説明

経皮吸収型鎮痛消炎貼付剤

【課題】ゴム系エラストマーを主基剤成分として含む膏体層中に非ステロイド系鎮痛消炎薬を含有する鎮痛消炎貼付剤において、この薬物の皮膚透過性に優れ、且つ、付着性および安定性に優れた貼付剤を提供すること。
【解決手段】支持体、膏体層および剥離ライナーからなり、該膏体層中に有効成分として非ステロイド系鎮痛消炎薬および実質的に水を含まない固体の有機酸を含有する貼付剤において、該膏体層の基剤成分としてゴム系エラストマー、粘着付与樹脂、可塑剤、酸化防止剤、および温感刺激成分を含有する鎮痛消炎貼付剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム系エラストマーを主基剤成分として含む膏体層中に非ステロイド系鎮痛消炎薬を含有する鎮痛消炎貼付剤に関する。本発明の鎮痛消炎貼付剤は、非ステロイド系鎮痛消炎薬の一種であるロキソプロフェンナトリウムを経皮的に皮膚透過性良く局所組織内に投与することができ、付着性および安定性に優れた貼付剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド系消炎鎮痛薬は、ステロイド系鎮痛消炎薬に認められるような重篤な副作用を示さないことから、臨床の場で広く用いられている薬物である。しかしながら、非ステロイド系鎮痛消炎薬においても、経口投与した場合には、生体内に存在するプロスタグランジン生成酵素であるシクロオキシナーゼに対する阻害活性を示すことにより、胃粘膜障害といった副作用の発現が認められている。このような副作用を軽減するために、非ステロイド系消炎鎮痛薬を含有する経皮吸収型製剤が開発されている。
【0003】
経皮吸収型貼付剤は、一般に粘着剤成分に薬物を含有させた粘着組成物からなる粘着剤層(膏体層ともいう)を支持体の片面に設けた構造を有しており、該粘着剤層を構成する基剤は水系基剤と非水系基剤の2つに大別される。
上記非ステロイド系鎮痛消炎薬の中でも優れた鎮痛・抗炎症作用を有するロキソプロフェンナトリウムの経皮吸収型貼付剤として、水系基剤を用いた貼付剤(パップ剤)が市販されている。しかしながら、水系基剤からのロキソプロフェンナトリウムの放出性は低く、生物学的利用率が好ましくないという欠点があった。
これに対して、ゴム系エラストマーなどの非水系基剤は、ロキソプロフェンナトリウムの放出性は良好であるものの、該ロキソプロフェンナトリウムの非水系基剤への溶解性が悪いことが一般に知られている。こうした問題を解決するために、ロキソプロフェンナトリウムの溶解剤として有機酸を含有させた貼付剤が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
しかしながら、有機酸の中でも水を含む液状の有機酸を含有させた場合、薬物由来の分解物が発生する新たな問題が認められた。
【0004】
また、一般に鎮痛消炎薬の効能は肩こり、腰痛、筋肉痛、打撲、捻挫、関節痛等の痛みの緩和にあり、従って、製剤に求められる性能として含有する薬物の経皮吸収性が良好なこと以外に、長時間患部に付着できる点が挙げられる。
前述の非水系基剤としては、ゴム系基剤、アクリル系基剤、シリコーン系基剤等が挙げられるが、ゴム系エラストマーを主基剤成分として配合させた膏体の製造方法としては、有機溶剤を使用しないカレンダー法やホットメルト法が広く用いられている。一般にゴム系エラストマーを主基剤成分とした膏体では、透湿性が悪く、長時間の貼付では発汗による付着性の低下が認められていた。この問題を解決するために高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレン(特許文献3)などの特定の高分子化合物を配合させた貼付剤等が開発されている。しかしながら、一般に用いられる熱可塑性のゴム系エラストマーであるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体とポリイソブチレンとは相溶性が悪く、さらに高分子量ポリイソブチレンは膏体材料中に製造過程で溶融・混合されにくい問題が認められた。
また、一般に鎮痛消炎貼付剤の製造において、特に膏体層を塗工により形成する際、膏体に配合する有効成分や基剤等の各種成分の組み合わせによっては、膏体層にスクラッチ等の欠陥が発生して塗工不良となる場合があり、よって、貼付剤の実用化製品としての適格性も考慮する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−126119号公報
【特許文献2】特開2008−214337号公報
【特許文献3】国際公開第01/78690号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、ゴム系エラストマーを主基剤成分として含む膏体層中に非ステロイド系鎮痛消炎薬を含有する鎮痛消炎貼付剤において、この薬物の皮膚透過性に優れ、且つ、付着性および安定性に優れた貼付剤であり、且つ、製造時において膏体層の塗工不良などの不具合の発生が抑えられる貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、支持体、主基剤成分としてゴム系エラストマーを含む膏体層および剥離ライナーからなる外用貼付剤において、該膏体層中に有効成分として非ステロイド系鎮痛消炎薬および実質的に水を含まない固体の有機酸を含有せしめ、また、ゴム系エラストマーとして、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と、中分子量ポリイソブチレンと液状ゴムとを含む混合物を含有せしめた外用貼付剤とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、支持体、膏体層および剥離ライナーからなり、該膏体層中に有効成分として非ステロイド系鎮痛消炎薬および実質的に水を含まない20℃で固体の有機酸を含有する貼付剤において、該膏体層の基剤成分としてゴム系エラストマー、粘着付与樹脂、可塑剤、酸化防止剤、および温感刺激成分を含有する鎮痛消炎貼付剤に関する。
本発明によれば、さらに以下の実施態様が提供される。
1.前記非ステロイド系鎮痛消炎薬が、ロキソプロフェンナトリウムである、前記鎮痛消炎貼付剤。
2.前記ゴム系エラストマーが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と、粘度平均分子量が200,000〜800,000である中分子量ポリイソブチレンと、液状ゴムとを含む混合物である、前記鎮痛消炎貼付剤。
3.膏体層の総質量に基づいて、前記スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が10〜30質量%、前記中分子量ポリイソブチレンが1〜8質量%、並びに液状ゴムが0.1〜5質量%の量で膏体層に含まれてなる、2.記載の鎮痛消炎貼付剤。
4.前記ゴム系エラストマーが、さらに粘度平均分子量が10,000〜100,000である低分子量ポリイソブチレンである、2.又は3.記載の鎮痛消炎貼付剤。
