説明

緑色蛍光体

【課題】内部量子効率を高めることができる緑色蛍光体を提供する。
【解決手段】Sr、Ga及びSを含有する母体結晶と、発光中心とを含有する緑色蛍光体であって、Sr含有量に対するGa含有量のモル比率(Ga/Sr)が2.02〜3.02であることを特徴とする緑色蛍光体を提案する。SrGa24で示される量論組成からなる母体結晶を有する緑色蛍光体に比べ、内部量子効率を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色蛍光体に関する。詳しくは、青色LEDや近紫外LEDで励起することができ、照明用蛍光体として用いたり、液晶のバックライトや、FED(電界放射型ディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレイ)、EL(エレクトロルミネッセンス)などのディスプレイ用蛍光体として用いたりすることができる緑色蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の照明用光源の主流は、蛍光灯や白熱電球であるが、LED(発光ダイオード)を光源に用いたものは、蛍光灯等に比べて消費電力が少なく、寿命も長く、手で触っても熱くないなど安全性の面でも優れている上、水銀等の有害物質を含まず環境面でも優れており、近い将来、照明用光源の主流となることが期待されている。
【0003】
現行の白色LEDは、青色LEDとYAG:Ce(黄)とを組み合わせて構成されているが、自然な発色性を示す演色性に劣り、特に赤色物体や人肌をこのような現行の白色LEDで照らしても自然光に照らされた色を再現できないという問題を抱えていた。そこで、このような現行白色LEDの演色性を改善する手法として、近紫外LEDと赤、緑、青の3種類の蛍光体とを組み合わせたり、青色LEDと赤、緑の2種類の蛍光体とを組み合わせたりして白色LEDを構成することが検討されており、かかる目的に使用する緑色蛍光体として、SrGa24:Euが開示されている(特許文献1、2及び3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−060747号公報
【特許文献2】特開2007−056267号公報
【特許文献3】特開2007−214579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、開示されていたSrGa24:Euからなる緑色蛍光体は、発光効率をさらに高める必要があった。発光効率を高めるためには、外部量子効率(=内部量子効率×吸収率)の高い蛍光体を用いることが重要であると言われている。しかし、例えば前記の如く、近紫外LEDや青色LEDと、緑色蛍光体を含む蛍光体と組み合わせて白色光を得る場合には、LEDが発光した光と、このLEDの光を蛍光体が吸収して発光する光との組み合わせで白色光を得るため、LEDが発光した光を適度に透過する必要がある。よって、このような用途においては、蛍光体の内部量子効率を高めて外部量子効率を高めるか、或いは蛍光体の発光強度を高めるのが好ましい。
【0006】
そこで本発明は、主に内部量子効率を高めることができる緑色蛍光体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Sr、Ga及びSを含有する母体結晶と、発光中心とを含有する緑色蛍光体であって、Sr含有量に対するGa含有量のモル比率(Ga/Sr)が2.02〜3.02であることを特徴とする緑色蛍光体を提案する。
【0008】
本発明の緑色蛍光体は、SrGa24で示される量論組成よりも所定量だけGaを多く含有する緑色蛍光体であり、SrGa24で示される量論組成からなる母体結晶を有する緑色蛍光体に比べ、内部量子効率が高いという特徴を有している。よって、例えば、励起源としての近紫外LEDや青色LEDと、本発明の緑色蛍光体を含む蛍光体とを組み合わせて白色発光素子乃至装置を構成した場合、LEDの光を適度に透過し、且つ効率良く発光することができ、より十分な白色光を得ることができる。また、内部量子効率が高いから発光効率が高く、そのため、限られた特性のLEDに対して限られた量の緑色蛍光体を組み合わせる場合であっても、十分な発光量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例11及び比較例4〜6のXRDパターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態について詳細に述べるが、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係る緑色蛍光体(以下「本緑色蛍光体」という)は、Sr、Ga及びSを含有する母体結晶に、発光中心としてEu2+をドープしてなる緑色蛍光体である。
