説明

線維細胞への分化の検出方法、線維症を抑制する組成物および方法

【課題】腎臓標的部位での線維細胞形成を抑制するのに有用な線維細胞抑制組成物、及び該組成物の使用方法の提供。
【解決手段】腎臓標的部位での線維細胞形成を抑制するのに十分な量の、Fcγ受容体に結合して単球から線維細胞への分化を阻害する、血清アミロイドP(SAP)またはその部分を含む線維細胞抑制組成物、および該組成物の使用方法。これらの方法は、強皮症や喘息などの線維性疾患の治療および予防を含む様々な適用例においても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単球から線維細胞への分化を抑制するSAPの能力に関する。したがって、本発明は、そのような分化を抑制するための組成物および方法を含む。これらの組成物および方法は、線維性疾患および喘息の治療など、線維細胞形成の低減が有益な様々な適用例で有用となり得る。本発明は、さらに、単球の線維細胞への分化能力の問題またはSAPがこの分化を抑制する問題を検出する方法を含む。これらの問題は、疾患と相互に関係していてもよいし、薬物によって誘発されたものでもよい。
【背景技術】
【0002】
線維細胞
炎症は、組織外傷または感染に対する協調応答である。開始事象は、白血球遊走因子の局所での放出、血小板の活性化、ならびに凝集および補体経路の開始を媒介とする。これらの事象が局所内皮を刺激して、好中球および単球の血管外遊出を促進する。炎症の第二相は、リンパ球を含む適応免疫系細胞の組織への流入を特徴とする。その後の消散相は、過剰白血球のアポトーシスおよび組織マクロファージによる抱き込みが起こるときには、線維芽細胞などの間質細胞による組織損傷の修復も特徴とする。
【0003】
慢性の炎症では、炎症細胞の保存、線維芽細胞過形成、および最終的な組織破壊を伴い、炎症病変の消散が異常をきたす。これらの事象をもたらす機序は複雑であるが、細胞の動員、生存、および保持の増強、ならびに遊走障害を含む。
【0004】
創傷病巣の修復を司り、または他の線維性応答で役割をもつ線維芽細胞の供給源については議論の最中にある。従来の仮説では、局所の静止線維芽細胞が、患部に移動し、細胞外マトリックスタンパク質を産生し、創傷の収縮または線維化を促進することが示唆されている。もう1つの仮説は、血液内に存在する循環線維芽細胞前駆細胞(線維細胞と呼ぶ)が、外傷部位または線維化部位に遊走し、そこで分化し、組織修復および他の線維性応答を媒介するというものである。
【0005】
線維細胞は、CD14+末梢血単球前駆体集団から分化することが知られている。線維細胞は、造血細胞(CD45、MHCクラスII、CD34)および間質細胞(コラーゲンI型およびIII型、フィブロネクチン)の両方のマーカーを発現させる。成熟線維細胞は、組織外傷部位にすばやく侵入し、そこで炎症性のサイトカインを分泌する。線維細胞は、線維症を結果として生じ得る細胞外マトリックスタンパク質、他のサイトカイン、および血管原性前駆分子を分泌することもできる。
【0006】
CD14+単球からの線維細胞への分化を抑制する機序は、本発明以前には広く知られていなかった。しかし、線維細胞への分化の制御は、多くの疾患および過程の制御において重要でありそうである。線維細胞は、様々な過程、ならびに強皮症、ケロイド性瘢痕化、リウマチ様関節炎、狼瘡、腎性線維性皮膚障害(nephrogenic fibrosing dermopathy)、および特発性肺線維症を含む疾患と関係している。線維細胞は、マウスにおける日本住血吸虫感染後の線維性病変の成立で役割を果しており、自己免疫疾患に随伴する線維症にも関与する。線維細胞は、放射線による損傷と関係のある病原性線維症、ライム病、および肺線維症とも関連付けられている。CD34+線維細胞は、膵炎および間質性線維症における間質の再構築とも関連付けられており、一方この種の線維細胞の欠乏は、膵臓腫瘍および腺癌と関連している。線維症は、線維細胞が筋線維芽細胞へとさらに分化するときに、喘息患者、ならびにことによると慢性閉塞性肺疾患などの他の肺疾患でも付加的に起こる。
【0007】
血清アミロイドP
