説明

給電装置

【課題】構成する電気二重層キャパシタの使用数量を減らすことができ、蓄電密度、エネルギー密度を高め装置の小型、軽量化を実現した給電装置の提供。
【解決手段】温度対抵抗値が正特性を示す負荷5に対し電力を供給する給電装置であって、キャパシタ蓄電電源1と、充電回路3と、放電回路4と、前記負荷5に給電を開始する信号に応じて前記充電回路3及び放電回路4を制御する制御回路6と、を備え、前記キャパシタ蓄電電源1には尖頭電圧と前記尖頭電圧より低い待機電圧とを設定がされており、前記制御回路6は、前記負荷5に給電していない待機時に前記キャパシタ蓄電電源1を前記待機電圧以下の電圧の充電状態に維持し、前記負荷5に給電を開始する信号が入力されたとき、前記キャパシタ蓄電電源1を前記尖頭電圧まで充電した後、前記負荷5に放電を行うように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタを利用した給電装置に関し、さらに詳しく言えば、温度対抵抗値が正特性を示すヒータを急速に発熱状態とするのに好適な給電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、二次電池に比べて急速な充放電が可能であるとともに、サイクル寿命がはるかに長いため、近年その用途が拡大しており、その一つとして特許文献1には、画像形成装置(電子写真方式による複写機)が備える定着装置の定着ヒータ用電源への適用が開示されている。
【0003】
すなわち、特許文献1に記載の発明では、記録媒体に転写したトナー像を加熱,加圧して記録媒体に固着させるにあたって、その定着装置に電力を供給して加熱する主電源装置と補助電源装置とを備え、主電源装置は商用電源に接続されるが、補助電源装置には電気二重層キャパシタが用いられる。
【0004】
定着装置の加熱動作時には、主電源装置から定着装置に供給される電力に加えて、電気二重層キャパシタからも定着装置に電力を供給することにより、定着装置の定着ヒータを急速に加熱する一方で、待機状態時には主電源装置より電気二重層キャパシタを充電するようにしている。
【特許文献1】特許第3588006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のものにおいては、電気二重層キャパシタの利用効率についてはまでは考慮されていない、という問題があった。すなわち、複写機などの画像形成装置においては小型化が求められており、これに伴い、電源装置として電気二重層キャパシタを実装する場合には、電気二重層キャパシタが占めるスペースをなるべく狭くする必要があるが、特許文献1のものはこのようなことが考慮されていない。
【0006】
この発明は、電気二重層キャパシタを利用したキャパシタ蓄電電源の利用可能な実エネルギー密度を高めると共に、負荷の運転開始時に所望の電圧まで効率よく充電し、電気二重層キャパシタを無駄なく効率的に利用できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記のような種々の課題を解決するものであって、そのために請求項1に係る発明は、温度対抵抗値が正特性を示すヒータに対し電力を供給する給電装置であって、キャパシタ蓄電電源と、前記キャパシタ蓄電電源に充電を行う充電回路と、前記キャパシタ蓄電電源から前記ヒータに放電を行う放電回路と、前記ヒータに給電を開始する信号に応じて前記充電回路及び放電回路を制御する制御回路と、を備え、前記キャパシタ蓄電電源には尖頭電圧と前記尖頭電圧より低い待機電圧とを設定がされており、前記制御回路は、前記ヒータに給電していない待機時に前記キャパシタ蓄電電源を前記待機電圧以下の電圧の充電状態に維持し、前記ヒータに給電を開始する信号が入力されたとき、前記キャパシタ蓄電電源を前記尖頭電圧まで充電した後、前記ヒータに放電を行うように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の給電装置によれば、構成する電気二重層キャパシタの使用数量を減らすことができ、より蓄電密度、エネルギー密度を高め装置の小型、軽量、コンパクト化を図ることができる。
【0009】
