説明

総アミノ酸量の簡便な定量法

【課題】フルオレスカミンと一級アミノ酸との蛍光反応物をHPLCで分析することにより、迅速かつ簡便に総アミノ酸量を定量する。
【解決手段】試料液をフルオレスカミンと反応させると共に1種あるいは数種混合の標準アミノ酸溶液をフルオレスカミンと反応させ、それぞれ、イオン交換樹脂カラムにアセトニトリル/水を溶離液として用いるHPLC分析を実施、480nmの蛍光強度をピーク面積として測定し、標準アミノ酸の濃度に基づき、総アミノ酸量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフルオレスカミンによる蛍光発色を用いた総アミノ酸量の簡便な定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は果実、果汁、野菜、穀類、豆類、畜肉製品、乳製品、魚介類、醸造食品などあらゆる食品中に存在しており、重要な栄養素として摂取されるだけでなく、それ自身、味覚物質であり、おいしさの要素となり食生活に潤いを与えている。また、最近、消費者の強い健康志向に支えられてビタミン類と同様、アミノ酸を含有するサプリメント、ドリンク剤、あるいはスポーツドリンクなどの飲料、健康食品が急速に普及し、大量に消費されている。一方、アミノ酸の分析法としては種々のカラムを用いたHPLC法が一般的であり、特にアミノ酸自動分析計による分析は最も研究され、確立され、一般に広く普及した分析方法である。その原理はニンヒドリンまたはオルトフタルアルデヒドを反応試薬とし、イオン交換樹脂を用いるHPLCで分離分析する方法であり、これにより一般的に28〜38成分の個々のアミノ酸の同時定量が行われている(非特許文献1)。しかしながら、ニンヒドリンを反応試薬として用いるアミノ酸自動分析計により生体標準アミノ酸を分析する場合には分析時間が1品目5〜6時間かかり、多検体の試料を迅速に分析する必要のある品質管理などの分析法としては不適であった。また、アミノ酸、ペプチド、アミンなど一級アミンの蛍光反応試薬であるフルオレスカミンを用いたアミノ酸のHPLC分析による分離分析に関する報告があり、フルオレスカミンを用いるこの方法はアミノ酸に対し、ニンヒドリンの約100倍と高感度の分析が可能である(非特許文献2)。しかしながら、フルオレスカミンを用いたアミノ酸分析は試料中のアミノ酸とフルオレスカミンの蛍光反応物を測定する際にHPLCカラムを順次溶出してくる個々の成分を分離分析する方法であり、あらかじめ測定しようとする全てのアミノ酸を標準アミノ酸として別途、分離分析する必要があった。これまで試料中に存在する複数のアミノ酸をHPLC分析により1ピークとして分離し、定量した報告はない。
【0003】
【非特許文献1】島津アプリケーションニュース、No.L292A、醸造成分のアミノ酸分析
【非特許文献2】Methods in Molcular Biology、79,p125−130(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は食品または食品原料などのアミノ酸類を含有する試料中の総アミノ酸量を迅速、簡便かつ高感度に定量する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、今回驚くべきことに試料中のアミノ酸類とフルオレスカミンが反応して生成した蛍光物質をHPLC分析の際にカラムとして陽イオン交換樹脂カラムを使用し、アセトニトリル/水を溶離液として使用、温度40℃以下で溶出を行うと蛍光物質が同じ溶出時間に1つのピークとして溶出し、10〜15分で分析が完了、総アミノ酸量の定量が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして本発明はアミノ酸類を含有する試料中の総アミノ酸量の分析法であって、前記試料と標準アミノ酸溶液のそれぞれをフルオレスカミンと反応した後、生成する蛍光物質を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で1ピークとして分離、定量し、標準アミノ酸溶液のアミノ酸量から試料中の総アミノ酸量を求めることを特徴とする総アミノ酸量の定量方法を提供するものである。
【0007】
本発明は、また、HPLCの分離カラムが陽イオン交換樹脂カラムであることを特徴とする前記方法を提供するものである。
【0008】
本発明は、また、HPLCの溶離液がアセトニトリル/水の混合溶液であり、アセトニトリル/水の混合比率が容量比で5/95〜50/50である前記方法を提供するものである。
【0009】
本発明は、また、HPLCの分離温度が5〜40℃の範囲である前記方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便、迅速かつ高感度の総アミノ酸量の定量方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明のアミノ酸類としては、例えば、o-フォスホセリン、o-フォスホエタノールアミン、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、サルコシン、α-アミノアジピン酸、グリシン、アラニン、シトルリン、アミノ酪酸、バリン、シスチン、メチオニン、イソロイシン、シスタチオン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、β-アラニン、β-アミノイソ酪酸、γ-アミノ酪酸、トリプトファン、ヒスチジン、3−メチルヒスチジン、1-メチルヒスチジン、カルノシン、アンセリン、ヒドロキシリジン、オルニチン、リジン、アルギニン、テアニンなどフルオレスカミンと反応し、蛍光物質を生成する一級アミンのアミノ酸を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の定量法で通常、定量を行うのは上記の如きアミノ酸であるが、それ以外にフルオレスカミンと反応する一級アミンである、アミノ酸が2分子以上結合したグリシルグリシン、グルタミルアラニン、グルタミルチロシルロイシンなどのペプチド、メチルアミン、エチルアミンなどのアミンもアミノ酸の蛍光反応物に比べれば480nmの蛍光強度は低いものの同時に標準アミノ酸に換算した数値として定量が可能である。
【0014】
また、本発明で総アミノ酸量の定量を行う試料としては加工時にアミノ酸を特定量添加したサプリメント、ドリンク剤、アミノ酸を含有するスポーツドリンクなどの飲料、健康食品、あるいはこれらの研究開発のために使用されるアミノ酸を混合した溶液、更にはアミノ酸を含有する緑茶、中国茶、紅茶などの茶類、果実・果汁類、野菜類、醸造食品、その他食品などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の定量法で使用する標準アミノ酸溶液の調製は、例えば、加工時、あるいは調製時に添加したアミノ酸の種類と量がわかっている場合には、まず、添加したアミノ酸と同組成、あるいは添加量の上位1品目〜数品目のアミノ酸を選択し、個々のアミノ酸約1〜50mgを100mlのメスフラスコに精秤し、イオン交換水を加え100mlとする。この溶液1mlを20mlメスフラスコに取り、イオン交換水で20mlとし標準アミノ酸溶液を得る。アミノ酸の種類と量がわからない場合にはまず、アミノ酸類を含有する試料のアミノ酸分析を実施するか、または文献値を参考にして同組成あるいは上位1品目〜数品目のアミノ酸を選択し、標準アミノ酸溶液を調製する。
【0016】
また、前述のアミノ酸類を含有する試料から分析試料を調製する手順は、測定を行うHPLC装置、蛍光検出器の蛍光物質の測定範囲などにより異なり、一概には言えないが、例えば、アミノ酸類を含有する試料0.05〜2g程度を10〜50mlのメスフラスコに精秤し、イオン交換水で希釈し、アミノ酸の場合では3〜20ppmの範囲の濃度とする方法を挙げることができる。
【0017】
本発明のフルオレスカミンは市販品として購入することが出来る。例えば、Furam(シグマアルドリッチ社製)、HPLC用フルオレスカミン(東京化成工業社製)、Fluorescamine 99%(Lancaster Synthesis Ltd.)などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。また、フルオレスカミン溶液は、測定を行うHPLC装置、蛍光検出器の蛍光物質の測定範囲などにより異なり、一概には言えないが、例えば、フルオレスカミン約6〜10mgを10mlのメスフラスコに精秤し、アセトンを加えて溶解、10mlとする方法を挙げることができる。
【0018】
本発明においてアミノ酸溶液とフルオレスカミン溶液の反応はHPLCの前処理すなわち、プレカラム法により行う。例えば、アミノ酸溶液1mlを正確に量り取り、10mlのメスフラスコに加える。これに0.2Mホウ酸緩衝液(pH9.5)を4ml加えた後、3mMフルオレスカミン溶液1.0mlを加えてよく混合する。室温で10分間反応後、イオン交換水で10mlにメスアップする。本発明者らが検討した結果では10〜20分間程度の反応後、HPLC分析に供すればアミノ酸とフルオレスカミンの蛍光反応物は安定であり、定量性に問題はなかった。実際の反応ではその他の条件と共に反応に使用する溶液の濃度、量を決定すればよい。
【0019】
本発明の陽イオン交換樹脂は特別に制限されるものではなく、アセトニトリル/水の溶離液を使用できるものならどんな種類の樹脂でも構わないが、例えば、SHODEX RSpakNN−814、SP−825、SP−420N、CM−825(以上昭和電工社製、登録商標)、カプセルパックSCX UG80(資生堂社製、登録商標)、COSMOGEL CM、COSMOGEL SP(ナカライテスク社製、登録商標)、TSKgelSCX7158(東ソー社製、登録商標)などを挙げることができるが、イオン交換容量の低いイオン交換樹脂の方が分析時間が短く、ピークがシャープとなり良好な分析を行うことが出来る。アセトニトリル/水を溶離液として使用するためにイオン交換樹脂の基材、溶離液、蛍光反応物との間で逆相クロマトグラフィーによる分離が行われると共にイオン交換基による分離も関与すると推測される。
【0020】
本発明のHPLC装置は特に制限はされないが、例えば、M10A−VP、LC−2010HT(以上島津製作所社製)、FS−8020(東ソー社製)LaChromElite(日立製作所社製、登録商標)、LC−2000Plus(日本分光社製)などを挙げることができる。
【0021】
本発明の蛍光検出器は特に制限はされないが、例えば、RF−10AXL(島津製作所社製)、NANOSPACE蛍光検出器(資生堂社製、登録商標)、2475マルチλ蛍光検出器(ウォーターズ社製)などを挙げることができる。
【0022】
本発明の一実施態様を例示すれば次の通りである:試料である混合アミノ酸モデルとしてロイシン、イソロイシン、バリン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギンをそれぞれ約25mg、約20mg、約20mg、約15mg、約10mg、約10mg、約5mgを100mlのメスフラスコに精秤し、イオン交換水を加えメスアップした後、さらに100倍希釈し、試料液とする。次にロイシン、イソロイシン、バリン、グルタミン酸をそれぞれ、約25mg、約20mg、約20mg、約15mgを100mlのメスフラスコに精秤し、イオン交換水を加え100mlとする。次にこの溶液1mlを50mlメスフラスコに取り、イオン交換水で50mlとし標準アミノ酸溶液を得る。得られた試料液1mlを10mlメスフラスコに取り、0.2Mホウ酸緩衝液(pH9.5)4mlおよびフルオレスカミン溶液(3mM)1.0mlを加え、試験管ミキサーを使用し、よく混合する。室温で10分間放置反応後イオン交換水で全量を10mlとする。次にHPLC分析であるが、溶離液としてアセトニトリル/水=10/90(容量比)を流速1.0ml/min、温度30±2℃で流した陽イオン交換樹脂のカラムに試料液5〜10μlを導入することにより実施する。溶離液にリン酸などの酸を添加するとピークがブロードとなるので添加しないことが好ましい。また、40℃を超える温度で測定を行う場合もピークがブロードになるため、5〜40℃の範囲で分析を行う。溶出してくるアミノ酸とフルオレスカミンの反応生成物は蛍光検出器により励起波長280nm、蛍光波長480nmで測定を行う。既に説明したようにフルオレスカミン溶液は通常、アセトンにフルオレスカミンを溶解したものを使用し、この際、クロマトグラム上にアセトン由来の480nmの発光ピークが現れるがアミノ酸とフルオレスカミンの反応生成物とは溶出位置が異なるため、定量の妨げとはならない。標準アミノ酸溶液についても試料液と同様の手順により、分析を行うが希釈倍率の異なる2〜5品の標準アミノ酸溶液について分析を行い、検量線を作成する。その理由はアミノ酸をまったく含まない溶液を分析する場合にもバックグラウンドとしてわずかな発光ピークが見られるため、3〜20ppmの濃度範囲に調整された複数の標準液の分析結果を基に検量線を作成し、試料液の蛍光強度と検量線から測定した試料液のアミノ酸濃度を求めるためである。試料中の総アミノ酸量はこの値に希釈倍率を乗じて算出することができる(式1)。通常は2点検量線、3点検量線のデータから試料希釈液の濃度を計算する。

【0023】
試料液の総アミノ酸量(mg%)
=検量線により求められた試料希釈液のアミノ酸量(mg%)×希釈倍率
(式1)

アミノ酸はペプチド、タンパク質などと共にアミノ態窒素と呼ばれ、食品の成分の一つの指標として使用されることがあるが、その場合には上記の式において標準アミノ酸溶液のアミノ酸量をアミノ態窒素(mg%)で表せば、試料液の総アミノ酸量をアミノ態窒素換算で表すこともできる。
【0024】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0025】
実施例1
試料溶液である混合アミノ酸モデルの調製
試料溶液である混合アミノ酸モデルの調製を次のようにして行った。すなわち、表1に示した組成のアミノ酸を100mlのメスフラスコに精秤し、イオン交換水を加え100mlにメスアップした。これをさらにイオン交換水を用い、300倍希釈し、試料溶液を得た。
【0026】
【表1】

【0027】
標準アミノ酸溶液の調製
実施例1の試料溶液に含まれるアミノ酸よりアスパラギン酸、アラニン、メチオニン、フェニルアラニンを選択し、それぞれ5.4mg、7.26mg、5.60mg、5.73mgを精秤し、イオン交換水を加えて100mlにメスアップし、標準アミノ酸溶液1を得た。これにさらにイオン交換水を加え、検量線作成のための25倍希釈液(1a)および75倍希釈液(1b)を得た。また、アスパラギン酸、アラニンをそれぞれ、5.8mg、7.51mgを精秤し、試料液と同様の操作を行い、標準アミノ酸溶液2を調製し、さらにイオン交換水を加えて希釈し、10倍希釈液(2a)、40倍希釈液(2b)を得た。
【0028】
試料溶液及び標準アミノ酸溶液とフルオレスカミン溶液との反応
試料溶液1mlを10mlメスフラスコに取り、0.2Mホウ酸緩衝液(pH9.5)4mlおよびフルオレスカミン溶液(3mM)1.0mlを加え、試験管ミキサーを使用し、よく混合する。室温で10分間放置反応後イオン交換水で全量を10mlとする。1a、1b、2a、2bについても、それぞれ同様の手順で反応を行った。
【0029】
HPLCによる蛍光反応物の分析
上記の手順で得られた試料溶液、1a、1b、2a、2bのフルオレスカミン溶液との反応物を以下の方法により、HPLC分析を行った。
【0030】
HPLCの分析条件は以下の通り:
(測定条件)
HPLC装置:PD−8020(東ソー社製)
カラム:SHODEX RSpakNN−814(8.0mm×250mm)
溶離液:アセトニトリル/イオン交換水=10/90(容量比)
流速:1.0ml/min
検出器:FS−8020(東ソー社製)
検出条件:励起波長280nm、蛍光波長480nm
温度:30±2℃
注入量:10μl

試料溶液、1a、1b、2a、2bのクロマトグラムはいずれのピークもシャープで良好な分離を示した。試料溶液および標準アミノ酸溶液1の25倍希釈液(1a)のHPLCチャートをそれぞれ、図2、図3に示す。いずれのクロマトグラムにおいてもアミノ酸とフルオレスカミンの反応物の保持時間は約6分であった。また、HPLCチャート上にアセトン由来のピークが見られたがその保持時間は約10分であった。
【0031】
ピーク面積からの総アミノ酸量の算出
上記で行った試料溶液の蛍光強度、標準アミノ酸溶液1の希釈液の検量線および前記式1により、試料溶液の総アミノ酸量を算出したところ、141.73mg%の値が得られた(本発明法1)。同様に標準アミノ酸溶液2の希釈液の検量線および前記式1により、試料溶液の総アミノ酸量を算出したところ、143.89mg%の値を得た(本発明法2)。
【0032】
上記で求めた総アミノ酸量のアミノ態窒素への換算
上記で得られた標準アミノ酸溶液1の結果を基に算出した試料液の総アミノ酸量をアミノ態窒素に換算したところ、16.1mg%となった(本発明法3)。同様に標準アミノ酸溶液2を基に算出した試料液の総アミノ酸量をアミノ態窒素に換算したところ、16.3mg%であった(本発明法4)。
【0033】
比較例1
アミノ酸自動分析計による混合アミノ酸モデルの総アミノ酸量の定量
実施例1で調製した混合アミノ酸モデルをアミノ酸分析計により測定し、総アミノ酸量を求めた(比較法1)。
【0034】
比較例2
混合アミノ酸モデルのアミノ態窒素の測定
実施例1の試料溶液をアミノ態窒素の測定器であるスミグラフN−300(住化分析センター社製、登録商標)を用いてアミノ態窒素を測定したところ、16.7mg%の値が得られた(比較法2)。
【0035】
比較例3
混合アミノ酸モデルのアミノ態窒素理論値
実施例1の試料中の各アミノ酸のアミノ態窒素の理論値を合計し、混合アミノ酸モデルのアミノ態窒素理論値を算出し、15.8mg%の値を得た(比較法3)。
【0036】
実施例1および比較例1、2、3で得られた総アミノ酸量またはアミノ態窒素の値を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示すとおり、混合アミノ酸モデル(試料溶液)は総アミノ酸量が140.41mg%であり、これをアミノ酸自動分析計で分析した比較法1の総アミノ酸量は140.1mg%であった。また、本発明法1および2は分析時間が約15分であったが比較法1では約3時間を要した。一方、4種のアミノ酸を標準アミノ酸とした本発明法1および2種のアミノ酸を標準アミノ酸とした本発明法2により算出した値は、それぞれ141.73mg%、143.89mg%となり、試料溶液の値に近い値が得られた。一方、総アミノ酸量をアミノ態窒素として比較してみれば混合アミノ酸モデルのアミノ態窒素の理論値は比較法3の15.8mg%であるが、これを実測したものが比較法2であり、16.7mg%であった。これに対し、本発明法3、本発明法4、すなわち、4種および2種の標準アミノ酸を用いてそれぞれ算出した総アミノ酸量をアミノ態窒素に換算した値は16.1mg%、16.3mg%となり実測値に非常に近いものであった。
