説明

絶縁電線

【課題】実用的な風速域における絶縁電線の抗力係数Cdが安定して低く、難着雪型の絶縁電線を提供する。
【解決手段】本発明絶縁電線は、絶縁被覆2の外周面の周方向に所定の間隔をあけて形成された断面三角型の溝部3を有しており、この溝部3が電線の長手方向に直線状に延びるように配置される。また、この絶縁電線は、電線の半径をR、各溝部の底部をつなぐ仮想円の半径をr、溝部2の数をN、溝部2の幅をW、溝部3内面と電線外周面とを繋ぐ角部の曲率半径をOr、溝谷部の曲率半径をIrとしたとき、4.5mm≦r≦13mm、0.2mm≦R−r≦0.5mm、24≦N、0.6mm≦W≦1.1mm、Or≦0.1mm、Ir≦0.1mmの範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架設される絶縁電線に関するものである。特に、本発明は、風圧荷重を低減する効果に加えて難着雪性を有する絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架設される絶縁電線には、その運用時に種々の荷重が作用する。絶縁電線に作用する荷重としては、主として、電線の自重による荷重、電線の表面に付着する氷雪による荷重、風圧により電線に作用する荷重(風圧荷重)、の3つが挙げられる。このような荷重のうち、特に、風圧荷重は、絶縁電線が布設される場所(例えば、山間地や臨海地などの吹きさらしの場所)や天候の変動(例えば、台風や突風)により大きく変化するため、この風圧荷重を安定して小さくすることが重要である。また、降雪地帯では、絶縁電線の上に雪が付着したままとなって、電線の外径を大きくして風圧の作用する面積を大きくしたり、付着した雪の重量により絶縁電線に作用する荷重が大きくなるなど、氷雪による影響も大きい。
【0003】
上記のような問題を解決するために、特許文献1や特許文献2に記載の技術が開示されている。特許文献1や特許文献2に記載の絶縁電線は、図2に示すように、導体10の外周を絶縁被覆20で覆った絶縁電線である。そして、この絶縁電線の外周面に周方向に所定の間隔をあけて谷部40(溝部)が形成されており、この谷部40は、絶縁電線の長手方向に直線状に配置されている。このとき、電線の周方向に隣接する谷部40の間には電線の径方向に突出する山部30が形成されている。この谷部40と山部30は、滑らかな曲線により構成されており、図2に示すように絶縁電線の横断面から見たとき、山部30と谷部40とが交互に連続するようになっている。
【0004】
そして、これら特許文献1や2では、例えば、図2に示すように、山部30の外接円の半径Rや谷部40の内接円の半径r、隣り合う谷部の間の開き角θ、山部の高さhなどを限定することにより、風圧荷重を低減するとともに、絶縁電線表面に雪が付着しても、付着した雪を落下させることができる。
【0005】
上記のような絶縁電線においては、その形状を限定することにより絶縁電線にかかる風圧荷重を低減することができたかを確認する目的で、絶縁電線の空力特性を調べることが行なわれている。特に、特許文献1では、抗力係数Cdを目安として、絶縁電線の空力特性を評価する技術思想が開示されている。そして、絶縁電線の空力特性は、抗力係数Cdと密接な関係にあり、抗力係数Cdが小さくなるほど風圧低減効果は大きくなることが明らかになっている。さらに、特許文献1では、風速40m/sでの抗力係数を測定することで、絶縁電線における実用的な風圧荷重を低減する効果を評価することができるとしている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−118434号公報
【特許文献2】特開2004−178876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような被覆形状では、特に、径の細い絶縁電線の場合(例えば、図2に示すrが13mm以下、特に7mm以下の電線)、電線の有する抗力係数Cdがばらついて、安定して風圧荷重を低減する効果を得ることができなかった。そもそも、径の細い電線は、電線の自重が小さいため、従来は、高い風圧荷重低減効果を要求されておらず、具体的には、実用的な風速域である風速40m/sにおけるCd値は、平均して0.85程度であった。しかし、最近では、送電設備の構築・維持費用低減の観点から、径の細い電線を使用して、この電線を支持する電線支持物などを小型化することが検討されている。そのため、径の細い絶縁電線においても、従来の絶縁電線と同様に、安定して抗力係数Cdの小さく、優れた風圧荷重を低減する効果を有する絶縁電線の提供が期待されている。
