説明

緑色植物の乾燥緑葉粉末の製造方法

【課題】緑色植物の乾燥粉末を製造すること。
【解決手段】緑葉植物の乾燥緑葉粉末を製造する方法であって、a)収穫した緑葉を、網目状構造のコンベアを用いて冷却しながら運搬する工程、b)緑葉を切断する工程、c)緑葉を洗浄する工程、d)緑葉をブランチングする工程、e)処理された緑葉を冷却する工程、f)網目状構造のコンベアを用いて、緑葉を乾燥する工程、を包含する。天然に含有する色彩および緑葉の有効成分が失われずに保持された緑色植物の乾燥緑葉粉末を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緑色植物の乾燥緑葉粉末の製造方法に関する。さらに詳しくは、緑色植物の緑葉(以下、特にことわらない限り、単に緑葉という)が天然に含有する色彩および緑葉の有効成分が失われずに保持された緑色植物の乾燥緑葉粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
緑色植物、特にイネ科植物の緑葉、例えば麦若葉は、ビタミン類、ミネラル類、食物繊維などに富み、有害物質の吸着、腸内環境の改善、コレステロールの吸収抑制、食後血糖値の急上昇防止、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性化などの効果を有する健康食品の素材として注目を浴びている。イネ科植物の緑葉が健康食品の素材として用いられる場合、主に麦若葉を乾燥粉末化した麦若葉末(例えば特許文献1)として用いられている。
【0003】
天然の麦若葉が有する成分を有効に活用するには、食物繊維、ビタミン類などをより多く保持している麦若葉末を用いることが好ましい。しかし、麦若葉末もまた、麦若葉搾汁の製造と同様に、麦若葉が含有する酵素(例えば、クロロフィラーゼ、ペルオキシターゼ、ポリフェノールオキシダーゼ)などを含み、それらによる変質を防ぐために、これらの酵素を不活性化させるための加熱処理(方法は問わない。例えば、煮る、蒸す、熱風処理、電磁波処理等)などが行われる。
【0004】
【特許文献1】特許第2544302号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、鮮やかな緑色を維持し、かつ、風味、栄養素が損なわれない緑色植物の乾燥緑葉粉末の製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、風味がよく色鮮やかな緑色植物の乾燥緑葉粉末の製造方法について鋭意検討し、原材料である緑色植物の搬入工程および洗浄までの工程を自動化し、緑色植物の保存時間を大幅に短縮した。その結果、従来の方法と比較して、鮮やかな緑色の褪色、風味の変化を生じることがない緑色植物の乾燥緑葉粉末が製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、緑葉植物の乾燥緑葉粉末の製造方法であって、a)収穫した緑葉を、網目状構造を備えたコンベアを用いて冷却しながら運搬する工程、b)緑葉を切断する工程、c)緑葉を洗浄する工程、d)緑葉をブランチングする工程、e)処理された緑葉を冷却する工程、f)網目状構造を備えたコンベアを用いて、緑葉を乾燥する工程、およびg)緑葉を乾燥する工程を包含する、方法である。
【0008】
好ましい実施形態においては、前記a)の工程が、緑葉の流量を測定しながら行われる。
【0009】
また、好ましい実施形態においては、前記g)の工程が、緑葉の量を測定しながら行われる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、風味がよく色鮮やかな緑色植物の乾燥緑葉粉末を製造することができる。さらに、緑色植物の搬入から乾燥緑葉粉末の製造までの加工時間を大きく短縮し、均一な品質の乾燥緑葉粉末を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、下記実施形態の記載により限定して解釈するべきでなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0012】
本明細書において、「緑色植物」とは、植物分類法において緑色植物として分類される植物をいう。例えば、イネ科(例えば、大麦、小麦、ライ麦、えん麦などの麦類、イタリアンライグラス、イネ、あわ、笹、ひえ、きび、トウモロコシ、ソルガム、サトウキビなど)、キク科(例えば、よもぎなど)、セリ科(例えば、あしたば、パセリ、セロリなど)、クワ科(例えば、クワなど)、ドクダミ科(例えば、ドクダミなど)、シソ科(例えば、しそなど)、アブラナ科(小松菜、ケール、キャベツ、ブロッコリーなど)、ツバキ科(例えば、茶など)、アカザ科(例えば、ほうれん草など)、ユリ科(例えば、アスパラガスなど)、シナノキ科(例えば、モロヘイヤなど)、ヒルガオ科(例えば、甘藷など)の植物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
