説明

絶縁電線

【課題】コイル巻加工時に電線皮膜の一部を能動的に破壊させることによって、下層皮膜を保護することのできる絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体および該導体に被覆された多層絶縁皮膜を有する絶縁電線5であって、該多層絶縁皮膜の導体に接する最下層皮膜と導体との密着力が、該多層絶縁皮膜内の各層皮膜間の密着力より高く、該多層絶縁皮膜が、皮膜厚比率が最下層:上層=40:60〜80:20の2層構成、または、中間層の皮膜が全層の皮膜に対して、6〜25%の厚さを持つ3層構成である絶縁電線5。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータあるいはトランス等のコイルに好適に使用される絶縁電線に関し、詳しくは導体との密着性に優れた絶縁塗料及びその塗料を塗布焼付して形成した絶縁皮膜を有し且つ導体に接しない絶縁皮膜の層内の密着力を低くする絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、電機、電子等多くの分野における機器の小型化・軽量化の傾向に伴い、それら機器に用いられるコイルもより小型、軽量で、しかも高い電気特性、機械特性、長期耐熱性等の性能を保ちつつ低コストで製造することが要求されるようになってきた。そのため、コイルを形成する巻線を、より小さいコアに高密度でしかも高速で捲き付ける必要があり、巻線の絶縁皮膜に損傷が生じ、機器の電気特性が悪化したり、生産の歩留まりが低下したりするという問題が発生している。
【0003】
通常の小型モータやトランスのコイルコアは、薄板のケイ素鋼板をプレス打ち抜きして、積層することによりコイルコアを作製することが一般的である。モータなどのコイルは、ケイ素鋼板などの鉄板を積層したコアにエナメル線を巻き付けて(コイル加工)行うが、そのコイル加工工程において、エナメル線にかかるテンションや巻き付け時の摩擦などで、皮膜が破壊され、コアと電線の導体間で短絡が起き、コイルとしての性能を果たさない。このことは、ケイ素鋼板のプレス加工の際のバリが発生し、直接コアに電線を巻き付けると電線皮膜がそのバリにより損傷を受け絶縁不良(コイル−コア間の絶縁不良)の問題である。このため、コイルコアには必ず、絶縁加工(絶縁塗装やインシュレータフィルムの挿入)がなされている。
【0004】
これに対応するために、絶縁電線の絶縁皮膜の機械的強度を向上させたり、表面の滑り性を良くしたりといった対策が行われている。
例えば、特許文献1には、ポリアミドイミド、ポリイミド、芳香族ポリアミドの耐熱性絶縁皮膜について、引張強さ、引張弾性率、密着力、ピアノ線に対する静摩擦係数を設定することにより、皮膜の耐加工性を向上させる技術が記載されている。
また特許文献2には、導体上に、トリアルキルアミン及び/又は5〜20質量部のアルキル化メラミン樹脂を含んでなるポリアミドイミド系樹脂塗料を塗布焼付けして形成した下層、ポリイミド系樹脂塗料を塗布焼付けして形成した中間層及び自己潤滑型ポリアミドイミド系樹脂塗料を塗布焼付けして形成した上層の少なくとも3層からなる絶縁皮膜を有する絶縁電線の記述があり、絶縁皮膜が薄肉であっても、厳しい条件下でのコイル加工時の皮膜損傷が防止できる絶縁電線を提供することが記載されている。
しかしながら、これらの方法をとったとしても現在の高い占積率を確保するための厳しい巻線方法に対しては、根本的に対応することはできなかった。
さらに近年の要求として、コイル巻きする芯材(コア)の絶縁を省略するといった動きがあり、このためにも絶縁電線の皮膜の絶縁破壊電圧などの電気特性の完全な確保のためには、絶縁皮膜がコイル巻線時に破壊しない必要がますます高くなっている。
【特許文献1】特開平6−196025号公報
【特許文献2】特開平10−247422号公報
【特許文献3】特開平6−194304号公報