【0012】
本緑色蛍光体は、一般式で言えば、SrGa24:Eu2+で示される結晶を含む蛍光体である。よって、SrGa24で示される量論組成からすれば、Sr1モルに対してGaを2.00モルの割合で混合して製造するのが一般的であるが、本緑色蛍光体は、SrGa24で示される量論組成よりも所定量だけGaを過剰に混合して含有させてなるものである。すなわち、Sr含有量に対するGa含有量のモル比率(Ga/Sr)が2.02〜3.02、好ましくは2.02〜2.72、特に好ましくは2.21〜2.45となるように、Gaを過剰に含有するものである。このように、Sr含有量に対するGa含有量のモル比率(Ga/Sr)を2.02〜3.02とすれば、内部量子効率を高めることができる。また、Ga/Srが2.72よりも大きくなると、発光特性は高まるものの、焼成物の溶融が始めるため製造上好ましくない。
【0013】
本緑色蛍光体の発光中心(発光イオン)は、2価のEu2+を含むもの、特に2価のEu2+のみであるのが好ましい。Eu2+の発光波長(色)は、母結晶に強く依存し、母結晶によって多彩な波長を示すことが知られているが、本緑色蛍光体が特定する母結晶であれば緑色を示す発光スペクトルを得ることができる。
Eu2+の濃度は、母結晶中のSrの濃度の0.1〜10mol%であることが好ましく、中でも0.5〜7mol%、その中でも特に1〜5mol%であるのが好ましい。
なお、発光中心(発光イオン)として、Eu2+以外のイオン、例えば希土類イオン及び遷移金属イオンからなる群より選ばれた1種又は2種以上のイオンを用いても同様の効果を期待することができる。希土類イオンとしては、例えばSc、Tb、Er等のイオンが挙げられ、遷移金属イオンとしては、例えばMn、Cu、Ag、Cr、Ti等のイオンが挙げられる。
【0014】
(粒度分布)
本緑色蛍光体は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算10%の粒子径(D10)が4.5μm〜30μmであることが好ましく、特に5μm〜30μm、中でも特に7μm〜30μmであることが好ましい。
D10を4.5μm以上に規制することにより、蛍光体粒子の外部量子効率(光を取り出す効率)をより一層高めることができる。但し、D10が30μmを超えると、蛍光体粒子の外部量子効率を損なうことはないが、用途によっては、蛍光体を樹脂中に分散させて使用するため、その場合には単位体積当たりの充填率が低下する可能性があるため好ましくない。また、低粘性樹脂を使用した場合は分散性が悪くなるため、白色LEDなど発光素子の性能を十分に引き出すことが難しくなる可能性がある。よって、D10の上限値は30μm以下であるのが好ましい。
【0015】
また、本緑色蛍光体は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算5%の粒子径(D5)に関しては3.5μm〜20μmであるのが好ましく、特に4.5μm〜20μm、中でも特に5μm〜20μmであるのが好ましい。
本緑色蛍光体の組成の緑色蛍光体においては、D5を3.5μm以上に規制することによっても、蛍光体粒子の外部量子効率をより一層高めることができる。
他方、D5の上限は、D10と同様の理由で20μm以下であるのが好ましい。
【0016】
