説明

経皮吸収型製剤

【課題】経皮吸収型製剤用のツロブテロールの溶解助剤および該溶解助剤の使用方法を提供すること。
【解決手段】炭素数12〜16の脂肪酸のエステル、炭素数8〜10の脂肪酸のモノグリセリド、炭素数6〜10の二塩基酸のエステル、付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルエーテル、および付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含む、経皮吸収型製剤用のツロブテロールの溶解助剤、ならびに、該溶解助剤を、膏体層中に配合することを含む、ツロブテロールの膏体層への溶解を助ける方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚面に貼付してツロブテロールを皮膚から生体内へ連続的に投与するための経皮吸収型製剤に関し、詳しくは、皮膚面に貼付した場合に、皮膚接着性に優れるとともに、ツロブテロールの初期吸収性および有効血中濃度の持続性に優れる経皮吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ツロブテロールは、交感神経のβ2 受容体を選択的に刺激することによる気管支拡張作用を有し、気道狭窄を起こした患者の呼吸困難の軽減を目的として、慢性気管支炎、気管支喘息等の治療に広く使用されている。
【0003】
ツロブテロールを生体内に投与する方法としては、一般には錠剤等の経口投与法があるが、小児等に対する投与の困難性、急激な薬物血中濃度の上昇に伴う副作用の発現、および薬効の持続性の欠如等の問題がある。そこで、これらの問題を解決するために、近年、皮膚面を通して薬物を生体内へ投与するための経皮吸収型製剤が、各種薬剤について開発されている。ツロブテロールについても特許文献1(LTSローマン)、特許文献2(ザンボン)、特許文献3、4(日東電工)等において経皮吸収型製剤が提案されている。
【0004】
これらの提案は主として、粘着剤に対する飽和溶解度以上のツロブテロールを膏体層に含有し、ツロブテロールの一部が膏体層中に結晶状態で分散した製剤である。一般に膏体層中に薬剤を高濃度で溶解させるほど薬剤の経皮吸収速度が高まり、また膏体層中に薬剤を高含量で含有させるほど薬剤放出の持続性が高まるものと考えられる。ところが、一般的に膏体層に使用されるポリマー中に薬剤を高濃度で安定的に溶解保持することは困難であり、薬剤の経皮吸収速度および放出の持続性を共に満足させるためには、上記の先行公報にて開示されているように膏体層中に薬剤を飽和溶解度以上の高濃度で含有せしめ、薬剤の一部を結晶状態で膏体層中に保持する方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−194202号公報
【特許文献2】特開平5−238953号公報
【特許文献3】特開平7−285854号公報
【特許文献4】特公平7−25669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、膏体層中に固体である薬剤結晶が存在する製剤は、例えば、皮膚に接触する膏体層界面(表面)において薬剤結晶が析出し易く、製剤の皮膚接着性が低下することとなる。また、ポリマー中での薬剤分子の拡散速度が液体中のそれよりも格段に遅いため、膏体層中での薬剤結晶の析出が迅速に進行せず、徐々に膏体層中で薬剤の結晶化が進行することで製剤の皮膚接着性および薬剤放出性が経時的に変化することが予想される。上記のように粘着剤に対する飽和溶解度以上の濃度で薬剤を含有することにより、膏体層中での薬剤の一部が結晶状態で存在する製剤は、品質の安定性に問題を有することがあり、必ずしも経皮吸収性および薬効の持続性および皮膚接着性に優れた製剤になるとは言い難い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の実情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、ツロブテロールが膏体層中に5重量%以上の高濃度で溶解している経皮吸収型製剤を得ることに成功した。
【0008】
即ち、本発明は、
(1) ツロブテロールおよび粘着剤を含有する膏体層が支持体に積層されてなる経皮吸収型製剤であって、該膏体層中に溶解状態にてツロブテロールが5重量%以上含有されていることを特徴とする経皮吸収型製剤。
(2) 粘着剤が、アクリル系粘着剤またはゴム系粘着剤である上記(1) に記載の経皮吸収型製剤。
(3) アクリル系粘着剤が、アルキル基の炭素数が4〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50重量%以上の割合で重合してなる重合体を含有する上記(2) に記載の経皮吸収型製剤。
(4) アクリル系粘着剤が、アルキル基の炭素数が4〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを60〜98重量%、不飽和二重結合を分子内に少なくとも1個有し、かつ官能基を側鎖に有する官能性単量体を2〜40重量%の割合で共重合してなる共重合体を含有する上記(2) に記載の経皮吸収型製剤。
(5) 官能性単量体の官能基が、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アミノ基、アミド基、アルコキシル基、シアノ基およびアシルオキシ基からなる群より選ばれる基である上記(4) に記載の経皮吸収型製剤。