【0039】
実施例2
アミノ酸濃度と蛍光強度の関係
試料溶液および標準アミノ酸溶液1,2の希釈液の分析を行うに先立って3、5、10、15、20ppmの標準グルタミン酸溶液を調製し、実施例1の測定条件にしたがってHPLC分析を実施し、アミノ酸濃度と蛍光強度の関係を調べた。図1はその結果をグラフにしたものであるがグルタミン酸濃度が3〜20ppmの範囲内においてアミノ酸濃度と蛍光強度の間には良好な直線性が見られ、本発明の方法はこの範囲において総アミノ酸量の定量法として十分使用可能であることが確認された。
【0040】
実施例3
リンゴ濃縮果汁の総アミノ酸量の分析
市販のリンゴ濃縮果汁および標準アミノ酸としてアスパラギン25.5mg%を精秤し、イオン交換水に溶解し、100mlにメスアップしたものを用いて実施例1の手順に従ってHPLC分析を実施し、前記式1により総アミノ酸量を算出した(本発明法5)。
【0041】
比較例4
リンゴ濃縮果汁の総アミノ酸量の分析(アミノ酸自動分析計)
比較例1と同様な手順でリンゴ濃縮果汁の総アミノ酸量をアミノ酸自動分析計により求めた(比較法4)。
【0042】
実施例4
緑茶抽出液の総アミノ酸量の分析
市販の緑茶の茶葉4gを熱湯400mlで5分間抽出し、緑茶抽出液を得た。標準アミノ酸としてテアニン60.3mg、グルタミン酸30.5mg、アスパラギン酸11.0mgを精秤し、イオン交換水に溶解し、100mlにメスアップしたものを用いて実施例1の手順に従ってHPLC分析を実施し、前記式1により総アミノ酸量を算出した(本発明法6)。
【0043】
比較例5
緑茶抽出液の総アミノ酸量の分析(アミノ酸自動分析計)
比較例1と同様な手順で緑茶抽出液の総アミノ酸量をアミノ酸自動分析計により求めた(比較法5)。
【0044】
実施例3〜4および比較例4〜5で得られた総アミノ酸量等の結果を表3に示した。
【0045】
【表3】

【0046】
表3に示すとおり、比較法4がリンゴ濃縮果汁のアミノ酸分析計による総アミノ酸量の値である。総アミノ酸量は393.4mg%であった。これに対し、アスパラギンを標準アミノ酸として用い総アミノ酸量を求めた本発明法5の値は470.08mg%であった。また、比較法5は緑茶抽出液のアミノ酸分析計による総アミノ酸量の値であり、総アミノ酸量が15.2mg%であった。これに対し、テアニン、グルタミン酸、アスパラギン酸の混合液を標準アミノ酸として用いて総アミノ酸量を求めた本発明法6の値は20.0mg%であった。リンゴ濃縮果汁、緑茶抽出液はアミノ酸分析計で測定した総アミノ酸量と比較してそれぞれ、19.5%、31.6%高い数値が出ているがこれはペプチドなどアミノ酸以外の成分がフルオレスカミンと反応し、蛍光物質を生成するためと推測される。食品など天然物の分析の場合はこれらを含めた分析値を品質管理における指標として採用すれば、通常の分析では十分使用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】アミノ酸の濃度とピーク面積(蛍光強度)についてプロットしたグラフである。この範囲で直線性が確認された。
【図2】試料溶液のHPLCチャートであり、蛍光反応物のピークはシャープで良好な分離を示した。
【図3】4種の標準アミノ酸を使用した標準アミノ酸溶液1の希釈液(1a)のHPLCチャートであり、蛍光反応物のピークはシャープで良好な分離を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸類を含有する試料中の総アミノ酸量の分析法であって、前記試料と標準アミノ酸溶液のそれぞれをフルオレスカミンと反応した後、生成する蛍光物質を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で1ピークとして分離、定量し、標準アミノ酸溶液のアミノ酸量から試料中の総アミノ酸量を求めることを特徴とする試料中の総アミノ酸量の定量方法。
【請求項2】
前記HPLCの分離カラムが陽イオン交換樹脂カラムであることを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記HPLCの溶離液がアセトニトリル/水の混合溶液であり、アセトニトリル/水の混合比率が容量比で5/95〜50/50である請求項1または2のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項4】
前記HPLCの分離温度が5〜40℃の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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