線維細胞が役割を担う過程および疾患の範囲の広さを考えると、末梢血単球から線維細胞への分化を調節する機構は、非常に興味深いものである。本発明の態様は、単球からの末梢血線維細胞への分化が、血清および血漿中の因子によって抑制されるという発見に基づく。ヒト血漿を分別すると、この因子が血清アミロイドP(SAP)として同定された。SAPは、C反応性タンパク質(CRP)を含む、タンパク質のペントラキシンファミリーのメンバーであり、肝臓によって分泌され、安定な五量体として血中を循環する。SAPの正確な役割は未だ不明であるが、免疫応答の開始相および消散相の両方で役割を担うと思われる。SAPは、細菌表面上の糖残基に結合し、そのオプソニン作用をもたらし、抱き込まれる。またSAPは、免疫応答の消散時に、アポトーシス細胞によって生成される遊離のDNAおよびクロマチンに結合し、そうして二次炎症性応答を防ぐ。FcγRI(CD64)およびFcγRII(CD32)が優先されるが、SAPが古典的Fcγ受容体(FcγR)の3種すべてに結合できるために、SAPが結合した分子は、細胞外区域から除去される。受容体への結合後、SAPおよび結合相手の分子は、おそらくは細胞に抱き込まれる。
【0008】
FcγRは、IgGが広範な造血細胞に結合するのに必要である。末梢血単球は、CD64およびCD32を発現させ(単球の亜集団はCD16を発現させる)、組織マクロファージは、3種すべての古典的FcγRを発現させる。病原体に結合し、または免疫複合体の部分として結合したIgGによって単球上のFcγRがクラスターを形成すると、広範な生化学事象が開始される。受容体の集合に続く最初の事象は、一連のsrcキナーゼタンパク質の活性化を含む。単球では、これらには、lyn、hck、およびfgrが含まれ、これらが、FcγRIおよびFcγRIIIに関連するFcR−γ鎖のITAMモチーフ上、またはFcγRIIの細胞質ドメインのITAMモチーフ上にあるチロシン残基をリン酸化する。リン酸化を受けたITAMは、sykを含む第2セットのsrcキナーゼによって結合されることになる。sykは、IgGに覆われた粒子に対する食作用にとって極めて重要であることがわかっている。しかし、非造血細胞中のsykの分布が広いこと、ならびにsykが、インテグリンおよびGタンパク質共役型受容体の両方のシグナル伝達に関与するという証拠は、この分子が多くの機能を有することを示唆している。
【0009】
SAPおよびCRPはどちらも、食作用を増強し、様々な細胞上のFcγ受容体に結合する。CRPは、FcγRII(CD32)に高い親和性で結合し、FcγRI(CD64)に低い親和性で結合するが、FcγRIII(CD16)は結合しない。SAPは、FcγRIおよびFcγRII、特にFcγRIに優先的に、3種すべての古典的Fcγ受容体に結合する。CRPのFcγRへの結合についての各所見は一致していないが、SAPおよびCRPはどちらも、Fc受容体に結合し、FcγRの結合と一致する細胞内シグナル伝達事象を開始することがわかっている。
【0010】
ヒト血清では、男性は通常、約32μg/ml+/−7μg/mlのSAPを有し、12〜50μg/mlの範囲が正常である。女性は一般に、血清中に約24μg/ml+/−8μg/mlのSAPを有し、8〜55μg/mlの範囲が正常である。ヒトの大脳脊髄液中には、男性では通常約12.8ng/ml、女性では約8.5ng/mlのSAPが存在する。男性と女性のデータを合わせると、ヒト血清中の正常SAPレベルは、26μg/ml+/−8μg/mlであり、12〜55μg/mlの範囲が正常である。(上記血清レベルは、平均+/−標準偏差として示してある。)
【0011】
IL−12
本発明の他の態様は、新たに発見された、単球による線維細胞形成を抑制するIL−12の能力に関する。IL−12は、以前から線維症および線維性疾患と関連付けられているが、ほとんどの研究は、IL−12のTh1免疫応答の促進における役割、またはインターフェロンγ産生の誘発による役割に焦点を当てている。線維細胞形成に対するIL−12の直接の作用は、これまで認められていないようである。
【0012】
ラミニン−1
本発明のさらに別の態様は、新たに発見された、単球の線維細胞への分化を抑制するラミニン−1の能力に関する。ラミニンは、単球の循環から組織への移動に関与する細胞外マトリックスタンパク質である。
【0013】
