結合組織のエラスチン安定化
組織構造の破壊により、特にエラスチン分解により弱くなった結合組織を治療するための方法及び生成物を提供する。治療剤は、血管系において動脈瘤形成のあいだに起こるようなエラスチン分解を軽減させるプロトコールを開発するためにフェノール化合物のいくつかの特異的性質を利用する。本発明によれば、エラスチンはin vivoで安定化させることができ、血管系において生命を脅かす動脈瘤をもたらすような結合組織の破壊を、いっしょに和らげ又は食い止めることができる。治療剤は、血管周囲若しくは血管内パッチ、ミクロスフェア担体、ヒドロゲル、又は浸透圧ポンプの使用を組み込んだ徐放性方法を含めたさまざまな送達法により急性に又は長期に送達又は投与することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2005年4月25日に出願した米国仮出願第60/674,631号の優先権を主張する。
【0002】
連邦支援の研究開発
米国政府は、国立衛生研究所の助成金第HL−61652号に従って本発明の権利を有することができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
血管系の分解の最も一般的な結末の1つは動脈瘤である。定義によれば、「動脈瘤」という用語は単なる血管壁の異常な拡張又は膨張である。この状態は、大量出血、脳梗塞、又は出血性ショックをもたらし得る破裂若しくは解離の可能性があるために破壊的であり得、推定80%の症例において致命的であり得る。動脈瘤は、特にアテローム性動脈硬化症、動脈成分の欠陥、遺伝的感受性、及び高血圧を含めた大きなクラスの変性疾患並びに病状のいずれかによって引き起こされ、長年にわたって静かに発展し得る。動脈瘤の特質には、エラスチンなどの血管構造タンパク質の酵素的分解、炎症性浸潤、石灰化、及び最終的な血管構造の全体的な破壊が含まれる。例えば、図1は、健常大動脈と動脈瘤大動脈とのエラスチン含量の差を図示している。図からわかるように、損傷構造のエラスチン含量は健常構造よりも70%少ない。
【0004】
診断された動脈瘤の最近の治療方法は、侵襲性の外科技術に限られている。小さな動脈瘤の初期診断の後、最も一般的な医療アプローチは動脈瘤の発達を追跡することであり、所定の大きさ(例えば直径約5cm)に達した後は、外科処置が施される。最近の外科処置は、血管内ステント移植治療か、場合により疾患血管を移植血管片に完全に置換することに限られている。そのような外科処置は動脈瘤に苦しむ者の生命を救い、生活の質を向上させることができるが、起こり得る術後合併症(例えば神経損傷、出血、又は脳梗塞)、及び装置に関連した合併症(例えば血栓症、漏出、又は故障)のために、患者にとって外科手術自体の危険を越える危険が依然として存在する。更に、動脈瘤の位置によっては、例えば脳深部の動脈瘤の場合、侵襲性外科手術の危険性は手術の可能な恩恵を上回り得るものであり、患者の治療オプションを非常に少なくする。更に、矯正外科手術後に動脈瘤が進展した場合は移植血管片が緩んで外れ得るため、外科処置は恒久的な解決策を常に提供できるわけではない。
【0005】
動脈瘤は構造タンパク質の酵素的分解を特質とする唯一の病態ではない。構造タンパク質分解が主要な役割を果たすと考えられる他の病態には、マルファン症候群、大動脈弁上狭窄、及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)が含まれる。苦しんでいる者にとって、そのような病態は、最低限でも生活の質を落としめ、しばしば早死にさせる。
【0006】
フェノール化合物は、広範な適用において使用が認識されているさまざまな群の物質である。例えば、それらは多くの植物で天然に産生され、ヒトの食成分であることも多い。フェノール化合物は、例えば皮膚への局所適用及び補助食品において、遊離ラジカルのスカベンジャー及び中和剤としての有効性に関して詳細に調べられている。フェノール化合物は、いくつかの炎症性病態において見られる細胞膜の架橋を妨げるとも考えられており、また、遊離ラジカル及び他の酸化種の調節によって特定遺伝子の発現に影響を及ぼすと考えられている(例えばPerriconeの米国特許第6,437,004号を参照されたい)。
【0007】
当該技術分野において必要とされるのは、動脈瘤のような変性病態によって影響された臓器及び組織を安定化させるための治療プロトコール及び組成物である。特に、フェノール化合物を利用する治療プロトコールは、そのような病態の増加及び/又は発達を和らげるために構造を安定化させるための安全で低侵襲性の手段を提供するであろう。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
1つの態様では、本発明は、エラスチンを含有する結合組織を安定化する方法にかかるものである。例えば、本発明の方法は、フェノール化合物を結合組織へ直接適用することを含めることができる。開示の方法に用いるフェノール化合物は、疎水性コア及び疎水性コアに隣接する少なくとも1つのフェノール基を含む。
【0009】
1つの好ましい態様では、プロトコールの標的となる結合組織は血管成分であり得る。例えば、本発明の方法は、動脈、1つの特定の態様では大動脈を処置するために用いることができる。
【0010】
本発明の方法は、例えば徐放性薬物送達ビヒクルのような好適な薬物送達ビヒクル中のフェノール化合物を準備することを含めることができる。1つの態様では、薬物送達ビヒクル、例えばマイクロカプセル化、ヒドロゲル、ステントのような埋め込み型装置、パッチ、移植血管片などは、組織へフェノール化合物を直接送達するために結合組織に隣接して置くことができる。
【0011】
他の態様では、他の送達法及び装置を用いることができる。例えば、フェノール化合物及び非経口的に許容可能な担体を含む組成物を結合組織へ直接注射することができる。更に他の態様では、開示の化合物を、静脈内送達を介して血管壁の結合組織へ送達することができる。
【0012】
本明細書に記載の方法及び組成物は、in vivo治療処置又は予防処置のための1つの態様に、1つの特定の態様では動脈瘤血管の治療のために有利に利用することができる。
【0013】
また、本発明は、本発明の方法に使用できる組成物にかかるものである。例えば、本発明の組成物は、約0.0001w/v%〜約10w/v%のフェノール化合物、及び非経口的に許容可能な担体を含むことができる。一般に、組成物のpHは約4〜約9、例えば約5.5〜約7であり得る。
【0014】
1つの好ましい態様では、フェノール化合物はタンニン又はタンニンの誘導体であり得る。例えばフェノール化合物はペンタガロイルグルコースであり得る。
図面の簡単な説明
当該技術分野に熟練した者への本発明の完全で実施可能な開示は、その最良の形態を含めて、添付の図面への参照とともに残りの明細書により詳細に説明されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の詳細な説明
ここで本発明の態様について詳細に言及する。本発明の1以上の例が以下に説明されている。各例は、本発明を限定するためではなく、本発明の説明のために提供される。実際、当該技術分野に熟練した者には、本発明の範囲又は精神を逸脱することなく、本発明において種々の改変や変形を成し得ることが明らかであろう。例えば、1つの態様の部分として説明又は記載された特徴を他の態様に用いて更なる態様をもたらすことができる。
【0016】
本発明は、概して、結合組織の安定化に有利に利用できる方法及びフェノール化合物にかかるものである。特に、開示の方法及び化合物は、結合組織のエラスチン成分を安定化することができ、それにより結合組織の構造の分解を妨げる。例えば、開示の方法は、標的結合組織、例えば血管を組み込んだ臓器の構造的分解を妨げるために利用することができる。1つの特定の態様では、本明細書に開示の材料及び方法は、慢性結合組織変性病態の治療に用いることができる。例えば、本発明は、in vivo治療法及び組成物に関するものであり得る。本発明の方法によって標的とされる結合組織は、例えば動脈瘤、アテローム性動脈硬化症、遺伝的感受性、鈍器損傷、マルファン症候群などに関連したものを含めたさまざまなメカニズム及び/又は病態により起こり得るタンパク質分解を受けにくいように安定化することができる。
【0017】
結合組織は下部構造であり、その上で他の種類の組織、即ち上皮、筋肉、及び神経組織が支持される。結合組織には、一般に、互いに直接結合しておらず、細胞外マトリックス内に維持された個々の細胞が含まれる。次いで細胞外マトリックスには、基質(例えば骨ミネラル、血漿など)及びコラーゲン繊維やエラスチン繊維を含めた繊維性成分が含まれる。結合組織は、繊維性成分がなく基質が液体である血液から、比較的高率で細胞外繊維(例えばコラーゲン)を含み且つ他の結合組織成分はほとんど含有し得ない高密度結合組織まで、広く異なる構造を想定することができる。特殊化した種類の結合組織が数多く存在する。その1例は、弾性繊維が組織の主成分であり、コラーゲンやプロテオグリカンのような他の種類の結合組織において一般に見られる因子の量は最小限であり得る弾性組織である。
【0018】
本明細書に開示の化合物及び方法は、結合組織のエラスチン成分の安定化にかかるものであり、1つの特定の態様では、血管系のエラスチン成分の安定化にかかるものである。本発明は、1つの特定の態様では、動脈瘤を形成しやすい血管の安定化にかかるものであるが、他の態様では、他の臓器、他の疾患及び/又は他の病態を治療できることを理解すべきである。特に、開示の治療剤及び治療プロトコールは、エラスチン成分を含む動物やヒトの結合組織のいずれにも適用可能である。
【0019】
エラスチンは、組織の弾性やリコイルに関与する結合組織のタンパク質成分である。更に、エラスチンは結合組織において非常に豊富である。実際、エラスチンは、大動脈壁に見られる最も豊富な細胞外マトリックスタンパク質である。エラスチンのポリペプチド鎖は、自然に架橋してゴム状弾性繊維を形成する。コラーゲンとは異なり、エラスチン分子は、繊維が伸びるときにより広がった構造にコイルを伸ばすことができ、伸縮力が緩和されると同時にリコイルするであろう。結合組織の病変におけるエラスチン変性は、通常、血管細胞によって分泌され得るエラスターゼやマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を含めた酵素によって、そして炎症細胞の浸潤によって引き起こされる。エラスチン分解をもたらすさまざまな酵素の方法や仕組みの多くの側面は不明のままであるが、一般に、大部分の酵素は、架橋から離れた部位でタンパク質を攻撃して結合すると考えられる。
【0020】
本発明によれば、結合組織の分解は、フェノール化合物による組織のエラスチン成分の安定化によって妨げ又は遅延させることができる。特に、多くの天然及び合成のフェノール化合物のいずれもエラスチンに結合でき、それにより、例えばエラスチン分解酵素の作用によるエラスチンの分解から保護すると考えられる。したがって、1つの態様では、本発明は、酵素によって触媒されるエラスチンの分解、特にエラスターゼ及び/又はMMPによって触媒されるエラスチンの分解を阻害できる方法及び化合物にかかるものである。
【0021】
本発明に包含されるフェノール化合物には、疎水性コアに結合した少なくとも1つのフェノール基を含む化合物が含まれる。特定の理論に拘束されることを望まないが、フェノール化合物とエラスチンタンパク質との相互作用には、分子のヒドロキシル基とともに疎水性コアが関与する側面が含まれると考えられる。特に、フェノール化合物は、立体的手段と結合形成とによってエラスチンタンパク質を安定化でき、それにより、酵素が介在する(例えばエラスターゼ又はMMPが介在する)切断を受けやすいタンパク質の部位を保護すると考えられる。具体的には、フェノール化合物のヒドロキシル基は、例えば、メチオニン、グリシン、及びプロリンを含めた極性アミノ酸残基などのアミノ酸残基との水素結合形成を介してエラスチンに多価的に結合でき、その結果、複数のタンパク質が単一分子と相互作用して、複数のエラスチン分子を包含する1つの3次元架橋構造をつくり出すことができると考えられる。更に、いくつかの態様では、本発明のフェノール化合物は1以上の2重結合を含むことができ、それによりフェノール化合物はエラスチンに共有結合的に結合でき、フェノール化合物と結合組織エラスチンとのあいだにより強力でより永続的な保護結合を形成する。更に、エラスターゼが介在する切断を受けやすい部位を含有すると考えられるエラスチンタンパク質の大きな疎水性領域は、フェノール化合物の疎水性コアとエラスチンタンパク質とのあいだの結合部位も含有すると考えられる。したがって、フェノール化合物とエラスチンタンパク質分子とのあいだの結合は、酵素の標的とされるタンパク質の特定結合部位を、タンパク質と疎水性コアとの結合を介して保護すると考えられ、大きな3次元架橋構造の発達を介してタンパク質の分解を立体的に妨害することもできる。
【0022】
本発明に包含されるフェノール化合物には、疎水性コア及び分子の疎水性部分から伸びている1以上のフェノール基を含む物質が含まれる。例えば、本発明の典型的なフェノール化合物には、限定されるものではないが、フラボノイド及びその誘導体(例えばアントシアニン、ケルセチン)、フラボリグナン、フェノール性リゾーム、(+)−カテキン及び(−)−エピカテキンを含めたフラバン−3−オール、他のタンニン及びその誘導体(タンニン酸、ペンタガロイルグルコース、nobotanin、エピガロカテキンガレート、及びガロタンニンなど)、エラグ酸、プロシアニジンなどを含めることができる。
【0023】
本発明のフェノール化合物には合成及び天然のフェノール化合物が含まれる。例えば、天然フェノール化合物には、オリーブ油抽出物(例えばヒドロキシチロソール(3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール)及びオレウロペイン)、エピカテキン及び類似化合物を含有し得るカカオ豆抽出物、カメリアシネンシス(緑茶)及びC.assaimicを含めたツバキ抽出物、カンゾウ、ムチサンゴ、アロエベラ、カモミールなどの抽出物のような天然植物に基づく供給源からの抽出物に見られるものを含めることができる。
【0024】
1つの好ましい態様では、本発明のフェノール化合物はタンニン及びその誘導体であり得る。タンニンは多くの植物種に見出すことができる。例えば茶樹(カメリアシネンシス)は自然にタンニン含量が高い。緑茶葉は、タンニン酸及び没食子酸群を含有するだけでなく、プロデルフィニジン、プロアントシアニジンも含有するため、タンニンの主要植物供給源である。タンニンはワイン、特に赤ワインにも、そしてブドウの皮及び種子にも見られる。ザクロもさまざまな数多くのタンニン、特に加水分解型タンニンを含有する。
【0025】
タンニン酸は、その構造を図2に示すが、一般的な、自然に生成されるタンニンである。架橋剤としてのタンニン酸は、異種移植又は同種移植の組織移植片の調製及び形成にしばしば用いられる多くの固定剤、例えばグルタルアルデヒド固定剤と多くの特性において類似する。更に、タンニン酸は、エラスチンだけでなく他の結合組織成分とも相互作用でき、したがって、開示の方法では、エラスチン成分に加えて標的結合組織の更なる成分を安定化することができる。例えば、タンニン酸はグリコサミノグリカン多糖及び他の結合組織成分を架橋可能である。
【0026】
1つの態様では、本発明は、結合組織をin vivoで安定化するための開示の薬剤の利用にかかるものである。したがって、そのような態様では、薬剤の生体適合性及び細胞毒性が、開示の化合物を含む治療剤の調製において重要であり得る。かつては、タンニン酸含有製剤は肝毒性を引き起こすと疑われていた。この毒性の原因は、主に製剤の純度の低さと、組成物中に毒性没食子酸残基を含有することによるものであった。したがって、1つの態様では、本発明は、組成物に含まれる遊離没食子酸残基がほとんど又は全くない、高純度タンニン酸を含む組成物にかかるものである。例えば、1つの態様では、本発明の組成物は製剤中に約5%未満の遊離没食子酸残基を含むことができる。1つの態様では、本発明の組成物は組成物中に約1%〜約5%の遊離没食子酸残基を含むことができる。
【0027】
