説明

緑色蛍光体

【課題】LuAG:Ceを素材とした緑色蛍光体として発光強度や寿命等の特性を向上させることができる緑色蛍光体を提供する。
【解決手段】本発明に係る緑色蛍光体1は、AlNからなる第1相3と、Ceを含有するLuAGからなる第2相5とを有する無機材料で構成された緑色蛍光体であって、第2相5の含有量は、第1相3及び第2相5を含む相全体における体積比で25vol%以上95vol%以下であり、かつ、LuAG中のCeの含有量は、Luに対する原子比(Ce/Lu)で0.003以上0.03以下である。または、前記第2相5の含有量は、体積比で80vol%以上95vol%以下であり、かつ、前記Ceの含有量は、Luに対する原子比(Ce/Lu)で0.001以上0.03以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色蛍光体に関し、特に、発光強度や寿命等の特性を向上させることができる緑色蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
緑色蛍光体は、FED(Field Emitter Display:電界放射型ディスプレイ)、LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)やPDP(Plasma
Display Panel:プラズマディスプレイパネル)などのディスプレイ用として、青色LED(Light Emitting
Diode:発光ダイオード)を光源として用いた照明用として、また、プロジェクタに用いる光学スペクトルの緑色領域用として、様々な分野・用途に使用されている。
【0003】
近年、緑色蛍光体は、発光強度や寿命等に優れた特性を有することが要求されており、様々な改良が行われている。
特許文献1では、波長が350〜500nmの光により励起されて発光強度が高い良好な緑色発光を示すものとして、組成式:ATbLn(1−x)(式中、AはLi、Na、K及びAgから選ばれる少なくとも1種、LnはYを含む希土類元素(Tbを除く)から選ばれる少なくとも1種、MはMo及びWから選ばれる少なくとも1種、xは0.4≦x≦1を満たす整数)で表される緑色蛍光体が開示されている。また、特許文献2には、La、Mg、Alと、Y又はCeのいずれかを必ず含み、更に、Tb、Mn、Znを任意で含み、La、Mg、Alが母材であり、他の元素が発光中心である緑色蛍光体が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の緑色蛍光体においては、1価のAサイト(AはLi、Na、K)を3価のTb3+イオンで置換するため、結晶構造に大きな歪みが生じやすい。その結果、結晶構造的に不安定であるため、発光強度が低下するという問題が見られた。また、発光イオンとしてTb3+イオンを高濃度で含有しており、更に、Tb3+イオンの増感剤としてY3+イオン、Dy3+イオン、La3+イオン、Gd3+イオン又はLu3+イオンを含有しているため、これらが蛍光体内で析出する場合があり、発光強度等の向上には限界があるものであった。この他、特許文献1に記載の緑色蛍光体は、樹脂、ゴム等に分散させて蛍光体層として使用するものであり、樹脂の劣化による発光ダイオード等のデバイスの発光強度の劣化や短寿命化を抑制することが難しいものであった。
更に、特許文献2に記載の緑色蛍光体は、類似サイトを2価イオン(Mg2+、Mn2+、Zn2+)および3価イオン(La3+、Tb3+)で構成しているため、結晶構造的に不安定であり、歪みが生じたり、異相が析出する場合があり、発光強度等の向上には限界があるものであった。
【0005】
一方、特許文献3には、青色又は紫外光を緑色光に変換させるためにLuAG:Ceを用いた有色及び白色光を生成する照明装置が開示されている。
更に、特許文献4には、ドープされたYAGタイプの蛍光体を有する多結晶セラミック構造の蛍光体であって、前記蛍光体が、非発光多結晶アルミナを有するセラミックマトリックスに埋め込まれ、前記セラミックマトリックスが、80乃至99.99vol.%のアルミナと、0.01乃至20vol.%の蛍光体とを有し、前記蛍光体が、(Lu1−x−y−a−bYxGdy)3(Al1−zGaZ)5O12:CeaPrbの組成を持ち、0<x≦1、0≦y<1、0≦z≦0.1、0≦a≦0.2、0≦b≦0.1且つa+b>0であるドープされたYAGである多結晶セラミックス構造の蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−68412号公報
【特許文献2】特開2005−89692号公報
【特許文献3】特表2009−539219号公報
