説明

緑化方法および緑化構造体

【課題】 ネットを用いて鹿等の食害動物による食害を防止するにあたり、別途コイルばねのようなスペーサを不要としてコスト縮減を図ることができるとともに、施工性に優れた緑化方法および緑化構造体を提供すること。
【解決手段】 植生対象面Nに施工された植生体2と、動物による食害を防止するために前記植生体2の上方から敷設され、その下方に植物Pが曲がった状態で生育可能な植物生育空間Sを形成するネット3とを備え、さらに、前記ネット3はたるませた状態で敷設されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、緑化方法および緑化構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鹿等の大型草食動物による食害が、特に緑化工の妨げとなり問題となっている。すなわち、法面等の植生対象面に緑化工を施工してもこの施工に用いる緑化用植物が発芽初期段階で食害にあい、その結果、緑化による侵食防止が不十分な状態で法面等の植生対象面が放置されてしまうことが多い。
【0003】
そこで、上記食害を防止するために、下記特許文献1,2に示すように、網、柵などで植生対象面を囲ったり、草食動物が忌避する植物や忌避剤を植生対象面の内部や周囲に配置したり、下記特許文献3に示すように、金網を植生対象面から浮かせた状態で張設することによって、草食動物の侵入を防いで植物を保護することが従来より行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−222632号公報
【特許文献2】特開2003−34933号公報
【特許文献3】特開2005−137258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2に記載された方法はいずれも、食害防止の確実性が不十分であったり、工費や管理費が高くなったりすることもある。また、特許文献3に記載された方法は、金網を植生対象面から浮かせるために別途コイルばねのようなスペーサを使っており、その分コストが嵩むという課題があり、これらに代わる新たな方法の開発が望まれている。
【0006】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、ネットを用いて鹿等の食害動物による食害を防止するにあたり、別途コイルばねのようなスペーサを不要としてコスト縮減を図ることができるとともに、施工性に優れた緑化方法および緑化構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の緑化方法は、植生対象面に緑化工を施した後、動物による食害を防止するためにその上方からネットをたるませた状態で敷設し、ネット下方に植物が曲がった状態で生育可能な植物生育空間を形成することを特徴としている(請求項1)。
【0008】
また、この発明は別の観点から、植生対象面に施工された植生体と、動物による食害を防止するために前記植生体の上方から敷設され、その下方に植物が曲がった状態で生育可能な植物生育空間を形成するネットとを備え、さらに、前記ネットはたるませた状態で敷設されてなることを特徴とする緑化構造体を提供する(請求項2)。
【0009】
また、この発明はさらに別の観点から、植生対象面に施工された植生体と、動物による食害を防止するために前記植生体の上方から敷設され、その下方に植物が曲がった状態で生育可能な複数の植物生育空間を形成するネットとを備え、さらに、前記各植物生育空間毎に前記ネットをたるませた状態で敷設してなることを特徴とする緑化構造体を提供する(請求項3)。
【0010】
この発明における植生対象面とは、例えば道路や山腹等の法面、河川敷、川岸、湖岸などで植生により緑化する対象となる面(施工地)を意味する。
【0011】
