説明

結紮用鉗子

【課題】熟練者でなくとも簡単に、しかも正確且つ素早く結紮することができる結紮用鉗子を提供する。
【解決手段】指入部を備えた一対のアーム部を枢軸部を支点として開閉操作することにより、そのアーム部と反対側の第一および第二可動部14,15が従動して開閉するように構成された結紮用鉗子において、上記両可動部14,15の少なくともいずれか一方に、縫合糸を離脱可能に掛止する掛止部14d,14e(および/または15d,15e)と、掛止された縫合糸を上記第一可動部14(および/または第二可動部15)の所定部位で保持するための溝部14c(および/または15c)とが備えられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手術用具としての結紮用鉗子に関し、より詳しくは、内視鏡外科手術に好適な結紮用鉗子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内視鏡を用いた外科手術は、体を大きく切らず手術後の痛みを著しく軽減することができることからその適用範囲が拡大しつつある。
【0003】
例えば、肺癌の胸腔鏡手術においては開胸を行なわず、体の側面に2〜3cmの穴を複数開け、それらの穴を通じ、手が入らないような体内狭窄部位に胸腔鏡や器具を差し込み、カメラで映し出されたモニター映像を見ながら体内の器具を操作し、組織や血管等の縫合や結紮を行なっている。
【0004】
図5は上記結紮に使用される結紮用鉗子の一例を示したものである。
【0005】
この種の結紮用鉗子50は、一対のアーム部51および52と、これらのアーム部51および52の後部に形成される指入れ部分53および54とを有し、アーム部51および52は枢軸部55を支点として開閉できるように構成されている。
【0006】
また、アーム部51および52の先端にはジョー部56および57が形成されており、それらの先端部56aおよび57aは、血管を剥離するのに都合がよいように屈曲している。また、棒状に形成された先端部56aには、縫合糸を掛けるための溝部56bが周設されており、先端部57aにも同様に溝部57bが周設されている。
【0007】
なお、図中58は、アーム51および52を閉じた状態で保持するためのロック部である。
【0008】
図6は上記結紮用鉗子50の使用方法の概略を示したものである。
【0009】
同図(a)において、血管Vを縫合糸Sで結紮する場合、体外で結節Saを作り、その結節Saを、少し開いた状態の先端部56a,57aを利用して矢印A方向に滑りおろすことにより、血管Vの結紮位置に近づける。
【0010】
このとき、縫合糸Sbは溝部56bに掛けられているため、縫合糸Sbをガイドとして結紮用鉗子50を移動させることができる。
【0011】
次いで同図(b)に示すように、結節Saが血管Vの結紮点まで移動すると、縫合糸SbおよびScを緊張させた状態で、結紮用鉗子50の先端部56aおよび57aを互いに開く方向(矢印BおよびC方向)に操作し、結節Saをしっかりと締め込む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の結紮用鉗子50では、先端部56aおよび57aに、縫合糸Sを掛けることができる溝部56bおよび57bが形成されてはいるものの、これらの溝部56bおよび57bから縫合糸Sが外れやすく、また、結紮時においては、先端部56aおよび57aを開きながら結節Saを締め込むという、指で括る操作とは異なる操作を行なうため、結紮点をずらさずに正確に結紮を行なうには相当の熟練が必要であった。
【0013】
なお、縫合糸Sが溝部56bから外れないように縫合糸Sに張力をかけ過ぎると、縫合糸Sが切断したり、また、結節Saを滑りおろす際に縫合糸Sが擦れてやせるという新たな問題が発生する。
【0014】
本発明は以上のような従来の結紮用鉗子における課題を考慮してなされたものであり、熟練者でなくとも簡単に、しかも正確且つ素早く結紮することができる結紮用鉗子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、指入部を備えた一対のアーム部を枢軸部を支点として開閉操作することにより、そのアーム部と反対側の二つの先端部が従動して開閉するように構成された結紮用鉗子において、
