説明

結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法

【課題】結晶性ポリオレフィンからモノリス構造体を容易に製造できる方法を提供する。
【解決手段】溶解度パラメータが7〜13の範囲内の有機溶媒から選択され、溶解度パラメータの値の差が2以上の有機溶媒Iと有機溶媒IIからなる混合有機溶媒99〜50重量部に結晶性ポリオレフィン1〜50重量部(両者合わせて100重量部とする。)を加えて加熱し、透明溶液を得る第1工程、該透明溶液を冷却してゲル状の不透明体を得る第2工程、該ゲル状の不透明体に溶解度パラメータが8〜12の範囲にある有機溶媒IIIを接触させて第1工程で使用した混合有機溶媒を置換する第3工程、次いで不透明体中の有機溶媒を除去する第4工程を経ることを特徴とする結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ポリオレフィンを素材とするモノリス構造体の製造方法に関し、特に、耐熱性、耐薬品性、靭性が要求される、カラム、触媒の固定化担体、リチウムイオン電池セパレーター等に適した結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノリス構造体とは、骨格と空隙をそれぞれ連続に有する一塊の多孔体のことを言い、高分子材料で構成されるモノリス構造体およびその製造方法が種々報告されている。
特許文献1ないし特許文献3には、ビニルモノマーを構成単位とする高分子材料のモノリス構造体が開示されている。しかし、これらはビニルモノマー溶液の重合工程を伴うものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等、構成単位が常温では気体であるオレフィンを構成単位とする結晶性ポリオレフィンには適用できない。
特許文献4には、本発明者らの発明に係る高分子材料を原料とするモノリス構造体が開示されているが、高分子材料はポリビニルアルコール系、ポリアクリル酸エステル系材料に関するモノリス構造体に関するものであり、ポリオレフィンに関するモノリス構造体に関する開示はない。すなわち、ポリエチレンが有する耐熱性と高靭性を併せ持つモノリス構造体に関する開示はない。
特許文献5、特許文献6では、ポリエチレン多孔体についての開示がなされているが、ポリエチレンと特定の脂肪族炭化水素(パラフィンワックスなど)、可塑剤、無機充填材料等を複合化したポリオレフィンを原料としており、市場から入手できる多様なポリオレフィンをそのまま使用するものではない。
特許文献7では、有機溶媒を含有するポリエチレンゲル体から得るポリエチレン多孔体の開示がなされているが、有機溶媒を除去する超臨界流体を得るための昇温装置、昇圧装置が必要である。また、具体的に開示されている技術は、超高分子量ポリエチレンに関するものであり、市場から入手できる多様なポリオレフィンをそのまま使用するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−247515号公報
【特許文献2】特開2009−35669号公報
【特許文献3】特開2010−111791号公報
【特許文献4】特開2009−30017号公報
【特許文献5】特開平5−21050号公報
【特許文献6】特開平5−125666号公報
【特許文献7】特開2005−75980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、市場から容易に入手できる結晶性ポリオレフィンを原料とし、超臨界流体による溶媒除去等の特別な工程を使用することなく、結晶性ポリオレフィンの有する耐熱性、耐薬品性、高い靭性を持つモノリス構造体、特にリチウムイオン電池用セパレーター構造体に適したモノリス構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題について鋭意研究した結果、特定の工程を経ることにより結晶性ポリオレフィンからモノリス構造体を容易に製造できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち本発明は、以下のとおりである。
【0006】
[1] 溶解度パラメータが7〜13の範囲内の有機溶媒から選択され、溶解度パラメータの値の差が2以上の有機溶媒Iと有機溶媒IIからなる混合有機溶媒99〜50重量部に結晶性ポリオレフィン1〜50重量部(両者合わせて100重量部とする。)を加えて加熱し、透明溶液を得る第1工程、該透明溶液を冷却してゲル状の不透明体を得る第2工程、該ゲル状の不透明体に溶解度パラメータが8〜12の範囲にある有機溶媒IIIを接触させて第1工程で使用した混合有機溶媒を置換する第3工程、次いで不透明体中の有機溶媒を除去する第4工程を経ることを特徴とする結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【0007】