イネ科の緑色植物の若葉、特に麦類の緑葉を用いる場合、通常、大麦、小麦、ライ麦、燕麦などの若葉が緑葉として用いられるが、これらに限定されない。麦若葉は、成熟期前、すなわち分けつ開始期から出穂開始前期(背丈が20〜40cm程度)に収穫されることが好ましい。これらの麦若葉の中でも、大麦若葉がより好ましく用いられる。
【0014】
また、本明細書において、緑葉には緑色植物の葉および茎が含まれる。
【0015】
刈り入れられた緑葉は、直ちに処理されることが好ましい。緑葉の変質の原因となる酵素の反応速度を小さくするために、緑葉は冷却される。緑葉を洗浄装置まで移動させるコンベアは、網目状構造を備えていることが好ましい。上記コンベアは、冷気を効率よく伝えることができる。緑葉は、1〜25℃に冷却されることが好ましく、より好ましくは1〜20℃に冷却される。冷却温度が高いと緑葉が変色する可能性が高く、冷却温度が低いと付着水が凍結する可能性がある。また、緑葉を連続して処理することによって、緑葉の品質を均一にする。以下、本明細書中では、均一とは、バッチによる偏りがないことを意味する。
【0016】
上記コンベアは、緑葉の流量を測定する装置を備えていることが好ましい。緑葉の流量を測定することにより、処理される緑葉量を一定に保ちながら処理することができる。
【0017】
また、緑葉は洗浄前に切断されることが好ましい。切断された緑葉は、1〜10cmであることが好ましく、2〜6cmであることがより好ましい。緑葉の大きさを揃えることにより、次の処理工程を効率よく行うことができる。
【0018】
上記緑葉を、必要に応じて、水(好ましくは25℃以下の冷水)で洗浄し、泥などを洗い落とし、ブランチング処理を施す。ブランチング処理は、70〜95℃の熱水に1〜5分間程度浸漬することにより行われる。上記ブランチング処理に使用される熱水に、炭酸水素ナトリウムを加え、pHを7〜9にすることが好ましく、pHを7〜8にすることがさらに好ましい。炭酸水素ナトリウムには、クロロフィル分解予防効果がある。
【0019】
このブランチング工程では、当業者に公知の手段を用いることが可能である。例えば、炭酸水素ナトリウムの他に水酸化カルシウムを添加してもよい。水酸化カルシウムを添加することにより、緑色が鮮やかで風味がよい緑色植物の乾燥緑葉粉末を得ることができる。
【0020】
このブランチング処理により、褪色の原因となる酵素は完全に失活され得る。
【0021】
次に、ブランチング工程で得られた緑葉を冷却する冷却工程を行う。冷却工程は、緑葉を冷水に浸漬することにより行う。その他、冷却、冷蔵、凍結や、冷風または温風による気化冷却、冷風と温風を同時または交互に吹き付けて行う気化冷却を行ってもよい。いずれの方法により行う場合も、冷却工程は、急冷して行う。冷却温度は
10〜30℃の範囲であることが好ましく、10℃〜20℃の範囲であることがさらに好ましい。冷却が不十分であると緑葉が変色する可能性がある。
【0022】
上記ブランチング処理された緑葉は、水分含量が10%以下、好ましくは7%以下となるように乾燥される。これ以上の水分を含有すると、品質が劣化する可能性がある。熱風を効率よく伝えるための網目状構造を備えたコンベアを使用して、緑葉を熱風乾燥することが好ましい。熱風乾燥のほかに、高圧蒸気乾燥、電磁波乾燥、凍結乾燥など、当業者に公知のあらゆる乾燥法を用いることができる。乾燥は、50〜150℃、より好ましくは70℃〜120℃で行うことが好ましい。乾燥温度が高いと緑葉が変色する可能性があり、乾燥温度が低いと緑葉の加工時間が長くなり、品質が劣化する可能性がある。
【0023】
上記乾燥工程に移る際には、乾燥処理される緑葉の量を一定に制御することが好ましい。乾燥処理される緑葉が一定量であれば、効率的かつ均一な乾燥を行うことができる。
【0024】
粉砕は既知の方法に従い、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、石臼などの機械で行うことができる。
【0025】
なお、これら緑色植物の乾燥緑葉粉末は、必要に応じて、高圧殺菌、加熱殺菌などの既知の方法により殺菌処理を行うことができる。
【0026】
得られた緑色植物の乾燥緑葉粉末は、そのまま飲食に供することができる。飲食に供する場合、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合し、用途に応じて粉末、顆粒、錠剤等の形態に成形することもでき、さらに、各種の飲食品に配合して飲食に供することができる。
【0027】