5.膏体層の総質量に基づいて、前記低分子量ポリイソブチレンおよび中分子量ポリイソブチレンの合計配合量が3〜12質量%の量で膏体層に含まれてなる、4.記載の鎮痛消炎貼付剤。
6.前記有機酸がアジピン酸、コハク酸およびリンゴ酸から選ばれた1種または2種以上である、前記鎮痛消炎貼付剤。
7.前記有機酸がアジピン酸である、6.記載の鎮痛消炎貼付剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、支持体の片面に、非ステロイド系鎮痛消炎薬を含有する非水系基剤に実質的に水を含まない常温で固体の有機酸を添加することにより、基剤に対する溶解性が向上し、且つ、皮膚面への薬物の移行が容易となるので、薬物の皮膚透過性が改良できる。また、実質的に水を含まない固体の有機酸を使用することにより、非水系基剤中への水分の影響を排除でき、薬物の分解を促進することもない。中でも、固体の有機酸としてア
ジピン酸を選択することにより、粘着力の低下につながるところの、鎮痛消炎貼付剤製造段階において発生する虞がある有機酸の二次凝集を抑えることができ、膏体層の塗工後に平滑な塗工表面が得られ、良好な粘着力を確保することができる。
さらに、ゴム系エラストマーとして、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と中分子量ポリイソブチレンと液状ゴムとの混合物を採用することにより、あるいはさらにこれに低分子量ポリイソブチレンを加えることにより、製造過程での溶融・混合効率が改善され、粘着基剤の製造に要する加熱攪拌時間が大幅に短縮され、また、基剤中での高分子化合物の相溶性が改善され、長時間の貼付でも付着性が低下することがなく、剥離時の痛みや糊残りのない、実用性能に優れた貼付剤とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、参考例1及び参考例2で作製した粘着剤組成物をポリエステル系編布上に展延した塗工表面の状態を示す写真である((a)参考例1、(b)参考例2)。
【図2】図2は、参考例3及び実施例13で作製した粘着剤組成物をポリエステル系編布上に展延した塗工表面の状態を示す写真である((a)参考例3、(b)実施例13)。
【図3】図3は、参考例4及び実施例14で作製した粘着剤組成物をポリエステル系編布上に展延した塗工表面の状態を示す写真である((a)参考例4、(b)実施例14)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[非ステロイド系鎮痛消炎薬]
本発明の鎮痛消炎貼付剤において、膏体層中に有効成分として含まれる非ステロイド系鎮痛消炎薬としては種々のものが挙げられるが、特にロキソプロフェンナトリウムを用いることが好ましい。ロキソプロフェンナトリウムの含有量は、特に制限されるものではないが、膏体層を構成する全成分を基準として、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0012】
なお、本発明において、「膏体層を構成する全成分を基準とする」とは、鎮痛消炎貼付剤の膏体層に含まれる非ステロイド系鎮痛消炎薬、有機酸、基剤成分を構成するゴム系エラストマー、粘着付与樹脂、可塑剤、酸化防止剤および温感刺激成分、並びにその他の添加剤を含む膏体層の全質量に基づいて算定される質量割合を意味する。
【0013】
[有機酸]
本発明の鎮痛消炎貼付剤の膏体層には、有効成分である上記非ステロイド系鎮痛消炎薬の皮膚透過性および安定性を改善する目的で、有機酸を配合することが好ましい。該有機酸は、実質的に水を含まない常温(20℃)で固体の有機酸であれば特に制約はないが、膏体層に用いられる他の成分との相溶性があり、非ステロイド系鎮痛消炎薬の分解物抑制に効果がある点において、アジピン酸、コハク酸およびリンゴ酸からなる群から選ばれた1種または2種以上を組み合わせて使用することが望ましい。中でも、鎮痛消炎貼付剤の製造時に、平滑でスクラッチ等の欠陥が無い塗工表面を容易に達成できるという観点から、アジピン酸を使用することが最も望ましい。
該有機酸の含有量としては、前記非ステロイド系鎮痛消炎薬の含有量の0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.3〜5質量%であることが好ましい。該有機酸の含有量が非ステロイド系鎮痛消炎薬の含有量の0.1質量%未満では非ステロイド系鎮痛消炎薬の経皮吸収性を改善する効果が低い問題が、10質量%を超える含有量では、有機酸に由来する皮膚刺激が発生する等の問題があり、好ましくない。
ここで、「実質的に水を含まない」とは、意図的に水を添加することがないことをいい、製造条件及び環境等に由来して不可避的に混入する微量の水が含有されている場合は該当しない。
【0014】
[ゴム系エラストマー]
また、本発明の鎮痛消炎貼付剤の膏体層は、基剤成分として、物性および品質の制御の容易さ、並びに環境保護の面を考慮してカレンダー法またはホットメルト法で製造可能な、ゴム系エラストマーが用いられる。該ゴム系エラストマーとしては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と、中分子量ポリイソブチレンと、液状ゴムとを含む混合物を使用でき、また、所望によりさらに低分子量ポリイソブチレンを含む混合物を使用することができる。
【0015】
前記スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体は、膏体層に粘着性を付与するとともに、各成分を膏体層中に保持し、他成分を溶解または分散させる役割を担うものである。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の含有量は、特に制限はないが、膏体層を構成する全成分を基準として、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%である。
なお、本発明で使用するスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)は、該SIS共重合体に含まれるスチレン−イソプレンジブロック共重合体(SI)成分の含有量、すなわち、スチレン−イソプレンのジブロック含有率が10〜20%である低ジブロック率共重合体と、同70〜80%である高ジブロック率共重合体とを組み合わせることにより、より効率的に多成分を保持、溶解または分散することができる。スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体において、低ジブロック率共重合体と高ジブロック率共重合体の重合比率は、0/100〜50/50であることが好ましい。
本発明においては市販のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を使用し得、たとえば高ジブロック率共重合体の具体例としては、クインタック3520(日本ゼオン(株))、低ジブロック率共重合体の具体例としてはJSR SIS 5002(JSR(株))を挙げることができる。