上記先端部の少なくともいずれか一方に、縫合糸を離脱可能に掛止する掛止部と、掛止された縫合糸を上記先端部の所定部位で保持するための溝部とが備えられている結紮用鉗子である。
【0016】
本発明において、上記先端部がプレート状部材からなる場合、このプレート状部材に、上記掛止部として貫通孔を穿設するとともに、その貫通孔に連通する切欠通路を形成することができる。
【0017】
上記切欠通路は縫合糸を出し入れするために使用されるものである。
【0018】
本発明において、上記溝部は上記プレート状部材の先端略中央に凹設することが好ましい。それにより、縫合糸を所定部位としての先端部略中央で保持することができる。ただし、ここでいう保持とは、溝部内での縫合糸の滑りは許容するものである。
【0019】
本発明において、上記溝部は精密仕上げ加工を施すことが好ましい。それにより、縫合糸の糸切れを防止することができる。
【0020】
本発明において、一対の上記プレート状部材の内面には滑り止め加工を施すことが好ましい。それにより、結紮を行なう際に、縫合糸を強固に把持することができる。
【0021】
本発明において、上記プレート状部材の先端は円弧状に形成することが好ましい。それにより、周囲の血管等を傷つける虞れがない。
【発明の効果】
【0022】
本発明の結紮用鉗子によれば、熟練者でなくとも簡単に、しかも正確且つ素早く結紮することができるという長所を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る結紮用鉗子(以下、鉗子と略称する)の構成を示した正面図である。なお、説明に際しては便宜上、鉗子の先端部を前、その反対側を後、アーム部(後述する)開閉方向の一方を左、他方を右として説明する。
【0025】
同図において、ステンレス製からなる鉗子1は、一対のアーム部2および3を有し、アーム部2の後部には樹脂被覆されたリング状の指入部4が備えられ、アーム部3の後部には同じく樹脂被覆されたリング状の指入部5が備えられている。
【0026】
上記アーム部2の前端部2aは、枢軸部6に並設された一方の支点としてのねじ軸7に枢支され、また、アーム部3の前端部3aは他方の支点としてのねじ軸8に枢支されている。
【0027】
上記枢軸部6の前部からはパイプ9が延設されており、このパイプ9内にシャフト10が挿通されている。
【0028】
シャフト10の後端10aにはピン(図示しない)が設けられ、このピンに対して第一リンク11および第二リンク12の一方端が連結されている。第一リンク11の他方端は上記アーム2に連結され、第二リンク12の他方端は上記アーム3に連結されている。
【0029】
したがって、アーム部2および3を互いに開く方向(矢印D方向およびE方向)に操作すると、ピンに連結されている第一リンク11および第二リンク12が開き、それにより、シャフト10が前側に押し出される。
【0030】
この逆に、アーム部2および3を閉じると、第一リンク11および第二リンク12が折り畳まれ、それにより、シャフト10が後退するようになっている。
【0031】
一方、シャフト10の前端部13には別のリンク(後述する)を介し、二つの先端部としての第一可動部14および第二可動部15が設けられている。
【0032】
なお、図中、4aおよび5aは両可動部14および15の把持状態を維持するためのロック部であり、複数の操作開度でのロックが可能である。
【0033】
図2は上記第一可動部14と第二可動部15の構成を拡大して示したものである。
【0034】
なお、同図では両可動部14,15の形状を把握しやすいように開いた状態を示している。
【0035】
第一可動部14の後部14aは偏平に(図では水平方向に)形成され、その偏平部分に形成された軸孔に、パイプ部9の前端部に(図では垂直方向に)設けられたピン16を挿入することにより、また、第二可動部15も同様に、その後部15aが偏平に形成され、上記ピン16を挿入することにより、両可動部14および15が支点としてのピン16によって枢支されている。
【0036】
また、第一可動部14の末端は第三リンク17を介して上記シャフト10の前側端部と連結され、第二可動部15の末端は第四リンク18を介してシャフト10の前側端部と連結されている。なお、9aはパイプ部9の前端部に形成されたコ字状の切欠部である。