本発明の方法によって、風味がよく色鮮やかな緑葉植物の乾燥緑葉粉末を製造することができる。さらに、緑色植物の搬入から乾燥緑葉粉末の製造までの加工時間を大きく短縮し、均一な品質の乾燥緑葉粉末を製造することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定して解釈すべきではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0029】
(実施例1)
原料として、約30cmの背丈で刈り取った二条大麦の若葉を用いた。二条大麦を洗浄工程に移す際、網目状構造を備えたコンベアを使用し、二条大麦の流量を調節しながら、二条大麦を冷却した。これを水洗し、付着した泥などを除去し、5cm程度の大きさに裁断した。そして80℃のブランチング処理溶液(炭酸水素ナトリウムを含む)に3分間浸漬した。ブランチング処理した麦若葉を、直ちに15℃になるまで冷却した。続いて、冷却した麦若葉を脱水し、乾燥処理される緑葉の量を一定に制御しながら、網目状構造を備えたコンベアを使用して、水分量が5%以下となるように90℃で熱風乾燥した。その後、麦若葉を粉砕し、麦若葉末を得た。
【0030】
(比較例1)
原料として、実施例1に使用した二条大麦の若葉を用いた。これを水洗し、付着した泥などを除去し、5cm程度の大きさに裁断した。そして80℃のブランチング処理溶液(炭酸水素ナトリウムを含む)に3分間浸漬した。ブランチング処理した麦若葉を、直ちに15℃になるまで冷却した。続いて、冷却した麦若葉を脱水し、水分量が5%以下となるように90℃で熱風乾燥した。その後、麦若葉を粉砕し、麦若葉末を得た。
【0031】
(比較例2)
原料として、実施例1に使用した二条大麦の若葉を用いた。これを室温で2日間保管し、その後、水洗し、付着した泥などを除去し、5cm程度の大きさに裁断した。そして80℃のブランチング処理溶液(炭酸水素ナトリウムを含む)に3分間浸漬した。ブランチング処理した麦若葉を、直ちに15℃になるまで冷却した。続いて、冷却した麦若葉を脱水し、水分量が5%以下となるように90℃で熱風乾燥した。その後、麦若葉を粉砕し、麦若葉末を得た。
【0032】
得られた麦若葉末を、見た目(緑の鮮やかさ)、水に分散させた際の風味、お湯(80℃)に分散させた際の風味、ばらつきについて、比較例1を基準として、それぞれ5段階評価した。
【0033】
見た目(緑のあざやさ)については、比較例1を3として、それよりも色が鮮やかであれば4、さらに鮮やかであれば5、比較例1よりも鮮やかでないなら2、さらに鮮やかでないなら1と評価した。水およびお湯に分散させた際の風味については、比較例1を3として、それよりも風味が良好であれば4、さらに良好であれば5、比較例1よりも風味が劣っていれば2、さらに劣っていれば1と評価した。ばらつきについては、比較例1を3として、それよりも均一な色を有していれば4、さらに均一な色を有していれば5、比較例1よりも均一な色を有していなければ2、さらに均一な色を有していなければ1とした。
【0034】
20名が評価した結果の平均点を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果は、本発明の方法で製造した実施例1の乾燥緑葉は、比較例1および2と比較して、風味を損なうことなく、鮮やかな緑色を優れて保持していることを示す。さらに、緑葉を保存せず、効率よく処理した実施例1の乾燥緑葉には、ばらつきがなく、均一の品質を保持していることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の製造方法によって、風味がよく色鮮やかな緑葉植物の乾燥緑葉粉末を製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑葉植物の乾燥緑葉粉末の製造方法であって、
a)収穫した緑葉を、網目状構造を備えたコンベアを用いて冷却しながら運搬する工程;
b)緑葉を切断する工程;
c)緑葉を洗浄する工程;
d)緑葉をブランチングする工程;
e)処理された緑葉を冷却する工程;
f)網目状構造を備えたコンベアを用いて、緑葉を乾燥する工程;
およびg)緑葉を乾燥する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記a)の工程が、緑葉の流量を測定しながら行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記g)の工程が、緑葉の流量を測定しながら行われる請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2007−252340(P2007−252340A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84235(P2006−84235)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】