説明

緑内障治療材

【課題】緑内障治療のために濾過胞を形成する手術に用いられ、濾過胞を確保することが可能なフィルムおよび該フィルムからなる緑内障治療材を提供する。
【解決手段】100重量部の生体適合性ポリマーおよび0.1〜100重量部のリン脂質とからなり、少なくとも一方の表面に開口部の直径が1〜10μmであるハニカム状の凹凸部を有する緑内障手術に用いるフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑内障治療のために、濾過胞を確保することが可能であり、濾過胞から房水の染み出しを抑えるフィルムおよび該フィルムからなる緑内障治療材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化に伴い眼科領域においても緑内障患者は増加しており、効果的な治療法のおよび手術材料の開発が期待されている。
【0003】
現在、緑内障治療において保存的治療のみで十分な眼圧降下が得られない場合には、観血的治療が選択される。観血的治療の代表として線維柱帯切除術が挙げられる。これは房水が前房から結膜下組織へと排出され結膜下組織によって吸収されるように、前房への開口部を強角膜に人工的に作成しこれを房水排出路として結膜下に濾過胞を形成する方法である。濾過胞構築の手術後、当該領域において相接する組織の癒着等により構築した濾過胞は縮小・消失し、眼圧低下の効果が失われてしまい眼圧が再び上昇することがある。緑内障手術に有効で効果的な手術材料があれば、濾過胞を長く維持することが出来、眼圧上昇を防ぎ正常眼圧を維持することが出来る。さらに、術時にマイトマイシンC(MMC)を術後の癒着を防止するために投与する。MMCを投与しなければ、術後の創傷治癒反応で濾過胞のある結膜は強膜と癒着し、さらに強膜半層フラップを作成した部分も癒着して房水の流れは閉ざされ、濾過胞は容易に消失してしまう。従って、MMCを投与することによりそのような創傷治癒反応を大幅に軽減することができる。しかし一方で、MMCの有する副作用により結膜は菲薄化し、結膜から房水が染み出すことにより低眼圧を引き起こす。この低眼圧はさらに黄斑症を引き起こし、視力低下の原因となり得る。さらに、菲薄化した結膜と低眼圧により眼外液が濾過胞内に逆流し、重篤な合併症である感染性眼内炎の原因となる。
【0004】
特許文献1にはポリ酸(PA);ポリアルキレンオキシド(PO);及び多価カチオンを含むイオン的に架橋したゲルが記載されており、ゲルが存在しないと隣接する組織が癒着を形成する組織にゲルに記載の組成物を接触して配置する工程を含む、外科的処置後の癒着を減少させる方法が記載され、緑内障のフィルタリング(filtering)手術への使用が挙げられている。
【特許文献1】特表2003−530136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、濾過胞を形成する手術に用いられ、濾過胞を確保することが可能な、生体適合性が高いフィルム状の緑内障手術材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、生体適合性ポリマーおよびリン脂質とからなり、少なくとも一方の表面にハニカム状の凹凸部を有するフィルムが緑内障手術部位等の癒着防止に効果があり、濾過胞の維持に非常に効果があることを見出し、緑内障手術材料として本発明を完成するに至った。すなわち本発明は100重量部の生体適合性ポリマーおよび0.1〜100重量部のリン脂質とからなり、少なくとも一方の表面にハニカム状の凹凸部を有する緑内障手術に用いるフィルムおよび該フィルムからなる緑内障治療材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の緑内障手術に用いるフィルムおよび該フィルムからなる緑内障治療材は、生体に対する適合性が高く、緑内障手術材料として用いた場合、従来の癒着防止材と比較しても、取り扱いやすさ、濾過胞維持能力、眼圧低減効果ともに優れている。緑内障手術により構築した濾過胞を、MMC投与を行うことなく長く維持することが出来れば、緑内障手術に革新をもたらすことが出来る。即ち、そのような緑内障手術材料を使用することにより、MMCの投与量を減少あるいは不要となると思われ、副作用を低減させるあるいは無くすことが出来ると期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(生体適合性ポリマー)