また、この発明における植生対象面に施工された植生体とは、図1、図5に示すような植生マット(後述する)、図6に示すような緑化材料(土壌改良材、保水材、肥料、有機質材料などの植生基材と植物種子を含む)を収容した土のう(後述する)等の他に、(1)緑化材料をそのまま植生対象面の表面に撒き出することによって所定の厚みを有して形成される植物生育基盤層、(2)植生対象面の表面にネット(この発明のたるませた状態で敷設されるネットとは異なる)を敷設し、その上から前記緑化材料をそのまま植生対象面の表面に撒き出すことによって所定の厚みを有して形成される植物生育基盤層、(3)前記緑化材料をエアロシーダ等の吹付け機を用いて植生対象面の表面に吹き付けることによって所定の厚みを有して形成される植物生育基盤層、(4)植生対象面の表面にネットを敷設し、その上から前記緑化材料を吹付け機を用いて植生対象面の表面に吹き付けることによって所定の厚みを有して形成される植物生育基盤層、(5)土壌改良材、保水材、肥料、有機質材料などの前記植生基材のみによって植生対象面の表面に基盤層を形成した上で、前記植物種子を前記基盤層に吹き付けることによって所定の厚みを有して形成される植物生育基盤層、(6)植生対象面の表面にネットを敷設し、その上から土壌改良材、保水材、肥料、有機質材料などの前記植生基材のみを散布して基盤層にを形成した上で、前記植物種子を基盤層に吹き付けることによって所定の厚みを有して形成される植物生育基盤層等も含むものである。
【0012】
そして、緑化工に用いられる前記植生体のうち前記植物生育基盤層以外の前記植生マット、土のう等の前記植生体としては例えば以下のものを挙げることができる。(7)前記緑化材料を、2枚のシートで挟み込んだり、シートの下面または上面に固定して(保持させて)なる植生シート。ここで、前記シートは、例えば薄綿ラップや不織布、紙などからなるものであり、例えば、簡単に水で解ける(分散する)水解性のシートでもよく、生分解性の繊維からなるシートでもよい。(8)前記植生シートをネット23に貼り合わせ等により保持させてなる植生マット21(図5参照)。これは、例えば土壌改良材、保水材、肥料、有機質材料などの植生基材bの少なくとも一つと、植物種子aとを下部に保持する薄綿(シート)20と、この薄綿20を下面に保持するネット23とを備えている。なお、前記植生シートに代えて、薄い素材間に前記植物種子などとともに、植生基材の少なくとも一つを挟在させた所謂張芝体をネット下面に保持させることが可能である。(9)図1に示す肥料袋付植生マット2。これは、例えば植物種子aを下部に保持する一枚の薄綿(シート)4をネット5の下面に保持するとともに、ネット5の複数箇所に収容部6を設け、これら収容部6に有機質材料や保水材及び肥料等の植生基材bが収容された例えば不織布などからなる肥料袋7が挿入収容されてなる。(10)植生対象面の表面に敷設される、植生基材bの少なくとも一つと植物種子aを含む緑化材料24を収容した土のう23’(図6参照)。これは、緑化材料24を土のう袋22に詰めて植生土のうとし、これを適宜に積み重ねて使用する植生土のう工法(緑化工)に用いて実施可能である。(11)或いは、図7(A),(B)に示すように、例えば護岸緑化の工法(緑化工)などに用いる植生マット24’。この植生マット24’による緑化工は、2枚のシート25,26を適宜に接合して、シート25,26間に格子状に連なる空間P’を形成する一方、例えば河川の岸辺を緑化の施工現地(植生対象面)Nとして、この施工現地Nにアンカー27によってシート25,26を張設し、かつ、上記の空間P’に緑化材料24を充填している。なお、前記肥料袋、シート、張芝体の構成素材としては、例えばバクテリアなどの微生物で分解腐食されて経時的に消失する綿、絹、麻などの天然繊維や、再生セルロースからなるビスコースレーヨンなどの再生繊維、さらには、前述したような腐食性繊維の単独、又は、腐食性繊維と合成繊維とからなる混紡繊維を使用することも可能である。
【0013】