【特許文献4】特表2008−533270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3には緑色光の変換材料としてLuAG:Ceを用いるという点、特許文献4には蛍光体の例として、LuAl12:Ce3+を用いるという点が開示されているに過ぎず、LuAG:Ceを素材とした緑色蛍光体として発光強度や寿命等の特性を向上させるには更なる改良が必要であった。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、LuAG:Ceを素材とした緑色蛍光体として発光強度や寿命等の特性を向上させることができる緑色蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る緑色蛍光体は、AlNからなる第1相と、Ceを含有するLuAGからなる第2相とを有する無機材料で構成された緑色蛍光体であって、前記第2相の含有量は、前記第1及び第2相を含む相全体における体積比で25vol%以上95vol%以下であり、かつ、前記LuAG中のCeの含有量は、Luに対する原子比(Ce/Lu)で0.003以上0.03以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る緑色蛍光体は、AlNからなる第1相と、Ceを含有するLuAGからなる第2相とを有する無機材料で構成された緑色蛍光体であって、前記第2相の含有量は、前記第1及び第2相を含む相全体における体積比で80vol%以上95vol%以下であり、かつ、前記LuAG中のCeの含有量は、Luに対する原子比(Ce/Lu)で0.001以上0.03以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、LuAG:Ceを素材とした緑色蛍光体として発光強度や寿命等の特性を向上させることができる緑色蛍光体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る緑色蛍光体の外観の一例を示す概念斜視図である。
【図2】図1に示す緑色蛍光体をA−A線で切ったときの断面SEM写真である。
【図3】本試験における緑色蛍光体の光特性の測定方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る緑色蛍光体を、実施の形態及び実施例を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る緑色蛍光体の外観の一例を示す概念斜視図であり、図2は、図1に示す緑色蛍光体をA−A線で切ったときの断面SEM写真である。
【0014】
本発明に係る緑色蛍光体1は、図1、2に示すように、例えば板状体で構成され、AlNからなる第1相3と、Ceを含有するLuAG(ルテチウム・アルミニウム・ガーネット:LuAl12)からなる第2相(蛍光体相)5とを有する無機材料で構成され、前記第2相5の含有量は、前記第1相3及び前記第2相5を含む相全体における体積比で25vol%以上95vol%以下であり、かつ、前記第2相5における前記LuAG中のCeの含有量は、Luに対する原子比(Ce/Lu)で0.003以上0.03以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る緑色蛍光体1は、前記第2相5の含有量は、前記第1相3及び前記第2相5を含む相全体における体積比で80vol%以上95vol%以下であり、かつ、前記第2相5における前記LuAG中のCeの含有量は、Luに対する原子比(Ce/Lu)で0.001以上0.03以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る緑色蛍光体は、上述したような構成を備えているため、LuAG:Ceを素材とした緑色蛍光体として発光強度や寿命等の特性を向上させることができる。
【0017】
前記第2相5の含有量が体積比で25vol%未満である場合には、第2相5の体積比が低いため励起光として用いる青色光(例えば、青色LED光)の一部が第2相5で波長変換されずにそのまま第1相3を透過してしまうため、色むらが発生し好ましくない。前記含有量が体積比で95vol%を超える場合には、第2相5の体積比が大きく、光分散相となる第1相3の体積比が小さいため、緑色蛍光体1内における前記青色光の光分散が不十分となるため、緑色蛍光体1の面内で緑色光への波長変換量にばらつきが生じ、色むらが発生するため好ましくない。また、第1相3の体積比が極端に少なくなるため、熱伝導率が小さくなり、発光素子の放熱性が低下し、発光素子の寿命が低下するため好ましくない。
【0018】
