説明

結腸直腸癌監視のためのプロセス

本明細書において開示されるのは、選択されたmiRNA配列におけるレギュレーション変化を観察することにより、結腸直腸癌のステージを判定する方法である。この配列には、hsa−miR−31、hsa−miR−7、hsa−miR−99b、hsa−miR−378、hsa−miR−133a、hsa−miR−125a及びこれら配列の組み合わせが含まれ得る。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、2007年10月30日に提出された米国特許仮出願番号第60/983,771号に対する優先権及び利益を主張するものであり、この仮出願は全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔配列表、表、又はプログラム表の参照〕
本出願は後述の「配列表」を参照するが、これは「Sequence3035191.txt」(9kb、2008年10月30日作成)として提供されており、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
〔発明の分野〕
本発明は、1つの実施形態において、選択されたマイクロRNA(miRNA)配列の生成におけるレギュレーション変化を観察することによる結腸直腸癌(CRC)の検出及び/又は監視をするための方法に関連する。特定の配列のアップレギュレーション又はダウンレギュレーションを観察することにより、癌細胞の存在並びに癌のステージの両方を判定することができる。
【0004】
〔発明の背景〕
結腸直腸癌(CRC)は最も頻繁に起こる癌の1つであり、先進諸国における癌関連死亡の一般的な原因である。CRCの全体的な発生率は、全人口の5%であり、5年生存率は40〜60%である。予後診断は、腫瘍について形態学及び組織病理学を用いた、記述的なステージ系統に主に依存する。しかしながら、形態学的に類似の腫瘍であっても、潜在する分子変化及び腫瘍形成能は異なることがある。CRCが正常な上皮細胞から悪性の癌へと進行するには、遺伝子学的及び後成的な変化の両方の蓄積を伴う複数段階のプロセスが関与しており、これにより一時的な腫瘍形成遺伝子の活性化、並びにこういった変化を含む細胞に対し選択的な利点を付与する腫瘍抑制遺伝子の不活性化がもたらされる。
【0005】
タンパク質コード遺伝子については、潜在する分子経路を更に明らかにし、CRCのさまざまなステージを更に詳細に分析するために、数多くのCRC発現プロファイリング研究が実施されてきた。最近新たに発見された、22の短いヌクレオチド(nt)非コーディングRNA種からなるクラス(マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる)が同定され、これらが癌の発生と進行に関係していた。これら低分子RNAの生物発生は、RNAポリメラーゼIIによる転写と、エンドヌクレアーゼドローシャ(Drosha)による一次転写のプロセスとが関与し、これにより不完全なヘアピン構造を有する60〜70ntのmiRNA前駆体(pre−miRNA)が生成される。pre−miRNAはエキスポーチン5によって細胞質に運ばれ、そこでRNAアーゼIII酵素ダイサー(Dicer)によるプロセスを経て完全なmiRNAが生成され、これが多タンパク質複合体に組み込まれる。このmiRNAを含む複合体は、レジデントmiRNA鎖と標的配列との間の相補性により、並びに相同性の度合に基づき、直接的な翻訳阻害又はmRNA分解により、複数のmRNAの3’非翻訳領域(UTR)に結合することが示された。これまでに、コンピュータ化モデルにより678種のヒトmiRNA(miRBase配列データベース−リリース第11)が同定されており、ヒトゲノムにおいて現在既知である遺伝子の約3%を含む、1000を超えるmiRNA遺伝子があり得ることが示唆された。更に、バイオインフォマティクス解析によりmiRNAはヒトタンパク質コード遺伝子の最高30%をレギュレーションし得ると見積もられることから、これらの小さなRNAが複雑なシグナル伝達経路間の相互作用を調節する働きをする可能性が示唆されている。
【0006】
正常組織と腫瘍組織又は癌細胞株との間で異なる発現をするものとして、いくつかのmiRNAが同定された。(Calin, G. A. and Croce, C. M. MicroRNA signatures in human cancers. Nat Rev Cancer, 6: 857−866, 2006; Bandres, E., Cubedo, E., Agirre, X., Malumbres, R., Zarate, R., Ramirez, N., Abajo, A., Navarro, A., Moreno, I., Monzo, M., and Garcia−Foncillas, J. Identification by Real−time PCR of 13 mature microRNAs differentially expressed in colorectal cancer and non−tumoral tissues. Mol Cancer, 5: 29, 2006; Cummins, J. M., He, Y., Leary, R. J., Pagliarini, R., Diaz, L. A., Jr., Sjoblom, T., Barad, O., Bentwich, Z., Szafranska, A. E., Labourier, E., Raymond, C. K., Roberts, B. S., Juhl, H., Kinzler, K. W., Vogelstein, B., and Velculescu, V. E. The colorectal microRNAome. Proc Natl Acad Sci U S A, 103: 3687−3692, 2006; Michael, M. Z., SM, O. C., van Holst Pellekaan, N. G., Young, G. P., and James, R. J. Reduced accumulation of specific microRNAs in colorectal neoplasia. Mol Cancer Res, 1: 882−891, 2003; Lanza, G., Ferracin, M., Gafa, R., Veronese, A., Spizzo, R., Pichiorri, F., Liu, C. G., Calin, G. A., Croce, C. M., and Negrini, M. mRNA/microRNA gene expression profile in microsatellite unstable colorectal cancer. Mol Cancer, 6: 54, 2007.)