白血球が組織に侵入するためには、ラミニンが、血管壁の内皮細胞および周囲の基底膜を通り抜けなければならない。この過程は、白血球をその内皮細胞上に拘束し、回転させ、停止させるものである。内皮細胞に付着した後、白血球は内皮細胞間を通り、血管壁を抜けて組織へと渡る。細胞が血管壁を通過する血管外遊走の過程は、細胞の表現型および機能を変更する。
【0014】
これらの事象は、インテグリンを含む一連の細胞表面接着受容体によって制御される。インテグリンは、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、およびラミニンなどの細胞外マトリックスタンパク質(ECM)を含む広範な種類のリガンドに結合する。マトリックスタンパク質は、血管壁の基底内に存在しており、これにラミニンが含まれる。ラミニンは、糖タンパク質の大きな一ファミリーであり、α鎖、β鎖、およびγ鎖からなるヘテロ三量体構造を有する。異なるα鎖、β鎖、およびγ鎖を使用すると、少なくとも12種の異なるラミニンアイソフォームが発現される。種々の発育段階、および種々の体内部位で異なるラミニンが発現される。
【0015】
強皮症
本明細書に記載の調査では、強皮症(全身性硬化症)患者の血清が、正常な患者の血清ほど、単球からの線維細胞への分化を抑制し得ないことが発見された。さらに、強皮症患者は、循環SAPのレベルがより低いことがわかった。
【0016】
強皮症は、ある範囲の症状を伴う遺伝性でも感染性でもない疾患である。強皮症は、皮膚および内部の臓器で、線維芽細胞を含む瘢痕組織が形成されるものである。線維芽細胞の起源はわかっていない。強皮症の軽度または初期の症例では、皮膚の硬化、疲労、痛み、および寒さへの敏感さが見られる。より重度で後期の段階では、高血圧、皮膚潰瘍、関節動作困難、および肺の瘢痕化および腎不全による死が見られる。米国では約300,000人が強皮症に罹患している。この疾患は、狼瘡およびリウマチ様関節炎と類似点をもつ。臨床治験が行われていないので、強皮症のための療法または意味のある治療は存在せず、診断すら難しい。
【0017】
腎性線維性皮膚障害
腎性線維性皮膚障害(NFD)は、新たに認められた、強皮症様の皮膚の線維化状態である。この障害は、腎臓機能不全の患者で発症する。強膜の黄色斑および循環抗リン脂質抗体が、NFDのマーカーとして提案されている。NFDの紡錘細胞でCD34とプロコラーゲンに対する二重の免疫組織化学染色では、NFDの皮膚細胞が、真皮に動員された循環線維細胞であるかもしれないことが示唆された。したがって、線維細胞形成の抑制は、この疾患の症状を緩和し得る。
【0018】
喘息
喘息は、世界中で1億人以上が罹患しており、その罹患率は増加しつつある。喘息は、慢性の気道炎症によって引き起こされるようである。喘息の最も破壊的な側面の1つは、慢性の炎症に応答した気道の再造形である。この再造形は、線維症のために網状板(気道を取り巻く上皮下の網状基底膜)が肥厚するものである。次いで、厚くなった気道壁のために、気道の通路が圧迫されるようになる。
【0019】
喘息患者の肥厚した網状板は、コラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンV、フィブロネクチン、およびテネイシンなどの細胞外マトリックスタンパク質を異常に高いレベルで含む。これらのタンパク質の供給源は、筋線維芽細胞と呼ばれる特殊化したタイプの線維芽細胞のようである。
【0020】
喘息患者では、アレルゲンに曝してから4時間以内にCD34+/コラーゲンI+線維細胞が気管支粘膜の基底膜付近に蓄積する。アレルゲンに曝してから24時間後には、標識された単球/線維細胞が、筋線維芽細胞のマーカーであるα−平滑筋アクチンを発現させたことが観察されている。これらの所見は、喘息患者では、アレルゲンへの曝露が、血液の線維細胞を気管支粘膜に侵入させ、筋線維芽細胞に分化させ、次いで気道壁の肥厚を引き起こし、気道を塞ぐことを示唆している。さらに、単球化学誘引タンパク質1もしくはTGFβ−1をコードする遺伝子の調節領域に突然変異を有することと喘息の重症度とには相関がある。このことも、単球の動員および筋線維芽細胞の出現が喘息の合併症をもたらすことを示唆している。
【0021】