また、本発明の給電装置によれば、まずキャパシタ蓄電電源を尖頭電圧まで充電することによって、給電電圧を上昇させ、負荷に給電することによって、突入電流を積極的に増加させて、起動時低抵抗負荷であるヒータの抵抗を素早く増加させ、結果として、ヒータを素早く加熱するようにして、適正な発熱を得るまでの立ち上がりの時間を短縮するようにしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施の形態に係る給電装置のブロック構成を示す図であり、図2は本発明の実施の形態に係る給電装置におけるスイッチ設定に伴う給電種別を説明する図であり、図3は本発明の実施の形態に係る給電装置におけるキャパシタ蓄電電源の使用方法を説明する図である。
【0011】
図中、1はキャパシタ蓄電電源、2は商用電源、3は充電回路、4は放電回路、5は負荷、6は制御回路、7、8、9はスイッチ回路(SW)、EDLCは電気二重層キャパシタを示す。
【0012】
図1において、キャパシタ蓄電電源1は、複数個のキャパシタを直並列に接続することによって、負荷5の要求に応じた定格容量の構成とし、充電して蓄電し負荷5に給電するものである。また、キャパシタ蓄電電源1は、例えば電気二重層キャパシタ、ナノゲートキャパシタなどを用いて構成するものであり、短時間の大電流放電、大電力の供給を可能にするものである。充電回路3は、商用電源2を電源として、これらの電源からキャパシタ蓄電電源1を充電する回路であり、放電回路4は、負荷5に対する給電要求に応じて、充電回路3からの電力及び/又はキャパシタ蓄電電源1から蓄電された電力を放電するも
のである。
【0013】
制御回路6は、負荷5の運転開始や給電要求の指令信号を、負荷5の負荷状態、キャパシタ蓄電電源1の充電電圧Vcが入力されて、充電回路3、放電回路4、スイッチ回路7
、8、9を制御する。また、制御回路6は、このような上記のような制御と共に、キャパシタ蓄電電源1の充放電を制御するものである。
【0014】
そのためにまた制御回路6は、キャパシタ蓄電電源1、負荷5の構成、要求される制御の内容によって、適宜キャパシタ蓄電電源1の充放電電流、充電電圧、温度などの検出信号、負荷5の端子電圧、負荷電流(放電電流)などの検出信号、その他充電回路3、放電回路4の制御に必要な検出信号を入力する。これによって、例えば、キャパシタ蓄電電源1を構成する複数個の電気二重層キャパシタのバンク切換などを行いつつ、キャパシタ蓄電電源1の充電放電制御を行う。このようなキャパシタ蓄電電源1の制御には従来周知の方法を適宜用いることができる。
【0015】
本実施形態において特筆すべきであることは、制御回路6において、尖頭電圧Vcpとそれより低い待機電圧Vchとを設定して、負荷5に給電を開始する前後でキャパシタ蓄電電源1の充放電を制御していることである。
【0016】
すなわち、キャパシタ蓄電電源1の充電電圧Vcは、負荷5が運転停止、運転待機、運
転休止等により給電を要求していない時、図3に示すように待機電圧Vch以下の電圧の充電状態に維持される。この状態は、待機電圧Vch或いはそれ以下の電圧を設定電圧として、負荷5が給電を要求していない時、充電回路3を通して商用電源2からキャパシタ蓄電
電源1を充電されることにより維持される。その後は、自己放電により充電電圧の低下があっても充電を停止したまま放置してもよいし、充電回路3を通して商用電源2からフロートモードでキャパシタ蓄電電源1を充電して設定電圧に維持するように制御回路6が充電回路3を制御してもよい。
【0017】
制御回路6は、図3に示すように時点thrで指令信号として負荷5に給電を開始する指令信号を入力すると、まず、充電回路3を通して商用電源2からキャパシタ蓄電電源1を尖頭電圧Vcpまで充電する。そして、キャパシタ蓄電電源1が尖頭電圧Vcpまで充電された時点tosから所望の運転要求、給電要求に基づきキャパシタ蓄電電源1から放電回路4を通して負荷5に放電を開始する。このように本実施形態では、キャパシタ蓄電電源1に対し、所謂負荷5が運転を開始するまでは、準備状態として、充電電圧Vcを一定の水準
の待機電圧Vch以下に保持して待機し、尖頭電圧Vcpをスイングバック定格として負荷5の運転開始時に充電電圧Vcを尖頭電圧Vcpまで急速充電してから負荷5に放電を開始し
給電を行う。
