説明

結膜炎関連病原体の検出方法

【課題】
本発明は、検体中に存在可能性のある結膜炎関連病原体について、一度の検査において迅速かつ正確に起炎病原体を同定するウイルス及び/又はクラミジアの検出方法、検出用試薬並びに検出用キットを提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、検体から得られるDNA又は検体から得られるRNAから合成されたcDNAを鋳型とし、結膜炎関連病原体に起因する複数種の遺伝子(核酸)をマルチプレックス核酸増幅方法により処理し、該増幅した遺伝子を検出用プローブを用いてハイブリダイゼーションし、検出する。本方法により、一度の試験において複数種の結膜炎関連病原体のいずれであるかを同定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結膜炎の起炎病原体の同定のための検出方法、検出用試薬及び検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルス(Adenovirus (AdV))、単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex virus (HSV))、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis (Ct))及びエンテロウイルス(Enterovirus (EV))等は結膜炎の原因となる。これらのウイルス及びクラミジアによる結膜炎の臨床症状は類似しているため、臨床症状からの原因ウイルスやクラミジアの病原体鑑別は困難である。
これらの結膜炎のうち、AdVによる結膜炎は伝染性が強く、病院内感染・集団発生等の原因となり、大きな問題となっている。そのためAdVと病原体との鑑別が重要である。また、HSVによる結膜炎は治療法が確立しており、原因がHSVと特定された場合には、速やかに治療が行うことができる。
【0003】
現在、ウイルス又はクラミジアによる結膜炎の診断は、眼脂の塗抹標本検査、抗原検出、遺伝子検出などの病原体特異的検査が行なわれている。塗抹所見を参考にして、抗原検出や遺伝子検出が行なわれるのが一般的である。ウイルス又はクラミジアによる結膜炎において、起炎病原体がAdVの場合には、結膜炎の病院内感染・集団感染等、医療的・社会的影響が大きいため、免疫クロマトグラフィー法を原理とした簡易抗原検出キットが市販され、臨床現場で広く用いられている。
【0004】
遺伝子型の解析方法として、出願人らはAdVのヘキソン(hexon)遺伝子の一部の塩基配列を用いた遺伝子系統解析による血清型鑑別(特許文献1)、AdVの検出方法(特許文献2)、EVのVP4の一部の塩基配列を用いた遺伝子系統解析による血清型鑑別(特許文献3)、HSVのグリコプロテインG遺伝子のPCR増幅産物と型特異的プローブを用いた型鑑別等を行ってきた。
しかし、ウイルス又はクラミジアによる結膜炎の病原体検出に関しては、有効な方法が確立しておらず、単一の検査で検出できる病原体は一つであった。
【0005】
【特許文献1】特開2004-008126号公報
【特許文献2】特開2004-057207号公報
【特許文献3】特開平11-346799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、検体中に存在可能性のある結膜炎関連病原体について、一度の検査において迅速かつ正確に起炎病原体を同定するウイルス及び/又はクラミジアの検出方法、検出用試薬並びに検出用キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、検体から得られるDNA又は検体から得られるRNAから合成されたcDNAを鋳型とし、結膜炎関連病原体に起因する複数種の遺伝子をマルチプレックス核酸増幅方法により処理し、該増幅した遺伝子を遺伝子検出用プローブを用いることにより、一度の試験において複数種の結膜炎関連ウイルス及び/又はクラミジアの何れであるかを同定しうることを確認し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.検体から得られるDNA又は検体から得られるRNAから合成されたcDNAを鋳型とし、少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体由来のプライマーを用いてマルチプレックス核酸増幅処理を行うことにより増幅産物を得、該増幅産物と結膜炎関連病原体由来の核酸プローブとのハイブリッド形成を検出することを特徴とする検体に存在可能性のある結膜炎関連病原体の検出方法。
2.結膜炎関連病原体が、少なくともアデノウイルス(Adenovirus)及び単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex virus)を含む前項1に記載の検出方法。
3.結膜炎関連病原体として、さらに、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)及び/又はエンテロウイルス(Enterovirus)を含む前項2に記載の検出方法。
4.結膜炎関連病原体由来のプライマーが、アデノウイルスのヘキソン(hexon)遺伝子、単純ヘルペスウイルスのグリコプロテインG遺伝子、クラミジア・トラコマチスのMOMP遺伝子及びエンテロウイルスのVP4遺伝子の各塩基配列のいずれかより選択される前項2又は3に記載の検出方法。
5.増幅産物を得るためのプライマーが、以下の塩基配列からなる少なくとも一のオリゴヌクレオチドである前項1〜4のいずれか一に記載の検出方法:
1)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列;