網状板の肥厚は、喘息を慢性気管支炎または慢性閉塞性肺疾患と区別し、喘息が従来の薬物療法によって抑制されているときでも見られる。気道壁の肥厚程度の増大は、重症の喘息と関連付けられる。網状板の肥厚を低減するための薬物療法または治療法はない。しかし、気道壁中に見られる筋線維芽細胞数を減少させると、肥厚を軽減し、またはそれ以上の肥厚の予防を手助けし得ると思われる。
【0022】
特発性肺線維症
特発性肺線維症(IPF)は、病因の不明な独特なタイプの慢性線維性肺疾患である。発病させる機序の次第はわかっていないが、この疾患は、上皮の外傷および活性化、特有の上皮下の線維芽細胞病巣/筋線維芽細胞病巣の形成、および過剰の細胞外マトリックスの蓄積を特徴とする。これらの病理学的な過程は通常、肺の構造に進行性かつ不可逆性の変化をもたらし、その結果、比較的短い期間で、進行性の呼吸器不全、さらにはほとんど例外なく末期の結果を招く。研究では、主として線維性応答を開始するための炎症の機序に焦点が当てられてきたが、最近の証拠からは、肺胞上皮の崩壊が根底の病原事象であることが強く示唆される。創傷治癒において線維細胞が担う役割、および喘息の気道壁肥厚化におけるその既知の役割を考えると、線維細胞の過剰産生をIPFと関連付けられそうに思われる。
【発明の開示】
【0023】
本発明は、単球からの線維細胞への分化を抑制する組成物および方法を含む。選択された実施形態では、SAP、IL−12、ラミニン−1、IgG凝集体、上記のもののいずれかの補因子、およびこれらの任意の組合せを供給することによって、目標とする位置での線維細胞への分化を抑制することができる(「SAP」、「IL−12」、および「ラミニン−1」の呼称は、本明細書では、所与の状況でそれがその用法から明らかに除外されない限り、これらタンパク質の機能性の断片も指す)。目標位置は、in vitroにあってもin vivoにあってもよい。in vivoでは、目標位置には、生物体全体またはその部分が含まれてもよいし、組成物は全身に投与してもよいし、臓器や組織などの特定の区域に限定してもよい。組成物には、直接に供給されるもの、または、例えば導入遺伝子を発現させて目標位置もしくは目標位置と同じ生物体中で生成されるものが含まれ得る。これらの組成物は、濃度を正常レベルよりも増大させ、またはその濃度を正常レベルにし、またはその正常な活性レベルを回復するのに十分な量で与えることができる。本来の産生を刺激し、または正常な分解を抑制することによって、これらの組成物のいくらかの濃度または活性を増大させることができる。
【0024】
単球からの線維細胞への分化を低減すると、数多くの線維性疾患、または線維症によって引き起こされる他の障害の症状を緩和することができる。
【0025】
本発明はまた、試料の、単球から線維細胞への分化を調節する能力を検出するためのアッセイを含む。一実施形態では、正常な単球を試料と共に供給する。試料は、正常なSAPを含んでよい。試料は、線維症患者などの患者に由来するSAPまたは生物学的な体液を含んでいてもよいし、あるいは潜在的な薬物を含んでいてもよい。別の実施形態では、試料は正常なSAPを含み、単球は、患者由来であり、異常なものでよい。どちらのタイプのアッセイでも、単球の線維細胞への分化に及ぼされる影響を正常な対照と比較して、正常なものと比べた、単球の分化の増加または減少を検出することができる。
【0026】
以下の図は、本明細書の部分であり、本発明のある側面をさらに実証するために含まれる。本発明は、これらの図面の1種または複数を本明細書で提供する詳細な説明と合わせて参照することによってより深く理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
単球の分化の抑制
線維化をもたらす事象の調節には、線維細胞の増殖および分化が関与する。線維細胞は、通常は組織外傷部位に侵入して、血管新生および創傷治癒を促進する、末梢血単球由来の線維芽細胞様細胞の特質的な集団である。血清または血漿の不在下でCD14末梢血単球を培養すると、線維細胞へと急速に分化する。この過程は72時間以内に起こり、血清または血漿の存在によって抑制される。線維細胞の急速な出現を抑制する血清中因子は、血清アミロイドP(SAP)である。さらに、線維性疾患の強皮症患者の一団は、血清の線維細胞への分化を抑制する能力が弱く、相応じて低レベルのSAPを示す。これらの結果は、循環または末梢組織中の低レベルのSAPが、線維症などの病理学的過程をもたらし、またはその中で役割を担うことを示唆している。単球分化アッセイでは、IL−12、ラミニン−1、および結合型IgG分子が単球から線維細胞への分化を抑制することも明らかになった。
