説明

線条体用アキュムレータ

【課題】 線条体の入出線状態にかかわらず、線条体にかかる張力を一定に保つことができる線条体用アキュムレータを提供する。
【解決手段】 アキュムレータ6は、固定シーブ12と、この固定シーブ12に対して近接・離隔可能な移動シーブ14と、移動シーブ14を固定シーブ12に対して離隔する方向に牽引する牽引ユニット15と、移動シーブ14の移動方向を検出する回転計19と、コントローラ20とを有している。固定シーブ12及び移動シーブ14は、スロット9をガイドするものである。コントローラ20は、スロット9の入出線状態(平衡、放線、貯線)に応じてスロット9にかかる張力を一定にするための牽引力データを予め記憶しておき、回転計19の検出信号からスロット9の入出線状態を判断し、そのスロット9の入出線状態に対応する牽引力データに従って牽引ユニット15のモータ18のトルクを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルや電線等の線条体を貯線するための線条体用アキュムレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の線条体用アキュムレータとしては、例えば特許文献1に記載されているように、電線等をガイドする固定シーブ及び移動シーブを有する貯線部と、移動シーブを牽引する牽引部と、固定シーブの出線側に配設され、ダンサーと緩衝シリンダとからなる張力付与部とを備えたものが知られている。
【特許文献1】特開2001−291442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、電線等に一定の張力を付与する張力付与部を備えているが、この張力付与部だけでは、電線等の貯線・放線が繰り返し行われる場合に、電線等に付与する張力を一定に保つように高精度に制御することは困難である。
【0004】
本発明の目的は、線条体の入出線状態にかかわらず、線条体にかかる張力を一定に保つことができる線条体用アキュムレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、線条体を供給する際に線条体を一時的に貯線するための線条体用アキュムレータにおいて、線条体を入出線するようにガイドする固定シーブと、固定シーブに対して近接・離隔自在に設けられ、線条体を貯線するようにガイドする移動シーブと、移動シーブを固定シーブに対して離隔する方向に牽引する牽引ユニットと、移動シーブの移動方向を検出する検出手段と、移動シーブの移動方向に基づいて線条体の入出線状態を判断し、線条体の入出線状態に応じて線条体にかかる張力が一定になるように牽引ユニットの牽引力を制御する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0006】
このような線条体用アキュムレータを介して線条体を供給する場合には、線条体を固定シーブ及び移動シーブに掛けて入出線させると共に、牽引ユニットにより移動シーブを牽引する。その状態で、移動シーブが固定シーブに対して離隔する方向に移動すると、線条体が貯線され、移動シーブが固定シーブに対して近接する方向に移動すると、線条体が放線される。なお、線条体の入出線が平衡している通常時には、移動シーブは静止している。ここで、本発明の線条体用アキュムレータでは、上記の検出手段及び制御手段が具備されている。従って、まず移動シーブの移動方向が検出され、この検出結果から線条体の入出線状態(平衡状態、放線状態、貯線状態のいずれか)が判断され、その線条体の入出線状態に応じて線条体にかかる張力が一定になるように牽引ユニットの牽引力が制御される。これにより、線条体の入出線状態にかかわらず、線条体にかかる張力を確実に一定に保つことができる。
【0007】
好ましくは、制御手段は、線条体の入出線状態に応じて線条体にかかる張力を一定にするための牽引力データを予め記憶しておき、線条体の入出線状態を判断した後、線条体の入出線状態に対応する牽引力データを読み込み、当該牽引力データに従って牽引ユニットの牽引力を制御する。これにより、検出手段の検出結果に基づいて牽引ユニットの牽引力を制御する際に、線条体にかかる張力を一定にするための牽引力をいちいち計算して求める必要がないため、制御手段の制御処理を簡素化することができる。
【0008】
また、好ましくは、牽引ユニットは、移動シーブに接続された牽引線と、牽引線を巻き取る巻取機と、巻取機を回転駆動させるモータとを有し、制御手段は、線条体の入出線状態に応じて線条体にかかる張力が一定になるようにモータのトルクを制御する手段である。この場合には、牽引ユニットの構成を簡単化しつつ、牽引ユニットの牽引力を確実に制御することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、線条体の入出線状態に関係なく、線条体に対して一定の張力を付与することができる。これにより、線条体の品質低下を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係わる線条体用アキュムレータの好適な実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明に係わる線条体用アキュムレータの一実施形態を備えたスロット製造装置を示す概略構成図である。同図において、スロット製造装置1は、光ファイバケーブルの溝付きスロットを製造する装置である。溝付きスロットは、図示はしないが、抗張力体をポリエチレン等の樹脂で被覆してなる線条体である。なお、スロットの外周面には、光ファイバ心線を収容するための螺旋溝が形成されている。
【0012】
スロット製造装置1は、供給ボビン2と、供給キャプスタン3と、押出機4と、引取キャプスタン5と、アキュムレータ6と、巻取ボビン7とを有している。供給ボビン2には、抗張力体8が巻き付けられている。供給キャプスタン3は、供給ボビン2から抗張力体8を繰り出して走行させる。押出機4は、走行中の抗張力体8に対して樹脂を供給して、溝付きスロット9を成形する。引取キャプスタン5は、成形された溝付きスロット9を走行させる。この溝付きスロット9は、ローラ10a、アキュムレータ6及びローラ10bを介して巻取ボビン7に巻き取られる。
【0013】
アキュムレータ6は、溝付きスロット9を巻取ボビン7に供給する際に、用途に応じてスロット9を一時的に貯線するものである。具体的には、巻取ボビン7の交換時に、ラインを停止させることなく連続運転を行う場合や、何らかの理由によりラインの巻取のみを停止させる必要がある場合に、スロット9を貯線しておき、作業終了後スロット9を放線する。
【0014】
アキュムレータ6は、図2に示すように、基台11上に固定された固定シーブ12と、基台11上にレール13等を介して摺動自在に設けられ、固定シーブ12に対して近接・離隔可能な移動シーブ14と、移動シーブ14を固定シーブ12に対して離隔する方向に牽引する牽引ユニット15とを有している。
【0015】
固定シーブ12は、溝付きスロット9を入出線するようにガイドし、移動シーブ14は、溝付きスロット9を貯線するようにガイドする。ここで、移動シーブ14が固定シーブ12に対して離隔させる方向(矢印A方向)に移動すると、溝付きスロット9が貯線され、移動シーブ14が固定シーブ12に対して近接させる方向(矢印B方向)に移動すると、溝付きスロット9が放線される。移動シーブ14は、予め設定された近点位置Pと遠点位置Qとの間を移動する。
【0016】
牽引ユニット15は、移動シーブ14に接続固定された牽引線(ワイヤーロープ)16と、この牽引線16を巻き取る巻取機17と、この巻取機17を回転駆動させるモータ18とを有している。
【0017】
また、アキュムレータ6は、図2に示すように、巻取機17の回転方向を検出することにより、移動シーブ14の移動方向を検出する回転計19と、この回転計19の検出信号に基づいて所定の処理を行い、牽引ユニット15のモータ18を制御するコントローラ20とを更に有している。なお、移動シーブ14の移動方向を検出する手段としては、特に回転計19に限られず、例えば距離センサや位置センサ等を使用しても良い。
【0018】
コントローラ20のメモリ(図示せず)には、溝付きスロット9の入出線状態に応じてスロット9にかかる張力を一定にするための牽引力データが予め記憶されている。ここで、溝付きスロット9の入出線状態としては、上記の貯線状態及び放線状態と、スロット9の入線速度と出線速度が釣り合って移動シーブ14が静止する平衡状態とがある。なお、実際には図示しない巻取制御手段によって溝付きスロット9の巻取速度が制御されているため、移動シーブ14が完全に静止することは少ない。このため、移動シーブ14の僅かな動きは静止状態とみなすこととする。
【0019】
また、牽引力とは、牽引ユニット15により移動シーブ14を牽引する力であり、モータ18のトルクで決まるものである。ここで、平衡時にスロット9にかかる張力T、放線時にスロット9にかかる張力T、貯線時にスロット9にかかる張力Tは、牽引ユニット15の牽引力Tmを用いて下記のように求められる。なお、Rcは移動シーブ14の移動抵抗であり、Rbは牽引ユニット15のベース抵抗(メカロス)である。
平衡時張力:T=Tm …(1)
放線時張力:T=Tm+Rc+Rb …(2)
貯線時張力:T=Tm−Rc−Rb …(3)
【0020】
従って、貯線時、放線時、平衡時にスロット9にかかる張力を全て一定値Tにするための牽引力Tm〜Tmは、上記(1)〜(3)式を用いて下記のように求められる。
平衡時牽引力:Tm=T …(4)
放線時牽引力:Tm=T−Rc−Rb …(5)
貯線時牽引力:Tm=T+Rc+Rb …(6)
【0021】
そこで、コントローラ20のメモリ(図示せず)には、各牽引力Tm〜Tmのデータを記憶しておく。なお、スロット9にかかる張力T、移動抵抗Rc、ベース抵抗Rbについては予め決定ないし測定しておき、これらを用いて各牽引力Tm〜Tmを計算し、メモリに記憶させる。
【0022】
コントローラ20によるモータ18の制御処理手順の詳細を図3に示す。同図において、まず回転計19の検出信号を入力し(手順101)、この検出信号から溝付きスロット9の入出線状態(平衡状態、放線状態、貯線状態のいずれか)を判断する(手順102)。
【0023】
このとき、スロット9が平衡状態と判断されたときは、牽引力Tmをメモリから読み込み(手順103)、スロット9が放線状態と判断されたときは、牽引力Tmをメモリから読み込み(手順104)、スロット9が貯線状態と判断されたときは、牽引力Tmをメモリから読み込む(手順105)。そして、牽引力Tm〜Tmに対応するモータ指令信号を求め、このモータ指令信号をモータ18に送出し、モータ18のトルクを制御する(手順106)。
【0024】
