説明

結晶性ポリマー微孔性膜及びその製造方法、並びに濾過用フィルタ

【課題】微粒子を効率良く捕捉することができ、目詰まりがなく、粒子捕捉能の耐擦過性が向上し、濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタの提供。
【解決手段】結晶性ポリマーからなる単層構造の結晶性ポリマー層と、該結晶性ポリマー層の厚み方向に貫通した多数の孔部とを有し、前記孔部の平均孔径が両端開口平均孔径よりも小さい小径部位が、前記結晶性ポリマー層の内部に存在する結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の精密濾過に使用される濾過効率の高い結晶性ポリマー微孔性膜及び該結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに濾過用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は古くから知られており、濾過用フィルタ等に広く利用されている(非特許文献1参照)。このような微孔性膜としては、例えばセルロースエステルを原料とするもの(特許文献1〜7参照)、脂肪族ポリアミドを原料とするもの(特許文献8〜14参照)、ポリフルオロカーボンを原料とするもの(特許文献15〜18参照)、ポリプロピレンを原料とするもの(特許文献19参照)、などが挙げられる。
これらの微孔性膜は、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられ、近年、その用途及び使用量が拡大しており、粒子捕捉の点から信頼性の高い微孔性膜が注目されている。これらの中でも、結晶性ポリマーからなる微孔性膜は耐薬品性に優れており、特に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と称することもある)を原料とした結晶性ポリマー微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
【0003】
一般に、微孔性膜の単位面積当たりの濾過可能量は少ない(即ち濾過寿命が短い)。このため、工業的に使用する際には、膜面積を増すため、多くの濾過ユニットを並列して使用することを余儀無くされており、濾過工程のコストダウンの観点から、濾過寿命を上げることが必要とされている。例えば目詰まり等による流量低下に有効な微孔性膜として、インレット側からアウトレット側に向かって孔径が徐々に小さくなる非対称膜が提案されている(特許文献20及び21参照)。
また、小孔径を有する濾過層と、該濾過層より孔径が大きい支持層とからなるポリテトラフルオロエチレン複層多孔膜(特許文献22参照)、ポリテトラフルオロエチレンシート上にポリテトラフルオロエチレン乳化分散液を塗布し、延伸したもの(特許文献23参照)、などが提案されている。
しかし、前記特許文献22及び23では、塗布し、乾燥させた際に、微孔性膜にクラックや欠陥が発生しやすいという問題がある。また、表面のみが小孔径になっているため、十分な濾過寿命が得られないという問題がある。
【0004】
また、特許文献24及び25によれば、複層シート押し出し法により、小孔径の濾過層と、大孔径の支持層を完全に一体化したもの、更には内部に濾過層を有するものが作製できるが、濾過層と支持層の境界部(孔径が不連続な部分)において目詰まりが起きやすいという問題がある。また、複数の種類の素材を用いる特殊な前処理が必要なため高コストになる。
【0005】
また、特許文献26には、内部緻密層により耐擦過性良好な非対称性微孔性膜が提案されている。しかし、膜形成ポリマーが、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の特定の可溶性ポリマーに限定されている。
【0006】
また、特許文献27には、四弗化エチレン樹脂薄膜の厚み方向に温度差と圧縮力をかけて非対称孔径薄膜を製造する方法が提案されている。しかし、この提案では、加熱温度が250℃〜四弗化エチレン樹脂の融点までと低いため、所望の形状の孔部を形成することはできないものである。
【0007】
したがって単層構造の結晶性ポリマー層からなり、微粒子を効率良く捕捉することができ、目詰まりがなく、濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜及びその製造方法、並びに濾過用フィルタの速やかな提供が望まれているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第3,133,132号明細書
【特許文献3】米国特許第2,944,017号明細書
【特許文献4】特公昭43−15698号公報
【特許文献5】特公昭45−3313号公報
【特許文献6】特公昭48−39586号公報
【特許文献7】特公昭48−40050号公報
【特許文献8】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献9】米国特許第3,408,315号明細書
【特許文献10】米国特許第4,340,479号明細書
【特許文献11】米国特許第4,340,480号明細書
【特許文献12】米国特許第4,450,126号明細書
【特許文献13】独国特許発明第3,138,525号明細書
【特許文献14】特開昭58−37842号公報
【特許文献15】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献16】米国特許第4,340,482号明細書
【特許文献17】特開昭55−99934号公報
【特許文献18】特開昭58−91732号公報
【特許文献19】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献20】特公昭55−6406号公報
【特許文献21】特公平4−68966号公報
【特許文献22】特開平4−351645号公報
【特許文献23】特開平7−292144号公報
【特許文献24】特開平3−179038号公報
【特許文献25】特開平3−179039号公報
【特許文献26】特開平1−139116号公報
【特許文献27】特公昭63−48562号公報