【0007】
CRCにおいては、miRNAの発現パターンを調べた研究は限られている。miRNAの脱レギュレーションを示した最初の研究では、腺腫ポリープのステージで早くもmiR−143及びmiR−145のダウンレギュレーションが報告されており、これらのmiRNAがCRCの早期ステージにおいて何らかの役割を有することが示唆されている。したがって、CRC腫瘍において異なる発現を示す13のmiRNA群が、CRC腫瘍ステージに関連するmiR−31の発現レベルとともに同定された。
【0008】
〔発明の概要〕
本発明は、1つの形態において、細胞検体中の結腸直腸癌の存在を検出するための方法を含む。別の形態において、本発明は細胞検体中の結腸直腸癌のステージを診断するための方法である。出願者らは、野生型細胞に比較して、結腸直腸癌において異なるレギュレーションを行う特定のmiRNAを発見した。このようなmiRNAにおけるレギュレーション変化の度合を判定することにより、組織検体に結腸直腸癌細胞が含まれているかどうかを判定することができる。出願者らは、早期ステージ(ステージI及びII)の結腸直腸癌に比較して、後期ステージ(ステージIII及びIV)の結腸直腸癌において異なるレギュレーションを行う、特定の他のmiRNAを発見した。これらのmiRNAを監視することにより、細胞形態学など信頼性の低い識別子に依存する必要なしに、早期ステージの腫瘍検体と、後期ステージの腫瘍検体とを区別することができる。
【0009】
〔詳細な説明〕
定義
用語「レギュレーション変化」は、野生型細胞における同じ細胞構成要素の存在量に比較した、miRNAなどの細胞構成要素の存在量の変化を指す。用語「ダウンレギュレーション」は、関心対象の細胞構成要素の存在量が減少することを指し、用語「アップレギュレーション」は、その構成要素の存在量が増加することを指す。
【0010】
miRNAのレギュレーション差異による結腸直腸細胞の同定
結腸直腸癌細胞の複数の濃度を、野生型組織と比較した場合の、37種類の異なる発現のmiRNAが同定された(表1)。細胞株と臨床検体の両方を含む細胞検体が、市販の入手源から得られた。従来の技法に従って、細胞検体から総RNAが抽出された。例えば、急速冷凍検体用のmirVana分離キット(Ambion社)、及びFFPE検体用RecoverAll(商標)総核酸分離キット(Ambion社)を使用することができる。他の従来のRNA抽出方法も使用することができる。総RNAが抽出された後、低分子(40ヌクレオチド未満)RNAがゲル電気泳動により分離できる。この検体を解析し、特定のmiRNA配列の同定及び存在量を決定した。同定及び存在量の決定には、例えばノーザンブロット解析を含むがこれに限定されない、任意の好適な技法を使用することができる。結腸直腸細胞において37の異なる発現のmiRNAが同定され、これらは野生型結腸直腸検体に比較して、顕著に改変された発現を有していた。
【表1】

a.正規化中央値信号強度(log2)
b.癌:正常
【数1】

【0011】
階層的クラスタリングにより、上記の同定されたmiRNA配列の多くは、miR−143〜−145及びmiR17−92クラスタを含め、整合して発現されているが、これらは一貫してCRC検体においてダウンレギュレーションされたことが示されている。miR−143及びmiR−145の両方におけるダウンレギュレーションは明白であり、このダウンレギュレーションは幅広い細胞株及び臨床検体にわたって一貫することが観察された。したがって、これら2つのmiRNA配列におけるレギュレーション変化を観察することが、結腸直腸癌の存在を検出する指標となる。先行技術において、miR−145は腫瘍抑制効果を有しており(Akao et al. Oncology Reports 16: 845−850, 2006; Schepeler et al. Cancer Res. 68 (15), 2008)、これらはCRC細胞でダウンレギュレーションされていることが示されている。しかしながら出願者らは、miR−145が非転移性細胞においてのみ腫瘍抑制効果を有しており、これは実際に転移環境において腫瘍形成性であることを見出した。したがって、hsa−miR−145を追加することなく腫瘍抑制hsa−miR−143を送達することが、CRCの治療的戦略となる。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、表1のmiRNAは、生体検体において観察され、野生型(非癌性)検体と比較される。存在量における予測外の変化(アップレギュレーション又はダウンレギュレーション)は、癌の指標であり得る。検体は組織検体から入手することができ、又は代わりに非組織検体から非侵襲的方法で入手することができる。例えば、血液、便、又は尿検体について、遊離miRNAを検査することができる。この方法によって、CRCのスクリーニングがより便利になる。表2は、野生型組織に比べ、早期ステージのCRC検体において異なるレギュレーションが見出された、miRNA配列を示す。これらのmiRNAは、早期発生段階のCRCの検出のために実施するスクリーニングに適する。