また、第2相5の含有量が体積比で25vol%以上95vol%以下である場合において、前記第2相5におけるLuAG中のCeの含有量がLuに対する原子比(Ce/Lu)で0.003未満である場合には、第2相5内のCeの含有量が少ないため、Ceによる波長変換量が少なくなり、青色光の一部が第2相5で波長変換されずにそのまま第1相3を透過してしまうため、色むらが発生し好ましくない。前記原子比(Ce/Lu)が0.030を超える場合には、Ceの含有量が高くなるためLuAGに固溶できないCeが偏析する場合があり、発光強度が低下するため好ましくない。
【0019】
なお、前記第2相5の含有量が体積比で80vol%以上95vol%以下である場合は、前記第2相5におけるLuAG中のCeの含有量が原子比(Ce/Lu)で0.001以上であっても、本発明と同様な効果を得ることができる。
これは、第2相5内のCeの含有量は少ないものの、第2相5の体積比が大きいため、青色光のCeによる波長変換を十分に行うことができ、かつ、第2相5内でCeによって乱反射されるため、上述したような原子比(Ce/Lu)が0.003未満である場合に発生する色むらは抑制されるものと考えられる。
なお、原子比(Ce/Lu)が0.001未満である場合には、第2相5の体積比が大きくても、第2相5内のCeの含有量が極端に少なくなるため、Ceによる波長変換量が極端に少なくなり、色むらが発生するため好ましくない。
【0020】
また、第2相を構成するCeを含有するLuAG粒子の粒径は、0.5μm以上10.0μm以下であり、かつ、光出射面における表面粗さ(Ra)は、0.1μm以上1.00μm以下であることが好ましい。
このような構成を備えているため、LuAG:Ceを素材とした緑色蛍光体として発光強度や寿命等の特性をさらに向上させることができる。
【0021】
前記第2相を構成するCeを含有するLuAG粒子の粒径が0.5μmよりも小さいとYAG粒子の結晶性が低く、発光強度が低くなるおそれがある。一方、10.0μmよりも大きいと、蛍光層内での発光分布が生じ、これにより色ムラが生じるおそれがある。
なお、ここでいう粒子径とはインターセプト法により算出した平均結晶粒径のことを示している。測定試料の一部を鏡面研磨後、大気中1500℃にて3時間サーマルエッチングした後、微構造を光学顕微鏡にて観察し、インターセプト法により平均結晶粒径を算出したものである。
【0022】
光出射面における表面粗さ(Ra)が0.1μmよりも小さいと、光出射面において全反射する光の割合が増加するため、取り出し効率が低下し発光強度が低下するおそれがある。一方、表面粗さ(Ra)が1μmよりも大きいと、機械的強度が低下するばかりでなく、色ムラが生じるおそれがある。
なお、ここでいう表面粗さ(Ra)は、JIS B 0601−2001に基づき、テーラーホブソン社製の表面形状粗さ測定器フォームタリサーフPGI830を用いて測定したものである。
【0023】
尚、上述した含有量については、緑色蛍光体1内における不可避的な不純物成分の混入を排除するものではないが、Fe、Crなどの金属不純物の総量は100ppm以下とすることが好ましい。
これによって、発光強度の低下や色むらの発生をより抑制することができ、また、発光ピーク波長の制御がより容易となるため好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により限定解釈されるものではない。
【0025】
(試験1)
平均粒径1.1μm、純度99.9%の酸化セリウム粉末、平均粒径1.2μm、純度99.9%の酸化ルテチウム粉末、平均粒径0.3μm、純度99.9%の窒化アルミニウム粉末、エタノール、アクリル系バインダーを添加し酸化アルミニウムボールを用いたボールミルによって20時間の混合を行って、得られたスラリからスプレードライヤを用いて造粒粉を作製した。この際、酸化セリウム粉末、酸化ルテチウム粉末及び窒化アルミニウム粉末の量を調整して、緑色蛍光体の相全体中のLuAG:Ce含有量の異なる造粒粉を複数作製した。
【0026】
次に、作製した造粒粉を10MPaで一軸金型成形、100MPaで冷間静水圧成形(CIP)を行って成形体とした。得られた成形体を、大気中600℃で脱脂後、真空雰囲気下1700℃(LuAG:Ce/AlN)で焼結した。
【0027】
得られた焼結体に対して、アルキメデス法により嵩密度(JIS C 2141)を測定後、その一部を粉砕し、乾式自動密度計(島津製作所製アキュピック1330)にて、真密度を測定した。また、一部を洗浄後、Lu、Al、Ce濃度をICP発光分光分析法にて測定した。また、一部を粉末X線回析により、結晶相を調査した。焼結体の密度、Lu濃度、Al濃度およびCe濃度、結晶相の測定結果をもとに、相全体中のAlNの含有量(第1相3の含有量)及びLuAG:Ceの含有量(第2相5の含有量)をそれぞれ体積比で計算し、また、第2相5におけるCe/Lu原子比を計算した。このときLuAG:Ce、AlNの密度は、それぞれ6.69g/cm、3.99g/cmとして計算に使用した。
