説明

絶縁性炭化物への導電性パターン形成方法

【課題】絶縁性炭化物の表面に空気中において、ドライ工程で極めて短時間でグラファイト並の導電性を有する導電性パターンを形成する方法を提供すること及び該導電性パターンを使用して金属並の導電性を有する導電性パターンを形成する方法を提供すること。
【解決手段】空気中において絶縁性炭化物の表面に、該表面を溶融させるのに充分な高エネルギー密度のレーザービームを走査照射することによりグラファイト並の導電性パターンを得る。この部分を陰極として電気メッキすることにより金属並の導電性を有するパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁性炭化物にグラファイト並の導電性を有する導電性パターンを形成する方法に関する。更に該導電性パターンに電気メッキすることにより金属並の導電性を有する導電性パターンを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質系材料の炭化物、例えば、木材を酸素遮断雰囲気或いは低酸素雰囲気において約400℃乃至約600℃の温度で焼成したものは、10の12乗Ω・cm以上の高絶縁性である。約600℃乃至700℃の温度では、10の2乗乃至10の9乗Ω・cmの半導電性になり、800℃を超えると10Ω・cm以下のグラファイト並の導電性になることが知られている。木質系材料平板を例えば500℃で酸素遮断雰囲気或いは低酸素雰囲気において焼成した絶縁性炭化物平板に、グラファイト並の導電性を有する導電性パターンを形成する方法は知られていない。絶縁性炭化物平板に金属の導電性を有する導電性パターンの形成方法としては、該絶縁性炭化物平板に例えば銅をメッキし、その上にフォトレジストを塗布し、パターンを露光した後現像し、次いで露出した銅をエッチングするという、いわゆるフォトレジスト工程が必要である。フォトレジスト工程には多種の薬品や機材が必要であり、コスト面でも環境面でも好ましくない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本木材学会編(2004)「木材の科学と利用技術VIII 5.木質系材料の炭素化による新展開」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第1の課題は、絶縁性炭化物を酸素遮断雰囲気或いは低酸素雰囲気において高温で焼成することなく、空気中において短時間でグラファイト並の導電性を有する導電性パターンの形成方法を提供することである。本発明の第2の課題は、第1の課題を解決する方法で得られた導電性パターンを使用して、フォトレジスト工程を用いずに金属並の導電性を有する導電性パターンの形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の課題は絶縁性炭化物に空気中において高エネルギー密度のレーザービームをパターン状に走査照射することにより達成される。本発明の第2の課題は絶縁性炭化物に空気中において高エネルギー密度のレーザービームをパターン状に走査照射することによりグラファイト並の導電性になった部分を陰極として電気メッキすることにより達成される。
【発明の効果】
【0006】
炭化物を酸素遮断雰囲気或いは低酸素雰囲気において800℃程度の高温で数10分程度保持すると導電性になることは従来から知られていた。しかし、この従来の方法では炭化物全体が導電性になってしまい炭化物の一部分のみを導電性にすることはできなかった。即ち、絶縁性炭化物の平板の表面をパターン状に導電性にすることは不可能であった。本発明によれば、絶縁性炭化物全体を高温に加熱すること無く、しかも空気中で極めて短時間でグラファイト並の導電性にすることが可能である。また、本発明によれば金属並の導電性パターンをフォトレジスト工程を必要とせず形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は本発明の第1の課題を解決するための実施形態を示す側面図である。
【図2】図2は図1の方法により形成された導電性部分を示すための拡大断面図である。
【図3】図3は図1の方法において、他の絶縁性炭化物を使用した場合の側面図である。