【表2】

【0013】
結腸直腸腫瘍のステージの判定
早期ステージ(I及びII)腫瘍に比較して、後期ステージ(III及びIV)の結腸直腸腫瘍に特徴的な、別のmiRNA配列が発見された。6つのmiRNA配列が、後期ステージと早期ステージの結腸直腸腫瘍において異なるレギュレーションを受けるものとしてそのように同定された。これらの配列を表3に列挙する。
【表3】

倍率変化=ステージIII/IV:ステージI/II
【0014】
本発明の1つの実施形態において、総RNAは細胞検体から抽出される。例えば、組織検体は、手術中に患者から取り出されてもよい。従来の技法に従って、総RNAが組織から抽出される。低分子RNAが総RNAから分離された後、1つ以上のmiRNA配列の存在量が、野生型検体に比較して測定される。この存在量は、例えばQPCRなどを含むがこれに限定されない、従来の技法を用いて測定することができる。レギュレーション変化(すなわち野生型検体に比較したアップレギュレーション又はダウンレギュレーション)に基づき、癌のステージについての判定が行われる。例えば、このステージは、早期ステージ(I又はII)の癌であるか、後期ステージ(III又はIV)の癌であるかが判定され得る。表2を参照して、後期ステージCRCの判定は、hsa−miR−31、hsa−miR−7、hsa−miR−99b、hsa−miR−378、hsa−miR−133a、hsa−miR−125a、又はこれらの配列の任意の組み合わせのmiRNAのうち、1つ以上にレギュレーション変化が観察された場合に行われ得る。
【0015】
実例として(これに制限されない)、hsa−miR−31のレギュレーション変化を観察することができる。顕著なアップレギュレーションが観察された場合、その検査検体は、後期ステージの結腸直腸癌検体であると判定することができる。特定の実施形態において、そのような判定は、レギュレーション変化の大きさ(アップレギュレーション又はダウンレギュレーション)及び度合(倍率変化)が、指定された閾値を上回る場合にのみ、行われる。例えば、いくつかの実施形態において、陽性診断は、hsa−miR−31におけるアップレギュレーションが少なくとも7倍である場合にのみ、行われる。別の実施形態において、陽性診断は、hsa−miR−7におけるアップレギュレーションが少なくとも2倍である場合にのみ、行われる。別の実施形態において、hsa−miR−99b、hsa−miR−378、hsa−miR−133a、hsa−miR−125a、及びこれらの組み合わせなど、選択された配列におけるダウンレギュレーションについて観察が行われる。これらの配列のダウンレギュレーションの予測される度合は、表2に示される。このような配列は、個別に、又は任意の組み合わせで観察され得る。
【0016】
別の実施形態において、CRCのステージは、1つを超えるmiRNAが特定のレギュレーション変化を示した場合に判定される。例えば、(1)hsa−miR−31が少なくとも7倍のアップレギュレーションを示し、かつ(2)hsa−miR−7が少なくとも2倍のアップレギュレーションを示した場合に、後期CRCの判定を行うことができる。別の実施形態において、hsa−miR−31、hsa−miR−7、又はこれらの両方におけるアップレギュレーションがあり、かつ、これらのアップレギュレーションがhsa−miR−99b、hsa−miR−378、hsa−miR−133a、hsa−miR−125a、又はこれらの組み合わせにおいてダウンレギュレーションを伴う場合に、後期CRCが存在すると判定される。7倍のアップレギュレーションといった閾値基準は、これらmiRNA配列それぞれについて確立することができる。例えば、has−amiR−133aについての閾値基準を0.6ダウンレギュレーションとして確立することができる。上記の例は、単に実例にすぎない。任意の組み合わせのmiRNA配列について、レギュレーション変化を監視することができる。
【0017】
miRNAは、前述のように、組織検体から抽出することができる。あるいは、miRNAは非組織検体から分離することができる。例えば、miRNAは血液、便、尿、又は他の生体検体から分離することができる。この検体中に見出される特定のmiRNAの存在量が、正常な検体と比較される。miRNA存在量のアップレギュレーション又はダウンレギュレーションが、癌の指標となり得る。
【0018】
