説明

結晶点を低下させるための添加剤と混合されたジメチルスルホキシド配合物およびこの混合物の使用

本発明は、ジメチルスルホキシド(DMSO)の結晶点を低下させるためのジメチルスルホキシド添加剤としての、少なくとも1種類のジオールおよび/または少なくとも1種類のトリオールの使用に関する。DMSO配合物は、上記添加剤と共に、塗料剥離組成物、表面洗浄組成物、落書き洗浄組成物、マイクロエレクトロニクス分野における表面洗浄組成物、例えばフォトレジスト剥離剤、DMSO系農薬組成物として、または上記組成物の成分として、ポリマーを溶解させる溶媒として、または美容術もしくは薬学の分野で有用な組成物の成分として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルスルホキシドおよびこの様々な使用に関する。本発明は、限定するものではないが塗料剥離ならびに表面および落書きの洗浄などの通常の使用における有効性には影響を与えずに結晶点を低下させる添加剤とのジメチルスルホキシド(DMSO)の混合物の使用に関する。本発明は、このような混合物を含む剥離および洗浄組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
DMSOは、非常に極性の高い溶媒であり、一般にエーテル、ケトン、エステルなどの中程度の極性の共溶媒と併用することで塗料剥離剤の配合に特に適しており、これによって、DMSOの有効性を維持しながら、混合物の費用を削減することができる。ある種の組み合わせでは、塗料の種類およびこの老化の程度に依存して、標準的な組み合わせの塩化メチレン+メタノールと同じまたは類似の真の相乗効果が得られる(Double Liaison,Physique et Chimie des Peintures et Adhesifs−N 467−468−1995<<Nouveaux decapants a base de DMSO(登録商標)>>[Double Bond,Physics and Chemistry of Paints and Adhesives−No.467−468,1995:「Novel DMSO−based strippers」],J.P.Lallier)。プロトン性溶媒、即ちX−H有機基を含み、Xが場合によりO、NまたはSである溶媒、例えば水およびアルコールは、共溶媒として示されていないことに留意されたい。
【0003】
しかし、DMSOの欠点の一つは、18℃という非常に高い結晶点であり、それによって特に冬期の屋外での保管の問題および低温における取り扱いの問題が生じる。
【0004】
水によってDMSOの結晶点を下げることが可能なことが知られており、92.5/7.5(w/w)のDMSO/水混合物は0℃の結晶点を有する。しかし、DMSO系配合物への水の添加は、配合および利用に関してある多数の問題が発生する。
【0005】
配合中、水はDMSOと非常に強く会合して高親水性および極性の相が生じ、これ自体非プロトン性で極性の低い共溶媒の添加中に非混和性となることが非常に多い;
水の存在下では、DMSOの有効性が低下することが多く、DMSO−水の組み合わせによって拡散速度が低い分子凝集体が生じる;
水の存在によって、特にセルロース系増粘剤を使用する場合に、増粘の問題が生じることが多い。
【0006】
ある種のモノアルコールもDMSOの結晶点の低下に関して良好な性質を有する。一般に、石油化学起源のこれらのアルコールは、刺激性、有害または毒性であり、燃焼性を導入するとして危険物として分類されており、全く危険物として分類されていないDMSOに対しては有害となる。
【0007】
従って現在の配合者は、DMSO槽を加熱するための特殊な設備を使用することまたは加熱された施設中でこれらを保管し使用することが強要されている。
【0008】
本出願企業は、この問題の解決を探求しており、DMSO中の共溶媒の含有率より低い含有率、通常はDMSO+共溶媒混合物中の共溶媒の50から90重量部でジオールおよび/またはトリオールを添加することによって、DMSOの結晶点を非常に効率的に低下させることができることを発見した。例えば80/20(w/w)DMSO+グリセリン混合物は0℃の結晶点を有する。