以上のように構成したスロット製造装置1において、通常はアキュムレータ6の移動シーブ14がほぼ静止している状態で、巻取ボビン7に溝付きスロット9が連続的に巻き取られる。巻取ボビン7の交換を行う場合には、アキュムレータ6からの溝付きスロット9の出線を停止させる。すると、移動シーブ14が遠点位置に向かって矢印A方向に移動し、溝付きスロット9が貯線される。その後、巻取ボビン7の交換が完了し、アキュムレータ6からの溝付きスロット9の出線を再開させると、移動シーブ14が近点位置に向かって矢印B方向に移動し、溝付きスロット9が放線される。そして、通常の溝付きスロット9の巻取動作に戻る。
【0025】
一方、図4に示すように、溝付きスロット9の貯線及び放線に関わらず、牽引ユニット15の牽引力(モータ18のトルク)が常に同じである場合には、上記(1)〜(3)式より、移動シーブ14の移動抵抗及び牽引ユニット15のベース抵抗に起因して、貯線時にスロット9にかかる張力よりも放線時にスロット9にかかる張力のほうが大きくなる。このようにスロット9の貯線時と放線時とでスロット9にかかる張力が異なると、巻取ボビン7にスロット9を巻き付ける時の張力が変動するので、スロット9の品質劣化につながることがある。
【0026】
これに対し本実施形態では、上記(4)〜(6)式の通り、溝付きスロット9の平衡時と放線時と貯線時とで牽引ユニット15の牽引力(モータ18のトルク)を変えるようにしたので、上記の巻取ボビン7の交換時等には、図5に示すように牽引ユニット15の牽引力が変化するようになる。これにより、溝付きスロット9の貯線及び放線にかかわらず、スロット9にかかる張力が確実に一定に保たれるようになる。従って、溝付きスロット9の巻取時には、スロット9が巻取ボビン7に一定張力で巻き付けられるので、スロット9の品質劣化を防止することが可能となる。
【0027】
このとき、コントローラ20は、溝付きスロット9の入出線状態に応じて牽引ユニット15の牽引力を補正するときに、牽引力を滑らかに(例えば5〜10秒ぐらいで)変化させるように制御するのが望ましい。これにより、溝付きスロット9にかかる張力の急激な変化を避けることが可能となる。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態のアキュムレータはスロット製造装置1に具備されたものであるが、本発明のアキュムレータは、特に光ファイバケーブル用のスロットに限られず、光ファイバ心線を有する光ファイバケーブル、電線や電気ケーブル等といった種々の線条体に対して適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係わる線条体用アキュムレータの一実施形態を備えたスロット製造装置を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す線条体用アキュムレータの概略構成図である。
【図3】図2に示すコントローラによるモータの制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図4】従来の線条体用アキュムレータにおいて設定される牽引ユニットの牽引力を示すグラフである。
【図5】図2に示す線条体用アキュムレータにおいて設定される牽引ユニットの牽引力を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
6…線条体用アキュムレータ、9…溝付きスロット(線条体)、12…固定シーブ、14…移動シーブ、15…牽引ユニット、16…牽引線、17…巻取機、18…モータ、19…回転計(検出手段)、20…コントローラ(制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条体を供給する際に前記線条体を一時的に貯線するための線条体用アキュムレータにおいて、
前記線条体を入出線するようにガイドする固定シーブと、
前記固定シーブに対して近接・離隔自在に設けられ、前記線条体を貯線するようにガイドする移動シーブと、
前記移動シーブを前記固定シーブに対して離隔する方向に牽引する牽引ユニットと、
前記移動シーブの移動方向を検出する検出手段と、
前記移動シーブの移動方向に基づいて前記線条体の入出線状態を判断し、前記線条体の入出線状態に応じて前記線条体にかかる張力が一定になるように前記牽引ユニットの牽引力を制御する制御手段とを備えることを特徴とする線条体用アキュムレータ。
【請求項2】
前記制御手段は、前記線条体の入出線状態に応じて前記線条体にかかる張力を一定にするための牽引力データを予め記憶しておき、前記線条体の入出線状態を判断した後、前記線条体の入出線状態に対応する前記牽引力データを読み込み、当該牽引力データに従って前記牽引ユニットの牽引力を制御することを特徴とする請求項1記載の線条体用アキュムレータ。
【請求項3】
前記牽引ユニットは、前記移動シーブに接続された牽引線と、前記牽引線を巻き取る巻取機と、前記巻取機を回転駆動させるモータとを有し、
前記制御手段は、前記線条体の入出線状態に応じて前記線条体にかかる張力が一定になるように前記モータのトルクを制御する手段であることを特徴とする請求項1または2記載の線条体用アキュムレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−117380(P2006−117380A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307259(P2004−307259)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】