そして、この発明に係る緑化構造体では、前記植物が草本類である一方、前記ネットの目合いの面積が0.25mm2 (下限値)〜100mm2 (上限値)であるのが好ましい(請求項4)。この場合、例えば目合いの縦・横が同じ長さのネットであれば、前記長さは0.5mm〜10mmの範囲の長さを選択しうる。すなわち、前記長さが例えば0.5mmの場合、目合いの面積は0.25mm2 (0.5mm×0.5mm)となる。また、前記長さが例えば10mmの場合、目合いの面積は100mm2 (10mm×10mm)となる。さらに、目合いの縦・横が異なる長さのネット、例えば、前記植生マットでも用いられ、長辺と短辺よりなる目合いを有するスダレ状のネットの場合は、長辺が10mmをはるかに越えて例えば50mmで、短辺が2mmのときは目合いの面積は100mm2 (50mm×2mm)となる。なお、前記ネットの目合いの面積は1.0〜30mm2 であるのがより好ましい。
【0014】
ここで前記植物として、草本類よりも草丈の大きい樹木等の木本類を含まないのは、前記ネットとして、木本類の生育を阻害する程度の目の細かいネットを使用しているからである。
【0015】
この発明は、前記ネットを柔軟な植物で支えながら前記ネットを植生対象面から浮かせることにより、その上を鹿等の食害動物が歩行するときに不安定になるようにして鹿等の食害動物を植生対象面に侵入しにくくさせることと、たとえ植生対象面に侵入しても、殆どの植物は前記ネットより下で生育しているため食害動物によって食される恐れが無いという食害防止方法を採っている。また、前記ネットより下にしか植物を生育させないためには前記ネットの目合いは小さい方が好ましいが、前記ネットの目合いをやや大きくした場合(目合いの面積を例えば30mm2 よりも大きくした場合)には、植物の一部は前記ネットの上に出ることもあるが、この場合であっても植物の生長点は前記ネットよりも下に位置しており、植物の生長点は少なくとも保護するという共存共栄的食害防止方法とすることもできる。そして、この発明では、ネットを浮かせるのに別途コイルばねのようなスペーサを使うことなくネット直下の植物生育空間に生育する植物の成長力を利用している。そして、この発明では、植生対象面の上方にたるませた状態でネットを敷設し、ネット下方に植物が曲がった状態で生育可能な植物生育空間を形成するわけであるが、ネットを植物の成長力を用いて植生対象面側から浮かせる(持ち上げる)ことを可能とすることと、植物を健全に生長させるためネット下方の生育環境を損なわないことの調和点として、前記ネットの目合いの面積の前記下限値を0.25mm2 としている。目合いが前記下限値よりも小さすぎた場合、通気性・透水性・光透過性が不十分となり、ネット下方の生育環境が損なわれて植物が健全に生長できないという事態に陥ることになる恐れがある。また、ネットを浮かせる時期を早めるためには、図2(B)に点線で示すように、また、図4に二点鎖線で示すように、敷設直後のネットを植生対象面(植生体)にできるだけ近づかせながらたるませた状態にする方が、ネットに対する成長力のかかり具合を均一にできる点で好ましい。なお、この発明では、既に緑化工が施工されている植生対象面にでも、その植生対象面上方からネットをたるませた状態で敷設するというように、ネットをたるませた状態で後付けできるものである。
【0016】
また、植生対象面とネット間に形成された植物生育空間内に鹿等の食害動物の口が入らないようにすることは勿論のこと、植物生育空間内に鹿等の食害動物の爪が入らないように(入るにしても爪が途中までしか入らないように)する必要があり、そのため前記ネットの目合いの面積の上限値を100mm2 にして実質的に目の細かいネットとしている。ネットの目合いが前記上限値を超えると、そこから鹿等の食害動物の爪が自由に挿入可能となり、植物生育空間内に生育してる植物を爪で引っ張るような事態が発生するおそれがある。ここで、一般的な植物では、鹿等の食害動物に根こそぎ食べられた場合には、再生不能となるが、草本類、例えばトールフェスクなどの牧草からなる植物では地上2cm(例えば植生対象面Nからの高さr)にある生長点e〔図2(C)参照〕より上側の部分が食べられても、再生可能である。すなわち、植物生育空間内に爪が仮に途中まで入っても地上20mmにある生長点eまでは爪が到達できない程度に目合いの面積の上限値を100mm2 に設定することで、再生可能な最低限の生長点eを保護しながら、鹿等の食害動物による食害を防止することができる。生長点eはネット側よりも植生対象面側に近い位置にあり、高さrは、ネットおよび生長点e間の距離Rに比べて小さい(r<R)。そして、一般に草本類を用いることは、緑化工を施した施工初期の緑被率を高める点において好適であり、草本類は早期緑化可能であるので植生の回復を早期に図ることができる。また、鹿等がその爪を目合いに挿入してネットを引っ張り上げる場合、その引っ張り力にネットが耐えられるのか、また、目合いの大きさを保てることができるかという課題があるが、前記上限値を100mm2 とすることでこの課題を解決することができる。
