説明

絶縁部材及びその製造方法

【課題】高周波をかけても漏れ電流の影響を受けない細い径の絶縁部材を提供する。
【解決手段】導体(裸銅線2)上に絶縁被膜3を被覆し、絶縁被膜3の上から、カーボンブラックがポリアミドイミド樹脂に対して質量比が5%以上10%以下含まれたコーティング液でディップコート等により半導体層4を被覆する。被覆方法は、絶縁被膜のような電着ではなく、フェルト塗装、ダイス塗装等を用いたディップコート、ロールコータ塗装等で行うのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁被膜を被覆した導体の上から半導体層を設けた絶縁部材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高電圧をかけたときに導体と絶縁被膜との間で発生するコロナ放電を防ぐために導体と絶縁被膜との間に半導体層を設けた絶縁電線は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2のように、被絶縁処理部材との密着性が良好で、割れが生じにくく、しかも、高度の耐熱性及び高度の耐電圧性を有する絶縁被膜で絶縁処理された絶縁部材が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−322645号公報
【特許文献2】特開2010−108725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の絶縁部材では、半導体検査装置における高周波プローブピンのように、導体に高周波をかけるような用途では、漏れ電流が発生し、正確な測定ができないという問題があった。
【0006】
一方、従来より、同軸構造の電線やプローブピンが用いられているが、漏れ電流を確実に防ぐ細い径の絶縁部材は存在しない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高周波をかけても漏れ電流の影響を受けない細い径の絶縁部材を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、絶縁被膜を被覆した導体の上から半導体層を設けるようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、
導体上に絶縁被膜を被覆し、
上記絶縁被膜の上から、カーボンブラックがポリアミドイミド樹脂に対して質量比が5%以上10%以下含まれたコーティング液で電着せずに半導体層を被覆する。
【0010】
上記の構成によると、ポリアミドイミド樹脂を電着ではなくコーティング液により被覆で設けているので、耐熱性及び機械的強度に優れた半導体層を有する細い径の絶縁部材が得られる。そして、高周波用途で絶縁被膜から漏れた電流は、半導体層で地絡できるので、漏れ電流による悪影響が生じない。被覆方法は、絶縁被膜のような電着ではなく、フェルト塗装、ダイス塗装等を用いたディップコート、ロールコータ塗装等で行うのが望ましい。
【0011】
第2の発明では、導体と、該導体を覆う絶縁被膜と、該絶縁被膜を覆う半導体層とを備え、
上記半導体層は、無機系フィラーが混合されたコーティング液により被覆されている。
【0012】
上記の構成によると、高周波用途で絶縁被膜から漏れた電流は、半導体層で地絡できるので、漏れ電流による悪影響が生じない。また、ポリアミドイミド樹脂を被覆しているので、耐熱性及び機械的強度に優れた半導体層を有する細い径の絶縁部材が得られる。
【0013】
第3の発明では、第2の発明において、
上記無機系フィラーは、カーボンブラックであり、
上記半導体層は、該カーボンブラックがポリアミドイミド樹脂に対して質量比が5%以上10%以下含まれたコーティング液により被覆されたものである。
【0014】
すなわち、カーボンブラックの比率が5%よりも小さいと、地絡の効果を得にくく、10%よりも大きくなると、もろくなって絶縁被膜との密着性が落ちる。しかし、上記の構成によると、絶縁被膜との密着性が高く、地絡の効果が得やすい絶縁部材が得られる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、絶縁被膜の上から半導体層を被覆するようにしたので、高周波をかけても漏れ電流の影響を受けない細い径の絶縁部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の絶縁部材の一例を示す断面図である。
【図2】絶縁被膜を電着する様子を示す説明図である。
【図3】絶縁電線の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】半導体層をコーティングする様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明でいう「絶縁部材」とは、種々の技術分野において、表面の絶縁保護が必要となる部材の表面に、絶縁被膜を形成して絶縁処理をした部材を意味し、具体的には、導体線の外周に絶縁被膜を形成した絶縁電線、プローブガード測定用の針状金属ピン等が挙げられ、特に高周波用途のものが適している。高周波の範囲としては、例えば、1MHz以上が該当する。
【0019】
導体の材質としては、特に限定はされないが、導電性の点から、銅、銅合金、銅クラッドアルミニウム、アルミニウム、亜鉛メッキ鉄、銀、金、ニッケル、チタン、タングステン、パラジウム合金のような貴金属系等が適している。なお、導体として絶縁材料からなる部材本体にメッキのような導電加工を施した部材であってもよい。
【0020】
図1は本発明の実施形態の絶縁部材としての絶縁電線の断面の一例を示し、この絶縁電線1は、直径0.1〜0.2mmの裸銅線2の表面にポリイミド電着コーティングよりなる絶縁被膜3が被覆されている。絶縁被膜3の厚さは、例えば、2〜50μmとする。絶縁被膜3のための塗料は、例えば、耐熱性の観点からポリイミド樹脂電着塗料が適し、機械特性の観点からエポキシ系、アクリル系電着塗料などが適している。
【0021】