(6) 官能性単量体が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸2−アミノエチルエステル、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチルエステルおよび酢酸ビニルからなる群より選択される単量体である上記(4) に記載の経皮吸収型製剤。
(7) ゴム系粘着剤が、ポリイソブチレンおよびスチレン・ジエン・スチレンブロック共重合体から選ばれる少なくとも一種の高分子を含有する上記(2) に記載の経皮吸収型製剤。(8) 膏体層中に、さらに、炭素数12〜16の脂肪酸のエステル、炭素数8〜10の脂肪酸のモノグリセリド、炭素数6〜10の二塩基酸のエステル、付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルエーテルおよび付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤を5〜50重量%含有する上記(1) 〜(7) のいずれかに記載の経皮吸収型製剤。
(9) 炭素数12〜16の脂肪酸のエステル、炭素数8〜10の脂肪酸のモノグリセリド、炭素数6〜10の二塩基酸のエステル、付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルエーテル、および付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含む、経皮吸収型製剤用のツロブテロールの溶解助剤。
(10) 上記(9)記載の溶解助剤を、膏体層中に配合することを含む、ツロブテロールの膏体層への溶解を助ける方法。
を包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の経皮吸収型製剤は、高濃度のツロブテロールが溶解状態にて膏体層中に存在するものである。本発明の製剤は高濃度においても薬剤結晶が析出することなく、ツロブテロールを完全に溶解した状態で膏体層中に保持することによって、薬剤の経皮吸収性、特に投与初期における経皮吸収速度に優れると共に、有効血中濃度を長時間維持することによる効力の持続性にも優れ、また皮膚接着性等の粘着物性の経時変化が軽減された経皮吸収型製剤である。
【0010】
本発明の経皮吸収型製剤は、薬効成分であるツロブテロールを高濃度で完全に溶解した状態で膏体層中に保持することで、経時的な薬剤結晶析出に伴う薬剤放出性や粘着物性の経時変化がなく、薬剤の経皮吸収性、特に投与初期における経皮吸収速度に優れると共に、有効血中濃度を長時間維持することによる効力の持続性にも優れ、また皮膚接着性等の粘着物性の経時変化が軽減されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実験例3におけるツロブテロールの血中濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の経皮吸収型製剤に用いられるツロブテロールは、膏体層中で粘着剤に溶解されて溶解状態で存在していなければならない。膏体層中におけるツロブテロールが結晶状態で存在すると、経時的にツロブテロールの結晶が析出するようになり、製剤の皮膚接着性、経皮吸収性および薬剤放出性が経時的に変化し好ましくない。
【0013】
ここで、ツロブテロールが溶解状態で存在するとは、膏体層中にツロブテロールの結晶が目視した時または光学顕微鏡で観察した時に観察されず、膏体層が均一であるということである。
【0014】
従来、ツロブテロールが、膏体層中において溶解状態で存在するものとしては、3重量%以下のものしか得られておらず、本発明によって初めて5重量%以上、好ましくは10重量%以上のものが得られた。
【0015】
本発明において、ツロブテロールの濃度が、膏体層中5重量%以上で十分所望の目的が達成される。
【0016】
膏体層に含まれる粘着剤としては、膏体層中でツロブテロールが溶解し、その溶解性が5重量%以上のものとなれば特に限定されないが、皮膚接着性等の点からアクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤が特に好適に使用される。
【0017】
上記アクリル系粘着剤は、アクリル系重合体からなるものであり、当該アクリル系重合体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体、或いはこれらの共重合体が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキルとは、炭素数4〜12の直鎖または分岐鎖状アルキルが好ましく、このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸ブチルエステル、(メタ)アクリル酸t−ブチルエステル、(メタ)アクリル酸ペンチルエステル、(メタ)アクリル酸ヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸ヘプチルエステル、(メタ)アクリル酸オクチルエステル、(メタ)アクリル酸イソオクチルエステル、(メタ)アクリル酸ノニルエステル、(メタ)アクリル酸イソノニルエステル、(メタ)アクリル酸デシルエステル、(メタ)アクリル酸ウンデシルエステル、(メタ)アクリル酸ドデシルエステル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルエステル等が挙げられる。当該(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上の割合で重合される。