【0008】
また、架空布設される絶縁電線は、上記のような風圧荷重を低減する効果を有しているとともに、その被覆表面に雪が付着しても剥離しやすいことが要求されている。そして、このような絶縁電線を布設する際の作業性の観点から、その被覆を汎用の工具を使用して剥ぎ取り易いことも要求されている。
【0009】
そこで、本発明の主目的は、径の細い絶縁電線であっても、風速40m/sにおける絶縁電線の抗力係数Cdが安定して低く、所望の風圧荷重の低減効果を有する絶縁電線を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、上記の風圧荷重の低減効果に加えて、難着雪性の絶縁電線を提供することにある。
【0011】
さらに、本発明の別の目的は、上記の特性に加えて、汎用の被覆剥取工具により被覆を剥ぎ取ることができる絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、絶縁電線の形状を種々検討した結果、溝部の形状を従来の形状と異なる形状にし、この溝部の寸法や数を限定することにより、風圧荷重を低減する効果に優れた絶縁電線を得ることができるとの知見を得た。上記知見に基づき本発明を規定する。
【0013】
本発明絶縁電線は、絶縁被覆の外周面の周方向に所定の間隔をあけて形成された断面三角型の溝部を有しており、この溝部が電線の長手方向に直線状に延びるように配置される。そして、本発明絶縁電線は、電線の半径をR、各溝部の底部をつなぐ仮想円の半径をr、溝部の数をN、溝部の幅をW、溝部の内面と電線外周面とを繋ぐ角部の曲率半径をOr、溝谷部の曲率半径をIrとしたとき、4.5mm≦r≦13mm、0.2mm≦R−r≦0.5mm、24≦N、0.6mm≦W≦1.1mm、Or≦0.1mm、Ir≦0.1mmの範囲にあることを特徴とする。
【0014】
上記構成となすことにより、特に、外径の小さい電線において、従来の絶縁電線と比較してより優れた風圧荷重を低減する効果を奏することができる。加えて、絶縁電線の被覆表面に雪が付着しにくく、付着したとしても付着した雪が落下し易い絶縁電線とすることができる。
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0016】
本発明絶縁電線は、導体の外周を絶縁被覆した電線である。ここで、導体の材料は、導電性の良いものであれば何でも良く、例えば、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金などが挙げられる。また、絶縁被覆する導体は、単線でも良く、撚り線でもかまわない。一方、絶縁被覆に使用する材料は、絶縁性能を有していれば何でも良く、例えば、ポリエチレン樹脂や架橋ポリエチレン樹脂などが挙げられる。そして、この樹脂被覆の表面には、電線長手方向に直線状に延びる断面三角型の複数の溝部が形成されている。
【0017】
上記断面三角型の溝部を形成した絶縁電線の寸法のうち、本発明に規定する各部の寸法を図1に示すように定義する。ここで、図1は、後述する実施の形態に示す本発明絶縁電線の概略構成図である。図のように、本発明絶縁電線は、導体1の外周に絶縁被覆2を有し、この被覆2の外周に複数の溝部3が設けられている。
【0018】
図1に示すように、Rは、被覆(シースを含む)を含めた絶縁電線の半径を示し、rは、絶縁被覆の表面に形成される溝部の底部を全てつなぎ合わせたときに形成される仮想円の半径を示す。このとき、Rとrの中心は一致している。本発明の絶縁電線は、径の細い絶縁電線を想定しており、rは4.5mm以上13mm以下、R-rは0.2mm以上0.5mm以下とする。即ち、絶縁電線の半径Rは4.7mm以上13.5mm以下である。さらに、径の細い絶縁電線、具体的には、rが4.5mm以上7.0mm以下の絶縁電線であっても、後述するように溝部の形状や数を限定することで、抗力係数Cdを安定して低くすることができる。