さらに、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算90%の粒子径(D90)は190μm以下(特に190μm未満)であるのが好ましく、中でも100μm以下(特に100μm未満)であるのが特に好ましい。100μmより大きい粒径、特に190μmより大きい粒径のものは、外部量子効率を高めるのに寄与しないことが判明している。よって、D90は190μm以下(特に190μm未満)であるのが好ましく、中でも100μm以下(特に100μm未満)であるのが特に好ましい。
【0017】
また、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算50%の粒子径(D50)は7μm〜50μmであるのが好ましく、特に8μm〜50μm、中でも特に12μm〜50μmであるのが好ましい。
そしてこの際、小粒径側からの通過分積算50%の頻度(%、p50という)に対する、小粒径側からの通過分積算10%の頻度(%、p10という)の割合(p10/p50)が、0.20〜0.65であるのが好ましく、特に0.20〜0.60、中でも特に0.20〜0.55であるのが好ましい。
ここで、「頻度」とは、0.1μm〜1000μmの範囲を128chに区分した際に、該当するchの粒径の頻度(%)を意味するものである。
【0018】
(比表面積)
本緑色蛍光体の比表面積は、0.2〜1.2m2/gであるのが好ましく、特に0.2〜0.9m2/g、中でも特に0.2〜0.6m2/gであるのが好ましい。
【0019】
(本緑色蛍光体の特徴)
本緑色蛍光体は、近紫外領域〜青色領域の波長(300nm〜510nm程度)の光によって励起され、緑色光を発光するものである。
【0020】
本緑色蛍光体の発光スペクトルに関して言えば、波長300nm〜510nm程度の光励起によって、波長502nm±30nm〜557nm±30nmの領域に発光ピークを有する。
なお、本緑色蛍光体は、同一組成であれば、近紫外領域〜青色領域の波長(300nm〜510nm程度)のいずれの波長で励起しても、発光スペクトルの幅、位置が変わらない点にも一つの特徴がある。
【0021】
CIE色度座標について言えば、本緑色蛍光体は、Srの一部をCa及びBaで置換することにより、x=0.05〜0.40、y=0.50〜0.80で示される緑色光、特にx=0.15〜0.35、y=0.60〜0.75で示される緑色光、中でもx=0.25〜0.33、y=0.65〜0.73で示される緑色光を発光することができる。
【0022】
本緑色蛍光体は、X線回折装置(XRD)で測定されるCuKα線を用いたXRDパターンにおいて、2θ=17.0°付近に観測される(400)面および
2θ=34.4°付近に観測される(800)面の回折ピークが相対的に強くなり、2θ=38.4°付近に観測される(444)面に対するピーク強度比についてみると、(400)/(444)又は(800)/(444)が1.0より大きい、特に2.0より大きい、中でも3.0より大きいことが好ましい。
Ga量を量論組成より過剰となるように配合し、かつ1000℃以上の高温で焼成することにより、ピーク強度比(400)/(444)及び(800)/(444)を1.0より大きくすることができ、a軸方向への結晶成長を促進させることができ、これによって、量子効率を高めることができる。
かかる観点から、焼成温度は、1000℃以上、特に1100℃以上、中でも1150℃以上であるのが好ましい。
【0023】
(製造方法)
次に、本緑色蛍光体の好ましい製造方法の一例について説明する。但し、下記に説明する製造方法に限定されるものではない。
【0024】
本緑色蛍光体は、Sr原料、Ga原料、S原料およびEu原料などの原料をそれぞれ秤量して混合し、還元雰囲気中900〜1400℃で焼成し、スタンプミルやらいかい機などで解砕した後、篩などで分級し、好ましくはさらにエタノールをはじめとする非水系有機溶媒や水に沈降させ、上澄みを除いて乾燥させるようにして得ることができる。
この際、Sr含有量に対するGa含有量(添加量)のモル比率(Ga/Sr)が2.02〜3.02となるように、Sr及びGaを秤量して混合することが重要である。
【0025】
上記のSr原料としては、Srの酸化物の他、複酸化物、炭酸塩等のストロンチウム塩を挙げることができる
Ga原料としては、Ga23、Ga23などのガリウム塩を挙げることができる。