添付の配列表におけるmiRNA配列は、一般に分離されるmiRNA配列を表わす。この記載される配列の末端における改変は当該技術分野において既知であり、残基が少なくとも95%相同であれば、本発明の範囲に含まれる。
【0019】
本発明は具体的な実施形態を参照して記述されるが、特定の状況に適合させるために、本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな改変を行うことができ、その構成要素について等価物に置換できることが、当業者には理解されるであろう。よって、本発明は、開示される特定の実施形態、又は本発明を実施するために想到される特定の様式に限定されることなく、本発明は、付記される請求項の範囲及び趣旨の範疇となるあらゆる実施形態を含むものとする。
【0020】
方法
細胞株
SW620、SW480、HCT116及びHT29細胞株は、ATCCから入手された。KM20L2及びKM12Cは、NCI−フレデリック癌DCT腫瘍レポジトリ(Frederick Cancer DCT Tumor Repository)から供給され、細胞株KM20及びKM12SMは、Dr Isaiah J.Fidler(テキサス大学MDアンダーソン癌センター(MD Anderson Cancer Center))から供給された。SW620及びSW480細胞は、ダルベッコ変法イーグル培地(D−MEM)(Gibco)で培養された。HCT116細胞は、マッコイ5A培地(Gibco)で培養され、KM20、KM20L2、KM12C、KM12SM及びHT29細胞は、RPMI培地1640(Gibco)で培養された。培地にはすべて、10%ウシ胎児血清(JRH Biosciences社)、2mM L−グルタミン(Gibco)及びペニシリン−ストレプトマイシン溶液(ペニシリン0.1U/mL及びストレプトマイシン0.1μg/mL)(Gibco)が加えられ、ただし例外としてHT29細胞は0.72mM L−グルタミン中で培養された。
【0021】
臨床検体
合計で49の急速冷凍ヒト組織検体が、Genomics Collaborative社(GCI:マサチューセッツ州ケンブリッジ市)又はClinomics Bioscience社(マサチューセッツ州ピッツフィールド市)から入手され、これには正常結腸4検体、ステージIが4検体、ステージIIが19検体、ステージIIIが20検体、ステージIVが2検体含まれていた(付表1)。更に、一致する8検体の、ホルマリン固定パラフィン埋め込み(FFPE)検体(ステージIIが3検体、ステージIIIが4検体、ステージIVが1検体)が入手された。全CRC検体の中央値腫瘍含有率は70%であり、早期ステージ(I及びII)と後期ステージ(III及びIV)の疾患との間に腫瘍含有率の有意差はなかった。
【0022】
miRNAプロファイリング
287本のヒトmiRNAプローブを含むmirVana Bioarray(Ambion社、バージョン1)を使用し、結腸直腸癌miRNAシグネチャを同定した。miRNAは、急速冷凍検体についてはmirVana分離キット(Ambion社)、及びFFPE検体についてはRecoverAll(商標)総核酸分離キット(Ambion社)を使用して、結腸直腸検体から得た総RNA5μgから分離された。全検体は、次にポリアクリルアミドゲル電気泳動(Flash−Page、Ambion社)によって分別され、直鎖アクリルアミドとともにエタノール沈殿により低分子RNA(<40nt)が回収された。miR−16の定量的RT−PCR(QPCR)を使用して、miRNAの濃縮を確認してから、miRNAの配列解析が行われた。
【0023】
全検体から得られた低分子RNAには、ポリ(A)ポリメラーゼ反応が行われ、アミン修飾されたウリジンが組み込まれた(Ambion社)。テール付加された検体を、次に、アミン反応性Cy3又はCy5(Invitrogen社)を使用して蛍光標識した。臨床CRC又は細胞株のプロファイリング実験にそれぞれ、一色又は二色ハイブリダイゼーションを実施した。二色実験については、細胞株miRNAが正常結腸RNA(Ambion社)と直接比較された。蛍光標識されたRNAは、ガラス繊維フィルターを用いて精製され、溶離された(Ambion社)。各検体は次にバイオアレイスライド上、42℃で14時間ハイブリダイゼーションを行った(Ambion社)。このアレイを次に洗浄し、Agilent2505B共焦点(confocol)レーザーマイクロアレイスキャナー(Agilent社)を用いてスキャンし、発現解析ソフトウェア(Codelink、バージョン4.2)を使用してデータが得られた。
【0024】