【0028】
線維細胞形成の抑制因子の1種または複数を含有する組成物を使用して、特に、不適切な位置での線維症、および線維性障害および慢性の炎症状態における線維症を抑制することができる。組成物は、局所に適用しても、または全身に適用してもよい。特定の実施形態では、SAPを含有する組成物は、目標位置のSAP濃度を少なくとも約0.5μg/mlに上昇させることが可能となり得る。ヒトでは、アミロイド症の調査患者に、予めI125標識SAPを投与している。治療では、成人に約600μgのSAPを投与した。したがって、成人への約600μgのSAPの投与は安全である。適切な条件下では、より多い投与量も安全となり得る。
【0029】
本発明のある種の組成物の形で供給されるSAPには、SAPタンパク質全体またはその部分、好ましくは線維細胞形成の抑制において機能する部分が含まれ得る。好例となる実施形態では、SAPの機能性部分は、線維細胞の生成に対して影響を及ぼさない、CRPと配列相同性の関係にない領域から選択する。例えば、SAPのアミノ酸65〜89(KERVGEYSLYIGRHKVTPKVIEKFP−配列番号1)は、CRPと相同でない。アミノ酸170〜181(ILSAYAYQGTPLPA−配列番号2)および192〜205(IRGYVIIKPLV−配列番号3)も相同でない。さらに、2種のタンパク質間の単一アミノ酸によるいくつかの差異が知られており、機能の違いをもたらし得る。
【0030】
IL−12を含有する組成物は、目標とする位置のIL−12濃度を約0.1〜10ng/mlに上昇させることができる。ラミニン−1を含有する組成物は、目標位置のラミニン−1濃度を約1〜10μg/mlに上昇させることができる。凝集IgGを含有する組成物は、目標位置の凝集IgG濃度を約100μg/mlに上昇させることができる。組成物は、組み合わせて、または補因子と共に供給してもよい。組成物は、目標位置に正常に存在すれば、正常レベルを回復するのに十分な量で投与してもよいし、あるいは目標位置のレベルを正常より高いレベルに上昇させる量で投与してもよい。
【0031】
上記組成物は、外来供給源から目標位置に供給してもよいし、あるいは目標位置の細胞または目標位置と同じ生物体の細胞によってin vivoで生成されてもよい。これらの組成物は、生体液を含む提供された皮膚組織から単離することができる。これら組成物は、細菌、組織培養細胞、または当業界で知られている他の任意の種類の細胞もしくは組織、または完全体の動物中で組換えタンパク質として生成されてもよい。これら組成物は、合成によって、または当業界で知られている他の任意の方法によって生成してもよい。in vivoで生成する場合、これらの組成物は、導入遺伝子の発現産物でもよいし、または既存のin vivo供給源での産生を増強した結果として生じるものでもよい。これらの組成物のレベルは、目標位置で正常に存在する場合、正常な分解速度を下げることによって上昇させてもよい。さらに、例えば補因子を供給して、線維細胞への分化を抑制するこれらの組成物の能力を促進することも可能となり得る。
【0032】
本発明の組成物は、生理的に適切などんな製剤にしてもよい。組成物は、注射、吸入、または他の任意の有効な手段によって生物体に局所的に投与することができる。
【0033】
疾患ターゲット
単球から線維細胞への分化を抑制するための上述のものと同じ組成物および方法を使用して、強皮症、ケロイド性瘢痕化、リウマチ様関節炎、狼瘡、腎性線維性皮膚障害、日本住血吸虫感染後に形成されるような線維性病変、自己免疫疾患、病原性線維症、ライム病、膵炎および間質性線維症における間質の再構築、喘息、特発性肺線維症、慢性閉塞性灰疾患、および肺線維症が含まれるが、これに限らない状態の結果として生じる線維症を治療または予防することもできる。一部のこのような線維性疾患では、線維細胞が、線維症の末期の表れでないこともある。例えば、喘息では、線維細胞はさらに筋線維芽細胞に分化し、厚くなった気道壁に残り続ける。
【0034】