本発明の1つの好ましい態様では、有効量のペンタガロイルグルコース(PGG)を含む組成物が開示される。図2において円で囲んだタンニン酸分子の部分であるPGGは、タンニン酸の疎水性コア及び複数のフェノール性ヒドロキシ基を含むが、外側の没食子酸残基、及びタンニン酸と結合した加水分解型エステル結合を有さない。したがって、本発明の1つの態様では、PGGなどの、没食子酸残基のない化合物を選択薬剤として利用することにより、長期適用プロセスにわたって遊離没食子酸残基を放出する可能性を妨げることができる。
【0028】
一般に、本明細書に記載のフェノール化合物は生体適合性組成物として提供することができる。例えば、本明細書に開示の組成物は、1種以上のフェノール化合物を広範に変更できる濃度で含むことができ、好ましい濃度は、通常、具体的な態様、フェノール化合物の標的とされる送達部位、及び送達プロセスに用いる様式に依存する。例えば、1つの態様では、本発明の組成物は1種以上のフェノール化合物を約0.0001%〜約10%の濃度で含むことができる。(特に断りのない限り、本明細書に報告する全ての濃度はw/v%である。)しかしながら、これらの典型的濃度はいくつかの態様で有効であるが、本発明は更に広範なフェノール化合物濃度を含む組成物を包含することに注目すべきである。例えば、用いる実際の濃度は、上記のような送達様式に加えて、手順によって標的とされる臓器、標的領域の大きさ、所望のインキュベーション時間、及び好ましいpHによって影響され得る。本発明の1つの態様では、開示の組成物は、約0.1%〜約1%の濃度範囲でフェノール化合物を含むことができる。
【0029】
1つの態様では、フェノール化合物は、当該技術分野に熟練した者に公知の製剤化法を用いて、医薬的に許容可能な製剤で提供することができる。これらの製剤は通常標準の経路によって投与することができる。例えば製剤は、1つの態様では、例えば結合組織の曝露やそこへの直接適用を通して、又は製剤を標的結合組織へ直接注射することにより、結合組織へ直接投与することができる。しかしながら、他の態様では、製剤は標的組織へ間接的に投与することができる。
【0030】
製剤は、全身送達プロトコールにおいて静脈内送達することができる。例えば、浸透圧ミニポンプを用いて高濃度の治療剤をカニューレにより目的部位へ、例えば標的血管へ直接、制御送達することができる。当該技術分野に熟練した者に通常公知であり、以下で更に考察するような生体内重合性ヒドロゲルは、送達プロトコール、例えば標的カニューレへの静脈内直接送達に利用できる送達ビヒクルの他の例である。当該技術分野において許容される好適な方法によって標的血管へいったん送達されると、フェノール化合物は血管壁へ浸透し、血管の結合組織を安定化することができる。例えば、血管腔から結合組織へ送達される場合、本明細書に開示のフェノール化合物は血管壁の内皮へ浸透して結合組織のエラスチンと接触し、構造を安定化する。
【0031】
本発明の組成物は、フェノール化合物に加えて追加の薬剤を含むことができる。そのような薬剤は、フェノール化合物によって提供される安定化に加えて組織に直接的恩恵を提供する活性物質でも、送達、適合性、又は組成物中の他の薬剤の反応性を向上させる支持剤でもよい。例えば、1つの態様では、組成物はグルタルアルデヒドを含むことができる。グルタルアルデヒドは、結合組織を標的とする場合、組織を更に安定化するために、タンパク質の遊離アミン間に共有結合的架橋を形成することができる。必要に応じて、没食子酸残基の放出を妨げるように、組成物は没食子酸スカベンジャー、例えばアスコルビン酸やグルタチオンを組み込むことができる。
【0032】
フェノール化合物は、しばしば動脈瘤形成とともにみることができる石灰化脂質沈着や動脈硬化斑の発達を予防するために、多くの可能な脂質低下薬のいずれかと組み合わせることができる。
【0033】
本発明のフェノール性組成物は、当該技術分野において通常知られているような1種以上の緩衝液を含むことができる。例えば、1種以上のフェノール化合物を含み、pHが約4.0〜約9.0の組成物は、蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPES、PIPES、及びMOPSOなどの生体適合性緩衝液を含めて製剤化することができる。1つの態様では、本発明の組成物は、pHが約5.5〜約7.4となるように製剤化することができる。
【0034】
例えば注射による非経口送達用組成物は、医薬的に許容可能な滅菌水溶液若しくは非水溶液、分散液、懸濁液、又はエマルジョン、及び使用直前に滅菌注射液若しくは分散液へ再構成するための滅菌粉末を含むことができる。好適な水性及び非水性の担体、希釈剤、溶媒、又はビヒクルの例としては、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、カルボキシメチルセルロース、及びそれらの好適な混合物、植物油(例えばオリーブ油)、並びにオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。更に、組成物は、フェノール化合物の有効性を高めることができる湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤などのような微量の補助剤を含有することができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用により、分散剤の場合には必要な粒子の大きさを維持することにより、そして界面活性剤の使用により、維持することができる。これらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などのアジュバントを含有することもできる。
【0035】
微生物の作用の予防は、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などのさまざまな抗菌剤及び抗真菌剤を含めることにより確実にすることができる。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含めることも望ましいかもしれない。
【0036】
1つの態様では、組成物は、成分の医薬的に許容可能な塩、例えば無機酸又は有機酸から派生し得るものをその中に含むことができる。医薬的に許容可能な塩は当該技術分野において周知である。例えば、S.M.Bergeらは、医薬的に許容可能な塩について、本明細書に援用されるJ.Pharmaceutical Sciences(1977)66:1以下参照、に詳細に記載している。医薬的に許容可能な塩には、例えば塩酸若しくはリン酸などの無機酸、又は酢酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、又は水酸化第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基からも派生することができる。塩は、本発明の化合物の最終単離・精製のあいだにin situで、又は遊離塩基官能基と好適な有機酸との反応を介して個別に調製することができる。代表的な酸付加塩には、限定されるものではないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンフルスルホン酸、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシメタンスルホン酸塩(イセチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、重炭酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、及びウンデカン酸塩が含まれる。また、塩基性窒素含有基を、メチル、エチル、プロピル、及びブチルの塩化物、臭化物、及びヨウ化物のような低級アルキルハロゲン化物;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチル、及び硫酸ジアミルのような硫酸ジアルキル;デシル、ラウリル、ミリスチル、及びステアリルの塩化物、臭化物、及びヨウ化物のような長鎖ハロゲン化物;臭化ベンジル及び臭化フェネチルのようなアリールアルキルハロゲン化物、その他などの物質と4級化することができる。それにより、水溶性若しくは油溶性又は分散性の産物が得られる。医薬的に許容可能な酸付加塩を形成するために用いることができる酸の例には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、及びリン酸などの無機酸、並びにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸、及びクエン酸などの有機酸が挙げられる。
【0037】
1つの態様では、本発明の方法は、当該技術分野において通常知られているような持続放出又は徐放性送達システムの使用を含むことができる。そのようなシステムは、例えば特定臓器又は血管部位への薬剤の長期送達が望ましい状況において望ましいものであり得る。この特定の態様によれば、徐放性マトリックスは、材料、通常、酵素的に若しくは酸/塩基加水分解によって、又は溶解によって分解可能なポリマーでつくられるマトリックスを含むことができる。標的組織又はその近傍にいったん置かれると、例えば体内へ例えば以下に更に記載するようなパッチ又はステントの形態で挿入されると、そのようなマトリックスは、酵素及び体液によって作用することができる。徐放性マトリックスは、リポソーム、ポリラクチド(ポリ乳酸)、ポリグリコリド(グリコール酸のポリマー)、ポリラクチド・コグリコリド(乳酸とグリコール酸とのコポリマー)、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリタンパク質、ヒアルロン酸、コラーゲン、コンドロイチン硫酸、カルボン酸、脂肪酸、リン脂質、多糖、核酸、ポリアミノ酸、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシンなどのアミノ酸、ポリヌクレオチド、ポリビニルプロピレン、ポリビニルピロリドン、及びシリコーンのような生体適合材料から選択することができる。可能な生分解性ポリマー及びその使用は、例えば本明細書にその全体が援用されるBremら(1991、J.Neurosurg.74:441−6)に詳細に記載されている。
【0038】
有効量の本発明の薬剤を静脈内注射又は皮下注射によって投与する場合は、組成物は通常発熱物質不含の非経口的に許容可能な水溶液の形態であり得る。pH、等張性、安定性などを十分に考慮した、そのような非経口的に許容可能な溶液の調製は、当該技術分野の技術範囲内である。静脈内注射、皮内注射、又は皮下注射用の好ましい医薬組成物は、本発明のフェノール化合物に加えて、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、ブドウ糖注射液、ブドウ糖及び塩化ナトリウム注射液、乳酸加リンゲル液などの等張ビヒクル、又は当該技術分野において公知の他のビヒクルを含有することができる。本発明の治療用組成物は、安定化剤、防腐剤、及び抗酸化剤、又は当該技術分野に熟練した者に公知の他の添加物を含有することもできる。
【0039】
開示の本発明の治療剤の用量は、処置される病状又は特定の状態や、ヒト又は動物の体重及び状態、並びに化合物の投与経路などの他の臨床学的因子に依存することができる。開示の治療剤は1日数回から単回処置プロトコールまで投与することができる。場合により、治療剤は、開示の方法にしたがい、1回の診療行為のあいだに急性に、あるいは例えば複数回投与又は場合により持続放出若しくは徐放性システムの単回投与を用いて長期に送達されるであろう。本発明はヒト及び家畜への使用のための適用があることを理解すべきである。本発明の方法は、単回投与とともに、同時に又は長期間にわたって投与する複数回投与を意図するものである。更に、開示の治療剤は、他の形態の療法、例えば外科的血管内ステント移植治療又は血管系の過度に損傷した領域の置換と組み合わせて投与することできる。
【0040】
1つの態様では、1種以上のフェノール化合物を含む組成物は、生体適合性埋め込み型装置から治療剤を局所的に長期送達する低侵襲的手順を用いて、in vivoで診断された動脈瘤のような特定部位を標的とすることができる。例えば図3は、可能な血管周囲送達経路(図3A)及び血管内送達経路(図3B)を図式的に示しており、いずれも例えば診断された動脈瘤へ、開示の治療剤を局所的に標的送達するために使用できるであろう。
【0041】
本発明における使用に好適な血管周囲送達技術は、当該技術分野に熟練した者に通常公知であるため、本明細書において長々と説明する必要はない。例えば、典型的な公知の血管周囲薬物送達技術には、Chenら(米国特許出願公開第2005/0079202号)及びNathan(米国特許出願公開第2003/0228364号)によって記載されたものが含まれ、いずれも本明細書に援用される。これらの典型的血管周囲送達システムには、その中に封入されているかあるいは別の方法で装填されたフェノール化合物の制御放出を長期にわたって提供できるような、特定部位に注射又は例えば外科的に直接置くことができるポリマー送達ビヒクルが含まれる。
【0042】
本発明のフェノール化合物は、カプセル封入、コーティング、注入、又は当該技術分野において公知の他の装填メカニズムによって薬物送達ビヒクルに装填することができる。
注射用医薬形態の長期吸収は、吸収を送らせることができるモノステアリン酸アルミニウム、ゼラチンのような薬剤を包含させることによってもたらすことができる。例えば、注射用のデポー形態は、ポリラクチド−ポリグリコリド、ポリ(オルトエステル)、及びポリ(無水物)のような生分解性ポリマーで形成されたマトリックスに装填されたフェノール化合物を含むマイクロカプセルマトリックスを形成することによって作製することができる。治療剤とポリマーとの比及び用いる特定ポリマーの性質に応じて、薬物放出速度を制御することができる。デポー注射用製剤は、生体組織適合性のリポソーム又はマイクロエマルジョン中に治療剤を取り込むことによって調製することもできる。注射用製剤は、例えば細菌保持フィルターでろ過することによって、あるいは使用直前に滅菌水若しくは他の滅菌注射用媒体に溶解又は分散させることができる滅菌固体組成物の形態に滅菌剤を組み込むことによって滅菌することができる。
【0043】
多くの血管内薬物送達法が当該技術分野において同様に公知である。例えば、DiCarloら(本明細書に援用される米国特許第6,929,626号)は、血管腔内に置くことができ、薬物、例えば本明細書に記載のフェノール化合物でコーティングされているかまたは別の方法でそれを装填している、腔内に置くことができる管状装置について記載している。管状部材には、向かい合った内部及び外部の繊維表面を規定するパターンで相互接続した糸が含まれる。繊維表面の少なくとも1つは体液接触内腔表面か体腔接触外部表面である。
【0044】
Wuら(本明細書に援用される米国特許第6,979,347号)は、本発明のフェノール化合物などの治療物質を血管腔へ送達するための器具及び関連方法について記載している。具体的には、溝や堀を形成させたステントなどの埋め込み型人工器官を用いることができる。溝は、ステントの柔軟性を向上させるためにステント支柱の特定領域に形成される。溝は、埋め込み後、装置から送達するためのフェノール化合物を運ぶための場所も提供する。例えば、フェノール化合物又はその組成物を、慣用の噴霧技術や改変浸漬技術を用いて溝に直接置くことができる。
【0045】
他の態様では、開示の薬剤はヒドロゲル送達ビヒクルの使用によって結合組織を標的とすることができる。本明細書においてヒドロゲルは、構造安定性を維持しながら高度に水和できるポリマーマトリックスを含むと定義される。好適なヒドロゲルマトリックスは非架橋及び架橋ヒドロゲルを含むことができる。更に、本発明の架橋ヒドロゲル送達ビヒクルは、場合により、水性環境、例えばin vivoで用いるとマトリックスが分解され得るように加水分解性部分を含むことができる。例えば、送達ビヒクルは、ポリ乳酸のような加水分解性架橋剤を含めた架橋ヒドロゲルを含むことができ、in vivoで分解できる。
【0046】
