説明

網膜神経節ニューロン変性を予防又は治療するためのビコイドファミリーのホメオタンパク質の使用

本発明は、培養網膜神経節ニューロンの生存を増進させるため、及び特に緑内障において生じる神経節ニューロンの変性を予防又は治療するための、ビコイドファミリー、特にOtxファミリーのホメオタンパク質の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜神経節ニューロン(RGC)変性を伴う疾患、特に緑内障の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜は、眼の背面を覆う細胞シートである。網膜は、種々の型のニューロンを含み、これらの役割は光エネルギーを捕捉し、それを神経信号に変換することである。網膜は、グリア細胞も含む。
概略的に、網膜は、ニューロンの3つの主な層を含む:光受容ニューロン(錐体及び杆体)、双極ニューロン及び神経節ニューロン。その他のニューロン、すなわちアマクリンニューロン及び水平ニューロンは、調節性の役割を演じる。光受容ニューロンは光に対して反応し、それらが生じた信号は、双極ニューロンにより、その軸索が視神経の神経線維を構成する神経節ニューロンに伝達され、情報が確実に脳に送られるようにする。
【0003】
網膜ニューロン変性は、多くの網膜症に関与する。よって、光受容ニューロン変性は、網膜色素変性症又は黄斑変性のようないくつかの病態に関与する。その他の病態において、神経節ニューロンが影響を受ける。網膜神経節ニューロンへの損傷は、種々の遺伝子的又は血管性の視神経障害において観察され得るが、神経変性疾患の関係においても広く観察され得る(例えばアルツハイマー病、多発性硬化症又はパーキンソン病)。
【0004】
網膜神経節ニューロンへの損傷の主な役割が示されている病態の1つが、緑内障である。この病態において、これらのニューロン及びそれらの軸索の変性が、視神経のゆっくりした悪化をもたらし、これが、完全な失明をもたらし得る。緑内障の最も一般的な原因は、眼内圧上昇である。神経節ニューロンの破壊をもたらす機構はまだほとんど明らかにされていないが、病態の発生においてそれが関与することが示されている(Nickells, 2007, Can. J. Ophthalmol., 42, 278〜87)。さらに、緑内障に罹患した患者において、硝子体液中に通常は存在する神経伝達物質であるグルタメートの過剰な濃度が観察されている(Dreyerら, Arch Ophthalmol, 114, 299〜305, 1996) (Morrisonら, Prog Retin Eye Res, 24, 217〜240, 2005)。これらの濃度において、グルタメートは、培養又はインビボにおいて、神経節ニューロンに対して神経毒性活性を有する(Hahnら, Proc Natl Acad Sci USA, 85, 6556〜6560, 1988; Liら, Invest Ophthalmol Vis Sci, 40, 1004〜1008, 1999) (Shen及びSlaughter, J Neurophysiol, 87, 1629〜1634, 2002)。TNF-アルファも、緑内障に罹患した患者の網膜及び視神経において過剰発現される(Yuan及びNeufeld, Glia, 32, 42〜50, 2000; Tezelら, Invest Ophthalmol Vis Sci, 42, 1787〜1794, 2001)。神経節ニューロン上に受容体が存在することに関連するこのサイトカインの毒性がインビトロ(Fuchsら, Invest Ophthalmol Vis Sci, 46, 2983〜2991, 2005)及びインビボ(Fontaineら, J Neurosci, 22, RC216, 2002)で示されている。
【0005】
緑内障に対して現在利用可能な治療は、眼内圧を減少させ得る分子に基づく(Woodward及びChen, Expert Opin Emerg Drugs, 12, 313〜327, 2007)。
