説明

経皮吸収貼付剤

【課題】経時的な粘着特性の変化を抑制することができるとともに、薬物の持続的な徐放性に優れた経皮吸収貼付剤を提供すること。
【解決手段】経皮吸収貼付剤1は、皮膚に貼付して用いられる経皮吸収貼付剤であって、シート状の支持基材11と、支持基材11の一方の面側に設けられ、ニコチンおよび粘着剤を含む粘着剤層12とを有し、粘着剤は、水酸基およびカルボキシル基を有さないアクリル系モノマーと、ラクタム環を有するビニルモノマーと、重合性不飽和基を複数有するモノマーとを含むモノマー組成物の共重合体であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収貼付剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニコチンを皮膚から徐々に吸収させて、ニコチン依存を改善する経皮吸収貼付剤が知られている。
【0003】
ニコチンは、液状で揮発性を有し、水への溶解性が高いため、経皮吸収貼付剤とした場合に薬物放出速度をコントロールするのが難しい薬物である。また、ニコチンは、揮発性を有し、比較的不安定な(分解しやすい)物質であるため、ニコチンが含まれる経皮吸収貼付剤を長期間保管することは、一般に、困難である。
【0004】
また、ニコチンを含む経皮吸収貼付剤としては、例えば、常温で粘着性を示すゴム系粘着剤層を担持体上に設け、該ゴム系粘着剤層にニコチンを含有させた外用貼付剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載の経皮吸収貼付剤では、ニコチンが常温で液状であるために粘着剤層の可塑剤として機能し、粘着剤層の皮膚や担持体への付着性が低くなってしまい、貼付中に剥がれてしまったり、担持体との密着性が低下して担持体だけが分離したりするといった問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、支持体、粘着剤層、多孔性中空繊維およびセパレーターからなり、該多孔性中空繊維の空隙部分にニコチンおよび低分子固体物質を含有する徐放性貼付剤が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2に記載の徐放性貼付剤は、低分子固体物質が粘着剤層の粘着付与剤として機能し、粘着剤層の皮膚への付着性が高くなってしまい、貼付剤を剥がす際に痛みを伴うといった問題があった。また、特許文献2に記載の徐放性貼付剤は、粘着剤層を構成するアクリル系ポリマーが多量のカルボキシル基を有するため、当該カルボキシル基が粘着剤層に含まれるニコチンの分解を促進してしまう問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2007−45779号公報
【特許文献2】特開2004−168734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、保管時において長期にわたってニコチンを保持でき、貼付時においてニコチンを安定して徐放することができ、かつ、粘着特性に優れた経皮吸収貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(6)の本発明により達成される。
(1) 皮膚に貼付して用いられる経皮吸収貼付剤であって、
シート状の支持基材と、
前記支持基材の一方の面側に設けられ、ニコチンおよび粘着剤を含む粘着剤層とを有し、
前記粘着剤は、水酸基およびカルボキシル基を有さないアクリル系モノマーと、ラクタム環を有するビニルモノマーと、重合性不飽和基を複数有するモノマーとを含むモノマー組成物の共重合体であることを特徴とする経皮吸収貼付剤。
【0009】
(2) 前記共重合体における前記重合性不飽和基を複数有するモノマーの共重合比率は、0.000005〜0.005mol%である上記(1)に記載の経皮吸収貼付剤。
【0010】
(3) 前記共重合体における前記ラクタム環を有するビニルモノマーの共重合比率は、5〜35mol%である上記(1)または(2)に記載の経皮吸収貼付剤。
【0011】
(4) 前記粘着剤は、水酸基価が10mgKOH/g以下であり、かつ、酸価が10mgKOH/g以下である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の経皮吸収貼付剤。
【0012】