【0018】
このことにより、キャパシタ蓄電電源1が最大出力時の尖頭電圧Vcpに充電されたまま長時間保持されることがなくなる。つまり、負荷5が起動するまでの長時間放置される準備状態では、尖頭電圧Vcpより低い待機電圧Vch以下でキャパシタ蓄電電源1の充電電圧を保持する。したがって、キャパシタ蓄電電源1が準備状態で高い充電電圧に放置されることにより性能劣化が進むのを防ぐことができる。しかも、負荷5に給電を開始する時には、完全な放電状態ではなく、待機電圧Vchの近傍から急速充電するので、起動時間を短縮することができる。また、尖頭電圧Vcpまで充電電圧を高めることにより、待機電圧Vchに比べ蓄電量を大幅に増大させることができ、構成するキャパシタの使用数量を減らすことができる。そのことは、より蓄電密度、エネルギー密度を高め電源の小型、軽量、コンパクト化を図ることができ、キャパシタ蓄電電源1の利用効率の大幅な向上を図ることができる。
【0019】
次に、本実施形態における負荷5についてより具体的に説明する。複写機、プリンタ、ファクシミリ等においては、普通紙やオーバーヘッドプロジェクタ用フィルムなどの記録媒体上に画像を形成し記録する工程を有する。様々な画像形成記録方式が実現されているが、そのなかでも高速性、画像品質、コストなどから画像形成装置に広く採用されているのが電子写真方式である。電子写真方式の画像形成装置では、紙やフィルムなどの記録媒体上に未定着トナー像を形成し、熱と圧力で固定する定着工程がある。定着方式としては、高速性、安全性等の面からヒートローラ方式が現在最も多く採用されている。
【0020】
このヒートローラ方式とは、ハロゲンヒータなどの発熱部材により加熱される加熱ローラと、これに対向配置される加圧ローラとを圧接させた相互圧接部を形成し、この上記圧接部に、未定着トナー像が形成されたシート状の記録媒体を通過させて加熱する方式である。加熱ローラは鉄やアルミなどの金属ローラを主に使用しており熱容量が大きい。このため、使用可能温度である約180℃前後まで昇温するには数分から十数分の長い立ち上げ時間が必要であるという欠点がある。
【0021】
ところで、多くの場合、上記のような定着方式の定着ヒータにはハロゲンヒータやニクロム線ヒータなどが用いられるが、この種のヒータは常温では抵抗値がほぼゼロに近く、発熱するに伴って抵抗値が高くなる温度対抵抗値が正特性を示す特性を有している。本実施形態の給電装置における負荷5は、ハロゲンヒータやニクロム線ヒータなどのヒータが想定されている。
【0022】
本発明の給電装置の給電対象であるヒータ(負荷5)は上記のような特性を有するため、ヒータに対して給電を開始した時には突入電流が発生する。通常の給電装置においては
このような突入電流は、回路にダメージを与える可能性があるので、忌避されるものであり、突入電流を抑制するような方策がとられる。ただ、突入電流を抑制することにより、ヒータの抵抗値の上昇が遅くなり、結果として適正な発熱を得るまでの立ち上がりの時間が遅延してしまう、というデメリットも存在する。
【0023】
本発明の給電装置においては、負荷5に給電を開始するときは、前述のようにまず、充電回路3を通して商用電源2からキャパシタ蓄電電源1を尖頭電圧Vcpまで充電することによって、給電電圧を上昇させる。このように電圧上昇させたキャパシタ蓄電電源1から負荷5に給電することによって、あえて突入電流を積極的に増加させて、起動時低抵抗負荷であるヒータ(負荷5)の抵抗を素早く増加させ、結果として、ヒータを素早く加熱するようにして、適正な発熱を得るまでの立ち上がりの時間を短縮するようにしている。
【0024】
また、本発明の給電装置においては、負荷5に給電を開始するときは、キャパシタ蓄電電源1から電力が利用されることで、その他の大部分の回路とは切り離された状態となるので、突入電流が流れたときにおける回路へのダメージは比較的少なくてすむ。
【0025】