ホメオタンパク質又はホメオドメインタンパク質は、生物の形態形成に関与する細胞遊走及び分化の現象において主要な役割を演じる転写因子である。これらは、60アミノ酸の配列であるホメオタンパク質の存在を特徴とし、これは特徴的な構造(ヘリックス/ターン/ヘリックス)を有するDNA結合ドメインである。ショウジョウバエ(Drosophila)のアンテナペディアタンパク質の単離されたホメオドメインが、まず、培養ニューロンの膜を横切り、次いで、核に蓄積して神経突起の成長を促進することが示された(欧州特許出願第0485578号(Joliotら, Proc Natl Acad Sci USA, 88, 1864〜1868, 1991))。アンテナペディアホメオドメインの透過特性は、その3番目のヘリックスにより与えられ、ホメオタンパク質間で高度に保存されているようである。神経突起の成長に対するその特性は、コンセンサス配列ANNNNCATTAにより規定される結合部位のレベルにて、そのDNA結合特性と関連しているようである(欧州特許出願第0485578号(Joliotら, Proc Natl Acad Sci USA, 88, 1864〜1868, 1991))。
【0006】
Otx2 (orthodenticle homolog 2)は、ビコイド型ホメオドメインを含むホメオタンパク質である(Simeoneら, Embo J, 12, 2735〜2747, 1993)。これは、Otxホメオタンパク質ファミリーに属し、これは胚形成の間の脳の発達において基本的な役割を演じる(Acamporaら, Prog Neurobiol, 64, 69 95, 2001; Simeoneら, Curr Opin Genet Dev, 12, 409〜415, 2002)。Otx2が、網膜幹細胞の光受容ニューロンへの分化を促進することにより、網膜の形成に関与することも示されている。欧州特許出願第1591127号は、よって、Otx2を発現する組換えベクターで網膜幹細胞を形質転換することにより、これらの細胞の光受容ニューロンへの分化が誘導され、他の型の網膜ニューロンが損なわれることを報告しており、光受容ニューロン変性を伴う種々の網膜病態の治療のためのOtx2の使用を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、今回、網膜ニューロン分化のレベルでは現れないが、すでに分化した成体ニューロンの生存のレベルにて現れ、神経節ニューロンに関連する、Otx2の新規な効果を示す。本発明者らは、実際に、軸索切断された成体神経節ニューロン(通常は迅速に死ぬ)の培養物へのOtx2の添加が、それらの生存を可能にすることを観察した。
Otx2のこの新しい特性は、インビトロ培養における成体神経節ニューロンの生存を改善するため、及びインビボで神経節ニューロン変性を予防又は治療するためのその使用、及びより一般的にはビコイドファミリーのホメオタンパク質の使用、特にOtxサブファミリーの使用を提案することを可能にする。
【0008】
用語「ビコイドファミリーのホメオタンパク質」とは、本明細書において、そのホメオドメインがヒトOtx2タンパク質のもの(配列番号1の配列の残基38〜97)と少なくとも35%の配列同一性を有し、かつ該ホメオドメインの50位にリジン残基を含む任意のホメオタンパク質を意味する。ビコイドファミリーのこれらのタンパク質のうち、用語「Otxサブファミリーのホメオタンパク質」とは、そのホメオドメインが、ヒトOtx2タンパク質のものと少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも85%の同一性、最も好ましくは少なくとも90%の同一性を有する任意のホメオタンパク質と規定され、このOtxサブファミリーのうち、用語「Otx2ホメオタンパク質」とは、そのホメオドメインがヒトOtx2タンパク質のものと少なくとも98%の配列同一性を有し、その全体のポリペプチド配列が配列番号1のタンパク質(ヒトOtx2タンパク質のアイソフォーム1に相当する、SwissProtの番号P32243を参照とする)又は配列番号2のタンパク質(ヒトOtx2タンパク質のアイソフォーム2に相当する、SwissProtの番号P32243-2を参照とする)と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有する任意のホメオタンパク質と規定される。
【0009】
上記のホメオタンパク質は、それら自体公知の方法により容易に得ることができる。これは、例えば、通常の遺伝子工学的な方法により組換え型で生成できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の主題は、よって、Otxサブファミリーのホメオタンパク質、特にOtx2ホメオタンパク質、又は該ホメオタンパク質を含む組成物を、神経節ニューロンと接触させることを含むことを特徴とする神経節ニューロンの生存を改善する方法である。
【0011】
より具体的には、本発明の主題は、ビコイドファミリーのホメオタンパク質、好ましくはOtxサブファミリーのホメオタンパク質、特にOtx2ホメオタンパク質、又は該ホメオタンパク質を含む組成物の、神経節ニューロン変性、より具体的には緑内障において発生するそのような変性を予防又は治療するための医薬品を得るための使用である。