[2] 有機溶媒Iおよび有機溶媒IIの沸点が結晶性ポリオレフィンの融点よりも高く、また、加熱温度が有機溶媒Iおよび有機溶媒IIの沸点未満で、かつ結晶性ポリオレフィンの融点以上であることを特徴とする前記[1]に記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【0008】
[3] 有機溶媒Iがテトラリンまたはデカリン、有機溶媒IIがN−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドンまたはジアセチルアミドのいずれかであることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【0009】
[4] 有機溶媒IIIの沸点が結晶性ポリオレフィンの融点より低いことを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【0010】
[5] 有機溶媒IIIの溶解度パラメータの値が、有機溶媒Iの溶解度パラメータの値と有機溶媒IIの溶解度パラメータの値の範囲内にあることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【0011】
[6] 有機溶媒IIIがアセトン、酢酸エチルまたはテトラヒドロフランのいずれかであることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により、市場から容易に入手できる多様な結晶性ポリオレフィンから、簡便な方法で、耐熱性、耐薬品性、靭性に優れた結晶性ポリオレフィンモノリス構造体を得ることができる。また、混合有機溶媒の配合比により骨格と空隙のサイズを調整でき、さらには容器内で、特別の機器を使用しない簡便な操作である、第1工程〜第4工程を実施することにより、容器形状に附形したモノリス構造体を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図2】実施例2で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図3】実施例3で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図4】実施例4で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図5】実施例5で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図6】実施例6で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図7】実施例7で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図8】実施例8で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図9】比較例1で得られた結晶性ポリエチレンの観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図10】実施例9で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図11】実施例10で得られた結晶性ポリエチレンモノリス構造の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図12】実施例11で得られたモノリス構造を有する結晶性ポリエチレンフィルム(120μm厚み)の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【図13】実施例11で得られたモノリス構造を有する結晶性ポリエチレンフィルム(25μm厚み)の観察画像(走査型電子顕微鏡写真)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述する。
本発明の製造方法は、少なくとも以下の第1工程乃至第4工程の4つの工程をこの順序で経ることにより行われる。
【0015】
(第1工程)
第1工程は、溶解度パラメータが7〜13の範囲内の有機溶媒から選択され、溶解度パラメータの値の差が2以上である有機溶媒Iと有機溶媒IIからなる混合有機溶媒99〜50重量部に、結晶性ポリオレフィン1〜50重量部(両者合わせて100重量部とする。)を加えて加熱し、透明溶液を得る工程である。
【0016】
第1工程においては、溶解度パラメータが7〜13の範囲にある有機溶媒Iおよび有機溶媒IIを混合溶媒として使用する。
本発明において言う溶解度パラメータは、ヒルデブラントパラメータとも呼ばれるもので、各種文献、例えば、改定5版「化学便覧」(平成16年発行。丸善株式会社)に記載されている。また、モル蒸発熱ΔH、沸点T、モル体積Vより、下記式(1)でも求めることができる。δは溶解度パラメータを示す。
【0017】
【数1】

【0018】
溶解度パラメータが7〜13の範囲内の有機溶媒としては、シクロヘキサン、テトラリン、デカリン等のナフテン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、N−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の有機アミド類、クロロホルム、トリクレン、ジクロロメタン、パークロロエチレン、エチレンジクロライド、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素、二硫化炭素、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等のケトン類、ジフェニルエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル等のエステル類、ニトロベンゼン等のニトロ化合物、ピリジン若しくはキノリン類、シアノベンゼン等のシアノ化合物類等が挙げられる。
【0019】
本発明で使用する結晶性ポリオレフィンの溶解度パラメータは8近傍であるため、溶解度パラメータの値が8近傍のものは、いわゆる良溶媒であり、溶解度パラメータの値が8から離れるに従い(相対的)貧溶媒となる。本発明は、溶解度パラメータが7〜13の範囲にある、良溶媒と(相対的)貧溶媒とを混合溶媒として使用する。具体的には、良溶媒を有機溶媒Iとし、(相対的)貧溶媒を有機溶媒IIとした場合、有機溶媒Iと有機溶媒IIの溶解度パラメータの値の差を2以上とすることが必要である。好ましくは2〜5の範囲である。本発明においては、良溶媒と(相対的)貧溶媒を混合して使用して均一なモノリス構造体を得て、その混合比を変えることにより、モノリス構造体の骨格サイズと空隙サイズを制御することができる。
【0020】
有機溶媒Iと有機溶媒IIとの混合割合は、有機溶媒Iが5〜95重量%、有機溶媒IIが95〜5重量%である。いずれかの有機溶媒の割合が5重量%より少ないと、均一なモノリス構造が出現しない。混合割合は、有機溶媒Iが15〜85重量%、有機溶媒IIが85〜15重量%が好ましく、有機溶媒Iが20〜80重量%、有機溶媒IIが80〜20重量%がさらに好ましい。
【0021】
有機溶媒の選択においては、良溶媒(有機溶媒I)としては、溶解度パラメータの値が7〜13の中から、結晶性ポリエチレンに近い7〜10の範囲から選択することが好ましい。例えば、溶解度パラメータの値が9近傍であるテトラリンまたはデカリンが好ましい。(相対的)貧溶媒(有機溶媒II)としては、溶解度パラメータの値が7〜13の中から、結晶性ポリエチレンから相対的に離れた10〜13の範囲から選択することが好ましい。例えば、溶解度パラメータの値が12近傍のN−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドンまたはジアセチルアミドを選択することが好ましい。本発明者らは、良溶媒中のナフテン構造とポリオレフィン分子との相互作用、(相対的)貧溶媒中のカルボニル基およびアミド基の窒素とポリオレフィン分子との相互作用、が並存することが大きく関係していると考えている。
【0022】
第1工程における、透明溶液を得る加熱工程では、結晶性ポリオレフィンを融点以上の温度まで加熱することが、結晶性ポリオレフィンの膨潤、溶解の点から好ましい。また、均一なモノリス構造体を得るためには、結晶性ポリオレフィン中の結晶部を融解させて、均一な溶液としてから、析出、再結晶を行なうことが好ましい。したがって、有機溶媒には、その沸点が結晶性ポリエチレンの融点以上のものを選択し、加熱温度を結晶性ポリエチレンの融点以上、有機溶媒の沸点未満とすることが好ましい。
【0023】
なお、本発明における結晶性ポリオレフィンとは、10℃/分の昇温条件における示差走査熱量測定(DSC測定)で、明確な吸熱ピークを示すものであり、融点とは、そのピーク温度を指す。組成としては、結晶性ポリエチレンにおいては、エチレン単独の他、エチレンと、炭素数3〜10程度のα−オレフィン(プロピレン、1−ブテン、4−メチルペンテン−1,1−ヘキセン、1−オクテンなど)との共重合体や、酢酸ビニル、アクリル酸エステルなどのアクリル系モノマーとの共重合体などが挙げられる。結晶性ポリプロピレンの場合は、プロピレン単独、およびエチレンとの共重合体などが挙げられる。これらは、単独で使用する他、2種以上を混合して使用してもよい
【0024】
これらの中でも、比較的低温で、本発明にかかる有機溶媒に容易に溶解して均一な透明溶液を得ることができることから、エチレンと、ヘキセン−1、オクテン−1等の炭素数6以上のα−オレフィンとを共重合してなる結晶性ポリエチレンが好ましい。
【0025】
第1工程においては、混合有機溶媒99〜50重量部に、結晶性ポリオレフィン1〜50重量部(両者合わせて100重量部とする。)を加え、次いで加熱して、透明溶液を得る。結晶性ポリオレフィンが1重量部未満では溶液が希薄過ぎ、また、50重量部より多くなると溶液の粘度が大きくなり過ぎて、均一なモノリス構造体を得ることが困難となる。
【0026】
(第2工程)
第2工程は、第1工程で得た透明溶液を冷却してゲル状の不透明体とする工程である。この工程は、通常、第1工程で得た透明溶液を静置、徐冷することにより達成される。
【0027】
(第3工程)
第3工程は、第2工程で得たゲル状の不透明体に、溶解度パラメータが8〜12の範囲にある有機溶媒IIIを接触させて、第1工程で使用した混合溶媒を有機溶媒IIIに置換する工程である。
有機溶媒IIIによる置換は、有機溶媒IIIをポンプにより注入する等の圧力を利用する強制的手段を用いて行うこともできるが、これらに限られず、例えば、第1工程をビーカー容器中で実施し、第2工程で、静置、徐冷して、ビーカー内の透明溶液全体をゲル状の不透明体とした後、このビーカー内に有機溶媒Iと有機溶媒IIの合計量より多量の有機溶媒IIIを注入することにより、ゲル状不透明体に有機溶媒IIIを接触させながら、ゲル状不透明体内部の有機溶媒との相互拡散による置換を行なうこと、あるいは、ビーカー内のゲル状不透明体を、有機溶媒IIIを含む容器内に投入して、ゲル状不透明体に有機溶媒IIIを接触させながら、ゲル状不透明体内部の有機溶媒との相互拡散による置換を行なうこと等の、相互拡散、平衡を利用した置換でも良く、モノリス体の均一構造を確保するためには、これらの平衡を利用する方法が優れる。
【0028】
なお、この置換を容易に進行させるためは、第1工程で使用する混合溶媒の溶解度パラメーターの値と有機溶媒IIIと溶解度パラメーターの値が、大きく乖離することを避けるため、溶解度パラメータの値が8〜12の範囲にあるものから選択する。
【0029】
また、有機溶媒IIIは、上記した置換を容易に進行させると同時に、生成してくるモノリス構造体の均一性を保つために、第1工程で使用する混合溶媒の溶解度パラメーターの値と近似した値を持つことが好ましい。したがって、有機溶媒IIIは、その溶解度パラメータの値が、第1工程の有機溶媒Iの溶解度パラメータの値と有機溶媒IIの溶解度パラメータの値の範囲内にあるものから選択することが好ましい。また、ゲル状不透明体の固化を促進するためには、結晶性ポリオレフィンが有していない酸素原子等を含有する溶媒が特に好ましい。
【0030】
また、有機溶媒IIIは、生成するモノリス構造体の均一性を保つために、第4工程における溶媒除去工程において、結晶性ポリオレフィンの融点未満の加熱減圧条件で容易に除去できることが好ましく、その沸点が結晶性ポリエチレンの融点より低い有機溶媒から選択することが好ましい。
上記の観点から、好ましい有機溶媒IIIとしては、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0031】
(第4工程)
第4工程は、第3工程において混合溶媒から有機溶媒IIIに置換された不透明体中から有機溶媒を除去する工程である。
不透明体中の有機溶媒の除去方法は、加熱、減圧、乾燥等の通常の方法が使用でき、有機溶媒を除去することができれば特に制限は無い。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
(結晶性ポリオレフィン)
(1)結晶性ポリエチレンI(日本ポリエチレン(株)製、ハーモレックスNF324A):MFR=1.0g/10min.、密度=0.906g/cm、融点=120℃、構造=エチレン・ヘキセン−1共重合体。
(有機溶媒)
(1)デカヒドロナフタレン(デカリン):沸点=196℃、溶解度パラメータ=9.5。
(2)N−メチルピロリドン(NMP):沸点=202℃、溶解度パラメータ=11.3。
(3)ジメチルアセトアミド:沸点=166℃、溶解度パラメータ=10.8。
(4)N−ビニル−2−ピロリドン:沸点=92−95℃(11mmHg)、溶解度パラメータ=10.5。
【0034】
(実施例1)
(第1工程)
透明サンプル管中で、デカリン(有機溶媒I)63重量%とNMP(有機溶媒II)37重量%とからなる混合有機溶媒94重量部(約3ml)に、「結晶性ポリエチレンI」6重量部(約180mg)を加え、135℃まで加熱して、透明溶液を得た。
(第2工程)
該透明溶液をバイオシェーカー内に静置し、20℃まで徐冷して、溶液全体をゲル状の不透明体とした。
(第3工程)
容器内のゲル状不透明体を、別容器内の過剰量アセトン中に投入し、不透明体中の混合有機溶媒とアセトンの置換を行なった。
(第4工程)