個々のmiRNAのノーザンブロット解析が次の手順で実施された。メーカー(Invitrogen社)の仕様に従って、総RNAのTRIzol抽出が実施された。簡単に言えば、細胞をPBSで洗浄し、5mL TRIzol試薬を加え、細胞を室温で5分間インキュベートした。1mLクロロホルムを加えた後、細胞を15秒間、手で激しく振り混ぜた。検体を遠心分離にかけ、水性層を、2.5mLイソプロパノールが入った15mLファルコンチューブに移した。この検体を室温で20分間インキュベートし、上記のように遠心分離にかけてRNAをペレット状に沈殿させ、これを1mL 75%EtOHで再懸濁させた。遠心分離によりRNAをペレット状に沈殿させ、空気中で乾燥させ、50μL DEPC水(Ambion社)で再懸濁させた。
【0025】
セクアゲル配列解析システム(SequaGel Sequencing System)(National Diagnostics社)を使用して調製した15% PAGE−尿素ゲルを用いてノーザンブロット解析を実施し、MiniProtean IIゲル電気泳動装置(BioRad社)を使用して電気泳動を実施した。合計40μgのRNAを10μL RNAローディングダイ(95%ホルムアミド、18mM EDTA、及び0.025%SDSの2X溶液、キシレンシアノール、並びにブロモフェノールブルー)に加え、65℃で10分間インキュベートした。検体を15%PAGE−尿素/TBEゲルに入れ、1X TBE、100Vで、ブロモフェノールブルー染料がゲルの底に達するまで電気泳動にかけた。このRNAを、Mini Trans−Blot Electrophoretic Transfer Cell(BioRad社)を使用し、0.5X TBE緩衝液中、80Vで1時間かけ、Hybond−N+膜(GE Healthcare社)上に移した。UV Stratalinker 1800(1200ジュール)(Stratagene社)を使用して、RNAを膜に架橋させた。
【0026】
膜を10mL発現ハイブリダイゼーション溶液(Clontech社)中、37℃で予備ハイブリダイゼーションさせた。Starfireオリゴヌクレオチドプローブを1分間煮沸し、このハイブリダイゼーション溶液に加えた。37℃で一晩ハイブリダイゼーションさせた後、このハイブリダイゼーション溶液を除去し、膜を2X SSC/0.1%SDSで3回すすぎ、更に2X SSC/0.1%SDS溶液で37℃において15分間洗浄した。この膜を貯蔵燐光スクリーン(Storage Phosphor Screen)(GE Healthcare社)に一晩さらし、Typhoon Trio装置(GE Healthcare社)を使用して画像化した。沸騰した0.1%SDSを直接膜に注ぎ、30分間かけてこの溶液をゆっくり冷ますことによって、付着したプローブから膜を剥がした。
【0027】
カスタム仕様のStarfireオリゴヌクレオチドプローブが、Integrated DNA Technologies社(IDT社)によって合成された。凍結乾燥されたオリゴヌクレオチドプローブを、1X TE pH8.0中に溶かし、100μMストック溶液とした。標識反応には、1X exoreaction緩衝液(NEB社)、1μL Starfireユニバーサルテンプレートオリゴヌクレオチド(IDT社)及び0.5pmol Starfireオリゴヌクレオチドプローブが含まれた。この反応混合物を1分間煮沸し、5分間かけて室温に冷ましてから、50μCiα−32P−dATP(10mCi/mL、6000Ci/mmol)(Perkin−Elmer社)及び5U exoKlenow DNAポリメラーゼ(NEB社)を加え、室温で90分間インキュベートした。40μLの10mM EDTAを加えることによって反応を止めた。結合していないα−32P−dATPは、MicroSpin G−25カラム(GE Healthcare社)を用い、メーカーの説明に従って、反応混合物から除去された。使用前に、このプローブを1分間煮沸した。
【表4】

【0028】
U6 snRNAオリゴヌクレオチドプローブ(5’AAC GCT TCA CGA ATT TGC GT 3’、配列番号61)は、20pmolオリゴヌクレオチドプローブ、1X T4ポリヌクレオチド緩衝液(NEB社)、50μCi γ−32P−dATP(10mCi/mL、6000Ci/mmol)(Perkin Elmer社)及び10U T4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB社)を使用して末端標識され、最終体積20μLを得た。プローブを37℃で30分間インキュベートした。40μLの10mM EDTAを加えることによって反応を止めた。結合していないγ−32P−dATPは、MicroSpin G−25カラム(GE Healthcare社)を用い、メーカーの説明に従って、反応混合物から除去された。使用前に、このプローブを5分間煮沸した。