【0012】
つまり、本発明の主題は、神経節ニューロン変性を示す患者、例えば緑内障に罹患した患者に、Otxサブファミリーのホメオタンパク質、特にOtx2ホメオタンパク質、又は該ホメオタンパク質を含む組成物を、該神経節ニューロンの生存を改善するのに有効な量で投与することを含むことを特徴とする、上記の患者を治療する方法である。
本発明は、特に、いずれの光受容ニューロン変性も示さない患者に用いることができる。
【0013】
本発明の主題は、ビコイドファミリーのホメオタンパク質、好ましくはOtxサブファミリーのホメオタンパク質、特にOtx2ホメオタンパク質、又は該ホメオタンパク質を含む組成物の、培養網膜神経節ニューロンの生存を増大させるための使用でもある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実行するために、上記のホメオタンパク質を、神経節ニューロンと接触させることで充分である。実際に、これは、その3番目のヘリックスに存在する内在化配列によりニューロンに透過する。好ましくは、上記の接触は、0.5〜10 nM、有利には1〜5nM、特に有利には1.5〜3nMのホメオタンパク質の濃度にて達成される。
【0016】
インビトロでは、該ホメオタンパク質をニューロンの培養培地に加えることで充分である。インビボでは、これは、種々の経路により、局所的に、特に硝子体液若しくは眼窩下空間への注射又は注入により、或いは洗眼薬又は眼軟膏の形態で投与できる。これは、制御放出デバイスを用いて、例えば眼内インプラントの形態で投与することもできる。適切であれば、これは、全身的に、例えば静脈内注射により投与できる。
【0017】
神経節ニューロンとの接触における所望の濃度を得るためにインビボで投与されるホメオタンパク質の用量は、特に、構想される投与方法に依存して、当業者により容易に決定され、調節され得る。
【0018】
この接触は、該ホメオタンパク質を発現又は過剰発現し、かつ分泌するように形質転換された細胞の存在下に神経節ニューロンを置くことによっても達成できる。インビトロにおいて、このことは、これらの形質転換細胞を神経節ニューロンと共培養することにより行うことができる。インビボでは、該ホメオタンパク質を発現又は過剰発現し、かつ分泌するように形質転換された細胞を、例えば、網膜に移植できる。
【0019】
適切であれば、該ホメオタンパク質を、1つ以上のその他の治療活性成分と、併せた又は別々の投与において組み合わせることもできる。例えば、緑内障の治療の関係において、これは、Woodward及びChenにより記載されるもの(2007、上記)、特に眼内圧を減少させ得る分子又は分子の組み合わせのようなこの治療において用いられる分子又は分子の組み合わせと組み合わせることができる。本発明は、特に、該ホメオタンパク質を上記の活性成分(複数可)と組み合わせる組成物を含む。
【実施例】
【0020】
本発明は、Otx2ホメオタンパク質の、神経節ニューロン生存に対する活性を示す実施例に言及する以下のさらなる記載によって、より明確に理解される。
【0021】
実施例1:組換えOTX2の作製及び精製
ヒトOtx2ホメオタンパク質のアイソフォーム1(SwissProt P32243)をコードする配列を、イソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)により誘導可能なtrcプロモーターの制御下で、プラスミドpTchTEV2 (NcoI-HindIIIセグメントを、rTEVプロテアーゼのための切断部位の上流でこれとフレーム内になり、その後のC末端の位置にmyc-his6タグが続くような、Otx2コード配列を含むPCR生成物の挿入を可能にするリンカーで置き換えて、プラスミドpTrOtx2hTevを作製することにより、プラスミドpTrcHis2 (Invitrogen)から導く)にクローニングした。pTrOtx2hTevにより発現される組換えタンパク質は、C末端位置でMycタグ及び6×Hisタグと融合されたOtx2配列を含む。これは、熱ショックにより形質転換された大腸菌(E. coli)株BL21 CodonPlus-RP (Novagen) plus RP"において生成された。寒天-LB-アンピシリンのペトリ皿上で37℃にて一晩の形質転換された細菌の選択の後に、組換えタンパク質の発現を、37℃での一晩のインキュベーションにより、自己誘導培養培地(IPTG様) OverNight Express Instant TB培地(Novagen)にて誘導する。