本発明における緑内障手術材料としてのフィルムを構成する生体適合性ポリマーは、生分解性脂肪族ポリエステルであることが好ましく、具体的には生分解性脂肪族ポリエステルがポリ乳酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、およびポリブチレンアジペートからなる群から選択される少なくとも1種であることが、有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。中でも、ポリ乳酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリ乳酸−ポリカプロラクトン共重合体が入手の容易さ、価格等の観点から望ましい。さらに、眼球に用いる点を考慮すれば、しなやかな材質であるポリ乳酸−ポリカプロラクトン共重合体が望ましい。
【0009】
(リン脂質)
本発明における緑内障手術材料としての生体適合性フィルムを構成するリン脂質は、動物組織から抽出したものでも、また人工的に合成して製造したものでもその起源を問うことなく使用できる。リン脂質としてはホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよびそれらの誘導体からなる群から選択されてなるものを利用することが望ましい。好ましくはL−α−ホスファチジルエタノールアミンであり、さらに好ましくはL−α−ホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルである。
【0010】
リン脂質の含有量は、100重量部の生体適合性ポリマーに対し、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜10重量部である。リン脂質が100重量部の生体適合性ポリマーに対して0.1未満では均一な構造が得られず、また、100重量部を超えると自己支持性がなく、コストも高く、経済性に乏しいため好ましくない。
【0011】
(ハニカム状の凹凸部)
本発明の緑内障治療材は少なくとも一方の表面にハニカム状の凹凸部を有する。ハニカム状の凹凸部はフィルムの一方の表面にのみ開口部を有する複数のセルが隣接して配置された構造であることが好ましい。ハニカム状の凹凸部の好ましい態様を図1に基づき説明する。フィルムは、平面状に隣接して配置された複数のセル(1)を有する。セルはポリマー中に形成された水滴の蒸発により形成された空間であり球面状である。
【0012】
セルは最密充填された水滴により形成されるため、1つのセルの周辺には6個のセルが存在する。また、隣接するセル同士は、互いにそれらの一部分が重なり合う。その結果、各セルはフィルム中で連通する。連通部(2)は、各セルの境界であって、それぞれのセルの中心を結ぶ直線を中心とする一定の範囲である。連通部の形状は円形若しくは楕円形である。連通部の最大径は、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは3〜7μmである。連通部により、房水の吸収性が良好となる。
【0013】
フィルムの一方の表面からセルの下端までの距離を、孔の深さという。孔の深さは、好ましくは1〜10μm、より好ましくは3〜8μmである。セルの下端には、非貫通性の底部(3)を有する。
【0014】
各セルは、フィルムの一方の表面にのみ円形の開口部(4)を有する。開口部の直径は、好ましくは1〜10μm、より好ましくは3〜8μmである。一つの開口部の周りには6個の開口部が隣接して配置されている。隣接する開口部と開口部との間には縁部(5)を有する。縁部の最狭部分の幅は、好ましくは0.5〜2μm、より好ましくは0.8〜1.5μmである。即ち、フィルムの一方の表面開口部と隣接する開口部との最短距離は、好ましくは0.5〜2μm、より好ましくは0.8〜1.5μmである。
【0015】
底部と縁部とは支柱(6)により結合された構造とも言える。支柱は各セルを取り巻く位置に、各セルごとに6個有する。支柱の最も細い部分の一辺の長さは、好ましくは0.1〜1μmである。ここでいる支柱とは、フィルム表面と孔の底面を結ぶ部位を示す。隣接するセル同士は、底部、縁部、支柱により形成された孔とも言える。
【0016】
フィルムの厚みは、好ましくは3μm以上、より好ましくは3〜70μmである。厚みは開口部を有する一方の表面から他方の表面までの距離のことを言う。緑内障手術材料の支持性を高めるために、他のフィルム、繊維体、多孔体などを積層してもよい。本発明の緑内障手術材料は、目的に応じて種々の形状、たとえば、円形、楕円形、正方形、長方形などにすることが出来る。
【0017】
(フィルムの製造方法)
本発明の緑内障手術材料は、
(1)生体適合性ポリマーおよび有機溶媒を含有するドープを、基板上にキャストし、液状膜を形成する工程、
(2)相対湿度50〜95%の大気下で、有機溶媒を蒸発させると共に水蒸気を結露させ、液状膜の表面に水滴を形成させる工程、および
(3)水滴を蒸発させる工程、
からなる方法により製造することができる。
【0018】
本発明の緑内障手術材料としての少なくとも一方の表面に凹凸部を有するフィルムを作製するに当たっては、ポリマー溶液上に微小な水滴粒子を形成させることが必須である事から、リン脂質の添加が必要である。用いられるりん脂質については上記に述べたとおりである。
【0019】
本発明の緑内障手術材料としての少なくとも一方の表面に凹凸部を有するフィルムを作製するに当たってはポリマー溶液上に微小な水滴粒子を形成させることが必須である事から、使用する有機溶剤としては非水溶性である事が必要である。これらの例としてはクロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、などの非水溶性ケトン類、二硫化炭素などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても、又、これらの溶媒を組み合わせた混合溶媒として使用してもかまわない。
【0020】
これらに溶解する生体適合性ポリマーとリン脂質両者併せての溶液濃度は0.01から10wt%、より好ましくは0.05から5wt%である。ポリマー濃度が0.01wt%より低いと得られるフィルムの力学強度が不足し望ましくない。又、10wt%以上では溶液濃度が高くなりすぎ、所望の表面凹凸構造が得られない。又、生体適合性ポリマーとリン脂質の組成比は重量比で1:1から1000:1(wt/wt)である。リン脂質が生体適合性ポリマーに対して1000分の1以下では均一な表面凹凸構造が得られず、又、該重量比が1:1以上ではフィルムとしての自己支持性を有しておらず、コストも高く、経済性に乏しいため好ましくない。
【0021】
本発明においては該ポリマー有機溶媒溶液を基板上にキャストし表面に凹凸部を有するフィルムを調製するが、該基板としてはガラス、金属、シリコンウェハー等の無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン等の耐有機溶剤製に優れた高分子、水、流動パラフィン、液状ポリエーテル等の液体が使用できる。中でも、基材に水を使用した場合、該ハニカム構造体の特徴である自立性を生かすことで、該構造体を単独で容易に基板から取り出すことが出来、好適である。
【0022】
(キャスト工程)
ドープを基板上にキャストし、液状膜を得る工程である。かかる工程はドープを基板上に流し込むことで行なうことができる。基板としては、無機材料、ポリマーまたは液体を使用することができる。無機材料として、ガラス、金属、シリコンウェハー等が挙げられる。ポリマーとして、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン等が挙げられる。液体として、水、流動パラフィン、液状ポリエーテル等が挙げられる。基板に水を使用した場合、フィルムの特徴である自立性を生かすことで、フィルムを単独で容易に基板から取り出すことが出来る。
【0023】
(有機溶媒の蒸発工程)
液状膜を相対湿度50〜95%の大気下、静置し、有機溶媒を蒸発させる工程である。相対湿度は好ましくは50〜85%である。相対湿度が50%未満では液状膜上への結露が不十分になり、また、95%を超えると湿度のコントロールが難しく好ましくない。温度は、有機溶媒が徐々に蒸発する温度であればよく、好ましくは10〜30℃、より好ましくは室温である。
【0024】
この工程では、有機溶媒が蒸発すると共に、水蒸気が液状膜表面に結露し水滴が形成される。これは有機溶媒が蒸発するとき潜熱を奪い、液状膜表面の温度が下がり、雰囲気中の水蒸気が液状膜表面に結露するからである。ポリマー中の親水基の働きによって結露した水蒸気と有機溶媒との間の表面張力が減少し、結露した水蒸気は凝集し微小な水滴となる。有機溶媒が蒸発するに伴い、液状膜表面にヘキサゴナル配置で最密充填された微小な水滴が並ぶ。有機溶媒の蒸発が進むに伴い、液状膜中に水滴は沈下し、液状膜の表面は、ポリマーに囲まれた水滴が規則正しく配置された構造となり、液状膜中の有機溶媒が完全に蒸発し、フィルムを形成する。