【0029】
統計分析
データはRソフトウェアパッケージを使用して解析された。データはクオンタイル正規化を行ってから、遺伝子発現の差を判定した。複製検体及びプローブ値を平均し、スチューデントのt検定を実施して、検体群間で有意に異なる遺伝子を調べた。少なくとも1つの群について正規化された信号強度の中央値が100(中央値信号の75パーセンタイル)を超え、平均変化>1.5倍かつp値<0.05である場合に、遺伝子が選択された。正常検体とさまざまな癌ステージとの間のmiRNA発現レベルを評価するには、片側ANOVAが使用された。プローブレベル及び遺伝子レベルのデータ解析の両方が、全ての群の比較のため実施された。
【0030】
MiRNA QPCR
ABI miRNA Taqman試薬を使用して、QPCRを実施し、miRNA発現プロファイルを確認した(Chen, C., Ridzon, D. A., Broomer, A. J., Zhou, Z., Lee, D. H., Nguyen, J. T., Barbisin, M., Xu, N. L., Mahuvakar, V. R., Andersen, M. R., Lao, K. Q., Livak, K. J., and Guegler, K. J. Real−time quantification of microRNAs by stem−loop RT−PCR. Nucleic Acids Res, 33: e179, 2005)。メーカーの説明に従い(Ambion社)、High Capacity DNA Archiveキット及び3uLの5×RTプライマーを使用して、10ngの総RNAがcDNAに変換された。15μLの反応物を、サーマルサイクラー中で、16℃で30分間、42℃で30分間、85℃で5分間インキュベートし、次いで4℃に保持した。全ての逆転写酵素(RT)反応に、テンプレート制御は含まれなかった。標準Taqman(登録商標)PCRキットプロトコルを使用し、Applied Biosystems 7900HT配列検出システム(Sequence Detection System)上で、QPCRが実施された。10μLのPCR反応物には、0.66μLのRT生成物、1μLのTaqman microRNAアッセイプライマー及びプローブ混合物、5μLのTaqman 2×ユニバーサルPCRマスター混合物(Amperase UNGなし)並びに3.34μLの水が含まれた。反応物を384ウェルのプレートに入れ、95℃で10分間インキュベートし、次いで95℃で15秒間、60℃で2分間のサイクルを40回行った。全てのQPCR反応にはcDNA制御は含まれず、全ての反応は三重複製で実施された。
【0031】
〔実施の態様〕
(1) 抽出されたRNAから得たマイクロRNAのレギュレーション変化を、野生型結腸直腸組織検体における同じマイクロRNAに比較して観察する工程であって、前記マイクロRNAが、配列番号38、配列番号39、配列番号25、配列番号33、配列番号31、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、工程と、
観察された前記レギュレーション変化に基づいて結腸直腸癌のステージを判定する工程と、を含む、ヒトにおける結腸直腸癌のステージを判定するためのプロセス。
(2) レギュレーション変化を観察する前記工程の前に、組織検体からRNAを抽出する工程を更に含む、実施態様1に記載のプロセス。
(3) レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号38におけるアップレギュレーションを観察するものである、実施態様1に記載のプロセス。
(4) レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号39、配列番号25、配列番号33、配列番号31、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されたマイクロRNAにおけるダウンレギュレーションを観察するものである、実施態様1に記載のプロセス。
(5) レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号39におけるダウンレギュレーションを観察するものである、実施態様4に記載のプロセス。
(6) レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号25におけるダウンレギュレーションを観察するものである、実施態様4に記載のプロセス。
(7) レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号33におけるダウンレギュレーションを観察するものである、実施態様4に記載のプロセス。