【0009】
さらに、予想外なことに、ジオールおよび/またはトリオールのこのような添加によって、通常は極性の低い共溶媒と混和性となる混合物を得ることができ、DMSOに水を配合した場合とは対照的に、ジオールおよび/またはトリオールを使用して配合したDMSOの剥離効果は損なわれない。
【0010】
従って、本発明は以下の原理に基づいている。
【0011】
DMSOを、数個のヒドロキシル基を含有する有機化合物と併用することで、DMSOの結晶点の低下が促進され、この有機化合物は炭素系であるため、溶媒および活性化剤などの剥離および洗浄組成物の他の従来の有機成分と良好な混和性が得られ、水分の取り込み(水を使用する場合に発生する。)によって非混和性となることが回避され;ならびに
結晶点の効果的な低下が起こるのに十分高いが共溶媒の含有率にも到達するジオールおよび/またはトリオール含有率でこの組み合わせを製造すると、剥離効果が損なわれるため、この機能のアルコールは推奨されない。
【0012】
Cryobiology(1978),15(1),93−108,Boutron P.and Kaufmann A.には、DMSO+グリセリン混合物(重量比10/1)は徐冷中に共晶の結晶化が回避されるため純DMSOよりも優れていると述べている。前記刊行物には、DMSOの結晶点の低下のためにこの混合物が好都合であるとは記載されていない。
【0013】
WO 03/048 393 A1(PCT/IT 01/00611)には、全く異なる用途、即ちDNAのポリメラーゼ鎖の増幅のための緩衝溶液の調製におけるDMSO+グリセリン混合物の使用が記載されている。
【0014】
JP 1986−308848には、マイクロエレクトロニクス産業用のフォトレジスト用剥離剤として、100℃において使用されるDMSO+プロピレングリコール混合物が記載されている。フォトレジスト剥離剤配合物は、N−メチルピロリドンまたはDMSOなどの双極性非プロトン性溶媒およびグリコールエーテルを主成分とする混合物であることが多い。後者の溶媒は、活性溶媒がDMSOである場合に活性溶媒の結晶点を低下させる機能は果たさない。特に、特許US 4 401 748、US 4 401 747およびUS 4 395 479には、NMPおよびジエチレングリコールメチルエーテルを主成分とする混合物が記載されている。特許JP 01042653には、DMSOおよびジエチレングリコールモノアルキルエーテルを主成分とする混合物が記載されている。
【0015】
US−5 798 323およびUS 2001/0 034 313 A1には、溶媒およびアルカノールアミンを主成分とするフォトレジストの洗浄および剥離用組成物が記載されており;可能性のある溶媒の一覧の中には、DMSO、エチレングリコールおよびプロピレングリコールが存在する。DMSO+ジオール混合物は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第03/048 393号パンフレット
【特許文献2】特開昭61−308848号公報
【特許文献3】米国特許第4 401 748号明細書
【特許文献4】米国特許第4 401 747号明細書
【特許文献5】米国特許第4 395 479号明細書
【特許文献6】特開平01−042653号公報
【特許文献7】米国特許第5 798 323号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2001/0 034 313号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Double Bond,Physics and Chemistry of Paints and Adhesives−No.467−468,1995:「Novel DMSO−based strippers」,J.P.Lallier
【非特許文献2】Cryobiology(1978),15(1),93−108,Boutron P.and Kaufmann A.