【0037】
したがって、アーム部2および3を開閉することによりシャフト10が前後すると、第三リンク17および第四リンク18を介して第1可動部14および第2可動部15は従動して開閉するようになっている。
【0038】
次に、各可動部の形状について説明する。
【0039】
第一可動部14は、先端が円弧状に形成されたプレート状部材14bを有し、その先端中央にはV字状の溝部14cが形成されている。
【0040】
この溝部14cには精密仕上げ加工が施されており、その溝部14cに縫合糸を引っ掛けて移動させても糸切れが発生せず、極めて円滑に縫合糸を滑らせることができるようになっている。
【0041】
また、プレート状部材14bを貫通して貫通孔14dが形成されており、その貫通孔14dに連通する状態で切欠通路14eが形成されている。この切欠通路14eは、貫通孔14d周囲の枠部の一部分(図2では下枠部分14f)を斜めに切断することによって形成されており、縫合糸を出入りさせることができるようになっている。
【0042】
なお、上記切欠通路14eは、貫通孔14d後方寄りの下枠部分14fに形成することが好ましく、切欠方向は、貫通孔14dを斜めに横切る仮想線Mに沿って形成することが好ましい。
【0043】
それにより、下枠部分14fの外面に沿わせて縫合糸を移動させると、縫合糸は上記切欠通路14eから貫通孔14d内に円滑に取り込まれ、取り込まれた縫合糸は、切欠通路14eを除く貫通孔14d周囲の枠部によって保持される。
【0044】
また、プレート状部材14bの内面には滑り止め加工として、筋状に多数形成された滑止溝14gが上下方向に形成されており、第一可動部14と第二可動部15を閉じた場合に、縫合糸を移動不能に把持することができるようになっている。
【0045】
一方、第二可動部15は基本的に上記第一可動部14と同じ構成からなり、プレート状部材14bに対応するプレート状部材15b、溝部14cに対応する溝部15c、貫通孔14dに対応する貫通孔15d、切欠通路14eに対応する切欠通路15eおよび滑止溝14gに対応する滑止溝15gを備えている。
【0046】
次に、上記構成を有する結紮用鉗子1の使用方法について図3および図4を参照しながら説明する。
【0047】
なお、両図において図2と同じ構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。また、下記の説明は、内視鏡を用いた手術において止血のために血管Vを結ぶ場合を例に取り示したものである。
【0048】
図3において、血管Vの所定部位に縫合糸Sを巻き、体外で結節Saを作る。
【0049】
鉗子1を用い、上記結節Saを血管Vに向けて滑り下ろす。
【0050】
具体的には、結節Saから遠位にある側の縫合糸Sbを、切欠通路14eを通じて第一可動部14の貫通孔14d内に取り込む。
【0051】
貫通孔14d内に取り込まれた縫合糸Sbは、貫通孔14dの前側枠部分から溝部14cにわたって掛けられ、位置決めされる。
【0052】
この状態で第一可動部14を矢印F方向に移動させ、溝部14cを結節Saに当接させる。
【0053】
次に、第一可動部14を矢印G方向に移動させ、結節Saを血管Vまで送る。
【0054】
図4に示すように、結節Saを血管Vに十分近づけた状態で縫合糸Sbと縫合糸Scが略一直線の配置となるように第一可動部14を移動させる。
【0055】
次に、第一可動部14と第二可動部15を閉じると、滑止溝14gおよび15gによって縫合糸Sbが移動不能に把持される。
【0056】
この状態で第一可動部14を矢印H方向に移動させ、縫合糸Scをその逆方向に引っ張ると、結節Saが血管Vに締め付けられ、血管Vをしっかりと括ることができる。
【0057】
この時、縫合糸Sbは第一可動部14の貫通孔14d内に保持されていることにより外れる虞れがないため、素早い結紮が可能になる。また、縫合糸を持ち替えるなどの操作も不要であるため、結紮に要する時間を短縮することができる。
【0058】
また、本発明の鉗子1によれば、結紮点近傍で血管Vを括ることが可能になる。しかも指で縫合糸を括る操作と同じ感覚で結紮することができるため、血管Vにおける所望の結紮部位を正確に狙って、換言すれば位置ずれを起こすことなく結紮を行なうことができる。
【0059】