(5) 前記粘着剤層におけるニコチンの含有量は、1〜20質量%である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の経皮吸収貼付剤。
【0013】
(6) 前記粘着剤層の平均厚さは、100〜500μmである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の経皮吸収貼付剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保管時において長期にわたってニコチンを保持でき、貼付時においてニコチンを安定して徐放することができ、かつ、粘着特性に優れた経皮吸収貼付剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の経皮吸収貼付剤の好適な実施形態を示す断面図である。
【0016】
図1に示すように、経皮吸収貼付剤1は、支持基材11と、支持基材11の一方の面側に設けられた粘着剤層12と、粘着剤層12の支持基材11とは反対側の面に設けられた剥離シート13とを有している。
【0017】
支持基材11は、シート状をなしており、粘着剤層12を支持する機能を有する。かかる支持基材11は、可撓性(柔軟性)を有し、貼付時における曲面追従性をもち、加工時における裁断または打ち抜き等に適したものが好ましい。
【0018】
このような支持基材11としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリアリレート、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ポリスルホン、ナイロン、ポリ乳酸、レーヨン、アクリル等の樹脂からなるプラスチックフィルム、織物、編物および不織布を用いることが可能である。さらに、プラスチックフィルムと、プラスチックフィルム、織物、編物、不織布および紙等とのラミネートシートや金属蒸着を施したプラスチックフィルムを用いることが可能である。
【0019】
支持基材11の平均厚さは、2〜4000μmであるのが好ましく、10〜300μmであるのがより好ましい。
【0020】
粘着剤層12は、上記支持基材11の一方の面側に接合されており、ニコチンと粘着剤とを含んで構成されている。粘着剤層12は、ニコチンを担持する機能を有するとともに粘着性を有しており、粘着剤層12を介して経皮吸収貼付剤1は、皮膚に貼付される。そして、粘着剤層12に担持されたニコチンは、経皮吸収貼付剤1が皮膚に貼付されることにより、経皮吸収貼付剤1から放出され、皮膚に浸透する。
【0021】
また、本発明では、粘着剤として、水酸基およびカルボキシル基を有さないアクリル系モノマー(以下、「モノマーA」とも言う。)と、ラクタム環を有するビニルモノマー(以下、「モノマーB」とも言う。)と、重合性不飽和基を複数有するモノマー(以下、「モノマーC」とも言う。)とを含むモノマー組成物の共重合体Xを用いる。
本発明は、上記の共重合体Xを粘着剤として用いる点に特徴を有する。
【0022】
すなわち、共重合体Xは、ニコチンを比較的多量に含んだ場合であっても、適度な粘着力を有し、また、粘着剤層12の凝集破壊を防止することができる。このため、貼付中に皮膚から経皮吸収貼付剤1が剥がれてしまったり、粘着剤層12と支持基材11との密着性が低下して担持体だけが分離したりするといったことが防止される。また、共重合体Xは、適度な皮膚への粘着力を有するため、皮膚から経皮吸収貼付剤1を剥がす際に痛みを伴うことが防止もしくは軽減される。
【0023】
さらに、共重合体Xは、ニコチンとの親和性に優れ十分な量のニコチンを担持できるものであるとともに、水酸基およびカルボキシル基を有さないため、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与してニコチンの分解が促進されることを防止できる。一方で、経皮吸収貼付剤1の貼付時においては、共重合体Xは、ニコチンを安定的に徐放することができる。
【0024】
この結果、経皮吸収貼付剤1は、保管時において長期にわたってニコチンを保持でき、貼付時においてニコチンを安定して徐放することができ、かつ、粘着特性に優れたものとなる。
【0025】
なお、本願明細書において、「水酸基およびカルボキシル基を有さない」とは、化学構造中にフリーの水酸基およびカルボキシル基を有さない場合を指す。
【0026】
