説明

絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】十分な難燃性を有し、耐寒性および耐摩耗性に優れた絶縁電線を提供すること。
【解決手段】導体12と、導体12の外周を被覆する絶縁被覆層とを有し、前記絶縁被覆層は、内層14と外層16とを有する複数層で構成され、内層14と外層16のいずれか一方が、ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選択された1種または2種以上を含有する層であり、他方が、オレフィン系樹脂と金属水酸化物とを含有する層である絶縁電線とする。他方の層には、ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂が0.1〜10質量%含有されていると良い。また、他方の層の厚みは、絶縁被覆層全体の厚みの1/2以上であると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、車両部品、電気・電子機器部品などに好適に用いられる絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線としては、一般に、導体の外周に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物を被覆したものが広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、この種の塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスが発生するおそれのない、いわゆるノンハロゲン系難燃性組成物への代替が進められている。
【0005】
例えば特許文献1には、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)やポリエチレン、エチレンプロピレンゴムなどのハロゲンを含有しないオレフィン液樹脂やゴム等に、ノンハロゲン系難燃剤としての水酸化マグネシウムを添加した難燃性組成物を導体の外周に被覆した絶縁電線が開示されている。
【0006】
また、例えば特許文献2には、ポリオレフィン樹脂と、ポリフェニレンエーテル樹脂と、2種類の特定の有機化合物とを含有する樹脂組成物を導体の外周に被覆した絶縁電線が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、ポリフェニレンスルフィド樹脂と、ポリオレフィン樹脂とを含有する樹脂組成物を導体の外周に被覆した絶縁電線が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3339154号公報
【特許文献2】特開2002−265698号公報
【特許文献3】特開2006−12659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、基本的にオレフィン系樹脂などは燃えやすく、また、ノンハロゲン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤に比較して難燃化効果に劣る。したがって、特許文献1などに示される難燃性組成物では、十分な難燃性を確保するために、水酸化マグネシウムを多量に添加する必要があった。そのため、従来の絶縁電線では、耐摩耗性などの機械的特性が著しく低下するという問題があった。
【0010】
また、特許文献2や特許文献3に示される絶縁電線は、耐寒性と耐摩耗性とをともに満足させるものではなかった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、十分な難燃性を有し、耐寒性および耐摩耗性に優れた絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明に係る絶縁電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆層とを有する絶縁電線であって、前記絶縁被覆層は、複数層から構成されており、ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選択された1種または2種以上を含有する第一の層と、オレフィン系樹脂と金属水酸化物とを含有する第二の層とを有することを要旨とするものである。
【0013】
この場合、前記第二の層は、ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂を含有することが望ましい。
【0014】
そして、前記ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂は、官能基を有することが望ましい。
【0015】
このとき、前記官能基としては、カルボン酸基、酸無水基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基およびシラン基から選択された1種または2種以上を好適に示すことができる。
【0016】
また、前記ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂の含有率は、0.1〜10質量%の範囲内であると良い。
【0017】
そして、前記第二の層の厚みは、絶縁被覆層全体の厚みの1/2以上であることが望ましい。
【0018】
また、前記第一の層は、前記絶縁被覆層の内層であることが望ましい。
【0019】
また、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含むことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る絶縁電線は、絶縁被覆層が複数層から構成されており、ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選択された1種または2種以上を含有する第一の層と、オレフィン系樹脂と金属水酸化物とを含有する第二の層とを有する。そのため、難燃性、耐寒性、耐摩耗性に優れる。
【0021】