本発明は、SAPによって正常に活性化された単球のFcシグナル伝達経路の任意の成分を活性化させて、線維細胞の生成を抑制し、または線維性疾患もしくは喘息を治療または予防する方法も含む。この経路は、Daeron、Marcによる「Fc Receptor Biology」、Annu.Rev.Immunology、第15巻:203〜34ページ(1997年)に詳述されている。好例となる実施形態では、副作用が最小限になるように活性化するように、他のシグナル伝達カスケードに共有されず、または単に数の限られた決定的でないシグナル伝達カスケードに過ぎない経路の一部を選択する。
【0035】
単球分化アッセイ
本発明の別の態様は、単球からの線維細胞への分化を調節する試料の能力を検出するアッセイに関する。無血清培地では、正常な単球は、2〜3日で線維細胞になる。正常な血清、血液、または他の生物学的な体液は、特定の希釈度範囲内で正常な単球からの線維細胞の生成を抑制する。すなわち、このアッセイを使用して、試料が、無血清培地中で単球の線維細胞への分化を調節し得るかどうかを試験することができる。このアッセイを使用すると、試料の単球が無血清培地中で正常に線維細胞に分化するかどうか、さらに血清、SAP、またはこの分化に影響を及ぼす他の因子に対して正常に応答したかどうかを判定することもできる。
【0036】
特定の実施形態では、このアッセイを使用して、患者の生物学的な体液の、単球から線維細胞への分化を抑制する能力が低下しているか促進しているかを判定することができる。SAPによる抑制を試験する場合、本発明では、全血、血清、血漿、滑液、大脳脊髄液、および気管支体液を含めて、SAPが常時または一過性に存在するどんな生体液を使用してもよい。単球の分化を抑制する能力の減少は、線維症の指標とすることもでき、またはそのような障害になる性向であるともいえる。多くの患者では、生体液の線維細胞形成抑制能の減少は、SAPレベルが高いためであるかもしれないが、必ずしもこのとおりでない。SAPは、正常レベルで存在しても、SAP自体の欠陥、または補因子もしくは他の分子の有無のために抑制活性の増強を示すこともある。ELISA、電気泳動法、分別など、抑制の問題のより正確な性質を決定する方法は、当分野の技術者に明らかとなろう。
【0037】
上述の方法を使用して、線維細胞の分化に影響を及ぼすある種の潜在的な薬物が、患者にとって適切となり得るか否かを判定することもできる。
【0038】
別の特定の実施形態では、このアッセイを使用して、患者の単球が、無血清培地で線維細胞に分化することができるか、ならびに生体液、SAP、または別の組成物に正常に応答するかを判定することができる。より詳細には、線維症に罹患した患者が正常レベルのSAPをもっていると思われる場合、血清またはSAPありでも線維細胞に容易に分化することができるかを判定するために、患者の単球の試料を得ることが得策となり得る。
【0039】
最後に、別の特定の実施形態では、このアッセイを使用して、単球の線維細胞への分化に対する薬物または他の組成物の作用を試験することができる。アッセイをこのように使用して、線維細胞の生成を調節するように設計された潜在的な薬物を同定してもよいし、あるいはアッセイを使用して、他の用途に向けた薬物の潜在的な有害事象をスクリーニングしてもよい。
【0040】
本発明の特定の実施形態を明示するために、以下の実施例を含める。当業者ならば、以下の実施例中で開示する技術は、本発明を実施した際に発明者らが十分に機能することを発見した技術を代表するものであることを承知すべきである。しかし、当業者は、この開示を考えて、本発明の意図および範囲から逸脱することなく、開示する特定の実施形態に多くの変更を加えても、同様または類似の結果が得られることを承知すべきである。
【実施例】
【0041】
実施例1
線維細胞形成の抑制
末梢血T細胞の生存における細胞密度の考えられる役割を調べている際に、無血清培地で、末梢血単核細胞(PBMC)が線維芽細胞様細胞集団を生じさせたことが観察された。これらの細胞は、粘着性であり、紡錘体型の形態(図1A)であった。無血清培地では約0.5〜1%のPBMCが線維芽細胞様細胞に分化し、この分化は、組織培養によって処理したプラスチック容器、ホウケイ酸塩スライドガラス、および標準のスライドガラスで起こった。
【0042】