【0019】
また、Nは、絶縁電線の横断面において絶縁電線の外周側に設けられる三角溝(溝部)の数である。この三角溝の数Nは、24以上とする。絶縁電線に形成される三角溝の数が少なすぎると、絶縁電線の風速40m/sにおける抗力係数Cdは大きくなり、絶縁電線における実用的な風圧荷重を低減する効果が得られ難い。絶縁電線に形成される三角溝の数が多すぎても同様に、風圧荷重を低減する効果が得られ難い。好ましい溝部の数の上限値は、45以下である。
【0020】
Wは、絶縁電線の横断面における三角溝の幅である。ここで、溝部は、絶縁電線のうち、外径Rよりも径の小さな部分を指す。本発明の絶縁電線においては、Wを、0.6以上1.1以下とする。Wが小さすぎると、溝部に埃が入り込んで取れなくなり、溝部による抗力係数Cdの低減効果が発揮され難くなる。また、Wが大きすぎると、絶縁電線の風速40m/sにおける抗力係数Cdが高くなる傾向にある。
【0021】
Orは、溝部内面と絶縁電線の外周面とを繋ぐ角部(溝角部)の曲率半径である。本発明の絶縁電線においては、この溝角部の曲率半径Orを0.1mm以下しており、この溝角部が、絶縁電線の抗力係数Cdを安定して低くすることに寄与する。Orが大きいと、絶縁電線の風速40m/sにおける抗力係数Cdが高くなる傾向にある。また、Orが大きいと、電線外周面に筒状に雪が付着し易く、その結果、風圧の作用する面積が大きくなって、風圧荷重が増加する。電線外周面に筒状に着雪するメカニズムは、電線の上部に積もった雪が、その自重で電線下部に回り込み、この状態で、さらに電線上部に雪が積もることでおこる。ここで、電線に付着した雪は、表面張力により電線から落下し難いため、電線下部に回り込むことができる。そこで、本発明では、電線の溝角部の曲率半径Orを規定しており、上記Orを規定することで、電線下部に回り込もうとした雪を電線から落下させ易くすることができ、その結果、電線の周方向全面に筒状に雪が付着し難くすることができる。
【0022】
Irは、溝谷部の曲率半径である。より詳しくは、三角溝の2つの内面を繋ぐ曲面の曲率半径である。本発明においては、溝谷部の曲率半径Irを0.1mm以下としており、この溝谷部が、絶縁電線の抗力係数Cdを安定して低くすることに寄与する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の構成となすことにより、以下の効果を奏することができる。
[1] 風速40m/sでのCd値を安定して小さくすることができる。
[2] 絶縁電線の被覆表面に雪が付着しにくく、付着した場合でも電線から落下し易い。
[3] 絶縁電線の被覆表面を汎用の剥取工具により剥ぎ取ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
<実施の形態>
本実施の形態においては、アルミ撚り線を導体として、その外周にポリエチレン被覆した絶縁電線を作製した。図1は、本実施の形態における絶縁電線の横断面を示す図である。なお、本発明絶縁電線は、本実施の形態に限定されない。例えば、導体は、単線であっても良いし、導体の材料は導電性の高い他の金属であってもかまわない。もちろん、導体に被覆される絶縁材料は、ポリエチレンに限定されない。
【0025】
ポリエチレンの被覆には、ワイヤードラムから送り出された導体をクロスヘッドダイの後部から送り込み、ダイ内で押出機から押し出されたポリエチレンを導体の周囲に溶着する方法を使用した。このとき、クロスヘッドダイの形状がほぼ絶縁電線の被覆形状に一致している。
【0026】
上記のようにして形成された絶縁電線の被覆形状は、断面三角型の溝部が、電線の長手方向に直線状に形成される。そして、この被覆形状にかかる各部の寸法などを以下のように定義する(図1を参照)。
【0027】
絶縁電線の外径 R
溝部の底部をつないだ仮想円の半径 r
溝部の数 N
溝部の幅 W
溝角部の曲率半径 Or
溝谷部の曲率半径 Ir
【0028】
<試験例>