(8) レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号31におけるダウンレギュレーションを観察するものである、実施態様4に記載のプロセス。
(9) 前記マイクロRNAが配列番号20を含み、レギュレーション変化を観察する前記工程が配列番号20と配列番号38の両方のアップレギュレーションを観察するものである、実施態様1に記載のプロセス。
(10) レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号20において少なくとも7倍のアップレギュレーションと、配列番号38において少なくとも2倍のアップレギュレーションとを観察するものである、実施態様9に記載のプロセス。
【0032】
(11) 配列番号20において7倍以上のアップレギュレーションがある、実施態様9に記載のプロセス。
(12) 前記マイクロRNAが配列番号38を含み、該配列番号38について2倍以上のアップレギュレーションがある場合に前記結腸直腸癌のステージがステージIII以降であると判定される、実施態様1に記載のプロセス。
(13) 結腸直腸細胞からRNAを抽出する工程と、
抽出された前記RNAから得た少なくとも2種のマイクロRNAのレギュレーション変化を、正常な結腸直腸組織検体における同じマイクロRNAに比較して観察する工程であって、前記マイクロRNAが配列番号20、配列番号38、配列番号39、配列番号25、配列番号33、配列番号31、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、工程と、
観察された前記レギュレーション変化に基づいて結腸直腸癌のステージを判定する工程と、を含む、ヒトにおける結腸直腸癌のステージを診断するためのプロセス。
(14) 前記少なくとも2種のマイクロRNAが、配列番号20及び配列番号33の両方を含む、実施態様13に記載のプロセス。
(15) 正常な結腸直腸組織検体に比較して、結腸直腸腫瘍における配列番号20の濃度において、7倍以上のアップレギュレーションがあり、かつ、
正常な結腸直腸組織検体に比較して、結腸直腸腫瘍における配列番号33の濃度において、0.6倍以上のダウンレギュレーションがある場合に、前記結腸直腸癌のステージが、ステージIII以降であると判定される、実施態様14に記載のプロセス。
(16) 配列番号20及び配列番号38の両方を含む、少なくとも2種のマイクロRNAのレギュレーション変化を観察する工程と、
観察された前記レギュレーション変化に基づいて結腸直腸癌のステージを判定する工程と、を含む、ヒトにおける結腸直腸癌のステージを診断するためのプロセス。
(17) 正常な結腸直腸組織検体に比較して、結腸直腸腫瘍における配列番号20の濃度において、7倍以上のアップレギュレーションがあり、かつ、
正常な結腸直腸組織検体に比較して、結腸直腸腫瘍における配列番号33の濃度において、0.6倍以上のダウンレギュレーションがある場合に、前記結腸直腸癌のステージが、ステージIII以降であると判定される、実施態様16に記載のプロセス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出されたRNAから得たマイクロRNAのレギュレーション変化を、野生型結腸直腸組織検体における同じマイクロRNAに比較して観察する工程であって、前記マイクロRNAが、配列番号38、配列番号39、配列番号25、配列番号33、配列番号31、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、工程と、
観察された前記レギュレーション変化に基づいて結腸直腸癌のステージを判定する工程と、を含む、ヒトにおける結腸直腸癌のステージを判定するためのプロセス。
【請求項2】
レギュレーション変化を観察する前記工程の前に、組織検体からRNAを抽出する工程を更に含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号38におけるアップレギュレーションを観察するものである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号39、配列番号25、配列番号33、配列番号31、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されたマイクロRNAにおけるダウンレギュレーションを観察するものである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号39におけるダウンレギュレーションを観察するものである、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号25におけるダウンレギュレーションを観察するものである、請求項4に記載のプロセス。