【非特許文献1】アール・ケスティング(R.Kesting)著「シンセティック・ポリマー・メンブラン(Synthetic Polymer Membrane)」マグロウヒル社(McGrawHill社)発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、結晶性ポリマーからなる単層構造の結晶性ポリマー層と、該結晶性ポリマー層の厚み方向に貫通した多数の孔部とを有し、前記孔部の平均孔径が、前記結晶性ポリマー層の厚み方向に、両端開口平均孔径よりも小さく、緻密な小径部位が内部に存在することにより、微粒子を効率良く捕捉することができ、目詰まりがなく、粒子捕捉能の耐擦過性が向上し、濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 結晶性ポリマーからなる単層構造の結晶性ポリマー層と、該結晶性ポリマー層の厚み方向に貫通した多数の孔部とを有する結晶性ポリマー微孔性膜であって、
前記孔部の平均孔径が両端開口平均孔径よりも小さい小径部位が、前記結晶性ポリマー層の内部に存在することを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜である。
<2> 両端開口平均孔径のうち最大の平均孔径Aと、小径部位のうち最小の平均孔径Bとの差(A−B)が0.5μm以上である前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<3> 孔部の平均孔径が、結晶性ポリマー層の厚み方向に変化している前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<4> 平均孔径の変化が、連続的に増加、及び連続的に減少のいずれかである前記<3>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<5> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<6> 結晶性ポリマーからなる結晶性ポリマーフィルムの一方の面を加熱及び加熱表面を除熱して、該結晶性ポリマーフィルムの厚み方向に温度勾配を形成する非対称加熱工程と、
温度勾配を形成した状態の結晶性ポリマーフィルムを延伸する延伸工程と、を少なくとも含む結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<7> 結晶性ポリマー層の厚み方向での温度勾配における最大温度部位が、結晶性ポリマーフィルムの内部に存在する前記<6>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<8> 加熱が、結晶性ポリマーフィルムへの電磁波照射である前記<6>から<7>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<9> 電磁波が赤外線である前記<8>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<10> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである前記<6>から<9>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<11> 延伸が、一軸延伸である前記<6>から<10>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<12> 延伸が、二軸延伸である前記<6>から<10>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<13> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタである。
<14> 結晶性ポリマー微孔性膜における孔部の平均孔径の大きな側の面をフィルタの濾過面に使用する前記<13>に記載の濾過用フィルタである。
【0011】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、結晶性ポリマーからなる単層構造の結晶性ポリマー層と、該結晶性ポリマー層の厚み方向に貫通した多数の孔部とを有し、前記結晶性ポリマー層の厚み方向において、前記孔部の平均孔径が、両端開口平均孔径よりも小さく、緻密な小径部位が前記結晶性ポリマー層の内部に存在するので、微粒子を効率良く捕捉することができ、目詰まりがなく、粒子捕捉能の耐擦過性が向上し、濾過寿命を長くすることができる。
【0012】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、非対称加熱工程と、延伸工程とを少なくとも含む。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法においては、前記非対称加熱工程において、結晶性ポリマーからなる結晶性ポリマーフィルムの一方の面を加熱及び加熱表面を除熱して、該結晶性ポリマーフィルムの厚み方向に温度勾配を形成する。前記延伸工程において、温度勾配を形成した状態の結晶性ポリマーフィルムを延伸する。その結果、前記孔部の平均孔径が、前記結晶性ポリマー層の厚み方向に、両端開口平均孔径よりも小さく、緻密な小径部位が内部に存在し、微粒子を効率良く捕捉することができ、目詰まりがなく、濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く、単独素材を用いて簡便な処理工程により低コストで製造することができる。
【0013】
本発明の濾過用フィルタは、本発明の前記結晶性ポリマー微孔性膜を用いているので、平均孔径が大きい面(表面)をインレット側として濾過を行うことにより、効率よく微粒子を捕捉することができる。また、比表面積が大きいため微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる効果が大きく、濾過寿命を大きく改善することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、結晶性ポリマーからなる単層構造の結晶性ポリマー層と、該結晶性ポリマー層の厚み方向に貫通した多数の孔部とを有し、前記孔部の平均孔径が、前記結晶性ポリマー層の厚み方向に、両端開口平均孔径よりも小さく、緻密な小径部位が内部に存在することにより、微粒子を効率良く捕捉することができ、目詰まりがなく、高流量の濾過が可能であり、濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(結晶性ポリマー微孔性膜)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、結晶性ポリマーからなる単層構造の結晶性ポリマー層と、該結晶性ポリマー層の厚み方向に貫通した多数の孔部とを有してなり、更に必要に応じてその他の構成を有してなる。