次に、以上のように構成される本発明の実施の形態に係る給電装置の給電時の制御について説明する。図4は本発明の実施の形態に係る給電装置における給電制御処理のフローチャートを示す図である。ここでの給電制御処理のフローは、例えば、朝一番など冷えたヒータ(負荷5)を立ちあげるときが想定されており、尖頭電圧Vcpまで充電されたキャパシタ蓄電電源1から電力を供給し、ヒータ(負荷5)を暖めてから、商用交流電源に切り換えることにより、商用交流電源に大電流が流れ、それによる電圧変動が発生するという事態を解消し、また、突流を防止するために、商用電源を所定の位相角で立ちあげることも回避させ、スイッチング素子などからのノイズ発生を抑制するものである。
【0026】
なお、図4に示すフローチャートによる処理は、給電装置の給電制御処理の一例であり、給電装置にその他の制御処理を動作させることを妨げるものではない。例えば、ヒータ(負荷5)が既にある程度の発熱状態にあるときには、その他の制御処理によって給電装置を動作させる方が効率がよい。
【0027】
図4のフローチャートにおいて、ステップS100で給電装置の給電制御動作の処理を開始すると、次に、ステップS101に進み、スイッチ回路7、8、9の設定を、図2に示す(I)の状態とする。
【0028】
次のステップS102では、キャパシタ蓄電電源1(EDLC)のプリチャージ処理のサブルーチンを実行する。このプリチャージ処理のサブルーチンについては後に説明する。
【0029】
ステップS103においては、負荷5からの検出信号などを参照することによって負荷5が所望の負荷状態になったか否かが判定される。ステップS103の判定結果がYESであるときにはステップS104に進み、ステップS103の判定結果がNOであるときにはそのままステップS103をループする。
【0030】
ステップS104では、スイッチ回路7、8、9の設定を、図2に示す(IV)の状態とする。そして、ステップS105では、商用電源2によって、負荷5に給電するように動作させる。
【0031】
ステップS106では、制御回路6に対して給電停止の指令が入力されたか否かが判定される。ステップS106の判定結果がYESであるときにはステップS107に進み、ステップS106の判定結果がNOであるときにはそのままステップS106をループす
る。
【0032】
ステップS107では、キャパシタ蓄電電源1(EDLC)の調整処理のサブルーチンを実行する。この調整処理のサブルーチンについては後に説明する。ステップS108では、給電装置の給電制御動作の処理を終了する。
【0033】
次に、ステップS102におけるプリチャージ処理のサブルーチンについて説明する。図5は発明の実施の形態に係る給電装置におけるプリチャージ処理のサブルーチンのフローチャートを示す図である。
【0034】
図5において、ステップS200でプリチャージ処理が開始されると、次にステップS201でキャパシタ蓄電電源1への充電を開始する。ステップS202では、充電電圧Vcを読み込み、ステップS203では、充電電圧Vcが尖頭電圧Vcpであるか否かが判定
される。ステップS203における判定結果がYESであるときにはステップS204に進み、判定結果がNOであるときにはステップS203をループする。
【0035】
ステップS204では、キャパシタ蓄電電源1の電圧が尖頭電圧Vcpに達しているので充電を停止し、ステップS205で放電を開始する。ステップS206でメインルーチンに戻る。
【0036】
次に、ステップS107における調整処理のサブルーチンについて説明する。図6は本発明の実施の形態に係る給電装置における調整処理のサブルーチンのフローチャートを示す図である。
【0037】
図6において、ステップS300で調整処理のサブルーチンが開始されると、次にステップS301に進み、キャパシタ蓄電電源1の充電電圧Vcが読み込まれる。
【0038】
次のステップS302では、VcとVchとの値が比較され、VcとVchとの関係が「Vc
=Vch」、「Vc<Vch」、「Vc>Vch」のいずれであるかが判定される。ステップS302にける判定結果が「Vc=Vch」であるときにはステップS311に進みリターンし
、ステップS302にける判定結果が「Vc<Vch」であるときにはステップS303に
進み、ステップS302にける判定結果が「Vc>Vch」であるときにはステップS30
7に進む。
【0039】
ステップS303では、キャパシタ蓄電電源1の充電を開始し、ステップS304で、キャパシタ蓄電電源1の充電電圧Vcを読み込む。ステップS305では、当該充電電圧