【発明の概要】
【0018】
従って、本発明の第1の主題は、ジメチルスルホキシド(DMSO)の結晶点を低下させるためのジメチルスルホキシド添加剤としての少なくとも1種類のジオールおよび/または少なくとも1種類のトリオールの使用である。
【0019】
ジオールは、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびヘキシレングリコールから選択することができ、トリオールは、グリセリンおよび2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールから選択することができる。
【0020】
さらに特にグリセリンをDMSO添加剤として挙げることができる。グリセリンは「環境に優しい」添加剤であり、DMSO+グリセリンの組み合わせに関して危険物として分類されない(DMSOは既に危険物としては分類されていない)。
【0021】
水をジオールおよび/またはトリオールに加えることができ、この場合には塩化ナトリウムを加えることもできる。
【0022】
グリセリン+水(90/10w/w)混合物を20重量部にてDMSOに導入することで(DMSO+グリセリン+水混合物の重量比が80/18/2)、結晶点を−2℃まで下げることができる。この場合の含水率はわずか2重量%であり、これによって混和性または剥離もしくは洗浄組成物の場合の剥離もしくは洗浄の効果が損なわれることは全くない。純水を使用してこの結晶点を実現するためには、8.5重量%の含水率が必要であり、それによって、場合によっては非混和性の問題が生じることがあるおよび剥離または洗浄の効果が妨害されることがある。
【0023】
従って本発明の場合、導入される水の量は、共溶媒の存在下での非混和性現象および効果の妨害が生じる量よりも少ない。
【0024】
望ましい場合には、工業生産で得られた水+グリセリンまたはグリセリン+塩化ナトリウム混合物をそれぞれ使用してDMSO+グリセリン+水およびDMSO+グリセリン+水+塩化ナトリウム混合物を使用することも可能である(例えば工業的な水を含有するグリセリンは、グリセリン約80重量%+水10重量%+塩化ナトリウム10重量%から形成される。)。塩化ナトリウムは結晶化をさらに遅らせる性質を有する。
【0025】
かくして、DMSO添加剤は、100重量部当たり、
(A)ジオールおよび/またはトリオール75から100重量部;
(B)水0から15重量部;ならびに
(C)塩化ナトリウム0から10重量部(水が存在する場合のみ存在することができる。)
から形成することができる。
【0026】
さらに、ジオールおよびトリオール、場合により水および塩化物(適切な場合)によって構成される添加剤は、添加剤が加えられるDMSOの100重量部当たり5から40重量部、特に10から30重量部存在することができる。
【0027】
本発明は、ジメチルスルホキシド(DMSO)と前述の添加剤との組み合わせの配合物にも関する。
【0028】
本発明は、前述の定義の配合物の、塗料剥離組成物、表面洗浄組成物、落書き洗浄組成物、マイクロエレクトロニクス分野の表面洗浄組成物、例えばフォトレジスト剥離剤、DMSO系農薬組成物としての、または上記組成物の構成要素としての、ポリマーを溶解させる溶媒としての、または美容術もしくは薬学の分野で有用な組成物の成分としての使用にも関する。
【0029】
本発明は、(A)+(B)100重量部当たり、
(A)前述の定義の配合物10から50重量部;および
(B)中程度の極性の非プロトン性共溶媒、特に、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)およびアニソールなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類ならびに酢酸ブチルおよび二塩基性エステル(アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチルおよびコハク酸ジメチルの混合物)などのエステル類から選択される少なくとも1種類の共溶媒90から50重量部、
および適切であれば、活性化剤、増粘剤、軟化剤および界面活性剤などの通常の添加剤を含むことを特徴とする、塗料剥離用または表面もしくは落書きの洗浄用の組成物にも関する。
【0030】
活性化剤は、アミンおよびアルカノールアミンから選択することができ、本発明によるDMSO配合物+共溶媒100重量部当たり最大10重量部で使用することができる。増粘剤は、セルロース系またはアクリル系の増粘剤から選択することができ、本発明によるDMSO配合物+共溶媒100重量部当たり最大5重量部で使用することができる。
【0031】
最後に、本発明は、前述の定義の剥離または洗浄組成物を、剥離すべき塗面または洗浄すべきもしくは落書きを除去すべき表面にはけを使用して適用し、適用した組成物を30分間放置し、続いて塗装用スパチュラを使用して塗料および汚れまたは落書きの薄片を除去することを特徴とする、塗料の剥離のためまたは表面もしくは落書きの洗浄のための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、純DMSOを用いた剥離試験の結果を示す。
【図2】図2は、DMSO+グリセリンを用いた剥離試験の結果を示す。
【図3】図3は、DMSO+水を用いた剥離試験の結果を示す。
【図4】図4は、DMSO+MEKを用いた剥離試験の結果を示す。
【図5】図5は、DMSO+グリセリン+MEKを用いた剥離試験の結果を示す。
【0033】
以下の実施例により本発明を説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。実施例中、以下の略語を使用した。
DMSO:ジメチルスルホキシド