【0016】
前記「単層構造」とは、結晶性ポリマー層中に境界を有しないことを意味し、2以上の層を貼り合わせたり積層したりすることにより形成される複層構造は除外される。ここで、結晶性ポリマー層と結晶性ポリマー層の間の境界の有無は、例えば結晶性ポリマー微孔性膜を厚み方向に切断した切断面を光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認することができる。
【0017】
本発明においては、前記結晶性ポリマー層の厚み方向において、前記孔部の平均孔径が、両端開口平均孔径よりも小さく、緻密な小径部位が前記結晶性ポリマー層の内部に存在する。これにより、微粒子を効率良く捕捉することができ、目詰まりがなく、粒子捕捉能の耐擦過性が向上し、濾過寿命を長くすることができる。
【0018】
前記両端開口平均孔径よりも小さい小径部位の形状、大きさ、位置などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記大きさとしては、両端開口平均孔径よりも小さければ特に制限はないが、両端開口平均孔径のうち最大の平均孔径Aと、小径部位のうち最小の平均孔径Bとの差(A−B)が0.5μm以上であることが好ましく、1μm〜10μmがより好ましい。前記差が0.5μm未満であると、微粒子を効率よく捕捉することができなくなるため、目詰まりしやすくなり、高流量の濾過ができなくなることがある。なお、両端開口平均孔径が同じ大きさであるときには、いずれか一方の平均孔径が最大の平均孔径Aとなる。
前記位置としては、前記結晶性ポリマー層の内部であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、結晶性ポリマー層の表面から厚み方向に5μm以上であることが好ましい。
【0019】
また、本発明においては、孔部の平均孔径が、結晶性ポリマー層の厚み方向に変化していることが好ましい。
前記「孔部の平均孔径が、結晶性ポリマー層の厚み方向に変化していること」は、横軸に結晶性ポリマー微孔性膜のおもて面からの厚み方向の距離d(おもて面からの深さに相当)をとり、縦軸に孔部の平均孔径Dをとったとき、(1)おもて面(d=0)からうら面(d=膜厚)に至るまでのグラフが、1本の連続線で描かれ(連続的)、グラフの傾き(dD/dt)が負の領域(減少)、及び傾きが正の領域(増加)のいずれであるが、連続であれば一部に傾きが0(ゼロ)の場合を含んでいてもよい。なお、微孔性膜全体において傾きが0(ゼロ)の場合(変化なし)は含まれない。
これらの中でも、結晶性ポリマー層における孔部の平均孔径が、おもて面からうら面に至るまでのグラフが、連続的に増加、及び連続的に減少のいずれかであるのが好ましく、おもて面からうら面に至るまでのグラフが連続的に減少し、連続的に増加することが特に好ましい。
【0020】
本発明においては、結晶性ポリマー微孔性膜における孔部の平均孔径が大きい方の面を「おもて面」と言い、孔部の平均孔径が小さい方の面を「うら面」と言っているが、これは本発明の説明をわかりやすくするために便宜的につけた呼称に過ぎず、いずれの面を「うら面」にしても構わない。
【0021】
ここで、図1に示すように、単層構造の結晶性ポリマー層101からなる本発明の結晶性ポリマー微孔性膜における孔部101aの孔径は、両端開口平均孔径よりも小さく、緻密な小径部位101cが前記結晶性ポリマー層の内部に存在しており、孔部101aの孔径が結晶性ポリマー層の厚み方向に変化(連続的に減少し、連続的に増加)している。
これに対し、図2に示すように、結晶性ポリマー層102、103、104を積層した3層構造の従来の結晶性ポリマー微孔性膜であり、両端開口平均孔径よりも小さい小径部位を有する層103が前記結晶性ポリマー微孔性膜の内部に存在しているが、複層構造であり、また、孔部102b、103b、104bの孔径は、いずれも各結晶性ポリマー層の厚み方向に変化しておらず、また、結晶性ポリマー微孔性膜全体としてみると、孔径が厚み方向に段階的に変化している部分がある。
【0022】
ここで、前記孔部の平均孔径は、例えば走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像を演算処理することにより平均孔径が求められる。
【0023】
−結晶性ポリマー−
本発明において、前記「結晶性ポリマー」とは、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーを意味し、このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、初めは透明なフィルムが白濁する現象が認められる。これは外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられることによって、結晶性が発現したことに由来する。
【0024】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えばポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマーなどが挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリル、などが挙げられる。
これらの中でも、耐薬品性と取り扱い性の観点から、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)が好ましく、該ポリアルキレンにおけるアルキレン基の水素原子がフッ素原子によって一部又は全部が置換されたフッ素系ポリアルキレンがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
前記ポリエチレンは、その分岐度により密度が変化し、分岐度が多く、結晶化度が低いものが低密度ポリエチレン(LDPE)、分岐度が少なく、結晶化度の高いものが高密度ポリエチレン(HDPE)と分類され、いずれも用いることができる。これらの中でも、結晶性コントロールの点から、HDPEが特に好ましい。
