説明

絶縁油再生方法及びその装置

【課題】使用後及び使用中の電気機器の絶縁油を簡便且つ安価に再生する。
【解決手段】絶縁油再生装置1は第一分離槽3と第二分離槽4とを備える。第一分離槽3は密閉系で電気機器2から導入した絶縁油を水または塩水溶液と接触させて前記絶縁油に含まれる水分及び塩分を前記水または塩水溶液の相に溶出させる。第二分離槽4は第一分離槽3から導入した絶縁油を極性溶媒と接触させて前記絶縁油に含まれる有機ハロゲン物質を前記極性溶媒の相に溶出させる。第二分離槽4で分離された絶縁油はポンプP3を有する絶縁油返送手段によって電気機器2に返送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁油に含まれる有機ハロゲン物質を分離して絶縁油の再生する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
使用中及び使用後の絶縁油は1%以下の低濃度のPCBやトリクロロベンゼン等の有害物質を含有する場合があり、PCB濃度が0.5mg/kgを超える場合にはPCB含有特別管理廃棄物として機器ごとに保管する義務がある。これらの有害物質を含む機器や絶縁油を処分する場合には絶縁油を抜き取り、機器を解体し、PCB含有廃棄物として処分している。PCBのような有機ハロゲン物質を除去する技術は例えば特許文献1〜4に開示されている。
【0003】
特許文献1の有機ハロゲン系化合物の分解法は有機ハロゲン系化合物を白金族担持活性炭とアルカリ水酸化物との存在下で水素源に糖類を用いて加熱して脱ハロゲン水素化分解している。
【0004】
特許文献2の有機ハロゲン化合物の分解方法は、有機ハロゲン化合物、アルコール、アルカリ物質を混合した溶液に光を照射してハロゲン含有固形物を形成した後に、前記固形物を含有する溶液を固液分離し、この固液分離によって得た残留溶液に金属触媒を添加して加熱している。
【0005】
特許文献3のPCB汚染物の洗浄処理方法はPCB汚染物を有機溶剤で洗浄した洗浄排液に含まれる有機溶剤とPCBとを蒸留によって分離している。
【0006】
特許文献4の有機ハロゲン化合物内蔵機器の無害化処理方法は有機ハロゲン化合物を含む絶縁油を充填した電気機器に水素供与体にアルカリ化合物を添加してなる溶液を充填した後に前記溶液を触媒に循環的に接触して有機ハロゲン化合物を分解している。
【特許文献1】特開平9−249581
【特許文献2】特開2000−84111
【特許文献3】特開2005−103388
【特許文献4】特開2006−142278
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の有機ハロゲン物質の除去技術では、有機ハロゲン物質を除去するための薬品コストやエネルギーコストが高くなるばかりでなく、電気機器や絶縁油を移動せずに絶縁油中の有害物質を除去した後に一般廃棄物として処分できない。さらには前記絶縁油及びこれを充填した電気機器を継続して使用できない。
【0008】
PCB含有特別管理廃棄物として保管するには管理費用がかかる。
【0009】
PCB等の有害物質を含む絶縁油を使用する電気機器は、絶縁油交換しても完全に抜き取ることができないので有害物質が残留し、処分の際の輸送や解体時などの安全性が確保できない。特に内部に絶縁紙を多く収納しているコンデンサでは絶縁油の封入量の約50%しか抜き取ることができない。
【0010】
絶縁油中のPCBの無害化方法は焼却以外にもいくつかあるが、いずれも絶縁油を機器から抜き取って処分場へ持ち込む必要があり、運搬中の危険がある。
【0011】
絶縁油中のPCBの無害化方法は焼却以外にもいくつかあるが、PCBの処理工程でアルカリを添加するため主成分である絶縁油も分解され、絶縁油として再使用することができない。
【0012】
従来技術で述べられているようにPCB含有絶縁油の処理工程で水素ガスを使用する場合は、水素ガスは爆発火性があり危険である。