このとき、前記第二の層が、ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂を含有すると、前記第二の層がより一層、柔軟になる。これにより、絶縁電線は、より一層、耐寒性に優れる。
【0022】
そして、前記ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂が官能基を有する場合には、共に用いられる金属水酸化物との密着性が高くなる。これにより、金属水酸化物の分散性が向上するため、前記第二の層の耐寒性、耐摩耗性がより向上し、絶縁電線の耐寒性、耐摩耗性が向上する。また、前記第二の層が導体と接する層である場合には、前記第二の層と導体との間の密着性が向上する。これによっても、耐摩耗性等の機械的特性が向上する。
【0023】
また、前記ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂の含有率が上記範囲内にあると、耐寒性と耐摩耗性とのバランスに優れる。
【0024】
そして、前記第二の層の厚みが、絶縁被覆層全体の厚みの1/2以上であると、耐寒性向上効果が高い。また、コストが低減できる。
【0025】
また、前記第一の層が前記絶縁被覆層の内層であると、溶融温度の高い材料よりなる第一の層を先に形成することができる。そのため、第一の層よりも溶融温度の低い材料よりなる層が、第一の層を形成する際の溶融熱で溶融されるおそれがない。これにより、生産性が高くなるとともに、絶縁電線の寸法安定性や外観にも優れる。
【0026】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスによれば、上記絶縁電線を含むので、絶縁被覆層の劣化が抑えられ、長期にわたって高い信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る絶縁電線は、導体と、導体の外周を被覆する絶縁被覆層とを有し、絶縁被覆層が複数層から構成されている。絶縁被覆層は2層以上の層から構成されていれば良く、3層以上であっても良い。製造しやすさなどの観点から、絶縁被覆層は2層または3層が好ましい。より好ましくは2層である。
【0028】
絶縁被覆層は、ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選択された1種または2種以上を含有する第一の層と、オレフィン系樹脂と金属水酸化物とを含有する第二の層とを有する。
【0029】
絶縁被覆層が2層よりなる場合には、絶縁被覆層は上記第一の層と上記第二の層とから構成される。この場合、第一の層が内層で第二の層が外層であっても良いし、第一の層が外層で第二の層が内層であっても良い。絶縁電線の生産性や寸法安定性、外観などの観点から、より好ましくは、第一の層が内層であり、第二の層が外層である。すなわち、第一の層は、第二の層よりも溶融温度の高い材料で形成されているため、第一の層を第二の層よりも先に内側に形成すれば、第二の層を形成する際に、第一の層を形成する際の溶融熱で第二の層が溶融されるおそれがない。これにより、生産性が良くなるとともに、絶縁電線の寸法安定性や外観にも優れる。
【0030】
一方、絶縁被覆層が3層以上よりなる場合には、絶縁被覆層は上記第一の層と、上記第二の層と、1層以上の他の層とを有する。この場合、第一の層および第二の層は、絶縁被覆層のどの位置にあっても良く、特に限定されるものではない。より好ましくは、溶融温度の高い材料よりなる第一の層を先に内側に形成することができ、第一の層よりも溶融温度の低い材料よりなる層が第一の層を形成する際の溶融熱で溶融されるおそれがないなどの観点から、第一の層が絶縁被覆層の内層であると良い。
【0031】
第一の層は、ポリフェニレンエーテル樹脂やポリフェニレンスルフィド樹脂を含有するため、耐摩耗性を向上させる。また、難燃性も有する。
【0032】
第一の層に含有されるポリフェニレンエーテル樹脂は、一般に、フェノール類を重合して得られる。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、一般に、チオフェノール類を重合して得られる。その重合方法は、特に限定されるものではない。
【0033】
フェノール類やチオフェノール類は、芳香環に置換基を有するものであっても良い。この際、置換基の数や位置は特に限定されるものではない。好適な置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、pri−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシメチル基、フェニルエチル基、ベンジル基、カルボキシエチル基、メトキシカルボニルエチル基、シアノエチル基、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、アリル基などを例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせても良い。
【0034】
ポリフェニレンエーテル樹脂は、同種のフェノール類からなるものであっても良いし、異種のフェノール類からなる共重合のものであっても良い。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、同種のチオフェノール類からなるものであっても良いし、異種のチオフェノール類からなる共重合のものであっても良い。
【0035】
ポリフェニレンエーテル樹脂やポリフェニレンスルフィド樹脂は、官能化されていても良い。官能化に用いる化合物としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、スチレンなどを例示することができる。
【0036】
第一の層は、ポリフェニレンエーテル樹脂やポリフェニレンスルフィド樹脂以外の、アロイ化可能な他の高分子材料を含有していても良い。他の高分子材料としては、例えば、オレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリアミド系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどを例示することができる。他の高分子材料としては、より好ましくは、流動性や耐薬品性が向上するなどの観点から、オレフィン系樹脂である。また、寸法精度や難燃性が向上するなどの観点から、ポリスチレンである。