【請求項7】
レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号33におけるダウンレギュレーションを観察するものである、請求項4に記載のプロセス。
【請求項8】
レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号31におけるダウンレギュレーションを観察するものである、請求項4に記載のプロセス。
【請求項9】
前記マイクロRNAが配列番号20を含み、レギュレーション変化を観察する前記工程が配列番号20と配列番号38の両方のアップレギュレーションを観察するものである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
レギュレーション変化を観察する前記工程が、配列番号20において少なくとも7倍のアップレギュレーションと、配列番号38において少なくとも2倍のアップレギュレーションとを観察するものである、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
配列番号20において7倍以上のアップレギュレーションがある、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
前記マイクロRNAが配列番号38を含み、該配列番号38について2倍以上のアップレギュレーションがある場合に前記結腸直腸癌のステージがステージIII以降であると判定される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
結腸直腸細胞からRNAを抽出する工程と、
抽出された前記RNAから得た少なくとも2種のマイクロRNAのレギュレーション変化を、正常な結腸直腸組織検体における同じマイクロRNAに比較して観察する工程であって、前記マイクロRNAが配列番号20、配列番号38、配列番号39、配列番号25、配列番号33、配列番号31、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、工程と、
観察された前記レギュレーション変化に基づいて結腸直腸癌のステージを判定する工程と、を含む、ヒトにおける結腸直腸癌のステージを診断するためのプロセス。
【請求項14】
前記少なくとも2種のマイクロRNAが、配列番号20及び配列番号33の両方を含む、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
正常な結腸直腸組織検体に比較して、結腸直腸腫瘍における配列番号20の濃度において、7倍以上のアップレギュレーションがあり、かつ、
正常な結腸直腸組織検体に比較して、結腸直腸腫瘍における配列番号33の濃度において、0.6倍以上のダウンレギュレーションがある場合に、前記結腸直腸癌のステージが、ステージIII以降であると判定される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
配列番号20及び配列番号38の両方を含む、少なくとも2種のマイクロRNAのレギュレーション変化を観察する工程と、
観察された前記レギュレーション変化に基づいて結腸直腸癌のステージを判定する工程と、を含む、ヒトにおける結腸直腸癌のステージを診断するためのプロセス。
【請求項17】
正常な結腸直腸組織検体に比較して、結腸直腸腫瘍における配列番号20の濃度において、7倍以上のアップレギュレーションがあり、かつ、
正常な結腸直腸組織検体に比較して、結腸直腸腫瘍における配列番号33の濃度において、0.6倍以上のダウンレギュレーションがある場合に、前記結腸直腸癌のステージが、ステージIII以降であると判定される、請求項16に記載のプロセス。

【公表番号】特表2011−501966(P2011−501966A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532248(P2010−532248)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/081822
【国際公開番号】WO2009/059026
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(505060347)ベリデックス・エルエルシー (43)
【氏名又は名称原語表記】Veridex,LLC
【住所又は居所原語表記】33 Technology Drive,Warren,NJ 07059,U.S.A.
【Fターム(参考)】