【0016】
前記ポリイソブチレンは、製造過程における膏体の相溶性、低分子量の高分子化合物を膏体中に保持する目的で、粘度平均分子量:Mvが200,000〜800,000である中分子量ポリイソブチレンを1種単独で、あるいは中分子量ポリイソブチレンと粘度平均分子量:Mvが10,000〜100,000である低分子量ポリイソブチレンとの組み合わせにて使用することが好ましい。
本発明においては、貼付剤の透湿性の改善にあたり、従来提案されてきた高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンの併用という構成によって生じた相溶性の悪さや溶融・混合のし難さといった問題点を、中分子量ポリイソブチレン単独使用、又は中分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンの併用という構成を採用することによって、改善することができ、加熱攪拌時間の大幅な短縮を実現できる。
該中分子量ポリイソブチレンのMvは好ましくは200,000〜600,000、より好ましくは200,000〜400,000、該低分子量ポリイソブチレンのMvは好ましくは40,000〜85,000である。なおここで用いる粘度平均分子量は、フローリー法によるものである。
中分子量ポリイソブチレンの含有量は、膏体層を構成する全成分を基準として1〜8質量%、より好ましくは3〜8質量%である。また、低分子量ポリイソブチレンを併用する場合の低分子量ポリイソブチレンおよび中分子量ポリイソブチレンの合計配合量は、膏体層を構成する全成分を基準として3〜12質量%、好ましくは4〜11質量%、より好ましくは5〜10質量%である。
中分子量ポリブチレンの配合量、並びに低分子量ポリイソブチレンおよび中分子量ポリイソブチレンの合計配合量が、上記の数値範囲を下回ると、粘着力が弱くなりすぎて使用時に脱落が起こる虞があり、また、上記数値範囲を上回ると粘着力が強くなりすぎて剥離時に痛みを生ずる虞があるため好ましくない。
本発明においては市販のポリイソブチレンを使用し得、たとえば中分子量ポリイソブチ
レンとしては、オパノールB−30、同B−50、同B−80(以上、BASFジャパン(株))等を挙げることができる。また、低分子量ポリイソブチレンとしては、オパノールB−10,同B−12、同B−15(以上、BASFジャパン(株))、ビスタネックスLM−MS、同LM−MH、同LM−H(以上、エクソン社)、ハイモール4H、同5H、同5.5H、同6H、テトラックス3T、同4T、同5T、同6T(以上、JX日鉱日石エネルギー(株))等を挙げることができる。
【0017】
前記液状ゴムは、基剤成分中のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体とポリイソブチレンとの相溶性を改善するものである。液状ゴムとしては、例えば、ポリブテン、ハイシスポリイソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴム等が挙げられる。これら液状ゴムの中でもハイシスポリイソプレンゴムまたは液状ポリイソプレンゴムが好ましい。また、これらの液状ゴムは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら液状ゴムの含有量は、膏体層を構成する全成分を基準として0.1〜5質量%、より好ましくは0.3〜3質量%である。
【0018】
[その他の基剤成分]
本発明の鎮痛消炎貼付剤は、基剤成分としてさらに粘着付与樹脂、可塑剤、酸化防止剤、および温感刺激成分を含有する。
前記粘着付与樹脂としては、特に制限はないが、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、クマロン−インデン樹脂、石油系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。これら粘着付与樹脂の中でもロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油系樹脂が好ましく、特にロジン系樹脂が好ましい。また、これらの粘着付与樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら粘着付与樹脂の含有量は、特に制限はないが、膏体層を構成する全成分を基準として、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜25質量%である。
粘着付与樹脂の含有量が少なすぎると、長時間の貼付を可能とする十分な粘着力が得られず、他方、粘着付与樹脂の含有量が多すぎると、剥離時の痛みが発生し、皮膚のかぶれが発生し易くなる傾向にある。
【0019】
前記可塑剤としては、薬物の吸収促進剤としての作用ではなく、膏体層の軟化作用を担う役割を果たすものである。可塑剤としては、特に限定されず、例えば、石油系オイル(パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等)、スクワラン、スクワレン、植物系オイル、シリコーンオイル、液状脂肪酸エステル等が挙げられる。これら可塑剤の中でも流動パラフィンが好ましい。また、これらの可塑剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら可塑剤の含有量は、特に制限はないが、膏体層を構成する全成分を基準として、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%である。
【0020】
前記酸化防止剤としては、トコフェロールおよびこれらのエステル誘導体、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシアニソール、亜硫酸ナトリウム、1,2,3−ベンゾトリアゾール、没食子酸n−プロピル、2−メルカプトイミダゾール等が挙げられる。これら酸化防止剤の含有量は、特に制限はないが膏体層を構成する全成分を基準として、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.3〜3質量%である。
【0021】
前記温感刺激成分としては、例えば、ノニル酸ワニリルアミドおよびカプサイシン等が挙げられる。これら温感刺激成分の含有量は、特に制限はないが、膏体層を構成する全成分を基準として、0.001〜0.05質量%が好ましい。
【0022】
上記成分のほか、必要に応じて充填剤、安定化剤、吸収促進剤等を適宜配合することが
できる。
充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等)、ケイ酸、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜鉛酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等が好ましい。