【0025】
前記ポリテトラフルオロエチレンは、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用することが好ましい。
【0026】
前記ポリテトラフルオロエチレンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、ポリフロンPTFE F−104、ポリフロンPTFE F−201、ポリフロンPTFE F−205、ポリフロンPTFE F−207、ポリフロンPTFE F−301(いずれも、ダイキン工業株式会社製);Fluon PTFE CD1、Fluon PTFE CD141、Fluon PTFE CD145、Fluon PTFE CD123、Fluon PTFE CD076、Fluon PTFE CD090(いずれも、旭硝子株式会社製);テフロン(登録商標)PTFE 6−J、テフロン(登録商標)PTFE 62XT、テフロン(登録商標)PTFE 6C−J、テフロン(登録商標)PTFE 640−J(いずれも、三井デュポンフロロケミカル株式会社製)、などが挙げられる。これらの中でも、F−104、CD1、CD141、CD145、CD123、6−Jが好ましく、F−104、CD1、CD123,6−Jがより好ましく、CD123が特に好ましい。
【0027】
前記結晶性ポリマーは、そのガラス転移温度が、40℃〜400℃であることが好ましく、50℃〜350℃がより好ましい。
前記結晶性ポリマーの質量平均分子量は、1,000〜100,000,000が好ましい。
前記結晶性ポリマーの数平均分子量は、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜10,000,000がより好ましい。
【0028】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の膜厚は、1μm〜300μmが好ましく、5μm〜100μmがより好ましく、10μm〜80μmが更に好ましい。
【0029】
(結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、非対称加熱工程と、延伸工程とを少なくとも含み、結晶性ポリマーフィルム作製工程、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0030】
−結晶性ポリマーフィルム作製工程−
前記結晶性ポリマーフィルム作製工程は、結晶性ポリマーを押出助剤と混合した混合物を作製し、これをペースト押出して圧延することにより結晶性ポリマーフィルムを作製する工程である。
前記結晶性ポリマーとしては、上述したものの中から目的に応じて適宜選択することができる。
前記押出助剤としては、液状潤滑剤を用いることが好ましく、具体的には、ソルベントナフサ、ホワイトオイルなどを例示することができる。前記押出助剤としては、市販品を用いることができ、例えばエッソ石油株式会社製「アイソパー」などの炭化水素油を用いても構わない。前記押出助剤の添加量は、前記結晶性ポリマー100質量部に対して、20質量部〜30質量部が好ましい。
【0031】
ペースト押出しは、通常50℃〜80℃にて行うことが好ましい。押出し形状については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常は棒状にするのが好ましい。押出物は次いで圧延することによりフィルム状にする。前記圧延は、例えばカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けすることにより行うことができる。圧延温度は、通常50℃〜70℃に設定することができる。
その後、フィルムを加熱乾燥することにより押出助剤を除去して結晶性ポリマー未加熱フィルムとすることが好ましい。このときの加熱温度としては、特に制限はなく、用いる結晶性ポリマーの種類に応じて適宜選定することができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましい。結晶性ポリマーとして、例えばポリテトラフルオロエチレンを用いる場合には、150℃〜280℃が好ましく、200℃〜255℃がより好ましい。
前記加熱は、フィルムを熱風乾燥炉に通すなどの方法で行うことができる。このようにして製造される結晶性ポリマー未加熱フィルムの厚みは、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後工程での延伸による厚みの減少も考慮して調整することが必要である。
なお、結晶性ポリマー未加熱フィルムの製造に際しては、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用することができる。
【0032】
−非対称加熱工程−
前記非対称加熱工程は、結晶性ポリマーからなる結晶性ポリマーフィルムの一方の面を加熱及び加熱表面を除熱して、該結晶性ポリマーフィルムの厚み方向に温度勾配を形成する工程である。
前記「加熱及び加熱表面を除熱」とは、同一表面で加熱と除熱をほぼ同時に行うことを意味し、加熱をはじめてから除熱する態様、除熱をはじめてから加熱する態様、加熱と除熱を同時に行う態様などをすべて含むが、加熱をはじめてから除熱する態様が特に好ましい。
前記加熱及び除熱の程度としては、加熱及び除熱する側の結晶性ポリマーフィルムの表面温度が30℃〜327℃に保たれるように調節することが好ましい。
前記結晶性ポリマー層の厚み方向での温度勾配における最大温度部位が、結晶性ポリマーフィルムの表面ではなく、内部に存在することにより、結晶性ポリマー層の内部に緻密な小径部位を形成できる点で好ましい。
【0033】
前記加熱方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、(1)結晶性ポリマーフィルムに熱風を吹き付ける方法、(2)結晶性ポリマーフィルムに熱媒に接触させる方法、(3)結晶性ポリマーフィルムを加熱部材に接触させる方法、(4)結晶性ポリマーフィルムに電磁波を照射する方法、などが挙げられるが、後述する表面除熱方法と組み合わせる時の組み合わせ易さの点から電磁波照射が好ましい。前記電磁波としては、X線、ガンマ線、電子線、マイクロ波、赤外線などが挙げられ、これらの中でも、表層の加熱に適する点から赤外線が特に好ましい。
【0034】
前記赤外線としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記赤外線の一般的な定義は「実用赤外線」(人間と歴史社、1992年発行)を参考にすることができる。前記赤外線とは、波長が0.74μm〜1,000μmの電磁波を意味し、そのうち波長が0.74μm〜3μmの範囲を近赤外線とし、波長が3μm〜1,000μmの範囲を遠赤外線とする。
前記赤外線の装置の種類としては、目的の波長の赤外線が照射できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に、近赤外線は電球(ハロゲンランプ)、遠赤外線はセラミック、石英、金属酸化面などの発熱体を用いることができる。
また、赤外線照射であれば、工業的に流れ作業で連続的に非対称加熱を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。また非接触であるため、クリーン、かつ毛羽立ちのような欠陥が生じることがない。
前記赤外線照射によるフィルム表面温度は、赤外線照射装置の出力、赤外線照射装置とフィルム表面の距離、照射時間(搬送速度)、雰囲気温度で制御でき、上記の半加熱体にする際の温度に設定することができるが、324℃〜380℃が好ましく、335℃〜360℃がより好ましい。前記表面温度が、324℃未満であると、結晶状態が変化せず、孔径制御ができなくなることがあり、380℃を超えると、結晶性ポリマーフィルムが溶融することにより過度に形状が変形したり、結晶性ポリマーの熱分解が生じることがある。
前記赤外線の照射時間は、特に制限はなく、目的とする非対称加熱が十分に進行するのに必要な時間であり、30秒間〜120秒間が好ましく、45秒間〜90秒間がより好ましく、60秒間〜80秒間が更に好ましい。
前記非対称加熱における赤外線照射は、連続的に行ってもよく、又は何度かに分割して間欠的に行ってもよい。
【0035】
前記除熱する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば(1)結晶性ポリマーフィルム表面に冷風を吹き付ける方法、(2)結晶性ポリマーフィルム表面に冷媒に接触させる方法、(3)結晶性ポリマーフィルム表面に冷却部材を接触させる方法、(4)放冷による冷却等の種々の方法が使用できるが、これらの中でも、上述した加熱方法と組み合わせる時の組み合わせ易さの点から(3)結晶性ポリマーフィルム表面に冷風を吹き付ける方法が特に好ましい。
前記冷風の温度としては、0℃〜50℃が好ましく、冷風の流量は10L/分〜2,000L/分が好ましい。
【0036】
−延伸工程−
前記延伸工程は、温度勾配を形成した状態の結晶性ポリマーフィルムを延伸する工程である。
前記延伸は、長手方向と幅方向の両方について行うことが好ましい。長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合には、まず、長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行うことが好ましい。
前記長手方向の延伸倍率は、4倍〜100倍が好ましく、8倍〜90倍がより好ましく、10倍〜80倍が更に好ましい。長手方向の延伸温度は、100℃〜300℃が好ましく、200℃〜290℃がより好ましく、250℃〜280℃が特に好ましい。
前記幅方向の延伸倍率は、10倍〜100倍が好ましく、12倍〜90倍がより好ましく、15倍〜70倍が更に好ましく、20倍〜40倍が特に好ましい。幅方向の延伸温度は、100℃〜300℃が好ましく、200℃〜290℃がより好ましく、250℃〜280℃が特に好ましい。
面積延伸倍率は、50倍〜250倍が好ましく、75倍〜200倍がより好ましく、100倍〜150倍が更に好ましい。延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度に結晶性ポリマーフィルムを予備加熱しておいてもよい。
なお、延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。該熱固定の温度は、通常、延伸温度以上で結晶性ポリマーの融点未満で行うことが好ましい。
【0037】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、様々な用途に用いることができるが、特に、以下に説明する濾過用フィルタとして好適に用いることができる。
【0038】
(濾過用フィルタ)
本発明の濾過用フィルタは、本発明の前記結晶性ポリマー微孔性膜を用いることを特徴とする。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を濾過用フィルタとして用いるときは、その表面(平均孔径が大きい面)をインレット側として濾過を行うことが好ましい。即ち、ポアサイズの大きな表面側をフィルタの濾過面に使用する。このように、平均孔径が大きい面(表面)をインレット側として濾過を行うことにより、効率よく微粒子を捕捉することができる。
また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0039】
本発明の濾過用フィルタは、差圧0.1kg/cmとして濾過を行った時に、少なくとも5ml/cm・min以上の濾過が可能なものとすることができる。
本発明の濾過用フィルタは、プリーツ状に加工成形することが好ましい。プリーツ状に加工することにより、カートリッジあたりのフィルタの濾過に使用する有効表面積を増大させることができるという利点がある。
【0040】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、このように濾過機能が高くて長寿命であるという特徴を有することから、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを並列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば並列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0041】
本発明の濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられる。特に、本発明の濾過用フィルタは耐熱性及び耐薬品性に優れているため、従来の濾過用フィルタでは対応できなかった高温濾過や反応性薬品の濾過にも効果的に用いられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
−ポリテトラフルオロエチレンフィルムの作製−
結晶性ポリマーとして数平均分子量が620万のポリテトラフルオロエチレンファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「ポリフロン・ファインパウダーF104U」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパーM」)27質量部を加え、丸棒状にペースト押出しを行った。これを、60℃に加熱したカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けして、ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。得られたフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚さ100μm、平均幅150mm、比重1.55のポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。
【0044】
−半加熱フィルムの作製−
得られたポリテトラフルオロエチレンフィルムを、50℃のロール(表面材質SUS316)上で、一方の面をタングステンフィラメント内蔵のハロゲンヒーターで近赤外線により、フィルム表面温度が360℃となる条件を事前に設定した。つづいて、10℃の冷却風を500L/分の流量で送風しながら、同条件の近赤外線照射を1分間行い(非対称加熱処理)、半加熱フィルムを作製した。この処理中、フィルムの表面温度は50℃に保たれていた。
【0045】
−ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製−
得られた半加熱フィルムを270℃にて長手方向に12.5倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを305℃に予備加熱した後、両端をクリップで挟み、270℃で幅方向に30倍に延伸した。その後、380℃で熱固定を行った。得られた延伸フィルムの面積延伸倍率は、伸長面積倍率で260倍であった。以上により、実施例1のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0046】
(実施例2)
−ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製−
実施例1において、ポリテトラフルオロエチレンフィルムの一方の面を、セラミックスヒータを用いて、遠赤外線加熱した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0047】
(比較例1)
−結晶性ポリマー微孔性膜の作製−
実施例1において、冷却風の送風を行わずに25℃雰囲気下で非対称加熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして、比較例1のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0048】
(比較例2)
−結晶性ポリマー微孔性膜の作製−
実施例1において、非対称加熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例2のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0049】
(比較例3)
<ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製>
−予備成形体の作製−
結晶性ポリマーとして数平均分子量が100万のポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(旭硝子株式会社製、「Fluon PTFE CD1」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパーM」)27質量部を加えた。これをペースト1とした。
同様に、数平均分子量が1000万のポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(旭硝子株式会社製、「Fluon PTFE CD123」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパーM」)27質量部を加えた。これをペースト2とした。
次に、ペースト1と、ペースト2とを厚み比(ペースト1/ペースト2)が4/1となるように、図3に示すように敷き詰め(図3中ではペースト1を5、ペースト2を4で表す)、加圧し、予備成形体10とした(図4参照)。
以降の処理では、ペースト1(5)側を「おもて面」、ペースト2(4)側を「うら面」とした。
【0050】
−未加熱フィルムの作製−
得られた予備成形体10を図5のようなペースト押し出し金型に挿入し、シート状に複層ペースト押出しを行った。これを、60℃に加熱したカレンダーロールによりカレンダー掛けして、複層ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚さ100μm、平均幅150mm、比重1.55のポリテトラフルオロエチレン複層未加熱フィルムを作製した。
【0051】
−半加熱フィルムの作製−
該ポリテトラフルオロエチレン複層未加熱フィルムの両面を、オーブンを用いて345℃で1分間加熱し複層半加熱フィルムを作製した。
【0052】
−微孔性膜の作製−
得られた複層半加熱フィルムを270℃にて長手方向に12.5倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを305℃に予備加熱した後、両端をクリップで挟み、270℃で幅方向に30倍に延伸した。その後、380℃で熱固定を行った。得られた延伸フィルムの面積延伸倍率は、伸長面積倍率で260倍であった。以上により、比較例3のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