固化したゲル状不透明体をアセトン中から取り出し、室温で減圧乾燥を行い、内部の有機溶媒を除去した。
(形状観察)
得られた結晶性ポリエチレンの一部を切り出して、スパッタリング装置((株)日立製作所製、E−1010)でスパッタリング処理後、走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立製作所製、S−3000N)で形状を観察し、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図1に示す。
【0035】
(実施例2)
透明サンプル管中の混合有機溶媒の組成をデカリン(有機溶媒I)74重量%およびNMP(有機溶媒II)26重量%とした以外は、実施例1と同様に、各工程と観察を行い、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図2に示す。
【0036】
(実施例1と実施例2とのモノリス構造体の比較)
実施例1のモノリス構造体の空隙は実施例2の空隙より小さく、有機溶媒Iと有機溶媒IIとの混合比を変化させることで空隙の大きさを変化させることができることを確認できた。
【0037】
(比較例1)
透明サンプル管中の混合有機溶媒の組成をデカリン100重量%とした以外は、実施例1と同様に、各工程と観察を行った。観察画像を図9に示す。均一なモノリス構造は出現しなかった。
【0038】
(実施例3)
混合有機溶媒を96重量部および「結晶性ポリエチレンI」を4重量部(約120mg)とした以外は、実施例1と同様に各工程と観察を行い、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図3に示す。
【0039】
(実施例4)
混合有機溶媒を92重量部および「結晶性ポリエチレンI」を8重量部(約240mg)とした以外は、実施例1と同様に、各工程と観察を行い、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図4に示す。
【0040】
(実施例1、実施例3、実施例4のモノリス構造体の比較)
モノリス構造体の空隙は実施例3>実施例1>実施例4であり、結晶性ポリエチレンの重量割合を変化させることで空隙の大きさを変化させることができることを確認できた。
【0041】
(実施例5)
第2工程の冷却を−18℃まで行なった以外は、実施例1と同様に各工程と観察を行い、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図5に示す。
【0042】
(実施例6)
第2工程の冷却を60℃まで行なった以外は、実施例1と同様に各工程と観察を行い、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図6に示す。
【0043】
(実施例1、実施例5、実施例6のモノリス構造体の比較)
モノリス構造体の空隙は実施例6>実施例1>実施例5であり、本発明において、到達する冷却温度を変化させることで空隙の大きさを変化させることが確認できた。
【0044】
(実施例7)
第1工程の有機溶媒IIをNMPからジメチルアセトアミドに変更した以外は、実施例1と同様に各工程と観察を行い、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図7に示す。
【0045】
(実施例8)
第1工程の有機溶媒IIをNMPからN−ビニル−2−ピロリドンに変更した以外は、実施例1と同様に各工程と観察を行い、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図8に示す。
【0046】
(実施例1、実施例7、実施例8のモノリス構造体の比較)
モノリス構造体の形成に有機溶媒中のカルボニル基およびアミド基の窒素が有効であることが分かる。
【0047】
(実施例9)
第2工程の冷却を−196℃まで行なった以外は、実施例1と同様に各工程と観察を行い、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図10に示す。
【0048】
(実施例1、実施例5、実施例6、実施例9のモノリス構造体の比較)
モノリス構造体の空隙は実施例6>実施例1>実施例5>実施例9であり、本発明において、到達する冷却温度を変化させることで空隙の大きさを変化させることが確認できた。
【0049】
(実施例10)
結晶性ポリオレフィンとして、結晶性ポリエチレンII(日本ポリエチレン(株)製、ハーモレックスUF230):MFR=1.0g/10min.、密度=0.921g/cm、融点=125℃、構造=エチレン・ブテン−1共重合体とした以外は、実施例1と同様に各工程と観察を行い、モノリス構造の形成を確認した。観察画像を図11に示す。
【0050】