吸収促進剤としては、d−リモネン等のテルペン油、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレート、セバシン酸ジエチル等の脂肪酸エステル、エイゾン、ピロチオデカン、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等の脂肪酸またはその誘導体等が挙げられる。
【0023】
本発明の鎮痛消炎貼付剤に用いる支持体としては、フィルム、不織布、和紙、綿布、編布、織布、不織布とフィルムのラミネート複合体等の柔軟性を有する支持体が挙げられる。これらの支持体は、皮膚に密着することができ、かつ、皮膚の動きに追随することができる程度の柔軟な材質が好ましい。これらの支持体の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ナイロン、コットン、アセテートレーヨン、レーヨン、レーヨン/ポリエチレンテレフタレート複合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、アクリル系ポリウレタン、エステル系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、セロハン等を必須成分とするものが挙げられる。支持体としては、薬物が吸着されず、かつ、支持体側から薬物が放出されないものが好ましい。
【0024】
また本発明の鎮痛消炎貼付剤に用いる剥離ライナーとしては、薬物が吸収・吸着しにくい材質であることが好ましく、たとえばシリコーン処理したポリエステルフィルム、シリコーン処理したポリエチレンラミネート上質紙、シリコーン処理したグラシン紙などが挙げられる。
【0025】
本発明の鎮痛消炎貼付剤は、一般的な鎮痛消炎貼付剤の製造方法であるカレンダー法やホットメルト法などにより作製することができるが、製造方法としてはこれらに限定されるものではない。
【0026】
カレンダー法においては、はじめに、加圧ニーダーで、ゴム系エラストマー、粘着付与樹脂および酸化防止剤を、100〜150℃で10〜30分間混練り後、可塑剤を数回に分けて添加して混練りを継続し、最後に薬物、有機酸および温感刺激成分を添加して、さらに5〜20分間混練りして、各成分が均一となった粘着剤組成物(膏体)を得る。なお上記の混練時の温度および時間は、例を挙げて説明したものであり、これらの範囲に限定されるものではない。
前記方法にて得られた粘着剤組成物(膏体)を、カレンダー塗工機にて、100〜200℃に温度制御した2本のロール間を通して剥離ライナー上に100〜250μmの厚さに展延した後、これに、支持体をラミネートして所定の形状に裁断することにより、鎮痛消炎貼付剤を作製する。
【0027】
ホットメルト法においては、加熱制御可能な高速回転ミキサーで、最初にゴム系エラストマー、粘着付与樹脂、可塑剤および酸化防止剤を、窒素雰囲気下、100〜190℃の膏体温度で20〜100分間加熱高速撹拌して溶解物とする。その後、薬物、有機酸および温感刺激成分を前記溶融物中に添加し、さらに120〜190℃の膏体温度で5〜30分間加熱高速撹拌して各成分が均一となった粘着剤組成物を得る。なお上記の撹拌時の温度および時間は、例を挙げて説明したものであり、これらの範囲に限定されるものではない。
前記方法にて得られた粘着剤組成物(膏体)を、ホットメルト塗工機にて、100〜200℃に温度制御したダイヘッド部分から押し出して剥離ライナー上に100〜250μmの厚さに展延した後、これに、支持体をラミネートして所定の形状に裁断することにより、鎮痛消炎貼付剤を作製する。
【0028】
なお、上述の如く作製された本発明の鎮痛消炎貼付剤は、密封性や遮光性の高い包装材料で作製した包装体内に収容し、使用の直前まで保存することが好ましい。
前記の包装体に用いられる密封性や遮光性の高い包装材料は、一般的に貼付剤の包装に用いられる材料を用いることができる。密封性の高い包装材料としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム等のポリオレフィン系樹脂フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、アイオノマーフィルム等のビニル系樹脂フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系樹脂フィルム;ナイロンフィルム等のポリアミド系樹脂フィルム;セロファン等のセルロース系樹脂フィルム;ポリカーボネート樹脂フィルム、およびこれらの積層フィルムが上げられる。また密封性に加え、遮光性を高めるのであれば、上述の樹脂フィルム及びそれらの積層フィルム等とアルミニウムの積層フィルムや、上述の樹脂フィルムにおいて黒色顔料等を添加した顔料添加樹脂フィルム等の包装材料が挙げられ、これら樹脂フィルム、積層フィルム等は種々組み合わせて(積層して)用いることができる。
前記の包装材料により製造された包装体に鎮痛消炎貼付剤を収容し、ヒートシール等の公知の方法により密封し、保存することができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
<鎮痛消炎貼付剤の作製(1)>
[実施例1]
<発明を実施するための形態>に記載のホットメルト法にて、ロキソプロフェンナトリウムを8.1質量%、有機酸としてアジピン酸〔和光純薬工業(株)製〕を2質量%、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以降SIS共重合体とも称する)としてSIS 5002〔ジブロック率:15%、JSR(株)製〕を8.1質量%、Quintac 3520〔ジブロック率:78%、日本ゼオン(株)製〕を12.1質量%、低分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−12〔BASFジャパン(株)製、粘度平均分子量55,000〕を5質量%、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30〔BASFジャパン(株)製、粘度平均分子量200,000〕を4.1質量%、液状ゴムとしてクラプレンLIR−30〔(株)クラレ製〕を1.6質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311〔荒川化学工業(株)製、水添ロジンエステル樹脂〕を18.4質量%、可塑剤としてハイコールM−352〔カネダ(株)製、流動パラフィン〕を39.6質量%、酸化防止剤としてBHT〔精工化学(株)製、ジブチルヒドロキシトルエン〕を0.98質量%、温感刺激成分としてノニル酸ワニリルアミドを0.02質量%の配合処方(数値(%)は膏体層の全質量に基づく、以下の実施例・比較例でも同様)で加熱撹拌を行い、均一な粘着剤組成物を調製した。次いで、該粘着剤組成物をシリコーン処理したポリエステルフィルム(厚さ75μm)上に、100μmの厚さに展延して、粘着剤層を形成した。この粘着剤層の上に支持体としてポリエステル系編布をラミネートし、鎮痛消炎貼付剤を作製した。なお作製した鎮痛消炎貼付剤は遮光性及び密封性の高い包装材料で作製した包装体内に密封し、後述する<鎮痛消炎貼付剤の性能評価(1)>を実施する直前まで包装体内に23℃で保管した(以下の実施例2乃至12、比較例1乃至比較例9においても同様に保管した)。