本発明のヒドロゲル送達ビヒクルは、当該技術分野において通常公知のように、グリコサミノグリカン、多糖、タンパク質などの天然ポリマー、及び合成ポリマーを含むことができる。本発明のヒドロゲルの形成に利用できる親水性ポリマー材料の非限定的リストには、デキストラン、ヒアルロン酸、キチン、ヘパリン、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、アルブミン、乳酸、グリコール酸のポリマー及びコポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、エポキシド、シリコーン、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール並びにその誘導体、アルギン酸ナトリウムや架橋アルギン酸ガムなどのアルギン酸塩、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ペクチン、ゼラチン、架橋タンパク質、ペプチド、及び多糖などを含めることができる。
【0047】
本発明のヒドロゲルは、当該技術分野において通常公知の方法にしたがって形成することができる。例えばヒドロゲルは、さまざまな成分と接触することにより、又は特定環境条件(温度又はpHなど)の存在と同時に接触することにより自己会合できる。あるいは、成分を組み合わせた後、公知の方法にしたがって会合を誘発することができる。例えば、多機能モノマー、オリゴマー、若しくはマクロマーの段階的重合又は連鎖重合を、光重合、温度依存性重合及び/又は化学的に活性化される重合により誘発することができる。場合により、開始剤の存在下でヒドロゲルを重合させることができる。例えば、1つの態様では、ヒドロゲルは、チバ・スペシャルティ・ケミカルズより入手可能なIrgacure(登録商標)やDarocur(登録商標)光開始剤などの好適な開始剤の存在下で光重合することができる。他の態様では、カチオン開始剤を存在させることができる。例えば、Ca2+、Mg2+、Al3+、La3+、又はMn2+などの多価元素カチオンを用いることができる。他の態様では、ポリリジンやポリアルギニンなどのポリカチオンポリペプチドを開始剤として利用できる。
【0048】
ヒドロゲル送達ビヒクルの成分は、自己会合送達ビヒクルを提供するようにデザインすることもできる。例えば、ヒドロゲル前駆体を被験者に投与することができ、前駆体の投与後、ヒドロゲルマトリックスを生理的条件で自己会合させることができる。例えば、ヒドロゲル前駆体は、コラーゲン、ラミニン、プロエラスチンペプチドなどの自己会合バイオポリマーを含むことができる。場合により、当該技術分野に熟練した者に通常公知のように、自己会合ヒドロゲル前駆体は、ドメインにしたがって自己を配置できる合成ポリマーを含むことができる。例えば、親水性で比較的電荷が中性のポリグリシンやポリリジンのような合成ポリペプチドは、この性質で機能するように改変することができる。ポリペプチドは、水溶性カルボジイミドのようなカルボキシ活性化架橋剤を用いることによって架橋することができる。そのような架橋剤を用いて、自己会合タンパク質又は他の自己会合高分子をポリペプチドへ結合させることができる。このアプローチの1例には、コラーゲン又はラミニンとポリリジンとのカルボジイミド結合の形成が含まれる。他の水酸化体は、類似の様式で連結することができる。例えば、1つの態様では、ポリビニルアルコールは、当該技術分野において公知のように、エポキシ活性化アプローチを用いてポリペプチドと連結することができ、又はその側鎖に沿った重合性メタクリル酸基を介して架橋することができる。
【0049】
他の態様では、自己会合ヒドロゲルは、好都合な反応基を含有するように誘導体化されている前駆体の使用によって作製することができる。例えば、この種のヒドロゲルは、特定の反応部分で誘導体化された第1の前駆体と、第1の前駆体上の第1の部分と選択的に反応することができる第2の部分で誘導体化されたか又はこれを含む第2の前駆体とを用いて会合させることができるであろう。同様に、他のそのようなヒドロゲルは、反応して結合を形成する2つの部分が互いに同種又は異種のポリマーへ結合されるような反応ペアを用いて作製できるであろう。例えば、ペアは抗体−抗原ペア又はアビジン−ビオチン(例えばストレプトアビジン−ビオチン)であり得る。
【0050】
他の態様では、ヒドロゲル送達ビヒクルは自己会合マトリックスである必要がない。例えば、他の態様では、in vivoで使用するためのヒドロゲルマトリックスは、ヒドロゲルの会合後、好適な投与法(例えば経皮的に)にしたがい患者に投与することができる。本発明の他の態様では、生体外適用、例えば組織工学的適用に開示のシステムを用いることができ、そのようなものとしては、本発明の担体マトリックスは自己会合マトリックスである必要がない。
【0051】
本発明の送達ビヒクルは、1種以上の送達ビヒクルの組み合わせを含むことができる。例えば、ヒドロゲル送達ビヒクルは、開示の薬剤を結合組織へ送達するために、パッチ、ステント、有孔バルーン、移植血管片、又は他の好適な装置と組み合わせることができる。
【0052】
本発明の送達ビヒクルは移植血管片を含むこともできる。例えば、同種移植片、異種移植片、又は自家移植片を、本明細書に記載のフェノール化合物と移植前に結び付けることができる。例えば、移植血管片は、本明細書に記載のようなフェノール化合物又はフェノール化合物を含む組成物でコーティングすることができる。他の態様では、移植血管片は、フェノール化合物を装填した上記のようなヒドロゲル送達ビヒクル又は非ヒドロゲルポリマー送達ビヒクルと結び付けることができる。移植のあいだ、移植血管片は、標的結合組織に結合して置くことができるため、フェノール化合物を組織へ送達するために役立つ。
【0053】
ここで、以下に説明する本発明の具体的態様を参照する。各実施例は、本発明を説明するために提供するものであり、本発明を限定するものとして提供するものではない。実際、当該技術分野に熟練した者には、本発明の範囲及び精神を逸脱することなく本発明のさまざまな改変や変形を成し得ることが明らかであろう。
【実施例】
【0054】
全ての実施例において用いた材料は以下のようにして得た:タンニン酸、グルタルアルデヒド(50%溶液)、及び他の高純度化学物質はシグマ・アルドリッチ(セントルイス、ミズーリ州)から入手した。ジエチルエーテルはアクロス・オーガニクス(モリスプレーンズ、ニュージャージー州)から入手した。酢酸エチルはEMサイエンス(ギブスタウン、ニュージャージー州)から入手した。高純度ブタ膵エラスターゼ(135U/mg)はエラスチン・プロダクツ社(オーエンズビル、ミズーリ州)から購入した。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)及びウシ胎仔血清(FBS)はCellgro(ハーンドン、バージニア州)から入手した。細胞培養用ペニシリン−ストレプトマイシンはインビトロジェン(カールスバン、カリフォルニア州)から入手した。CellTiter 96(登録商標)Aqueous1液試薬(MTS用)はプロメガ(マディソン、ウィスコンシン州)から入手した。LIVE/DEAD(登録商標)生存率/細胞毒性キットはモレキュラープローブス(ユージン、オレゴン州)から入手した。
【0055】
ブタ上行大動脈(弁膜上部部分、長さおよそ3cm)はUSDAに認可された食肉処理場から新鮮なうちに回収、氷上に移した。大動脈は、脂肪及び余分組織を洗浄し、冷生理食塩水で徹底的にリンスし、各実施例に適したさまざまな形状に切断した。
【0056】
実施例1
新鮮なブタ大動脈をおよそ4mm×4mmの正方形に切断し、0.3%タンニン酸(TA)(1.76mM)の50mM HEPES(Na2HPO4)緩衝生理食塩水溶液、pH5.5にて室温で4日間処理した。対照サンプルをmM HEPES緩衝生理食塩水、pH5.5で処理した。次にサンプルを100mlのddH2O中で3回(それぞれ1時間)室温でリンスし、凍結乾燥させて乾燥重量を記録した。対照及びTAで処置したサンプル(乾燥重量約15〜25mg)を、1.0mlの純粋エラスターゼ(100mM Tris、1mM CaCl2、0.02%NaN3、pH7.8の緩衝液中に20ユニット/ml)とともにオービタル振盪により650rpmにて37℃で48時間インキュベーションした。次にサンプルを遠心し(10000rpm、10分間、4℃)、上清を保持して酵素活性を評価した。組織サンプルを再度100mlのddH2O中で3回(それぞれ1時間)室温にてリンスし、凍結乾燥させてエラスターゼ処理後の乾燥重量を記録し、消化組織の割合を計算した。質量損失(エラスターゼ接触前後の乾燥重量)を測定することによって、及びエラスチン特異的染色(Voerhoff van Gieson染色)で染色した組織学的スライドを調製することによってエラスチン分解を評価した。
【0057】
評価により、対照サンプルはおよそ80%の質量(平均79.74%、n=6)を失ったことがわかったが、TA前処理サンプルはわずか4〜5%の質量(平均4.33%、n=6)を失っただけであった。組織学研究の結果を表す図4A〜4Dからわかるように、組織学により、対照サンプルではエラスチン繊維がエラスターゼによって完全に消化されたが、TA前処理サンプルではエラスチン繊維が完全に保存されていることが示された。図4A〜4DはVoerhoff van Gieson染色された大動脈組織切片を示しており、エラスチン繊維を黒いリボンとして示す。具体的には、図4A及び4Bはそれぞれ処理前後の新鮮な対照大動脈を示し、図4C及び4Dはそれぞれ処理前後のTA前処理サンプルを表す。図からわかるように、対照大動脈ではエラスチンはエラスターゼによって完全に消化された(図4B)が、TA前処理大動脈ではエラスチンの完全に保存された(図4D)。図中の矢印は、保存されたエラスチン(図4A、4C、及び4D)及び消化されたエラスチン(図4B)を含めた部分を示す。
【0058】
実施例2
新鮮なブタ大動脈を、図5Aに示すように直径にわたって高さおよそ1cmの連続した輪に切断し、グルタルアルデヒドで処置した(Glut処置)。この処置のため、大動脈の輪のサンプルを最初に0.6%グルタルアルデヒドの50mM HEPES緩衝化生理食塩水溶液、pH7.4にて室温で一晩、次に0.2%グルタルアルデヒドの同一緩衝溶液にて室温で7日間固定した。
【0059】
次にGlut処置した輪の一部を0.3%ペンタガロイルグルコース(PGG)で処置した。PGGは初めにHagermanら(Hagerman A.E.、Zhao Y.、及びJohanson J.、『縮合型タンニン及び加水分解性タンニンの測定方法』、Shahadi,F.編、食品中の反栄養素及び植物化学物質、ワシントンD.C、米国化学会、p.209−222(1997))に概説されるようにしてTAから調製した。具体的には、TAをメタノールと酢酸緩衝液との溶液を用いてメタノリシスした。メタノリシス後、メタノールを回転蒸発により除去し、ddH2Oで置換した。ジエチルエーテルや酢酸エチルを含めた個々の抽出シリーズを、希釈メタノール及びddH2Oのリンスとともに行ってPGGを精製した。得られた沈殿物を遠心し、凍結乾燥させて固体を形成させた。PGGの純度はMALDI質量分析及びNMRで確認した。次にGlut処置組織の一部をPGGの同一緩衝溶液にて4日間処置した(Glut/PGG処置、図5にPGGと記載)。
【0060】
他のGlut処置サンプルは同一手順にしたがいTAで処置し(Glut/TA処置、図5にTAと記載)、対照サンプルは緩衝液のみで処置した(図5に新鮮と記載)。
次にサンプルのリコイル能について開口角度測定により試験した。具体的には、それぞれの輪を水(組織を完全に覆うのに十分な量)の皿に置き、大動脈の切断面を上に向け、サンプルの自由な動きを可能にした。次に輪を半径方向に1回切断し、15分間伸ばして広げさせ、そしてデジタル写真を撮影した。これらのデジタル写真をAdobe(登録商標)Photoshop(登録商標)7.0に取り込み、図5CのGlutサンプルの写真に示すように、各サンプルについて切り口の先端と正目の位置の反対側の内腔壁の中間点とのあいだに線を作製した。これらの線を用いて、大動脈の輪の開口角度を計算した。結果を平均の標準誤差(SEM)値を含めて以下の図5B及び表1に示す。
【0061】
機械特性を評価するために、大動脈を切断して、長さおよそ40mm、両端の幅およそ10mm、中央部の幅およそ5mmのダンベル形状を形成した。ダンベル形状の長軸は大動脈円周方向に平行している。標準の応力/ひずみ解析により、10N ロードセルを用いて一定の一軸速度0.2mm/秒で操作したSynergie100試験装置(MTSシステムズ社、エデン・プレーリー、ミネソタ州)にて、サンプルの引張特性を試験し、サンプルの弾性率を測定した。弾性率を、0〜5%のひずみの応力−ひずみ曲線の傾きとして計算した。結果を以下の表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表からわかるように、Glut/TA処置及びGlut/PGG処置した輪は開口角度が非常に小さく、タンニン酸はエラスチン成分と相互作用して完全にはリコイルしなかったことを示した。同様に、タンニン酸及びPGGで処置後、計算した弾性率は増加した。これらの結果は、タンニンは組織の弾性成分に強く結合し、そうすることで組織を固くし、強化することを示唆している。
【0064】
実施例3
新鮮なブタ大動脈をGlut、Glut/TA、又はGlut/PGGで上記の用に処置した。徹底的にリンス後(100mlのddH2Oで3回、各1時間)、可溶性細胞毒性化合物を抽出するために、サンプルをPBS/アジド緩衝液、pH7.4中で120rpmにて37℃で14日間オービタル振盪した(50ml/6組織サンプル、各4mm×4mm)。
【0065】
ラット皮膚線維芽細胞を、10%FBS及び1%ペニシリン−ストレプトマイシンを添加した1mlのDMEMの入った24ウェルプレートに蒔いた(50,000細胞/ウェル)。細胞を加湿型インキュベーター内で37℃、10%CO2にて維持した。24時間後、培地を除去し、新鮮培地で10倍に希釈したPBS/アジド溶液の培地と交換した。対照として、サンプルを緩衝液単独(陰性対照)中、及び70%エタノール溶液(陽性対照)中に保持した。各ウェルに関し、100μlの「試験溶液」を900μlの培地へ効率的に加えた(培地を加えなかったエタノールの場合を除く)。細胞をこれらの溶液とともに2時間インキュベーションし、その後1mlのPBSでリンスした。次に、定性的なLIVE/DEAD(登録商標)蛍光染色により、細胞の生存率を評価した。更に、定量的測定のMTSを用いて細胞酵素の活性を測定した。具体的には、試薬を培地で5倍に希釈し、その後細胞へ90分間適用した。得られた溶液の一部(100μL/ウェル)を96ウェルプレートへ移し、490nmの吸光度を読んだ。サンプルは、培地及びMTS試薬を含有し、細胞のないウェルをブランクにした。
【0066】
LIVE/DEAD(登録商標)を取り込んだ細胞の顕微鏡写真を曝露45分後に撮影した。結果を図6A〜6Eに示す。ここで、生細胞は暗い背景の中で明るいスポットとして見え、死細胞はより暗いグレーのスポットとして見える。図面を参照してわかるように、Glut処置(図6B)及びGlut/PGG処置(図6A)組織からの抽出物に曝露した細胞は、曝露2時間後も生存していた。更に、PBS/アジド群における生細胞の存在によって示唆されるように、この期間少量のアジドは細胞毒性にほとんどあるいは全く影響を及ぼさないことがわかった(図6D)。しかしながら、Glut/TA処置大動脈からの抽出物を取り込んだ細胞では顕著な量の細胞死が認められた(約40%、図6C)。予想通り、EtOH陰性対照は本質的に生細胞がなかった(図6E)。
【0067】
MTSアッセイの定量結果を以下の表2に示す。これらの結果は、フェノール性タンニンは通常細胞毒性ではないが、PGGはTAよりも細胞毒性が低いらしいことを示唆している。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例4