【0017】
また、この発明では、植生対象面近辺の例えば森の林床などの土とともに採取した植生種子(シードバンク)による植物を導入することも可能である。この場合、植生種子(シードバンク)を植生種(草本類の種子)と植生基材に混入することにより、早期の法面などの植生対象面の緑化を行いながら、この法面緑化により地域の景観にあった自然回復を達成できる利点がある。
【0018】
なお、この発明においては、前記ネットとして、忌避剤を混入させた合成樹脂製ネットを用いたり、忌避剤を塗布した合成樹脂製ネットまたは金属製ネットを用いることもできる。この場合、忌避剤の効果が長時間維持することができる点で好適である。
【0019】
また、前記ネットは、編物の形で仕上げられてもよく、また、織物の形で仕上げられてもよい。例えば合成樹脂からなるモノフィラメントと合成樹脂からなりモノフィラメントよりも太いフラットヤーンを、ネットを構成する繊維として使用し、前記目の細かいネットを、モノフィラメントとフラットヤーンを組み合わせて、これらをたて(経)またはよこ(緯)の方向に連結させて編むこと(編物仕上げ)で形成することができる。また、織物仕上げ場合はたて線材とよこ線材を交錯させながら織ることができる。
【0020】
また、この発明においては、前記ネットの表面の色を白またはシルバー色にした場合、鹿等の食害動物は白黒で物を見ることから、植生対象面側から持ち上げられた前記ネットを鹿等の食害動物から視覚的に認識しにくくでき、食害防止に寄与することができる。
【発明の効果】
【0021】
本願の請求項1〜3に係る発明によれば、緑化工が施された植生対象面の上方にたるませた状態で敷設されたネットは、植物の成長に伴い植生対象面側から持ち上がるため、植生対象面とネットの間に鹿等の食害動物の攻撃を防ぎ、かつ植物の生育を妨げるものが存在しない植物生育空間が形成される。すなわち、前記ネットを植生対象面から浮かせることにより、植物の生育を確実に図りながら鹿等の食害動物を植生対象面に侵入しにくくすることができる。また、植生対象面に対してその上方からネットをたるませた状態で一度敷設すれば、後は植物の成長に頼るだけであることから、そのメンテナンスなどがほとんど不要である。また、ネットを浮かせるのに別途コイルばねのようなスペーサを使う場合に比べて、ネット一つで事足りるので、コスト安にできる。
【0022】
本願の請求項4に係る発明によれば、上記効果を奏する上に以下の効果を奏する。すなわち、前記ネットの目合いの面積の下限値を0.25mm2 に設定してあるので、植物が曲がった状態でネットを持ち上げることができ、それでいて、植物の生活環境として適切な通気性・透水性・光透過性を有する植物生育空間をネット下方に形成させることができる。さらに、持ち上げられたネットを支えているのは柔軟な植物なため、鹿等の食害動物がその上を歩行するとネットが沈み込んで不安定になるようにできる。例えば、植生対象面が法面である場合、鹿等の食害動物が傾斜しているネットに登れなくなり、これによっても鹿等の食害動物を遠ざけ、鹿等の食害動物による食害を防止するという効果を発揮することができる。また、そこから鹿等の食害動物の爪が自由に挿入するのが難しい目の細かいネットとするため前記ネットの目合いの面積の上限値を100mm2 に設定し、前記持ち上げられたネットにより、草本類の最低限の生長点を保護することができるとともに、その生長点よりも先にまで成長した部分が仮に目合いを通ってネットから上方に延びておりこれを鹿等の食害動物に食べられても、また、生長点よりも先にまで成長した部分が爪で引っ張られて食べられても、草本類なので植生の回復が確実になるとともに、鹿等の食害動物との共存・共生を図ることができる。また、持ち上げられたネットの高さ以上にはほとんど植物が生育しないため、持ち上げられたネットによって覆った植物生育空間の景観が優れたものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係る緑化構造体の第1の実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】上記実施形態を用いた緑化方法を示す構成説明図である。
【図3】この発明に係る緑化構造体の第2の実施形態を示す構成説明図である。
【図4】上記第2の実施形態を用いた緑化方法を示す構成説明図である。
【図5】この発明で適用可能な植生体の一例を示す斜視図である。
【図6】この発明で適用可能な植生体の別の一例を示す斜視図である。
【図7】(A)は、この発明で適用可能な植生体の更に別の一例を示す構成説明図で ある。(B)は、その植生体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1,2は、植生対象面に施工される植生体として肥料袋付植生マットを用いたこの発明の第1の実施形態を示す。図1,2において、緑化構造体1は、法面(植生対象面の一例)Nに施工された肥料袋付植生マット(植生体の一例)2と、動物による食害を防止するために肥料袋付植生マット2の上方から敷設され、その下方に草本植物Pが曲がった状態で生育可能な植物生育空間Sを形成するネット3とを主として備えている。なお、ネット3は、前記肥料袋付植生マット2よりも長尺である。
【0025】
肥料袋付植生マット2は、例えばトールフェスクなどの牧草の草本植物Pの種子aを下部(前記植生マット2を法面Nに敷設する際の法面N側)に保持する一枚の薄綿4をネット5の下面(法面N側)に保持するとともに、ネット5の複数箇所に適宜間隔を有して収容部6を設け、これら収容部6に有機質材料や保水材及び肥料等の植生基材bが収容された例えば不織布などからなる肥料袋7が挿入収容されており、平面視ほぼ長方形状をしている。前記薄綿4は、例えばスフなどからなり、シート状をしているとともに、ネット5の下面に貼着されている。種子aは、例えば、水溶性糊を用いて薄綿4に接着される。肥料袋付植生マット2の前記ネット5は、その目合いは植物Pの種子aの通芽を許容する目合いを有する可撓性ネットであり、例えばポリエチレン、ナイロン、ポリエステル、アラミド等の耐腐食性の合成樹脂繊維やポリ乳酸系などの生分解性の合成樹脂繊維、ヤシや麻、藁などの植物繊維、紙などを用いて、格子状に成型したものである。
【0026】
一方、前記ネット3は、前記ネット5を含む肥料袋付植生マット2を薄綿4の下部を法面Nに向けて法面Nに敷設した後肥料袋付植生マット2の上方から肥料袋付植生マット2の全体を覆うよう敷設される大きさを有する長尺のネットである。前記ネット3を構成する繊維として、例えば合成樹脂からなるモノフィラメントと合成樹脂からなりモノフィラメントよりも太いフラットヤーンを使用し、これらをたて(経)またはよこ(緯)の方向に連結させて、平面視ほぼ長方形状に編物仕上げしてなる可撓性ネットであり、格子状の目合いを有するとともに、目合いの縦・横が同じ長さの目の細かいネットに形成されている。
【0027】
而して、法面Nの表面を整地にした後、図2(A)に示すように、法面N上に種子aが法面Nに接するよう前記肥料袋付植生マット2を張設する。この際、アンカー等の固定手段を用いて前記植生マット2を法面N上に固定する。この際、少なくとも前記植生マット2の法肩側の領域A’と法尻側の領域B’(図1参照)にアンカー等の固定手段を打ち込む。その後、図2(A)に示すように、肥料袋付植生マット2の上方に位置させたネット3を、図2(B)に示すように、たるませた状態で、かつ肥料袋付植生マット2全体を覆うように法面N上に敷設する。この際、ネット3を法面Nにできるだけ近づかせながらたるんだ状態にしてネット3を法面N上に固定する。用いるアンカー等の固定手段はネット3をたるめた状態にしながら少なくともネット3の法肩側の領域Aと法尻側の領域B(図1参照)に打ち込み、必要に応じてネット3の周辺領域にも打ち込む。
