説明

緑化用板状部材及び壁面等の緑化構造

【課題】 構造が簡単であって、工事期間の短縮、施工性の向上、及び施工コストの削減を図ることができる緑化用板状部材を提供すること。
【解決手段】 壁部を形成するための板状体13と、この板状体13の表面に互いに間隔を隔てて略平行して設けられた2以上のリブ14とを備え、互いに隣合うリブ14とリブ14との間の空間が、植物15を保持する緑化部材17を配置するための緑化用空間16として形成され、リブ14が緑化部材17を保持する構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建物、土木構造物、又は塀の壁部や、屋根を形成することができるものであって、表面に設けられたリブによって自然の植物又は人工の植物を保持できるようにした緑化用板状部材、及びこれを備える壁面等の緑化構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物が集中する都市部において、産業活動に伴う排出熱や、太陽熱に基づいて起こるヒートアイランド現象によって、気温が上昇するという問題がある。このヒートアイランド現象による温度上昇を低減するためには、都市部の緑化を実施することが有効であるとされているが、都市部においては、緑化を実施するための公園等の面積が限られており、新たに緑化を実施することが困難な状況となっている。
【0003】
このため、都市部では、建物の屋上や壁面に対して緑化(壁面緑化)を実施することで、ヒートアイランド現象を緩和することができると共に、緑化の実施によって、建物の屋上や壁面を形成する壁部の断熱効果も得られる。そこで、環境負荷の低減を目的として、建物に対する緑化が多く実施されるようになってきている。
【0004】
従来の壁面緑化の実施に使用されるパネルの一例として、生態系育成用パネルがある(例えば、特許文献1参照。)。この生態系育成用パネルは、中空パネル基材を有し、この中空パネル基材の中空部には、吸水機能及び保水機能を有する詰物が充填されている。そして、中空パネル基材の表面には、表面化粧材が設けられている。更に、この中空部を大気に連通させるための孔が、パネル基材の表面側部及び表面化粧材に設けられ、これによって、表面化粧材を含むパネルの表面に水分を補給できるようにしてある。また、表面化粧材の表面には、例えば予め苔の胞子が植え付けられている。
【0005】
このように構成された生態系育成用パネルによると、苔が早期にこの生態系育成用パネルの表面を覆うように成長させることができる。
【0006】
また、従来の壁面緑化の実施に使用される他の例として、外装仕上材の取付構造がある(例えば、特許文献2参照。)。この外装仕上材の取付構造は、押出成形セメント板と、この押出成形セメント板の表面に形成された凸条と、この凸条に係合して取り付けられ、押出成形セメント板と間隔を隔てて平行に配置された板状のアタッチメントと、このアタッチメントの外表面に取り付けられた外装仕上材とを備えるものがある。
【0007】
この外装仕上材は、保水性を有するガーデンマットが取り付けられた緑化パネルであり、この緑化パネルは、押出成形セメント板の外装パネルとして使用される。
【0008】
そして、従来の蔓系植物を用いた巻付き登坂型の壁面緑化を実施する場合は、蔓を巻き付かせるためのワイヤを補助材として使用するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−324434号公報
【特許文献2】特開2006−225907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記従来の生態系育成用パネルでは、中空パネル基材の中空部には、吸水機能及び保水機能を有する詰物を充填する必要があり、更に、中空パネル基材の表面には、生物を育成するための表面化粧材を設ける必要があり、更にまた、この中空部を大気に連通させるための孔を、パネル基材の表面側部及び表面化粧材に設ける必要もあるので、構造が複雑であり、工事期間の長期化、施工性の低下、及び施工コストが嵩む傾向がある。
【0011】
そして、上記従来の外装仕上材の取付構造では、外装仕上材(ガーデンマットが取り付けられた緑化パネル)を押出成形セメント板に取り付けるための板状アタッチメントが必要であるので、構造が複雑であり、施工性の低下及び施工コストが嵩む傾向がある。
【0012】
また、上記従来の蔓系植物を用いた巻付き登坂型の壁面緑化を実施する場合では、蔓を巻き付かせるためのワイヤ(補助材)が必要となり、その分だけ施工性が低下する。そして、蔓系植物を育成する際に、風の影響を受けるために、発育が悪い場合がある。
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、構造が簡単であって、工事期間の短縮、施工性の向上、及び施工コストの削減を図ることができる緑化用板状部材及び壁面等の緑化構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る緑化用板状部材は、壁部を形成するための板状体と、この板状体の表面に互いに間隔を隔てて略平行して設けられた2以上のリブとを備え、互いに隣合う前記リブと前記リブとの間の空間が、自然の植物又は人工の植物を配置するための緑化用空間として形成され、前記リブが前記植物を保持することを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係る緑化用板状部材は、例えば建物、土木構造物、又は塀の壁部や屋根を形成するために使用することができるし、外装仕上材としても使用することができる。そして、この緑化用板状部材に設けられているリブとリブとの間に形成された緑化用空間には、自然の植物又は人工の植物を配置することができ、このような植物をリブによって保持することができる。
【0016】
従って、緑化用板状部材を、建物、土木構造物、又は塀等の壁部や屋根を形成するために使用する場合は、この緑化用板状部材自体に対して、植物を保持することができる機能を持たせたことによって、植物を保持するための別の架台(保持台)等を必要とせず、その結果、建物等の壁面が緑化された壁部や屋根を施工するときに、施工がし易くなり、施工コストの削減を図ることができる。
【0017】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記緑化用空間は、前記植物を保持するための緑化部材が装着されるように形成されているものとすることができる。
【0018】
このようにすると、緑化用板状部材に設けられているリブとリブとの間に形成された緑化用空間には、例えば植栽土壌のような緑化部材を装着することができ、この緑化部材をリブが保持することができる。従って、このように建物の壁部等を形成するために使用される緑化用板状部材自体に対して、緑化部材を保持することができる機能を持たせたことによって、緑化部材を保持するための別の架台(保持台)等を必要とせず、その結果、緑化された壁部等を施工するときに、施工がし易くなり、施工コストの削減を図ることができる。
【0019】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記リブの先端部には、前記緑化用空間に装着された前記緑化部材、又は前記緑化用空間に配置された前記植物が、前記緑化用空間から離脱することを防止するための突起部が設けられているものとすることができる。
【0020】
このようにすると、突起部によって、緑化用空間に装着された緑化部材、又は緑化用空間に配置された植物が、緑化用空間から離脱することを防止できる。そして、蔓系の自然植物を緑化用空間に配置した場合は、蔓系の自然植物の蔓は、リブの先端部の表面と、突起部の表面によって形成された内角部(隅部)に沿って伸びて成長するので、リブ間に形成された緑化用空間の長さ方向の全体に亘って、この蔓系の自然植物によって緑化することができる。
【0021】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記リブの前記緑化用空間を形成する保持面には、前記緑化用空間に装着された前記緑化部材が、前記リブの先端部側に向かって当該リブから滑り落ちることを防止するための滑り止め凸部が設けられているものとすることができる。
【0022】
このようにすると、緑化部材を保持するリブの保持面に設けた滑り止め凸部が、緑化部材がリブの先端部側に向かって当該リブから滑り落ちることを防止することができ、緑化部材をリブによって確実に保持することができる。
【0023】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記リブが略水平方向に延びるように、前記緑化用板状部材が配置された状態で、前記リブの上面となる側の上向き保持面が、前記リブの先端部に向かうに従って下り勾配となるように形成されているものとすることができる。
【0024】
このようにすると、リブの上面となる上向き保持面に滞留する水を、リブの先端部側に導くことができる。そして、このリブの先端部に突起部が設けられていない場合は、リブの上面の先端部側に導かれた水を、例えばそのリブの下方に形成されている別の緑化用空間に導いて流入させることができ、その別の緑化用空間に配置されている自然植物の育成に利用することができる。また、リブの先端部に突起部が設けられている場合は、リブの上面の先端部側に導かれた水を、その突起部で堰き止めて、そのリブの長さ方向に導いて行き渡らせることができ、そのリブの長さ方向の各部分に配置されている自然植物の育成に利用することができる。
【0025】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記リブの上向き保持面であって、前記リブの先端部側の部分に、前記リブの長さ方向と略平行して形成された溝部と、前記リブの先端部の上面となる側に設けられた前記突起部の上縁部に形成された切欠き部とを備えるものとすることができる。
【0026】
このようにすると、リブの上面の先端部側に導かれた水を、溝部内に流入させることができ、この溝部によって、そのリブの長さ方向に確実に行き渡らせることができる。よって、その水を、リブの長さ方向の各部分に配置されている自然植物の育成に効果的に利用することができる。そして、このように、リブの長さ方向に行き渡った水は、その水量が増してきて所定以上の水位となると、切欠き部を通ってそのリブの下方に形成されている別の緑化用空間に導いて流入させることができ、その下方の別の緑化用空間に配置されている自然植物の育成に利用することができる。
【0027】
そして、切欠き部を、リブの長さ方向に沿って所定の間隔を隔てて設けて、各切欠き部から水を流出させるようにすると、各切欠き部から流出する水を、そのリブの下方に形成されている別の緑化用空間の略全範囲に亘って流入させるようにすることができる。よって、その下方の別の緑化用空間に配置されている自然植物の育成に効果的に利用することができる。
【0028】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記2以上のリブの先端部を覆う状態で跨るように、前記緑化用板状部材に取り付けられ、前記緑化部材又は前記植物が、前記リブ間に形成された前記緑化用空間から離脱することを防止するための離脱防止具を備えるものとすることができる。
【0029】
この離脱防止具によると、緑化部材又は植物が、リブ間に形成された緑化用空間から離脱することを防止することができ、壁面の緑化状態を長期間持続させることができる。そして、離脱防止具の少なくとも表面を金属製とはせずに、例えば合成樹脂製とすることによって、離脱防止具の表面が太陽熱等によって加熱され難くすることができ、離脱防止具が、この緑化用板状部材の緑化用空間に配置された例えば自然の植物に対して、熱影響を及ぼすことを抑えることができる。
【0030】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記緑化用板状部材の表面のうち、少なくとも前記緑化用空間を形成する内面に、防水処理を施したものとすることができる。
【0031】
このように、緑化用板状部材の表面のうち、少なくとも緑化用空間を形成する内面に防水処理を施すことによって、この緑化用空間に配置される緑化部材又は植物に含まれている水分によって、緑化用板状部材が劣化することを抑制でき、耐久性の向上を図ることができる。
【0032】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記板状体が、押出成形セメント板であるものとすることができる。
【0033】
このように、板状体を押出成形セメント板として形成することによって、例えば建物、土木構造物、又は塀の壁部、又は屋根に必要とされる強度及び耐久性等の品質を備え、かつ、略同一形状の緑化用板状部材を、簡単に低コストで多量に生産することができる。
【0034】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記板状体には、その押出方向に平行して中空部が形成され、前記リブが前記板状体と一体に押出成形によって形成されているものとすることができる。
【0035】
このように、板状体の押出方向に平行して、この板状体に中空部を形成すると、軽量であって、必要とされる強度及び耐久性等の品質を有する緑化用板状部材を提供することができる。そして、リブを板状体と一体に押出成形によって形成するようにすると、板状体とリブとを別個に製造して、その後に、リブを板状体に取り付ける場合と比較して、生産コストの低減を図ることができ、リブの強度の向上を図ることができる。
【0036】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記板状体が、金属製又は合成樹脂製であるものとすることができる。
【0037】
この緑化用板状部材の板状体の材質は、その緑化用板状部材が使用される例えば建物、土木構造物、若しくは塀の壁部、又は屋根の用途に適した金属製又は合成樹脂製とすることができる。
【0038】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記緑化用空間に、前記植物を保持するための前記緑化部材又は前記植物が装着されているものとすることができる。
【0039】
このように、予め緑化用空間に、植物を保持するための緑化部材又は植物が装着されている緑化用板状部材を使用して建物、土木構造物、若しくは塀の壁部、又は屋根を形成するようにすると、予め緑化用空間に、植物を保持するための緑化部材等が装着されていない緑化用板状部材を使用して建物等の壁部、又は屋根を形成する場合と比較して、工事期間の短縮、施工性の向上、及び施工コストの削減を図ることができる。
【0040】
この発明に係る緑化用板状部材において、前記板状体は、建物、土木構造物、若しくは塀の壁部、又は屋根を形成するために使用されるものとすることができる。
【0041】
このようにすると、この緑化用板状部材を、建物、土木構造物、若しくは塀等の壁部、又は屋根を形成するために使用することができるし、これらの壁部や屋根の外面を緑化することに使用することができる。
【0042】
本発明に係る壁面等の緑化構造は、本発明の緑化用板状部材を備えることを特徴とするものである。
【0043】
本発明に係る壁面等の緑化構造によると、本発明に係る緑化用板状部材を備えており、これと同様に作用する。
【0044】
この発明に係る壁面等の緑化構造において、前記緑化用空間に、灌水用パイプを設けたものとすることができる。
【0045】
このようにすると、灌水用パイプによって、緑化用空間に配置されている自然の植物に対して容易に灌水することができる。そして、リブの先端部に突起部を設けた構成とした場合は、この突起部によって灌水用パイプが隠れるようにすることができるので、この壁面等の緑化構造の見栄えを良くすることができる。
【0046】
この発明に係る壁面等の緑化構造において、前記緑化用板状部材の前記リブの延びる方向を略縦方向に配置して、前記緑化空間に蔓系の前記植物を配置できるようにすることができる。
【0047】
このようにすると、例えば蔓系の自然植物が縦方向に伸びた景観の壁面等の緑化構造を提供することができる。そして、リブに突起部が設けられている場合は、この突起部によって、緑化用空間に配置された蔓系の植物が、緑化用空間から離脱することを防止できる。そして、蔓系の自然植物を緑化用空間に配置した場合は、蔓系の自然植物の蔓は、リブの先端部の表面と、突起部の表面によって形成された内角部(隅部)、及び、リブの基端部の表面と、板状体の表面とによって形成されたそれぞれの内角部(隅部)に沿って伸びて成長するので、リブ間に形成された緑化用空間の長さ方向(縦方向)の全体に亘って、この蔓系の自然植物によって緑化することができる。また、この蔓系の自然植物は、その内角部(隅部)に沿って縦方向に伸びて成長するので、この縦方向に伸びた自然植物は、その内角部の内面に保持され、この蔓系の自然植物が、緑化用空間から離脱することを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明に係る緑化用板状部材及び壁面等の緑化構造によると、建物、土木構造物、又は塀等の壁部や屋根を形成するために使用される緑化用板状部材自体に対して、植物を保持することができるリブを設けた構成としたことによって、緑化用板状部材及び壁面等の緑化構造の構成の簡単化を図ることができる。よって、建物等の壁面が緑化された壁部や、緑化された屋根を施工するときに、植物を保持するための別の架台等が不要であり、その結果、工事期間の短縮、施工性の向上、及び施工コストの削減を図ることができる。
【0049】
そして、緑化用板状部材のリブ間に形成された緑化用空間には、所望の様々な植栽を配置することができる。よって、この緑化用板状部材が使用される建物、土木構造物、又は塀の壁部や屋根の周囲環境及び周囲の景色等に応じて、所望の植栽を選択して壁面や屋根の緑化を図ることができる。
【0050】
また、緑化用板状部材のリブ間に形成された緑化用空間に、植物を保持するための緑化部材(例えば植栽土壌)を装着して、この緑化部材をリブによって保持する構成とすると、緑化部材をリブ間の緑化用空間に容易に装着することができるし、この緑化部材が経年変化によって劣化したときに、この劣化した緑化部材を劣化していないものに容易に取り替えることができる。
【0051】
そして、灌水用パイプを、緑化用板状部材のリブ間に形成された緑化用空間に設置する構成とすると、灌水用パイプをリブ間の緑化用空間に容易に設置できるし、取替えもすることもできる。これによって、緑化用板状部材のリブ間に配置された植物、緑化部材、及び灌水用パイプのメンテナンスが容易となり、そのために、それらのランニングコストの低減も図ることができる。
【0052】
更に、板状体を押出成形セメント板とし、この板状体とリブとを一体に押出成形して製造することとした場合は、板状体とリブとを別個に製造して、リブを板状体に取り付けるようにした場合と比較して、生産性及び施工性の向上、並びに、生産コスト及び施工コストの低減を図ることができ、更に、リブにより板状体の強度の向上を図ることができる。
【0053】
そして、離脱防止具を緑化用板状部材に設けた構成とすると、例えば緑化部材としての土壌、又は蔓系植物の蔓が、リブ間に形成された緑化用空間から離脱することを防止することができ、壁面の緑化状態を長期間持続させることができる。そして、離脱防止具を緑化用板状部材に設けない構成とすると、緑化用板状部材の緑化用空間に配置された自然の植物に対しての離脱防止具に基づく熱影響を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の第1実施形態に係る緑化用板状部材を示す図であり、(a)は、縦断面図、(b)は、部分拡大縦断面図である。
【図2】同第1実施形態に係る緑化用板状部材に緑化部材及び植物を装着した状態を示す緑化用板状部材を示す図であり、(a)は、縦断面図、(b)は、部分拡大縦断面図である。
【図3】図2(a)に示す緑化用板状部材に緑化部材及び植物を装着した緑化用板状部材の正面図である。
【図4】(a)は、同発明の第2実施形態に係る緑化用板状部材を示す部分拡大縦断面図、(b)は、同発明の第3実施形態に係る緑化用板状部材を示す部分拡大縦断面図である。
【図5】図4(b)に示す同第3実施形態に係る緑化用板状部材に取り付けられている離脱防止具を示す部分拡大縦断面図である。
【図6】同発明の第4実施形態に係る壁面等の緑化構造を説明するための図であり、(a)は、緑化用板状部材を示す縦断面図、(b)は、図6(a)に示す緑化用板状部材に緑化部材及び灌水用パイプを取り付けた状態を示す縦断面図、(c)は、図6(b)に示す緑化部材に植物が育成している状態を示す縦断面図である。
【図7】図6(b)に示す緑化部材が装着された緑化用板状部材の正面図である。
【図8】図6(c)に示す植物が育成した状態の緑化用板状部材の正面図である。
【図9】図6(c)に示す植物が育成した状態の緑化用板状部材を備える壁面等の緑化構造の縦断面図である。
【図10】従来において、蔓系植物がワイヤーに巻き付いて登坂する状態を示す図である。
【図11】同発明の第5実施形態に係る壁面等の緑化構造を説明するための図であり、図6(a)に示す緑化用板状部材の縦張り構造において、蔓系植物が植栽されている状態を示し、(a)は、正面図、(b)は、横断面図である。
【図12】図11(a)に示す緑化用板状部材に植栽された蔓系植物の先端部がリブ間の緑化用空間から離脱した状態を示す図であり、(a)は、側面図、(b)は、正面図、(c)は、横断面図である。
【図13】図11(a)の蔓系植物が植栽された緑化用板状部材に離脱防止具を取り付けた状態を示す図であり、(a)は、側面図、(b)は、正面図、(c)は、横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明に係る緑化用板状部材、及び壁面等の緑化構造の第1実施形態を、図1〜図3を参照して説明する。この緑化用板状部材11は、例えば建物、土木構造物、又は塀の壁部を形成したり、それらの屋根を形成することができるものであって、板状体13の表面に設けられた2以上のリブ14によって自然の植物15又は人工の植物15(以下、単に「植物」と言うこともある。)を保持できるようにしたものである。
【0056】
図1(a)に示す緑化用板状部材11は、例えば壁部を形成するための略矩形の板状体13を備えている。この板状体13の一方の表面には、互いに一定間隔を隔てて略平行して設けられた複数(例えば5つ)のリブ14を備えている。そして、互いに隣合うリブ14とリブ14との間の空間が、自然の植物15又は人工の植物15を配置するための緑化用空間16として形成されている。
【0057】
この緑化用空間16は、図2及び図3に示すように、植物15を保持するための緑化部材17が装着されるように形成され、リブ14は、緑化部材17を保持することができるように形成されている。
【0058】
この緑化部材17は、植栽されていてもよいし、植栽されていなくてもよい。植栽は、この壁面等の緑化構造12を施工した後で行っても良い。また、緑化部材17には、植物15の苗や種子が植えられていてもよい。
【0059】
また、リブ14は、図1(a)、(b)に示すように、長さ方向に直行する断面形状が略台形であり、先端部に向かうに従って先細りする形状に形成されている。
【0060】
そして、リブ14が略水平方向に延びるように、この緑化用板状部材11が配置された状態で、リブ14の上面となる側の上向き保持面14aが、リブ14の先端部に向かうに従って下り勾配となるように形成されている。
【0061】
また、図1(a)、(b)に示すように、各リブ14の緑化用空間16を形成する上向き保持面14a、及び下向き保持面14bには、緑化用空間16に装着された緑化部材17が、リブ14の先端部側に向かって当該リブ14から滑り落ちることを防止するための例えば複数の滑り止め凸部18が設けられている。
【0062】
更に、緑化用板状部材11のリブ14が設けられている側の外表面のうち、少なくとも緑化用空間16を形成する表面に、防水処理を施してある。ただし、緑化用板状部材11のリブ14が設けられている側の外表面の全体に防水処理を施してもよい。
【0063】
そして、図1(a)、(b)に示す緑化用板状部材11は、例えば押出成形セメント板であり、その押出方向に平行して板状体13に中空部19が形成され、各リブ14が板状体13と一体に押出成形されている。そして、各リブ14にも中空部19が形成されている。
【0064】
この実施形態の壁面等の緑化構造12における緑化用板状部材11の取付方向は、中空部19の長さ方向が横方向(水平方向)となるように、この緑化用板状部材11が建物の躯体(図示せず)に取り付けられている(所謂、「横張り」されている。)。
【0065】
そして、図1(a)に示すように、緑化用板状部材11の上辺部に凸部20が形成され、下辺部に凹部21が形成されており、上下に隣接して配置されている緑化用板状部材11どうしは、これら凸部20と凹部21とを嵌合させて連結されている。また、緑化用板状部材11の各辺部どうしの間に形成される目地には、ガスケットやシーリングが設けられている。
【0066】
ただし、緑化用板状部材11を押出成形セメント板としたが、これに代えて、金属製又は合成樹脂製の板状部材としてもよい。緑化用板状部材11の材質は、その緑化用板状部材11が使用される例えば建物、土木構造物、又は塀の各壁部や、屋根等の用途に適した金属製又は合成樹脂製とすることができる。
【0067】
そして、緑化用板状部材11を構成する板状体13とリブ14とは、一体に形成してもよいし、別個の部品として製造して、リブ14を板状体13に取り付けるようにしてもよい。
【0068】
また、図2(a)に示すように、緑化用板状部材11の表面には、5つのリブ14が設けられているが、このリブ14の数は、緑化用板状部材11の縦方法(幅方向)の寸法に応じて適切な数に設定することができる。また、リブ14の大きさや形状は、この緑化用板状部材11によって形成された建物等の外壁面及び屋根の外観や、緑化部材17の大きさ、種類、重量等に応じて適宜設定することができる。そして、リブ14どうしの間隔も、緑化部材17の大きさ及び種類等に応じて適宜設定することができる。
【0069】
更に、図2及び図3に示すように、リブ14とリブ14との間の緑化用空間16には、自然の植物15又は人工の植物15を保持するための緑化部材17が装着されている。
【0070】
緑化部材17は、例えば植栽土壌とすることができ、この植栽土壌としては、繊維補強された固形物、土、軽量土壌、ソイルセメント、やしマット、ピートブロック、ウレタンマット、保水性スポンジ、ポーラスコンクリートブロック、ピートモス、パーライト、ポリエステル繊維、繊維単体等を用いることができる。
【0071】
植栽される植物15は、公知の壁面緑化や屋上緑化に使用される植物を用いることができる。
【0072】
次に、図2及び図3を参照して離脱防止具22を説明する。この離脱防止具22は、緑化用板状部材11の緑化用空間16に装着された合計4列の緑化部材17が、この緑化用板状部材11から脱落することを防止するためのものである。この離脱防止具22は、離脱防止ワイヤ23と、留め金具24とを備えている。
【0073】
離脱防止ワイヤ23は、図2及び図3に示すように、鉛直方向に張られ、水平方向に配置された3つのリブ14の先端部を覆う状態で跨るように配置されている。そして、この離脱防止ワイヤ23の上下の各端部は、留め金具24に結び付けられており、上下の各留め金具24は、緑化用板状部材11の上辺部のリブ14、及び下辺部のリブ14にそれぞれ着脱自在に取り付けられている。
【0074】
この留め金具24は、図2(b)に示すように、屈曲部材25と、留めボルト26とを備えている。屈曲部材25は、その一端部がリブ14の上向き保持面14aに形成された滑り止め凸部18に係合し、その他端部がリブ14の下向き保持面14bに対向するように配置されている。そして、屈曲部材25の他端部に形成された雌ねじ部には、留めボルト26が螺合しており、この留めボルト26の先端部は、リブ14の下向き保持面14bに形成された引っ掛け凹部27に係合している。このようにして、留め金具24が、図2及び図3に示すように、緑化用板状部材11の上辺部のリブ14、及び下辺部のリブ14にそれぞれ着脱自在に取り付けられている。
【0075】
この離脱防止具22によると、各緑化用空間16に装着された合計4列のそれぞれの緑化部材17が、それぞれの緑化用空間16から脱落することを防止することができる。
【0076】
次に、上記のように構成された緑化用板状部材11及び壁面等の緑化構造12の作用を説明する。図1〜図3に示す緑化用板状部材11は、例えば建物、土木構造物、又は塀の壁部や屋根を形成するために使用することができる。そして、この緑化用板状部材11に設けられているリブ14とリブ14との間に形成された4列の各緑化用空間16には、自然の植物15又は人工の植物15が保持された緑化部材17を装着することができ、このようにして、植物15をリブ14によって保持することができる。
【0077】
従って、緑化用板状部材11を、建物、土木構造物、又は塀等の壁部を形成するために使用する場合において、この緑化用板状部材11自体に対して、緑化部材17及び植物15を保持することができる機能を持たせたことによって、緑化用板状部材11及び壁面等の緑化構造12の構成の簡単化を図ることができる。よって、緑化部材17及び植物15を保持するための別の架台(保持台)等が不要となり、その結果、建物等の壁面が緑化された壁部を施工するときに、工事期間の短縮、施工性の向上、及び施工コストの削減を図ることができる。また、緑化用板状部材11を屋根に使用する場合においても、上記と同様の効果を奏することができる。
【0078】
そして、緑化用板状部材11のリブ14間に形成された緑化用空間16には、所望の様々な植栽を配置することができる。よって、この緑化用板状部材11が使用される建物、土木構造物、又は塀の壁部の周囲環境及び周囲の景色等に応じて、所望の植栽を選択して壁面の緑化を図ることができる。
【0079】
また、図2及び図3に示すように、緑化用板状部材11のリブ14間に形成された4列の各緑化用空間16に、植物15を保持するための緑化部材17(例えば植栽土壌)を装着して、この緑化部材17をリブ14によって保持する構成であるので、緑化部材17をリブ14間の緑化用空間16に容易に装着することができるし、この緑化部材17が経年変化によって劣化したときに、この劣化した緑化部材17を劣化していないものに容易に取り替えることができる。これによって、緑化用板状部材11のリブ14間に配置された植物15及び緑化部材17のメンテナンスが容易となり、そのために、それらのランニングコストの低減も図ることができる。
【0080】
更に、図2(a)、(b)に示すように、緑化部材17を保持する各リブ14の下向き保持面14b及び上向き保持面14aに滑り止め凸部18を設けたので、滑り止め凸部18は、緑化部材17がリブ14の先端部側に向かって当該リブ14から滑り落ちることを防止することができ、緑化部材17をリブ14によって確実に保持することができる。
【0081】
そして、図2(a)、(b)に示すように、リブ14の上面となる上向き保持面14aが、リブ14の先端部に向かうに従って下り勾配となるように形成されているので、このリブ14の上向き保持面14aに滞留する雨水等の水を、リブ14の先端部側に導くことができる。そして、このリブ14の上向き保持面14aの先端部側に導かれた水を、そのリブ14の下方に形成されている別の緑化用空間16に導くことができ、その別の緑化用空間16に装着されている別の緑化部材17に水を流入させることができる。これによって、その下方の別の緑化部材17に流入する水を、その緑化部材17に保持されている自然植物15の育成に利用することができる。
【0082】
また、図2及び図3に示す離脱防止具22によると、植物15を保持している合計4列の各緑化部材17が、リブ14間に形成された4列の各緑化用空間16から脱落することを防止することができ、壁面の緑化状態を長期間持続させることができる。そして、離脱防止具22を構成する離脱防止ワイヤ23の少なくとも表面を金属製とはせずに、例えば合成樹脂製とすることによって、離脱防止ワイヤ23の表面が太陽熱等によって加熱され難くすることができ、離脱防止ワイヤ23が、この緑化用板状部材11に配置された自然の植物15に対して熱影響を及ぼすことを抑えることができる。
【0083】
ただし、離脱防止具22を緑化用板状部材11に設けない構成としてもよい。このようにすると、緑化用板状部材11の緑化用空間16に配置された自然の植物15に対しての離脱防止ワイヤ23に基づく熱影響を解消することができる。
【0084】
更に、図2(a)、(b)に示す緑化用板状部材11の表面のうち、少なくとも緑化用空間16を形成する表面(各リブ14の上向き保持面14a、下向き保持面14b、及び板状体13の外表面)に防水処理を施すことによって、この緑化用空間16に配置される緑化部材17又は植物15に含まれている水分によって、緑化用板状部材11が劣化することを抑制でき、耐久性の向上を図ることができる。
【0085】
なお、緑化用板状部材11のリブ14が設けられている側の外表面の全体に防水処理を施すことによって、水分によって、緑化用板状部材11が劣化することを確実に防止することができる。
【0086】
そして、この実施形態では、図1(a)、(b)に示す緑化用板状部材11を、押出成形セメント板として形成してあり、このようにして形成することによって、例えば建物、土木構造物、又は塀の壁部に必要とされる強度及び耐久性等の品質を備え、かつ、略同一形状の緑化用板状部材11を、簡単に低コストで多量に生産することができる。
【0087】
また、この緑化用板状部材11は、その押出方向に平行して、その板状体13及びリブ14に中空部19が形成されているので、軽量であって、必要とされる強度及び耐久性等の品質を有する緑化用板状部材11を提供することができる。そして、リブ14を板状体13と一体に押出成形によって形成してあるので、板状体13とリブ14とを別個に製造して、その後に、リブ14を板状体13に取り付ける場合と比較して、生産コストの低減を図ることができ、リブ14により板状体13の強度の向上を図ることができる。
【0088】
更に、この実施形態では、緑化用板状部材11の4列の各緑化用空間16には、予め、植物15を保持するための緑化部材17がそれぞれ装着されている。このように、予め緑化用空間16に、植物15を保持するための緑化部材17が装着されている緑化用板状部材11を使用して建物、土木構造物、又は塀の壁部を形成するようにすると、予め緑化用空間16に、植物15を保持するための緑化部材17が装着されていない緑化用板状部材11を使用して建物等の壁部を形成する場合と比較して、工事期間の短縮、施工性の向上、及び施工コストの削減を図ることができる。
【0089】
ただし、例えば緑化部材17の重量が大きい場合は、4列の各緑化用空間16に緑化部材17が装着されていない緑化用板状部材11を使用して建物等の壁部を形成して、しかる後に、4列の各緑化用空間16に緑化部材17を装着してもよい。
【0090】
次に、本発明に係る緑化用板状部材の第2実施形態を、図4(a)、図7、及び図8を参照して説明する。この図4(a)に示す第2実施形態の緑化用板状部材29は、図1に示す第1実施形態の緑化用板状部材11において、各リブ14の先端部に対して上向き突起部30及び下向き突起部31を設けてある。そして、この上向き及び下向きの各突起部30、31は、水平方向に延びるリブ14の長さ方向の全範囲に亘って形成されている。
【0091】
このようにすると、上向き及び下向きの各突起部30、31によって、緑化用空間16に装着された緑化部材17が緑化用空間16から脱落することを確実に防止できる。
【0092】
なお、この実施形態では、リブ14の先端部に突起部30、31を設けて、この突起部30、31によって緑化部材17の脱落を防止しているので、第1実施形態のように、リブ14の上向き及び下向きの各保持面14a、14bには、滑り止め凸部18を設けてはいない。
【0093】
また、リブ14の先端部に上向き突起部30を設けたことによって、リブ14の上向き保持面14aの先端部側に導かれた雨水等の水34を、リブ14の先端部から全て下方に流出させること無く、その上向き突起部30で堰き止めて、そのリブ14の長さ方向に導いて行き渡らせることができ、そのリブ14の長さ方向の各部分に配置されている緑化部材17を介して自然植物15の育成に利用することができる。
【0094】
そして、この図4(a)に示す第2実施形態の緑化用板状部材29は、リブ14の上面となる側の上向き保持面14aであって、リブ14の先端部側の部分に、リブ14の長さ方向と略平行して溝部32が形成されている。
【0095】
更に、リブ14の先端部の上面となる側に設けられた上向き突起部30の上縁部に切欠き部33が形成されている。この切欠き部33は、図7の正面図に示すように、上から2つ目、3つ目、4つ目、及び5つ目の各リブ14に形成されたそれぞれの上向き突起部30に形成されている。
【0096】
そして、上から2つ目のリブ14に形成された上向き突起部30には、4つの切欠き部33が形成されている。また、上から3つ目〜5つ目の各リブ14に形成されたそれぞれの上向き突起部30には、切欠き部33が2つずつ形成されている。そして、これら上から3つ目〜5つ目の各リブ14の各上向き突起部30に形成された合計6つの切欠き部33は、上下方向の線上で一致しないように分散するように配置されている。
【0097】
上記のように構成された緑化用板状部材29によると、リブ14の上面の上向き保持面14aが先端部側に向かうに従って下り勾配となるように形成され、この上向き保持面14aの先端部側に導かれた雨水等の水34を、溝部32内に流入させることができ、この溝部32によって、そのリブ14の長さ方向に導いて確実に行き渡らせることができる。そして、この溝部32内の水34は、リブ14の長さ方向の各部分に配置されている緑化部材17に吸い込まれて、この緑化部材17に保持されている自然植物15の育成に効果的に利用することができる。
【0098】
そして、このように、リブ14の長さ方向に行き渡った水34は、その水量が増してきて所定以上の水位となると、図7及び図8に示すように、各切欠き部33を通ってそのリブ14の下方に形成されている別の緑化用空間16に装着されている緑化部材17に保持されている自然植物15に注がれる。そして、この下方に配置されている自然植物15が保持されている緑化部材17に流入させることができる。このようにして、水34は、その下方の別の緑化用空間16に配置されている自然植物15の育成に利用することができる。
【0099】
そして、図7及び図8に示すように、各切欠き部33を、リブ14の長さ方向に沿って互いに所定の間隔を隔てて設けてあり、各切欠き部33から水34を流出させるようにしてあるので、各切欠き部33から流出する水34を、そのリブ14の下方に形成されている別の緑化用空間16の略全範囲に亘って流入させることができ、その下方の別の緑化用空間16に配置されている自然植物15の育成に効果的に利用することができる。
【0100】
このようにして、緑化用板状部材11の4列の各緑化用空間16に配置されている全ての自然植物15に対して、水34が注がれるようにすることができる。
【0101】
これ以外は、第1実施形態と同等の構成であり同様に作用するので、同等の部分を同一の図面符号で示し、それらの説明を省略する。
【0102】
次に、本発明に係る緑化用板状部材の第3実施形態を、図4(b)及び図5を参照して説明する。この図4(b)に示す第3実施形態の緑化用板状部材36と、図4(a)に示す第2実施形態の緑化用板状部材29とが相違するところは、図4(a)に示す第2実施形態では、リブ14の先端部、上向き突起部30、及び下向き突起部31の各外表面が、全体として平坦面として形成され、かつ、この外表面が略鉛直方向と平行して形成されているのに対して、図4(b)に示す第3実施形態では、リブ14の先端部、上向き突起部30、及び下向きの突起部の各外表面が、全体として外側に緩やかに突出する湾曲面として形成され、かつ、上向き及び下向き突起部30、31の各外表面がそれぞれの先端部に向かうに従って、緑化用板状部材36の板状体13に接近するように傾斜面37として形成されている。
【0103】
これ以外は、第2実施形態と同等の構成であり同様に作用するので、同等の部分を同一の図面符号で示し、それらの説明を省略する。
【0104】
上記のように構成された緑化用板状部材36によると、図4(b)に示すように、雨水等の水34が、各切欠き部33を通って湾曲面及び下向き突起部31の傾斜面37を伝わり、そのリブ14の下方に形成されている別の緑化用空間16に装着されている緑化部材17に導かれる。そして、各切欠き部33から流出する水34は、この下方にある緑化部材17に保持されている自然植物15にも注がれる。このようにして、その下方の緑化用空間16に配置されている自然植物15の育成に利用することができる。
【0105】
よって、緑化用板状部材36の4列の各緑化用空間16に配置されている全ての自然植物15に対して、水34が注がれるようにすることができる。
【0106】
図5は、離脱防止具22を示す図である。この図5に示す第3実施形態の離脱防止具22と、図2(b)に示す第1実施形態の離脱防止具22とが相違するところは、図2(b)に示す第1実施形態では、留め金具24を構成する屈曲部材25の一端部が、リブ14の上向き保持面14aに形成された滑り止め凸部18に係合しているのに対して、図5に示す第3実施形態では、留め金具24を構成する屈曲部材25の一端部が、リブ14の先端部に形成されている上向き突起部30に係合しているところである。
【0107】
このように、図4(b)に示す第3実施形態の緑化用板状部材36に対しても、離脱防止具22を取り付けて使用することができる。
【0108】
次に、本発明に係る壁面等の緑化構造の第4実施形態を、図6〜図9を参照して説明する。この壁面等の緑化構造39は、図9に示すように、図4(b)に示す第3実施形態の緑化用板状部材36を使用するものであり、この緑化用板状部材36は、横張りされて互いに連結した状態で設けられている。そして、複数のそれぞれの緑化用板状部材36に形成されている4列の緑化用空間16のうちの最上段の緑化用空間16には、灌水用パイプ40を設けてある。この灌水用パイプ40は、リブ14の上向き保持面14aの基端部側に配置され、このリブ14の長さ方向に沿って延びる形状である。
【0109】
この灌水用パイプ40は、その一端部が給水管(図示せず)と接続していて、この灌水用パイプ40には、このパイプ40の長さ方向に亘って多数の小孔(図示せず)が形成されている。これによって、給水管から灌水用パイプ40に供給された水34は、灌水用パイプ40の長さ方向の各部分に配置されている緑化部材17に吸い込まれて、この緑化部材17に保持されている自然植物15の育成に効果的に利用することができる。