【0037】
第一の層は、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリフェニレンスルフィド樹脂の合計質量が、第一の層の全体質量に対して、10〜90質量%の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、20〜80質量%の範囲内であり、さらに好ましくは、30〜70質量%の範囲内である。含有量が10質量%未満では、耐摩耗性、難燃性を高める効果が低下しやすい。一方、含有量が90質量%を超えると、第一の層が硬くなりすぎ、絶縁電線の柔軟性が低下しやすい。
【0038】
第一の層に含有可能なオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルアセテート等のエチレン(共)重合体、α−オレフィン(共)重合体を示すことができる。これらは、1種または2種以上併用することができる。この際、ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどが挙げられる。
【0039】
第一の層に含有可能なスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−スチレン共重合体(SES)やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、無水マレイン酸変性のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)やスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、無水マレイン酸変性のスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0040】
第一の層に含有可能な熱可塑性エラストマーとしては、1,2−ポリブタジエンなどが挙げられる。また、第一の層に含有可能なゴムとしては、ブタジエンゴムやイソプレンゴムなどが挙げられる。これらのゴムは、酸変性したものであっても良い。例えば、コアシェル構造を有する変性ブタジエンゴムや、コアシェル構造を有する変性イソプレンゴムなどを例示することができる。
【0041】
第二の層に含有されるオレフィン系樹脂としては、上記第一の層に含有可能なオレフィン系樹脂として記載した樹脂を例示することができる。
【0042】
第二の層に含有される金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを示すことができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。より好ましくは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムである。
【0043】
金属水酸化物の含有量は、第二の層に含有されるポリマー成分100質量部に対して、好ましくは、30〜250質量部の範囲内、より好ましくは、50〜200質量部の範囲内、さらに好ましくは、60〜180質量部の範囲内である。
【0044】
金属水酸化物の平均粒子径は、0.1〜20μmの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.2〜10μmの範囲内であり、さらに好ましくは、0.5〜5μmの範囲内である。平均粒子径が0.1μm未満では、粒子が凝集しやすいため、機械的特性が低下しやすい。また、生産性が低下する。一方、平均粒子径が20μmを超えると、低温特性が低下しやすい。また、外観不良になる傾向がある。
【0045】
金属水酸化物は、表面処理されていても良い。表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、脂肪酸、脂肪酸誘導体、高級アルコール、ワックスなどの一般的な表面処理剤であっても良いし、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィンの単独重合体あるいは相互共重合体であっても良い。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0046】
上記表面処理剤は、官能化されていても良い。官能化に用いる化合物としては、不飽和カルボン酸およびその誘導体が挙げられる。具体的には、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸などが挙げられる。これらは1種または2種以上併用することができる。これらのうち、無水マレイン酸、マレイン酸が好ましい。
【0047】
上記表面処理剤に酸等を導入する方法としては、グラフト法や直接法(共重合法)がある。また、導入量としては、好ましくは、0.1〜20質量%の範囲内、より好ましくは、0.2〜10質量%の範囲内、さらに好ましくは、0.2〜5質量%の範囲内である。
【0048】
表面処理剤は、金属水酸化物100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜3質量部の範囲内である。0.1質量部未満では、電線特性の向上効果が低下しやすく、10質量部を超えると、過剰に添加されたものが不純物として残存しやすくなり、電線の物性を低下させやすい。
【0049】
第二の層は、ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂を含有していても良い。ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂は、ポリフェニレンエーテル樹脂やポリフェニレンスルフィド樹脂を含有する第一の層を有する絶縁電線をより柔軟にする。ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂としては、オレフィン系樹脂が挙げられる。具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルアセテート等のエチレン(共)重合体、α−オレフィン(共)重合体を示すことができる。これらは、1種または2種以上併用することができる。
