観
察を踏まえ検討を行った。
【実施例4】
【0076】
〔TBCシステムの熱時効による組織変化観察〕
実施例3の測定結果から、振幅比変化がTGOの成長を検出している可能性が得られたた
め、電解放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM(HITACHI製S-4700))を使用し、時効済みTBCシステムの断面組織観察によりTGO厚さを測定した。断面観察試料作製は、まずそれぞれの
試料を樹脂に埋め込み、回転研磨台を使用して320、600、1000、1500番の耐水研磨紙で順に粗研磨を施し、次に粒径15、6、3、1、0.5μmのダイヤモンドペーストを使用してバフ
研磨により、鏡面仕上げした。この後、イオンスパッタ装置(JEOL JFC-1100E)を用い試
料表面にPt膜を蒸着して観察を行った。
図36(a)-(f) に各0h、1h、7h、25h、100h、225hの時効材の断面SEM画像(1000倍)をそれぞれ示す。図36の(a)以外のSEM画像に見られる波を打ったような黒色の帯状の層はアルミナ層である。図36の(c)、(e)、(f)で目立って見られるアルミナ層の上の灰色の
部分が混合酸化物層である。混合酸化物層はアルミナ層上に点在して成長している。アルミナ層が波状に形成されているのは、基材表面とボンドコートの接合力を向上させる目的として溶射する前に施されたショットブラストによる表面粗さのためと考えられる。ショットブラスト後にMCrAlY及びトップコートを溶射するためボンドコート表面の形状が波状になり、ボンドコート上に生成したTGO層の形状も波状となる。0hから225hにかけて黒色
で帯状のアルミナ層の厚さが徐々に増加していることがわかる。
【0077】
アルミナ層および混合酸化物層の膜厚変化をより詳細に観察するために断面の反射電子像(2500倍)を撮影した画像を図37(a)-(f) に示す。黒色の帯状の部分が図36と同様にアルミナ層である。灰色の混合酸化物層がこぶ状に形成され点在している様子が図37の(c)と(f)で見られるが、灰色のやや薄い部分が含まれており、混合酸化物層内は均質ではなくCo、Cr、Niなどの数種類の酸化物ごとに偏って分布している可能性があると思われる。
図36のSEM画像からTGO(アルミナ層+混合酸化物層)の平均厚さを計測し、図38に
示した。TGOの厚さは放物線則に従うように変化していることがわかる。この変化は、提
案されているTGO層の成長式にある放物線則に対応しているものと考えられる。この放物
線則では、トップコートとボンドコート界面に生成するTGO層の厚さは
【0078】
【数16】

【0079】
で表すことができる。δはTGO層の厚さ、kpは速度定数、tは加熱時間をそれぞれ表す。荒井ら6)の研究では反応指数n値は、973K<T≦1173Kの温度領域において一定値0.3をとるとされている。いくつかのTGO層成長過程について取り扱った研究によれば、速度定数はArrhenius型温度依存性を示すことが知られており、速度定数kpの対数値と加熱温度の逆数(1/T) との関係は
【0080】
【数17】

【0081】
で表される。ここで、Rはガス定数、k0は98716.0μm/hnで、Eは120 kJ/molであった。こ
れらの式は700℃から1000℃までの時効温度で、証明されているものである。本実施例の
実験では、時効温度は1100℃であるため、本式を外挿可能か見当の余地は残るが、参考ま
でに計算によって反応指数n値が0.3と0.4の場合について算出したTGO厚さも図38中に示した。
SEM画像の計測から求めたTGO厚さと実験で測定した反射係数の最小値とを合わせて図39に示す。高周波伝送特性法から得られた0hから25hまでの急激な増加と、その後の飽和
現象は、実際のTGO厚さの時間変化と同様の傾向を示している。実施例2の感度解析にお
いてはトップコート層、アルミナ層、およびボンドコート層の3層の場合にはアルミナ層の膜厚増加が、反射係数の増加に影響することが確認されている。したがって25hまでのSEM断面観察結果と合わせて考えると、反射係数の最小値の変化がアルミナ層膜厚の増加によるものであることが推測される。しかし、25hの結果においては、TGO厚さと反射係数の最小値の間に大きな差が生じていた。実施例2の感度解析においては、トップコート層、混合酸化物層、アルミナ層、およびボンドコート層の4層の場合には混合酸化物の膜厚増加は反射係数の増加に影響することが確認されており、一方アルミナ層の増加は反射係数の減少に影響することが確認された。この場合、混合酸化物層の増加に伴う反射係数の増加のほうが顕著であるため、4層の場合にも反射係数が増加することが予想されていた。しかし、図39より実際の振幅比の最小値の変化は25hからわずかに減少していることが
わかる。図36の(d)、(e)、(f)に注目すると、混合酸化物層の厚さがそれほど増加して
いないことがわかる。そのため、混合酸化物層の膜厚の増加よりも、アルミナ層の膜厚の増加が顕著に影響し、反射係数がやや減少したのではないかと考えられる。これまでの結果から定量評価の可能性について十分考えられることが判明した。
【実施例5】
【0082】
〔反射係数に及ぼすトップコート緻密化の影響〕
実施例4において高周波伝送特性法を用いて熱時効済みTBCの評価を行い、TGOの膜厚評価の可能性を示した。しかし、熱時効時間によるTGO膜厚の変化は反射係数の変化と一致
しない部分も認められた。この原因のひとつに、トップコートの緻密化が考えられる。
トップコートの緻密化は熱時効により焼結が進行することで生じる。この緻密化は、熱伝導率の増加を招きTBCの遮熱性能低下にも影響する。さらに、緻密化による電磁気的な
物性の変化も予想され、反射特性にも変化を及ぼしている可能性が考えられる。そこで本実施例5では、トップコートのみの試験片を作製し、熱時効時間の測定結果への影響を検討した。
1.供試材
図40に示すようにトップコートの下に約0.1 mmの厚さの金属部を残した状態まで、ワイヤー放電加工により切断し、その後王水(HCl:HNO3=3:1)に浸し金属部を溶解させ、セラミックのトップコート単体を得た。図41にその写真を示す。さらに、トップコート単体の試験片に対して1100℃で熱時効1 h、7 h、100 hで熱時効を施した。測定した気孔
率を参考までに表8に示す。
【0083】
【表8】

【0084】
2.測定方法
測定は試験片を図42に示すように約15 mm間隔で一列に並べ、X軸方向に探触子を走査し測定を行った。反射係数の変化を測定する場合には、未時効材の中央に探触子を配置して、周波数を1GHzから5 GHzの間で変化させ、反射係数の値が最小となる周波数を決定し、以下その周波数で測定を行った。また、リフトオフは予備実験により最も感度よく探傷可能な4 mmを保った。
【0085】
3.周波数特性
伝送線が試験片の中央に位置する場合の反射係数の周波数特性の測定結果を図43に示す。最小の反射係数を示す周波数は1.83 GHzであった。図43からわかるように時効時間の違いによる周波数特性の変化は認められない。したがって、本発明で用いている反射特性に与えるトップコートの緻密化の影響は少ないと考えられる。
図32では振幅比が最小となる周波数は2.12 GHzであり、トップコートのみの場合の1.83 GHzと比較すると0.29 GHzの差が生じている。このことから、金属部の有無により反射特性に違いが生じていると考えられる。
【0086】
4.反射係数変化
反射係数変化の測定は図43において最小の反射係数を示す1.83 GHzを用いた。図44の反射係数変化の測定結果を示す。試験片の境界ごとに図中に線を引いて時効時間を示している。図44の測定結果においては時効時間の違いによる反射係数の実質的な変化は認められない。振幅比の変動誤差はトップコートの厚さのばらつき、試験片と土台のアルミナ版との空隙距離のばらつき、あるいはノイズによるものと考えられる。
【0087】
以上のように、TBCシステム内におけるTGOの成長の非破壊非接触測定が可能な高周波伝送特性法を用いて種々の熱時効を施した試験片を測定し、TGO厚さの定量評価の可能性に
ついて検証した結果、次のことが明らかとなった。
1)熱時効時間に依存して反射係数はTGOの成長則である放物線則に従って増加すること
を明らかにした。
2)SEMによる断面観察を行った結果、TGOの膜厚もほぼ放物線則に従って増加することを確認した。
3)TGO厚さと反射係数の最小値の変化の傾向に高い相関性があることを明らかにした。
4)反射係数はリフトオフによる影響を受けやすく、測定の際にはリフトオフの正確な制御が必要である。
5)トップコート単体の反射係数は時効時間によらず変化しないことを明らかにした。し
たがって、トップコートの緻密化は測定値には影響を及ぼさないと考えられる。
以上の検討結果から、本研究で提案した高周波伝送特性法によりTBCシステム内部で生
成・成長するTGO厚さを非接触・非破壊で測定できる可能性があることを明らかにするこ
とができた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明で、地球温暖化の要因である二酸化炭素削減のため、並びに高効率化のため、稼動温度が上昇せしめられているといった、火力発電所用ガスタービンなどの過酷な条件下で使用されるガスタービン翼の熱遮へいコーティング(TBC: Thermal Barrier Coating)システムの劣化を非破壊・非接触で評価する検査技術の開発が可能となる。本発明では、高周波信号伝送特性を利用してTBCシステム内に形成される熱成長酸化物(TGO: Thermally Grown Oxide)の生成・成長厚さの定量的評価を可能にしているので、ガスタービン主要
高温部品などの高価な部材に対する的確な保守管理が可能になり、安全面だけでなく経済的なメリットも大きい。定量的に非破壊評価を行うことができ、補修あるいは廃棄せずに合理的に高価な部品・材料を継続使用可能という保証が得られ、材料を本来の寿命まで使用することができる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】TBCシステムの構造。
【図2】TBCの劣化と損傷。
【図3】電圧の反射と電流の反射。