【0110】
そして、灌水用パイプ40の多数の小孔から流出した水34によって、リブ14の上向き保持面14a上の水量が増してきて所定以上の水位となると、この水34は、図7及び図8に示すように、上記第3実施形態で説明したことと同様にして、各切欠き部33を通ってそのリブ14の下方に形成されている別の緑化用空間16に装着されている緑化部材17、及びこの緑化部材17に保持されている自然植物15に注がれる。
【0111】
このようにして、緑化用板状部材36の4列の各緑化用空間16に配置されている全ての自然植物15に対して、容易に灌水することができる。
【0112】
そして、図9に示すように、灌水用パイプ40は、緑化部材17の内側に配置して隠れるようにしたので、この壁面等の緑化構造39の見栄えを良くすることができる。
【0113】
また、灌水用パイプ40を緑化部材17の外側に配置することもできる。このように配置した場合でも、上向き突起部30によって灌水用パイプ40を隠すことができ、見栄えを良くすることができる。
【0114】
また、図6(a)、(b)に示すように、灌水用パイプ40は、緑化用板状部材36のリブ14間に形成された緑化用空間16に設置する構成としたので、灌水用パイプ40をこの緑化用空間16に容易に設置できるし、取替えも容易に行うこともできる。これによって、緑化用板状部材36のリブ14間に配置された植物15、緑化部材17、及び灌水用パイプ40のメンテナンスが容易となり、そのために、それらのランニングコストの低減も図ることができる。
【0115】
ただし、この実施形態では、図9に示すように、複数のそれぞれの緑化用板状部材36に形成されている4列の緑化用空間16のうちの最上段の緑化用空間16に灌水用パイプ40を設けたが、所望の1又は2以上の段の緑化用空間16に灌水用パイプ40を設けてもよい。
【0116】
なお、図6(a)は、壁面等の緑化構造39に使用されている緑化用板状部材36を示す縦断面図である。図6(b)は、図6(a)に示す緑化用板状部材36に緑化部材17及び灌水用パイプ40を取り付けた状態を示す縦断面図である。図6(c)は、図6(b)に示す緑化部材17に植栽した植物15が育成している状態を示す縦断面図である。
【0117】
図7は、図6(b)に示す緑化部材17が装着された緑化用板状部材36の正面図であり、灌水用パイプ40の各小孔から流出する水34が、各切欠き部33から流出する状態を示している。図8は、図6(c)に示す植物15が育成した状態の緑化用板状部材36の正面図であり、各切欠き部33から水34が流出する状態を示している。
【0118】
図9は、壁面等の緑化構造39を示す縦断面図である。図9に示すように、建物の躯体である鉄骨柱41の外面42にはブラケット43が溶接固定されている。このブラケット43には断面L字形の上下に延在するアングル材44の一方の片部44aが溶接固定されている。したがって、アングル材44は、他方の片部44bが鉄骨柱41の外面42と平行となって上下に延在する。
【0119】
このアングル材44の片部44bにはZクリップ45を介して緑化用板状部材36が取り付けられている。すなわち、緑化用板状部材36の中空部19にはプレートナット46が挿入され、緑化用板状部材36の背面47にはZクリップ45の一端を貫通したボルト49がプレートナット46に螺合されている。緑化用板状部材36は、背面47がパッキン51を介してアングル材44の片部44bに当接されている。つまり、緑化用板状部材36は、背面47と、この背面47に固定されたZクリップ45とで片部44bを挟持してアングル材44に取り付けられている。また、緑化用板状部材36は、上下に隣接する複数枚毎に、アングル材44に溶接固定された重量受け部材50によって下端が支持されている。
【0120】
次に、本発明に係る壁面等の緑化構造の第5実施形態を、図10〜図13を参照して説明する。この壁面等の緑化構造53は、図11に示すように、図4(b)に示す第3実施形態の緑化用板状部材36(切欠き部33は、設けてはいない。)を使用するものであり、この緑化用板状部材36は、縦張りされて互いに連結した状態で設けられている。
【0121】
つまり、図11に示す壁面等の緑化構造53は、緑化用板状部材36の各リブ14の延びる方向を略縦方向に配置して、縦方向に延びる各緑化用空間16に蔓系の植物15を配置できるようにしたものである。そして、この蔓系植物15の根を保持するための緑化部材17が緑化用空間16に装着されている。
【0122】
このようにすると、例えば蔓系の自然植物15が縦方向に伸びた景観の壁面等の緑化構造53を提供することができる。そして、リブ14に上向き及び下向きの突起部30、31が設けられているので、この突起部30、31によって、緑化用空間16に配置された蔓系の植物15が、緑化用空間16から離脱することを防止できる。
【0123】
そして、このように、緑化用空間16内の蔓系の自然植物15は、リブ14の先端部の上向き及び下向きの各突起部30、31と、リブ14の保持面14a、14bとによって形成されたそれぞれの内角部(隅部)、及び、リブ14の保持面14a、14bと、板状体13の表面とによって形成されたそれぞれの内角部(隅部)に沿って伸びて成長するので、リブ14間に形成された緑化用空間16を、その長さ方向(縦方向)の全体に亘って、この蔓系の自然植物15によって緑化することができる。また、この蔓系の自然植物15は、その内角部(隅部)に沿って縦方向に伸びて成長するので、この縦方向に伸びた自然植物15は、その内角部の内面に保持され、この蔓系の自然植物15が、緑化用空間16から離脱することを確実に防止できる。
【0124】
図10は、従来において、植物15の蔓を巻き付かせるためのワイヤ54を補助材として使用するものの例を示している。このように、従来では、蔓を巻き付かせるためのワイヤ54(補助材)が必要となり、その分だけ施工性が低下する。更に、蔓系植物15を育成する上で、風の影響を受けるために、発育が悪い場合がある。
【0125】
これに対して、図11に示す壁面等の緑化構造53によると、蔓を巻き付かせるためのワイヤ54(補助材)が不要であり、その分だけ施工性が向上する。そして、蔓系植物15は、リブ14の先端部の上向き及び下向きの各突起部30、31と、リブ14の保持面14a、14bとによって形成されたそれぞれの緑化用空間16内に配置されるので、蔓系植物15を育成する際に、風の影響を受けることが少ないために、発育が良好となる。
【0126】
図12(a)、(b)、(c)は、緑化用板状部材36に植栽された蔓系植物15の先端部が、リブ14間の緑化用空間16から離脱した状態を示している。このように、蔓系植物15の種類によっては、蔓系植物15の先端部が、リブ14間の緑化用空間16から離脱することがあり、その場合は、図13(a)、(b)、(c)に示すように、1又は2以上の離脱防止具22の離脱防止ワイヤ23を水平に配置した状態で、この離脱防止具22を緑化用板状部材36に取り付けることができる。
【0127】
この離脱防止具22によって、蔓系植物15の先端部を含む全体が、リブ14間の緑化用空間16から離脱することを防止することができ、これによって、緑化用板状部材36に植栽された蔓系植物15の見栄えをよくすることができる。
【0128】
ただし、上記実施形態では、まず、緑化部材17又は植物15を緑化用板状部材36等の緑化用空間16に装着し、しかる後に、この緑化部材17又は植物15が装着された緑化用板状部材36等を使用して建物、土木構造物、又は塀の壁部を形成したが、これに代えて、まず、緑化用板状部材36等を使用して建物、土木構造物、又は塀の壁部を形成し、しかる後に、緑化部材17又は植物15を緑化用板状部材36等の緑化用空間16に装着してもよい。
【0129】
そして、緑化部材17には、成長した植物15を植え付けてもよいし、苗又は種子を植え付けてもよい。また、人工の植物15を取り付けてもよい。
【0130】
また、上記各実施形態では、本発明を建物、土木構造物、又は塀の壁部に適用した例を挙げたが、屋根、外装材、又は内装材に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
以上のように、本発明に係る緑化用板状部材及び壁面等の緑化構造は、構造が簡単であって、工事期間の短縮、施工性の向上、及び施工コストの削減を図ることができる優れた効果を有し、このような緑化用板状部材及び壁面等の緑化構造に適用するのに適している。
【符号の説明】
【0132】
11 緑化用板状部材
12 壁面等の緑化構造
13 板状体
14 リブ
14a 上向き保持面
14b 下向き保持面
15 植物
16 緑化用空間
17 緑化部材
18 滑り止め凸部
19 中空部
20 凸部
21 凹部
22 離脱防止具
23 離脱防止ワイヤ
24 留め金具
25 屈曲部材
26 留めボルト
27 引っ掛け凹部
29 緑化用板状部材
30 上向き突起部
31 下向き突起部
32 溝部
33 切欠き部
34 水
36 緑化用板状部材
37 傾斜面
39 壁面等の緑化構造
40 灌水用パイプ
41 鉄骨柱
42 外面
43 ブラケット
44 アングル材
44a、44b アングルの片部
45 Zクリップ
46 プレートナット
47 背面
49 ボルト
50 重量受け部材
51 パッキン
53 壁面等の緑化構造
54 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部を形成するための板状体と、この板状体の表面に互いに間隔を隔てて略平行して設けられた2以上のリブとを備え、
互いに隣合う前記リブと前記リブとの間の空間が、自然の植物又は人工の植物を配置するための緑化用空間として形成され、前記リブが前記植物を保持することを特徴とする緑化用板状部材。
【請求項2】
前記緑化用空間は、前記植物を保持するための緑化部材が装着されるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の緑化用板状部材。
【請求項3】
前記リブの先端部には、前記緑化用空間に装着された前記緑化部材、又は前記緑化用空間に配置された前記植物が、前記緑化用空間から離脱することを防止するための突起部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の緑化用板状部材。
【請求項4】
前記リブの前記緑化用空間を形成する保持面には、前記緑化用空間に装着された前記緑化部材が、前記リブの先端部側に向かって当該リブから滑り落ちることを防止するための滑り止め凸部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の緑化用板状部材。
【請求項5】
前記リブが略水平方向に延びるように、前記緑化用板状部材が配置された状態で、前記リブの上面となる側の上向き保持面が、前記リブの先端部に向かうに従って下り勾配となるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の緑化用板状部材。
【請求項6】
前記リブの上向き保持面であって、前記リブの先端部側の部分に、前記リブの長さ方向と略平行して形成された溝部と、
前記リブの先端部の上面となる側に設けられた前記突起部の上縁部に形成された切欠き部とを備えることを特徴とする請求項5記載の緑化用板状部材。
【請求項7】
前記2以上のリブの先端部を覆う状態で跨るように、前記緑化用板状部材に取り付けられ、前記緑化部材又は前記植物が、前記リブ間に形成された前記緑化用空間から離脱することを防止するための離脱防止具を備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の緑化用板状部材。
【請求項8】
前記緑化用板状部材の表面のうち、少なくとも前記緑化用空間を形成する内面に、防水処理を施したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の緑化用板状部材。
【請求項9】
前記板状体が、押出成形セメント板であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の緑化用板状部材。
【請求項10】
前記板状体には、その押出方向に平行して中空部が形成され、前記リブが前記板状体と一体に押出成形によって形成されていることを特徴とする請求項9記載の緑化用板状部材。
【請求項11】
前記板状体が、金属製又は合成樹脂製であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の緑化用板状部材。
【請求項12】
前記緑化用空間に、前記植物を保持するための前記緑化部材又は前記植物が装着されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の緑化用板状部材。
【請求項13】
前記板状体は、建物、土木構造物、若しくは塀の壁部、又は屋根を形成するために使用されるものであることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の緑化用板状部材。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の緑化用板状部材を備えることを特徴とする壁面等の緑化構造。
【請求項15】
前記緑化用空間に、灌水用パイプを設けたことを特徴とする請求項14記載の壁面等の緑化構造。
【請求項16】
前記緑化用板状部材の前記リブの延びる方向を略縦方向に配置して、前記緑化空間に蔓系の前記植物を配置できるようにしたことを特徴とする請求項14又は15記載の壁面等の緑化構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−75397(P2012−75397A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224529(P2010−224529)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(594071804)森ビル株式会社 (8)
【出願人】(000135335)株式会社ノザワ (52)
【出願人】(591195189)株式会社杉孝 (22)
【Fターム(参考)】