【0013】
電気機器本体は継続して使用することが可能であっても、絶縁油中にPCBが混入していることが判明し、電気機器を処分しなければならない場合には機器の処分費用に加えて交換費用などが発生し、経済的損失が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明の絶縁油再生方法は、密閉系で電気機器から導入した絶縁油を水または塩水溶液と接触させて前記絶縁油に含まれる水分及び塩分を前記水または塩水溶液の相に溶出させる工程と、この工程から供された絶縁油を極性溶媒と接触させて前記絶縁油に含まれる有機ハロゲン物質を前記極性溶媒の相に溶出させる工程とを有する。絶縁油に混入した水分及び塩分が前記水または塩水溶液の相に溶出すると共に有機ハロゲン物質が及び極性溶媒の相に溶出するので絶縁油が再生される。
【0015】
前記電気機器から導入した絶縁油をフィルターによって固液分離するとよい。絶縁油に混入した固形部が除去されて絶縁油の再生効率が高まる。
【0016】
前記極性溶媒と接触して有機ハロゲン物質が除去された絶縁油は前記電気機器に返送する際に固液分離手段によって固液分離処理するとよい。再生される絶縁油の純度が高まる。
【0017】
前記塩水溶液としては例えばリン酸塩水溶液が挙げられる。具体的なリン酸塩水溶液としてはリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムのいずれかの水溶液が例示される。
【0018】
前記極性溶媒としては例えば極性有機溶媒が挙げられる。具体的な極性有機溶媒としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアルデヒド、アセトニトリル、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホランのいずれかが例示される。
【0019】
前記極性溶媒と接触して有機ハロゲン物質が除去された絶縁油には減溶成分を補充するとよい。再生される絶縁油の成分が確保される。前記減溶成分としては例えば流動帯電抑制剤や絶縁油が挙げられる。前者によれば極性溶媒に溶出する流動帯電抑制剤の補填が可能となる。後者によれば電気機器に返送される絶縁油の純度が維持される。
【0020】
前記電圧機器としては例えば変圧器またはコンデンサが挙げられる。絶縁油が再生されることにより前記例示された電気機器の継続的な使用が可能となる。
【0021】
前記有機ハロゲン物質が除去された絶縁油は燃料として利用するとよい。絶縁油を廃棄する必要がなくなる。
【0022】
また、本発明の絶縁油再生装置は、密閉系で電気機器から導入した絶縁油を水または塩水溶液と接触させて前記絶縁油に含まれる水分及び塩分を前記水または塩水溶液の相に溶出させる第一分離槽と、この第一分離槽から導入した絶縁油を極性溶媒と接触させて前記絶縁油に含まれる有機ハロゲン物質を前記極性溶媒の相に溶出させる第二分離槽と、この第二分離槽で分離された絶縁油を前記電気機器に返送する絶縁油返送手段とを備える。第一分離槽内では絶縁油に混入している水分及び塩分が水または塩水溶液の相に溶出し、第二分離槽内では前記絶縁油に混入している有機ハロゲン物質が及び極性溶媒の相に溶出するので、絶縁油が再生される。
【0023】
前記水または塩水溶液の相の比重が前記絶縁油の比重よりも大きい場合、前記第一分離槽は底部付近から絶縁油を導入するとよい。前記絶縁油と前記水または塩水溶液の相との接触効率が高まり、前記絶縁油に混入された水分及び塩分が前記水または塩水溶液の相に溶出し易くなる。
【0024】
一方、前記水または塩水溶液の相の比重が前記絶縁油の比重よりも小さい場合、前記第一分離槽は上部から絶縁油を導入するとよい。前記絶縁油と前記水または塩水溶液の相との接触効率が高まり、前記絶縁油に混入された水分及び塩分が前記水または塩水溶液の相に溶出し易くなる。
【0025】
また、前記極性溶媒の相の比重が前記絶縁油の比重よりも大きい場合、前記第一分離槽は底部付近から絶縁油を導入するような態様を成すとよい。前記絶縁油と前記極性溶媒の相との接触効率が高まり、前記絶縁油に混入された有機ハロゲン物質が前記極性溶媒の相に溶出し易くなる。
【0026】
一方、前記極性溶媒の相の比重が前記絶縁油の比重よりも小さい場合、前記第一分離槽は上部から絶縁油を導入するような態様を成すとよい。前記絶縁油と前記極性溶媒の相との接触効率が高まり、前記絶縁油に混入された有機ハロゲン物質が前記極性溶媒の相に溶出し易くなる。
【0027】
前記絶縁油再生装置には前記電気機器から前記第一分離槽に供給される絶縁油を固液分離するフィルターを備えるとよい。絶縁油に混入した固形部が除去されて絶縁油の再生効率が高まる。
【0028】
また、前記絶縁油再生装置には前記第二分離槽から前記電気機器に返送される絶縁油を固液分離する固液分離手段を備えるとよい。再生される絶縁油の純度が高まる。
【0029】
さらに、前記絶縁油返送手段には前記第二分離槽から導入した絶縁油の減溶成分を補充する減溶成分補充手段を備えるとよい。再生される絶縁油の成分が確保される。
【発明の効果】
【0030】
したがって、以上の発明によれば使用後及び使用中の電気機器の絶縁油を簡便且つ安価に再生できる。これにより電気機器を継続的に使用できる。再生された絶縁油は燃料にもなるので廃棄することなく有効利用できる。有害物質が除去された絶縁油を充填した電気機器は絶縁油の抜き取りや機器の解体が不要となると共に運搬時の危険性が解消する。また、一般廃棄物として処分できるので保管費用も節約できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(実施形態1)
図1は発明の第一の実施形態に係る絶縁油再生装置1の概略構成図である。
【0032】
絶縁油再生装置1は低濃度のPCB(例えば10%以下)及び水分、塩分などの有害物質や汚染物質を含む使用済み変圧器等の電気機器の絶縁油を移動せずに密閉系で安全に燃料として使用できるように再生する。
【0033】
絶縁油再生装置1は電気機器2と第一分離槽3と第二分離槽4とを備える。
【0034】
第一分離槽3には洗浄液として水または塩水溶液が貯留されている。第一分離槽3では電気機器2から供された絶縁油から水分や塩分などの水溶性成分を前記水または塩水溶液の液相に分離する。第一分離槽3は配管5を介して電気機器2の絶縁油充填部20内の絶縁油を導入する。配管5には絶縁油充填部20内の絶縁油を第一分離槽3に移送するためのポンプP1が具備されている。前記液相の比重が絶縁油の比重よりも大きい場合、絶縁油は第一分離槽3の底部付近から導入され上部から回収される。一方、前記液相の比重が絶縁油の比重よりも小さい場合、絶縁油は第一分離槽3の上部から導入され底部付近から回収される。ポンプP1の一次側にはフィルター6が配置されている。フィルター6は絶縁油中の固形物を除去する物理フィルターであってPTFEやSUS等の絶縁油に侵されない材質から成るものであれば既知のものを適用すればよい。
【0035】
前記塩水溶液としては、例えばリン酸塩水溶液、具体的には、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムに例示されるような水に可溶で重金属を含まないリン酸塩が単体または適宜複数選択されて0〜10%の水溶液に調整されたものが挙げられる。
【0036】
第二分離槽4には洗浄液として極性有機溶媒が貯留されている。第二分離槽4では第一分離槽3から導入した絶縁油から水分やPCB等を前記極性有機溶媒の液相に分離する。第二分離槽4は配管7を介して第一分離槽3の絶縁油を導入する。配管7には第一分離槽3内の絶縁油を第二分離槽4に移送するためのポンプP2が具備されている。前記液相の比重が絶縁油の比重よりも大きい場合、絶縁油は第二分離槽4の底部付近から導入され上部から回収される。一方、前記液相の比重が絶縁油の比重よりも小さい場合、絶縁油は第二分離槽4の上部から導入され底部付近から回収される。
【0037】
第二分離槽4内で分離(洗浄)された絶縁油は配管8を介して電気機器2の絶縁油充填部20に供給される。配管8には第二分離槽4内の絶縁油を絶縁油充填部20に返送するためのポンプP3が具備されている。ポンプP3の一次側には油水分離手段9が配置されている。油水分離手段9としては例えば既知の油水分離機、液だめ方式、撥水フィルター方式等が挙げられる。
【0038】
前記極性有機溶媒はジメチルスルホキシドの他にジメチルホルムアルデヒド、アセトニトリル、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等のような絶縁油と混和しない有機溶媒ではあれば特に限定しない。
【0039】
ポンプP1,P2,P3は接液部がPTEE、PEEKなどの絶縁油に侵されない材料で構成されていれば既知の仕様のものを適用しても差し支えない。
【0040】
また、第一分離槽3、第二分離槽4の各槽は2段以上の多段にすることができる。すなわち、一旦、水、塩水溶液またはジメチルスルホキシドに接触させ、上層から回収した絶縁油を別の分離槽に導入して浄化効率を向上させることができる。この場合、分離槽内の浄化液の種類(水、塩水溶液,極性有機溶媒)は適宜に選択すればよい。
【0041】
さらに、第一分離槽3、第二分離槽4に導入される配管の出口にはスプレーノズルを接続すれば絶縁油と浄化液(水、塩水溶液,極性有機溶媒)との接触効率を向上させることができる。
【0042】
図1を参照しながら絶縁油再生装置1の動作例について説明する。
【0043】
電気機器2の絶縁油充填部20内の絶縁油がポンプP1によって第一分離槽3に連続的または一定量ずつ順次供給されると前記絶縁油に混入した水分、塩分などの水溶性成分が水(またはリン酸塩水溶液)の層に溶解する。前記絶縁油の比重が水(またはリン酸塩水溶液)の比重よりも小さい場合は水(またはリン酸塩水溶液)に溶解しないで上層に絶縁油が分離される一方で下層には水(またはリン酸塩水溶液)が分離される。
【0044】
次いで第一分離槽3内の絶縁油がポンプP2によって第二分離槽4に連続的または一定量ずつ順次供給されると、前記絶縁油に混入した水分及びPCB等がジメチルスルホキシドの層に溶解する。絶縁油はジメチルスルホキシドに溶解しないで上層に移行する一方で下層にジメチルスルホキシドが移行する。第二分離槽4内の絶縁油はポンプP3によって電気機器2の絶縁油充填部20に返送される。この返送の過程で前記絶縁油に含まれるジメチルスルホキシドは油水分離手段9によって除去される。
【0045】
再生された絶縁油は電気機器2の絶縁油充填部20の上部から導入される。絶縁油充填部20内の絶縁油の汚損物は第一分離槽3及び第二分離槽4の水及びジメチルスルホキシドの相に順次移行し絶縁油は浄化される。このように浄化された絶縁油が循環的に第一分離槽3及び第二分離槽4に供されて電気機器2内の汚損物質濃度は除々に低下する。絶縁紙分解物や金属酸化物などの懸濁物質はフィルター6で捕捉される。懸濁物質に吸着した有害物質は絶縁油の循環によって除去される。
【0046】
絶縁油のPCB濃度の経時的変化を図3に示した。絶縁油の水分濃度の経時的変化を図4に示した。
【0047】
以上の工程は密閉系で実施されることにより、絶縁油の外部からの汚染や汚損物を放出することなく、使用済みの絶縁油及び電気機器2内が浄化される。そして、これにより絶縁油は燃料として再使用でき、電気機器2の鉄心及び銅部分は売却し、残りの部分は一般の産業廃棄物として処分できる。
【0048】
(実施形態2)
図2は発明の第二の実施形態に係る絶縁油再生装置11の概略構成図である。
【0049】
絶縁油再生装置11は低濃度のPCB、トリクロロベンゼン(例えば10%以下)及び水分、塩分などの有害物質や汚染物質を含む使用済みコンデンサ等の電気機器2の絶縁油を移動せずに密閉系で安全に再生する。
【0050】
絶縁油再生装置11は第二分離槽3内の絶縁油を電気機器2の絶縁油充填部20に移送する配管8に絶縁油の減溶成分を補充する手段を備えた点以外は絶縁油再生装置1と同じ構成となっている。前記減溶成分としては例えば流動帯電抑制剤や絶縁油が挙げられる。
【0051】
絶縁油再生装置11ではコンデンサ等の電気機器において流動帯電抑制剤として添加されているベンゾトリアゾール(BTA)などのベンゼン環を有する物質はジメチルスルホキシドに溶解し、絶縁油から除去されるので、電気機器2に返送される絶縁油に定量的に添加する。また、絶縁油の汚損物質の含有量が高い場合には前記含有量に相当する絶縁油が減少するので絶縁油を新たに補充する。
【0052】
前記減溶成分の補充手段はポンプP3の二次側の配管8に接続された配管10にポンプP4を備えて成る。ポンプP4は絶縁油再生装置2の制御手段の制御信号に基づき絶縁油または添加剤を定量的に配管8に供給する。ポンプP4もポンプP1,P2,P3と同様に接液部がPTEE、PEEKなどの絶縁油や流動帯電抑制剤に侵されない材料で構成されていれば既知の仕様のものを適用すればよい。
【0053】
図2を参照しながら絶縁油再生装置11の動作例について説明する。
【0054】
電気機器2の絶縁油充填部20内の絶縁油がポンプP1によって第一分離槽3に連続的または一定量ずつ順次供給されると前記絶縁油に混入した水分、塩分等の水溶性成分が水(またはリン酸塩水溶液)の層に溶解する。前記絶縁油の比重が水(またはリン酸塩水溶液)の比重よりも小さい場合は水(またはリン酸塩水溶液)に溶解しないで上層に絶縁油が分離される一方で下層には水(またはリン酸塩水溶液)が分離される。
【0055】
次いで第一分離槽3内の絶縁油がポンプP2によって第二分離槽4に連続的または一定量ずつ順次供給されると、前記絶縁油に混入した水分、PCB、トリクロロベンゼン等がジメチルスルホキシドの層に溶解する。絶縁油はジメチルスルホキシドに溶解しないで上層に移行する一方で下層にジメチルスルホキシドが移行する。第二分離槽4内の絶縁油はポンプP3によって電気機器2の絶縁油充填部20に返送される。この返送の過程で前記絶縁油に含まれるジメチルスルホキシドは油水分離手段9によって除去される。この除去されたジメチルスルホキシドには絶縁油の流動帯電抑制剤の一部が溶解して絶縁油中の流動帯電抑制剤濃度が減少している場合がある。そこで、電気機器2に供される絶縁油には前記減少した量に相当する流動帯電抑制剤がポンプP4によって補充される。
【0056】
再生された絶縁油は電気機器2の絶縁油充填部20の上部から導入される。絶縁油充填部20内の絶縁油の汚損物は第一分離槽3及び第二分離槽4の水及びジメチルスルホキシドの相に順次移行し絶縁油は浄化される。このように浄化された絶縁油が循環的に第一分離槽3及び第二分離槽4に供されて電気機器2内の汚損物質濃度は除々に低下する。絶縁紙分解物や金属酸化物などの懸濁物質はフィルター6で捕捉される。懸濁物質に吸着した有害物質は絶縁油の循環によって除去される。
【0057】
絶縁油のトリクロロベンゼン濃度の経時的変化を図5に示した。絶縁油の水分濃度の経時的変化を図4に示した。
【0058】
(実施形態3)
本実施形態の絶縁油再生装置11は低濃度のPCB(例えば10%以下)及び水分、塩分などの有害物質や汚染物質を含む使用済み変圧器等の電気機器2の絶縁油を移動せずに密閉系で安全に再生する。本実施形態でも電気機器2において流動帯電抑制剤として利用されているベンゾトリアゾール(BTA)などのベンゼン環を有する物質はジメチルスルホキシドに溶解し、絶縁油から除去されるので、電気機器2に返送される絶縁油に定量的に添加する。また、絶縁油の汚損物質の含有量が高い場合には前記含有量に相当する絶縁油が減少するので絶縁油を新たに補充する。
【0059】
図2を参照しながら本実施形態の絶縁油再生装置11の動作例について説明する。
【0060】
電気機器2の絶縁油充填部20内の絶縁油がポンプP1によって第一分離槽3に連続的または一定量ずつ順次供給されると前記絶縁油に混入した水分、塩分等の水溶性成分が水(またはリン酸塩水溶液)の層に溶解する。前記絶縁油の比重が水(またはリン酸塩水溶液)の比重よりも小さい場合は水(またはリン酸塩水溶液)に溶解しないで上層に絶縁油が分離される一方で下層には水(またはリン酸塩水溶液)が分離される。
【0061】
次いで第一分離槽3内の絶縁油がポンプP2によって第二分離槽4に連続的または一定量ずつ順次供給されると、前記絶縁油に混入した水分やPCB等がジメチルスルホキシドの層に溶解する。絶縁油はジメチルスルホキシドに溶解しないで上層に移行する一方で下層にジメチルスルホキシドが移行する。第二分離槽4内の絶縁油はポンプP3によって電気機器2の絶縁油充填部20に返送される。この返送の過程で前記絶縁油に含まれるジメチルスルホキシドは油水分離手段9によって除去される。この除去されたジメチルスルホキシドには絶縁油の流動帯電抑制剤の一部が溶解して絶縁油中の流動帯電抑制剤濃度が減少している場合がある。そこで、電気機器2に供される絶縁油には前記減少した量に相当する流動帯電抑制剤がポンプP4によって補充される。
【0062】
再生された絶縁油は電気機器2の絶縁油充填部20の上部から導入される。絶縁油充填部20内の絶縁油の汚損物は第一分離槽3及び第二分離槽4の水及びジメチルスルホキシドの相に順次移行し絶縁油は浄化される。このように浄化された絶縁油が循環的に第一分離槽3及び第二分離槽4に供されて電気機器2内の汚損物質濃度は除々に低下する。絶縁紙分解物や金属酸化物などの懸濁物質はフィルター6で捕捉される。懸濁物質に吸着した有害物質は絶縁油の循環によって除去される。
【0063】
絶縁油のPCB濃度の経時的変化を図3に示した。絶縁油の水分濃度の経時的変化を図4に示した。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】発明の第一の実施形態に係る絶縁油再生装置の概略構成図。
【図2】発明の第二の実施形態に係る絶縁油再生装置の概略構成図。
【図3】絶縁油のPCB濃度の経時的変化。
【図4】絶縁油の水分濃度の経時的変化。
【図5】絶縁油のトリクロロベンゼン濃度の経時的変化。
【符号の説明】
【0065】
1,11…絶縁油再生装置
2…電気機器、20…絶縁油充填部
3…第一分離槽
4…第二分離槽
5,7,8,10…配管
6…フィルター
9…油水分離手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉系で電気機器から導入した絶縁油を水または塩水溶液と接触させて前記絶縁油に含まれる水分及び塩分を前記水または塩水溶液の相に溶出させる工程と、
この工程から供された絶縁油を極性溶媒と接触させて前記絶縁油に含まれる有機ハロゲン物質を前記極性溶媒の相に溶出させる工程と
を有すること
を特徴とする絶縁油再生方法。
【請求項2】
前記電気機器から導入した絶縁油をフィルターによって固液分離する工程を有すること
を特徴とする請求項1に記載の絶縁油再生方法。
【請求項3】
前記極性溶媒と接触して有機ハロゲン物質が除去された絶縁油を前記電気機器に返送する際に固液分離手段によって固液分離処理する工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁油再生方法。
【請求項4】
前記塩水溶液はリン酸塩水溶液であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の絶縁油再生方法。
【請求項5】
前記リン酸塩水溶液はリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムのいずれかの水溶液であることを特徴とする請求項4に記載の絶縁油再生方法。