本試験例においては、実施の形態で説明した絶縁電線の各部の寸法(R、r、N、W、Or、Ir)を変化させた複数の絶縁電線(試作例1〜24)を試作し、その特性を調べた。具体的には、絶縁電線に形成される溝部の形状を断面三角型とし、この溝部を含む絶縁電線の各部の寸法R、r、N、W、Or、Irが以下の範囲にあるもの(試作例4,6〜8,11〜23)と、以下の範囲を外れるもの(試作例1〜3,5,9)とを作製した。また、山部と谷部とが丸みのある形状、即ち、図2に示す従来の形状を有する絶縁電線(試作例10と24)を作製した。
4.7≦R≦13.5 (単位はmm)
4.5≦r≦13 (単位はmm)
0.2≦R−r≦0.5 (単位はmm)
24≦N≦45 (単位は個数)
0.6≦W≦1.1 (単位はmm)
Or≦0.1 (単位はmm)
Ir≦0.1 (単位はmm)
【0029】
作製した絶縁電線において調べた特性は、風速40m/s時のCd値、難着雪性能、被覆剥取性、トラッキング性能である。ここで、難着雪性能の評価は、人工降雪機により絶縁電線に湿潤雪を20分間降雪させたときに、絶縁電線の周方向全面に筒状に雪が付着したものを評価×、筒状になる前に雪が落下したものを評価○とした。また、被覆剥取性の評価は、汎用の被覆剥取工具を使用して絶縁被覆を剥ぎ取ることができたものを評価○、剥ぎ取ることができないか、または、剥ぎ取ったときに導線に損傷が生じた場合を評価×とした。さらに、耐トラッキング性能は、JIS C3005に規定された試験方法により試験し、同方法に規定される評価基準により評価した。その結果を表1および2に示す。なお、耐トラッキング性能については、全ての試作例で、電線として問題ないとの評価であったので、表1および2には記載しなかった。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1、2の結果から明らかなように、本発明に規定するように断面三角型の溝部を有し、且つ、本発明に規定する寸法を満たす絶縁電線(試作例4,6〜8,11〜23)は、風速40m/sでのCd値が安定して小さく、その他の特性(難着雪性能・被覆剥取性)においても優れたものであった。
【0033】
一方、三角溝の角部の曲率半径が大きい、即ち、図2に示すような断面形状の試作例10および24は、抗力係数Cdが高く、風圧荷重を低減する効果が小さかった。また、溝部の深さ(半径差R−r)が浅い試作例1及び2は、難着雪性能が悪く、同深さが深い試作例3は、被覆剥取性が悪かった。そして、溝部の幅Wが規定値を超える試作例5及び9は、風速40m/s時のCd値がそれぞれ1.0および0.9であり、十分な風圧荷重の低減効果を有していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、架設される絶縁電線に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明難着雪絶縁電線の横断面図を示す。
【図2】図2は、従来の難着雪絶縁電線の横断面図を示す。
【符号の説明】
【0036】
1 導体 2 絶縁被覆 3 溝部
10 導体 20 絶縁被覆 30 山部 40谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆の外周面に周方向に所定の間隔をあけて溝部が形成され、且つ、この溝部が電線の長手方向に直線状に延びるように配置される絶縁電線であって、
溝部の形状は、断面三角型であり、
電線の半径をR、各溝部の底部をつなぐ仮想円の半径をr、溝部の数をN、溝部の幅をW、溝部の内面と電線外周面とを繋ぐ角部の曲率半径をOr、溝谷部の曲率半径をIrとしたとき、
4.5mm≦r≦13mm、0.2mm≦R−r≦0.5mm、24≦N、0.6mm≦W≦1.1mm、Or≦0.1mm、Ir≦0.1mmの範囲にあることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
半径rが、4.5mm≦r≦7.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
溝部の数Nが、N≦45であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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