遠心分離の後に細菌を氷上で溶解バッファー(バッファー:20 mM NaPO4、0.5 mM NaCl、プロテアーゼ阻害剤含有、EDTA非含有)中に、細菌ペレット1グラムあたり3mlのバッファーで採集し、1000 psiにてフレンチプレスに3回通すことにより溶菌する。溶菌物を遠心分離し、上清を回収し、0.45μmを通してろ過する。タンパク質を、0.1 M NiSO4とともに充填した1mlのHitrap Chelating HPカラム(Amersham)で精製し、上清を0.5 ml/分にて通過させる。10 mM、次いで50 mMのイミダゾールを含有するバッファーを用いて2回洗浄する。溶出を、250 mMのイミダゾールを含むバッファー1mlの10フラクションにより行う。最後の溶出を、1Mのイミダゾールを含むバッファーで行う。溶出フラグメントの純度は、SDS-PAGE電気泳動、次いでクーマシーブルーでの染色により確認した。
【0022】
これらの特異性を、ウェスタンブロッティングにより分析した。それぞれの溶出フラクション2μLを、Laemmliバッファーと混合し、5分間沸騰させた。タンパク質の分離を、12%アクリルアミド上のSDS-PAGE電気泳動により行った。タンパク質をニトロセルロースメンブレン上にエレクトロブロッティングする。5%ミルク及び0.1%のTween-20を1×PBS中に含むバッファー中で飽和させた後に、メンブレンを1次抗体(1/200でのラットポリクローナル抗Otx2、又は1/1000でのマウスモノクローナル抗Myc)と4℃にて一晩インキュベートする。すすぎの後に、フィルタをペルオキシダーゼ(HRP)と結合した2次抗体と1時間インキュベートする。ペルオキシダーゼの酵素活性を、化学発光により明らかにする。
【0023】
抗HPX又は抗Mycの1次抗体を用いるウェスタンブロッティングによる分析は、Mycタグ及び6×Hisタグを有するHPXタンパク質について予想される分子量(およそ40 kDa)にて泳動した単一の強いバンドを明らかにすることができる。
Otx2が最も豊富な3つのフラクションを合わせる。そのOtx2濃度は、およそ200μg/mlである。このようにして得られた調製物を、Tris 50 mM/EDTA 0.5 mM/NaCl 200 mMバッファーに対して透析し、45%グリセロールを含む同じバッファー中で-20℃にて貯蔵する。グリセロールは、培養培地に対する透析によりそれぞれの実験の前に除去する。
【0024】
実施例2:軸索切断された網膜神経節ニューロンの生存に対するOTX2の影響
網膜細胞培養
タンパク質の影響を、分離及び培養の後の網膜ニューロンに対して試験した。2つのプロトコルを用いた。まず、全ての型の網膜細胞を含む混合培養、次いで、精製された神経節ニューロン培養。
【0025】
全ての混合培養実験を、成体C57Bl6マウス(6〜10週齢)で行い、全ての精製網膜神経節細胞培養実験を、8週齢成体Long-Evansラットで行った。マウス及びラットを頸椎脱臼による安楽死により犠牲にした。Mucocit (Bioblock)を用いる眼窩消毒の後15分以内に、眼球の眼内分離により眼を取り出した。用いた手順は、EEC (86/609/EEC)及び実験動物の使用についてのFrench National Committeeの推奨に従う。
【0026】
分離した成体網膜細胞の混合培養
用いたプロトコルは、Gaudinらにより記載されるものである(Invest Ophthalmol Vis Sci, 37, 2258〜2268, 1996)。
滅菌カバーガラスを、2μg/cm2のポリ-D-リジン(Sigma P-6407)で37℃にて一晩、次いで1μg/cm2のラミニン(Sigma L-2020)で37℃にて3時間、前処理する。網膜を、L-グルタミン非含有CO2-非依存性培地(Gibco 18045-054)中で解剖する。網膜を鋏で小片に切断し、0.6%グルコース及び0.5 mM EDTAを含むCa2+, Mg2+非含有PBS (Invitrogen 14190-185)ですすぎ、0.2%パパイン(Worthington Biochemicals, 10の網膜を含むチューブ中に1単位)の存在下で、37℃にて15分間インキュベートする。1.1 mMのEDTA、0.067 mMのβ-メルカプトエタノール及び5.5 mMのL-システインを含有するパパイン活性化溶液24μLに1単位のパパインを加えることにより、パパインを活性化した(37℃にて30分間)。