食肉処理場からブタ上行大動脈を新鮮なまま回収し、実験室で氷上に移した。脂肪及び余分組織を洗浄後、大動脈を2×4mm片に切断し、冷生理食塩水で徹底的にリンスした。一連の抽出により大動脈エラスチンを精製した。具体的には、大動脈片を100mM水酸化ナトリウム中に懸濁し(100mL中に60片)、50mM Tris緩衝液、10mM塩化カルシウム、pH8.0中のコラーゲナーゼ(0.5ユニット/mg湿潤組織)とともに37℃で14時間インキュベーションした。コラーゲナーゼ調製物をエラスチン繊維に予め吸着させて残留エラスチン分解活性を除去した。最終消化工程により残留コラーゲンを完全に除去し、純粋な大動脈エラスチンとした。
【0070】
純粋な大動脈エラスチン片を2mLのマイクロ遠心チューブに入れ、50mMリン酸水素二ナトリウム、0.9%塩化ナトリウム緩衝液、pH5.5中に調製した1.5mLの8mg%TA溶液に懸濁させた。第2群は、同一緩衝液中に8mg%TA及び16mg%Glutを含有する溶液に懸濁させた純粋な大動脈エラスチンから成る。対照として、TA溶液、及びTAとGlutとの混合物をエラスチンサンプルなしでインキュベーションした。サンプルを室温にて規定の時間間隔(0、20、40、60、120、360分、及び24時間)でインキュベーションし、サンプルを取り出し、溶液中のTA含量について解析した。具体的には、サンプルをタングステン酸塩/リンモリブデン酸塩試薬と混合し、続いて飽和炭酸ナトリウム溶液及びddH2Oを添加した。室温で10分後、マイクロプレート分光光度計にて760nmのODを測定した。0〜8mg%の範囲のTAで、及びTA(0〜8mg%)とGlut(16mg%)との混合物で標準曲線を構築した。GlutによるTA呈色反応の干渉は最小であった(全てのデータポイントにおいて統計的有意差はなかった)。最後に、エラスチン片をddH2Oでリンスし、凍結乾燥させた。溶液中の初期TA濃度と、エラスチン片とインキュベーション後の溶液中のTA濃度との差から純粋な大動脈エラスチンに結合したTAの量を計算し、1mg乾燥エラスチンに結合したTA(μg)として表した。全てのサンプルについて3回アッセイした。
【0071】
結果を図7に図示する。図面を参照してわかるように、エラスチンなしでインキュベーションした対照溶液中のTAレベルは研究のあいだ一定であり、溶液が安定であることを示した。しかしながら、エラスチンとのインキュベーション1時間以内では溶液中のTAの量は約50%減少し、6時間後には10%まで減少し、24時間後には初期TAの3.5%未満まで減少し、明らかにTAのエラスチンへの結合を示した。反応速度は、最初の6時間以内に迅速な結合を示し、約3mgのTA/mg乾燥エラスチンにて横ばい状態を示した。TAとGlutとの混合物からのTAの結合速度は、TA単独よりも速いことがわかった。これは、Glutが、TAのエラスチンへの結合を促進又は加速しているかもしれないことを示唆している。
【0072】
実施例5
開示の薬剤のin vivoにおける使用について試験した。用いた動脈瘤モデルは、高濃度塩化カルシウム(CaCl2)溶液の血管周囲適用、本来はウサギ頸動脈に動脈瘤を誘発するために用いた方法に基づいており(Gertz SD、Kurgan A、Eisenberg D.、J Clin Invest 1988;81(3):649−656を参照されたい)、より最近では齧歯類の腹部大動脈に用いられている(例えば、Freestone T.ら、Arterioscler Thromb Vasc Biol 1995;15(8):1145−1151;Freestone T.ら、Arterioscler Thromb Vasc Biol 1997;17(1):10−17;Tambiah J.ら、Br J Surg 2001;88(7):935−940を参照されたい)。このモデルは限局性の軽度損傷を動脈組織に生ずる。多くの研究では、大動脈径(動脈瘤形成を表す)の有意な増加が損傷後3〜6週に観察された。この実施例では、CaCl2に基づいた化学損傷をラット大動脈上で実施した。
【0073】
成体雄性スプレイグ−ドーリーラットを通常の麻酔下に置き(2%〜3%イソフルラン)、腹部に沿って正中切開し、腎臓下腹部大動脈を露出させた。いったん露出させたら、腹部大動脈を、0.03%PGGの生理食塩水溶液で予め浸した8層の滅菌コットンガーゼ片(1.5cm×0.5cm)を用いて15分間処置した。次にこの領域を生理食塩水で簡単にリンスし、化学損傷を誘発させた(0.5M CaCl2、ガーゼで15分間送達)。対照として、ラット大動脈を生理食塩水で15分間処置し、リンスし、次に塩化カルシウムで処置した。CaCl2で処置後、ガーゼを取り外し、腹腔を皮下縫合により閉じ、次いで外科用ホチキスで閉じた。28日後、ラットを麻酔し、この時点で腹部大動脈を再度露出させた。デジタル写真(PGG適用前、0日目、及び28日後)を用いて各ラットについて28日後の直径増加率を測定した。大動脈組織を回収して解析した。
【0074】
図8は大動脈切片の直径の絶対変化図示している(1群あたりn=12)。図からわかるように、対照大動脈では、大動脈切片の直径の増加は約530μmであった。PGG処置切片では、対照的に、増加は約100μmであり、その差は統計的に有意であることがわかった。挿入写真は、損傷前の対照大動脈、損傷後28日目の対照大動脈、及び損傷後28日目のPGG処置大動脈の例を示している。図9は、切片の直径変化率の結果を図示している−対照では40%より大きく、PGG処置大動脈では10%より小さい。
【0075】
大動脈切片の表面的試験の後、デスモシン解析により切片のエラスチン含量を解析した。分析プロトコールによれば、デスモシン含量が多い程エラスチン分解が少ないことを意味する。結果を図10に表す。図面を参照してわかるように、対照は約750pmolデスモシン/mgタンパク質を含んでいたが、PTT処置大動脈は約1350pmolデスモシン/mgタンパク質を含んでいた。図10B及び10Cはそれぞれ対照大動脈及び処置大動脈を表し、Verhoeff van Giesson染色後、エラスチンを黒く染めている。図からわかるように、対照大動脈にはエラスチンがあまりないが、処置大動脈はエラスチンを保持していた(図中、弾性繊維が黒く染色されていることによって示されている)。
【0076】
血管を解析し、タンニンと組織との長期結合も測定した。処置直後に移植した大動脈からタンニンを抽出し(図11において「PGG in situ」と示す)、PGG処置後28日目に移植した大動脈から得たものと測定レベルを比較した(図11において「PGG in vivo」と示す)。図からわかるように、組織に見られるタンニンレベルは時間の経過により約1.8μg PGG/mg乾燥組織から約1.3μg PGG/mg乾燥組織まで低下したが、より多くの割合のタンニンはin vivoで長期間組織へ結合したままであった。
【0077】
説明のために提供した上記実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでないことが理解されるであろう。本発明のいくつかの例示的態様のみについて上で詳細に記載しているが、当該技術分野に熟練した者は、本発明の新規の教示及び利点を著しく逸脱することなく例示的態様に多くの改変が可能であることを容易に理解するであろう。したがって、全てのそのような改変は、以下の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲及びそれらの全ての等価物に包含されるべきであることを意図する。更に、いくつかの態様の利点の全てを達成してはいない多くの態様を想到できるが、特定の利点の欠如は、そのような態様は必然的に本発明の範囲外であることを意味すると解釈してはならないことが認識される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、動物モデルの健常大動脈と動脈瘤大動脈とのエラスチン含量の差を図示している。
【図2】図2は、タンニン酸の化学構造を、円で強調したペンタガロイルグルコースとともに示す。
【図3】図3は、血管周囲送達(図3A)及び血管内送達(図3B)を含めた本発明のいくつかの態様によるフェノール化合物の典型的送達法を図式的に示す。
【図4】図4A〜4Dは、エラスターゼ存在下における結合組織のエラスチンの安定化について表す実施例の項に記載した染色大動脈組織切片を示す。
【図5】図5Aは、実施例の項に記載にようなブタ大動脈切片の開口角度試験に用いた手順を表す。図5Bは、ブタ大動脈切片の開口角度の測定結果を図示している。図5Cは、処置及び対照組織サンプルのリコイル評価を示すブタ大動脈切片の写真を含む。
【図6】図6A〜6Eは、実施例の項に記載のような処置組織サンプルの生死判定の結果を示すデジタル写真である。
【図7】図7は、純粋な大動脈エラスチンへのタンニン酸の結合動態を示す図である。
【図8】図8は、本明細書に記載のように、障害(処置なし)によるラット大動脈の直径の増加を図示し、フェノール化合物で処置した大動脈の動脈瘤の顕著な減少を表す。
【図9】図9は、図8の対照大動脈及び処置大動脈の直径増加率を表す。
【図10】図10Aは、図8の対照大動脈及び処置大動脈のエラスチン含量を図示している。図10B及び10Cは、Verhoeff van Giesson染色後の対照大動脈及び処置大動脈を表す。
【図11】図11は、本明細書にin situと記載のような処置直後の処置組織からフェノール化合物を抽出した後の結果を、処置後28日のin vivoの結果と比較する。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2005年4月25日に出願した米国仮出願第60/674,631号の優先権を主張する。
【0002】
連邦支援の研究開発
米国政府は、国立衛生研究所の助成金第HL−61652号に従って本発明の権利を有することができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
血管系の分解の最も一般的な結末の1つは動脈瘤である。定義によれば、「動脈瘤」という用語は単なる血管壁の異常な拡張又は膨張である。この状態は、大量出血、脳梗塞、又は出血性ショックをもたらし得る破裂若しくは解離の可能性があるために破壊的であり得、推定80%の症例において致命的であり得る。動脈瘤は、特にアテローム性動脈硬化症、動脈成分の欠陥、遺伝的感受性、及び高血圧を含めた大きなクラスの変性疾患並びに病状のいずれかによって引き起こされ、長年にわたって静かに発展し得る。動脈瘤の特質には、エラスチンなどの血管構造タンパク質の酵素的分解、炎症性浸潤、石灰化、及び最終的な血管構造の全体的な破壊が含まれる。例えば、図1は、健常大動脈と動脈瘤大動脈とのエラスチン含量の差を図示している。図からわかるように、損傷構造のエラスチン含量は健常構造よりも70%少ない。
【0004】
診断された動脈瘤の最近の治療方法は、侵襲性の外科技術に限られている。小さな動脈瘤の初期診断の後、最も一般的な医療アプローチは動脈瘤の発達を追跡することであり、所定の大きさ(例えば直径約5cm)に達した後は、外科処置が施される。最近の外科処置は、血管内ステント移植治療か、場合により疾患血管を移植血管片に完全に置換することに限られている。そのような外科処置は動脈瘤に苦しむ者の生命を救い、生活の質を向上させることができるが、起こり得る術後合併症(例えば神経損傷、出血、又は脳梗塞)、及び装置に関連した合併症(例えば血栓症、漏出、又は故障)のために、患者にとって外科手術自体の危険を越える危険が依然として存在する。更に、動脈瘤の位置によっては、例えば脳深部の動脈瘤の場合、侵襲性外科手術の危険性は手術の可能な恩恵を上回り得るものであり、患者の治療オプションを非常に少なくする。更に、矯正外科手術後に動脈瘤が進展した場合は移植血管片が緩んで外れ得るため、外科処置は恒久的な解決策を常に提供できるわけではない。
【0005】
動脈瘤は構造タンパク質の酵素的分解を特質とする唯一の病態ではない。構造タンパク質分解が主要な役割を果たすと考えられる他の病態には、マルファン症候群、大動脈弁上狭窄、及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)が含まれる。苦しんでいる者にとって、そのような病態は、最低限でも生活の質を落としめ、しばしば早死にさせる。
【0006】
フェノール化合物は、広範な適用において使用が認識されているさまざまな群の物質である。例えば、それらは多くの植物で天然に産生され、ヒトの食成分であることも多い。フェノール化合物は、例えば皮膚への局所適用及び補助食品において、遊離ラジカルのスカベンジャー及び中和剤としての有効性に関して詳細に調べられている。フェノール化合物は、いくつかの炎症性病態において見られる細胞膜の架橋を妨げるとも考えられており、また、遊離ラジカル及び他の酸化種の調節によって特定遺伝子の発現に影響を及ぼすと考えられている(例えばPerriconeの米国特許第6,437,004号を参照されたい)。
【0007】
当該技術分野において必要とされるのは、動脈瘤のような変性病態によって影響された臓器及び組織を安定化させるための治療プロトコール及び組成物である。特に、フェノール化合物を利用する治療プロトコールは、そのような病態の増加及び/又は発達を和らげるために構造を安定化させるための安全で低侵襲性の手段を提供するであろう。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
1つの態様では、本発明は、エラスチンを含有する結合組織を安定化する方法にかかるものである。例えば、本発明の方法は、フェノール化合物を結合組織へ直接適用することを含めることができる。開示の方法に用いるフェノール化合物は、疎水性コア及び疎水性コアに隣接する少なくとも1つのフェノール基を含む。
【0009】
1つの好ましい態様では、プロトコールの標的となる結合組織は血管成分であり得る。例えば、本発明の方法は、動脈、1つの特定の態様では大動脈を処置するために用いることができる。
【0010】
本発明の方法は、例えば徐放性薬物送達ビヒクルのような好適な薬物送達ビヒクル中のフェノール化合物を準備することを含めることができる。1つの態様では、薬物送達ビヒクル、例えばマイクロカプセル化、ヒドロゲル、ステントのような埋め込み型装置、パッチ、移植血管片などは、組織へフェノール化合物を直接送達するために結合組織に隣接して置くことができる。
【0011】
他の態様では、他の送達法及び装置を用いることができる。例えば、フェノール化合物及び非経口的に許容可能な担体を含む組成物を結合組織へ直接注射することができる。更に他の態様では、開示の化合物を、静脈内送達を介して血管壁の結合組織へ送達することができる。
【0012】
本明細書に記載の方法及び組成物は、in vivo治療処置又は予防処置のための1つの態様に、1つの特定の態様では動脈瘤血管の治療のために有利に利用することができる。
【0013】
また、本発明は、本発明の方法に使用できる組成物にかかるものである。例えば、本発明の組成物は、約0.0001w/v%〜約10w/v%のフェノール化合物、及び非経口的に許容可能な担体を含むことができる。一般に、組成物のpHは約4〜約9、例えば約5.5〜約7であり得る。
【0014】
1つの好ましい態様では、フェノール化合物はタンニン又はタンニンの誘導体であり得る。例えばフェノール化合物はペンタガロイルグルコースであり得る。
図面の簡単な説明
当該技術分野に熟練した者への本発明の完全で実施可能な開示は、その最良の形態を含めて、添付の図面への参照とともに残りの明細書により詳細に説明されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の詳細な説明
ここで本発明の態様について詳細に言及する。本発明の1以上の例が以下に説明されている。各例は、本発明を限定するためではなく、本発明の説明のために提供される。実際、当該技術分野に熟練した者には、本発明の範囲又は精神を逸脱することなく、本発明において種々の改変や変形を成し得ることが明らかであろう。例えば、1つの態様の部分として説明又は記載された特徴を他の態様に用いて更なる態様をもたらすことができる。
【0016】