水酸基およびカルボキシル基を有さないアクリル系モノマー(モノマーA)としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルまたはメタアクリル酸エステルのいずれかを意味し、以下、(メタ)は同じ意味を有するものとする。このような化合物は、化学構造中に水酸基およびカルボキシル基を有していない。ニコチンは、粘着剤層12中の水酸基、カルボキシル基等により分解しやすいが、このような化合物をモノマーAとして用いることで、経皮吸収貼付剤1の保管時における、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与してニコチンの分解が促進されることが防止される。
【0027】
上述したようなモノマーAとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステルなどの(メタ)アクリル酸アリールエステルなどが挙げられる。
【0028】
また、モノマーAとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましく、アルキルエステルを構成するアルキル基の炭素数は、3〜12であることがより好ましく、4〜8であることが特に好ましい。これにより、粘着剤層12の粘着力を適度なものとすることができる。
【0029】
また、共重合体中におけるモノマーAのモノマー比率は、とくに限定されないが、65〜95mol%であることが好ましく、67〜93mol%であることがより好ましい。これにより、粘着剤層12の粘着性を十分に保ちつつ、粘着剤とニコチンとの親和性を十分に高いものとすることができ、より長期にわたり粘着剤層12にニコチンを担持することができる。
【0030】
ラクタム環を有するビニルモノマー(モノマーB)は、共重合体Xのニコチンに対する親和性の向上に寄与する成分である。
【0031】
モノマーBとしては、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム等のN−ビニル環状ラクタム類が挙げられ、このうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。この中でも、N−ビニル−2−ピロリドンは、皮膚に対する親和性に優れており、粘着剤層12の皮膚に対する密着性を高めることができるため好ましい。
【0032】
モノマーBの共重合体中におけるモノマーBのモノマー比率は、特に限定されないが、5〜35mol%であることが好ましく、7〜33mol%であることがより好ましい。これにより、粘着剤層12の皮膚に対する粘着力を十分なものとしつつ、経皮吸収貼付剤1を皮膚から剥離する際に、粘着剤が皮膚に残存する現象(糊残り)が生じることを防止することができる。また、共重合体Xとニコチンとの親和性を十分に高いものとすることができ、粘着剤層12はより長期にわたってニコチンを保持することができる。これに対し、モノマーBのモノマー比率が前記上限値を超えると、経皮吸収貼付剤1を貼付して剥がした際に皮膚に糊残りが発生しやすくなる場合がある。一方、モノマーBのモノマー比率が前記下限値以下の場合、粘着剤層12の皮膚に対する粘着力が十分とならない場合があり、また、ニコチンと共重合体Xとの親和性を十分に高いものとすることができない場合がある。
【0033】
また、モノマーBは、水酸基およびカルボキシル基を有さないことが好ましい。これにより、粘着剤層12において、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与してニコチンの分解が促進されることがより好適に防止される。
【0034】
重合性不飽和基を複数有するモノマー(モノマーC)は、共重合体Xの凝集力を向上させる機能を有する。すなわち、モノマーCの重合性不飽和基が共重合体Xの重合に関与することによって、共重合体Xを架橋した高分子とすることができる。このように共重合体Xの凝集力が向上することにより、粘着剤層12の糊残りの発生を好適に防止することができる。
【0035】
一般に、粘着剤の凝集力を向上させるための手段として、粘着剤に用いる高分子を架橋処理することが行われているが、エポキシ基、イソシアネート基等の反応性官能基を有する架橋剤を用いる場合に、架橋される高分子には、架橋反応をするための水酸基、カルボキシル基等の活性水素を有する官能基が必要である。これらの水酸基、カルボキシル基はニコチンの分解を促進してしまう。これに対し、モノマーCは、重合性不飽和基によって架橋することにより、水酸基、カルボキシル基等の活性水素を有する官能基を必要としないため、水酸基、カルボキシル基が反応に関与してニコチンの分解が促進されることを防止することができる。
