説明

緑色が鮮明なわさびの塩漬物

【課題】わさびを原料とし、鮮やかな緑色と、辛味を主体とするわさびの香味が長期に保持される緑色が鮮明なわさびの塩漬物を開発・提供する。
【解決手段】わさびを適度の大きさに小口切りし、組織を半ば崩壊させるべく、適宜に塩もみし、塩、その他調味料で漬け込んだものを適宜の大きさの合成樹脂製容器に詰めて製品としたときには、わさびの鮮やかな緑色と、辛味を主体とするわさびの香味が長期に保持された新しい漬物が提供され、今まで食用として利用されることなく、わさびの収穫畑で打ち捨てられるだけの集荷規格外のわさびの葉部をも、新しい漬物として有効活用されるという新しい経済効果をわさび栽培農家に提供するという大きな副次的効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、わさびを塩漬けした緑色が鮮明な漬物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、野沢菜、高菜、広島菜、みず菜などのアブラナ科の野菜の葉部は、独特の香味を有し、わが国においては、その独特の香味を生かした漬物として、古くより、広く食されている。
【0003】
このアブラナ科の野菜の香味は、植物組織が傷つけられると同時に酵素、ミロシナーゼにより生成されるカラシ油成分によっている。このカラシ油はワサビ、黒カラシ等の香辛料の揮発性刺激成分である。
【0004】
これらアブラナ科の野菜の漬物の製造に当たっては、所謂,湯通し・叩きなどの物理的刺激を葉部に与える荒漬け工程によって野菜組織を破壊させて、カラシ油成分の生成を促し、次いで塩分を調整して中漬けを行い、更に、とうがらし、麹、調味料などを添加して本漬けを行い、これをポリエチレン製樽や小袋に詰めて冷凍、または冷蔵貯蔵される。
【0005】
しかしながら、これらのアブラナ科の野菜の漬物類の核心をなすカラシ油とその鮮やかな緑色は、時間と共に分解、消失し易いという欠点があり、特に、水分の存在、高いpH、冷蔵温度以上の温度の下でのカラシ油の減少が大きいことが知られており、この欠点を抑える方法としては、製造・貯蔵の工程を一貫して低温で処理することが最善とされている。
【0006】
また、わさび漬けの製造に当たっては、その根部及び/又は茎部を適度の大きさに裁断し、アブラナ科の野菜の漬物の製造で、時折行われるのと同様に、荒漬け工程によって野菜組織を崩壊させて、カラシ油成分の生成を促し、次いで塩分を調整して中漬けを行い、これに麹みそ、調味料等を加えて本漬けを行い、適宜の容器に小分けし、冷凍又は冷蔵して貯蔵される。
【0007】
このわさび漬けの場合も、アブラナ科の野菜の漬物と同様に、カラシ油とその鮮やかな緑色は、時間と共に分解、消失し易いという欠点があり、特にワサビのカラシ油成分であるアリルカラシ油は、広島菜や野沢菜に多く含まれる3−ブテニルカラシ油、4−ブテニルカラシ油よりも遙に分解され易いことが知られている。
【0008】
そのような中で、わさびの葉部にもアリルカラシ油が多量に含まれており、その葉部の緑の美しさにも拘わらず、これを原料とした漬物は、今まで知られておらず、わさびの漬物といえば、専らその根部や茎部を原料とし酒粕乃至麹と共に漬けた所謂、わさび漬けであり、塩漬けとしては集荷規格に適合した葉及び茎部を他の素材と共に70〜80°Cに湯通しし、1〜2分保持した後、水洗い、水を搾り取り、これを笊に入れて振る、または叩きをし、醤油、みりん、かつお、コンブ等からなる調味料に漬けて漬物とされている。
【0009】
即ち、この漬物は、醤油で色付けされており、よって、わさびの緑色は生かされていない。わさびの辛味及び風味を長時間持続、安定化させる方法としては、ビタミンE及びビタミンCを添加する方法が知られている。
【特許文献1】特開平8−89208号広報
【非特許文献1】食品と化学〔2003年、No.3 第78〜80頁
【非特許文献2】New Food Induustry 19巻 No.10 第43〜48頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明の課題は、わさびを原料とし、辛味を主体とするわさびの香味と鮮やかな緑色とが長期に保持されるわさびの塩漬物の製造方法を開発・提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題点を解決するために、本発明者は、わさびを適度な大きさに小口切りし、適宜な塩もみにより組織を半ば崩壊させたものを、適宜の大きさの合成樹脂製容器に詰めて製品としたときには、辛味を主体とするわさびの香味が長期に保持され、わさびの鮮やかな緑色が保持された新しい漬物となることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は、収穫後、選果・洗浄したわさびを小口切りし、叩きや、湯通しやを加えることなく、そのまま塩漬け、適宜塩もみした後、調味漬けすることを特徴とする緑色が鮮やかなわさびの塩漬物、並びにその製造方法であり、また、小口切りしたわさびを、叩きや湯通しなどを加えることなく、適宜塩もみして、調味漬けすると共に、わさびフレーバー及び/又は品質保持剤を添加することによって、本塩漬けわさびを解凍したときに鮮度の戻りを向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、わさびの塩漬物は、わさびの辛味とわさびの緑色とが、従来のわさび漬けや、広島菜や高菜の漬物などよりも、辛味を主体とするその香味と鮮やかな緑色とが長期に保持される。
【0014】
また、この発明によって、今まで食用として利用されることなく、わさびの収穫畑で打ち捨てられるだけであった集荷規格外のわさびの葉部をも、新しい漬物として有効活用されるという新しい経済効果をわさびの栽培農家に提供するという大きな副次的効果も有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明を実施するに当たっては、収穫されたわさびの根、茎、葉部を、清掃・洗浄した後、適宜の大きさに小口切りし、これを湯通しや、叩きを加えることなく、そのまま塩漬け、適宜塩もみし、調味漬けして、適宜のサイズの容器に包装、冷凍して保存する。かくすることによって、鮮明な緑色が長期に保持されると共に、辛味を主体とするわさびの香味も長期に保持される新しい塩漬物が提供されるものである。
【0016】
原料として用いるわさびは、長野県、静岡県、岩手県、島根県、山梨県等の国内産であってもよく、中国、台湾、タイ、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド等の外国産等であってもよい。塩漬けを行う塩分濃度は、0.5〜6重量%程度、より好ましくは1〜4重量%である。
【0017】
又、その他の調味料として、食塩、その他などからなる通常の調味料を適宜添加して調味付けを行う。
【0018】
適宜な調味漬けにおいては、漬け液のpHがアルカリ側にならないよう適宜、酢、クエン酸などの酸味剤を加えてもよい。
【0019】
又、市販のわさびフレーバーを添加することによって、このフレーバーの辛味とわさびの茎、葉、根部が本来有する辛味及び風味成分が調和して、一層好ましい風味が醸し出される。フレーバーの使用量は、0.001〜1%程度である。
【0020】
さらに、品質を長期間保持するために、後述の実施例の品質保持剤を0.5〜10%添加してもよい。
尚、収穫されたわさびは、洗浄後、氷温乃至5℃程度の出来るだけ低温度環境下に保存して処理待ちするのがよい。
【0021】
また、製品を保存するに当たっては、マイナス20℃以下に急速凍結して保存するのが望ましい。
【実施例】
【0022】
以下、この発明の一実施例を詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
実施例1
収穫、集荷された各種のサイズを有するわさびの根、茎、葉部を、トリミングを行って、その100kgを、洗浄水槽に入れ、200ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液に5分間浸漬して殺菌し、さらに水で洗浄した。適宜の大きさにカットし、食塩5kgを振り塩し、100kgの荷重をして24時間、下漬け、熟成を行った。
【0023】
次いで、適宜に塩もみし、30kgの荷重をして、6日間本漬けを行った。本漬け終了品に0.05%のわさびフレーバー及び/又は、3%の品質保持剤〔商標:トレハオース(株式会社林原商事製)〕を含む市販調味液を加えて、その3kg宛をポリエチレン製袋に詰め、直ちにマイナス20°C以下に凍結、数カ月保存した。
【0024】
この製品を、家庭用冷蔵庫(5〜7℃に調整)に一昼夜保存後、各包装製品を開封して味見したところ、いずれもわさびの辛味と香味には殆ど変化がなく、又、わさびの葉部の緑は、元のままの鮮やかな緑色を保持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
辛味を主体とするわさびの香味が長期に保持され緑色が鮮明なわさびの塩漬物。
【請求項2】
収穫後、選果・洗浄し、葉、茎、根部からなるわさびを小口切りし、適宜塩もみし、そのまま塩漬けすることを特徴とする辛味を主体とするわさびの香味が長期に保持され緑色が鮮明なわさびの塩漬物。
【請求項3】
小口切りするわさびが氷温〜5℃に冷蔵保存されたものであることを特徴とする請求項1または2記載の辛味を主体とするわさびの香味が長期に保持され緑色が鮮明なわさびの塩漬物。
【請求項4】
わさびフレーバー及び/又は品質保持剤を添加したものであることを特徴とする請求項1又は2または3記載の辛味を主体とするわさびの香味が長期に保持され緑色が鮮明なわさびの塩漬物。

【公開番号】特開2006−174768(P2006−174768A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371719(P2004−371719)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(504471012)
【出願人】(398066664)合名会社福彦商店 (1)
【Fターム(参考)】