【0018】
また、本発明に用いられるアクリル系重合体として、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、以下に示す単量体の1種または2種以上との共重合体も好適に使用することができる。
【0019】
該単量体としては、不飽和二重結合を分子内に少なくとも一個有すると共に、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アミノ基、アミド基、アルコキシル基、シアノ基、アシルオキシ基等の官能基を側鎖に有する官能性単量体〔例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基を炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)で変性した(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルコキシ変性単量体{具体的には、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチルエステル等}〕、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−アミノエチルエステル等が挙げられる。
【0020】
当該アクリル系重合体として、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと上記官能性単量体とからなる共重合体を用いる場合は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを60〜98重量%、好ましくは65〜97重量%と、上記単量体を2〜40重量%、好ましくは3〜35重量%の割合で共重合させることが好ましい。
【0021】
ゴム系粘着剤としては、例えば、ポリイソブチレン・ポリブテン系、スチレン・ジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン系、ニトリル系、クロロプレン系、ビニルピリジン系、ポリイソブチレン系、ブチル系、イソプレン・イソブチレン系等からなるゴム系粘着剤が挙げられる。中でも、ツロブテロールに対する溶解性および皮膚接着性の点から、ポリイソブチレン、スチレン・ジエン・スチレンブロック共重合体〔例えば、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)等〕等が好ましく使用され、これらは混合して用いてもよい。
【0022】
また、ゴム系粘着剤は、適度な粘着力および薬剤溶解性を得るために、同一成分または異なる成分で平均分子量の異なるものを混合して使用することができる。例えば、ポリイソブチレンを例に挙げて説明すると、平均分子量300,000〜2,500,000の高分子量のポリイソブチレンと、平均分子量10,000〜200,000の中分子量のポリイソブチレンおよび/または平均分子量500〜4,000の低分子量のポリイソブチレンとの混合物が好ましい。ここで、高分子量のポリイソブチレンを10〜80重量%、好ましくは20〜50重量%、中分子量のポリイソブチレンを0〜90重量%、好ましくは10〜80重量%、低分子量のポリイソブチレンを0〜80重量%、好ましくは10〜60重量%の割合で配合することが好適である。
【0023】
本発明における平均分子量とは、Flory の粘度式から計算される粘度平均分子量である。
【0024】
当該ゴム系粘着剤には、適度な粘着性を付与するために、例えば、ロジン系樹脂、ポリテルペン樹脂、クマロン−インデン樹脂、石油系樹脂、テルペン−フェノール樹脂、キシレン樹脂等の粘着付与剤が配合されていてもよい。粘着付与剤は、これら1種または2種以上をゴム系粘着剤に対し、50重量%以下、好ましくは5〜40重量%の割合で配合することができる。
【0025】
本発明において、膏体層中でのツロブテロールの溶解性をさらに高め、さらに高濃度のツロブテロールを完全に溶解した状態で保持することができるように、膏体層中に溶解助剤としての添加剤を配合することができる。配合する添加剤は、粘着剤との相溶性に優れ、ツロブテロールを十分に溶解し、経時的に粘着剤成分と添加剤との分離を生ぜしめず、粘着特性や放出性に悪影響を及ぼさないものであればよく、例えば、炭素数12〜16の脂肪酸のエステル、炭素数8〜10の脂肪酸のモノグリセリド、炭素数6〜10の二塩基酸のエステル、および非イオン界面活性剤として付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルエーテルおよび付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルから選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0026】
上記炭素数12〜16の脂肪酸のエステルとして、具体的にはラウリン酸(C12)ヘキシル、ミリスチン酸(C14)イソプロピル、パルミチン酸(C16)イソプロピル等のC12〜C16脂肪酸のC1 〜C10アルキルとのエステル等が挙げられる。
【0027】
上記炭素数8〜10の脂肪酸のモノグリセリドとして、具体的にはカプリル酸(C8 )モノグリセリド、カプリン酸(C10)モノグリセリド等のC8 〜C10脂肪酸のモノグリセ
リド等が挙げられる。
【0028】
上記炭素数6〜10の二塩基酸のエステルとして、具体的にはアジピン酸(C6 )ジイソプロピル、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸(C10)ジエチル等のC6 〜C10二塩基酸のジ(C1 〜C10)アルキルとのエステル等が挙げられる。
【0029】
上記付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルエーテル、付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、そのアルキル基の炭素数が6〜18、好ましくは8〜12であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては具体的にはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等が挙げられ、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては具体的にはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0030】
中でも、炭素数12〜16の脂肪酸のエステルであるミリスチン酸イソプロピル、炭素数8〜10の脂肪酸のモノグリセリドであるカプリル酸モノグリセリド、炭素数6〜10の二塩基酸のエステルであるアジピン酸ジイソプロピル、付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルである付加モル数2〜5のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが好ましく、より好ましくはミリスチン酸イソプロピルが用いられる。
【0031】
該添加剤は、膏体層中5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは20〜40重量%の割合で配合されることが望ましい。添加剤の配合量が5重量%未満である場合は、膏体層中で、より高濃度のツロブテロールが完全に溶解した状態で保持することが困難となる傾向があり、逆に、50重量%を越える場合、膏体層の凝集力が低下し、剥離時に皮膚面への糊残り等が生じ易くなる傾向がある。
【0032】
また、架橋性官能基を有する粘着剤に上記添加剤を配合する場合には、適当な架橋手段によって架橋処理を施すことが望ましい。架橋処理を施すことによって粘着剤がいわゆるゲル状態となり、含有する添加剤成分の流出を抑え、膏体層に適度な凝集力を付与することができる。架橋反応は紫外線照射や電子線照射等の放射線照射による物理的架橋や、ポリイソシアネート化合物や有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物等の架橋剤を用いた化学的架橋処理等が用いられる。
【0033】
上記の粘着剤およびツロブテロールを含有する膏体層の厚さは、皮膚面への長時間の貼付に耐え、剥離除去時の皮膚面への糊残りを生じ難くするために、20〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。
【0034】
本発明の経皮吸収型製剤に用いられる支持体としては、その片面にツロブテロールを含有する膏体層を形成、支持できるものであれば特に限定されないが、通常は実質的にツロブテロールが移行しないものが用いられ、特に皮膚面に貼着した際に、著しい違和感を生じない程度に皮膚面の湾曲や動きに追従できる適度な柔軟性を有するものが好ましい。
【0035】
具体的には、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリエステル系、ポリ酢酸ビニル系、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系等のプラスチックフィルム、アルミニウム箔、スズ箔等の金属箔、不織布、織布、紙等からなる単層フィルム、またはこれらの積層フィルム等を用いることができる。
【0036】
支持体の厚さは、通常5〜500μm、好ましくは5〜200μmである。また、これらの支持体は、膏体層との密着性、投錨性を向上させるために、膏体層が積層される面に
コロナ放電処理、プラズマ処理、酸化処理等を施すことが好ましい。
【0037】
本発明の経皮吸収型製剤の製造方法は特に限定されず、例えば、ツロブテロールおよび粘着剤を酢酸エチル、ヘキサン、トルエン等の有機溶媒に完全に溶解させ、得られた溶液を支持体の片面に塗布し、乾燥して膏体層を支持体の表面に形成させる方法等が挙げられる。また、上記の溶液を保護用の離型ライナー上に塗布し、乾燥して離型ライナー上に膏体層を形成させ、そののちに支持体を膏体層に接着させることによっても製造することができる。
【0038】
本発明の経皮吸収型製剤は、製造、運搬または保存中に膏体層が、いたずらに器具、容器等に接着することを防止するために、また製剤の劣化を防止するために、皮膚面への貼付の直前までは膏体層の露出面を、離型ライナーにて被覆、保護することが望ましい。そして使用時にこれを剥離して、膏体層の面を露出させ、皮膚に貼付して投与する。
【0039】