【0050】
上記樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、熱分析(DSC法)により測定することができる。
【0051】
ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂は、官能化されていても良い。官能化されていると、共に用いられる金属水酸化物との密着性が高くなる。これにより、金属水酸化物の分散性が向上するため、第二の層の耐寒性、耐摩耗性がより向上し、絶縁電線の耐寒性、耐摩耗性が向上する。また、第二の層が導体と接する層である場合には、第二の層と導体との間の密着性が向上する。これにより、耐摩耗性等の機械的特性が向上する。
【0052】
導入可能な官能基としては、カルボン酸基、酸無水基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、シラン基などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0053】
上記樹脂中に占める官能基の割合は、0.05〜10質量%の範囲内にあることが好ましい。官能基の割合が0.05質量%未満では、上記する密着性向上効果が低下しやすい。一方、官能基の割合が10質量%を超えると、電線の端末加工時の被覆ストリップ性が低下しやすい。より好ましくは、0.1〜10質量%、さらに好ましくは、0.2〜5質量%の範囲内である。
【0054】
上記樹脂に官能基を導入する方法としては、通常の、グラフト重合方法や、共重合方法を示すことができる。すなわち、上記樹脂に、ラジカル重合開始剤等を用いて、官能基を形成する化合物をグラフト重合する方法や、上記樹脂と、官能基を形成する化合物とを共重合する方法が挙げられる。
【0055】
上記樹脂に、カルボン酸基、酸無水基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などのα、β−不飽和ジカルボン酸およびこれらの酸無水物や、(メタ)アクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸などの不飽和モノカルボン酸およびこれらのエステル化合物などを例示することができる。
【0056】
上記樹脂に、エポキシ基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステルや、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸などの酸のグリシジルエステル類や、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類や、p−グリシジルスチレンなどを例示することができる。
【0057】
上記樹脂に、ヒドロキシル基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどを例示することができる。
【0058】
上記樹脂に、アミノ基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレートなどを例示することができる。
【0059】
上記樹脂に、アルケニル環状イミノエーテル基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−イソプロペニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどを例示することができる。
【0060】
上記樹脂に、シラン基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシランなどの不飽和シラン化合物を例示することができる。
【0061】
ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂の含有率は、0.1〜10質量%の範囲内であることが好ましい。含有率が0.1質量%未満では、十分な耐寒性が得られにくい。一方、含有率が10質量%を超えると、耐摩耗性が低下しやすい。上記範囲内にある場合には、耐寒性と耐摩耗性とのバランスに優れる。より好ましくは、0.3〜8質量%の範囲内、さらに好ましくは、0.5〜5質量%の範囲内である。
【0062】
第二の層は、上記オレフィン系樹脂、ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂以外の他の高分子材料を含有していても良い。他の高分子材料としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどを例示することができる。これらは、上記第一の層に含有可能なスチレン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー、ゴムとして記載した材料を例示することができる。
【0063】
絶縁被覆層が3層以上である場合、他の層を形成する材料は特に限定されるものではない。例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー、ゴムなどを例示することができる。第一の層や第二の層との密着性を確保するなどの観点から、第二の層と同様の配合材料にしても良い。
【0064】
第一の層、第二の層および他の層には、必要に応じて、添加剤が配合されていても良い。例えば、電線被覆材などに用いられる一般的な充填剤や、顔料、酸化防止剤、老化防止剤、難燃剤などが配合されていても良い。
【0065】
上記第二の層の厚みは、耐寒性向上効果が高い、コストが低減できるなどの観点から、絶縁被覆層全体の厚みの1/2以上であることが好ましい。より好ましくは、1/2〜9/10の範囲内であり、さらに好ましくは、3/5〜4/5の範囲内である。一方、上記第一の層の厚みは、耐摩耗性向上効果が高いなどの観点から、絶縁被覆層全体の厚みの1/10〜1/2の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、1/5〜2/5の範囲内であり、さらに好ましくは、1/4〜7/20の範囲内である。また、絶縁被覆層全体の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは、0.5mm以下であると良い。