S原料としては、SrSのほか、Ga23、EuS、S、BaS、SiS2、Ce23、H2Sガス等を挙げることができる。 Eu原料としては、EuS、EuF、Eu、EuCl等のユウロピウム化合物(Eu塩)を挙げることができる。
【0026】
演色性を向上させるために、Pr、Smなどの希土類元素を色目調整剤として原料に添加してもよい。
励起効率の向上のために、Sc、La、Gd、Lu等の希土類族元素から選択される1種以上の元素を増感剤として原料に添加するようにしてもよい。
ただし、これらの添加量は、それぞれSrに対して5モル%以下とするのが好ましい。これらの元素の含有量が5モル%を超えると、異相が多量に析出し、輝度が著しく低下するおそれがある。
また、アルカリ金属元素、Ag等の1価の陽イオン金属、Cl-、F-、I-等のハロゲンイオンを電荷補償剤として原料に添加するようにしてもよい。その添加量は、電荷補償効果及び輝度の点で、アルミニウム族や希土類族の含有量と等量程度とするのが好ましい。
【0027】
原料の混合は、乾式、湿式いずれで行なってもよい。
乾式混合する場合、その混合方法を特に限定するものではなく、例えばジルコニアボールをメディアに用いてペイントシェーカーやボールミル等で混合し、必要に応じて乾燥させて、原料混合物を得るようにすればよい。
湿式混合する場合は、原料を懸濁液の状態とし、上記同様にジルコニアボールをメディアに用いてペイントシェーカーやボールミル等で混合した後、篩等でメディアを分離し、減圧乾燥や真空乾燥、スプレードライなどの適宜乾燥法によって懸濁液から水分を除去して乾燥原料混合物を得るようにすればよい。
【0028】
焼成する前に、必要に応じて、上記如く得られた原料混合物を粉砕、分級、乾燥を施すようにしてもよい。但し、必ずしも粉砕、分級、乾燥を施さなくてもよい。
【0029】
焼成は、1000℃以上で焼成するのが好ましい。
この際の焼成雰囲気としては、少量の水素ガスを含有する窒素ガス雰囲気、一酸化炭素を含有する二酸化炭素雰囲気、硫化水素、二硫化炭素、その他の不活性ガス又は還元性ガスの雰囲気などを採用することができるが、中でも硫化水素雰囲気で焼成するのが好ましい
焼成温度が1000℃以上であれば、十分かつ均一な焼成を行うことできる。
焼成温度の上限は焼成炉の耐久温度、生成物の分解温度等によって決まるが、本緑色蛍光体の製造方法においては1000〜1200℃で焼成することが特に好ましい。また、焼成時間は焼成温度と関連するが、2〜24時間程度である。
【0030】
上記焼成において、原料混合物がイオウ原料を含まない場合には、硫化水素又は二硫化炭素の雰囲気中で焼成するのが好ましい。しかし、原料混合物中にイオウ原料を含む場合には、硫化水素、二硫化炭素又は不活性ガスの雰囲気中で焼成することができる。この場合の硫化水素及び二硫化炭素はイオウ化合物となることもあり、また生成物の分解を抑制する機能もある。
他方、焼成雰囲気に硫化水素又は二硫化炭素を用いる場合には、これらの化合物もイオウ化合物となるため、例えば、原料成分としてBaSを用いる場合には、バリウム化合物及びイオウ化合物を用いたことになる。
【0031】
本緑色蛍光体の製造においては、焼成後、スタンプミルやらいかい機、ペイントシェーカーなどで解砕し、次いで篩などで分級するのが好ましい。解砕する際、粒度が細かくなり過ぎることのないように解砕時間を調整するのが好ましい。
また、篩などによる分級では、150μmより大きい粒径、特に130μmより大きい粒径、中でも特に110μmより大きい粒径をカットするように分級するのが好ましい。また、2μmより小さい粒径、特に3μmより小さい粒径、中でも特に4μmより小さい粒径をカットするように分級するのが好ましい。
【0032】
さらに、エタノールをはじめとする非水系有機溶媒や水などに投入し、超音波振動を与えつつ攪拌した後に静置させ、上澄みを除いて沈降物を回収し、次いで乾燥させるのが好ましい。この最後の溶媒沈降分級処理により、内部量子効率及び外部量子効率を顕著に高めることができる(後述する実施例6参照)。
【0033】
(用途)
本緑色蛍光体は、励起源と組合わせて緑色発光素子乃至装置を構成することができ、各種用途に用いることができる。例えば一般照明のほか、特殊光源、液晶のバックライトやEL、FED、CRT用表示デバイスなどの表示デバイスなどに利用することができる。
【0034】
本緑色蛍光体とこれを励起し得る励起源とを組合わせた緑色発光素子乃至装置の一例として、例えば波長300nm〜510nmの光(すなわち、紫光〜青色光)を発生する発光体の近傍、すなわち該発光体が発光した光を受光し得る位置に本緑色蛍光体を配置することにより構成することができる。具体的には、発光体からなる発光体層上に、本緑色蛍光体からなる蛍光体層を積層するようにすればよい。
この際、蛍光体層は、例えば、粉末状の本緑色蛍光体を、結合剤と共に適当な溶剤に加え、充分に混合して均一に分散させ、得られた塗布液を、発光層の表面に塗布及び乾燥して塗膜(蛍光体層)を形成するようにすればよい。
また、本緑色蛍光体をガラス組成物や樹脂組成物に混練してガラス層内或いは樹脂層内に本緑色蛍光体を分散させるようにして蛍光体層を形成することもできる。
さらにまた、本緑色蛍光体をシート状に成形し、このシートを発光体層上に積層するようにしてもよいし、また、本緑色蛍光体を発光体層上に直接スパッタリングさせて製膜するようにしてもよい。
【0035】
また、本緑色蛍光体と、赤色蛍光体と、必要に応じて青色蛍光体と、これらを励起し得る励起源とを組合わせて白色発光素子乃至装置を構成することができ、例えば一般照明のほか、特殊光源、液晶のバックライトやEL、FED、CRT用表示デバイスなどの表示デバイスなどに利用することができる。
【0036】
本緑色蛍光体と、赤色蛍光体と、必要に応じて青色蛍光体と、これらを励起し得る励起源とを組合わせて構成する白色発光素子乃至装置の一例として、例えば波長300nm〜510nmの光(すなわち、紫光〜青色光)を発生する発光体の近傍、すなわち該発光体が発光した光を受光し得る位置に本緑色蛍光体を配置すると共に赤色蛍光体と必要に応じて青色蛍光体とを配置することにより構成することができる。
具体的には、発光体からなる発光体層上に、本緑色蛍光体からなる蛍光体層と、赤色蛍光体からなる蛍光体層と、必要に応じて青色蛍光体からなる蛍光体層とを積層するようにすればよい。
また、粉末状の本緑色蛍光体と赤色蛍光体と必要に応じて青色蛍光体とを、結合剤と共に適当な溶剤に加え、充分に混合して均一に分散させ、得られた塗布液を、発光層の表面に塗布及び乾燥して塗膜(蛍光体層)を形成するようにすればよい。
また、本緑色蛍光体と赤色蛍光体と必要に応じて青色蛍光体とを、ガラス組成物や樹脂組成物に混練してガラス層内或いは樹脂層内に蛍光体を分散させるようにして蛍光体層を形成することもできる。
また、青色LED或いは近紫外LEDからなる励起源上に、本緑色蛍光体と赤色蛍光体を樹脂中に混練してなる蛍光体層を形成すればよい。
さらにまた、本緑色蛍光体と赤色蛍光体と必要に応じて青色蛍光体とをそれぞれシート状に成形し、このシートを発光体層上に積層するようにしてもよいし、また、本緑色蛍光体と赤色蛍光体とを発光体層上に直接スパッタリングさせて製膜するようにしてもよい。
【0037】
(用語の解説)
本発明において「緑色発光素子乃至装置」或いは「白色発光素子乃至装置」における「発光素子」とは、少なくとも蛍光体とその励起源としての発光源とを備えた、比較的小型の光を発する発光デバイスを意図し、「発光装置」とは、少なくとも蛍光体とその励起源としての発光源とを備えた、比較的大型の光を発する発光デバイスを意図するものである。
本発明において「X〜Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、「Xより大きくことが好ましい」或いは「Yより小さいことが好ましい」旨の意図を包含する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【0039】
<蛍光体の組成分析>
実施例1−11及び比較例1−6で得られた蛍光体粉末をフッ酸等で全溶解させてICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて組成分析を行った。そして、蛍光体の元素の総量(Ga+Sr+Eu+S+不可避不純物)を100wt%とした場合のGa、Sr及びEuの含有量(wt%)を表1及び表2に示した。
【0040】
<PL発光スペクトルの測定>