cが待機電圧Vchに相当するか否かが判定される。
【0040】
ステップS305における判定結果がYESであるときにはステップS306に進み、ステップS305における判定結果がNOであるときにはステップS305をループする。
【0041】
ステップS306では、キャパシタ蓄電電源1の充電を停止する。ステップS311でリターンし、メインルーチン処理に戻る。
【0042】
ステップS307では、キャパシタ蓄電電源1の放電を開始し、ステップS308で、キャパシタ蓄電電源1の充電電圧Vcを読み込む。ステップS309では、当該充電電圧
cが待機電圧Vchに相当するか否かが判定される。
【0043】
ステップS309における判定結果がYESであるときにはステップS310に進み、
ステップS309における判定結果がNOであるときにはステップS309をループする。
【0044】
ステップS310では、キャパシタ蓄電電源1の放電を停止する。ステップS311でリターンし、メインルーチン処理に戻る。
【0045】
以上のように、本発明の給電装置の動作で特徴的であるのは、キャパシタ蓄電電源1の放電直前におけるプリチャージ動作(ステップS102)と、キャパシタ蓄電電源1の放電直後における調整動作(ステップS107)である。
【0046】
本発明の給電装置がプリチャージ動作及び調整動作を行うことにより、キャパシタ蓄電電源1は、最大出力時の尖頭電圧Vcpに充電されたまま長時間保持されることがなく待機電圧Vchに維持されるようになる。つまり、負荷5が起動するまでの長時間放置される準備状態では、尖頭電圧Vcpより低い待機電圧Vch以下でキャパシタ蓄電電源1の充電電圧を保持される。これにより、キャパシタ蓄電電源1を構成するEDLCが準備状態で高い充電電圧に放置されることにより性能劣化が進むのを防ぐことができる。
【0047】
また、負荷5に給電を開始する時には、完全な放電状態ではなく、待機電圧Vchの近傍から急速充電するので、起動時間を短縮することができ、ヒータ(負荷5)を素早く加熱することができる。
【0048】
また、尖頭電圧Vcpまで充電電圧を高めることにより、待機電圧Vchに比べ蓄電量を大幅に増大させることができ、かつ、構成する電気二重層キャパシタの使用数量を減らすことができる。そのことにより、より蓄電密度、エネルギー密度を高め電源の小型、軽量、コンパクト化を図ることができ、キャパシタ蓄電電源1の利用効率の大幅な向上を図ることができる。
【0049】
電気二重層キャパシタ(EDLC)の蓄電量Uは、U=1/2・C・V2となることか
ら、充電電圧を高く使用すると充電電力量が増える。しかし、EDLCの寿命は電圧に依存(印加電圧の積算にほぼ比例)することから、ヒータ(負荷)への給電のためEDLCを複写機等に用いる場合には、その設計寿命を満足させるために、フロート電圧(待機電圧)を最適な電圧に設計せざるを得ない。したがって、決まった負荷に必要な電力量と設計寿命から、EDLCの充電電圧・静電容量が決まることとなる。
【0050】
本発明の給電装置では、上述のように、ヒータ(負荷5)への給電開始時に、待機電圧Vchから尖頭電圧Vcpにキャパシタ蓄電電源1を昇圧させるようにしている。待機時の待機電圧Vch、プリチャージ時の尖頭電圧Vcpとすると、その電位差はΔV=Vcp−Vchとなる。
【0051】
プリチャージからヒータ(負荷5)への給電動作に移行し、当初の待機電圧Vchまで戻る時間をdt、ヒータ(負荷5)の動作する平均時間をtとすると、プリチャージによる充電積算電圧Vuは、
u=(ΔV×dt)/(2×t)
となる。つまり、5分に1回、10秒間で10%の充電電圧上昇し、10秒で放電したとすると、Vu=0.1V×1/2×0.07=0.0035×Vchとなり、充電積算電圧
においては、フロート電圧の3.5%となる。
【0052】
また、プリチャージによる蓄電量はフロート充電電圧の10%増加したとすると、電圧の2乗に比例することから、20%強の蓄電量増加となる。
【0053】
以上のことから、寿命設計において、充電積算電圧で待機電圧となるよう設計し、待機電圧から所定の時間内においてプリチャージ電圧(尖頭電圧Vcp)まで電圧を上昇させることが可能な出力電力を有する充電回路と組み合わせることにより、仕様にあわせた設計寿命を保持しながら、放電可能な蓄電電力量の増加が可能となる。