【0053】
次に、作製した実施例1〜2及び比較例1〜3の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、以下のようにして、平均膜厚、おもて面からの厚み方向における平均孔径の測定、及び耐擦過性試験を行った。
【0054】
<平均膜厚の測定>
実施例1〜3及び比較例1〜2の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の膜厚をダイヤル式厚さゲージ(アンリツ株式会社製、K402B)により測定した。なお、任意の3箇所を測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
<おもて面からの厚み方向における平均孔径の測定>
実施例1〜2及び比較例1〜3の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、微孔性膜の膜厚を20とし、おもて面から厚み方向に0(即ち、表層)の部分における平均孔径をP0、厚み方向に1の部分における平均孔径をP1、・・・、厚み方向に20の部分における平均孔径をP20とし、P0〜P20をそれぞれフィルム断面のSEM写真から求めた。ここで、SEM写真は走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で倍率1,000倍〜5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んでポリテトラフルオロエチレン繊維のみからなる像を得、その像を演算処理することにより平均孔径を求めた。
上記のように求めたP0〜P20の値を基に、おもて面からの厚み方向の距離(μm)における平均孔径(μm)をプロットした。結果を図6〜図10に示す。
【0057】
図6の結果から、実施例1のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜は、単層構造の結晶性ポリマー層の内部に両端開口平均孔径(最大の平均孔径A=5μm)よりも小さい小径部位(最小の平均孔径B=1μm)が存在し、孔部の平均孔径が、結晶性ポリマー層の厚み方向に変化(連続的に減少し、連続的に増加)しており、結晶性ポリマー微孔性膜全体としては、孔部の孔径が厚み方向に変化(段階的に減少)していることが分かった。
また、図7の結果から、実施例2の単層構造の結晶性ポリマー層の内部に両端開口平均孔径(最大の平均孔径A=5μm)よりも小さい小径部位(最小の平均孔径B=1μm)が存在し、孔部の平均孔径が、結晶性ポリマー層の厚み方向に変化(連続的に減少し、連続的に増加)しており、結晶性ポリマー微孔性膜全体としては、孔部の孔径が厚み方向に変化(段階的に減少)していることが分かった。
これに対し、図8の結果から、比較例1のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜は、単層構造の結晶性ポリマー層において、孔部の平均孔径が、結晶性ポリマー層の厚み方向に変化(連続的に減少)しており、結晶性ポリマー層の内部に両端開口平均孔径よりも小さい小径部位が存在しないことが分かった。
また、図9の結果から、比較例2のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜は、単層構造の結晶性ポリマー層において、結晶性ポリマー層の内部に両端開口平均孔径よりも小さい小径部位が存在せず、孔部の平均孔径が、結晶性ポリマー層の厚み方向に変化していないことが分かった。
また、図10の結果から、比較例3のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜は、3層構造の微孔性膜であり、該微孔性膜の内部に両端開口平均孔径(最大の平均孔径A=3μm)よりも小さい小径部位を有する層(最小の平均孔径B=1μm)が存在するが、各結晶性ポリマー層において孔部の平均孔径が、厚み方向に変化しておらず、全体としてみると平均孔径が断続的に変化していることが分かった。
【0058】
<耐擦過性試験>
(1)実施例1〜2及び比較例1の微孔性膜から、TD方向(横断方向)180mm×MD方向(成膜方向)50mmの長方形に切り出し、これを平滑な板の上に各微孔性膜の裏面を上にして張り付けたる(サンプルA)。これを水平になるように引張試験機の移動ステージに取り付ける(図11参照)。
(2)実施例1〜2及び比較例1の微孔性膜から、TD方向80mm×MD方向18mmの長方形に切り出し、これと同じ大きさで重さが500gの平滑な板に、該微孔性膜の表面が上になるように張り付けた(サンプルB)。更に、この18mmの辺の中央に糸を付けた。
(3)サンプルBをサンプルAの上に載せた後、サンプルBの糸を引張試験機の移動ステージ上の滑車を介してロードセルに固定した(図11参照)。
(4)移動ステージを200mm/分の速度で下げた。
(5)サンプルAのテスト部について、ポリスチレン微粒子(平均粒子サイズ1.0μm)を0.01質量%含有する水溶液を、差圧0.1kgとして濾過を行った。粒子の漏れの有無を評価した。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

表2の結果から、比較例1の微孔性膜は、緻密層がうら面に存在するため、耐久性に乏しく、耐擦過性試験により粒子漏れが生じた。
これに対し、実施例1及び2は、緻密な小径部位が微孔性膜の内部にあるため、耐擦過性試験後も粒子漏れがなく、耐久性に優れていることが分かった。
【0060】
<濾過テスト>
次に、実施例1〜2及び比較例1〜3の各結晶性ポリマー微孔性膜について、濾過テストを行った。まず、ポリスチレンラテックス(平均粒子サイズ0.17μm)を0.01質量%含有する水溶液を、差圧0.1kgとして濾過を行った。結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

表3の結果から、比較例3の微孔性膜は、800ml/cmで実質的に目詰まりを起こした。また、比較例2の微孔性膜は、孔径が大きく微粒子補足が不十分であったため測定不可であった。