培養して3日以内のこれらの細胞の急速な出現は、ヒトの血清もしくは血漿によって抑制された。この過程をより詳細に調べるため、徐々に増していく各濃度のヒト血漿を含有する無血清培地中で、1mlあたり5×10細胞のPBMCを6日間培養した。血漿が10%〜0.5%の濃度で存在するとき、線維芽細胞様細胞には分化しなかった(図1B)。しかし、0.1%以下の血清では、線維芽細胞様細胞が急速に発育した。線維細胞の生成を抑制した血清の活性は、30kDaカットオフのスピンフィルターに捕らえられた(データ非表示)。血清を30分間かけて56℃に加熱した場合、効力は10分の1になり、95℃の加熱は、抑制活性を消滅させた(データ非表示)。
【0043】
これらのデータは、抑制因子がタンパク質であることを示唆する。阻害因子はヒト血清中に存在していたので、凝固系とは関係がなさそうであることが示唆された。ウシ、ウマ、ヤギ、およびラットの血清も、これらの線維芽細胞様細胞の出現を抑制することができたので、阻害因子は、進化の過程で保存されたタンパク質であるようにも思われた(データ非表示)。
実施例2
【0044】
線維芽細胞様細胞の特性決定
これら線維芽細胞様細胞が末梢血から分化したことは、これらが末梢血線維細胞であるかもしれないことを示唆した。線維細胞は、in vitroおよびin vivoで線維芽細胞様細胞に分化する末梢血単球由来の集団である。線維細胞は、創傷部位にすばやく侵入し、T細胞に抗原を提示することができる。この細胞の表現型は、CD45やMHCクラスIIなどの造血性マーカーと、コラーゲンIやフィブロネクチンなどの間質性マーカーとからなる。しかし、これらの細胞を同定するために、PBMCは、一般に、血清を含有する培地で1〜2週間培養した。
【0045】
この系で認められた細胞が線維細胞であるかどうかを特性決定するために、PBMCのT細胞を抗CD3で、B細胞を抗CD19で、単球を抗CD14で枯渇させ、あるいはすべての抗原提示細胞を抗HLAクラスIIで枯渇させ、次いで血清なしの条件で6日間培養した。PBMCを抗CD3または抗CD19で枯渇処理しても、血清なしの培養物中で培養したとき、PBMCから線維芽細胞様細胞は枯渇されなかった(データ非表示)。抗原提示細胞を抗HLAクラスIIで、または単球を抗CD14抗体で枯渇させると、線維芽細胞様細胞の出現が妨げられたので、線維芽細胞様細胞が単球由来であり、樹状細胞集団でないことが示唆された。
【0046】
線維芽細胞様細胞をさらに特性決定するために、PBMCをスライドガラス上の無血清培地で5日間培養した。次いで、細胞を風乾し、アセトン固定し、種々の抗体で標識した(表1および図2)。線維細胞は、CD11a、CD11b、CD45、CD80、CD86、MHCクラスII、コラーゲンI、フィブロネクチン、ケモカイン受容体のCCR3、CCR5、CCR7、CXCR4、およびα−平滑筋アクチンを発現させる。上記培養条件下では、この実験の線維芽細胞様細胞も、これらすべてのマーカーを発現させた。線維細胞は、CD1a、CD3、CD19、CD38、およびvWFについては陰性であり、この実験の線維芽細胞様細胞もそのとおりであった。これらのデータによれば、この実験で認められた線維芽細胞様細胞は、線維細胞であると思われる。さらに実験を行って、この表現型を広げた。上記条件下では、この線維細胞は、α1(CD49a)、α2(CD49b)、α5(CD49e)、β1(CD29)、およびβ3(CD61)に加えて高レベルのβ2(CD18)を含む数種のβ1インテグリンを発現させたが、α3、α4、α6、α4β7、αE、およびCLAについては陰性であった(図2および表1)。
【0047】
【表1】



【0048】
表1のデータを得るために、8穴スライドガラスのウェルに入った無血清培地中で、1mlあたり(1ウェル400μl)2.5×10細胞のPBMCを6日間培養した。次いで、細胞を風乾し、アセトン固定し、免疫ペルオキシダーゼ染色した。細胞は、アイソタイプを一致させた対照抗体と比較して、示される抗原を陽性または陰性で記録した。
実施例3
【0049】
線維細胞抑制因子の特性決定