【0025】
(水滴の蒸発工程)
有機溶媒が蒸発した後は、結露により生じた水滴が蒸発する。水滴が蒸発することにより、ポリマー表面に均一に配置された細孔が残る。従って、該フィルムを調製する環境としては相対湿度が50から95%の範囲にあることが望ましい。50%以下ではキャストフィルム上への結露が不十分になり、又、95%以上では環境のコントロールが難しく好ましくない。このようにしてできる個々の空隙内径は0.1から100μmである。このようにして作製した表面に凹凸部を有するフィルムは、膜厚が充分厚い場合は、基盤に接していた裏面は孔が貫通していない平らな面となる。また、膜厚が水滴の大きさよりも薄い場合は孔が貫通したフィルムが得られる。使用目的により、貫通または非貫通膜を選択することが望ましい。
【0026】
(緑内障手術例)
本発明の緑内障手術材料を用いた、緑内障手術の1例の概要を述べる。本例は1例であって本発明の内容をなんら制限するものではない。図2に緑内障手術における、眼球上の切開部位と本緑内障手術材料の位置関係の概要図を示す。
【0027】
角膜輪部から10mm以上はなれた位置で結膜切開を行い、角膜輪部に向かって結膜及びテノン嚢とその下の強膜とを分離させる。角膜輪部隣の強膜に4×4mm(正方形)の強膜半層切開を行い、強膜を半層だけめくるような形で、角膜輪部に向かって強膜半層フラップを作成する。角膜輪部に近接した(ほぼ角膜輪部)強膜半層フラップ作成部位で、角膜輪部と平行に約2mm強膜に切開を入れる。ケリーパンチにてその切開した強膜、即ち、ちょうど線維柱帯にあたる部位、をはさむようにパンチし穴を開ける。それを何回か行い約1×2mmの強膜が切除された強膜窓を作成する。これが線維柱帯切除に相当する。その後前房水がわずかに強膜上に染み出てくる程度に強膜半層フラップを縫合する。8×8mmのハニカム状の凹凸部を有するフィルムからなる緑内障治療材の角2ヶ所を、4×4mmの強膜フラップを中心として、角膜輪部に近接した強膜に縫合し、残り2つの角の真ん中を強膜に縫合する。そして結膜縫合を行い手術は終了となる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明の実施の形態を説明するが、これらは本発明の発明を制限するものではない。
[実施例1]
ポリ(乳酸−カプロラクトン)共重合体(PLCA、分子量163,000、共重合モル比 乳酸/カプロラクトン=88/12) 25mg、ホスファチジルエタノールアミン−ジオレオイルをPLCAに対し1/200の割合(重量)で加え、これをクロロホルム5mlに溶解して使用し、膜厚7μm乃至8μm、開口部の直径が5μmのハニカム状の凹凸部を有するフィルム(以下ハニカムフィルム)を作製した。
【0029】
グループ1〜3家兎18羽を使用し、片眼にハニカムフィルムを置いた緑内障濾過手術を行った。基本術式として角膜輪部基底による結膜切開、3 mm×3mmの強膜半層フラップ作成、線維柱帯切除、強膜半層フラップ切除した。、強膜半層フラップを切除した後に6 mm×6mmのハニカムフィルムを、ハニカム面を上にして強膜半層切除施行部位を覆うように置き、3箇所強膜に縫合した(図2)。その後、結膜縫合を行った。術後28日間に渡って点眼麻酔下でのトノペンによる眼圧測定と超音波生態顕微鏡(UBM)による濾過胞観察を行った。眼圧測定は術前と術後3、7、10、14、17、21、28日に、UBMは術後のみ行った。UBMでは結膜下に濾過のスペースがなくなった場合を濾過胞消失、眼圧値では術前との眼圧比(術後眼圧/術前眼圧)が2回以上連続して0.8を超えた場合を濾過胞消失と定義し、濾過胞の生存期間を決定した。統計学的検定に関しては,ノンパラメトリックデータはWilcoxon rank-sum testを用い、濾過胞生存の解析にはlog-rank testを用いた。
術後の目視形態および濾過胞形成の評価結果は、28日間で18眼中、4眼濾過胞が消失した。図3にハニカムフィルム使用術後の前眼部写真とUBM像を示す。
【0030】
[比較例1]
グループ1家兎6羽を使用し、片眼に緑内障濾過手術を行った。本群は、コントロール群として基本術式のみを施した。角膜輪部基底による結膜切開、3 mm×3mmの強膜半層フラップ作成、線維柱帯切除、強膜半層フラップ切除、結膜縫合を行った。術後28日間に渡って点眼麻酔下でのトノペンによる眼圧測定と超音波生態顕微鏡(UBM)による濾過胞観察を行った。眼圧測定は術前と術後3、7、10、14、17、21、28日に、UBMは術後のみ行った。UBMでは結膜下に濾過のスペースがなくなった場合を濾過胞消失、眼圧値では術前との眼圧比(術後眼圧/術前眼圧)が2回以上連続して0.8を超えた場合を濾過胞消失と定義し、濾過胞の生存期間を決定した。統計学的検定に関しては,ノンパラメトリックデータはWilcoxon rank-sum testを用い、濾過胞生存の解析にはlog-rank testを用いた。
術後の目視形態および濾過胞形成の評価結果は、28日間で6眼中、5眼濾過胞が消失した。図4に術後の前眼部写真とUBM像を示す。
【0031】
[比較例2]
グループ2家兎6羽を使用し、片眼に緑内障濾過手術を行った。本群ではマイトマイシンC(MMC)を用いた濾過手術を行った。基本術式として角膜輪部基底による結膜切開、3 mm×3mmの強膜半層フラップ作成、線維柱帯切除、強膜半層フラップ切除しフラップ作成後、スポンジに染み込ませた0.04%のMMCを3分間強膜上に留置し、その後洗い流した。その後、結膜縫合を行った。術後28日間に渡って点眼麻酔下でのトノペンによる眼圧測定と超音波生態顕微鏡(UBM)による濾過胞観察を行った。眼圧測定は術前と術後3、7、10、14、17、21、28日に、UBMは術後のみ行った。UBMでは結膜下に濾過のスペースがなくなった場合を濾過胞消失、眼圧値では術前との眼圧比(術後眼圧/術前眼圧)が2回以上連続して0.8を超えた場合を濾過胞消失と定義し、濾過胞の生存期間を決定した。統計学的検定に関しては,ノンパラメトリックデータはWilcoxon rank-sum testを用い、濾過胞生存の解析にはlog-rank testを用いた。
【0032】
術後の目視形態および濾過胞形成の評価結果は、28日間で6眼中、1眼にて濾過胞が消失した。図5に術後の前眼部写真とUBM像を示す。また、6眼中2眼において、術後に濾過胞から房水の染み出し(oozing)が起こり、それに伴う低眼圧が見られた。
【0033】
[比較例3]
ポリ(乳酸−カプロラクトン)共重合体(PLCA、分子量163,000、共重合モル比 乳酸/カプロラクトン=88/12) 25mgをクロロホルム5mlに溶解して使用し、膜厚7μm乃至8μm、開口部の直径が5μmのハニカムフィルムを作製した。
グループ3家兎6羽を使用し、片眼に緑内障濾過手術を行った。本群では、ハニカムフィルムを置いた濾過手術を行った。基本術式として角膜輪部基底による結膜切開、3 mm×3mmの強膜半層フラップ作成、線維柱帯切除、強膜半層フラップ切除した。強膜半層フラップ切除後に、6 mm×6mmのセプラフィルムを、強膜半層切除施行部位を覆うように置いた。縫合は行わなかった。その後、結膜縫合を行った。術後28日間に渡って点眼麻酔下でのトノペンによる眼圧測定と超音波生態顕微鏡(UBM)による濾過胞観察を行った。眼圧測定は術前と術後3、7、10、14、17、21、28日に、UBMは術後のみ行った。UBMでは結膜下に濾過のスペースがなくなった場合を濾過胞消失、眼圧値では術前との眼圧比(術後眼圧/術前眼圧)が2回以上連続して0.8を超えた場合を濾過胞消失と定義し、濾過胞の生存期間を決定した。統計学的検定に関しては,ノンパラメトリックデータはWilcoxon rank-sum testを用い、濾過胞生存の解析にはlog-rank testを用いた。
【0034】
術後の目視形態および濾過胞形成の評価結果は28日間で6眼中1眼において濾過胞が消失した。図6にセプラフィルムによる術後の前眼部写真とUBM像を示す。また、6眼中1眼において、術後に濾過胞から房水の染み出し(oozing)が起こり、それに伴う低眼圧が見られた。図7に、セプラフィルム使用群で見られた濾過胞から房水の染み出し(oozing)の写真を示す。矢印で示した結膜より房水の染み出しがみられた。
【0035】
(眼圧低減効果)
実施例1に示したハニカムフィルム群の平均眼圧は、9.7 mmHg (術後3日)、12.7 mmHg (術後14日)、13.5 mmHg (術後28日)、比較例1のコントロール群では13.3 mmHg (術後3日)、15.7 mmHg (術後14日)、15.0 mmHg (術後28日)であった。平均眼圧は、ハニカムフィルム使用群のほうが、コントロール群より低い値を示した。
【0036】