離型ライナーとしては、使用時に膏体層から容易に剥離されるものであれば特に制限されず、例えば膏体層と接触する面にシリコーン樹脂、フッ素樹脂等を塗布することによって剥離処理が施された、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム、上質紙、グラシン紙等の紙、あるいは上質紙またはグラシン紙等とポリオレフィンとのラミネートフィルム等が用いられる。
【0040】
離型ライナーの厚さは、通常12〜200μm、好ましくは50〜100μmである。
【0041】
本発明の経皮吸収型製剤の投与量は、患者の年齢、体重、症状等により異なるが、通常、成人に対して一回当たりツロブテロール0.1〜5mgを含有した当該製剤を、皮膚1〜50cm2 に、1日に1回〜2日に1回程度貼付する。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を詳細に説明するために実施例および実験例を示すが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において部および%はそれぞれ重量部および重量%を意味する。
【0043】
実施例1
不活性ガス雰囲気下にて、アクリル酸2−エチルヘキシルエステル50部、アクリル酸2−メトキシエチルエステル25部、酢酸ビニル25部を酢酸エチル中で重合させて、アクリル系粘着剤溶液を調製した。この溶液にツロブテロールを膏体層中への配合量が10%になるように添加、混合して充分に攪拌した後、離型ライナー上に乾燥後の厚さが40μmとなるように塗布、乾燥して膏体層を形成した。次に、支持体(厚さ12μmのポリエステルフィルム)に膏体層を貼り合わせ、本発明の経皮吸収型製剤を得た。
【0044】
実施例2
実施例1で得られたアクリル系粘着剤溶液に、ツロブテロールおよび添加剤としてポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(オキシエチレンの付加モル数3、OP−3、ニッコール社製)を、膏体層中への配合量がそれぞれ10%になるように添加、混合して充分に攪拌した後、実施例1と同様にして本発明の経皮吸収型製剤を得た。
【0045】
実施例3
不活性ガス雰囲気下にて、アクリル酸2−エチルヘキシルエステル95部、アクリル酸5部を酢酸エチル中で重合させて、アクリル系粘着剤溶液を調製した。この溶液にツロブテロールおよび添加剤としてミリスチン酸イソプロピルを膏体層中への配合量がそれぞれ20%および30%になるように添加、混合し、さらに架橋剤としてポリイソシアネート
化合物(コロネートHL、日本ポリウレタン社製)をアクリル系粘着剤に対して0.15%となるように添加、混合して充分に攪拌した後、離型ライナー上に乾燥後の厚さが60μmとなるように塗布、乾燥して膏体層を形成した。次に、支持体(目付量12g/m2 のポリエステル製不織布と厚さ6μmのポリエステルフィルムの積層フィルム)の不織布側に膏体層を貼り合わせ、本発明の経皮吸収型製剤を得た。なお、架橋反応を進行させるために支持体を貼り合わせた後70℃で60時間加熱した。
【0046】
実施例4
実施例3で得られたアクリル系粘着剤溶液に、ツロブテロールおよび添加剤としてミリスチン酸イソプロピル、カプリル酸モノグリセリドを膏体層中への配合量がそれぞれ10%、40%および5%になるように添加、混合して充分に攪拌した後、実施例3と同様にして本発明の経皮吸収型製剤を得た。
【0047】
実施例5
ポリイソブチレン(VISTANEX MML-140、エクソン化学社製)50部、ポリイソブチレン(HIMOL 6H、日本石油化学社製)30部および脂環族系石油樹脂(軟化点100℃、アルコンP−100、荒川化学社製)20部をヘキサンに溶解して、ゴム系高分子溶液を調製した。この溶液に、ツロブテロールおよび添加剤としてミリスチン酸イソプロピルを、膏体層中への配合量がそれぞれ5%および40%になるように添加、混合して充分に攪拌した後、離型ライナー上に乾燥後の厚さが40μmとなるように塗布、乾燥して膏体層を形成した。次に支持体(目付量12g/m2 のポリエステル製不織布と厚さ6μmのポリエステルフィルムの積層フィルム)の不織布側に膏体層を貼り合わせ、本発明の経皮吸収型製剤を得た。
【0048】
実施例6
実施例5で得られたゴム系高分子溶液に、ツロブテロールおよび添加剤としてアジピン酸ジイソプロピルを膏体層中への配合量がそれぞれ5%および30%になるように添加、混合して充分に攪拌した後、実施例5と同様にして本発明の経皮吸収型製剤を得た。
【0049】
実施例7
スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)(スチレン/ブタジエン=30/70(重量比)、Cariflex TR-1101、シェル化学社製)80部および脂環族系石油樹脂(軟化点105℃、エスコレッツ5300、エクソン化学社製)20部をトルエンに溶解して、ゴム系高分子溶液を調製した。この溶液にツロブテロールおよび添加剤としてミリスチン酸イソプロピルを膏体層中への配合量がそれぞれ5%および40%になるように添加、混合して充分に攪拌した後、実施例5と同様にして本発明の経皮吸収型製剤を得た。
【0050】
実施例8
スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)(スチレン/イソプレン=14/86(重量比)、Cariflex TR-1107、シェル化学社製)70部、ポリイソブチレン(HIMOL 4H、日本石油化学社製)10部および脂環族系石油樹脂(軟化点100℃、アルコンP−100、荒川化学社製)20部をトルエンに溶解して、ゴム系高分子溶液を調製した。この溶液にツロブテロールおよび添加剤としてミリスチン酸イソプロピルを膏体層中への配合量がそれぞれ5%および40%になるように添加、混合して充分に攪拌した後、実施例5と同様にして本発明の経皮吸収型製剤を得た。