【図4】図4は図3の絶縁性炭化物に形成された導電性部分を示すための拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は本発明の第1の課題を解決するための実施形態を示す説明図で、絶縁性炭化物平板1の表面に高エネルギー密度のレーザービーム2が走査照射される。図2はレーザービーム2の照射により、導電性になった部分3及びその近傍の拡大断面図である。レーザービームが紙面に直角方向に走査された場合の説明図である。木質系材料や樹脂の場合は、レーザービームの照射により容易に溶融蒸発し、照射された部分は深くえぐられ、その表面はこげることがある。炭化物の場合は同じエネルギー量のレーザービームを照射しても、木質系材料や樹脂ほど容易には溶融蒸発することも深くえぐられることもないことが分かった。金属加工用の大出力のレーザーを用いれば、炭化物も容易に溶融蒸発するが、通常のマーキング用として用いられている程度のレーザー出力(約200W以下)では、そのようなことはない。しかし、そのようなレベルの出力のレーザービーム照射でも、照射された部分3と照射されない部分との間に段差は発生し、視覚的に差が認められる。照射された部分3は断面がV字状ないしU字状の窪みになっている。このことから、照射された部分は表層部が溶融して一部は蒸発し、一部は再固化したものと推測される。
【0009】
本発明を実施するにはレーザービーム2をパターン状に走査してもよいし、レーザービームは固定し絶縁性炭化物1をパターン状に移動してもよい。レーザービームが照射される部分に供給されるエネルギー量は、レーザービームのエネルギー密度及びレーザービームの走査速度により決まる。レーザービームにより供給されるエネルギー量が大きいと、照射された部分の絶縁性炭化物が多量に溶融蒸発して深くえぐられ、深い溝が生ずる。逆にレーザービームにより供給されるエネルギー量が不十分だと、溝が形成されず照射された部分が充分に導電性にならない。レーザービームのエネルギー量は、照射された部分の表面が溶融するのに必要なエネルギー以上であればよい。レーザービームのエネルギー密度が大きい場合、走査速度をおおきくし、エネルギー密度が小さい場合は走査速度を小さくすることによりエネルギー量を調整できる。レーザービームのエネルギー密度は、レーザーの出力と収束用レンズの焦点距離により決まる。市販のレーザー装置は200W程度までの出力を出せるものが一般的であり、また、収束用レンズの焦点距離は約1〜約5インチが一般的である。レーザービームの走査速度は毎秒1200mm程度或いはそれ以上まで出せるものがある。これらの条件を有する市販のレーザー装置を用いれば、本発明に必要なレーザー出力、収束用レンズの焦点距離、走査速度等は広い範囲で選ぶことができる。例えば、レーザー出力が10W、収束用レンズの焦点距離が2インチ、走査速度が毎秒40mmの場合、照射部の溝の深さは約0.01mm乃至約0.2mmである。溝の幅は約0.3mm乃至約0.5mmである。絶縁性炭化物の種類により、溝の深さと幅は違ってくる。絶縁性炭化物が緻密で堅いものほど、溝の深さも幅も小さくなる。木材の絶縁性炭化物の場合、年輪の早材部分では溝の深さは晩材の部分の約3乃至約5倍になることもある。レーザー出力を増大すると、溝の深さも幅も増大する。レーザー出力を更に大きくして、走査速度も更に大きくすれば、溝の深さを大きくせずに描画速度を上げることができる。絶縁性炭化物が薄い場合、例えば厚さが2mmの平板状の場合、溝の深さが1mmにもなってしまうと、平板が割れる恐れがある。溝の表面が導電性になるので、溝の深さが大きいほど溝の電気抵抗は小さくなる。従って、溝の深さは目的に応じて適当に選ぶことができる。レーザーとしては炭酸ガスレーザーが好適に使用できるが、他のレーザーでもよい。
【0010】
レーザービームの走査照射により形成される溝の電気抵抗は、照射エネルギーの大きさにより変化する。照射エネルギーが大きくなるほど、電気抵抗は小さくなる。レーザービームの走査照射により形成された溝の長さ方向に対して直角に炭化物を切断し、切断面に金属を電気めっきすることにより、溝の表面から内部に導電性の部分が広がっていることが認められた。照射エネルギーが大きくなると、この導電性部分(導電層)の厚さが大きくなるので、溝の電気抵抗が小さくなるのである。導電性部分の比抵抗は一定であり、グラファイト並の比抵抗であることが、実施例11に記載されている。
【0011】
木材の絶縁性炭化物にレーザービームを照射する場合、レーザービームの照射方向と木材由来の細胞炭化物の方向とが一致していると、照射部と非照射部との段差が大きくなる。すなわち、照射部の窪みが大きくなるので、絶縁性炭化物への照射方向は細胞の方向と略直角であることが望ましい。絶縁性炭化物の細胞内に樹脂の絶縁性炭化物が充填されている場合は、細胞の方向は結果に殆ど関係がない。