【請求項6】
前記極性溶媒は極性有機溶媒であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の絶縁油再生方法。
【請求項7】
前記極性有機溶媒はジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアルデヒド、アセトニトリル、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホランのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の絶縁油再生方法。
【請求項8】
前記極性溶媒と接触して有機ハロゲン物質が除去された絶縁油の減溶成分を補充する工程を有すること
を特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の絶縁油再生方法。
【請求項9】
前記減溶成分は流動帯電抑制剤または絶縁油であることを特徴とする請求項8に記載の絶縁油再生方法。
【請求項10】
前記電圧機器は変圧器またはコンデンサであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の絶縁油再生方法。
【請求項11】
前記有機ハロゲン物質が除去された絶縁油を燃料として利用することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の絶縁油再生方法。
【請求項12】
密閉系で電気機器から導入した絶縁油を水または塩水溶液と接触させて前記絶縁油に含まれる水分及び塩分を前記水または塩水溶液の相に溶出させる第一分離槽と、
この第一分離槽から導入した絶縁油を極性溶媒と接触させて前記絶縁油に含まれる有機ハロゲン物質を前記極性溶媒の相に溶出させる第二分離槽と、
この第二分離槽で分離された絶縁油を前記電気機器に返送する絶縁油返送手段と
を備えたこと
を特徴とする絶縁油再生装置。
【請求項13】
前記水または塩水溶液の相の比重が前記絶縁油の比重よりも大きい場合、前記第一分離槽は底部付近から絶縁油を導入すること
を特徴とする請求項12に記載の絶縁油再生装置。
【請求項14】
前記水または塩水溶液の相の比重が前記絶縁油の比重よりも小さい場合、前記第一分離槽は上部から絶縁油を導入すること
を特徴とする請求項12に記載の絶縁油再生装置。
【請求項15】
前記極性溶媒の相の比重が前記絶縁油の比重よりも大きい場合、前記第一分離槽は底部付近から絶縁油を導入すること
を特徴とする請求項12から14のいずれか1項に記載の絶縁油再生装置。
【請求項16】
前記極性溶媒の相の比重が前記絶縁油の比重よりも小さい場合、前記第一分離槽は上部から絶縁油を導入すること
を特徴とする請求項12から14のいずれか1項に記載の絶縁油再生装置。
【請求項17】
前記電気機器から前記第一分離槽に供給される絶縁油を固液分離するフィルターを備えたことを特徴とする請求項12から16のいずれか1項に記載の絶縁油再生装置。
【請求項18】
前記第二分離槽から前記電気機器に返送される絶縁油を固液分離する固液分離手段を備えたことを特徴とする請求項12から17のいずれか1項に記載の絶縁油再生装置。
【請求項19】
前記絶縁油返送手段は前記第二分離槽から導入した絶縁油の減溶成分を補充する減溶成分補充手段を備えたこと
を特徴とする請求項12から18のいずれか1項に記載の絶縁油再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−258088(P2008−258088A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101399(P2007−101399)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】