太い動脈を括る場合等、二重結紮、三重結紮を行なう場合は上記結紮操作を繰り返しことによって結節を重ねることができる。
【0060】
なお、上記実施形態では第一可動部14に形成した切欠通路14eおよび第二可動部15に形成した切欠通路15eは、それぞれ下枠部分14fおよび15fに形成したが、これに限らず、第二可動部15については切欠通路15eを上枠部分15hに形成することもできる(図2参照)。
【0061】
このように構成すれば、鉗子1の姿勢が逆、すなわち第二可動部15が手前側に位置する姿勢であっても鉗子1を持ち替えることなく結紮を行なうことができるという利点がある。
【0062】
また、切欠通路14eの切欠方向を逆にして、下枠部分14fの前側から縫合糸を滑らせて貫通孔14d内に取り込むように構成することもできる。
【0063】
また、第一可動部14および第二可動部15に形成されている溝部14cおよび15cはV字状に形成されているため、縫合糸の太さが変化しても対応することができるようになっている。
【0064】
また、上記実施形態では第一可動部14および第二可動部15の両方に貫通孔14dおよび切欠通路14eからなる掛止部を形成したが、この掛止部は両可動部14,15の少なくともいずれか一方にあれば、本発明の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る結紮用鉗子の構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す先端部の拡大斜視図である。
【図3】本発明に係る結紮用鉗子の使用方法を説明する斜視図である。
【図4】本発明に係る結紮用鉗子の使用方法を説明する別の斜視図である。
【図5】従来の結紮用鉗子の構成を示す斜視図である。
【図6】(a)および(b)は従来の結紮用鉗子の使用方法を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 結紮用鉗子
2 アーム部
3 アーム部
4 指入部
5 指入部
6 枢軸部
7 ねじ軸
8 ねじ軸
9 パイプ部
10 シャフト
11 第一リンク
12 第二リンク
13 前端部
14 第一可動部
14b プレート状部材
14c 溝部
14d 貫通孔
14e 切欠通路
14f 下枠部分
14g 滑止溝
15 第二可動部
16 ピン
17 第三リンク
18 第四リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指入部を備えた一対のアーム部を枢軸部を支点として開閉操作することにより、そのアーム部と反対側の二つの先端部が従動して開閉するように構成された結紮用鉗子において、
上記先端部の少なくともいずれか一方に、縫合糸を離脱可能に掛止する掛止部と、掛止された縫合糸を上記先端部の所定部位で保持するための溝部とが備えられていることを特徴とする結紮用鉗子。
【請求項2】
上記先端部がプレート状部材からなり、このプレート状部材に、上記掛止部として貫通孔が穿設されるとともに、その貫通孔に連通する切欠通路が形成されている請求項1記載の結紮用鉗子。
【請求項3】
上記溝部が上記プレート状部材の先端略中央に凹設されている請求項1または2記載の結紮用鉗子。
【請求項4】
上記溝部に精密仕上げ加工が施されている請求項3記載の結紮用鉗子。
【請求項5】
一対の上記プレート状部材の内面に滑り止め加工が施されている請求項2〜4のいずれか1項に記載の結紮用鉗子。
【請求項6】
上記プレート状部材の先端が円弧状に形成されている請求項2〜5のいずれか1項に記載の結紮用鉗子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−264106(P2008−264106A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109280(P2007−109280)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【特許番号】特許第4148324号(P4148324)
【特許公報発行日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(500409219)学校法人関西医科大学 (36)
【Fターム(参考)】