【0054】
さらに、本実施形態におけるキャパシタ蓄電電源1の具体的な事例に基づき説明する。まず、キャパシタ蓄電電源の一般的な設計仕様、特性について説明する。図7はキャパシタ設計仕様データの構成例を示す図であり、図8は電圧と劣化特性との関係を説明する図である。
【0055】
キャパシタ設計仕様データは、例えば図7に示すモジュール電圧vM、セル直列数NS、モジュール静電容量CM、モジュール内部抵抗rM、モジュール直列数NMS、並列数NMP、バンク電圧vB(満充電時の電圧vBf)、バンク静電容量CB、バンク内部抵抗rB、モジ
ュール数NM等の定格仕様を含む、所謂キャパシタ蓄電電源の設計仕様データである。モ
ジュールは、所定数のセルを直列接続したキャパシタ蓄電電源の基本構成単位であり、バンクは、複数個のモジュールを直列接続し、さらにそれらを並列接続してキャパシタ蓄電電源を構成するものである。
【0056】
例えば2.5(V)のセルを20個直列接続してモジュール電圧vMが50(V)のモ
ジュールが構成される。このモジュールを基本構成単位とすると、負荷の使用(開始)電圧vLが650(V)である場合には、13個のモジュールを直列接続するものとして並
列数1のバンクが選択、設定される。つまり、モジュール直列数NMSが13、満充電時のバンク電圧(vBf)が650(V)のバンク構成にすることで、バンク静電容量CBはCM/13、バンク内部抵抗rBは13×rMにより求められる。並列数NMPが1から2になれば、それに応じて新たなバンク静電容量CBが2倍、バンク内部抵抗rBが2分の1、モジュール数NMが2倍になる。このようにバンクに関する定格仕様の値は、バンク電圧が決
まると共に他の値も決まる。
【0057】
キャパシタの容量Cを少しでも大きく、利用できる蓄電量w(=CV2/2)を多く、
自己放電を最小にすることが求められている。しかし、これらはキャパシタに本質的なものとして、その性能向上を待つほかにないとのいうのが通常の認識である。キャパシタは、静電容量Cが使用により当初の100%から経時的に何%の劣化があるか、その劣化度Dを指標にすると、劣化度Dは、図8に示すように時間tの平方根√tに比例する。しかも、その劣化の程度は、電圧Vch、Vcp(>Vch)によって変化し、同じ劣化度Dの劣化に要する時間tは電圧差ΔVに比例して電圧が低くなるほど長くなる(例えば、特許第3969736号公報参照)。
【0058】
キャパシタの電圧Vchにおける劣化度DVhは時間tVhの平方根に比例することから、劣化係数αVhは、
【0059】
【数1】

により求められる。ここで、劣化係数αVhは、電圧Vchにおいて劣化度DVhの劣化に時間tVhを要するという係数になる。いま、劣化度Drを固定値に設定すると、それぞれの電
圧Vs、Vrにおいてその劣化度Drの劣化に要する時間tVsr、tVrrより電圧Vxに関する値が求められる。すなわち、同じ劣化度の劣化に要する時間は電圧差の関数になることから、電圧Vxにおける劣化度Drの劣化に要する時間tVxrは、
【0060】
【数2】

ここで、λVr=tVsr /tVrr :劣化時間の倍率
Vint=Vr−Vs :電圧差
となる。その結果、電圧Vxにおける劣化係数αVxは、
【0061】
【数3】

により求められる。
【0062】
従来のキャパシタ蓄電電源は、負荷の使用(開始)電圧vLに対応する満充電時のバン
ク電圧(vBf)のバンク構成が選定される。この満充電時のバンク電圧(vBf)は、その充電状態で所定の劣化度、例えば80%の劣化に要する時間以上の寿命を有する、つまりフロート定格電圧である。尖頭電圧Vcpは、負荷の使用(開始)電圧vLに相当するので
、従来のキャパシタ蓄電電源では、満充電時のバンク電圧(vBf)が尖頭電圧Vcpとなるキャパシタ蓄電電源が選定される。しかし、本実施形態では、待機電圧Vchを設定して放電開始直前に尖頭電圧Vcpまでスイングバック充電(プリチャージ)することにより、満充電時のバンク電圧(vBf)が待機電圧Vchとなるキャパシタ蓄電電源を選定することができる。それは、尖頭電圧Vcpの充電状態が短時間となるため、その間の充電状態によるキャパシタ蓄電電源の性能劣化、影響を低く抑えることができるからである。