【0036】
モノマーCの重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。この中でも、重合性不飽和基としてアクリロイル基を用いた場合、共重合体Xの凝集力を十分に高いものとすることができる。
【0037】
また、モノマーC中の重合性不飽和基は、複数あるものであればよいが、2〜5個であることが好ましく、2〜3個であることがより好ましく、2個であることがさらに好ましい。これにより、共重合体Xの粘度を低いものとしつつ、共重合体Xの凝集力を十分に高いものとすることができる。また、モノマーCは、水酸基およびカルボキシル基を有さないことが好ましい。これにより、粘着剤層12においてニコチンが分解することがより好適に抑制される。
【0038】
上述したようなモノマーCとしては、例えば、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、(ポリ)ブチレングリコール、(ポリ)ペンタメチレングリコール、(ポリ)ヘキサメチレングリコール等のアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、(ポリ)グリセリン等のポリオール類のジもしくはトリアクリル酸エステル類またはジもしくはトリメタアクリル酸エステル;ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。上述した中でもアルキレングリコールジアクリレートは、他のモノマーとの反応性に優れているため、好適に共重合体Xの凝集力を高いものとすることができる。
【0039】
また、共重合体XにおけるモノマーCの共重合比率は、0.000005〜0.005mol%であることが好ましく、0.00001〜0.001mol%であることがより好ましい。
【0040】
また、共重合体Xに上述したようなモノマー以外のモノマーが含まれていてもよい。このようなモノマーとしては、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。これらのモノマーの共重合体Xにおける共重合比率は、0〜10mol%であることが好ましい。
【0041】
また、このようなモノマーは、水酸基およびカルボキシル基を有さないことが好ましい。これにより、粘着剤層12において、水酸基およびカルボキシル基が反応に関与してニコチンの分解が促進されることがより好適に防止される。
また、粘着剤層12には、共重合体X以外の粘着剤が含まれていてもよい。
【0042】
また、粘着剤層12を構成する粘着剤は、実質的に水酸基およびカルボキシル基を有していないことが好ましい。上述したように、カルボキシル基、水酸基を有する化合物とニコチンとが共存した場合、経皮吸収貼付剤の保管中にニコチンが経時で分解して、ニコチン類縁物質が生成しやすい。このような場合、粘着剤層12中のニコチンの含有量が少ないものとなってしまう。このため、粘着剤が水酸基およびカルボキシル基を実質的に有しないことにより、このようなニコチンの分解を防止することができる。なお、本明細書において、「粘着剤が水酸基およびカルボキシル基を実質的に有しない」とは、具体的には、粘着剤が下記のような酸価、水酸基価を満足することをいう。
【0043】
また、粘着剤層12における粘着剤の酸価は10mgKOH/g以下であることが好ましい。これにより、粘着剤層12においてニコチンが分解することがより好適に防止される。
【0044】
また、粘着剤層12における粘着剤の水酸基価は10mgKOH/g以下であることが好ましい。これにより、粘着剤層12においてニコチンが分解することがより好適に防止される。
【0045】
また、粘着剤層12におけるニコチンの含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、3〜17質量%であることがより好ましい。これにより、治療において効果が得られる十分な量のニコチンを皮膚に放出させることができるとともに、粘着剤層12の凝集力を高いものとすることができる。
【0046】
また、粘着剤層12の平均厚さは、100〜500μmであることが好ましく、150〜300μmであることがより好ましい。これにより、十分な量のニコチンを粘着剤層12に含ませることができるとともに、経皮吸収貼付剤1の剥離時において皮膚に糊残りが発生することを防止することができる。