加水分解を、DNアーゼI (Sigma, 5μg/ml)を加えた後に1mlの停止培地(Neurobasal A培地[Invitrogen 10888-022]及び10%胎児ウシ血清(FCS) [Invitrogen 10270-098])を加えることにより停止する。細胞を、すりガラスの(ground)パスツールピペットを用いて停止培地中で分離し、トリパンブルーを用いて計数して、死滅細胞を除き、種々の細胞密度で播種し(ウェルあたり75000〜400000細胞)、6日間培養で維持する。組換えOtx2タンパク質を透析し、培養培地で予備希釈し、細胞播種の直前に種々の濃度でウェルに分配する。無血清培養培地は、5μM L-グルタミン(Sigma G-6392)、2.5μM B27補体(Gibco 17504-044)、2.5μMグルタメート-アスパルテート(Gibco)、抗生物質/抗真菌剤(Gibco 15240-096)を補ったNeurobasal A培地(NBA) (Gibco 10888)で構成される。培養は、37℃にて、95%空気及び5% CO2のインキュベーター内で行う。培養6日目に、細胞を4%パラホルムアルデヒド(PAF)中で15分間固定し、次いで、PBSで3回すすぎ、免疫細胞化学を行うまで4℃にて貯蔵する。
【0027】
混合培養中で6日後に生存するRGCを、2つの補足的マーカーに関するそれらの免疫反応性により同定する:抗ニューロフィラメント200抗体(NF-200; Sigma N-0142)及び抗ニューロフィラメント68抗体(NF 68; Sigma N-5 139)。これらはそれぞれ91%及び88%の特異性を有する(Kong及びCho, Life Sci, 64, 1773〜1778, 1999)。大きいRGC (サイズ>21μm)に対するこれらのそれぞれの感度は、94%及び100%である。これらは、小さいRGC (サイズ<14μm)に対して64%及び84%の感度を有する(Ruiz-Ederraら, Mol Vis, 10, 83〜92, 2004)。形態的な基準も用いる:RGCは種々のサイズ、及び中心から外れた核を有する円形状を有する。
【0028】
処置は、周囲温度にて行う。細胞(D6に固定)を、0.2% Triton X-100を含むPBS中で5分間透過にし、PBSで3回すすぎ、10% FCSを含むPBS (PBS-FCSバッファー)中で30分間飽和させ、同じバッファー中で希釈した1つ以上の1次抗体と2時間インキュベートする。次いで、細胞をPBSで3回すすぎ、1つ以上の2次抗体と1時間インキュベートする。
【0029】
得られた結果を図1に示す。最大の生存(×3)が、50 ng/ml、すなわち1.65 nMにて観察される。効果は0.7 nMから先で確認できる。
【0030】
Thy-1抗体に対する免疫パニングにより精製した成体網膜神経節細胞の培養
用いたプロトコルは、Barresらにより記載されるものである(Neuron, 1, 791〜803, 1988)。
カバーガラスの前処理及び無血清培養培地は、混合培養についてと同じである。そうでないと記載しない限り、種々のインキュベーションは周囲温度にて行う。
【0031】
細胞懸濁物の調製
網膜をD-PBS (Invitrogen 14287-080)中で解剖する。網膜をD-PBSですすぎ、次いで、パパイン(Worthington Biochemicals, 12の網膜を含有するチューブについて165単位)の存在下で37℃にて30分間インキュベートする。165単位のパパインを5mlのD-PBS及び1000単位のDNアーゼ(Sigma D4527)に加えることにより、パパインを37℃にて5分間活性化した。加水分解を、4mlの0.15%オボムコイドを加えることにより停止する。細胞を、すりガラスのパスツールピペットを用いて0.15%オボムコイド溶液中で、DNアーゼ及びウサギ抗ラットマクロファージ1次抗体(France Biochem AIA5 1240)の存在下で分離する。このようにして分離し、予備インキュベートした細胞懸濁物を遠心分離し、15 mlの0.02% BSA (Sigma A8806)含有D-PBS中に採集し、48tm Nitexフィルタ(Dutscher 074011)を通してろ過する。
【0032】
パニング皿の準備及び用いた抗体