本発明は、概して、結合組織の安定化に有利に利用できる方法及びフェノール化合物にかかるものである。特に、開示の方法及び化合物は、結合組織のエラスチン成分を安定化することができ、それにより結合組織の構造の分解を妨げる。例えば、開示の方法は、標的結合組織、例えば血管を組み込んだ臓器の構造的分解を妨げるために利用することができる。1つの特定の態様では、本明細書に開示の材料及び方法は、慢性結合組織変性病態の治療に用いることができる。例えば、本発明は、in vivo治療法及び組成物に関するものであり得る。本発明の方法によって標的とされる結合組織は、例えば動脈瘤、アテローム性動脈硬化症、遺伝的感受性、鈍器損傷、マルファン症候群などに関連したものを含めたさまざまなメカニズム及び/又は病態により起こり得るタンパク質分解を受けにくいように安定化することができる。
【0017】
結合組織は下部構造であり、その上で他の種類の組織、即ち上皮、筋肉、及び神経組織が支持される。結合組織には、一般に、互いに直接結合しておらず、細胞外マトリックス内に維持された個々の細胞が含まれる。次いで細胞外マトリックスには、基質(例えば骨ミネラル、血漿など)及びコラーゲン繊維やエラスチン繊維を含めた繊維性成分が含まれる。結合組織は、繊維性成分がなく基質が液体である血液から、比較的高率で細胞外繊維(例えばコラーゲン)を含み且つ他の結合組織成分はほとんど含有し得ない高密度結合組織まで、広く異なる構造を想定することができる。特殊化した種類の結合組織が数多く存在する。その1例は、弾性繊維が組織の主成分であり、コラーゲンやプロテオグリカンのような他の種類の結合組織において一般に見られる因子の量は最小限であり得る弾性組織である。
【0018】
本明細書に開示の化合物及び方法は、結合組織のエラスチン成分の安定化にかかるものであり、1つの特定の態様では、血管系のエラスチン成分の安定化にかかるものである。本発明は、1つの特定の態様では、動脈瘤を形成しやすい血管の安定化にかかるものであるが、他の態様では、他の臓器、他の疾患及び/又は他の病態を治療できることを理解すべきである。特に、開示の治療剤及び治療プロトコールは、エラスチン成分を含む動物やヒトの結合組織のいずれにも適用可能である。
【0019】
エラスチンは、組織の弾性やリコイルに関与する結合組織のタンパク質成分である。更に、エラスチンは結合組織において非常に豊富である。実際、エラスチンは、大動脈壁に見られる最も豊富な細胞外マトリックスタンパク質である。エラスチンのポリペプチド鎖は、自然に架橋してゴム状弾性繊維を形成する。コラーゲンとは異なり、エラスチン分子は、繊維が伸びるときにより広がった構造にコイルを伸ばすことができ、伸縮力が緩和されると同時にリコイルするであろう。結合組織の病変におけるエラスチン変性は、通常、血管細胞によって分泌され得るエラスターゼやマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を含めた酵素によって、そして炎症細胞の浸潤によって引き起こされる。エラスチン分解をもたらすさまざまな酵素の方法や仕組みの多くの側面は不明のままであるが、一般に、大部分の酵素は、架橋から離れた部位でタンパク質を攻撃して結合すると考えられる。
【0020】
本発明によれば、結合組織の分解は、フェノール化合物による組織のエラスチン成分の安定化によって妨げ又は遅延させることができる。特に、多くの天然及び合成のフェノール化合物のいずれもエラスチンに結合でき、それにより、例えばエラスチン分解酵素の作用によるエラスチンの分解から保護すると考えられる。したがって、1つの態様では、本発明は、酵素によって触媒されるエラスチンの分解、特にエラスターゼ及び/又はMMPによって触媒されるエラスチンの分解を阻害できる方法及び化合物にかかるものである。
【0021】
本発明に包含されるフェノール化合物には、疎水性コアに結合した少なくとも1つのフェノール基を含む化合物が含まれる。特定の理論に拘束されることを望まないが、フェノール化合物とエラスチンタンパク質との相互作用には、分子のヒドロキシル基とともに疎水性コアが関与する側面が含まれると考えられる。特に、フェノール化合物は、立体的手段と結合形成とによってエラスチンタンパク質を安定化でき、それにより、酵素が介在する(例えばエラスターゼ又はMMPが介在する)切断を受けやすいタンパク質の部位を保護すると考えられる。具体的には、フェノール化合物のヒドロキシル基は、例えば、メチオニン、グリシン、及びプロリンを含めた極性アミノ酸残基などのアミノ酸残基との水素結合形成を介してエラスチンに多価的に結合でき、その結果、複数のタンパク質が単一分子と相互作用して、複数のエラスチン分子を包含する1つの3次元架橋構造をつくり出すことができると考えられる。更に、いくつかの態様では、本発明のフェノール化合物は1以上の2重結合を含むことができ、それによりフェノール化合物はエラスチンに共有結合的に結合でき、フェノール化合物と結合組織エラスチンとのあいだにより強力でより永続的な保護結合を形成する。更に、エラスターゼが介在する切断を受けやすい部位を含有すると考えられるエラスチンタンパク質の大きな疎水性領域は、フェノール化合物の疎水性コアとエラスチンタンパク質とのあいだの結合部位も含有すると考えられる。したがって、フェノール化合物とエラスチンタンパク質分子とのあいだの結合は、酵素の標的とされるタンパク質の特定結合部位を、タンパク質と疎水性コアとの結合を介して保護すると考えられ、大きな3次元架橋構造の発達を介してタンパク質の分解を立体的に妨害することもできる。
【0022】
本発明に包含されるフェノール化合物には、疎水性コア及び分子の疎水性部分から伸びている1以上のフェノール基を含む物質が含まれる。例えば、本発明の典型的なフェノール化合物には、限定されるものではないが、フラボノイド及びその誘導体(例えばアントシアニン、ケルセチン)、フラボリグナン、フェノール性リゾーム、(+)−カテキン及び(−)−エピカテキンを含めたフラバン−3−オール、他のタンニン及びその誘導体(タンニン酸、ペンタガロイルグルコース、nobotanin、エピガロカテキンガレート、及びガロタンニンなど)、エラグ酸、プロシアニジンなどを含めることができる。
【0023】
本発明のフェノール化合物には合成及び天然のフェノール化合物が含まれる。例えば、天然フェノール化合物には、オリーブ油抽出物(例えばヒドロキシチロソール(3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール)及びオレウロペイン)、エピカテキン及び類似化合物を含有し得るカカオ豆抽出物、カメリアシネンシス(緑茶)及びC.assaimicを含めたツバキ抽出物、カンゾウ、ムチサンゴ、アロエベラ、カモミールなどの抽出物のような天然植物に基づく供給源からの抽出物に見られるものを含めることができる。
【0024】
1つの好ましい態様では、本発明のフェノール化合物はタンニン及びその誘導体であり得る。タンニンは多くの植物種に見出すことができる。例えば茶樹(カメリアシネンシス)は自然にタンニン含量が高い。緑茶葉は、タンニン酸及び没食子酸群を含有するだけでなく、プロデルフィニジン、プロアントシアニジンも含有するため、タンニンの主要植物供給源である。タンニンはワイン、特に赤ワインにも、そしてブドウの皮及び種子にも見られる。ザクロもさまざまな数多くのタンニン、特に加水分解型タンニンを含有する。
【0025】
タンニン酸は、その構造を図2に示すが、一般的な、自然に生成されるタンニンである。架橋剤としてのタンニン酸は、異種移植又は同種移植の組織移植片の調製及び形成にしばしば用いられる多くの固定剤、例えばグルタルアルデヒド固定剤と多くの特性において類似する。更に、タンニン酸は、エラスチンだけでなく他の結合組織成分とも相互作用でき、したがって、開示の方法では、エラスチン成分に加えて標的結合組織の更なる成分を安定化することができる。例えば、タンニン酸はグリコサミノグリカン多糖及び他の結合組織成分を架橋可能である。
【0026】
1つの態様では、本発明は、結合組織をin vivoで安定化するための開示の薬剤の利用にかかるものである。したがって、そのような態様では、薬剤の生体適合性及び細胞毒性が、開示の化合物を含む治療剤の調製において重要であり得る。かつては、タンニン酸含有製剤は肝毒性を引き起こすと疑われていた。この毒性の原因は、主に製剤の純度の低さと、組成物中に毒性没食子酸残基を含有することによるものであった。したがって、1つの態様では、本発明は、組成物に含まれる遊離没食子酸残基がほとんど又は全くない、高純度タンニン酸を含む組成物にかかるものである。例えば、1つの態様では、本発明の組成物は製剤中に約5%未満の遊離没食子酸残基を含むことができる。1つの態様では、本発明の組成物は組成物中に約1%〜約5%の遊離没食子酸残基を含むことができる。
【0027】
本発明の1つの好ましい態様では、有効量のペンタガロイルグルコース(PGG)を含む組成物が開示される。図2において円で囲んだタンニン酸分子の部分であるPGGは、タンニン酸の疎水性コア及び複数のフェノール性ヒドロキシ基を含むが、外側の没食子酸残基、及びタンニン酸と結合した加水分解型エステル結合を有さない。したがって、本発明の1つの態様では、PGGなどの、没食子酸残基のない化合物を選択薬剤として利用することにより、長期適用プロセスにわたって遊離没食子酸残基を放出する可能性を妨げることができる。
【0028】
一般に、本明細書に記載のフェノール化合物は生体適合性組成物として提供することができる。例えば、本明細書に開示の組成物は、1種以上のフェノール化合物を広範に変更できる濃度で含むことができ、好ましい濃度は、通常、具体的な態様、フェノール化合物の標的とされる送達部位、及び送達プロセスに用いる様式に依存する。例えば、1つの態様では、本発明の組成物は1種以上のフェノール化合物を約0.0001%〜約10%の濃度で含むことができる。(特に断りのない限り、本明細書に報告する全ての濃度はw/v%である。)しかしながら、これらの典型的濃度はいくつかの態様で有効であるが、本発明は更に広範なフェノール化合物濃度を含む組成物を包含することに注目すべきである。例えば、用いる実際の濃度は、上記のような送達様式に加えて、手順によって標的とされる臓器、標的領域の大きさ、所望のインキュベーション時間、及び好ましいpHによって影響され得る。本発明の1つの態様では、開示の組成物は、約0.1%〜約1%の濃度範囲でフェノール化合物を含むことができる。
【0029】
1つの態様では、フェノール化合物は、当該技術分野に熟練した者に公知の製剤化法を用いて、医薬的に許容可能な製剤で提供することができる。これらの製剤は通常標準の経路によって投与することができる。例えば製剤は、1つの態様では、例えば結合組織の曝露やそこへの直接適用を通して、又は製剤を標的結合組織へ直接注射することにより、結合組織へ直接投与することができる。しかしながら、他の態様では、製剤は標的組織へ間接的に投与することができる。
【0030】
製剤は、全身送達プロトコールにおいて静脈内送達することができる。例えば、浸透圧ミニポンプを用いて高濃度の治療剤をカニューレにより目的部位へ、例えば標的血管へ直接、制御送達することができる。当該技術分野に熟練した者に通常公知であり、以下で更に考察するような生体内重合性ヒドロゲルは、送達プロトコール、例えば標的カニューレへの静脈内直接送達に利用できる送達ビヒクルの他の例である。当該技術分野において許容される好適な方法によって標的血管へいったん送達されると、フェノール化合物は血管壁へ浸透し、血管の結合組織を安定化することができる。例えば、血管腔から結合組織へ送達される場合、本明細書に開示のフェノール化合物は血管壁の内皮へ浸透して結合組織のエラスチンと接触し、構造を安定化する。
【0031】
本発明の組成物は、フェノール化合物に加えて追加の薬剤を含むことができる。そのような薬剤は、フェノール化合物によって提供される安定化に加えて組織に直接的恩恵を提供する活性物質でも、送達、適合性、又は組成物中の他の薬剤の反応性を向上させる支持剤でもよい。例えば、1つの態様では、組成物はグルタルアルデヒドを含むことができる。グルタルアルデヒドは、結合組織を標的とする場合、組織を更に安定化するために、タンパク質の遊離アミン間に共有結合的架橋を形成することができる。必要に応じて、没食子酸残基の放出を妨げるように、組成物は没食子酸スカベンジャー、例えばアスコルビン酸やグルタチオンを組み込むことができる。
【0032】
フェノール化合物は、しばしば動脈瘤形成とともにみることができる石灰化脂質沈着や動脈硬化斑の発達を予防するために、多くの可能な脂質低下薬のいずれかと組み合わせることができる。
【0033】
本発明のフェノール性組成物は、当該技術分野において通常知られているような1種以上の緩衝液を含むことができる。例えば、1種以上のフェノール化合物を含み、pHが約4.0〜約9.0の組成物は、蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPES、PIPES、及びMOPSOなどの生体適合性緩衝液を含めて製剤化することができる。1つの態様では、本発明の組成物は、pHが約5.5〜約7.4となるように製剤化することができる。
【0034】
例えば注射による非経口送達用組成物は、医薬的に許容可能な滅菌水溶液若しくは非水溶液、分散液、懸濁液、又はエマルジョン、及び使用直前に滅菌注射液若しくは分散液へ再構成するための滅菌粉末を含むことができる。好適な水性及び非水性の担体、希釈剤、溶媒、又はビヒクルの例としては、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、カルボキシメチルセルロース、及びそれらの好適な混合物、植物油(例えばオリーブ油)、並びにオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。更に、組成物は、フェノール化合物の有効性を高めることができる湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤などのような微量の補助剤を含有することができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用により、分散剤の場合には必要な粒子の大きさを維持することにより、そして界面活性剤の使用により、維持することができる。これらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などのアジュバントを含有することもできる。
【0035】
微生物の作用の予防は、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などのさまざまな抗菌剤及び抗真菌剤を含めることにより確実にすることができる。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含めることも望ましいかもしれない。
【0036】
1つの態様では、組成物は、成分の医薬的に許容可能な塩、例えば無機酸又は有機酸から派生し得るものをその中に含むことができる。医薬的に許容可能な塩は当該技術分野において周知である。例えば、S.M.Bergeらは、医薬的に許容可能な塩について、本明細書に援用されるJ.Pharmaceutical Sciences(1977)66:1以下参照、に詳細に記載している。医薬的に許容可能な塩には、例えば塩酸若しくはリン酸などの無機酸、又は酢酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、又は水酸化第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基からも派生することができる。塩は、本発明の化合物の最終単離・精製のあいだにin situで、又は遊離塩基官能基と好適な有機酸との反応を介して個別に調製することができる。代表的な酸付加塩には、限定されるものではないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンフルスルホン酸、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシメタンスルホン酸塩(イセチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、重炭酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、及びウンデカン酸塩が含まれる。また、塩基性窒素含有基を、メチル、エチル、プロピル、及びブチルの塩化物、臭化物、及びヨウ化物のような低級アルキルハロゲン化物;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチル、及び硫酸ジアミルのような硫酸ジアルキル;デシル、ラウリル、ミリスチル、及びステアリルの塩化物、臭化物、及びヨウ化物のような長鎖ハロゲン化物;臭化ベンジル及び臭化フェネチルのようなアリールアルキルハロゲン化物、その他などの物質と4級化することができる。それにより、水溶性若しくは油溶性又は分散性の産物が得られる。医薬的に許容可能な酸付加塩を形成するために用いることができる酸の例には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、及びリン酸などの無機酸、並びにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸、及びクエン酸などの有機酸が挙げられる。
【0037】
1つの態様では、本発明の方法は、当該技術分野において通常知られているような持続放出又は徐放性送達システムの使用を含むことができる。そのようなシステムは、例えば特定臓器又は血管部位への薬剤の長期送達が望ましい状況において望ましいものであり得る。この特定の態様によれば、徐放性マトリックスは、材料、通常、酵素的に若しくは酸/塩基加水分解によって、又は溶解によって分解可能なポリマーでつくられるマトリックスを含むことができる。標的組織又はその近傍にいったん置かれると、例えば体内へ例えば以下に更に記載するようなパッチ又はステントの形態で挿入されると、そのようなマトリックスは、酵素及び体液によって作用することができる。徐放性マトリックスは、リポソーム、ポリラクチド(ポリ乳酸)、ポリグリコリド(グリコール酸のポリマー)、ポリラクチド・コグリコリド(乳酸とグリコール酸とのコポリマー)、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリタンパク質、ヒアルロン酸、コラーゲン、コンドロイチン硫酸、カルボン酸、脂肪酸、リン脂質、多糖、核酸、ポリアミノ酸、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシンなどのアミノ酸、ポリヌクレオチド、ポリビニルプロピレン、ポリビニルピロリドン、及びシリコーンのような生体適合材料から選択することができる。可能な生分解性ポリマー及びその使用は、例えば本明細書にその全体が援用されるBremら(1991、J.Neurosurg.74:441−6)に詳細に記載されている。
【0038】
有効量の本発明の薬剤を静脈内注射又は皮下注射によって投与する場合は、組成物は通常発熱物質不含の非経口的に許容可能な水溶液の形態であり得る。pH、等張性、安定性などを十分に考慮した、そのような非経口的に許容可能な溶液の調製は、当該技術分野の技術範囲内である。静脈内注射、皮内注射、又は皮下注射用の好ましい医薬組成物は、本発明のフェノール化合物に加えて、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、ブドウ糖注射液、ブドウ糖及び塩化ナトリウム注射液、乳酸加リンゲル液などの等張ビヒクル、又は当該技術分野において公知の他のビヒクルを含有することができる。本発明の治療用組成物は、安定化剤、防腐剤、及び抗酸化剤、又は当該技術分野に熟練した者に公知の他の添加物を含有することもできる。
【0039】
開示の本発明の治療剤の用量は、処置される病状又は特定の状態や、ヒト又は動物の体重及び状態、並びに化合物の投与経路などの他の臨床学的因子に依存することができる。開示の治療剤は1日数回から単回処置プロトコールまで投与することができる。場合により、治療剤は、開示の方法にしたがい、1回の診療行為のあいだに急性に、あるいは例えば複数回投与又は場合により持続放出若しくは徐放性システムの単回投与を用いて長期に送達されるであろう。本発明はヒト及び家畜への使用のための適用があることを理解すべきである。本発明の方法は、単回投与とともに、同時に又は長期間にわたって投与する複数回投与を意図するものである。更に、開示の治療剤は、他の形態の療法、例えば外科的血管内ステント移植治療又は血管系の過度に損傷した領域の置換と組み合わせて投与することできる。
【0040】
1つの態様では、1種以上のフェノール化合物を含む組成物は、生体適合性埋め込み型装置から治療剤を局所的に長期送達する低侵襲的手順を用いて、in vivoで診断された動脈瘤のような特定部位を標的とすることができる。例えば図3は、可能な血管周囲送達経路(図3A)及び血管内送達経路(図3B)を図式的に示しており、いずれも例えば診断された動脈瘤へ、開示の治療剤を局所的に標的送達するために使用できるであろう。
【0041】
本発明における使用に好適な血管周囲送達技術は、当該技術分野に熟練した者に通常公知であるため、本明細書において長々と説明する必要はない。例えば、典型的な公知の血管周囲薬物送達技術には、Chenら(米国特許出願公開第2005/0079202号)及びNathan(米国特許出願公開第2003/0228364号)によって記載されたものが含まれ、いずれも本明細書に援用される。これらの典型的血管周囲送達システムには、その中に封入されているかあるいは別の方法で装填されたフェノール化合物の制御放出を長期にわたって提供できるような、特定部位に注射又は例えば外科的に直接置くことができるポリマー送達ビヒクルが含まれる。
【0042】
本発明のフェノール化合物は、カプセル封入、コーティング、注入、又は当該技術分野において公知の他の装填メカニズムによって薬物送達ビヒクルに装填することができる。
注射用医薬形態の長期吸収は、吸収を送らせることができるモノステアリン酸アルミニウム、ゼラチンのような薬剤を包含させることによってもたらすことができる。例えば、注射用のデポー形態は、ポリラクチド−ポリグリコリド、ポリ(オルトエステル)、及びポリ(無水物)のような生分解性ポリマーで形成されたマトリックスに装填されたフェノール化合物を含むマイクロカプセルマトリックスを形成することによって作製することができる。治療剤とポリマーとの比及び用いる特定ポリマーの性質に応じて、薬物放出速度を制御することができる。デポー注射用製剤は、生体組織適合性のリポソーム又はマイクロエマルジョン中に治療剤を取り込むことによって調製することもできる。注射用製剤は、例えば細菌保持フィルターでろ過することによって、あるいは使用直前に滅菌水若しくは他の滅菌注射用媒体に溶解又は分散させることができる滅菌固体組成物の形態に滅菌剤を組み込むことによって滅菌することができる。
【0043】
多くの血管内薬物送達法が当該技術分野において同様に公知である。例えば、DiCarloら(本明細書に援用される米国特許第6,929,626号)は、血管腔内に置くことができ、薬物、例えば本明細書に記載のフェノール化合物でコーティングされているかまたは別の方法でそれを装填している、腔内に置くことができる管状装置について記載している。管状部材には、向かい合った内部及び外部の繊維表面を規定するパターンで相互接続した糸が含まれる。繊維表面の少なくとも1つは体液接触内腔表面か体腔接触外部表面である。
【0044】
Wuら(本明細書に援用される米国特許第6,979,347号)は、本発明のフェノール化合物などの治療物質を血管腔へ送達するための器具及び関連方法について記載している。具体的には、溝や堀を形成させたステントなどの埋め込み型人工器官を用いることができる。溝は、ステントの柔軟性を向上させるためにステント支柱の特定領域に形成される。溝は、埋め込み後、装置から送達するためのフェノール化合物を運ぶための場所も提供する。例えば、フェノール化合物又はその組成物を、慣用の噴霧技術や改変浸漬技術を用いて溝に直接置くことができる。
【0045】
他の態様では、開示の薬剤はヒドロゲル送達ビヒクルの使用によって結合組織を標的とすることができる。本明細書においてヒドロゲルは、構造安定性を維持しながら高度に水和できるポリマーマトリックスを含むと定義される。好適なヒドロゲルマトリックスは非架橋及び架橋ヒドロゲルを含むことができる。更に、本発明の架橋ヒドロゲル送達ビヒクルは、場合により、水性環境、例えばin vivoで用いるとマトリックスが分解され得るように加水分解性部分を含むことができる。例えば、送達ビヒクルは、ポリ乳酸のような加水分解性架橋剤を含めた架橋ヒドロゲルを含むことができ、in vivoで分解できる。
【0046】
本発明のヒドロゲル送達ビヒクルは、当該技術分野において通常公知のように、グリコサミノグリカン、多糖、タンパク質などの天然ポリマー、及び合成ポリマーを含むことができる。本発明のヒドロゲルの形成に利用できる親水性ポリマー材料の非限定的リストには、デキストラン、ヒアルロン酸、キチン、ヘパリン、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、アルブミン、乳酸、グリコール酸のポリマー及びコポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、エポキシド、シリコーン、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール並びにその誘導体、アルギン酸ナトリウムや架橋アルギン酸ガムなどのアルギン酸塩、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ペクチン、ゼラチン、架橋タンパク質、ペプチド、及び多糖などを含めることができる。
【0047】
本発明のヒドロゲルは、当該技術分野において通常公知の方法にしたがって形成することができる。例えばヒドロゲルは、さまざまな成分と接触することにより、又は特定環境条件(温度又はpHなど)の存在と同時に接触することにより自己会合できる。あるいは、成分を組み合わせた後、公知の方法にしたがって会合を誘発することができる。例えば、多機能モノマー、オリゴマー、若しくはマクロマーの段階的重合又は連鎖重合を、光重合、温度依存性重合及び/又は化学的に活性化される重合により誘発することができる。場合により、開始剤の存在下でヒドロゲルを重合させることができる。例えば、1つの態様では、ヒドロゲルは、チバ・スペシャルティ・ケミカルズより入手可能なIrgacure(登録商標)やDarocur(登録商標)光開始剤などの好適な開始剤の存在下で光重合することができる。他の態様では、カチオン開始剤を存在させることができる。例えば、Ca2+、Mg2+、Al3+、La3+、又はMn2+などの多価元素カチオンを用いることができる。他の態様では、ポリリジンやポリアルギニンなどのポリカチオンポリペプチドを開始剤として利用できる。
【0048】
ヒドロゲル送達ビヒクルの成分は、自己会合送達ビヒクルを提供するようにデザインすることもできる。例えば、ヒドロゲル前駆体を被験者に投与することができ、前駆体の投与後、ヒドロゲルマトリックスを生理的条件で自己会合させることができる。例えば、ヒドロゲル前駆体は、コラーゲン、ラミニン、プロエラスチンペプチドなどの自己会合バイオポリマーを含むことができる。場合により、当該技術分野に熟練した者に通常公知のように、自己会合ヒドロゲル前駆体は、ドメインにしたがって自己を配置できる合成ポリマーを含むことができる。例えば、親水性で比較的電荷が中性のポリグリシンやポリリジンのような合成ポリペプチドは、この性質で機能するように改変することができる。ポリペプチドは、水溶性カルボジイミドのようなカルボキシ活性化架橋剤を用いることによって架橋することができる。そのような架橋剤を用いて、自己会合タンパク質又は他の自己会合高分子をポリペプチドへ結合させることができる。このアプローチの1例には、コラーゲン又はラミニンとポリリジンとのカルボジイミド結合の形成が含まれる。他の水酸化体は、類似の様式で連結することができる。例えば、1つの態様では、ポリビニルアルコールは、当該技術分野において公知のように、エポキシ活性化アプローチを用いてポリペプチドと連結することができ、又はその側鎖に沿った重合性メタクリル酸基を介して架橋することができる。
【0049】
他の態様では、自己会合ヒドロゲルは、好都合な反応基を含有するように誘導体化されている前駆体の使用によって作製することができる。例えば、この種のヒドロゲルは、特定の反応部分で誘導体化された第1の前駆体と、第1の前駆体上の第1の部分と選択的に反応することができる第2の部分で誘導体化されたか又はこれを含む第2の前駆体とを用いて会合させることができるであろう。同様に、他のそのようなヒドロゲルは、反応して結合を形成する2つの部分が互いに同種又は異種のポリマーへ結合されるような反応ペアを用いて作製できるであろう。例えば、ペアは抗体−抗原ペア又はアビジン−ビオチン(例えばストレプトアビジン−ビオチン)であり得る。
【0050】
他の態様では、ヒドロゲル送達ビヒクルは自己会合マトリックスである必要がない。例えば、他の態様では、in vivoで使用するためのヒドロゲルマトリックスは、ヒドロゲルの会合後、好適な投与法(例えば経皮的に)にしたがい患者に投与することができる。本発明の他の態様では、生体外適用、例えば組織工学的適用に開示のシステムを用いることができ、そのようなものとしては、本発明の担体マトリックスは自己会合マトリックスである必要がない。
【0051】
本発明の送達ビヒクルは、1種以上の送達ビヒクルの組み合わせを含むことができる。例えば、ヒドロゲル送達ビヒクルは、開示の薬剤を結合組織へ送達するために、パッチ、ステント、有孔バルーン、移植血管片、又は他の好適な装置と組み合わせることができる。
【0052】
本発明の送達ビヒクルは移植血管片を含むこともできる。例えば、同種移植片、異種移植片、又は自家移植片を、本明細書に記載のフェノール化合物と移植前に結び付けることができる。例えば、移植血管片は、本明細書に記載のようなフェノール化合物又はフェノール化合物を含む組成物でコーティングすることができる。他の態様では、移植血管片は、フェノール化合物を装填した上記のようなヒドロゲル送達ビヒクル又は非ヒドロゲルポリマー送達ビヒクルと結び付けることができる。移植のあいだ、移植血管片は、標的結合組織に結合して置くことができるため、フェノール化合物を組織へ送達するために役立つ。
【0053】
ここで、以下に説明する本発明の具体的態様を参照する。各実施例は、本発明を説明するために提供するものであり、本発明を限定するものとして提供するものではない。実際、当該技術分野に熟練した者には、本発明の範囲及び精神を逸脱することなく本発明のさまざまな改変や変形を成し得ることが明らかであろう。
【実施例】
【0054】
全ての実施例において用いた材料は以下のようにして得た:タンニン酸、グルタルアルデヒド(50%溶液)、及び他の高純度化学物質はシグマ・アルドリッチ(セントルイス、ミズーリ州)から入手した。ジエチルエーテルはアクロス・オーガニクス(モリスプレーンズ、ニュージャージー州)から入手した。酢酸エチルはEMサイエンス(ギブスタウン、ニュージャージー州)から入手した。高純度ブタ膵エラスターゼ(135U/mg)はエラスチン・プロダクツ社(オーエンズビル、ミズーリ州)から購入した。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)及びウシ胎仔血清(FBS)はCellgro(ハーンドン、バージニア州)から入手した。細胞培養用ペニシリン−ストレプトマイシンはインビトロジェン(カールスバン、カリフォルニア州)から入手した。CellTiter 96(登録商標)Aqueous1液試薬(MTS用)はプロメガ(マディソン、ウィスコンシン州)から入手した。LIVE/DEAD(登録商標)生存率/細胞毒性キットはモレキュラープローブス(ユージン、オレゴン州)から入手した。
【0055】
ブタ上行大動脈(弁膜上部部分、長さおよそ3cm)はUSDAに認可された食肉処理場から新鮮なうちに回収、氷上に移した。大動脈は、脂肪及び余分組織を洗浄し、冷生理食塩水で徹底的にリンスし、各実施例に適したさまざまな形状に切断した。
【0056】
実施例1