【0066】
図1に、本発明の一実施形態に係る絶縁電線10を示す。図1に示すものは、導体12の外周に、内層14と外層16の2層よりなる絶縁被覆層が被覆されたものを示している。内層14は、上記第一の層であっても良いし、上記第二の層であっても良い。
【0067】
導体としては、単線の金属線、複数本の金属素線が撚り合わされた撚線、撚線が圧縮加工されたものなどが挙げられる。図1(a)には、複数本の金属素線が撚り合わされた撚線よりなる導体12の例を示しており、図1(b)には、撚線を圧縮加工してなる導体12の例を示している。導体12の径や材質などは、特に限定されるものではなく、用途などに応じて適宜選択することができる。
【0068】
例えば、導体の材料としては、銅を用いることが一般的であるが、銅以外にも、アルミニウム、マグネシウム等を用いても良い。また、銅等の金属に他の金属を含有させた合金としても良い。他の金属としては、例えば、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコンなどが挙げられる。この他、導体として広く使用される金属を銅等に添加あるいは単独で使用しても良い。
【0069】
以上の構成を有する絶縁電線によれば、ポリフェニレンエーテル樹脂やポリフェニレンスルフィド樹脂を含有する第一の層により絶縁電線の耐摩耗性が向上し、オレフィン系樹脂を含有する第二の層により耐寒性が向上するとともに、第一の層および第二の層がそれぞれ難燃性を有することにより、全体として、バランス良く難燃性、耐寒性、耐摩耗性に優れている。
【0070】
また、第一の層と併せて第二の層を設けることにより、絶縁電線の柔軟性が高まり、成形性、加工性等の他の電線特性も満足されている。
【0071】
そして、絶縁被覆層が、上記第一の層と上記第二の層とを有する複数層から構成されているため、所望の性能を得るには、材料面で好都合である。すなわち、単層よりなる絶縁被覆層を有する絶縁電線と比較して、第一の層の材料と第二の層の材料とがアロイ化可能となる配合にする必要がないため、難燃性を有しつつ耐寒性と耐摩耗性とを共に満足させるための材料の組み合わせがより自由になる利点がある。また、上記第一の層を有する複数層で構成するため、第一の層による硬度上昇を他の層により緩和することができる。
【0072】
次に、絶縁電線の製造方法について説明する。まず、第一の層を形成する樹脂組成物と、第二の層を形成する樹脂組成物と、必要に応じて他の層を形成する樹脂組成物とを、それぞれ調製する。各組成物を調製するには、各材料をそれぞれ配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。
【0073】
次いで、通常の押出成形機などを用いて、導体の外周に、内層を形成する樹脂組成物を押出成形(押出被覆)し、内層の外周に、外層を形成する樹脂組成物を押出成形して製造することができる。このとき、同時押出成形により、内層と外層とを押出成形しても良いし、内層を押出成形した後、外層を押出成形しても良い。また、内層と外層との間の中間層を有する絶縁電線の場合には、内層の外周に、中間層を形成する樹脂組成物を押出成形し、中間層の外周に、外層を形成する樹脂組成物を押出成形すれば良い。
【0074】
次に、本発明に係るワイヤーハーネスについて説明する。本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含んでなるものである。上記絶縁電線のみで構成される電線束であっても良いし、他の樹脂組成物が被覆された絶縁電線、例えば、塩化ビニル系の絶縁電線やハロゲン元素を含有しない他の絶縁電線などを含んで構成される電線束であっても良い。電線束は、例えばワイヤーハーネス保護材により被覆されていると良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0075】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の絶縁電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂組成物が好ましい。樹脂組成物には、難燃剤を適宜添加すると良い。
【0076】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0077】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0078】
(供試材料および製造元など)
本実施例において使用した供試材料を製造元、商品名、物性値などとともに示す。
【0079】
・ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)[旭化成ケミカルズ(株)製、「ザイロン200H」]
・ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)[ポリプラスチックス(株)製、「フォートロン0220A9」]
・ポリプロピレン(PP<1>)[日本ポリプロ(株)製、「ノバテックPP EC7」、Tg=−10℃]
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PP<2>)[三井化学(株)製、「NF556」、Tg=−80℃]
・ポリエチレン<1>(PE<1>)[日本ポリエチレン(株)製、「HY420」、Tg=−80℃]
・ポリエチレン<2>(PE<2>)[日本ポリエチレン(株)製、「HY430」、Tg=−100℃]
・ポリエチレン<3>(PE<3>)[日本ポリエチレン(株)製、「HY520」、Tg=−90℃]
・水酸化マグネシウム[協和化学(株)製、「キスマ5A」]
【0080】
(絶縁電線の作製)
実施例および比較例に示す成分を示された量で混合し、二軸押出機により200℃で混練した。得られた組成物を、押出成形機により、軟銅線を7本撚り合わせた撚線導体(断面積0.5mm)の周囲に0.2mm厚で押出成形して、実施例および比較例に係る各絶縁電線を作製した。
【0081】
(難燃性評価)
JASO D611−94に準拠して実施した。すなわち、先ず、実施例および比較例に係る各絶縁電線を300mmの長さに切り出して各試験片とした。次いで、各試験片を鉄製試験箱に入れて水平に支持し、口径10mmのブンゼンバーナーを用いて還元炎の先端を試験片中央部の下側から30秒以内で燃焼するまで当て、炎を静かに取り去った後の残炎時間を測定した。この際、残炎時間が15秒以内のものを合格「○」とし、15秒を超えるものを不合格「×」とした。
【0082】
(耐寒性評価)
JIS C3005に準拠して実施した。すなわち、作製した各絶縁電線をそれぞれ38mmの長さに切断して各試験片とした。次いで、各試験片をそれぞれ試験機にかけ、冷却しながら打撃具でたたき、5本すべてが割れたときの温度を耐寒温度とした。耐寒温度が−20℃以下となるものを合格「○」とし、耐寒温度が−20℃を超えるものを不合格「×」とした。
【0083】
(耐摩耗性評価)
JASO D611−94に準拠して、ブレード往復法により試験を行なった。すなわち、実施例および比較例に係る各絶縁電線を750mmの長さに切断して各試験片とした。次いで、23±5℃の室温下で各試験片の被覆材表面を軸方向に10mm以上の長さでブレードを毎分50回の速さで往復させ、ブレードが導体に接するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかかる荷重を7Nとし、試験回数4回の最小値が200回以上を合格「○」とした。一方、試験回数4回の最小値が200回未満を不合格「×」とした。
【0084】
表1および表2に、各絶縁電線の電線被覆材に用いた樹脂組成物の配合割合と、評価結果を示す。この際、配合割合は質量部で表したものである。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
比較例1〜3は、絶縁被覆層が単層の絶縁電線である。比較例1および3は、ポリオレフィンのみからなる層で構成され、難燃剤が含有されていない。そのため、難燃性に劣っている。また、比較例2は、水酸化マグネシウムを含有するポリオレフィンよりなる層で構成されている。そのため、難燃性を有するが、水酸化マグネシウムを含有することにより耐摩耗性が低下している。
【0088】
そして、比較例4〜6は、絶縁被覆層が2層の絶縁電線である。比較例4〜6は、どちらか一方の層が、ポリマー成分がオレフィン系樹脂である層であるが、難燃剤を含有しておらず、かつ、PPEやPPSを含有していない。そのため、難燃性に劣るとともに、耐摩耗性にも劣っている。
【0089】
これに対し、実施例1〜6は、本発明を満足する層構成、材料で形成された絶縁被覆層を有する絶縁電線である。そのため、難燃性、耐寒性、耐摩耗性に優れるバランスのとれた絶縁電線であることが確認できた。
【0090】
また、実施例7〜11は、それぞれ実施例1〜5の層構成と逆の層構成をしている。すなわち、実施例7〜11の内層は、それぞれ実施例1〜5の外層と同じ材料よりなり、実施例7〜11の外層は、それぞれ実施例1〜5の内層と同じ材料よりなる。そして、PPEやPPSを含有する層が、実施例1〜6のように外層にあっても、実施例7〜11のように内層にあっても、難燃性、耐寒性、耐摩耗性に優れることが確認できた。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る絶縁電線は、例えば、車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線を表す周方向の断面図である。
【符号の説明】
【0094】
10 絶縁電線
12 導体
14 内層
16 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆層とを有する絶縁電線であって、
前記絶縁被覆層は、複数層から構成されており、
ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂から選択された1種または2種以上を含有する第一の層と、
オレフィン系樹脂と金属水酸化物とを含有する第二の層とを有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記第二の層は、ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂は、官能基を有することを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記官能基は、カルボン酸基、酸無水基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基およびシラン基から選択された1種または2種以上であることを特徴とする請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記ガラス転移温度が−20℃以下の樹脂の含有率は、0.1〜10質量%の範囲内であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記第二の層の厚みは、絶縁被覆層全体の厚みの1/2以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記第一の層は、前記絶縁被覆層の内層であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の絶縁電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。

【図1】
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【公開番号】特開2009−301777(P2009−301777A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152689(P2008−152689)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】