網膜の解剖の前の一晩の期間に、「A」と命名する2つのペトリ皿(150 mm、Dutscher 35-1058)を、20 mlの50 mM Tris-HCl溶液、pH 9.5及び60μLのヤギ抗ウサギIgG 2次抗体(Interchim 111-005-003)とインキュベートし、「B」と命名する1つのペトリ皿(100 mm、Dutscher 35-1029)を、10 mlの50 mM Tris-HCl溶液、pH 9.5及び30μLのヤギ抗マウスIgM 2次抗体(Interchim 1 15-005-020)とインキュベートする。それぞれのパニング皿をPBSで3回洗浄する。皿を、次いで、D-PBS/0.2% BSAで飽和させる。B皿をマウス抗Thy1 IgM (T1 1D7, ECACCハイブリドーマ)と3時間インキュベートし、D-PBSで4回洗浄する。
【0033】
1回目のパニングステップ:マクロファージの除去
ウサギ抗ラットマクロファージIgG 1次抗体と予備インキュベートした細胞懸濁物を、ヤギ抗ウサギIgG 2次抗体と、第1のA皿で36分間インキュベートする。非接着細胞を、33分間の第2インキュベーションのために第2のA皿に移す。
【0034】
2回目のパニングステップ:RGCの選択
非接着細胞を、48 tm Nitexフィルタを通してろ過し、マウス抗Thy1 IgM 1次抗体を含むB皿にて45分間インキュベートする。次いで、B皿を数回(少なくとも10回)、D-PBSを用いて洗浄して、非接着細胞を累進的に除く。この累進は、顕微鏡下で監視する。
【0035】
トリプシンでの精製接着細胞の剥離ステップ
B皿を、37℃に予め加熱したアールの平衡塩溶液(EBSS) (Sigma E6267)を用いて2回すすぐ。B皿に接着した細胞を、4mlのEBSS及び200μLの2.5%トリプシン(Sigma T9201)を含有するトリプシン溶液と、37℃にて10分間インキュベートする。トリプシンを、4mlのD-PBS-30%胎児ウシ血清(FBS)溶液で不活性化する。細胞を、トリプシン-ブロッキング溶液と穏やかにピペット処理することにより剥離し、次いで遠心分離して計数する(トリパンブルーを用いる死滅細胞の排除)。
【0036】
Otx2を透析し、培養培地中で予備希釈し、次いでウェルに入れた後に、ウェルあたり20000の密度で細胞を播種する。いくつかの実験において、Otx2を、1/1000の抗Otx2ポリクローナル抗体(Neuromics)と37℃にて30分間予備インキュベートした。
【0037】
細胞生存試験を、ウェルあたりに最初に播種された生存RGCの平均数を評価するためにD1に行い(4枚のカバーガラスに対して)、次いで、種々の条件下で培養において生存した細胞の割合を評価するためにD6に行う(条件あたり3〜6枚のカバーガラス)。精製RGCを、37℃にて2時間、2つの試薬の混合物とインキュベートする:カルセインAM及びエチジウム(Live Dead Viability Cytotoxicityキット、Invitrogen, L3224)。カルセインAMは、それが蛍光カルセインに加水分解される生細胞に透過したときのみ蛍光を発する(緑色)。エチジウムは、損傷された膜を有する死滅細胞にのみ透過し、そのDNAと相互作用することによってのみ赤色の蛍光を発する。2つのマーカーは、細胞内に透過したときにのみ蛍光を発する。よって、バックグラウンドノイズがない。分析は、この目的のための特別のカバーガラスキャリア上にカバーガラス(8 mm)を移すことにより、顕微鏡下で直接、生存-死滅試験の試薬と37℃にてインキュベートした75μLの培養培地中で行う。
【0038】
図2は、得られた結果を示す。これらの結果は、1.65 nMの同じ濃度が、生存(×3)のために最適であり、タンパク質を、それ自体は効果がない抗Otx2中和抗体と予備インキュベートした後にOtx2の効果が相殺されることを示す。生存効果は、よって、実際にOtx2によるものであり、可能性のある混入によるものではない。
【0039】
実施例3:網膜神経節ニューロンの生存に対するOTX2、混合網膜培養-馴化培地及びBDNFの影響の比較
神経節ニューロンの生存に対するOtx2の影響を、文献において以前に記載された成体神経節ニューロン生存因子のものと比較した:混合網膜培養-馴化培地(Fuchsら, Invest Ophthalmol Vis Sci, 46, 2983〜2991, 2005)及びBDNF (脳由来神経栄養因子) (Johnsonら, J Neurosci, 6, 3031〜3038, 1986)。
【0040】
実験は、実施例2に記載したような、免疫パニングにより精製した成体神経節細胞の培養物に対して行った。
Otx2及びBDNFを、培養培地中で50 ng/mlの濃度にて用いた。
混合網膜培養-馴化培地は、実施例2に記載したプロトコルに従って調製した混合培養物から調製する。最初の培養培地は、ミュラーグリア細胞の増殖を可能にするように10%のFCSを含む。細胞を、これらの条件下で集密まで培養する(およそ10日間)。NBAで4回洗浄した後に、培養培地を無血清の化学的に規定された培養培地(NBA+2% B27)にさらに2日間変更する。この馴化培地(CM)を回収し、遠心分離し、一定量に分け、液体窒素中で凍結させる。