新鮮なブタ大動脈をおよそ4mm×4mmの正方形に切断し、0.3%タンニン酸(TA)(1.76mM)の50mM HEPES(Na2HPO4)緩衝生理食塩水溶液、pH5.5にて室温で4日間処理した。対照サンプルをmM HEPES緩衝生理食塩水、pH5.5で処理した。次にサンプルを100mlのddH2O中で3回(それぞれ1時間)室温でリンスし、凍結乾燥させて乾燥重量を記録した。対照及びTAで処置したサンプル(乾燥重量約15〜25mg)を、1.0mlの純粋エラスターゼ(100mM Tris、1mM CaCl2、0.02%NaN3、pH7.8の緩衝液中に20ユニット/ml)とともにオービタル振盪により650rpmにて37℃で48時間インキュベーションした。次にサンプルを遠心し(10000rpm、10分間、4℃)、上清を保持して酵素活性を評価した。組織サンプルを再度100mlのddH2O中で3回(それぞれ1時間)室温にてリンスし、凍結乾燥させてエラスターゼ処理後の乾燥重量を記録し、消化組織の割合を計算した。質量損失(エラスターゼ接触前後の乾燥重量)を測定することによって、及びエラスチン特異的染色(Voerhoff van Gieson染色)で染色した組織学的スライドを調製することによってエラスチン分解を評価した。
【0057】
評価により、対照サンプルはおよそ80%の質量(平均79.74%、n=6)を失ったことがわかったが、TA前処理サンプルはわずか4〜5%の質量(平均4.33%、n=6)を失っただけであった。組織学研究の結果を表す図4A〜4Dからわかるように、組織学により、対照サンプルではエラスチン繊維がエラスターゼによって完全に消化されたが、TA前処理サンプルではエラスチン繊維が完全に保存されていることが示された。図4A〜4DはVoerhoff van Gieson染色された大動脈組織切片を示しており、エラスチン繊維を黒いリボンとして示す。具体的には、図4A及び4Bはそれぞれ処理前後の新鮮な対照大動脈を示し、図4C及び4Dはそれぞれ処理前後のTA前処理サンプルを表す。図からわかるように、対照大動脈ではエラスチンはエラスターゼによって完全に消化された(図4B)が、TA前処理大動脈ではエラスチンの完全に保存された(図4D)。図中の矢印は、保存されたエラスチン(図4A、4C、及び4D)及び消化されたエラスチン(図4B)を含めた部分を示す。
【0058】
実施例2
新鮮なブタ大動脈を、図5Aに示すように直径にわたって高さおよそ1cmの連続した輪に切断し、グルタルアルデヒドで処置した(Glut処置)。この処置のため、大動脈の輪のサンプルを最初に0.6%グルタルアルデヒドの50mM HEPES緩衝化生理食塩水溶液、pH7.4にて室温で一晩、次に0.2%グルタルアルデヒドの同一緩衝溶液にて室温で7日間固定した。
【0059】
次にGlut処置した輪の一部を0.3%ペンタガロイルグルコース(PGG)で処置した。PGGは初めにHagermanら(Hagerman A.E.、Zhao Y.、及びJohanson J.、『縮合型タンニン及び加水分解性タンニンの測定方法』、Shahadi,F.編、食品中の反栄養素及び植物化学物質、ワシントンD.C、米国化学会、p.209−222(1997))に概説されるようにしてTAから調製した。具体的には、TAをメタノールと酢酸緩衝液との溶液を用いてメタノリシスした。メタノリシス後、メタノールを回転蒸発により除去し、ddH2Oで置換した。ジエチルエーテルや酢酸エチルを含めた個々の抽出シリーズを、希釈メタノール及びddH2Oのリンスとともに行ってPGGを精製した。得られた沈殿物を遠心し、凍結乾燥させて固体を形成させた。PGGの純度はMALDI質量分析及びNMRで確認した。次にGlut処置組織の一部をPGGの同一緩衝溶液にて4日間処置した(Glut/PGG処置、図5にPGGと記載)。
【0060】
他のGlut処置サンプルは同一手順にしたがいTAで処置し(Glut/TA処置、図5にTAと記載)、対照サンプルは緩衝液のみで処置した(図5に新鮮と記載)。
次にサンプルのリコイル能について開口角度測定により試験した。具体的には、それぞれの輪を水(組織を完全に覆うのに十分な量)の皿に置き、大動脈の切断面を上に向け、サンプルの自由な動きを可能にした。次に輪を半径方向に1回切断し、15分間伸ばして広げさせ、そしてデジタル写真を撮影した。これらのデジタル写真をAdobe(登録商標)Photoshop(登録商標)7.0に取り込み、図5CのGlutサンプルの写真に示すように、各サンプルについて切り口の先端と正目の位置の反対側の内腔壁の中間点とのあいだに線を作製した。これらの線を用いて、大動脈の輪の開口角度を計算した。結果を平均の標準誤差(SEM)値を含めて以下の図5B及び表1に示す。
【0061】
機械特性を評価するために、大動脈を切断して、長さおよそ40mm、両端の幅およそ10mm、中央部の幅およそ5mmのダンベル形状を形成した。ダンベル形状の長軸は大動脈円周方向に平行している。標準の応力/ひずみ解析により、10N ロードセルを用いて一定の一軸速度0.2mm/秒で操作したSynergie100試験装置(MTSシステムズ社、エデン・プレーリー、ミネソタ州)にて、サンプルの引張特性を試験し、サンプルの弾性率を測定した。弾性率を、0〜5%のひずみの応力−ひずみ曲線の傾きとして計算した。結果を以下の表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表からわかるように、Glut/TA処置及びGlut/PGG処置した輪は開口角度が非常に小さく、タンニン酸はエラスチン成分と相互作用して完全にはリコイルしなかったことを示した。同様に、タンニン酸及びPGGで処置後、計算した弾性率は増加した。これらの結果は、タンニンは組織の弾性成分に強く結合し、そうすることで組織を固くし、強化することを示唆している。
【0064】
実施例3
新鮮なブタ大動脈をGlut、Glut/TA、又はGlut/PGGで上記の用に処置した。徹底的にリンス後(100mlのddH2Oで3回、各1時間)、可溶性細胞毒性化合物を抽出するために、サンプルをPBS/アジド緩衝液、pH7.4中で120rpmにて37℃で14日間オービタル振盪した(50ml/6組織サンプル、各4mm×4mm)。
【0065】
ラット皮膚線維芽細胞を、10%FBS及び1%ペニシリン−ストレプトマイシンを添加した1mlのDMEMの入った24ウェルプレートに蒔いた(50,000細胞/ウェル)。細胞を加湿型インキュベーター内で37℃、10%CO2にて維持した。24時間後、培地を除去し、新鮮培地で10倍に希釈したPBS/アジド溶液の培地と交換した。対照として、サンプルを緩衝液単独(陰性対照)中、及び70%エタノール溶液(陽性対照)中に保持した。各ウェルに関し、100μlの「試験溶液」を900μlの培地へ効率的に加えた(培地を加えなかったエタノールの場合を除く)。細胞をこれらの溶液とともに2時間インキュベーションし、その後1mlのPBSでリンスした。次に、定性的なLIVE/DEAD(登録商標)蛍光染色により、細胞の生存率を評価した。更に、定量的測定のMTSを用いて細胞酵素の活性を測定した。具体的には、試薬を培地で5倍に希釈し、その後細胞へ90分間適用した。得られた溶液の一部(100μL/ウェル)を96ウェルプレートへ移し、490nmの吸光度を読んだ。サンプルは、培地及びMTS試薬を含有し、細胞のないウェルをブランクにした。
【0066】
LIVE/DEAD(登録商標)を取り込んだ細胞の顕微鏡写真を曝露45分後に撮影した。結果を図6A〜6Eに示す。ここで、生細胞は暗い背景の中で明るいスポットとして見え、死細胞はより暗いグレーのスポットとして見える。図面を参照してわかるように、Glut処置(図6B)及びGlut/PGG処置(図6A)組織からの抽出物に曝露した細胞は、曝露2時間後も生存していた。更に、PBS/アジド群における生細胞の存在によって示唆されるように、この期間少量のアジドは細胞毒性にほとんどあるいは全く影響を及ぼさないことがわかった(図6D)。しかしながら、Glut/TA処置大動脈からの抽出物を取り込んだ細胞では顕著な量の細胞死が認められた(約40%、図6C)。予想通り、EtOH陰性対照は本質的に生細胞がなかった(図6E)。
【0067】
MTSアッセイの定量結果を以下の表2に示す。これらの結果は、フェノール性タンニンは通常細胞毒性ではないが、PGGはTAよりも細胞毒性が低いらしいことを示唆している。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例4
食肉処理場からブタ上行大動脈を新鮮なまま回収し、実験室で氷上に移した。脂肪及び余分組織を洗浄後、大動脈を2×4mm片に切断し、冷生理食塩水で徹底的にリンスした。一連の抽出により大動脈エラスチンを精製した。具体的には、大動脈片を100mM水酸化ナトリウム中に懸濁し(100mL中に60片)、50mM Tris緩衝液、10mM塩化カルシウム、pH8.0中のコラーゲナーゼ(0.5ユニット/mg湿潤組織)とともに37℃で14時間インキュベーションした。コラーゲナーゼ調製物をエラスチン繊維に予め吸着させて残留エラスチン分解活性を除去した。最終消化工程により残留コラーゲンを完全に除去し、純粋な大動脈エラスチンとした。
【0070】
純粋な大動脈エラスチン片を2mLのマイクロ遠心チューブに入れ、50mMリン酸水素二ナトリウム、0.9%塩化ナトリウム緩衝液、pH5.5中に調製した1.5mLの8mg%TA溶液に懸濁させた。第2群は、同一緩衝液中に8mg%TA及び16mg%Glutを含有する溶液に懸濁させた純粋な大動脈エラスチンから成る。対照として、TA溶液、及びTAとGlutとの混合物をエラスチンサンプルなしでインキュベーションした。サンプルを室温にて規定の時間間隔(0、20、40、60、120、360分、及び24時間)でインキュベーションし、サンプルを取り出し、溶液中のTA含量について解析した。具体的には、サンプルをタングステン酸塩/リンモリブデン酸塩試薬と混合し、続いて飽和炭酸ナトリウム溶液及びddH2Oを添加した。室温で10分後、マイクロプレート分光光度計にて760nmのODを測定した。0〜8mg%の範囲のTAで、及びTA(0〜8mg%)とGlut(16mg%)との混合物で標準曲線を構築した。GlutによるTA呈色反応の干渉は最小であった(全てのデータポイントにおいて統計的有意差はなかった)。最後に、エラスチン片をddH2Oでリンスし、凍結乾燥させた。溶液中の初期TA濃度と、エラスチン片とインキュベーション後の溶液中のTA濃度との差から純粋な大動脈エラスチンに結合したTAの量を計算し、1mg乾燥エラスチンに結合したTA(μg)として表した。全てのサンプルについて3回アッセイした。
【0071】
結果を図7に図示する。図面を参照してわかるように、エラスチンなしでインキュベーションした対照溶液中のTAレベルは研究のあいだ一定であり、溶液が安定であることを示した。しかしながら、エラスチンとのインキュベーション1時間以内では溶液中のTAの量は約50%減少し、6時間後には10%まで減少し、24時間後には初期TAの3.5%未満まで減少し、明らかにTAのエラスチンへの結合を示した。反応速度は、最初の6時間以内に迅速な結合を示し、約3mgのTA/mg乾燥エラスチンにて横ばい状態を示した。TAとGlutとの混合物からのTAの結合速度は、TA単独よりも速いことがわかった。これは、Glutが、TAのエラスチンへの結合を促進又は加速しているかもしれないことを示唆している。
【0072】
実施例5
開示の薬剤のin vivoにおける使用について試験した。用いた動脈瘤モデルは、高濃度塩化カルシウム(CaCl2)溶液の血管周囲適用、本来はウサギ頸動脈に動脈瘤を誘発するために用いた方法に基づいており(Gertz SD、Kurgan A、Eisenberg D.、J Clin Invest 1988;81(3):649−656を参照されたい)、より最近では齧歯類の腹部大動脈に用いられている(例えば、Freestone T.ら、Arterioscler Thromb Vasc Biol 1995;15(8):1145−1151;Freestone T.ら、Arterioscler Thromb Vasc Biol 1997;17(1):10−17;Tambiah J.ら、Br J Surg 2001;88(7):935−940を参照されたい)。このモデルは限局性の軽度損傷を動脈組織に生ずる。多くの研究では、大動脈径(動脈瘤形成を表す)の有意な増加が損傷後3〜6週に観察された。この実施例では、CaCl2に基づいた化学損傷をラット大動脈上で実施した。
【0073】
成体雄性スプレイグ−ドーリーラットを通常の麻酔下に置き(2%〜3%イソフルラン)、腹部に沿って正中切開し、腎臓下腹部大動脈を露出させた。いったん露出させたら、腹部大動脈を、0.03%PGGの生理食塩水溶液で予め浸した8層の滅菌コットンガーゼ片(1.5cm×0.5cm)を用いて15分間処置した。次にこの領域を生理食塩水で簡単にリンスし、化学損傷を誘発させた(0.5M CaCl2、ガーゼで15分間送達)。対照として、ラット大動脈を生理食塩水で15分間処置し、リンスし、次に塩化カルシウムで処置した。CaCl2で処置後、ガーゼを取り外し、腹腔を皮下縫合により閉じ、次いで外科用ホチキスで閉じた。28日後、ラットを麻酔し、この時点で腹部大動脈を再度露出させた。デジタル写真(PGG適用前、0日目、及び28日後)を用いて各ラットについて28日後の直径増加率を測定した。大動脈組織を回収して解析した。
【0074】
図8は大動脈切片の直径の絶対変化図示している(1群あたりn=12)。図からわかるように、対照大動脈では、大動脈切片の直径の増加は約530μmであった。PGG処置切片では、対照的に、増加は約100μmであり、その差は統計的に有意であることがわかった。挿入写真は、損傷前の対照大動脈、損傷後28日目の対照大動脈、及び損傷後28日目のPGG処置大動脈の例を示している。図9は、切片の直径変化率の結果を図示している−対照では40%より大きく、PGG処置大動脈では10%より小さい。
【0075】
大動脈切片の表面的試験の後、デスモシン解析により切片のエラスチン含量を解析した。分析プロトコールによれば、デスモシン含量が多い程エラスチン分解が少ないことを意味する。結果を図10に表す。図面を参照してわかるように、対照は約750pmolデスモシン/mgタンパク質を含んでいたが、PTT処置大動脈は約1350pmolデスモシン/mgタンパク質を含んでいた。図10B及び10Cはそれぞれ対照大動脈及び処置大動脈を表し、Verhoeff van Giesson染色後、エラスチンを黒く染めている。図からわかるように、対照大動脈にはエラスチンがあまりないが、処置大動脈はエラスチンを保持していた(図中、弾性繊維が黒く染色されていることによって示されている)。
【0076】
血管を解析し、タンニンと組織との長期結合も測定した。処置直後に移植した大動脈からタンニンを抽出し(図11において「PGG in situ」と示す)、PGG処置後28日目に移植した大動脈から得たものと測定レベルを比較した(図11において「PGG in vivo」と示す)。図からわかるように、組織に見られるタンニンレベルは時間の経過により約1.8μg PGG/mg乾燥組織から約1.3μg PGG/mg乾燥組織まで低下したが、より多くの割合のタンニンはin vivoで長期間組織へ結合したままであった。
【0077】
説明のために提供した上記実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでないことが理解されるであろう。本発明のいくつかの例示的態様のみについて上で詳細に記載しているが、当該技術分野に熟練した者は、本発明の新規の教示及び利点を著しく逸脱することなく例示的態様に多くの改変が可能であることを容易に理解するであろう。したがって、全てのそのような改変は、以下の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲及びそれらの全ての等価物に包含されるべきであることを意図する。更に、いくつかの態様の利点の全てを達成してはいない多くの態様を想到できるが、特定の利点の欠如は、そのような態様は必然的に本発明の範囲外であることを意味すると解釈してはならないことが認識される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、動物モデルの健常大動脈と動脈瘤大動脈とのエラスチン含量の差を図示している。
【図2】図2は、タンニン酸の化学構造を、円で強調したペンタガロイルグルコースとともに示す。
【図3】図3は、血管周囲送達(図3A)及び血管内送達(図3B)を含めた本発明のいくつかの態様によるフェノール化合物の典型的送達法を図式的に示す。