【特許文献4】特開2005−203334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、コイル巻加工時に電線皮膜の一部を能動的に破壊させることによって、下層皮膜を保護することのできる絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者らは絶縁電線のコイル巻加工時の傷の付き方を観察し、その破壊のメカニズムの解明をおこなった。その結果、従来の絶縁電線の皮膜の弾性率や導体との密着性、あるいは電線表面の潤滑性等の改善のみでは、現行の厳しいコイル巻加工に対して不十分であることを確認し、その結果として本発明をおこなうこととなったものである。
それは、導体と絶縁皮膜を従来通り密着させることと、電線にかかる負荷を絶縁皮膜内で分散させる構造とすることを同時に実現する必要があることを見出した。
そのためには、絶縁皮膜を特定の多層構造とすることにより上記の点を実現できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)導体および該導体に被覆された多層絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、該多層絶縁皮膜の導体に接する最下層皮膜と導体との密着力が、該多層絶縁皮膜内の各層皮膜間の密着力より高く、該多層絶縁皮膜が、皮膜厚比率が最下層:上層=40:60〜80:20の2層構成、または、中間層の皮膜が全層の皮膜に対して、6〜25%の厚さを持つ3層構成であることを特徴とする絶縁電線、
(2)前記多層絶縁皮膜の導体に接する最下層皮膜と導体との密着力が30g/mm以上であり、且つ、前記多層絶縁皮膜を形成する各層の皮膜間の密着力が10g/mm以下であることを特徴とする(1)項記載の絶縁電線、
(3)前記導体に接する最下層皮膜がポリアミドイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、H種ポリエステル系樹脂、およびポリエステルイミド系樹脂からなる群から選ばれた1種の樹脂からなる皮膜であることを特徴とする(2)項記載の絶縁電線、
(4)前記導体に接する最下層皮膜の上に形成する皮膜が該最下層に接する皮膜から、ポリイミド系樹脂皮膜、ポリアミドイミド系樹脂皮膜の順に皮膜を形成したことを特徴とする(3)項記載の絶縁電線、
(5)前記導体に接する最下層皮膜の上に形成する皮膜が該最下層に接する皮膜から、剥離剤添加ポリアミドイミド系樹脂皮膜、ポリアミドイミド系樹脂皮膜の順に皮膜を形成したことを特徴とする(3)項記載の絶縁電線、
(6)前記導体に接する最下層皮膜の上に形成する皮膜が、ポリイミド系樹脂皮膜あるいはエポキシ系樹脂皮膜であることを特徴とする(3)項記載の絶縁電線、および
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の絶縁電線が、積層コアのスロットに巻回された電機子を備えていることを特徴とする回転電機
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の絶縁電線は高いコイル巻時の耐加工性を有し、過酷なコイル加工の条件下で高い負荷がかかっても傷が導体まで達しにくく、絶縁不良を起こしにくい。このため信頼性の高いコイルが提供でき、コイルを用いる機器の低コスト化、信頼性向上に寄与するという優れた効果を奏する。また、本発明の回転電機は、用いる絶縁電線の絶縁被膜を薄くできるので、巻線量を増大でき、信頼性及び性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の絶縁電線は、導体および該導体に被覆された多層絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、該多層絶縁皮膜の導体に接する最下層皮膜と導体との密着力が、該多層絶縁皮膜内の各層皮膜間の密着力より高いものである。前記多層絶縁皮膜の導体に接する最下層皮膜と導体との密着力は30g/mm以上であることが好ましく、40g/mm以上であることがさらに好ましい。また、前記多層絶縁皮膜を形成する各層の皮膜間の密着力が10g/mm以下であることが好ましく、7.0g/mm以下がさらに好ましい、
【0010】
本発明においては、該多層絶縁皮膜は2層または3層構造である。2層構造である場合、各層は、導体側から順に、最下層、上層で構成される。また、3層構造の場合は、導体側から順に、最下層、中層、上層で構成される。なお、最下層のことを、以下単に「下層」という場合がある。
【0011】
本発明を実現するために、いくつかの構成要件について材料の好ましい組み合わせがについて説明する。
まず、導体に接する最下層を形成する絶縁皮膜は、導体との密着強度が高い樹脂皮膜を選定する必要がある。最下層皮膜は、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、H種ポリエステル系樹脂、およびポリエステルイミド系樹脂からなる群から選ばれた1種の樹脂からなる皮膜であることが好ましい。
【0012】
例えば、最下層がポリアミドイミド系樹脂の場合、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対し、0.05〜1.0質量部のトリアルキルアミン及び/又は5〜20質量部のアルキル化メラミン樹脂を含んでなるポリアミドイミド系樹脂塗料を導体上に塗布焼付けして形成することが好ましい。
【0013】
ここで使用されるトリアルキルアミンは、好ましくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の低級アルキルのトリアルキルアミンが使用できる。この中でも可とう性および密着性の点でトリメチルアミン、トリエチルアミンが最も好ましい。ポリアミドイミド樹脂に対する配合割合はポリアミドイミド樹脂100質量部に対し、通常0.05〜1.0質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。トリアルキルアミンが1.0質量部を越えて配合すると、皮膜の耐熱性が低下し、0.05質量部より少ないと、密着性に寄与しない。
【0014】
またアルキル化メラミン樹脂としては、例えばブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂等の低級アルキル基で置換されたメラミン樹脂を用いることができ、樹脂の相溶性の点でメチル化メラミン樹脂が好ましい。市販品として、米国CYTEC社製CYMEL1301(n−ブチル化メラミン樹脂溶液)などがある。配合割合はポリアミドイミド樹脂100質量部に対し、通常固形分比で0.5〜2.0質量部、好ましくは1.0〜2.0質量部である。0.5質量部より少ないと密着性が十分得られず、2.0質量部を越えて配合すると皮膜の耐熱性が低下する。このようにして得たポリアミドイミド系樹脂塗料を導体に塗布、焼付けして、導体上に絶縁皮膜の下層を形成する。
トリアルキルアミン及び/又はアルキル化メラミン樹脂とともに用いられるポリアミドイミド樹脂としては、市販の通常のものが使用でき、日立化成工業(株)製HI−4064や大日精化工業(株)製AI−602等がある。
【0015】
最下層が、ポリエステル系樹脂、H種ポリエステル系樹脂、ポリエステルイミド系樹脂の場合、例えば、市販のこれらの樹脂塗料が使用出来る。ポリエステル系樹脂塗料としてライトン3642(東特塗料(株)製)、ポリエステルイミド系樹脂塗料としてNH8642AY(東特塗料(株)製)やEH402(大日精化工業(株)製)などがある。また、H種ポリエステル系樹脂塗料としてはNH8239AY(東特塗料(株)製)などがある。
【0016】
本発明において絶縁皮膜の中間層あるいは最上層には、ポリイミド系樹脂を好ましく用いることができる。ここで用いられるポリイミド系樹脂は、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン類を極性溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸溶液を用い、これを焼付け時の加熱処理によってイミド化させることによって得ることができる。また、市販品の樹脂溶液としては、IST社製のPyreML(ポリアミック酸樹脂溶液)などを用いても良い。このようなポリアミド酸溶液を下層の皮膜上に塗布、焼付けしてポリイミド樹脂皮膜からなる中間層とする。本発明においてこの中間層は、絶縁電線に外傷になるほどの大きな荷重が加えられた時に絶縁皮膜の下層に応力が直接伝わらないよう作用する。
【0017】
また本発明において絶縁皮膜の中間層に好ましく用いることができるポリアミドイミド樹脂は、さらに好ましくは剥離剤入りポリアミドイミド樹脂である。剥離剤入りポリアミドイミド樹脂は、通常のポリアミドイミド樹脂溶液に剥離性能を持たせることによって得ることが出来る。この剥離性能は、ポリエチレン樹脂やシリコーン樹脂、あるいはフッ素系樹脂などの他の樹脂との接着性能が極端に悪化する様な剥離剤(樹脂)を樹脂溶液中に添加することによって得ることが出来る。分散、混合されるワックスとしては、通常用いられるものを特に制限なく使用することができ、例えば、ポリエチレンワックス、石油ワックス、パラフィンワックス等の合成ワックスおよびカルナバワックス、キャデリラワックス、ライスワックス等の天然ワックス等が挙げられる。潤滑剤についても特に制限はなく、例えば、シリコーン、シリコーンマクロモノマー、フッ素樹脂等を用いることができる。例えばポリエチレン樹脂として樹脂溶液中に分散がしやすいものとして、極性溶媒に微粒子状に分散したディスパージョン等を使用することが簡便である。またシリコーン樹脂等を使用する場合は、樹脂溶液中に液状のシリコーン樹脂をそのまま添加する方法が簡便である。市販のシリコーン樹脂としてチッソ(株)製マクロモノマー3325(ポリシロキサンマクロモノマー)等がある。
【0018】
さらに最上層に好ましく用いられるエポキシ系樹脂としては、フェノキシ樹脂をベースとしたものが一般的である。このフェノキシ樹脂は単独であるいはその他の熱可塑性樹脂との混合系で使用することができ、例えばポリエーテルサルホン樹脂等を混合することが出来る。市販のフェノキシ系樹脂として東都化成(株)製YP−50等がある。また絶縁用途としての市販品としてSB−432(大日精化工業(株))がある。
また、最上層に好ましく用いられるポリアミドイミド系樹脂としては、市販の通常のものが使用でき、日立化成工業(株)製HI−4064や大日精化工業(株)製AI−602等がある。
【0019】
なお、本発明の絶縁電線において、絶縁皮膜の各層を形成するための樹脂塗料の塗布及び焼付けの条件、方法には特に制限はなく、公知の各種の方法によって行うことができる。また、導体についても特に制限はない。
【0020】
本発明の絶縁電線は、前述のような多層構造の絶縁皮膜を有することにより、絶縁皮膜の各層の層間において外部からかかる応力を分散させること、導体と、導体に直接接する絶縁皮膜の下層との接着を強固にすることを同時に実現させたものである。
本発明においては絶縁電線の皮膜が、2層構成の場合はその皮膜厚比率が下層:上層=50:50〜80:20であり、好ましくは65:35〜70:30である。3層構成の場合は、その中間層の皮膜が全層の皮膜に対して、6〜25%、好ましくは10〜20%の厚さである。
【0021】
2層構成の場合、その皮膜比率のうち、上層皮膜比率が20%より小さいと、本願が要求している外的な傷に対しての防御が不十分であり、逆に50%を超える場合には、下層の皮膜が薄くなることから上層での外的な傷に対しての防御は十分ではあるが、電気特性が不十分である可能性が高くなる。
3層構成の場合、その皮膜構成のうち中層の皮膜厚さが全層の皮膜厚さに対して、6%より小さい場合、上層が受けた外的な傷に対しての下層への衝撃吸収能力が低く、25%を超える場合には、上層と下層それぞれの皮膜厚さが薄くなり、上層の皮膜厚さが薄くなった場合には外的な傷に対しての衝撃吸収能力が低くなってしまい、また下層の皮膜厚さが薄くなった場合には、外的な衝撃吸収能力は十分ではあるが、下層皮膜厚さが薄くなってしまうため、その電気特性が十分ではなく、電線としての要求特性を満足出来ないと考えられる。
【0022】
本発明の絶縁電線の一つの好ましい態様では、多層絶縁皮膜が、導体に接する最下層皮膜の上に形成する皮膜が該最下層に接する皮膜から、ポリイミド系樹脂皮膜、ポリアミドイミド系樹脂皮膜の順に皮膜を形成したものである。
【0023】
本発明の絶縁電線の一つの好ましい態様では、多層絶縁皮膜が、導体に接する最下層皮膜の上に形成する皮膜が該最下層に接する皮膜から、剥離剤添加ポリアミドイミド系樹脂皮膜、ポリアミドイミド系樹脂皮膜の順に皮膜を形成したものである。
【0024】
本発明の絶縁電線において、導体としては通常、銅またはその合金からなるものを用いる。また、絶縁被膜の全膜厚についても特に限定されない。全膜厚で、導体径(直径)の3〜5%とすることが好ましい。例えば直径1.0mmの導体の場合、絶縁被膜の全膜厚は30〜50μmが好ましい
【0025】
上記の絶縁電線を用いた回転電機の実施態様として、図1に示すようなモータ1の電機子2に適用し、特に図2には部分図として示した積層コア3のスロット4に絶縁電線5を巻回した例を示している。もちろん、この構造のモータに限定されるものではなく、中央部にマグネットローラを配置し、その周りに積層コアのスロットに絶縁電線が巻回された電機子を構成するプラシレスモータ、さらには発電機等、あらゆるタイプの回転電機に適用できるものである。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
(参考例1)
絶縁塗料1の調製
ポリアミドイミド系樹脂塗料のうち、下層に使用される樹脂塗料の絶縁塗料1を以下のとおり調製した。
市販のポリアミドイミド樹脂塗料HI−4064(日立化成工業(株)製)1245gにトリメチルアミン1.8g(ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して0.45質量部)を加え、n−ブチル化メラミン樹脂溶液CYMEL1301(米国CYTEC社製)7.97g(ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して1.2質量部)を加え、1時間撹拌し、絶縁皮膜の下層用のポリアミドイミド系樹脂塗料を得た。
【0028】
(参考例2)
絶縁塗料2の調製
ポリアミドイミド系樹脂塗料のうち、中層に使用される剥離剤入り樹脂塗料の絶縁塗料2を、以下の通り調製した。
市販のポリアミドイミド系樹脂塗料HI4064(日立化成工業(株)製)1000gに市販のポリエチレンワックス131P(三洋化成工業(株)製)を6.4g(ポリアミドイミド樹脂100質量部に対し2質量部)配合し、70℃にて加熱攪拌を2時間行ったのち室温まで冷却し、中層用の剥離剤入りポリアミドイミド系樹脂塗料を得た。
【0029】
(参考例3)
絶縁塗料3の調製
市販のフェノキシ樹脂YP−50(東都化成社製)100g、市販のポリエーテルサルホン樹脂ビクトレックスPES(三井化学社製)100g、クレゾール800gを1リットルのセパラブルフラスコに仕込み、80℃で3時間加熱溶解させ、上層用エポキシ系樹脂塗料を得た。
【0030】
(実施例1〜6、比較例1〜10)
導体径1.0mmの銅線を用い、表1〜5記載のとおりの皮膜構成の絶縁皮膜を形成した。絶縁皮膜の形成には炉長8mの縦型焼付け炉を用いて複数回塗布焼付けすることを繰り返した。多層皮膜の各層を形成する絶縁ワニスとして上記の絶縁ワニス1〜3、並びに、上記のPyreML、HI4046,NH8642AYを用いた。
【0031】
(試験例1)
(往復摩耗)
往復摩耗は、該サンプル電線約40cmをおよそ1%伸長してまっすぐにして、電線の上を直径0.4mmのビーズ針を用いて電線の長手方向に10mmの範囲で往復に同一箇所を摩耗させる。本発明の場合は、1.0mmの電線を使用していることからビーズ針に掛ける荷重を600gとして摩耗させた。これらの測定は、JIS C3003−1976に記載の耐摩耗性(10.1項)に準拠した。
(往復摩耗後の絶縁破壊電圧)
前述の往復摩耗を実施したサンプルのうち、皮膜の剥離が確認された摩耗値にて該サンプルを取りだし、摩耗した箇所を摩耗を行っていない該電線との組み合わせでJIS C3003−1999に記載の絶縁破壊(11項の(2))2個より法にて実施した。
(皮膜−導体間の密着力、皮膜−皮膜間の密着力)
該電線の表面に形成された絶縁皮膜に電線の長手方向に沿って電線の直径の2/3以下で且つ0.3mm以上の間隔となるように、電線の導体に達する2本の並行な切り込みを入れて、切り込みの間の皮膜の剥離強度を測定した。導体からの剥離強度と、下層皮膜を残して上層あるいは中層皮膜の剥離強度の双方を測定した。これらの測定は、特開平06−194304号公報記載の方法に準拠した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
(試験例2)
(コイルリーク電流値測定)