【図4】線形2端子回路。
【図5】Sパラメータの計測原理。
【図6】S11およびS21計測方法の概略。
【図7】TBCシステムにおける欠陥の存在による高周波電流の変化。
【図8】伝送線モデル。
【図9】探触子上の電圧・電流分布の時間変化。
【図10】探触子の形状。
【図11】ネットワークアナライザーの構成図。
【図12】本発明手法の計測の基本構成図。
【図13】探触子(probe)の配置。
【図14】本発明手法の自動計測システム。
【図15】人工矩形欠陥を含むセラミックスアルミナ試験片の概略図と外観写真。
【図16】自然欠陥を含むセラミックスアルミナ試験片の概略図と外観写真。
【図17】図15に示された試験片の人工矩形欠陥の測定結果。
【図18】ΔdBと欠陥深さとの関係。
【図19】図16に示された試験片の自然欠陥の測定結果。
【図20】本発明の高周波伝送特性法によるTBCシステム劣化評価法の概念図。
【図21】経年劣化TBCシステム断面のSEM観察画像と等価回路。
【図22】TGO層の成長過程を考慮した等価回路の場合分け。
【図23】反射係数の求め方。
【図24】反射係数Γy-m
【図25】反射係数Γy-am
【図26】反射係数Γya-m
【図27】反射係数Γy-aom
【図28】反射係数Γyo-am
【図29】反射係数Γyoa-m
【図30】基材の概略図およびTBC施工前後の概観撮影例。
【図31】振幅比変化の測定の様子。
【図32】0h時効材と225h時効材の試験片中央での周波数特性。
【図33】リフトオフによる周波数特性の変化。
【図34】時効時間の違いによる反射係数変化。
【図35】反射係数の最小値と時効時間の関係。
【図36】TBCシステムにおける組織の断面のSEM画像(1000倍)。
【図37】TBCシステムにおける組織の断面の反射電子像(2500倍)。
【図38】計測および計算によって求めたTGO厚さと時効時間の関係。
【図39】TGO厚さおよび反射係数の最小値と時効時間の関係。
【図40】反射係数に及ぼすトップコート緻密化の影響を解析するための試験片作製方法。
【図41】切断後の基材と作製したトップコート試験片。
【図42】測定の様子。
【図43】0h、1h、7h、100h時効材の試験片中央での周波数特性。
【図44】時効時間の違いによるトップコートの反射係数変化。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上に生成した酸化皮膜の定量的評価に関し、1G〜100GHzの高周波を用い、非接触かつ非破壊で評価することを特徴とする非破壊評価システム。
【請求項2】
金属基材上に成膜したMCrAlY等のボンドコートおよびさらにその上に成膜したセラミックコーティングの界面に生成・成長を非接触かつ非破壊で評価することを特徴とする非破壊評価システム。
【請求項3】
1G〜100GHの高周波に対応し、酸化皮膜あるいはコーティング界面の信号を評価すること
を特徴とする非破壊評価用センサ。
【請求項4】
高周波伝送特性を使用して、金属基材上に施された熱遮へいコーティングを有する耐熱性材料の当該コーティングに生成する熱成長酸化物の生成・成長を非接触・非破壊測定することを特徴とする熱遮へいコーティング検査法。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図38】
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【図39】
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【図43】
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【図44】
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【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図30】
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【図31】
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【図36】
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【図37】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【公開番号】特開2007−303956(P2007−303956A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132395(P2006−132395)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月1日 社団法人日本鉄鋼協会発行の「材料とプロセス,Vol.19(2006)No.1」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】