【図4】図4A〜4Dは、エラスターゼ存在下における結合組織のエラスチンの安定化について表す実施例の項に記載した染色大動脈組織切片を示す。
【図5】図5Aは、実施例の項に記載にようなブタ大動脈切片の開口角度試験に用いた手順を表す。図5Bは、ブタ大動脈切片の開口角度の測定結果を図示している。図5Cは、処置及び対照組織サンプルのリコイル評価を示すブタ大動脈切片の写真を含む。
【図6】図6A〜6Eは、実施例の項に記載のような処置組織サンプルの生死判定の結果を示すデジタル写真である。
【図7】図7は、純粋な大動脈エラスチンへのタンニン酸の結合動態を示す図である。
【図8】図8は、本明細書に記載のように、障害(処置なし)によるラット大動脈の直径の増加を図示し、フェノール化合物で処置した大動脈の動脈瘤の顕著な減少を表す。
【図9】図9は、図8の対照大動脈及び処置大動脈の直径増加率を表す。
【図10】図10Aは、図8の対照大動脈及び処置大動脈のエラスチン含量を図示している。図10B及び10Cは、Verhoeff van Giesson染色後の対照大動脈及び処置大動脈を表す。
【図11】図11は、本明細書にin situと記載のような処置直後の処置組織からフェノール化合物を抽出した後の結果を、処置後28日のin vivoの結果と比較する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合組織を安定化する方法であって、エラスチンを含む結合組織へ、疎水性コア及び疎水性コアに連結する少なくとも1つのフェノール基を含むフェノール化合物を直接適用することを含む、前記方法。
【請求項2】
結合組織が弾性組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
結合組織が血管成分である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
血管が動脈である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
動脈が大動脈である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
薬物送達ビヒクル中のフェノール化合物を準備することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
薬物送達ビヒクルが徐放性薬物送達ビヒクルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
薬物送達ビヒクルを結合組織に隣接して置くことを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
フェノール化合物が結合組織に注射される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
in vivoの治療方法又は予防方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
フェノール化合物がタンニン酸又はその誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
フェノール化合物が、1種以上のエラスターゼによって介在されるエラスチンの分解を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
フェノール化合物が、1種以上のマトリックスメタロプロテイナーゼによって仲介されるエラスチンの分解を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
血管の構造を安定化する方法であって、エラスチンを含む血管壁の結合組織へ、疎水性コア及び疎水性コアに連結する少なくとも1つのフェノール基を含むフェノール化合物を送達することを含む、前記方法。
【請求項15】
血管が動脈である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
動脈が大動脈である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
血管が静脈である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
フェノール化合物が薬物送達ビヒクルから結合組織へ送達される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
薬物送達ビヒクルが徐放性薬物送達ビヒクルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
薬物送達ビヒクルがヒドロゲルを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
薬物送達ビヒクルが血管周囲薬物送達ビヒクルである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
薬物送達ビヒクルが血管内薬物送達ビヒクルである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
フェノール化合物が血管壁の結合組織へ静脈内送達される、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
血管が動脈瘤である、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
フェノール化合物がタンニンである、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
フェノール化合物がタンニン酸又はタンニン酸の誘導体である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
タンニン酸の誘導体がペンタガロイルグルコースである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
結合組織の構造を安定化する組成物であって:約0.0001w/v%〜約10w/v%の、疎水性コア及び疎水性コアに連結する少なくとも1つのフェノール基を含むフェノール化合物;並びに非経口的に許容可能な担体を含み、pHが約4〜約9である、前記組成物。
【請求項29】
薬物送達ビヒクルに入れる、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
薬物送達ビヒクルが徐放性薬物送達ビヒクルである、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
薬物送達ビヒクルが埋め込み型装置である、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
埋め込み型装置が生分解性埋め込み型装置である、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
薬物送達ビヒクルが血管周囲薬物送達ビヒクルである、請求項29に記載の組成物。
【請求項34】
薬物送達ビヒクルが血管内薬物送達ビヒクルである、請求項29に記載の組成物。
【請求項35】
薬物送達ビヒクルがステントである、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
薬物送達ビヒクルがヒドロゲルを含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項37】
フェノール化合物がタンニン又はその誘導体である、請求項28に記載の組成物。
【請求項38】
フェノール化合物がペンタガロイルグルコースである、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
約5%未満の遊離没食子酸残基を含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項40】
pHが約5.5〜約7.4である、請求項27に記載の組成物。
【請求項41】
フェノール化合物が1以上の2重結合を含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項1】
結合組織を安定化する方法であって、エラスチンを含む結合組織へ、疎水性コア及び疎水性コアに連結する少なくとも1つのフェノール基を含むフェノール化合物を直接適用することを含む、前記方法。
【請求項2】
結合組織が弾性組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
結合組織が血管成分である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
血管が動脈である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
動脈が大動脈である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
薬物送達ビヒクル中のフェノール化合物を準備することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
薬物送達ビヒクルが徐放性薬物送達ビヒクルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
薬物送達ビヒクルを結合組織に隣接して置くことを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
フェノール化合物が結合組織に注射される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
in vivoの治療方法又は予防方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
フェノール化合物がタンニン酸又はその誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
フェノール化合物が、1種以上のエラスターゼによって介在されるエラスチンの分解を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
フェノール化合物が、1種以上のマトリックスメタロプロテイナーゼによって仲介されるエラスチンの分解を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
血管の構造を安定化する方法であって、エラスチンを含む血管壁の結合組織へ、疎水性コア及び疎水性コアに連結する少なくとも1つのフェノール基を含むフェノール化合物を送達することを含む、前記方法。
【請求項15】
血管が動脈である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
動脈が大動脈である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
血管が静脈である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
フェノール化合物が薬物送達ビヒクルから結合組織へ送達される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
薬物送達ビヒクルが徐放性薬物送達ビヒクルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
薬物送達ビヒクルがヒドロゲルを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
薬物送達ビヒクルが血管周囲薬物送達ビヒクルである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
薬物送達ビヒクルが血管内薬物送達ビヒクルである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
フェノール化合物が血管壁の結合組織へ静脈内送達される、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
血管が動脈瘤である、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
フェノール化合物がタンニンである、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
フェノール化合物がタンニン酸又はタンニン酸の誘導体である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
タンニン酸の誘導体がペンタガロイルグルコースである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
結合組織の構造を安定化する組成物であって:約0.0001w/v%〜約10w/v%の、疎水性コア及び疎水性コアに連結する少なくとも1つのフェノール基を含むフェノール化合物;並びに非経口的に許容可能な担体を含み、pHが約4〜約9である、前記組成物。
【請求項29】
薬物送達ビヒクルに入れる、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
薬物送達ビヒクルが徐放性薬物送達ビヒクルである、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
薬物送達ビヒクルが埋め込み型装置である、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
埋め込み型装置が生分解性埋め込み型装置である、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
薬物送達ビヒクルが血管周囲薬物送達ビヒクルである、請求項29に記載の組成物。
【請求項34】
薬物送達ビヒクルが血管内薬物送達ビヒクルである、請求項29に記載の組成物。
【請求項35】
薬物送達ビヒクルがステントである、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
薬物送達ビヒクルがヒドロゲルを含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項37】
フェノール化合物がタンニン又はその誘導体である、請求項28に記載の組成物。
【請求項38】
フェノール化合物がペンタガロイルグルコースである、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
約5%未満の遊離没食子酸残基を含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項40】
pHが約5.5〜約7.4である、請求項27に記載の組成物。
【請求項41】
フェノール化合物が1以上の2重結合を含む、請求項27に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−542195(P2008−542195A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508885(P2008−508885)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/013090
【国際公開番号】WO2006/115733
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(507354655)クレムソン・ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2006/013090
【国際公開番号】WO2006/115733
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(507354655)クレムソン・ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】
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