(実施例1、実施例10のモノリス構造体の比較)
モノリス構造体の空隙は実施例10>実施例1であり、本発明において、結晶性ポリエチレンのコモノマーを変化させることで空隙の大きさを変化させることが確認できた。
【0051】
(実施例11)
(第1工程)
透明サンプル管中で、デカリン(有機溶媒I)63重量%とNMP(有機溶媒II)37重量%とからなる混合有機溶媒94重量部(約3ml)に、「結晶性ポリエチレンI」6重量部(約180mg)を加え、135℃まで加熱して、透明溶液を得た。
(第2工程)
該透明溶液をガラス板上に塗布し、もう一枚のガラス板で被覆、挟み込み、押しつぶして伸展、フィルム状とした。室温℃まで徐冷して、ガラス板に挟まれたフィルム状物を不透明体とした。
(第3工程)
ガラスを取り除き、フィルム状不透明体を、別容器内の過剰量アセトン中に投入し、不透明体中の混合有機溶媒とアセトンの置換を行なった。
(第4工程)
固化したフィルムをアセトン中から取り出し、室温で減圧乾燥を行い、内部の有機溶媒を除去した。
(形状観察)
得られたフィルムの一部を切り出して、スパッタリング装置((株)日立製作所製、E−1010)でスパッタリング処理後、走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立製作所製、S−3000N)で形状を観察し、モノリス構造の形成を確認した。このフィルムの厚みは120μmであった。このフィルムの観察画像を図12に示す。
このフィルムを、圧搾機内に挟み込み、室温にて圧搾すると、厚みは25μmに低下した。同様の方法で形状を観察し、モノリス構造が維持されていることを確認した。このフィルムの観察画像を図13に示す。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、入手容易な材料(結晶性ポリオレフィン)から、フレキシビリティの高い工程でモノリス構造体の製造を可能するものであり、得られるモノリス構造体も、リチウムイオン電池用セパレーターをはじめ、触媒担体、高機能フィルター、カラム構成材料の高容量電極材料等として利用できるため、本発明の製造方法の工業的価値はきわめて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解度パラメータが7〜13の範囲内の有機溶媒から選択され、溶解度パラメータの値の差が2以上の有機溶媒Iと有機溶媒IIからなる混合有機溶媒99〜50重量部に結晶性ポリオレフィン1〜50重量部(両者合わせて100重量部とする。)を加えて加熱し、透明溶液を得る第1工程、該透明溶液を冷却してゲル状の不透明体を得る第2工程、該ゲル状の不透明体に溶解度パラメータが8〜12の範囲にある有機溶媒IIIを接触させて第1工程で使用した混合有機溶媒を置換する第3工程、次いで不透明体中の有機溶媒を除去する第4工程を経ることを特徴とする結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【請求項2】
有機溶媒Iおよび有機溶媒IIの沸点が結晶性ポリオレフィンの融点よりも高く、かつ加熱温度が有機溶媒Iおよび有機溶媒IIの沸点未満で、結晶性ポリオレフィンの融点以上であることを特徴とする請求項1に記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒Iがテトラリンまたはデカリン、有機溶媒IIがN−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドンまたはジアセチルアミドのいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【請求項4】
有機溶媒IIIの沸点が結晶性ポリオレフィンの融点より低いことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒IIIの溶解度パラメータの値が、有機溶媒Iの溶解度パラメータの値と有機溶媒IIの溶解度パラメータの値の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。
【請求項6】
有機溶媒IIIがアセトン、酢酸エチルまたはテトラヒドロフランのいずれかであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の結晶性ポリオレフィンモノリス構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−107216(P2012−107216A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228549(P2011−228549)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】