【0012】
本発明における絶縁性炭化物としては、木質系材料、樹脂、木質系材料の絶縁性炭化物に樹脂を含浸させたもののいずれかを酸素遮断雰囲気或いは低酸素雰囲気で約400℃乃至約600℃で約20分以上焼成したもの、上記のようにして得られた絶縁性炭化物の表面に絶縁性樹脂の膜を設けたもの、或いは絶縁性樹脂を含浸したものが適している。木質系材料としては、単体の木材、ベニヤ板、木材に樹脂を含浸したもの、蒸煮開繊した木材チップの繊維を主な原料とし、樹脂を加えて成形した板状のファイバーボード等があげられる。ファイバーボードの中でも、後述のようにMDFとHBが特に優れている。樹脂単体で焼成する場合は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂が望ましい。木材或いは木材炭化物に樹脂を含浸させた後に、それを炭化したものは機械的強度が大幅に増大するので、本発明に用いられる絶縁性炭化物の特に優れた具体例である。木材或いは木材炭化物に樹脂を含浸或いは樹脂膜を設ける場合は、必ずしも熱硬化性樹脂である必要はない。
【0013】
木材としては針葉樹、広葉樹のいずれも使用できる。木材を炭化する際に、ひび割れが発生したり反ったりしない材質、形状が望ましい。木材炭化物を研削、切断等して反りや割れの無い形状に加工してもよい。木材の一つの形態として、ベニヤ板を好適に用いることができる。薄いベニヤ板(例えば、3枚の板の貼り合わせで厚さが約2.3mm)で、各層の材質と厚さを適当に選ぶことにより、殆ど反りも割れも発生しないものが得られる。このようなベニヤ板は本発明に特に適している材料の一つである。
【0014】
本発明に用いられる絶縁性炭化物として、木繊維と樹脂を圧縮成形したファイバーボードを炭化したものがあげられる。その中でもMDF(Medium Density Fiberboard)とHB(Hard Board)の絶縁性炭化物が特に優れている。その理由として、MDFとHBの炭化前の表面や切り口が平滑であること、加熱炭化しても反りや割れが殆ど発生しないこと、ファイバーボードの絶縁性炭化物の機械的強度が極めて大きく破損しにくいので取り扱い易いこと、低コストであること、木材と比較して年輪が無いためにレーザービームの走査照射により形成される溝の深さと幅が一定であり且つ溝の深さが大きくなりにくいことがあげられる。
【0015】
木材或いは絶縁性木材炭化物に樹脂を含浸させる場合、樹脂が木材或いは絶縁性木材炭化物の細胞内に浸透するように、減圧状態の容器内で樹脂溶液、溶融した樹脂、或いは樹脂のエマルジョンを含浸させるのが望ましい。減圧の程度としては約0.2乃至約100Paの範囲が適当である。このようにして木材或いは木材炭化物から気泡が出なくなるまで放置したのち、減圧容器から取り出しエマルジョンを乾燥或いは樹脂を固化させる。木材或いは木材炭化物に樹脂を含浸させる場合の樹脂としては、熱硬化性樹脂である必要はなく、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネートその他の熱可塑性樹脂であってもよい。
【0016】
図3は本発明の第1の課題を解決するための他の実施形態を示す説明図で、4は絶縁性樹脂膜であり、絶縁性炭化物1の上に設けられている。図4は絶縁性樹脂膜4を介してレーザービーム2が絶縁性炭化物1の表面にパターン状に照射されて導電化された部分3及びその近傍の拡大断面図である。レーザービーム照射により、その部分の樹脂膜は容易に溶融蒸発して開口部5が生ずると同時にその下の絶縁性炭化物表面が、図2の場合と同様に導電化される。
【0017】
絶縁性樹脂膜は絶縁性であればよく、樹脂の種類は特に制限はないが、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン等があげられる。膜厚は約10μ乃至約2mmの範囲が適当であり、好ましくは約20μ乃至約0.5mmの範囲である。炭化物は黒色なので、絶縁性樹脂に顔料を混入することにより、樹脂膜の色を白色、黄色、赤橙色、青色、青白色、薄緑色、緑色、茶色等のように黒色に対して視覚的にコントラストの大きな色(明度が大きい色)にすることが望ましい。絶縁性樹脂膜は、絶縁性炭化物の補強効果をも有している。絶縁性炭化物の多くは比較的脆く破損しやすいので、樹脂膜による補強は極めて効果的である。樹脂膜は絶縁性炭化物の裏面にも設けてもよいし、絶縁性炭化物の全体を樹脂膜で被覆してもよい。
【0018】
以上の説明は、絶縁性炭化物の表面にグラファイト並の導電性パターンを形成する方法についてであるが、本発明の他の態様として、絶縁性炭化物平板を貫通する導電性の孔を形成することができる。レーザー出力を大きくし、レーザービームの走査速度をゼロ或いは非常に小さくすれば、レーザービームが一点に照射されその部分に深い孔が形成される。孔の表面はグラファイト並の導電性を有する。レーザー出力と照射時間を調整して約1〜約5mm程度の厚さの絶縁性炭化物平板に導電性の貫通孔を形成できる。裏面にもグラファイト並の導電性パターンをレーザービームによって形成し、この導電性貫通孔により表面と裏面の導電性パターンを導通させることができる。導電性貫通孔を形成するには、レーザー出力が100W程度の大きさであることが望ましい。
【0019】
本発明の第2の課題を解決するための実施形態は、絶縁性炭化物の表面に高エネルギー密度のレーザービームをパターン状に走査照射することにより得られた導電性パターンの部分を陰極として、電気メッキによりその部分に金属を析出させることである。レーザー照射により導電性になった部分は、グラファイト並の導電性を有しているが、金属の導電性に比べれば極めて小さな導電性である。しかし、レーザー照射により導電性になった部分は、電気メッキの際の電極として充分な導電性を有しており、通常の方法により各種金属をメッキすることができる。金属がメッキされた部分は、金属並の導電性になるので充分な電流を流すことができる。電気メッキできる金属としては多数知られているが、その中でもプリント配線基板の電気配線に用いることができる銅、銀、ニッケル、金等は特に好適である。
【実施例1】
【0020】
赤松の板(厚さ約8mm、幅約50mm、長さ約100mm、細胞の方向は長さ方向)を、酸素遮断雰囲気で徐々に温度を上昇して500℃に30分保持して絶縁性炭化物の平板(厚さ、幅、長さとも約75乃至80%に縮小)を得た。この平板に、長さ方向と幅方向の両方に直交する方向の炭酸ガスレーザービームを長さ方向と直交する方向に毎秒約80mmの速度で走査照射した。板の表面に長さ方向に対して直角な線状の照射痕跡が視認できた。顕微鏡で観測したところ、溝の深さは約0.2mm、溝の幅は約0.3mmであった。レーザー出力は約15W、レンズの焦点距離は1.5インチであった。レーザービーム照射前の炭化物の導電性は10の14乗Ω・cm以上であったが、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性であった。
【実施例2】
【0021】
市販のラワンベニヤ板(厚さ2.3mm、3枚貼り合わせ)から、幅50mm、長さ120mmのサイズに2枚切り出し、同じ側の面を背中合わせにした後、長さ方向と平行な両端を、チャンネル幅5.5mm、チャンネル深さ10mm、長さ120mmのコの字型のアルミチャンネルに挿入した。この状態で実施例1と同様にして炭化したところ、殆ど反りがない2枚の絶縁性炭化物平板が得られた。この内、1枚の平板に直角な方向に、実施例1と同様にレーザービームを長さ方向と直角な方向に走査照射したところ、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性になった。
【実施例3】
【0022】
市販のMDF規格品(厚さ9mm)を幅50mm、長さ100mmのサイズに切断し、実施例1と同様にして炭化した。得られた絶縁性炭化物平板は、厚さが5.7mm、長さが86.4mmに、幅が43.0mmに収縮した。割れは全く無く、反りも殆ど無かった。この絶縁性炭化物は非常に丈夫で、手で折ることはできなかった。従って、ハンドリングしやすいものであった。この平板に直角方向に、実施例1と同様にレーザービームを長さ方向と直角方向に走査照射したところ、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性になった。
【実施例4】
【0023】
栂材の角材(断面が67mm×67mm、細胞の方向は長さ方向と同じ)を長さ方向と直角に10mmの厚さに切断した。切断面には細胞の開口部は露出していなかった。これを実施例1と同様に炭化し、約50mm角、厚さ約8mmの絶縁性炭化物平板を得た。次いで炭化された切断面の両面を約1mmの厚さに研磨ワイヤーで切除し、炭化された細胞の開口部を両面に露出させた。この開口部が露出した片方の面に、エポキシ系接着剤(チバガイギー社、アラルダイトスタンダード高性能エポキシ系強力接着剤)を約2mmの厚さに塗りつけ、その面を上にして約45℃の温度に保って接着剤の粘度を低下させ、接着剤を細胞の内部に浸透させた。接着剤が硬化後、両面に盛り上がっている接着剤をサンドペーパーで研磨除去した。これを実施例1と同様に炭化処理し、絶縁性炭化物平板を得た。この平板の面に直角方向に、実施例1と同様にレーザービームを走査照射したところ、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性になった。
【実施例5】
【0024】
実施例4において、接着剤が硬化後、両面に盛り上がっている接着剤をサンドペーパーで研磨除去せずに、実施例1と同様に炭化処理した。得られた炭化物の両面の栂材炭化物を約0.5mmの厚さで切除し、厚さが約7mmの絶縁性炭化物平板を得た。この平板の面に直角方向に、実施例1と同様にレーザービームを走査照射したところ、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性になった。
【実施例6】
【0025】
実施例4で得られたと同じ栂材の絶縁性炭化物を研磨ワイヤーで6mmの厚さに切断し、約50×50×6mmの平板を得た。平板の両面には細胞の開口部が露出している。この平板を、ロータリーポンプで約10Paに保たれた真空容器内で、酢酸ビニル樹脂の水エマルジョン(酢酸ビニル樹脂55重量%、水45重量%)液に浸漬し、絶縁性炭化物の内部から気泡が出なくなるまで放置することにより、絶縁性炭化物の細胞内にエマルジョンを完全に含浸させた。次いで真空容器から取り出し自然乾燥させた。完全に乾燥後、これを実施例1と同様に炭化処理し、絶縁性炭化物平板を得た。この平板に直角方向に、実施例1と同様にレーザービームを走査照射したところ、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性になった。
【実施例7】
【0026】
厚さ約2mmのフェノール樹脂の板を、実施例1と同様に炭化処理し、高絶縁性の炭化物平板を得た。この平板に実施例1と同様にレーザービームを照射したところ、レーザービーム照射された部分はグラファイト並の導電性になった。
【実施例8】
【0027】
エゾ松の平板(厚さ14mm、幅60mm、長さ100mm、細胞の方向は長さ方向と同じ)を空気中で120℃に2時間保持して充分に乾燥した。次いでこの平板の片面にエポキシ系接着剤(チバガイギー社、アラルダイトスタンダード高性能エポキシ系強力接着剤)を約0.2mmの厚さに塗布し、完全硬化後、実施例1と同様にして炭化した。接着剤が炭化した面に実施例1と同様にしてレーザービームを走査照射したところ、その部分がグラファイト並の導電性になった。
【実施例9】
【0028】
エゾ松の平板(厚さ14mm、幅60mm、長さ100mm)を実施例1と同様にして炭化し、絶縁性炭化物平板を得た。この平板の片面に市販のうす空色の水性塗料(アトムサポート株式会社、商品名:水性スプレーAうす空、主成分:アクリル樹脂)をスプレー塗布、乾燥した。膜厚は25μであった。この塗布面に、実施例1同様にしてレーザービームを走査照射したところ、照射部分の塗膜は容易に溶融蒸発し、その部分の絶縁性炭化物がグラファイト並の導電性になった。
【実施例10】
【0029】
厚さ5.5mm、サイズが100×100mmの市販のMDFから50×50mmのサイズに切り出し、これを実施例の用に炭化した。この炭化物平板は厚さが3.4mm、サイズが43.3mm角に縮小したが、反りは殆ど無く、割れも無かった。この平板に直角に、出力25Wの炭酸ガスレーザービームを焦点距離2インチのレンズで収束して、一点に約0.3秒間照射したところ、孔は途中までしか形成されなかった。3回照射したら孔が貫通した。レーザービーム入射側の貫通孔の直径は約0.4mmであったが、出射側の孔の直径は約0.05mmであった。貫通孔の断面形状はテーパー状であった。1回照射した後、同じ場所になるようにして平板を裏返し、反対面から1回照射したところ、孔が貫通した。このように両面側から照射するのが有利である。貫通孔はグラファイト並の導電性であった。
【実施例11】
【0030】
実施例3で得られたと同じMDFの絶縁性炭化物平板(長さ86.4mm、幅43.0mm)の表面に、実施例3のようにレーザービーム照射して10mm間隔で4本の直線状導電性部分を形成した。次いでこの平板を、2本の直線状導電性部分を含むように研磨ワイヤーで切断した(サイズが約20×43.0mm)。この切り出された短冊の2本の導電性直線の両端部約1.5mmの部分に市販の導電性銀ペーストを塗布、乾燥した。この2本の導電性部分の電気抵抗をテスターの棒を銀ペースト部に当てて測定したところ、約1200Ωであった。次に、残っている絶縁性平板から、同様にして2本の導電性直線を含むように上記と同じサイズの短冊を切り出した。一端部に市販の導電性カーボンペーストを約5mmの長さに塗布、乾燥した。他端部から約10mmの部分を導電性直線と直角に研磨ワイヤーで切断した。カーボンペーストは配線との接触を良好にするために塗布したが、必ずしも必要ではない。このカーボンペースト部にACアダプター(出力電圧3V、電流0.3A)の負極からの配線を接続した。ACアダプターの正極からの配線を銅板(陽極)に接続した。銅板と絶縁性炭化物を硫酸銅めっき液(奥野製薬株式会社、TOP硫酸銅めっき液を水で2倍に希釈した液400mlを500mlビーカーに注入)に挿入した。絶縁性炭化物はカーボンペーストが塗布されていない方の端部約10mmの部分がめっき液に水没するように保持した。通電を開始すると約5秒後には目視できる程度に、絶縁性炭化物のレーザービーム照射部のめっき液水没部に銅が析出し始めた。約10秒後に通電を停止し、短冊を取り出して水洗、乾燥後、切断面に析出した銅を顕微鏡で調べたところ、導電性直線部の幅は約0.35mm、導電層の厚さは約0.05mmであった。上記の電気抵抗が1200Ω(長さ40mm)から比抵抗を計算すると、0.045Ω・cmとなり、グラファイト並の比抵抗である。次いで電気めっきを再開し、2分間の通電で、かなり厚く銅が析出した。通電時間の調整により希望の厚さの銅の析出が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
絶縁性炭化物を電気炉で酸素遮断雰囲気或いは低酸素雰囲気において800℃以上の高温に加熱することなく、絶縁性炭化物の表面にグラファイト並の導電性を有するパターンを作ることができ、必要ならその部分をメッキすることにより金属並の導電性に高めることができるので、プリント基板として利用できる。絶縁性炭化物の表面にグラファイト並の導電性を有する渦巻き状のパターンを描いて、アンテナとすることができる。更に多くの用途が考えられる。
【符号の説明】
【0032】
1 平板状絶縁性炭化物
2 高エネルギー密度のレーザービーム
3 グラファイト並の導電性になった部分
4 絶縁性樹脂膜
5 絶縁性樹脂膜に形成された開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中において絶縁性炭化物の表面に、該表面を溶融させるのに充分な高エネルギー密度のレーザービームをパターン状に走査照射することを特徴とする絶縁性炭化物への導電性パターン形成方法。
【請求項2】
絶縁性炭化物が木質系材料の炭化物、或いは樹脂の炭化物であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁性炭化物への導電性パターン形成方法。
【請求項3】
絶縁性炭化物が木質系材料の絶縁性炭化物に樹脂を含浸したものの炭化物、或いは木質系材料の絶縁性炭化物の少なくとも一つの面に樹脂膜を設けたものの炭化物であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁性炭化物への導電性パターン形成方法。
【請求項4】
絶縁性炭化物が絶縁性炭化物に絶縁性樹脂を含浸したもの或いは絶縁性炭化物の少なくとも一つの面に絶縁性樹脂膜を設けたものであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁性炭化物への導電性パターン形成方法。
【請求項5】
絶縁性炭化物が平板状であり、レーザービームにより該平板を貫通するグラファイト並の導電性を有する貫通孔を形成し、該平板の両面にレーザービームによって形成されたグラファイト並の導電性パターンを導通させることを特徴とする請求項1に記載の絶縁性炭化物への導電性パターン形成方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法により導電化された部分を陰極として、金属を電気メッキすることを特徴とする導電性パターンの形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−223795(P2012−223795A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93622(P2011−93622)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(397003079)
【Fターム(参考)】