r=1.0で一辺が20mmの直方体形状の疑似コアを炭素鋼にて作成し、そのコアに前述の実施例1〜6、比較例1〜11の該電線を巻き付ける電線の導体断面積1.0mmあたり6.0kgf(直径1.0mmの電線の場合、4.7kgf)のテンションを掛けて10回(10周)巻付けした後、電線に傷を付けないように巻ほぐし、その後JIS C3003−1984記載のピンホール(6項)試験を類似した濃度5重量%の食塩水中に対向電極とともに浸漬し、コイルを+極として12Vの直流電圧を印加してリークしてくる電流値を測定した。その結果を以下の表6〜10に記載した。
【0038】
【表6】

【0039】
【表7】

【0040】
【表8】

【0041】
【表9】

【0042】
【表10】

【0043】
表6〜10で示されるように、比較例の絶縁電線では、上記のコイルリーク電流値測定で、0.97mA以上の電流値が測定されたのに対し、実施例の絶縁電線では、いずれも0.03mA以下の電流値しか測定されず、本発明の絶縁電線は、高いコイル巻時の耐加工性を有し、絶縁不良を起こしにくいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】モータの模式断面図である。
【図2】モータの電機子の1例の部分模式断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 モータ
2 電機子
3 積層コア
4 スロット
5 絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体および該導体に被覆された多層絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、該多層絶縁皮膜の導体に接する最下層皮膜と導体との密着力が、該多層絶縁皮膜を形成する各層皮膜間の密着力より高く、該多層絶縁皮膜が、皮膜厚比率が最下層:上層=40:60〜80:20の2層構成、または、中間層の皮膜が全層の皮膜に対して、6〜25%の厚さを持つ3層構成であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記多層絶縁皮膜の導体に接する最下層皮膜と導体との密着力が30g/mm以上であり、且つ、前記多層絶縁皮膜を形成する各層皮膜間の密着力が10g/mm以下であることを特徴とする請求項1記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記導体に接する最下層皮膜がポリアミドイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、H種ポリエステル系樹脂、およびポリエステルイミド系樹脂からなる群から選ばれた1種の樹脂からなる皮膜であることを特徴とする請求項2記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記導体に接する最下層皮膜の上に形成する皮膜が該最下層に接する皮膜から、ポリイミド系樹脂皮膜、ポリアミドイミド系樹脂皮膜の順に皮膜を形成したことを特徴とする請求項3記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記導体に接する最下層皮膜の上に形成する皮膜が該最下層に接する皮膜から、剥離剤添加ポリアミドイミド系樹脂皮膜、ポリアミドイミド系樹脂皮膜の順に皮膜を形成したことを特徴とする請求項3記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記導体に接する最下層皮膜の上に形成する皮膜が、ポリイミド系樹脂皮膜あるいはエポキシ系樹脂皮膜であることを特徴とする請求項3記載の絶縁電線。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁電線が、積層コアのスロットに巻回された電機子を備えたことを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−97888(P2008−97888A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275832(P2006−275832)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】