【0063】
本実施形態において、設計仕様である満充電時のバンク電圧(vBf)を待機電圧Vchとして、尖頭電圧Vcpまでスイングバック充電する場合、尖頭電圧Vcpの劣化特性は、図8により説明した電圧と劣化特性との関係には当てはまらない。それは、図8に示す特性は、その電圧の充電状態が維持されたフロートモードにおける劣化であり、すぐ放電される一時的な電圧の充電状態に対する特性ではないからである。本実施形態のスイングバック充電される、所謂スイングバック定格電圧としての尖頭電圧Vcpは、例えば次のようにして選定される。
【0064】
尖頭電圧Vcpを選定するための試験では、サイクルモード寿命試験により、例えば負荷5の運転インターバルに相当する所定の繰り返し周期でキャパシタ蓄電電源の充電電圧をパルス状に急速充放電したとき、性能劣化が所定の範囲内となる電圧を求める。このパルス状の急速充放電試験を待機電圧Vchから徐々に電圧を上げながら繰り返し行うと、性能劣化の進行が大きくなる電圧を見出すことができる。この変化点となる電圧以下の電圧を尖頭電圧Vcpとして選定することができる。これは、キャパシタ内の不純物が電気分解により蓄積して劣化を始める電圧に相当し、キャパシタに依存する値である。例えば2.7Vのフロート定格電圧の電気二重層キャパシタでは、2.7Vの待機電圧Vchに対して3V程度を尖頭電圧Vcpとすることができる。これに対し、2.9Vのフロート定格電圧のナノゲートキャパシタでは、2.9Vの待機電圧Vchに対して3.7V程度を尖頭電圧Vcpとすることができる。勿論これ以下の電圧で待機電圧Vchより高い電圧であれば本実施形態の発明の効果は得られる。
【0065】
図9はキャパシタの充放電特性と電圧との関係を説明する図である。キャパシタは、充電電圧を高電圧まで上げることにより静電容量に増す傾向が観られる。それは、例えば図9に示すように待機電圧Vchから電圧0Vまでの放電時間ΔtとΔt′(>Δt)に差によって観察できる。図9に示す充放電特性は、キャパシタを待機電圧Vchまで定電流充電
し、緩和充電(フロートモード)の後、定電流放電をした特性と同様に尖頭電圧Vcpまで定電流充電したときのものである。
【0066】
また、エネルギー密度を試算すると、2.9Vの待機電圧Vch、つまり満充電時のバンク電圧(vBf)を3.7Vまでスイングバック充電して蓄電すると、約1.3倍に電圧を上げることによりエネルギー密度を1.6倍まで上げることができる。充電時間では、0Vから3.7Vまでの定電流による標準充電時間を60秒とすると、2.9Vから3.7Vまでの充電時間は約13秒になり、大幅な充電時間の短縮となる。
【0067】
このように本実施形態では、使用の直前に充電し直ちに放電するので、比較的高電圧まで上げてもキャパシタの寿命への影響を少なくして実効蓄電出力を増大させることができる。また、高電圧まで充電すれば、キャパシタの漏れ電流による自己放電が増大するのは当然であるが、待機時は尖頭電圧Vcpより低い待機電圧Vchにとどめるので、自己放電をむしろ減少させることができる。しかも、自己放電により減少した電荷は使用の直前にスイングバック充電により埋め戻されるで、実質的に自己放電の影響は無視できる。したがって、小型、コンパクトにして大容量化したキャパシタ蓄電電源が実現でき、必要以上の設計仕様の容量に選定することによる無駄をなくすことができる。
【0068】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば上記実施の形態では、電気二重層キャパシタ、ナノゲートキャパシタを具体的な数値で示したが、設計仕様の異なる各種のキャパシタにも同様に適用できることは勿論である。また、待機電圧Vchは、満充電時のバンク電圧(vBf)に相当する電圧として説明したが、公称定格電圧や最高充電電圧、使用電圧などに相当する電圧或いはそれ以下の電圧とし、尖頭電圧Vcpは、それより高い電圧として性能劣化が著しくならない電圧を適宜選定することができる。
【0069】
次に本発明の他の実施形態について説明する。図10は本発明の他の実施の形態に係る給電装置のブロック構成を示す図である。図10に示す実施形態が、先の図1に示した実施形態と異なる点は、充電回路3の他に、もう1つの充電回路である第2充電回路10を備える点である。