(濾過胞の平均生存期間)
表1にUBM観察結果、および眼圧観察結果により濾過胞の平均生存期間を算出した。
【0037】
【表1】

【0038】
比較例1のコントロール群の濾過胞の平均生存期間は、UBM値より11.5±11.2日、眼圧値より12.2±11.3日と算出されたのに対し、実施例1のハニカムフィルム群の濾過胞の平均生存期間は、UBMより27.2±2.7日、眼圧値より27.0±3.4日でありいずれも有意にハニカムフィルムの方が長かった(P<0.05)(log-rank test)。
比較例2のMMC投与群の濾過胞の平均生存期間は、UBM値より25.8±4.9日、眼圧値より25.8±4.9日と算出され、MMC投与群に比較してもハニカムフィルムの方が長かった。
【0039】
以上の結果から、ハニカムフィルムは緑内障手術において術後の癒着を防止し、濾過胞の長期間の生存を維持した。さらに、MMC投与同等ないしはそれを上回る効果を示したので、MMC投与量を低下させることができるか、MMC投与を回避することができ、MMCに起因する副作用を避けることができる。さらには、現在入手しうる癒着防止材より濾過胞の生存率が良い。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の少なくとも一方の表面にハニカム状の凹凸部を有するフィルムからなる緑内障治療材は緑内障手術材料として生体への適用が可能である。本発明の少なくとも一方の表面にハニカム状の凹凸部を有する緑内障手術に用いるフィルムは、緑内障治療の際に投与するMMCの量を低減させるかあるいはMMCを投与しないという選択を与えることが可能となり、患者への副作用を低減させることを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】緑内障手術材料の好ましい態様。
【図2】緑内障手術における、眼球上の切開部位と本緑内障手術材料の位置関係の概要。
【図3】実施例1(ハニカムフィルム使用)の前眼部写真とUBM像。
【図4】比較例1の前眼部写真とUBM像。
【図5】比較例2(MMC投与)の前眼部写真とUBM像。
【図6】比較例3(セプラフィルム使用)の前眼部写真とUBM像。
【図7】術後に濾過胞から房水の染み出しが起こった例の前眼部写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部の生体適合性ポリマーおよび0.1〜100重量部のリン脂質とからなり、少なくとも一方の表面にハニカム状の凹凸部を有する緑内障手術に用いるフィルム。
【請求項2】
100重量部の生体適合性ポリマーおよび0.1〜100重量部のリン脂質とからなり、少なくとも一方の表面にハニカム状の凹凸部を有するフィルムからなる緑内障治療材。
【請求項3】
該生体適合性ポリマーが生分解性脂肪族ポリエステルである請求項2に記載の緑内障治療材。
【請求項4】
該生分解性脂肪族ポリエステルがポリ乳酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、およびポリブチレンアジペートからなる群から選択される少なくとも1種である請求項3に記載の緑内障治療材。
【請求項5】
該生分解性脂肪族ポリエステルがポリ乳酸−ポリカプロラクトン共重合体であることを特徴とする請求項4に記載の緑内障治療材。
【請求項6】
該リン脂質がホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよびそれらの誘導体からなる群から選択されてなる請求項2から5のいずれか1項に記載の緑内障治療材。
【請求項7】
該リン脂質がL−α−ホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする請求項2から6のいずれか1項に記載の緑内障治療材。
【請求項8】
該リン脂質がL−α−ホスファチジルエタノールアミンジオレオイルであることを特徴とする請求項2から7のいずれか1項に記載の緑内障治療材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−136770(P2008−136770A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328137(P2006−328137)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】