2)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列;
3)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
4)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列。
6.結膜炎関連病原体の検出のためのプローブが、以下の塩基配列からなる少なくとも一のオリゴヌクレオチドである前項1〜5のいずれか一に記載の検出方法:
1)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列;
2)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列;
3)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
4)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列;
6)GenBank Accession No. NC_001460、同No. AF120934、同No. NC_001798、同No. X52080及び同No.D00820のいずれか一に示される塩基配列若しくはその相補的な配列の一部とハイブリダイズしうる塩基配列。
7.以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから選択され、少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体を増幅しうるプライマーセット:
1)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列;
2)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列;
3)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
4)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列。
8.以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから選択され、少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体を検出しうるプローブセット:
1)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列;
2)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列;
3)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
4)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列;
6)GenBank Accession No. NC_001460、同No. AF120934、同No. NC_001798、同No. X52080及び同No.D00820のいずれか一に示される塩基配列若しくはその相補的な配列とハイブリダイズしうる塩基配列。
9.前項7に記載のプライマーセット及び/又は前項8に記載のプローブセットを含む結膜炎関連病原体検出用キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、結膜炎関連ウイルス及び/又はクラミジア、具体的にはアデノウイルス(AdV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、クラミジア・トラコマチス(Ct)及びエンテロウイルス(EV)のいずれかを、一度の試験において特異的に検出することができる(以下、各ウイルスを略称で記載する場合もある。)。更に本検出系により、遺伝子系統解析による型鑑別が可能となる。本発明の方法により、従来不十分であった結膜炎起炎ウイルスの同定を速やかに行なうことができ、適切な治療方法を提供することができる。さらに、本発明の検出方法により、各ウイルス及び/又はクラミジアの系統解析を迅速に行うことも可能となり、これにより結膜炎が流行した場合の感染経路を追跡することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、結膜炎関連病原体とは、AdV、HSV、Ct及び/又はEVを含む。本発明の検出方法における少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体とは、少なくともAdV及びHSVを含む。さらに、Ct及び/又はEVを含んでいてもよい。
【0011】
本発明において、結膜炎関連病原体検出のために用いるプライマーまたはプローブの塩基配列は、結膜炎関連ウイルス又はクラミジアに特異的な塩基配列であれば良いが、特に他の病原体等と交差反応を示さない部位を検出することが好ましい。具体的にはAdVについてはヘキソン(hexon)遺伝子、HSVについてはグリコプロテインG遺伝子、CtについてはMOMP遺伝子、EVについてはVP4遺伝子の各塩基配列のいずれかを検出することができるのが好ましい。HSVについては、HSV-1及びHSV-2について各々区別して検出することができる。
【0012】
AdVのヘキソン遺伝子の一部は、GenBank Accession No. NC_001460:AdV-12に示す塩基配列に表される。同様に、HSV-1のグリコプロテインG遺伝子の一部は、GenBank Accession No. AF120934に示す塩基配列に、HSV-2のグリコプロテインG遺伝子の一部は、GenBank Accession No. NC_001798に示す塩基配列に、CtのMOMP遺伝子の一部は、GenBank Accession No. X52080に示す塩基配列に、EVのVP4遺伝子の一部は、GenBank Accession No.D00820に示す塩基配列に表される。