【0031】
[実施例2]
有機酸としてアジピン酸に替えてコハク酸〔川崎化成工業(株)製〕を1.6質量%配合し、また、SIS共重合体としてSIS 5002を8.4質量%、Quintac 3520を12.6質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を19.3質量%、可塑剤としてハイコールM−352を38.3質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[実施例3]
有機酸としてアジピン酸に替えてリンゴ酸〔協和ハイフーズ(株)製〕を1.4質量%配合し、また、SIS共重合体としてSIS 5002を8.5質量%、Quintac
3520を12.7質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を19.3質量%、可塑剤としてハイコールM−352を38.3質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[実施例4]
SIS共重合体としてSIS 5002を4.1質量%、Quintac 3520を16.5質量%、低分子量ポリイソブチレンを未添加とし、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を7.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を15.7質量%、可塑剤としてハイコールM−352を43.6質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[実施例5]
SIS共重合体としてSIS 5002を4.1質量%、Quintac 3520を16.5質量%、低分子量ポリイソブチレンを未添加とし、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−50〔BASFジャパン(株)製、粘度平均分子量400,000〕を7.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を15.7質量%、可塑剤としてハイコールM−352を43.6質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[実施例6]
SIS共重合体としてSIS 5002を4.1質量%、Quintac 3520を16.5質量%、低分子量ポリイソブチレンを未添加とし、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−80〔BASFジャパン(株)製、粘度平均分子量800,000〕を7.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を15.7質量%、可塑剤としてハイコールM−352を43.6質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[実施例7]
SIS共重合体としてSIS 5002を4.3質量%、Quintac 3520を17.2質量%、低分子量ポリイソブチレンを未添加とし、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を3.7質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を16.4質量%、可塑剤としてハイコールM−352を45.7質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[実施例8]
SIS共重合体としてSIS 5002を4.1質量%、Quintac 3520を16.2質量%、低分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−12を2質量%、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を7.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を15.4質量%、可塑剤としてハイコールM−352を42.2質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[実施例9]
SIS共重合体としてSIS 5002を3.8質量%、Quintac 3520を15.4質量%、低分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−12を4質量%、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を7.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を14.6質量%、可塑剤としてハイコールM−352を42.1質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[実施例10]
SIS共重合体としてSIS 5002を10.3質量%、Quintac 3520を10.3質量%、低分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−12を2.1質量%、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を4.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を17.5質量%、可塑剤としてハイコールM−352を42.7質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。[実施例11]
SIS共重合体としてSIS 5002を4.1質量%、Quintac 3520を16.4質量%、低分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−12を2.1質量%、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を4.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を17.5質量%、可塑剤としてハイコールM−352を42.8質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[実施例12]