絶縁被膜3の表面には、無機系フィラーが混合されたコーティング液によりディップコートされた半導体層4が設けられている。半導体層4の厚さは、例えば、2〜3μmとする。半導体層は、例えば体積抵抗率が10〜10Ω・cmとする。コーティング液としては、例えば、無機系フィラーとしてのカーボンブラックがポリアミドイミド樹脂に対して質量比が5%以上10%以下含まれたものが望ましい。それ以外に、NMP(N−メチルピロリドン)、DMF(ジメチルフォルムアミド)、キシレン、トルエンなどの溶剤が含まれている。代表的な配合例は質量%でNMPが50%、DMFが15%、キシレンが30%、トルエンが1%、カーボンブラックが4%となる。
【0022】
半導体層4は、電気的緩和層となり、コロナ放電を防止できるほか、外部導体となって同軸構造となることから、半導体層4を短絡(アース)することで、高周波が加えられたときに発生する漏れ電流の悪影響を確実に防止することができる。
【0023】
−絶縁電線の製造方法−
次に、本実施形態にかかる絶縁電線1の製造方法について図面を用いて説明する。
【0024】
絶縁部材として、絶縁電線1を製造する場合、まず、図3に示すように、ステップS01において、ロール10に巻き線された裸銅線2を準備する。
【0025】
そして、ステップS02の電着工程において、図2に示すように、ロール10から裸銅線2を引き出し、電源の陽極側に接続した状態で、電着塗料12で満たされた電着バス11中を通過させる。電着バス11中には、陰極管13が配置され、裸銅線2の通過時に電圧の印加により、陽極である裸銅線2と陰極である陰極管13との間の電位差により、ポリイミドが裸銅線2に略均一に析出する。
【0026】
次いで、ステップS03の第1焼付工程において、電着バス11を通過した裸銅線2を第1焼付け炉14に導入する。この第1焼付け炉14内で、100〜300℃で加熱し、裸銅線2に析出したポリイミド中の水を蒸発させ、ポリイミドからなる絶縁被膜3を形成する。
【0027】
次いで、ステップS04の半導体コート工程において、絶縁被膜3が被覆された裸銅線2の上から半導体層4をコーティングする。具体的には、図4に示すように、絶縁被膜3が被覆された裸銅線2を垂直にして容器21内のコーティング液22に浸漬して上方に引上げて、絶縁被膜3の表面に付着した液膜を空気中でゲル化させる。半導体層4の厚みは、例えば0.5〜10μmとする。詳細は図示しないが、半導体層4の厚みを調整するためにフェルトやダイスなどの制御部を設け、この制御部でコーティング液22を適度に取り除けばよい。
【0028】
コーティング液22は、カーボンブラックがポリアミドイミド樹脂に対して質量比が5%以上10%以下含まれたコーティング液よりなる。すなわち、カーボンブラックの比率が5%よりも小さいと、地絡の効果を得にくく、10%よりも大きくなるともろくなって絶縁被膜3との密着性が落ちる。しかし、上記の質量比にすることで、絶縁被膜3との密着性が高く、地絡の効果が得やすい絶縁部材が得られる。なお、この半導体コート工程は、フェルト塗装、ダイス塗装等を用いたディップコートではなく、ロールで塗りつけるロールコータ塗装等で行ってもよい。但し、電着により被覆するとポリアミドイミドの耐熱性が落ちて望ましくない。
【0029】
次いで、ステップS05の第2焼付工程において、半導体コート工程を終えた裸銅線2を第2焼付け炉15に導入する。この第2焼付け炉15内で200〜400℃で加熱し、表面に塗装されたポリアミドイミド中の水及び溶剤成分(NMP等)を蒸発させ、ポリアミドイミド及びカーボンブラックからなる半導体層4を形成する。
【0030】
最後に絶縁銅線をロール16で巻き取る。
【0031】
このように、電着しても耐熱性が低下しないポリイミド等の電着による絶縁被膜の上から、ポリアミドイミド樹脂を電着せずにディップコート等の電着によらない塗装で設けているので、耐熱性及び機械的強度に優れた半導体層4を有する細い径の絶縁部材が得られる。そして、高周波用途で絶縁被膜3から漏れた電流は、半導体層4で地絡できるので、漏れ電流による悪影響が生じない。
【0032】
したがって、本実施形態にかかる絶縁部材によると、絶縁被膜3の上から半導体層4をディップコートするようにしたので、高周波をかけても漏れ電流の影響を受けない細い径の絶縁部材が得られる。
【0033】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0034】
すなわち、上記実施形態では、絶縁被膜3が被覆された電線の表面に半導体層4をコーティングした絶縁電線1の例を示したが、プローブガード測定用の針状金属ピンに絶縁被膜3を被覆して半導体層4をコーティングしてもよい。この場合には、特に計測中に高周波が加えられるため漏れ電流が発生しやすいが、半導体層4をアースすることにより、漏れ電流の悪影響を確実に防止できるので、測定誤差が小さくなって望ましい。
【0035】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、本発明は、絶縁被膜を被覆した導体の上から半導体層を設けた絶縁部材及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 絶縁電線
2 裸銅線(導体)
3 絶縁被膜
4 半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体上に絶縁被膜を被覆し、
上記絶縁被膜の上から、カーボンブラックがポリアミドイミド樹脂に対して質量比が5%以上10%以下含まれたコーティング液で半導体層を被覆する
ことを特徴とする絶縁部材の製造方法。
【請求項2】
導体と、該導体を覆う絶縁被膜と、該絶縁被膜を覆う半導体層とを備え、
上記半導体層は、無機系フィラーが混合されたコーティング液により被覆されている
ことを特徴とする絶縁部材。
【請求項3】
請求項2に記載の絶縁部材において、
上記無機系フィラーは、カーボンブラックであり、
上記半導体層は、該カーボンブラックがポリアミドイミド樹脂に対して質量比が5%以上10%以下含まれたコーティング液により被覆されたものである
ことを特徴とする絶縁部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−129121(P2012−129121A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280994(P2010−280994)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】