【0041】
結果を図3に示す。これらの結果は、50 ng/ml (1.65 nM)でのOtx2が、馴化培地とより効果的でなければ同等に効果的であることを示す。馴化培地を抗Otx2抗体と予備インキュベートしてもこの効果は改変されず、このことは、この効果がOtx2を含むことによるものでないことを示す。50 ng/mlでのBDNF (脳由来神経栄養因子)は、馴化培地のものと同様の活性を示す(結果は示さず)。
上記の実験から、Otx2が、成体神経節ニューロンの新しい生存因子であり、その活性はBDNF又は馴化培地のものと同等又はそれより大きいことがわかる。
【0042】
実施例4:網膜神経節ニューロンのインビボ生存に対するOTX2の影響
網膜神経節ニューロンの生存に対するOtx2の影響を、マウスモデルにおいてインビボで決定した。
選択したモデルは、N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)中毒である。神経節ニューロンの生存を、神経節ニューロン、すなわちRGCにおいて特異的に網膜で発現される転写因子であるBrain 3A (Brn3A)の発現レベルを測定することにより決定した(Xiangら, J. Neurosci., 15, 4762〜4785, 1995)。
C57Bl6マウスの右目に、30 ngのOtx2又は1mMのNMDA又は3ng若しくは30 ngのOtx2を補った1mMのNMDAのいずれかを含む1μlの注射バッファー(PBS又は9‰NaCl)を与え、左目に、何も添加しない同じ容量の注射バッファーを与えた。
4日後に、動物を犠牲にし、網膜を回収し、そこからmRNAを抽出する。
【0043】
Brn3A mRNAの発現レベルを、定量RT-PCRにより、参照遺伝子としてヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子を用いて決定し、右目と左目のBrn3A mRNAの発現の比を計算した。
結果を図4に示す。用いた添加物をX軸に沿って示す。右目と左目のBrn3A mRNAの量の比(HPRT mRNAに対して標準化)をY軸に沿って示す。
【0044】
これらの結果は、Otx2単独では網膜におけるBrn3Aの発現レベル(よって神経節ニューロンの量に対して)に大きな影響がないことを示す。単独で投与されたNMDAは、神経節ニューロンの量を著しく減少させ(およそ60%)、3ngのOtx2を加えてもNMDAの毒性効果は大きくは減少しない。一方、30 ngのOtx2の添加は、NMDAの毒性効果に対して神経節ニューロンを完全に保護する。
【図4】

【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜神経節ニューロン変性の予防又は治療のための医薬品を得るための、ビコイドファミリーのホメオタンパク質の使用。
【請求項2】
前記網膜神経節ニューロン変性が緑内障において生じることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
培養網膜神経節ニューロンの生存を増大させるための、ビコイドファミリーのホメオタンパク質又は前記ホメオタンパク質を含む組成物の使用。
【請求項4】
前記ホメオタンパク質がOtxサブファミリーに属することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記ホメオタンパク質がOtx2ホメオタンパク質であることを特徴とする請求項4に記載の使用。

【公表番号】特表2011−509281(P2011−509281A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541823(P2010−541823)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000031
【国際公開番号】WO2009/106767
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(505429980)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NORMALE SUPERIEURE
【住所又は居所原語表記】45,rue d’Ulm,F−75230 Paris Cedex 05,FRANCE
【Fターム(参考)】