これに対し、実施例1〜2及び比較例1の各微孔性膜は、それぞれ1500ml/cm、1500ml/cm、1500ml/cm、まで濾過が可能であり、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることにより濾過寿命が大幅に改善されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜及びこれを用いた濾過用フィルタは、長期間にわたって効率よく微粒子を捕捉することができ、粒子捕捉能の耐擦過性が向上し、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過などに幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明の結晶性ポリマー微孔膜の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、従来の結晶性ポリマー微孔膜の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、比較例3の結晶性ポリマー微孔膜の製造工程の一例を示す図である。
【図4】図4は、比較例3の予備成形体の一例を示す図である。
【図5】図5は、比較例3の結晶性ポリマー微孔膜の製造工程の他の一例を示す図である。
【図6】図6は、実施例1における孔部の平均孔径と表面からの距離との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例2における孔部の平均孔径と表面からの距離との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、比較例1における孔部の平均孔径と表面からの距離との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、比較例2における孔部の平均孔径と表面からの距離との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、比較例3における孔部の平均孔径と表面からの距離との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、耐擦過性試験に用いる引張試験機の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
4 第1層
5 第2層
8 下金型
10 予備成形体
15 ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルム
21 フィルムを取り付けた500gの板
22 フィルム
23 水平に取り付けた試料台
24 滑車
25 引張試験機の移動ステージ
26 ロードセル
27 引張試験機
101 結晶性ポリマー層(単層)
102、103 結晶性ポリマー層(複層)
101a 孔部
102b、103b 孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリマーからなる単層構造の結晶性ポリマー層と、該結晶性ポリマー層の厚み方向に貫通した多数の孔部とを有する結晶性ポリマー微孔性膜であって、
前記孔部の平均孔径が両端開口平均孔径よりも小さい小径部位が、前記結晶性ポリマー層の内部に存在することを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項2】
両端開口平均孔径のうち最大の平均孔径Aと、小径部位のうち最小の平均孔径Bとの差(A−B)が0.5μm以上である請求項1に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項3】
孔部の平均孔径が、結晶性ポリマー層の厚み方向に変化している請求項1から2のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項4】
平均孔径の変化が、連続的に増加、及び連続的に減少のいずれかである請求項3に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項5】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1から4のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項6】
結晶性ポリマーからなる結晶性ポリマーフィルムの一方の面を加熱及び加熱表面を除熱して、該結晶性ポリマーフィルムの厚み方向に温度勾配を形成する非対称加熱工程と、
温度勾配を形成した状態の結晶性ポリマーフィルムを延伸する延伸工程と、を少なくとも含む結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項7】
結晶性ポリマー層の厚み方向での温度勾配における最大温度部位が、結晶性ポリマーフィルムの内部に存在する請求項6に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項8】
加熱が、結晶性ポリマーフィルムへの電磁波照射である請求項6から7のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項9】
電磁波が赤外線である請求項8に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項10】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである請求項6から9のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項11】
延伸が、一軸延伸である請求項6から10のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項12】
延伸が、二軸延伸である請求項6から10のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1から5のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−61360(P2009−61360A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229166(P2007−229166)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】