【0028】
また、得られた焼結体の一部をφ10×2mmに加工後、レーザフラッシュ法により熱伝導率を測定した。
なお、熱伝導率は放熱効果の点から10W/(m・K)以上を目標とし、15W/(m・K)以上の場合を○(良)、10W/(m・K)以上15W/(m・K)未満の場合を△(可)、10W/(m・K)未満の場合を×(不可)として判別した。
【0029】
図4は、本試験における緑色蛍光体の光特性の測定方法を説明する概略図である。
本試験における光特性は、得られた焼結体を□1mm×0.2mmの試料20に加工後、青色LED素子(発光領域:□1mm、発光波長:@460nm)22上にシリコーン樹脂で固定した。LED前方に検出器(オーシャンオプティクス社製USB4000 ファイバマルチチャンネル分光器)24を設置し、発光スペクトルを測定した。得られたスペクトルから発光ピーク波長、発光強度を算出した。また、焼結体の前方および側方より色むらを観察し、色むらの○(良)、×(不可)を判別した。
【0030】
発光強度はLuAG:Ce蛍光体((Ce/Lu)=0.01)の測定結果を100とし、110以上の場合を○(良)、100以上110未満の場合を△(可)、100未満の場合を×(不可)とした。
【0031】
また、総合評価として、発光強度、色むら、熱伝導率の各項目について、○(良)が2個以上の場合は○(良)、×(不可)が1個でもある場合は×(不可)、その他を△(可)と判別した。
以上の試験1の結果をまとめて表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、緑色蛍光体の相全体におけるLuAG:Ceの含有量(第2相の含有量)が体積比で25vol%以上95vol%以下とすることで、緑色光の波長領域内で発光強度及び熱伝導率が向上し、かつ、色むらが発生しない緑色蛍光体が得られることが認められる。
【0034】
(試験2)
試験1の結果に基づいて、次に、酸化セリウム粉末、酸化ルテチウム粉末及び窒化アルミニウム粉末の量を調整して、緑色蛍光体中のLuAG:Ceの含有量及びCe/Lu原子比の異なる平均粒径50μmの造粒粉を複数作製した。
【0035】
さらに、得られた焼結体に対して、試験1と同様な方法で、相全体中のAlNの含有量(第1相3の含有量)、LuAG:Ceの含有量(第2相5の含有量)及び第2相5におけるCe/Lu原子比に対する発光ピーク波長、発光強度、色むら、熱伝導率をそれぞれ評価し、判別した。
以上の試験2の結果をまとめて表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、第2相5におけるCe/Lu原子比が0.003以上0.03以下である場合に、緑色光の波長領域内で発光強度及び熱伝導率が向上し、かつ、色むらが発生しない緑色蛍光体が得られることが認められる。また、LuAG:Ceの含有量(第2相の含有量)が体積比で80vol%以上95vol%以下である場合は、第2相5におけるCe/Lu原子比が0.001以上で、同様な効果が得られることが認められる。
【0038】
また、表1及び表2での実施例において、第2相を構成するCeを含有するLuAG粒子の粒径を0.3、0.5、3.2、4.8、10、22に変化させて設定した場合、0.5、3.2、4.8、10のときに、更に発光強度が向上したのが確認された。
【0039】
さらに、表1及び表2での実施例において、出射面における表面粗さ(Ra)を、0.02、0.1、0.5、1.0、1.2に変化させて設定した場合、0.1、0.5、1.0のときに、更に発光強度が向上したのが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1 緑色蛍光体
3 第1相
5 第2相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlNからなる第1相と、Ceを含有するLuAGからなる第2相とを有する無機材料で構成された緑色蛍光体であって、
前記第2相の含有量は、前記第1及び第2相を含む相全体における体積比で25vol%以上95vol%以下であり、かつ、前記LuAG中のCeの含有量は、Luに対する原子比(Ce/Lu)で0.003以上0.03以下であることを特徴とする緑色蛍光体。
【請求項2】
AlNからなる第1相と、Ceを含有するLuAGからなる第2相とを有する無機材料で構成された緑色蛍光体であって、
前記第2相の含有量は、前記第1及び第2相を含む相全体における体積比で80vol%以上95vol%以下であり、かつ、前記LuAG中のCeの含有量は、Luに対する原子比(Ce/Lu)で0.001以上0.03以下であることを特徴とする緑色蛍光体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate