説明

経皮投薬デバイス

【課題】微小突起を備えた経皮投薬デバイスの構成を改善し、無菌的に投与できる新たな構成を該デバイスに付与すること。
【解決手段】当該経皮投薬デバイスは、皮膚表面に貼付するためのベースとなる基板部1を有し、該基板部はその板厚方向を貫通する薬液通過用孔1hを有する。基板部の貼付面1aには、貼付時に皮膚表面を穿刺し角質層内または角質層下まで到達し得る微小突起1cが設けられ、該基板部の他方の面1bには、濾過滅菌用フィルター層2と、押圧されると内部から薬液が流出するよう構成された薬液層3とが順に積層され、薬液層から流出する薬液が、濾過滅菌用フィルター層2、基板部の薬液通過用孔1hを順に通過して貼付面1aへと移動し得る構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を無菌的に経皮投与するための経皮投薬デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を経皮的に投与する方法として、注射針による皮膚真皮層への穿刺、皮膚表面への液剤・軟膏剤の塗布、貼付型経皮投与製剤の使用が挙げられる。
真皮層には神経細胞が含まれるので、注射針の真皮層への穿刺は疼痛を伴い、また、塗布剤や貼付型経皮投与製剤では、経皮投与可能な薬剤は少ないという問題点がある。
【0003】
経皮投与可能な薬剤が少ない理由は、角質層の不透過性による。角質層は厚さ10〜30μmの層状構造をなし、種々の物質の体内への侵入、並びに種々の物質の体内からの漏出を防ぐバリアとなり、そのため薬剤が角質層下へ透過することが困難となっている。
経皮的に薬剤の透過性を向上させるためのデバイスの形態として、微小突起(微小針)又はブレード(即ち、刃)を穿刺しながら、その穿刺部に薬液を供給し得るよう構成された経皮投薬デバイスが挙げられる。微小突起又はブレードを皮膚角質層に侵入させることによって、角質層のバリア機能が局所的に破壊され、薬剤の透過性が向上する。
微小突起又はブレードを備えた経皮投薬デバイスの例は、特許文献1〜3に開示されている。
【0004】
しかしながら、微小突起を備えた従来の経皮投薬デバイスについて、本発明者等が詳しく検討したところ、次の問題が存在することがわかった。
即ち、微小突起を備えた経皮投薬デバイスは、角質層というバリアを破って微小突起を人体内に穿刺しその破断部分を通して薬液を強制的に浸入させるものであるから、感染や、菌体成分に対する炎症反応を生じる可能性がある。よって、薬液は無菌的に投与しなければならない。
これに対処するために、従来では、専ら、薬液を薬液層へ注入する前後に滅菌処理するという方法を採用しており、経皮投薬デバイスの製造に手間がかかっていた。また、薬液層を滅菌しなければならないために、その滅菌法によって失活するような薬剤は、用いられていないことがわかった。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5879326号公報
【特許文献2】米国特許第5250023号公報
【特許文献3】特表2000−512529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、微小突起を備えた経皮投薬デバイスの構成を改善し、無菌的に投与できる新たな構成を該デバイスに付与することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するべく鋭意研究を行った結果、薬液が濾過滅菌用フィルター層を通して貼付面(生体皮膚)に流出する構造とすれば、滅菌処理を施さなくとも薬剤の無菌的な経皮投与が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)皮膚表面に貼付し薬剤を経皮投与するための経皮投薬デバイスであって、
皮膚表面に貼付するためのベースとなる基板部を有し、該基板部はその板厚方向を貫通する薬液通過用孔を有し、
該基板部の一方の面である貼付面には、貼付時に皮膚表面を穿刺し角質層内または角質層下まで到達し得る微小突起が設けられ、該基板部の他方の面には、濾過滅菌用フィルター層と、押圧されると内部から薬液が流出するよう構成された薬液層とが順に積層され、
薬液層から流出する薬液が、濾過滅菌用フィルター層、基板部の薬液通過用孔を順に通過して貼付面へと移動し得る構成とされていることを特徴とする、経皮投薬デバイス。
(2)薬液層が、層の形態を呈する容器と、該容器内に収容された薬液とを有して構成されている、上記(1)記載の経皮投薬デバイス。
(3)薬液層の容器が、外部から加圧されると濾過滅菌用フィルター層との接触面において破れ内部の薬液が濾過滅菌用フィルター層へ流出するように、脆弱部を有する構成とされている、上記(2)記載の経皮投薬デバイス。
(4)薬液層の容器の壁部のうち、濾過滅菌用フィルター層と接触する側の壁部が、外部からの加圧で破れるように金属箔にて構成され、かつ、薬液層の容器の壁部のうち、他の壁部は、外部からの加圧で変形し得る構成とされ、これらの構成によって薬液層の容器全体がプレス・スルー・パック状の構造となっている、上記(3)に記載の経皮投薬デバイス。
(5)薬液層が、さらに複数層の積層体として構成されたものであり、該積層体には、固体の薬剤を含有する固体薬剤層と、前記固体の薬剤を溶解し得る溶媒を含有する溶媒層とが含まれており、押圧されると溶媒層から溶媒が流出し固体の薬剤を溶かして薬液となり濾過滅菌用フィルター層へ流出する構成とされている、上記(1)記載の経皮投薬デバイス。
(6)固体薬剤層が、溶媒層よりも濾過滅菌用フィルター層側に位置するか、または、溶媒層が、固体薬剤層よりも濾過滅菌用フィルター層側に位置するものである、上記(5)記載の経皮投薬デバイス。
(7)薬液層の各壁部のうち、該薬液層を構成する積層体の各層の境界となる壁部、および濾過滅菌用フィルター層と接触する壁部が、外部からの加圧で破れるように金属箔にて構成され、かつ、薬液層の容器の壁部のうち、他の壁部は、外部からの加圧で変形し得る構成とされ、これらの構成によって薬液層の容器全体がプレス・スルー・パック状の構造となっている、上記(6)記載の経皮投薬デバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明の経皮投薬デバイスでは、薬液層内の薬液(薬剤・溶媒などとして別個に保持され使用に臨んで混合され薬液となったものを含む)は、使用時に濾過滅菌用フィルター層を通過することによって無菌化されたのち、経皮投与される。そのため、薬液を薬液層へ注入する前後に滅菌処理する必要がなく、しかも、使用直前に濾過滅菌されるために安全性が高く、哺乳動物等の生体、特に人体に薬剤を経皮投与する手段として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、実施例を挙げながら、本発明による経皮投薬デバイスの構成を説明する。
当該経皮投薬デバイスは、生体の皮膚表面に貼付し薬剤を経皮投与するためのものである。当該デバイスは、図1に基本的な構成の一例を示すとおり、皮膚表面に貼付するためのベースとなる基板部1を有する。基板部1は、その板厚方向を貫通する薬液通過用孔1hを有しており、該基板部の一方の面である貼付面(貼付時に皮膚表面に接触する面)1aには、貼付時に皮膚表面を穿刺し角質層内または角質層下まで到達し得る微小突起1cが設けられ、該基板部1の他方の面1bには、濾過滅菌用フィルター層2と、薬液層3とが順に積層されている。薬液層3は、薬液の供給源となる層であって該層を上から(貼付面側とは反対の側から)押圧すると、該層内から薬液が濾過滅菌用フィルター層へ流出する構成となっている。薬液層内に薬液がどのような状態で保持されているかは後述する。
【0011】
上記構成によって、貼付面1aを皮膚表面に接触させて当該デバイスを貼付し、微小突起1cを皮膚内に侵入させ、薬液層3を指等で上から押圧すれば、該薬液層から薬液が流出し、濾過滅菌用フィルター層2を通過し濾過滅菌されて、基材層1に形成された薬液通過用孔1hを通って、貼付面に移動し、微小突起1cの穿刺部に供給される。
【0012】
基板部の材料は、特に限定されないが、例えば、金属、プラスチック、セラミック、ガラス、多糖類などが好ましいものとして挙げられる。
皮膚表面への貼付のベース部材として求められる柔軟性、耐薬品性、強度の点では、金属(例えば、シリコン、チタン、ステンレス、鉄、ニッケルなど)や、プラスチック(例えば、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロースアセテートなど)が好ましい。
また、同じ材料であっても、組織が異なれば多孔性などの性質も異なるが、皮膚表面への貼付に好ましい性質を示す組織であればよい。
【0013】
基板部の層厚は、材料に応じて適宜決定してよく、例えば、シリコンであれば0.05mm〜3mm程度、ポリ乳酸であれば0.1mm〜5mm程度が好ましい厚さである。
基板部の外周形状は、四角形、円形など、貼付するのに好ましいものであればよく、例えば、正方形であれば一辺10mm〜100mm程度が好ましい寸法である。
【0014】
薬液通過用孔は、濾過滅菌用フィルター層を通過した薬液が基板部を通過し貼付面に流出し得るものであればよく、基板部自体を構成する材料自体の多孔性によるものであっても、後加工によって形成された貫通孔であってもよい。薬液通過用孔の好ましい態様は、薬液が適度に染み出すという点から、後加工によって形成された貫通孔である。
薬液通過用孔は、基板部を貫通するだけでなく、注射針の如く微小突起の内部を通って先端部分に開口するものであってもよい。
【0015】
薬液通過用孔が後加工による貫通孔である場合、該孔の加工法としては、エッチング、レーザー加工、目立て(おろし金を作る方法)などが好ましい方法として挙げられる。また、多孔性を有する材料としては、不織布、多孔質フィルム、汎用されているメンブレンフィルターなどが挙げられる。
薬液通過用孔が単純な円柱形の貫通孔で有る場合、該孔の内径は限定されないが、貼付剤としての貼付面の領域確保や、薬液の適度な染み出しを考慮すると、内径は10μm〜1000μm程度が好ましい寸法である。
また、薬液通過用孔の密度は、基板部の面積100mmあたり10〜1000個程度、好ましくは、40〜400個程度が良い。
【0016】
基板部の貼付面に設けられる微小突起は、角質層内または角質層下まで到達し得るものであればよいが、疼痛を抑制する観点からは、表皮層下まで到達すること(即ち、真皮層以下の組織に侵入すること)は望ましくない。
従って、貼付面を基準とした微小突起の高さは、貼付すべき皮膚の角質層の厚さにもよるが、5〜2000μm程度、特に50〜500μmが好ましい。
微小突起の形状は、皮膚表面を穿刺し得る程度の鋭利な先端を有する形状であればよいが、円錐型、角錐型などが好ましい形状として挙げられ、その他、おろし金のように先端鋭利な突起が立ち上がった形状などであってもよい。また、微小突起は、貼付面に対し、垂直に伸びていても、斜めに伸びていてもよい。
【0017】
微小突起は、少なくとも1つあればよいが、薬剤投与量やアジュバント様刺激の増大のために、多数形成させるのが好ましい。
微小突起の密度は、貼付面を観察したとき、4〜1000個/cm、特に20〜400個/cm存在する程度が好ましい。
【0018】
微小突起は、基板部の貼付面を加工することで該基板部と一体になって突起したものであっても、基板部の貼付面に外部から別途接合されたものであってもよい。また、後者の場合、微小突起と基板部とは、同じ材料からなるものでも、異なる材料からなるものでもよい。微小突起の好ましい態様としては、円錐状、ピラミッド状、円柱状、カッター状が例示される。
微小突起は、公知の微細加工技術、例えば、エッチング、フォトリソグラフィー、電着形成、レーザー加工、射出成型技術などによって作製できる。
【0019】
本発明の経皮投薬デバイスに用いられる濾過滅菌用フィルター層は、薬液を透過させながら、菌体やその断片、発熱性物質など、排除すべき異物を透過させないものであれば、フィルターとしての透過性、透過させ得る粒度などは任意に選択可能である。
菌体やその断片を透過させないためには、口径0.1μm〜0.8μm程度であることが好ましい。層厚は、0.1mm〜10mm、特に0.2mm〜2mmが好ましい。
市販の濾過滅菌フィルター部材としては、MF−ミリポア(商標:ミリポア社製、母材セルロース混合エステル、層厚150μm、孔径0.45μm)、フロリナート(商標:ミリポア社製、母材親水化ポリテトラフルオロエチレン、層厚150μm、孔径0.45μm)、デュラポア(商標:ミリポア社製、母材ポリビニリデンフロライド、層厚125μm、孔径0.45μm)、ウルチポア(商標:ポール社製、新水性PVDF、層厚不明μm、孔径0.45μm)、K020N25A(品名:アドバンテック社製、母材ポリカーボネート、層厚100μm、孔径0.45μm)などが挙げられる。
これらの濾過滅菌フィルター部材は、一般的には、固液相分離法で作製され、母材中に通過孔が形成される。
【0020】
薬液層は、外部からの押圧によって薬液が濾過滅菌用フィルター層へ流出するよう構成された層であればよい。薬液層は、供給すべき薬液をそのままの状態で含有してもよく、複数の薬液に分離した状態で含有してもよく、また、固形の薬剤と溶媒とに分離した状態、複数の薬液に分離した状態、濃縮された薬液と希釈液とに分離した状態など、どのような状態で含有してもよい。薬液層が薬液を分離した状態で含有していても、該層を押圧することで混合、溶解によって一体化し、目的の薬液として濾過滅菌用フィルター層へ流出すればよい。
【0021】
薬液層に、薬液や溶媒などの液体を保持しておくための好ましい態様としては、層の形態を呈する容器を形成し、これに該液体を収容しておく態様が挙げられる。
また、薬液や溶媒などの液体を、海綿や不織布、水性ゲルなどの柔軟な多孔性物質に含浸させておく態様が挙げられるが、その場合であっても、薬液の漏洩防止や、薬液と外気との接触を防止するためには、外周囲に皮膜を設ける必要がある。このような多孔性物質の周囲に皮膜を設けた態様も、容器内に液体を収容しておく態様に属する。
薬液層を構成する層状の容器は、押圧によって内部の液体が流出し得るよう柔軟であることが好ましい。該容器の材料としては、プラスチック、特にポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリエチレンなどが挙げられる。
容器の壁部の厚さは、材料の強度によっても異なるが、0.01mm〜2mm程度、特に0.1mm〜1mmが好ましい値である。
薬液層の層厚は0.1mm〜10mm程度、特に0.5mm〜5mmが好ましい値である。
【0022】
薬液、溶媒などの液体を、複数種類、互いに別個に保持しておくための態様としては、(a)同じ1つの層内を隔壁で分割し必要な数だけの液体収容室を確保しそれぞれに異なる液体を収容しておく態様、
(b)必要な液体収容室の数だけ層数を確保し、積層構造として分別保持する態様、
などが挙げられる。また、これら(a)、(b)を組合わせた態様であってもよい。
上記(a)、(b)における各液体収容の態様は、上述の多孔性物質に該液体を含浸させておく態様や、容器として機能する柔軟な層状の収容部としての態様を任意に組合わせて採用すればよい。
【0023】
使用時に薬液層を指の力などで加圧したときに、薬液層の外周壁部が、濾過滅菌用フィルター層との接触面において選択的に破れるための構造としては、目的の壁部に薄肉部を設けてその部分だけを脆弱化し、圧力によって破れるようにする態様が挙げられる。
特に、薬液層の容器の壁部のうち、濾過滅菌用フィルター層と接触する壁部を、外部からの加圧で破れるように金属箔で構成しておき、かつ、薬液層の容器の壁部のうち、残る他の壁部を、外部からの加圧で容器内の容積が減少するよう変形し得る構成とし、これらの構成によって、薬液層の容器全体をプレス・スルー・パック(Press Through Pack:PTPと略される)状の構造としておく態様が好ましい。
PTP状の構造とは、プラスチック製のシートに設けた凹状の収容部屋に、目的物を収容し、アルミ箔などの易破壊性の金属箔で封をしたパッケージ構造である。使用の際には、収容部屋を凸状の側(図1における当該デバイスの上側)から容器を強く押し潰すことによって、収容物は濾過滅菌用フィルター層との境界側の金属箔を破って、該フィルター層内へ流出する。
上記のように、圧力によって破れる構造は、薬液層が多層である場合や、1層を複数の部屋に分割している場合にも、各層間、部屋間の隔壁部に適用してよい。
【0024】
薬液が、薬剤を溶媒に溶かしてなる溶液であって、その溶液の状態では品質が不安定であるなどの場合には、薬剤と溶媒とに分けて保持しておく態様が好ましい。この場合、図2に例示するように、薬液層3を複数の層からなる積層体として構成する(図2の例は2層の積層体である)。該積層体には、固体の薬剤を含有する固体薬剤層3aと、前記固体の薬剤を溶解し得る溶媒3cを含有する溶媒層3bとが含まれる。図2に流路を矢印で示すように、溶媒3cが固体薬剤層3aを通過し、濾過滅菌用フィルター層へと流出することによって、固体の薬剤が溶媒に溶けて薬液となる。
【0025】
薬液層を、固体薬剤層と溶媒層とに分離する場合、固体薬剤層が、粉体からなる層であっても、固体の薬剤を一体に固めて形成した層であっても、上記溶媒層などと同様に、層状の容器としての固体薬剤室を形成し、該室内に薬剤を収容する態様が好ましい。この場合も、隣接する層との境界となる壁部は、押圧によって容易に破れる構造とする。
固体薬剤層の層厚は、0.05mm〜5mm、特に0.1mm〜2mmが好ましい。
【0026】
固体薬剤室内に固体の薬剤を収容する態様では、薬剤は、顆粒や粉末などの粒状物とすることが好ましく、薬剤が速やかに溶解する点からは、微細な粉末がより好ましい。
固体の薬剤には、溶解性や安定性を高めるために、例えば、乳糖、ブドウ糖、クエン酸ナトリウムなどの補助剤を加えてもよい。
また、固体の薬剤の溶解性を高めるために、薬液を不織布等に含浸させ乾燥させて、固形の薬剤を繊維表面に固定化し、溶媒との接触面積を増加させてもよい。
【0027】
薬液層を固体薬剤層と溶媒層とに分離する場合、溶媒は、固体薬剤と同じ薬剤、あるいは異なる薬剤を溶解状態で含有するものであってもよい。
【0028】
薬液層を固体薬剤層と溶媒層とに分離する場合、固体薬剤層と溶媒層との積層の順番はどちらが濾過滅菌用フィルター層側に位置してもよい。固体薬剤と溶媒の混合効率という点では、固体薬剤層が濾過減菌用フィルター層側に位置する積層順が好ましい。
固体薬剤層、溶媒層のいずれが濾過滅菌用フィルター層側に位置する場合であっても、外部から加圧されると溶媒層と固体薬剤層との境界の壁部が破れ、薬剤層と濾過滅菌用フィルター層との境界の壁部も破れ、薬剤が溶媒に溶解し薬液となって濾過滅菌用フィルター層へ流出する構成であればよい。
加圧によって壁部が破れる構造は、上記したPTP状の構造など、目的の壁部に薄肉部を設けて脆弱化する態様が挙げられる。
【0029】
本発明の経皮投薬デバイスで使用する薬剤とは、疾病の治療薬に限定されず、体内で生物活性を有する物質一般を指し、例えば、抗生物質、抗ウイルス剤、鎮痛剤、麻酔剤、食欲抑制剤、抗関節炎剤、抗うつ剤、抗精神病剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、抗腫瘍剤、DNAワクチンを含むワクチン、アジュバント、アレルギー抗原、生物学的製剤、蛋白質、ペプチド及びそれらのフラグメントなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0030】
本発明の経皮投薬デバイスで使用する薬剤のうち、特に好適なものはワクチンである。デバイスの微小突起が角質層を含む皮膚表皮に侵入した際に、アジュバント様刺激作用を起こすと言われる。微小突起の侵入は、種々の細胞に損傷を引き起こし、インターロイキン1、腫瘍壊死因子、サイトカイン等の放出、並びに好中球やマクロファージの出現を誘発し、これらは多様な免疫学的応答を誘発しうる。従って、本発明のデバイスは、ワクチン投与に特に有用である。
薬剤の種類や濃度は、目的とする薬効に応じて任意に調整してよい。
【0031】
溶媒は、薬剤の種類によって生体に適合性のある任意の溶媒から任意に選択できる。例えば、蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、アルコール、プロピレングリコール、植物油など、又はそれらの組合せなどが挙げられるが、それらに限定されない。更に、可溶化剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、エタノール等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム等)、緩衝剤(例えば、リン酸、酢酸等)、保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エステル等)などの添加剤も加えることができる。
濾過滅菌用フィルター層の種類によっては、溶媒や添加剤が制限される場合もある。
【0032】
図3(c)に示すように、基板部の貼付面にさらに保護層(ライナー)を剥離可能に積層し、使用の直前まで微小突起を保護する構成は、1つの好ましい態様である。
保護層は、図3(c)に示すように、微小突起を穿刺した状態で保護できるように、微小突起の高さ分以上の厚さを有する柔軟な層を有することが好ましく、添付面に粘着性が付与される場合には、剥離シートとしての機能を有していてもよい。
保護層の材料としては、不織布、発泡スチロール、スポンジなどが例示される。
【0033】
当該デバイスは、基板部の貼付面に粘着性を付与することによって、自力で皮膚表面に粘着し得る態様であってもよく、また、当該デバイスとは別の粘着テープを使用し、皮膚表面に貼付するタイプであってもよい。また、当該デバイスよりも大きいサイズの粘着テープの粘着面に当該デバイスを貼着し、デバイス周囲からはみ出した粘着テープ外周縁の粘着面に剥離紙を付した製品としてもよい。
本発明のデバイスは、イオントフォレシスや超音波などの薬剤吸収促進装置などと組合せて使用することもできる。
【0034】
当該デバイスでは、薬液が濾過滅菌用フィルター層によって濾過滅菌されるので、上記説明において示した薬液層中の物質(薬液層を複数に分割した場合の、薬液、固形の薬剤、溶媒の状態のものなどをも含む)は、必ずしも無菌である必要はないが、滅菌処理を行うことは任意である。
【0035】
基板部、濾過滅菌用フィルター層、薬液層を互いに接合し、積層体とする方法は限定されないが、例えば、熱融着、接着剤や粘着剤による接着が挙げられる。
【0036】
また、微小突起を覆う保護層を付与する場合、次に示す積層順序が好ましい。
先ず、図3(a)に示すように、基板部1と濾過滅菌用フィルター層2を積層したものを作製する。
次に、図3(b)に示すように、基板部の添付面に保護層4を積層し、微小突起を該保護層で保護する。この状態のものを、従来の一般的な滅菌法(ガンマ線滅菌、加熱滅菌など)を施し、滅菌する。これによって、保護層を使用直前に剥がすまで、微小突起や濾過滅菌用フィルター層の無菌性が維持される。
最後に、図3(c)に示すように、滅菌された積層体に薬液層3を積層し、当該デバイスを得る。
この積層手順によって、薬液層が滅菌処理を受けることなく保護層付きのデバイスが完成する。従って、滅菌法(加熱滅菌など)によって失活するような薬剤であっても薬剤層に用いることができる。また、そのような滅菌を施さない薬液層であっても、濾過滅菌用フィルター層の存在によって、無菌的な経皮投薬を行うことができるのが本発明のデバイスの特徴でもある。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の経皮投薬デバイスは、生体の皮膚表面、特に人体の皮膚表面から種々の薬剤を効率的かつ無菌的に投与できるので、医療分野などで好ましく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による経皮投薬デバイスの一構成例を示す断面図である。
【図2】本発明による経皮投薬デバイスの他の構成例を示す断面図である。
【図3】保護層を付与した構成例、および積層手順の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 基板部
1a 貼付面(基板部の一方の面)
1b 基板部の他方の面
1c 微小突起
1h 薬液通過用孔
2 濾過滅菌用フィルター層
3 薬液層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚表面に貼付し薬剤を経皮投与するための経皮投薬デバイスであって、
皮膚表面に貼付するためのベースとなる基板部を有し、該基板部はその板厚方向を貫通する薬液通過用孔を有し、
該基板部の一方の面である貼付面には、貼付時に皮膚表面を穿刺し角質層内または角質層下まで到達し得る微小突起が設けられ、該基板部の他方の面には、濾過滅菌用フィルター層と、押圧されると内部から薬液が流出するよう構成された薬液層とが順に積層され、
薬液層から流出する薬液が、濾過滅菌用フィルター層、基板部の薬液通過用孔を順に通過して貼付面へと移動し得る構成とされていることを特徴とする、経皮投薬デバイス。
【請求項2】
薬液層が、層の形態を呈する容器と、該容器内に収容された薬液とを有して構成されている、請求項1記載の経皮投薬デバイス。
【請求項3】
薬液層の容器が、外部から加圧されると濾過滅菌用フィルター層との接触面において破れ内部の薬液が濾過滅菌用フィルター層へ流出するように、脆弱部を有する構成とされている、請求項2記載の経皮投薬デバイス。
【請求項4】
薬液層の容器の壁部のうち、濾過滅菌用フィルター層と接触する側の壁部が、外部からの加圧で破れるように金属箔にて構成され、かつ、薬液層の容器の壁部のうち、他の壁部は、外部からの加圧で変形し得る構成とされ、これらの構成によって薬液層の容器全体がプレス・スルー・パック状の構造となっている、請求項3記載の経皮投薬デバイス。
【請求項5】
薬液層が、さらに複数層の積層体として構成されたものであり、該積層体には、固体の薬剤を含有する固体薬剤層と、前記固体の薬剤を溶解し得る溶媒を含有する溶媒層とが含まれており、押圧されると溶媒層から溶媒が流出し固体の薬剤を溶かして薬液となり濾過滅菌用フィルター層へ流出する構成とされている、請求項1記載の経皮投薬デバイス。
【請求項6】
固体薬剤層が、溶媒層よりも濾過滅菌用フィルター層側に位置するか、または、溶媒層が、固体薬剤層よりも濾過滅菌用フィルター層側に位置するものである、請求項5記載の経皮投薬デバイス。
【請求項7】
薬液層の各壁部のうち、該薬液層を構成する積層体の各層の境界となる壁部、および濾過滅菌用フィルター層と接触する壁部が、外部からの加圧で破れるように金属箔にて構成され、かつ、薬液層の容器の壁部のうち、他の壁部は、外部からの加圧で変形し得る構成とされ、これらの構成によって薬液層の容器全体がプレス・スルー・パック状の構造となっている、請求項6記載の経皮投薬デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−149818(P2006−149818A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346901(P2004−346901)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(595090392)
【Fターム(参考)】