実施例1−11及び比較例1−6で得られた蛍光体粉末について、分光蛍光度計(日立社製、F−4500)を用いてPL (フォトルミネッセンス)スペクトルを測定し、PL発光強度を求め、結果を表1及び表2に示した。
【0041】
<吸収率、内部量子効率、外部量子効率の測定>
実施例1−11及び比較例1−6で得られた蛍光体粉末について、次のようにして吸収率、内部量子効率、外部量子効率を測定した。
分光蛍光光度計FP−6500、積分球ユニットISF−513(日本分光株式会社製)を用い、固体量子効率計算プログラムに従い行った。なお、分光蛍光光度計は、副標準光源およびローダミンBを用いて補正した。
励起光466nmとした場合のSrGa24:Eu蛍光体の吸収率、内部量子効率、外部量子効率の計算式(式1)を以下に示す。
得られた結果は表1及び表2に示した。
【式1】
【0042】

【0043】
<XRD測定>
実施例11及び比較例4−6で得られた蛍光体粉末をX線回折用のサンプルとし、このサンプルをホルダーに装着し、MXP18(ブルカー・エイエックスエス(株)社製)を使用し、下記条件で回折線の角度と強度を測定し、図1に示した。
【0044】
(管球)CuKα線
(管電圧)40kV
(管電流)150mA
(サンプリング間隔)0.02°
(スキャンスピード)4.0°/min
(開始角度)5.02°
(終了角度)80°
【0045】
(実施例1−5、実施例7−10及び比較例1−3)
出発原料としてSrS、Ga23及びEuSを用い、それぞれの出発原料を秤量して配合し、φ3mmのジルコニアボールをメディアに用いてペイントシェイカーで100分間混合し、得られた混合物を、硫化水素雰囲気中、1000℃〜1150℃で6時間焼成した(焼成温度は表1参照)。次に、らいかい機(日陶科学社製「ALM−360T」)で1分間解砕し、目開き140メッシュ及び440メッシュの篩を用いて、目開き140メッシュの篩下で且つ目開き440メッシュの篩上を回収し、一般式SrGa24:Eu2+で示される結晶からなる蛍光体粉末を得た。
【0046】
(実施例6)
実施例3で得られた蛍光体粉末については、さらに99.5%エタノール溶液(25℃)に入れて攪拌しながら超音波(本多電子株式会社製「W−113」)を28Hz、45Hz、100Hzの順番にかけて分散させ、30秒静置した後、上澄みを除いて沈降したものだけを回収し、乾燥機(100℃)で10分乾燥させて、一般式SrGa24:Eu2+で示される結晶からなる蛍光体粉末を得た。
【0047】
【表1】

【0048】
(考察)
比較例1−3及び実施例1−10で得られた蛍光体粉末について、励起スペクトル及び発光スペクトルを測定したところ、波長300nm〜510nmの光(すなわち、紫光〜青色光)により十分励起され、特に2つのピークが見られることから、近紫外光及び青色光によってより十分励起されることを確認した。
また、波長502nm±30nm〜557nm±30nmの範囲内の発光ピーク位置を示し、CIE色度座標x=0.05〜0.40、y=0.50〜0.80の範囲で緑色を発光することができることを確認した。
【0049】
Sr含有量に対するGa含有量のモル比率(Ga/Sr)が2.02〜3.02の範囲にある実施例1−10は、量論組成のモル比率(Ga/Sr)である比較例1に比べ、内部量子効率並びにPL発光強度が高いことが判明した。また、モル比率(Ga/Sr)が1.70以下である比較例2や、モル比率(Ga/Sr)が3.50以上である比較例2に比べても、モル比率(Ga/Sr)が2.02〜3.02の範囲にある実施例1−6は、内部量子効率並びにPL発光強度が顕著に高いことが判明した。
中でも、Ga含有量のモル比率(Ga/Sr)が2.21〜3.02の範囲にある実施例2−6は、内部量子効率並びにPL発光強度がさらに顕著に高いことが判明した。
【0050】
さらに、実施例3と実施例6とを比較すると、エタノールで洗浄及び沈降分級することにより、内部量子効率、PL発光強度および外部量子効率が顕著に向上させることができることも判明した。
【0051】
また、発光特性の観点からみると、モル比率(Ga/Sr)は2.10〜3.10の範囲が好ましく(内部量子効率72%以上)、中でも2.30〜2.80の範囲がより一層好ましいことが分かった(内部量子効率77%以上)。