【0070】
この第2充電回路10は、負荷5の運転開始時にキャパシタ蓄電電源1の充電電圧Vc
を尖頭電圧Vcpまで急速充電するときの専用の充電回路として利用するものである。キャパシタ蓄電電源1の充電電圧Vcを一定の水準の待機電圧Vch以下に保持するためには、
先の実施形態と同様に充電回路3を用いる。
【0071】
このようなキャパシタ蓄電電源1をスイングバック定格にもっていくための専用の第2充電回路10は、短時間の間に急速に充電するための専用のものを用いることができ、より効率的にキャパシタ蓄電電源1の充電電圧Vcを尖頭電圧Vcpまで充電することを可能
とする。
【0072】
なお、第2充電回路10に、キャパシタ蓄電電源1とは別のキャパシタを設けることによって、キャパシタ蓄電電源1を尖頭電圧Vcpまで急速充電するような構成とすることもできる。
【0073】
本発明の給電装置によれば、構成する電気二重層キャパシタの使用数量を減らすことができ、より蓄電密度、エネルギー密度を高め装置の小型、軽量、コンパクト化を図ることができる。
【0074】
また、本発明の給電装置によれば、まずキャパシタ蓄電電源を尖頭電圧まで充電するこ
とによって、給電電圧を上昇させ、負荷に給電することによって、突入電流を積極的に増加させて、起動時低抵抗負荷であるヒータの抵抗を素早く増加させ、結果として、ヒータを素早く加熱するようにして、適正な発熱を得るまでの立ち上がりの時間を短縮するようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態に係る給電装置のブロック構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る給電装置におけるスイッチ設定に伴う給電種別を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る給電装置におけるキャパシタ蓄電電源の使用方法を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る給電装置における給電制御処理のフローチャートを示す図である。
【図5】発明の実施の形態に係る給電装置におけるプリチャージ処理のサブルーチンのフローチャートを示す図である。
【図6】発明の実施の形態に係る給電装置における調整処理のサブルーチンのフローチャートを示す図である。
【図7】キャパシタ設計仕様データの構成例を示す図である。
【図8】電圧と劣化特性との関係を説明する図である。
【図9】キャパシタの充放電特性と電圧との関係を説明する図である。
【図10】本発明の他の実施の形態に係る給電装置のブロック構成を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1・・・キャパシタ蓄電電源、2・・・商用電源、3・・・充電回路、4・・・放電回路、5・・・負荷、6・・・制御回路、7、8、9・・・スイッチ回路、10・・・第2充電回路、EDLC・・・電気二重層キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度対抵抗値が正特性を示すヒータに対し電力を供給する給電装置であって、
キャパシタ蓄電電源と、
前記キャパシタ蓄電電源に充電を行う充電回路と、
前記キャパシタ蓄電電源から前記ヒータに放電を行う放電回路と、
前記ヒータに給電を開始する信号に応じて前記充電回路及び放電回路を制御する制御回路と、を備え、
前記キャパシタ蓄電電源には尖頭電圧と前記尖頭電圧より低い待機電圧とを設定がされており、
前記制御回路は、前記ヒータに給電していない待機時に前記キャパシタ蓄電電源を前記待機電圧以下の電圧の充電状態に維持し、前記ヒータに給電を開始する信号が入力されたとき、前記キャパシタ蓄電電源を前記尖頭電圧まで充電した後、前記ヒータに放電を行うように制御することを特徴とする給電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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