【0028】
上記のように前記植生マット2を法面N上に張設した状態とすることにより、種子aは薄綿4によって飛散・流亡することが防止されるとともに、保温効果を持った薄綿4により、種子aは発芽・成長に適した温度下・環境下に置かれることになる。また、ネット2,3により降雨や風食などによる法面Nの浸食(エロージョン)が確実に防止される。
【0029】
その後、時間が経過すると、前記植生マット2の種子aが発芽し、ネット3下方の植物生育空間S内でネット3に当たった牧草Pが曲がった状態で生育する。そして、この牧草Pの成長に伴い早い時期にネット3が持ち上がり始め、さらに牧草Pの成長に伴って持ち上がり〔図2(C)参照〕、最終的に植物生育空間S内に牧草Pが繁殖する。この際、ネット3は法面Nから浮いた状態にあり、牧草Pの生長点eは勿論、牧草Pの大部分がネット3によって保護されているので、鹿等の食害動物による食害を防止することができる。
【0030】
図3,4は、法面N上に敷設された肥料袋付植生マット2の上方で法面Nの法肩C側から法尻D側にかけてそれぞれ前記植生マット2を覆う状態で位置する複数枚(図3では4枚)の長尺ネット3を連続的に並列させてなるこの発明の第2の実施形態を示す。なお、図3,4において、図1,2に示した符号と同一のものは同一または相当物である。図3は、牧草Pの成長に伴って持ち上がった複数枚のネット3を示し、図4は、法肩C側から法尻D側にかけて位置する一枚の長尺ネット3の持ち上げ前の敷設動作を示す図である。この実施形態では、長尺ネット3と法面N間に植物Pが生育可能な複数の植物生育空間S’を形成するようにしており、ネット3の法肩側、法尻側および複数領域E,F,G,H,I,Jにアンカー等の固定手段を打ち込むことにより上に凸の複数の湾曲部分10〜13を形成し、続いて、これら湾曲部分10〜13が自重により崩れ落ちて、ネット部分10’〜13’を法面Nにできるだけ近づかせながらたるんだ状態に形成している。あるいは人力により湾曲部分10〜13を崩してネット部分10’〜13’を法面Nにできるだけ近づかせながらたるんだ状態に形成している。
【符号の説明】
【0031】
2 植生体
3 ネット
N 植生対象面
P 植物
S 植物生育空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植生対象面に緑化工を施した後、動物による食害を防止するためにその上方からネットをたるませた状態で敷設し、ネット下方に植物が曲がった状態で生育可能な植物生育空間を形成することを特徴とする緑化方法。
【請求項2】
植生対象面に施工された植生体と、動物による食害を防止するために前記植生体の上方から敷設され、その下方に植物が曲がった状態で生育可能な植物生育空間を形成するネットとを備え、
さらに、前記ネットはたるませた状態で敷設されてなることを特徴とする緑化構造体。
【請求項3】
植生対象面に施工された植生体と、動物による食害を防止するために前記植生体の上方から敷設され、その下方に植物が曲がった状態で生育可能な複数の植物生育空間を形成するネットとを備え、
さらに、前記各植物生育空間毎に前記ネットをたるませた状態で敷設してなることを特徴とする緑化構造体。
【請求項4】
前記植物が草本類である一方、前記ネットの目合いの面積が0.25mm2 〜100mm2 である請求項2または3に記載の緑化構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−252715(P2010−252715A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107704(P2009−107704)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000231431)日本植生株式会社 (88)
【Fターム(参考)】