SIS共重合体としてSIS 5002を未添加とし、Quintac 3520を20.1質量%、低分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−12を2.1質量%、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を4.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を17.5質量%、可塑剤としてハイコールM−352を43.2質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
【0032】
[比較例1]
前記ホットメルト法にて、ロキソプロフェンナトリウムを8.1質量%、SIS共重合体としてSIS 5002を23質量%、Quintac 3520を35質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を33質量%、酸化防止剤としてBHTを0.88質量%、温感刺激成分としてノニル酸ワニリルアミドを0.02質量%の配合処方で加熱撹拌を行い、均一な粘着剤組成物を調製した。次いで、該粘着剤組成物をシリコーン処理したポリエステルフィルム(厚さ75μm)上に、100μmの厚さに展延して、粘着剤層を形成した。この粘着剤層の上に支持体としてポリエステル系編布をラミネートし、鎮痛消炎貼付剤を作製した。
【0033】
[比較例2]
有機酸として乳酸〔昭和化工(株)製〕を2質量%を使用し、SIS共重合体としてSIS 5002を4.2質量%、Quintac 3520を16.6質量%、低分子量ポリイソブチレンを未添加とし、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を7.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を15.8質量%、可塑剤としてハイコールM−352を43.3質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[比較例3]
SIS共重合体としてSIS 5002を6.3質量%、Quintac 3520を14.7質量%、低分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−12を1.4質量%、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を1.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を17.8質量%、可塑剤としてハイコールM−352を45.7質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[比較例4]
SIS共重合体としてSIS 5002を7.9質量%、Quintac 3520を11.9質量%、低分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−12を7.2質量%、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を5.9質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を18.1質量%、可塑剤としてハイコールM−352を36.3質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[比較例5]
SIS共重合体としてSIS 5002を20.5質量%、Quintac 3520
を未添加とし、低分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−12を2.1質量%、中分子量ポリイソブチレンとしてオパノールB−30を4.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を17.5質量%、可塑剤としてハイコールM−352を42.8質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[比較例6]
SIS共重合体としてSIS 5002を4.1質量%、Quintac 3520を16.5質量%、低分子量ポリイソブチレン及び中分子量ポリイソブチレンを未添加とし、高分子量ポリイソブチレン(オパノールB−100、BASFジャパン(株)製、粘度平均分子量1,110,000)を7.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を15.7質量%、可塑剤としてハイコールM−352を43.6質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[比較例7]
SIS共重合体としてSIS 5002を4.1質量%、Quintac 3520を16.3質量%、低分子量ポリイソブチレン(オパノールB−12)を2.0質量%、中分子量ポリイソブチレンを未添加とし、高分子量ポリイソブチレン(オパノールB−100)を7.4質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を15.4質量%、可塑剤としてハイコールM−352を42.1質量%として配合した以外は、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[比較例8]
前記ホットメルト法にて、ロキソプロフェンナトリウムを3質量%、イソプレンゴムとしてIR−2200(日本ゼオン(株)製)を20質量%、高分子量ポリイソブチレン(オパノールB−100)を11質量%、可塑剤としてハイコールM−352を21質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を25質量%、有機酸としてリンゴ酸を20質量%の配合処方で加熱撹拌を行い、均一な粘着剤組成物を調製した。次いで、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
[比較例9]
前記ホットメルト法にて、ロキソプロフェンナトリウムを8質量%、イソプレンゴムとしてIR−2200を27質量%、高分子量ポリイソブチレン(オパノールB−100)を5質量%、可塑剤としてハイコールM−352を22質量%、粘着付与樹脂としてパインクリスタルKE−311を24質量%、粘着付与樹脂としてYSレジンPX1150N(ヤスハラケミカル(株)製、テルペン樹脂)を9質量%、有機酸としてアジピン酸を3質量%、溶解剤として濃グリセリンを2質量%の配合処方で加熱撹拌を行い、均一な粘着剤組成物を調製した。次いで、実施例1と同様の方法で貼付剤を作製した。
【0034】
<鎮痛消炎貼付剤の性能評価(1)>
実施例1ないし実施例12並びに比較例1ないし比較例9で作製した鎮痛消炎貼付剤(試験製剤と称する)を下記(1)〜(4)の性能試験にて評価した。
【0035】
(1)in vitro皮膚透過試験