【0051】
比較例1
実施例1のアクリル系粘着剤溶液の代わりに、アクリル酸トリデシルエステル45部、アクリル酸2−メトキシエチルエステル25部、酢酸ビニル30部を、不活性ガス雰囲気
下、酢酸エチル中で重合させて得られたアクリル系粘着剤溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして経皮吸収型製剤を得た。
なお、目視または顕微鏡観察により、本製剤の膏体層中にはツロブテロールの結晶が分散していた。
【0052】
比較例2
実施例5のゴム系高分子溶液の代わりに、ポリイソプレン(IR2200、日本合成ゴム社製)70部および脂環族系石油樹脂30部をヘキサンに溶解して得られたゴム系高分子溶液を用いた以外は、実施例5と同様にして経皮吸収型製剤を得た。
なお、目視または顕微鏡観察により、本製剤の膏体層中にはツロブテロールの結晶が分散していた。
【0053】
表1に実施例1〜8および比較例1〜2で得られた経皮吸収型製剤の膏体層の組成を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実験例1
実施例1〜8および比較例1〜2で得られた経皮吸収型製剤と、これを40℃にて1ヶ
月間保存した経皮吸収型製剤について、粘着物性(接着力)の経時安定性について検討を行った。
【0056】
<接着力試験方法>
ベークライト板に幅12mmに裁断した帯状の各サンプルを貼付し、荷重850g(実施例3,4については300g)のローラーを一往復させて密着させ、放置した後、23℃、60%RHの条件下で、引張試験機(ショッパー型引張り試験機:上島製作所社製)を用い、180度の方向に300mm/分の速度で剥離した時の引張り荷重を測定した。
結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
実施例1〜8の製剤は、初期より安定な粘着特性を示し、経時的な接着力の変化は認められなかった。それに対して比較例1〜2の製剤は、膏体層中での経時的な薬剤結晶析出が原因と考えられる接着力の低下が認められた。
【0059】
実験例2
実施例1,5および比較例1,2で得られた経皮吸収型製剤と、これを40℃にて1ヶ月間保存した経皮吸収型製剤について、日本薬局方の一般試験法における溶出試験法第2法にて製剤中からの薬剤放出性の経時安定性について検討を行った。
結果を表3に示す。
【0060】
<溶出試験方法>
溶出試験器 :NTR−V36(富山産業株式会社)
サンプルサイズ :10cm2
試験液 :蒸留水、32℃、500ml
パドル回転数 :50回転/分
測定法 :紫外分光吸光度法(211nm)
【0061】
【表3】

【0062】
実施例1および5の製剤は、初期より安定な薬剤放出性を示し、経時保存での薬剤放出性の変化は認められなかった。それに対して比較例1および2の製剤は、膏体層中での経時的な薬剤結晶析出が原因と考えられる薬剤放出性の低下が認められた。
【0063】
実験例3
実施例1,5および比較例1,2で得られた経皮吸収型製剤を、除毛したウサギの背部に適用し、適用後におけるツロブテロールの血中濃度推移について検討を行った。
結果を図1に示す。
【0064】
<血中濃度試験方法>
サンプルサイズ:10cm2
貼付部位 :除毛したウサギ背部
貼付時間 :24時間
血中濃度測定法:ガスクロマトグラフ法(電子捕獲イオン化検出器)
【0065】
実施例1,5の製剤は、適用初期における血中濃度の立上がりおよび持続性共に優れていた。それに対して比較例1,2の製剤は、持続性には優れるものの、初期における血中濃度の立上がりは満足できるものではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数12〜16の脂肪酸のエステル、炭素数8〜10の脂肪酸のモノグリセリド、炭素数6〜10の二塩基酸のエステル、付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルエーテル、および付加モル数2〜5のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含む、経皮吸収型製剤用のツロブテロールの溶解助剤。
【請求項2】
請求項1記載の溶解助剤を、膏体層中に配合することを含む、ツロブテロールの膏体層への溶解を助ける方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−126908(P2011−126908A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55487(P2011−55487)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【分割の表示】特願2007−8043(P2007−8043)の分割
【原出願日】平成10年10月26日(1998.10.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(000109015)アボットジャパン株式会社 (14)
【Fターム(参考)】