MEK:メチルエチルケトン
【実施例1】
【0034】
グリセリン含有ジメチルスルホキシドの調製
100重量部当たりで以下の処方を有する化学組成物を調製した。
DMSO90重量部;および
グリセリン10重量部。
【0035】
この組成物の結晶点は約10℃である。この値は純DMSOの結晶点の+18℃と比較することができる。
【0036】
塗料剥離試験
この配合物を使用して、グリプタル塗料を被覆した木板(合板)上の脱脂綿に室温で吸収させた。接触から30分後、脱脂綿を除去し、この場所の合板を観察した。
【0037】
最初に純DMSOを使用し、次にDMSO90重量部および水10重量部を含有する配合物を使用して同じ剥離試験を行った。
【0038】
これら3つの試験の目視結果は図1から3に見ることができる。水は剥離に対して抑制効果を有し(図3)、このことはグリセリンの場合には起こっていない(図2)ことが分かる。従って、剥離効果は純DMSO(図1)およびDMSO+グリセリン(90/10w/w)混合物で実質的に同じである。
【実施例2】
【0039】
グリセリン含有DMSO+MEK剥離組成物の調製
MEKを有するグリセリン含有DMSOを以下の比率で配合した。
グリセリン含有DMSO:30重量%;および
MEK:70重量%。
【0040】
参照配合物を調製した。
DMSO:30重量%;および
MEK:70重量%。
【0041】
これら2つの配合物のそれぞれを使用して実施例1と同じ剥離試験を行った。
【0042】
これらの試験の目視結果は図4および5に見ることができる。効果はどちらの場合も同じであり、即ち支持体から浮き上がった薄片が形成されており、これは良好な剥離効果を表している。従って、グリセリンが剥離に対する抑制効果を有さないことが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルスルホキシド(DMSO)の結晶点を低下させるためのジメチルスルホキシド添加剤としての、少なくとも1種類のジオールおよび/または少なくとも1種類のトリオールの使用。
【請求項2】
ジオールがエチレングリコール、プロピレングリコールおよびヘキシレングリコールから選択され、ならびにトリオールがグリセリンおよび2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
DMSO添加剤がグリセリンであることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の使用。
【請求項4】
水がジオールおよび/またはトリオールに加えられ、この場合に塩化ナトリウムを加えることもできることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の使用。
【請求項5】
DMSO添加剤が、100重量部当たり、
(A)ジオールおよび/またはトリオールの75から100重量部;
(B)水の0から15重量部;ならびに
(C)水が存在する場合のみ存在することができる塩化ナトリウムの0から10重量部、
から形成されることを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の使用。
【請求項6】
ジオールおよびトリオール、場合により水および適切であれば塩化物から構成される添加剤が、添加剤が加えられるDMSO100重量部当たり5から40重量部、特に10から30重量部である、請求項1から5の一項に記載の使用。
【請求項7】
請求項5および6のいずれかに記載の添加剤と組み合わされたジメチルスルホキシド(DMSO)配合物。
【請求項8】
塗料剥離組成物、表面洗浄組成物、落書き洗浄組成物、マイクロエレクトロニクス分野における表面洗浄組成物、例えばフォトレジスト剥離剤、DMSO系農薬組成物としての、または上記組成物の成分としての、ポリマーを溶解させる溶媒としての、または美容術もしくは薬学の分野で有用な組成物の成分としての、請求項7に記載の配合物の使用。
【請求項9】
(A)+(B)100重量部当たり、
(A)請求項7に記載の配合物の10から50重量部;および
(B)中程度の極性の非プロトン性共溶媒、特にメチルtert−ブチルエーテル(MTBE)およびアニソールなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ならびに酢酸ブチルおよび二塩基性エステルなどのエステル類から選択される少なくとも1種類の共溶媒の90から50重量部、
および適切であれば、活性化剤、増粘剤、軟化剤および界面活性剤などの通常の添加剤を含むことを特徴とする、塗料剥離用または表面もしくは落書きの洗浄のための組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の剥離または洗浄組成物を、剥離すべき塗面にまたは洗浄すべきもしくは落書きを除去すべき表面に適用し、適用された組成物を30分間放置し、続いて塗装用スパチュラを使用して塗料および汚れまたは落書きの薄片を除去することを特徴とする、塗料の剥離のためまたは表面もしくは落書きの洗浄のための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−518192(P2010−518192A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547733(P2009−547733)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050127
【国際公開番号】WO2008/107611
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】