ペントバルビタール麻酔下、ヘアレスマウス(雄、7週齢)の腹部皮膚を摘出し、直径20mmφの横型拡散セルに装着した。2重構造のセルに32℃の温水を循環させ、セル内部を一定の温度条件に保ち、皮膚の角質層側には、15mmφに打ち抜いた各試験製剤を貼付した。レシーバー側にはpH7.4リン酸緩衝液を充満させ、撹拌子で撹拌しながら、経時的に0.5mlずつサンプリングし、サンプリングした各試料にメタノールを各0.5ml加え、撹拌後、遠心分離し、除蛋白した溶液をHPLC(高速液体クロマトグラフィ)にて定量して薬物濃度を測定することにより、皮膚透過量を求めた。サンプリングした後のレシーバー溶液には、同量のpH7.4リン酸緩衝液を補充した。
なお本試験において用いた各試験製剤は、製造から経過して一週間以内のものを使用した。
【0036】
(2)未知分解物
7cm×10cmの寸法に調製した各試験製剤をTHF(テトラヒドロフラン)に浸漬し、1時間振とうした。その後、同量のHPLC移動相溶液を添加し、さらに1時間振とうさせた後、メンブランフィルターでろ過し、試料溶液とした。これをHPLCにて分析することにより、分解物の存在の有無を下記の基準で評価した。
○:未知分解物 0.5%以下
×:未知分解物 0.5%超
なお本試験において用いた各試験製剤は、製造から経過して一週間以内のものを使用した。
【0037】
(3)人肌粘着力(1)
幅15mm×長さ50mmに裁断した各試験製剤を被験者の前腕内側に貼付し、室温にてそのまま約6時間維持した。その後、皮膚粘着力は、23℃,50%RHの雰囲気下に順応した状態で、テンシロン型万能試験機RTC−1210A((株)オリエンテック)を用いて、剥離角度90°、引張速度100mm/分の条件において、貼付剤が剥離する時の応力(単位:N/15mm)を測定することにより求めた。試験数は7とし、下記区分に基づき、最も評価の多い区分を各試験製剤の人肌粘着力の評価とした。なお、人肌粘着力の適正な区分はII〜IVであり、より好ましくは区分IIIである。
<人肌粘着力 評価区分>
区分 人肌粘着力(N/15mm)
I 〜0.11
II 0.12〜0.24
III 0.25〜0.30
IV 0.31〜0.35
V 0.36〜0.60
VI 0.61〜
【0038】
(4)実用性能(剥離時の痛み、剥離後の糊残り)
被験者6名の肘部に、7cm×10cmの寸法に調製した各試験製剤を約6時間貼付し、剥離時の痛み又は剥離後の糊残りがないとする被験者の割合に基づいて、下記の基準(4段階)で評価した。
【表1】

【0039】
得られた結果を表2および表3に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
<試験結果および考察(1)>
表2および表3に示すように、固体の有機酸としてアジピン酸、コハク酸およびリンゴ酸を用いて作製した鎮痛消炎貼付剤(実施例1〜3)は、有機酸を含まない製剤(比較例1)に比べて累積透過量が高く、皮膚透過性が良好であるとする結果となった。
また、固体の有機酸を含む鎮痛消炎貼付剤(実施例2〜4)では分解物の生成は認められなかったものの、固体の有機酸に替えて、液体の有機酸として乳酸を用いて作製した鎮痛消炎貼付剤(比較例2)では、分解物が生成したとする結果となった。
【0043】
また、ゴム系エラストマーとして用いた、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、中分子量ポリイソブチレン、液状ゴムおよび低分子量ポリイソブチレンの配合量やその種類をそれぞれ変動させて作製した鎮痛消炎貼付剤(実施例4〜12、比較例3〜5)を比較評価した結果、ポリイソブチレンの合計配合量が2.8質量%以下となった場合(比較例3)は人肌粘着力の評価区分がIと低く、一部に剥がれや浮きが見られるなど付着性に問題が認められ、ポリイソブチレンの合計配合量が13質量%以上となった場合(比較例4)は人肌粘着力の評価区分がVと高く、剥離時の痛みが生じる結果が得られた。
さらに、ゴム系エラストマーとして、高分子量ポリイソブチレンを用いた比較例6については人肌粘着力の評価区分はIVと適正範囲にあったが、高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンを併用した比較例7は人肌粘着力の評価区分がVと高い結果となり、またいずれも剥離後の糊残りが生じる結果が得られた。なお、比較例6及び比較例7においては、粘着剤組成物の調製にあたり、実施例の粘着剤組成物の調製時と比べて、大幅な加熱攪拌時間を要した。
また、ゴム系エラストマーとして高分子量ポリイソブチレンを用い、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及び液状ゴムを使用せずにイソプレンゴムを用いた比較例8及び比較例9については、人肌粘着力の評価区分がVI又はVと高く、いずれも剥離時の痛みを生じる結果となり、また、剥離後の糊残りが生ずる結果となった。
なお、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体において、低ジブロック率共重合体/高ジブロック率共重合体の比率が、0/100〜50/50である鎮痛消炎貼付剤(実施例10〜12)は、人肌粘着力の評価がII〜IVと適正範囲にあり、剥離後の糊残りも少なく、良好な実用性能を示した。低ジブロック量の比率が、50を超える場合(比較例5)は、剥離後に顕著な糊残りが生じた。
【0044】
<鎮痛消炎貼付剤の作製(2)>
本発明の鎮痛消炎貼付剤において、有効成分である上記非ステロイド系鎮痛消炎薬の皮膚透過性および安定性を改善する目的で配合する有機酸について、製造時の塗工性や粘着力の観点から更に検討を進めた。
【0045】
[参考例1]
以下の配合及び手順に準じて貼付剤を作製し、参考例1の鎮痛消炎貼付剤とした。
〈組成〉
・ロキソプロフェンナトリウム 5.0質量%
・スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 18.0質量%
〔商品名:クレイトンD−1161JP、JSRクレイトンエラストマー(株)〕
・ポリイソブチレン 9.0質量%
〔商品名:オパノールB80、BASFジャパン(株)〕
・流動パラフィン 36.0質量%
〔商品名:ハイコールM−352、カネダ(株)〕
・脂環族飽和炭化水素樹脂 28.0質量%
〔商品名:アルコンP−100、荒川化学工業(株)〕
・リンゴ酸 1.0質量%
〔商品名:DL−リンゴ酸、協和ハイフーズ(株)〕
・L−メントール 3.0質量%
〔商品名:L−メントール、小城製薬(株)〕
〈製法〉
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレン、流動パラフィン及び脂環族飽和炭化水素樹脂を加熱撹拌して混合した後、リンゴ酸、L−メントール及びロキソプロフェンナトリウムを加え、加熱混合して均一な溶融物(粘着剤組成物)を得た。
この溶融物を、シリコーン処理したポリエステルフィルム(厚さ75μm)上に、100μmの厚さに展延して、粘着剤層を形成した。この粘着剤層の上に支持体としてポリエステル系編布をラミネートし、鎮痛消炎貼付剤を作製した。なお作製した鎮痛消炎貼付剤は遮光性及び密封性の高い包装材料で作製した包装体内に密封し、後述する<鎮痛消炎貼付剤の性能評価(2)>を実施する直前まで包装体内に23℃で保管した(以下の参考例2乃至4、実施例13及び14においても同様に保管した)。
[参考例2]
有機酸としてリンゴ酸に替えてアジピン酸〔和光純薬工業(株)製〕を1.0質量%配合した以外は、参考例1と同様の方法で粘着剤組成物を得、貼付剤を作製した。
【0046】
[参考例3]
前述の段落[0031]に記載の実施例4において、有機酸としてアジピン酸に替えてリンゴ酸〔協和ハイフーズ(株)製〕を2.0質量%配合した以外は、実施例4と同様の方法で粘着剤組成物を得、鎮痛消炎貼付剤を作製した。
[実施例13]
前述の段落[0031]に記載の実施例4と同様の方法で粘着剤組成物を得、鎮痛消炎貼付剤を作製した。
【0047】
[参考例4]
前述の実施例4において、有機酸としてアジピン酸に替えてリンゴ酸〔協和ハイフーズ(株)製〕を3.0質量%配合し、可塑剤としてハイコールM−352を42.6質量%として配合した以外は、実施例4と同様の方法で粘着剤組成物を得、鎮痛消炎貼付剤を作製した。
[実施例14]
前述の実施例4において、有機酸としてのアジピン酸を3.0質量%配合し、可塑剤としてハイコールM−352を43.6質量%として配合した以外は、実施例4と同様の方法で粘着剤組成物を得、鎮痛消炎貼付剤を作製した。
【0048】
<鎮痛消炎貼付剤の性能評価(2)>
実施例13及び実施例14並びに参考例1ないし参考例4で作製した粘着剤組成物及び鎮痛消炎貼付剤を下記(5)及び(6)の性能試験にて評価した。
【0049】
(5)塗工適性
各粘着剤組成物を、シリコーン処理したポリエステルフィルム(厚さ75μm)上、並びにポリエステル系編布上に、それぞれ100μmの厚さにカレンダー法にて展延した。
塗工表面の状態を目視にて確認した。
また、ポリエステル系編布上に塗布した各粘着剤組成物の塗工表面の状態を、図1(参考例1及び参考例2)、図2(参考例3及び実施例13)及び図3(参考例4及び実施例14)にそれぞれ示す。
【0050】
(6)剥離力
JIS Z0237に準じ、幅15mm×長さ50mmに裁断した各鎮痛消炎貼付剤を23℃雰囲気下でBA仕上げ面のステンレスパネルに貼付し、2kgのゴムロールで300mm/分の速度で一往復圧着し、ローラ圧着後1分以内の剥離角度180度、剥離速度300mm/分の剥離力を測定した。
【0051】
【表4】

【0052】
<試験結果および考察(2)>
表4並びに図1〜図3に示すように、固体の有機酸としてアジピン酸を用いて作製した鎮痛消炎貼付剤(参考例2、実施例13及び実施例14)は、アジピン酸の添加量にかかわらず、ポリエステルフィルム、ポリエステル系編布のいずれにおいてもスクラッチ等の欠陥が生じずに平滑な塗工表面(図1(b)、図2(b)及び図3(b)参照)を得るこ
とができた。
一方、有機酸としてアジピン酸に替えてリンゴ酸を用いて作製した鎮痛消炎貼付剤(参考例1、参考例3及び参考例4)は、ポリエステルフィルム、ポリエステル系編布のいずれにおいても、塗工表面にスジ状の未塗工箇所が相当に見られ(図1(a)、図2(a)及び図3(a)参照)、鎮痛消炎貼付剤の使用原材料に対する製品歩留まりが劣るものであった。
このように、有機酸としてアジピン酸とリンゴ酸を用いた場合に塗工性能(塗工面仕上がり)に差が生じた原因として、リンゴ酸を用いた場合、粘着剤組成物の調製時にリンゴ酸が二次凝集し、このとき、凝集物の粒子(塊)の径が塗工ヘッドの間隙よりも大きいものとなるために、塗工表面にスジ状の未塗工箇所が発生したものと考えられる。アジピン酸の場合には、二次凝集が生じないか、或いは生じたとしても凝集物の粒子(塊)の径が小さく、平滑でスクラッチ等の欠陥が無い塗工表面を得るに至ったと考えられる。
【0053】
また、アジピン酸を用いて作製した鎮痛消炎貼付剤(参考例2、実施例13及び実施例14)の剥離力は、有機酸の種類(リンゴ酸)以外は同じ材料・配合量にて作製した鎮痛消炎貼付剤(参考例1、参考例3及び参考例4)に比べて大きい値となり、粘着力においてもより良好である点を示す結果が得られた。
これは、前述したように、リンゴ酸を用いて作製した鎮痛消炎貼付剤のようにスジ状の未塗工箇所により被着体への被着面積が減少して粘着力が低下することが生じなかったことが主要因であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のロキソプロフェンナトリウムを含有する粘着剤層が設けられた鎮痛消炎貼付剤は、患部(局所組織)の皮膚面に貼付することにより、ロキソプロフェンナトリウムを経皮吸収させることができる鎮痛消炎貼付剤として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、膏体層および剥離ライナーからなり、該膏体層中に有効成分として非ステロイド系鎮痛消炎薬および実質的に水を含まない20℃で固体の有機酸を含有する貼付剤において、該膏体層の基剤成分としてゴム系エラストマー、粘着付与樹脂、可塑剤、酸化防止剤、および温感刺激成分を含有する鎮痛消炎貼付剤。
【請求項2】
前記非ステロイド系鎮痛消炎薬が、ロキソプロフェンナトリウムである、請求項1記載の鎮痛消炎貼付剤。
【請求項3】
前記ゴム系エラストマーが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と、粘度平均分子量が200,000〜800,000である中分子量ポリイソブチレンと、液状ゴムとを含む混合物である、請求項1記載の鎮痛消炎貼付剤。
【請求項4】
膏体層の総質量に基づいて、前記スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が10〜30質量%、前記中分子量ポリイソブチレンが1〜8質量%、並びに液状ゴムが0.1〜5質量%の量で膏体層に含まれてなる、請求項3記載の鎮痛消炎貼付剤。
【請求項5】
前記ゴム系エラストマーが、さらに粘度平均分子量が10,000〜100,000である低分子量ポリイソブチレンを含む混合物である、請求項3又は請求項4に記載の鎮痛消炎貼付剤。
【請求項6】
膏体層の総質量に基づいて、前記低分子量ポリイソブチレンおよび中分子量ポリイソブチレンの合計配合量が3〜12質量%の量で膏体層に含まれてなる、請求項5記載の鎮痛消炎貼付剤。
【請求項7】
前記有機酸がアジピン酸、コハク酸およびリンゴ酸からなる群から選ばれた1種または2種以上である、請求項1記載の鎮痛消炎貼付剤。
【請求項8】
前記有機酸がアジピン酸である、請求項7記載の鎮痛消炎貼付剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−149061(P2012−149061A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−287868(P2011−287868)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】