【0047】
剥離シート13は、経皮吸収貼付剤1の保管時において、粘着剤層12の貼着面を保護する機能を有するとともに、ニコチンの拡散を防止する機能を有している。
【0048】
このような剥離シート13としては、例えば、ポリエチレンラミネート紙、ポリプロピレンラミネート紙等のラミネート紙類;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム等の合成樹脂フィルム等が使用できる。また、剥離シート13は、必要に応じてこれらの材料の片面または両面にシリコーン樹脂等により剥離処理が施されたものを使用してもよい。
【0049】
また、剥離シート13の平均厚さは、10〜200μmであることが好ましく、15〜100μmであることがより好ましい。
【0050】
また、経皮吸収貼付剤1に含まれる初期のニコチン含有量に対する8時間後の薬物放出率は、米国薬局方に記載のパドルオーバーディスク法に準じた測定方法において、60〜80質量%であることが好ましい。特に、経皮吸収貼付剤1に含まれる初期のニコチン含有量に対する1時間後の薬物放出率が20〜40質量%であり、8時間後の薬物放出率が60〜80質量%であり、24時間後の薬物放出率が80〜100質量%であることがより好ましい。このような薬物放出プロファイルを有することにより、副作用の発現を抑制しつつ、薬効の発現性を良好なものとすることができる。
【0051】
また、JIS Z 0237に準じて測定される経皮吸収貼付剤1の粘着力は、2.0〜7.0N/25mmであることが好ましく、2.5〜6.0N/25mmであることがより好ましい。これにより、経皮吸収貼付剤1を容易に皮膚に貼着することができるとともに、経皮吸収貼付剤1を皮膚から剥離する場合に、痛みを感じないかもしくは気にならない程度にすることができる。
【0052】
また、JIS Z 0237に準じて測定される経皮吸収貼付剤1の保持力は、8000〜100000secであることが好ましく、10000〜50000secであることがより好ましい。これにより、一旦皮膚に貼着された経皮吸収貼付剤1が不本意に剥離することを防止しつつ、経皮吸収貼付剤1を皮膚から剥離する場合に、痛みを感じないかもしくは気にならない程度にすることができる。
次に、上述した経皮吸収貼付剤1の製造方法の一例について説明する。
【0053】
図2は、本発明の経皮吸収貼付剤の製造方法の一例を示す工程図である。
まず、図2(a)に示すように、剥離シート13を用意する。
【0054】
次に、剥離シート13の剥離面に、粘着剤を含んだ材料を塗布、加熱乾燥し、粘着剤層前駆体121を形成する(図2(b)参照)。上記の塗布、加熱乾燥は繰り返し行われるものであってもよい。また、複数の粘着剤層を積層して粘着剤層前駆体121を形成してもよい。
【0055】
次に、形成した粘着剤層前駆体121上に、支持基材11を貼着し、経皮吸収貼付剤中間体101を得る(図2(c)参照)。
【0056】
次に、経皮吸収貼付剤中間体101から剥離シート13を剥離し、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、マイヤーバーコーター、スプレーコーター等の塗布装置を用いてニコチンを含む液状の薬物を粘着剤層前駆体121に塗布、含浸させ、粘着剤層12を形成する(図2(d)参照)。
【0057】
その後、一旦剥離した剥離シート13を再び粘着剤層12に貼付し、経皮吸収貼付剤1を得る(図2(e)参照)。
【0058】
このように、本発明の経皮吸収貼付剤は、簡便な製造方法で製造することができ、経済的にも優れている。
【0059】
以上、本発明の経皮吸収貼付剤について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
また、本発明の経皮吸収貼付剤の製造方法は、上記方法に限定されない。
【実施例】
【0060】
次に、本発明の経皮吸収貼付剤の具体的実施例について説明する。
[1] 経皮吸収貼付剤の作成
(実施例1)
まず、アクリル酸2−エチルヘキシル:89.9999mol%と、N−ビニル−2−ピロリドン:10mol%と、ヘキサメチレングリコールジアクリレート:0.0001mol%とからなるモノマー組成物を共重合した共重合体Xの酢酸エチル溶液(固形分:40質量%)を用意した。
【0061】
次に、剥離シートとしてのポリエチレンテレフタレート(PET)製リリースライナー(リンテック社製、商品名「SP−PET7511」)を用意し、その離型面に、上記重合体Xの酢酸エチル溶液を乾燥後の平均厚さが50μmとなるように塗布後、加熱乾燥させ、得られた粘着剤層を5層積層して、平均厚さ:250μmの粘着剤層前駆体を形成した。
【0062】
次に、剥離シート上に形成された粘着剤層前駆体上に、支持基材としての平均厚さ:50μmのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラー」)をラミネートして経皮吸収貼付剤中間体を作成した。
【0063】
次に、経皮吸収貼付剤中間体から剥離シートを剥離し、粘着剤層前駆体にマイヤーバーコーターでニコチンを塗布、含浸させて粘着剤層を形成し、粘着剤層に再度剥離シートを貼り合わせた。次に、直径:36mmの円形状に打ち抜き加工して経皮吸収貼付剤(1枚あたり、17.5mgのニコチンを含有)を得た。また、このとき、粘着剤層中に含まれるニコチンの含有量は、6.82質量%であった。
【0064】
(実施例2〜7)
モノマー組成物の配合を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして経皮吸収貼付剤を製造した。
【0065】
(比較例1〜4)
モノマー組成物の配合を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして経皮吸収貼付剤を製造した。
【0066】
表1に各実施例、各比較例で用いたモノマー組成物の配合を示す。なお、表1中、「A1」はアクリル酸2−エチルヘキシルを、「A2」はアクリル酸ブチルを、「A3」はメタクリル酸2−エチルヘキシルを、「A4」はメタクリル酸ドデシルを、「AA」はアクリル酸を、「HA」はアクリル酸2−ヒドロキシエチルを、「VP」は、N−ビニル−2−ピロリドンを、「HM」はヘキサメチレングリコールジアクリレートをそれぞれ示す。また、アクリル酸およびアクリル酸2−ヒドロキシエチルは、水酸基またはカルボキシル基を有するモノマーであるが、表の記載の便宜上モノマーAの欄に記載した。
【0067】
【表1】

【0068】
[2] 粘着剤層の物性試験
[2.1] 酸価
各実施例および各比較例の粘着剤層に含まれる粘着剤について、酸価の測定を行った。粘着剤:約1gを精密に測りとり、250mLのフラスコに入れ、酢酸エチル、エタノールの混液50mLを加え、加温して試料を溶かした。
【0069】
次に、フェノールフタレイン試液:1mLを指示薬として加え、0.1mol/L水酸化カリウム液を用いて滴定を行った。また、粘着剤を用いない以外は上記と同様にして空試験を行った。空試験の結果を補正した0.1mol/L水酸化カリウム液の滴定量から、試料:1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を酸価として求めた。
【0070】
[2.2] 水酸基価
各実施例および各比較例の粘着剤層に含まれる粘着剤について、水酸基価の測定を行った。粘着剤:約1gを精密に測りとって丸底フラスコに入れ、無水酢酸・ピリジン試液:5mlを加え、湯浴中で95〜100℃で1時間加熱してアセチル化を行った。その後、試料の入った丸底フラスコを冷却し、冷却後に水:1mLを加えて振り混ぜ、さらに湯浴中で10分間加熱を行った。その後、試料の入った丸底フラスコを再度冷却し、酢酸エチル5mLを用いて、丸底フラスコの側面等にある付着物を洗い込んだ。
【0071】
次に、フェノールフタレイン試液:1mLを指示薬として加え、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール液を用いて滴定を行った。また、粘着剤を用いない以外は上記と同様にして空試験を行った。
【0072】
上記の試験で得られた滴定量から、下記式に従い、水酸基価を算出した。
水酸基価=(a−b)×N×56.11/d+c
a: 空試験での水酸化カリウム・エタノール液の消費量[mL]
b: 粘着剤の水酸化カリウム・エタノール液の消費量[mL]
c: 酸価
d: 粘着剤の量[g]
N: 水酸化カリウム・エタノール液中の水酸化カリウムのモル濃度[mol/L]
【0073】
[2.3] 粘着力
各実施例および各比較例で得られた経皮吸収貼付剤について、JIS Z 0237に準じて180度引きはがし粘着力の測定を行った。なお、試験板に対する経皮吸収貼付剤の圧着速さを5mm/s、圧着回数を1往復として試験を行った。また、試験板としてベークライト板を用いた。
【0074】
[2.4] 保持力
各実施例および各比較例で得られた経皮吸収貼付剤について、JIS Z 0237に準じて保持力の測定を行った。
【0075】
[3] 薬物放出試験
各実施例および各比較例の経皮吸収貼付剤からのニコチンの放出プロファイルを、米国薬局方に記載のパドルオーバーディスク法に準じて以下のようにして測定した。
【0076】
既定の溶出試験機に、pH7.4のリン酸緩衝液:500mLをセットし、各実施例および各比較例の経皮吸収貼付剤を既定のディスクに店着面が上になるように固定した。次に、液温:32℃、回転数:50rpmにて試験を行い、初期の薬物含有量に対する1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後の薬物放出率を高速液体クロマトグラフィーにて測定した。
【0077】
[4] 皮膚貼付試験
各実施例および各比較例の経皮吸収貼付剤を被験者の上腕外側部に12時間貼付したときの経皮吸収貼付剤のはがれ、貼付後に引きはがした際の糊残り、痛みの有無について観察を行った。
【0078】
貼付中における剥がれがなく、貼付後に引きはがした際に、糊残り、痛みがなかったものを「○」と評価した。いずれかの不具合の生じたものを「×」とした。
【0079】
[5] 経時安定性試験
各実施例および各比較例の経皮吸収貼付剤について、アルミニウム包材にて包装し、温度:40℃、湿度:75%の恒温槽にて6カ月保存し、経皮吸収貼付剤中のニコチン残存量を高速液体クロマトグラフィーを用いて定量し、初期のニコチン含有量に対する比率を求めた。
表2に、[2]〜[5]で得られた結果を示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2から明らかなように、本発明の経皮吸収貼付剤は、保管時において長期にわたってニコチンを保持でき、貼付時においてニコチンを安定して徐放することができ、かつ、粘着特性に優れたものであった。これに対し、各比較例の経皮吸収貼付剤は、すべてを満足する結果が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の経皮吸収貼付剤の好適な実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の経皮吸収貼付剤の製造方法の一例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0083】
1 経皮吸収貼付剤
11 支持基材
12 粘着剤層
121 粘着剤層前駆体
13 剥離シート
101 経皮吸収貼付剤中間体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に貼付して用いられる経皮吸収貼付剤であって、
シート状の支持基材と、
前記支持基材の一方の面側に設けられ、ニコチンおよび粘着剤を含む粘着剤層とを有し、
前記粘着剤は、水酸基およびカルボキシル基を有さないアクリル系モノマーと、ラクタム環を有するビニルモノマーと、重合性不飽和基を複数有するモノマーとを含むモノマー組成物の共重合体であることを特徴とする経皮吸収貼付剤。
【請求項2】
前記共重合体における前記重合性不飽和基を複数有するモノマーの共重合比率は、0.000005〜0.005mol%である請求項1に記載の経皮吸収貼付剤。
【請求項3】
前記共重合体における前記ラクタム環を有するビニルモノマーの共重合比率は、5〜35mol%である請求項1または2に記載の経皮吸収貼付剤。
【請求項4】
前記粘着剤は、水酸基価が10mgKOH/g以下であり、かつ、酸価が10mgKOH/g以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の経皮吸収貼付剤。
【請求項5】
前記粘着剤層におけるニコチンの含有量は、1〜20質量%である請求項1ないし4のいずれかに記載の経皮吸収貼付剤。
【請求項6】
前記粘着剤層の平均厚さは、100〜500μmである請求項1ないし5のいずれかに記載の経皮吸収貼付剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−126450(P2010−126450A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299855(P2008−299855)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】