【0013】
本発明において、結膜炎関連病原体に起因する遺伝子(核酸)の増幅産物を得るためのプライマーとして、具体的には以下に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを例示することができる。以下において、YはC又はT, NはA, T, G 又はCであり、KはG又はTであり、RはA又はGであり、WはA又はTである。
i) AdVのヘキソン遺伝子の一部増幅用
上流プライマー:5'-TTYTTCCCCATGGCNCACAAYAC-3' (配列番号1)
下流プライマー:5'-ACCTGCCKRCTCATRGGCTGRAAGTT-3' (配列番号2)
ii) HSVのグリコプロテインG遺伝子の一部増幅用
上流プライマー(HSV-1):5'-CCACCACCCAACCCCAACTCCAG-3' (配列番号3)
上流プライマー(HSV-2):5'-AACGGACCCAAAGACGCACC-3' (配列番号4)
下流プライマー(HSV-1,2):5'-TCGCCGTCCCCGGCGCCCTC-3' (配列番号5)
iii) CtのMOMP遺伝子の一部増幅用
上流プライマー:5'-CCTGCTGAACCAAGCCTTATGATCGA-3' (配列番号6)
下流プライマー:5'-TTCATCTTGTTYAAYTGCAAGGARACGATTTGCA-3' (配列番号7)
iv) EVのVP4遺伝子の一部増幅用
上流プライマー:5'-CCTCCGGCCCCTGAATGCGGCTAAT-3' (配列番号8)
下流プライマー:5'-TCWGGKAGCTTCCACCACCAYCC-3' (配列番号9)
【0014】
本発明において、増幅産物を得るためのプライマーとは、1)上記配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列の他、以下の2)〜5)のいずれかの塩基配列から選択されるオリゴヌクレオチドを含む。
2)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列。
3)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列。
4)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列。
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列。
本発明の検出方法に使用されるプライマーは、後の検出工程を考慮して、標識物質を含むこともできる。
【0015】
本発明の結膜炎関連病原体由来のプライマーを用いて核酸増幅処理するために、上記のプライマーのうち、AdV用に配列番号1及び2関連の各プライマーから適切なものを選択し、上流プライマー及び下流プライマーをセットとして使用することができる。同様にHSV-1用に配列番号3及び5関連、HSV-2用に配列番号4及び5関連、Ct用に配列番号6及び7関連、EV用に配列番号8及び9関連の各プライマーを選択したものをセットとして使用することができる。
【0016】
従って、本発明の少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体を検出するための核酸増幅のために、上記から選択される少なくとも2種の異なる病原体用プライマーセットを用いることができる。特に本発明において、少なくともAdV、HSV-1及び/若しくはHSV-2関連遺伝子を増幅しうるプライマーを選択して使用することが望ましい。上述の如く、AdVによる結膜炎は伝染性が強く、院内感染・集団発生等の原因となりうるので、AdVと他のウイルスとの鑑別が重要である。また、HSVによる治療方法は既に確立しているため、HSVと他のウイルスを鑑別して検出することができれば、有意義である。
【0017】
本発明におけるマルチプレックス核酸増幅処理とは、複数種のDNAを含む検体について、少なくとも2種以上のDNAを鋳型とし、各種プライマーを用いて、一度の処理で少なくとも2種以上のDNA、即ち核酸を増幅しうる処理をいう。このような処理方法は、マルチプレックスPCR法が公知であるが、PCR法のほか、他の核酸増幅方法においてマルチプレックスに核酸を増幅できる方法であれば、特に限定されることはない。
【0018】
本発明の検出方法において、マルチプレックス核酸増幅処理により増幅した核酸が、結膜炎関連病原体のいずれに起因するものであるかを検出するために、所望のウイルス又はクラミジアを検出するプローブを用いて増幅した核酸とハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズした核酸を検出することが必要である。本発明では、上述の如く結膜炎関連病原体として、少なくともAdV及びHSVが挙げられ、更にCt及び/又はEVを含むことができる。本発明のプローブは、これらのウイルス又はクラミジアを検出しうるプローブであれば良く、具体的にはGenBank Accession No. NC_001460、同No. AF120934、同No. NC_001798、同No. X52080及び同No.D00820のいずれか一に示される塩基配列又はこれらに相補的な配列とハイブリダイズしうる配列を有するものであればよい。
【0019】
本発明において、結膜炎関連病原体を検出しうるプローブとして、具体的には以下に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを例示することができる。
AdV検出用:5'-GCCATGCTGCGCAACGACACCAA-3' (配列番号10)
HSV-1検出用:5'-AACATGACCCAGACCGGCAC-3' (配列番号11)
HSV-2検出用:5'-AACATCGCGGCGGACCCGAGA-3' (配列番号12)
Ct検出用:5'-AATATGTTCACTCCYTACATTGGAGTTAAATGGTC-3' (配列番号13)
EV検出用:5'-CTACTTTGGGTRWCCGTGTTTCCTTTT-3' (配列番号14)
【0020】
本発明において、結膜炎関連病原体の検出のためのプローブとは、1)上記配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列の他、以下の2)〜6)のいずれかの塩基配列から選択されるオリゴヌクレオチドを含む。
2)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列。
3)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列。
4)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列。
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列。
6)GenBank Accession No. NC_001460、同No. AF120934、同No. NC_001798、同No. X52080及び同No.D00820のいずれか一に示される塩基配列若しくはその相補的な配列とハイブリダイズしうる塩基配列。
【0021】
本発明の検出方法は、少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体由来のプローブを用いて増幅産物を同定し、検出することを特徴とする。従って、上記のプローブのうち、AdV検出用に配列番号10関連の塩基配列を有するプローブを用い、同様にHSV-1検出用に配列番号11関連、HSV-2検出用に配列番号12関連、Ct検出用に配列番号13関連、EV検出用に配列番号14関連の塩基配列を有するプローブを用いる。従って、本発明の少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体を検出するために、上記から選択される少なくとも2種の異なるウイルス又はクラミジア用プローブを用いることができる。特に本発明において、少なくともAdV、HSV-1及び/若しくはHSV-2関連遺伝子を検出しうるプローブを選択して使用することが望ましい。
【0022】
本発明のプライマー又はプローブとしての機能を有するオリゴヌクレオチドは、自体公知の方法により製造することができ、例えば化学的に合成することができる。あるいは、天然の核酸を制限酵素などによって切断し、上記のような塩基配列で構成されるように改変し、あるいは連結することも可能である。具体的には、オリゴヌクレオチド合成装置(アプライドバイオシステムズ社製 Expedite Model 8909 DNA合成機)等を用いて合成することができる。また、1ないし数個の塩基を置換、欠失、挿入もしくは付加するといった変異させたオリゴヌクレオチドの合成法も、自体公知の製法を使用することができる。例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはポリメラーゼ連鎖増幅法(PCR)を単独または適宜組み合わせて、例えば、Molecular Cloning;A Laboratory Manual、2版、Sambrookら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1989年;[ラボマニュアル遺伝子工学]、村松正實編、丸善株式会社、1988年;[PCRテクノロジー、DNA増幅の原理と応用]、Ehrlich,HE.編、ストックトンプレス、1989年等に記載の方法に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、例えばUlmerの技術(Science(1983)219:666)を利用することができる。
【0023】
ここにおいて、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は一般に知られたものを選択することができ、その一例としては、50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mM クエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム,pH7.6、5×デンハーツ溶液、10%デキストラン硫酸、および20μg/mLのDNAを含む溶液中、42℃で一晩ハイブリダイゼーションした後、室温で2×SSC・0.1%SDS中で一次洗浄し、次いで、約65℃において0.1×SSC・0.1%SDSで二次洗浄といった条件があげられる。
【0024】
本発明において、結膜炎関連病原体検出のために使用しうる検体として、従来結膜炎検出のために使用した生体検体、例えば患部(結膜)の擦過物、涙液、眼脂、眼洗浄液、目薬等を例示することができる。
【0025】
マルチプレックス核酸増幅処理前の検体は、核酸増幅方法を行う前の通常の方法で前処理をすることができる。例えば、核酸増幅のために、検体からDNA及び/又はRNAを抽出する必要がある。該DNA及び/又はRNAの抽出は、自体公知の方法を適用することができ、また既に市販されている抽出用キットを使用することができる。
【0026】
本発明におけるマルチプレックス核酸増幅処理は、自体公知の方法を適用することができる。
マルチプレックス核酸増幅処理法は、1チューブの中に、複数種のプライマーセットが混在しているため、多くの臨床検体を検査する場合、予期せぬ非特異的増幅産物を生成することが予想される。従って、従来の様な電気泳動によるPCR増幅産物の確認は適さないと考えられる。
本発明において、結膜炎関連病原体検出は、増幅産物と結膜炎関連病原体由来の核酸プローブとのハイブリッド形成を指標とする。該ハイブリッド形成方法は特に限定されず、例えば核酸増幅工程で標識物質で標識したプライマーを用いて核酸を増幅させ、該増幅した核酸をプローブとハイブリッド形成させたものを、該標識物質を指標として検出する方法や、プローブを蛍光物質等の標識物質で標識したものに増幅産物をハイブリダイズさせて検出する方法を適用することができる。具体的には、DNAマイクロアレイ法、サザンブロッティング法、マイクロプレートハイブリダイゼーション法、リアルタイムPCR等が例示される。
【0027】
本発明は、結膜炎関連病原体の検出方法の他、該検出方法に使用される少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体を増幅しうるプライマーセット、少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体を検出しうるプローブセット並びにこれらのプライマーセット及び/又はプローブセットを含む結膜炎関連病原体検出用キットにも及ぶ。結膜炎関連病原体検出用キットには、該検出用プライマー、プローブの他、検出に必要な試薬、器具等も適宜含めることができる。
【実施例】
【0028】
本発明の理解を助けるために実施例を設けて以下説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことは明らかである。
【0029】
(実施例1)各種プライマーの設計
以下に示す各プライマーを合成した。プライマーの合成は、専門業者に依頼した。各々のプライマーは、後のPCR増幅産物のEIA検出を考慮し、下流プライマーの5'末端をビオチンで標識した。
【0030】
1)アデノウイルス(AdV) ヘキソン遺伝子増幅用プライマー
特開2004-57207号公開公報に記載の方法に基づき、ヒトアデノウイルス1〜51血清型間で保存されている領域にプライマーを設計した。検出感度及び特異性、増幅産物を用いた血清型鑑別を考慮し、ヘキソン遺伝子の一部(554bp)(nt19,498-20,051:Accession No. NC_001460:AdV-12)の核酸を増幅するために、以下のプライマーを用いた。
a)上流プライマー
AdvU-S'L:5'-TTYTTCCCCATGGCNCACAAYAC-3' (配列番号1)
b)下流プライマー(5'末端をビオチン標識)
AdnU-A2L:5'-ACCTGCCKRCTCATRGGCTGRAAGTT-3' (配列番号2)
【0031】
2)単純ヘルペス(HSV) グリコプロテインG遺伝子増幅用プライマー
検出感度、特異性と増幅産物のサイズから単純ヘルペスウイルス1型と2型を鑑別することを考慮し、HSV-1のグリコプロテインG遺伝子の一部(138bp)(nt154-291:Accession No. AF120934:HSV-1)及びHSV-2のグリコプロテインG遺伝子の一部(77bp)(nt139,493-139,569:Accession No. NC_001798:HSV-2)の核酸を増幅するため、以下のプライマーを用いた。
c) HSV-1 上流プライマー:
gD1':5'-CCACCACCCAACCCCAACTCCAG-3' (配列番号3)
d) HSV-2 上流プライマー
HS2US4PR:5'-AACGGACCCAAAGACGCACC-3' (配列番号4)
e) HSV-1,-2共通下流プライマー(5'末端をビオチン標識)
HSGC:5'-TCGCCGTCCCCGGCGCCCTC-3' (配列番号5)
【0032】
3)クラミジア・トラコマチス MOMP遺伝子増幅用プライマー
検出感度、特異性と増幅産物を用いた血清型鑑別を考慮し、MOMP遺伝子の一部(920bp)(nt506-1,425:Accession No. X52080:C. trachomatis)の核酸を増幅するため、以下のプライマーを用いた。
f) 上流プライマー
CT-S2L:5'-CCTGCTGAACCAAGCCTTATGATCGA-3' (配列番号6)
g) 下流プライマー(5'末端をビオチン標識)
CT-U2L3:5'-TTCATCTTGTTYAAYTGCAAGGARACGATTTGCA-3' (配列番号7)
【0033】
4)エンテロウイルス VP4遺伝子増幅用プライマー
特開平11-346799号公開公報(特許文献3)に記載の方法に基づき、検出感度、結膜炎から検出されるエンテロウイルス70型及びCA24vに対する特異性、増幅産物を用いた型鑑別を考慮し、VP4遺伝子の一部(690bp)(nt472-1,161:Accession No. D00820:EV70)の核酸を増幅するため、以下のプライマーを用いた。
h) 上流プライマー
EVP2:5'-CCTCCGGCCCCTGAATGCGGCTAAT-3' (配列番号8)
i) 下流プライマー(5'末端をビオチン標識)
OL68-1conjL :5'-TCWGGKAGCTTCCACCACCAYCC-3' (配列番号9)
(但しYはC又はTであり、 NはA, T, G 又はCであり、KはG又はTであり、RはA又はGであり、WはA又はTである。)
【0034】
(実施例2)各種プローブの設計
以下に示す各プローブを合成した。プライマーの合成は、専門業者に依頼した。全てのプローブは、C6リンカーを介して5' 末端にアミノ基を標識した。
【0035】
1)AdV検出用プローブ
AdV-DE2-Am:5'-GCCATGCTGCGCAACGACACCAA-3'(配列番号10)
2)HSV-1型検出用プローブ
HS1US4PR-Am:5'-AACATGACCCAGACCGGCAC-3'(配列番号11)
3)HSV-2型検出用プローブ
HS2US4PR-Am:5'-AACATCGCGGCGGACCCGAGA-3'(配列番号12)
4)Ct検出用プローブ
CT2-Am :5'-AATATGTTCACTCCYTACATTGGAGTTAAATGGTC-3'(配列番号13)
5)EV検出用プローブ
EVP-2-Am :5'-CTACTTTGGGTRWCCGTGTTTCCTTTT-3'(配列番号14)
(但しRはA又はGであり、WはA又はTである。)
【0036】
今回使用したマイクロタイタープレート(DNA-BIND 1×8 Stripwell plates:コーニング コースター社製)へのアミノ基標識プローブの固相はプレート付属のプロトコルに従った。
【0037】
(実験例1)市販ウイルスを用いたウイルスの検出確認
1.ウイルス
ATCCより購入したヒトアデノウイルス8型、単純ヘルペスウイルス1型及び2型、クラミジア・トラコマチス、及びヒトエンテロウイルス70型のウイルス培養上清液を用いた。
【0038】
2.ウイルスDNA及びRNAの抽出
スマイテストEX-R&D(ゲノムサイエンス研究所)を用い、添付文書に記載の方法に従い、ウイルス培養上清液100μLから、DNA及びRNAを抽出した。乾固後のDNA及びRNAに100μLのTE緩衝液(pH8.0)を加え、溶解したものをサンプルとした。
なお、エンテロウイルスはRNAウイルスのため、cDNAの合成を行なった。cDNAの合成は一般的に用いられる方法に準拠した。M-MLV reverse Transcriptaseとエンテロウイルス遺伝子増幅用下流プライマーOL68-1conjLが混在した反応液10μLに先述のサンプル10μLを添加し37℃で1時間反応させ、エンテロウイルスターゲット遺伝子RNAに相補的なcDNAを合成した。
【0039】
3.マルチプレックスPCR反応
実施例1に記載の5種の上流プライマーと4種の下流プライマーを含む増幅反応液40μLに、抽出した核酸の各5μLと合成したcDNAの5μLを添加して、核酸増幅装置(GeneAmp PCR System 9600:パーキン エルマー社)を使用し、以下の条件でマルチプレックスPCR反応を行った。
95℃、15分+(95℃、15秒/66℃、30秒/72℃、30秒)50 サイクル+72℃、7分
【0040】
4.マイクロタイタープレートハイブリダイゼーションアッセイ
上記PCRによって増幅されたAdV、HSV-1型及び2型、Ct及びEVの各DNAは、液相ハイブリダイゼーションを原理としたマイクロタイタープレートハイブリダイゼーションアッセイにて検出した。
マイクロタイタープレートの各ウェルには実施例2に示した特異的オリゴヌクレオチドプローブを固相した。
【0041】
各々のPCR産物は、95℃で5分熱処理したあと、氷中にて急冷し変性させた。
プローブを固相したマイクロタイタープレートにハイブリダイゼーション用緩衝液(5×SSC、0.02%SDS)を100μL/ウェル添加した後、上記熱処理により得られた変性PCR産物を5μLサンプリングし、各ウェルに添加した。
37℃、90分インキュベートした後、洗浄用緩衝液1(0.2×SSC、0.1%SDS)でウェルを2回洗浄した。ストレプトアビジン-PODコンジュゲート溶液を100μL/ウェル添加し、37℃、15分インキュベートした。洗浄用緩衝液2(0.1% Tween20 in PBS)でウェルを洗浄後、TMB(3, 3', 5, 5'-Tetramethylbenzidine)溶液を100μL/ウェル添加し、暗所にて10分静置した。希硫酸を100μL/分加えた後、マイクロプレートリーダーで波長450nmでのOD(450nm)値を測定した。
【0042】
5.結果
1)マルチプレックスPCRの検出感度
アデノウイルス8型(AdV-8)、単純ヘルペスウイルス1型及び2型(HSV-1, HSV-2)、クラミジア・トラコマチス(Ct)のDNA及びエンテロウイルス70型(EV70)のcDNAはPCRで全て増幅された。それらのPCR産物を挿入して、各々組換えプラスミドを作製し、更にプラスミド希釈系列を調製した。このプラスミド希釈系列を用いてマルチプレックスPCRの感度を求めたところ、各々以下の表のようになった。
【表1】

【0043】
2)プローブの特異性
各プローブに、PCR検出対象となる結膜炎病原体である各ウイルス及びクラミジアの増幅産物をハイブリダイゼーションさせ、交差反応を確認した。その結果、各々のプローブに交差反応は認められず、特異性は高かった。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明の方法により、結膜炎の主な病原体であるアデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、クラミジア・トラコマチス及びエンテロウイルスを、1テストで特異的に検出することができる。これにより、これまであまり行なわれなかった結膜炎起炎病原体の同定が速やかに行なわれ、治療方針の決定、感染拡大の防止等の効果が得られ、臨床的意義は大変高い。
更に、本発明の方法において、核酸増幅処理すべき領域を、遺伝子系統解析による型鑑別が可能な領域を選択することにより、塩基配列を解読した後遺伝子系統解析による型鑑別を行うことができる。具体的には実施例に記載の領域のプライマーを使用することで、PCR増幅産物の遺伝子系統解析が可能となり、発生した結膜炎が散発症例なのか、院内感染・集団感染なのかの解析の一助となり、疾患の疫学調査にも有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体から得られるDNA又は検体から得られるRNAから合成されたcDNAを鋳型とし、少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体由来のプライマーを用いてマルチプレックス核酸増幅処理を行うことにより増幅産物を得、該増幅産物と結膜炎関連病原体由来の核酸プローブとのハイブリッド形成を検出することを特徴とする、検体に存在可能性のある結膜炎関連病原体の検出方法。
【請求項2】
結膜炎関連病原体が、少なくともアデノウイルス(Adenovirus)及び単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex virus)を含む請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
結膜炎関連病原体として、さらに、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)及び/又はエンテロウイルス(Enterovirus)を含む請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
結膜炎関連病原体由来のプライマーが、アデノウイルスのヘキソン(hexon)遺伝子、単純ヘルペスウイルスのグリコプロテインG遺伝子、クラミジア・トラコマチスのMOMP遺伝子及びエンテロウイルスのVP4遺伝子の各塩基配列のいずれかより選択される請求項2又は3に記載の検出方法。
【請求項5】
増幅産物を得るためのプライマーが、以下の塩基配列からなる少なくとも一のオリゴヌクレオチドである請求項1〜4のいずれか一に記載の検出方法:
1)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列;
2)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列;
3)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
4)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列。
【請求項6】
結膜炎関連病原体の検出のためのプローブが、以下の塩基配列からなる少なくとも一のオリゴヌクレオチドである請求項1〜5のいずれか一に記載の検出方法:
1)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列;
2)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列;
3)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
4)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列;
6)GenBank Accession No. NC_001460、同No. AF120934、同No. NC_001798、同No. X52080及び同No.D00820のいずれか一に示される塩基配列若しくはその相補的な配列の一部とハイブリダイズしうる塩基配列。
【請求項7】
以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから選択され、少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体を増幅しうるプライマーセット:
1)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列;
2)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列;
3)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
4)配列表の配列番号1〜9のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列。
【請求項8】
以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから選択され、少なくとも2種以上の結膜炎関連病原体を検出しうるプローブセット:
1)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列;
2)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列;
3)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
4)配列表の配列番号10〜14のいずれか一に表される塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる塩基配列;
5)前記1)〜4)の塩基配列のうち一ないし数個の塩基が、置換、欠失、挿入若しくは付加された塩基配列;
6)GenBank Accession No. NC_001460、同No. AF120934、同No. NC_001798、同No. X52080及び同No.D00820のいずれか一に示される塩基配列若しくはその相補的な配列とハイブリダイズしうる塩基配列。
【請求項9】
請求項7に記載のプライマーセット及び/又は請求項8に記載のプローブセットを含む結膜炎関連病原体検出用キット。

【公開番号】特開2006−136239(P2006−136239A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328697(P2004−328697)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(591122956)株式会社三菱化学ビーシーエル (45)
【Fターム(参考)】