【0052】
(実施例11及び比較例4−6)
出発原料としてSrS、Ga23及びEuSを用い、それぞれの出発原料を秤量して配合し、φ3mmのジルコニアボールをメディアに用いてペイントシェイカーで100分間混合し、得られた混合物を、硫化水素雰囲気中、900〜1150℃で6時間焼成した(焼成温度は表2参照)。次に、らいかい機(日陶科学社製「ALM−360T」)で1分間解砕し、目開き140メッシュ及び440メッシュの篩を用いて、目開き140メッシュの篩下で且つ目開き440メッシュの篩上を回収し、一般式SrGa24:Eu2+で示される結晶からなる蛍光体粉末を得た。
得られた蛍光体粉末について、PL発光強度、吸収率、内部量子効率及び外部量子効率を測定し、表2に示した。
【0053】
【表2】

【0054】
Ga過剰組成で、且つ1000℃以上の高温焼成で得られる、一般式SrGa24:Eu2+で示される結晶からなる蛍光体は、X線回折パターンにおいて、2θ=17.0°付近に観測される(400)面および 2θ=34.4°付近に観測される(800)面の回折ピークが相対的に強くなる。2θ=38.4°付近に観測される(444)面との ピーク強度比を示すと、(400)/(444)=3.08、(800)/
(444)=3.26であった。 これは、母材であるSrGa24結晶におけるa軸方向の結晶面が優先的に発達していることを示唆するものである。
よって、Ga量が量論組成より過剰となるように配合し、かつ1000℃以上、特に1150℃以上の高温で焼成することにより、ピーク強度比(400)/(444)及び(800)/
(444)を1より大きく、好ましくは3より大きくすることができ、すなわちa軸方向への結晶成長を促進させることができ、これによって、従来より高い量子効率を有する蛍光体を得ることができることが判明した(実施例11参照)。
【0055】
1100℃の高温で焼成されても、量論組成で調整された蛍光体は、比較例4に示すように、(400)/(444)及び(800)/(444)のピーク強度比が1を下回っており、a軸方向の結晶成長が促進されていない。そのため、内部量子効率も低いままで、実施例11のような効果は得られていない。
また、Ga過剰組成であっても、1000℃未満の900℃で焼成された蛍光体では、比較例5のように、(400)/(444)及び(800)/(444)のピーク強度比が1を下回っており、やはりa軸方向の結晶成長が促進されておらず、そのため、内部量子効率も低いままで、実施例11のような効果は得られていない。
【0056】
なお、X線回折パターンの2θ=34.4°付近に観測される回折ピークについて、ICDDカード等では(642)面として示されているが、実際に計算してみると、この2θ近で観測されるピークは、(800)面であることが判明した。そのため、本発明では該ピークを(800)面として取り扱う。
実験的にも、(400)面のピークが増大すれば、これに伴って該ピークも増大する傾向があるため、(800)面として考えた方が妥当である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr、Ga及びSを含有する母体結晶と、発光中心とを含有する緑色蛍光体であって、Sr含有量に対するGa含有量のモル比率(Ga/Sr)が2.02〜3.02であることを特徴とする緑色蛍光体。
【請求項2】
発光中心としてEu2+を含むことを特徴とする請求項1に記載の緑色蛍光体。
【請求項3】
励起源と、請求項1又は2に記載の緑色蛍光体とを備えた緑色発光素子乃至装置。
【請求項4】
励起源と、請求項1又は2に記載の緑色蛍光体と、赤色蛍光体とを備えた白色発光素子乃至装置。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−293022(P2009−293022A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113909(P2009−113909)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】