急速な線維細胞への分化を妨げる血清因子の最初の特性決定では、その因子が、イオン交換カラム(High Q)から4種のタンパク質のうちの1種として溶出されたヘパリン結合性分子であったことが示された。未変性ゲルから切断したバンドのトリプシン処理タンパク質断片の配列決定を行って、3種のタンパク質のうちの1種をC4b結合タンパク質(C4BP)として同定した。C4b結合タンパク質は、7本のα鎖(70kDa)と、通常は1本のβ鎖(40kDa)とからなる570kDaのタンパク質であり、補体系のC4b成分およびC2a成分の衰退の調節に関与する。C4BPは、ビタミンK依存的な抗凝固タンパク質Sとも相互に作用する。C4BP/タンパク質S複合体は、BaCl沈殿法を使用して、血清または血漿から精製することができる。
【0050】
C4BPまたは関連するタンパク質が線維細胞への分化の抑制を司る因子であったかどうかを評価するため、クエン酸血漿をBaCl処理した。抑制因子は、BaC1沈殿中に存在した(図3および表2)。この画分をヘパリンカラムにかけ、画分を徐々に増していく各濃度のNaClで溶離し、無血清培地中で単球の線維細胞への分化を抑制するその能力を評価した。活性因子は、ヘパリンカラムから、200mMのNaCl濃度をピークに溶出された(図3および表2)。収量の若干の増加は、このステップが、この因子の活性を若干妨害する因子を除去したかもしれないことを示唆した。
【0051】
200mMピークの画分をプールし、High Qイオン交換クロマトグラフィーによってさらに分別した。300mMのNaClで溶出される小さなピークが含んでいた活性は、線維細胞の分化を抑制した。この画分に存在するタンパク質を分析すると、主バンドが27kDaのタンパク質であったことが示された。イオン交換クロマトグラフィーにかけると、回収されるSAPの量は減少したものの(図3A、レーン8〜10、および図3D、レーン8〜10)、このステップにより、数種の混入タンパク質が確かに除去された。イオン交換ステップの後、唯一識別できる混入物は65kDaのアルブミンであった(図3A、レーン10)。
【0052】
HighQ画分を濃縮し、非還元性ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動によって分別した後、ゲル切片中の物質を溶離した。約140kDaのところに移動した単一のバンドが、分化を抑制することができた(図3B)。このバンドの分子量は、還元性ポリアクリルアミドゲルでは27kDaであったので、このタンパク質の未変性の構造が五量体であったことが示唆された(図3C)。このバンドをゲルから切除し、トリプシンで消化し、MALDI質量分光測定によって分析した。そこで、大きい方の3種のペプチドと、小さい方の2種のペプチド、すなわち、VFVFPR、VGEYSLYIGR、AYSLFSYNTQGR、QGYFVEAQPK、およびIVLGQEQDSYGGKが同定された。これらの配列は、血清アミロイドPのアミノ酸配列8〜13、68〜77、46〜57、121〜130、および131〜143とぴったり一致した。
【0053】
活性画分がSAPを含んでいたことを確認するため、カラムクロマトグラフィーによって収集した画分をウェスタンブロッティングによって分析した(図3D)。線維細胞への分化を抑制したすべての画分で、SAPの存在が27kDaのところで検出された(図3D、レーン6、8、10、および11)。BaCl沈殿ステップの上清中にかなりの量のSAPが存在したので、この手順の効率が悪いことが示唆され、BaClペレット中には、線維細胞抑制活性の約10〜15%しか回収されなかった(図3A、レーン2)。ウェスタンブロッティングと共に使用するときに抗SAP抗体が免疫グロブリンに結合するという既知の問題を解消するために、この抗体を、アガロースに結合させたヒトIgGと共に予めインキュベートした。画分のCRP、C4BP、およびタンパク質Sの存在についても分析した。ウェスタンブロッティングでは、C4BPおよびタンパク質Sが、血漿中、およびバリウム沈殿物中には存在するが、ヘパリンクロマトグラフィーによって収集した活性画分には存在しないことが示された(データ非表示)。
【0054】
【表2】

【0055】
血漿は、BaCl沈殿法、ヘパリンクロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーによって分別した。タンパク質濃度は、分光光度法によって280nmで評価した。線維細胞の分化の抑制は、形態によって評価した。試料の線維細胞抑制活性は、無血清培地に加えたときに試料が線維細胞への分化を50%抑制した希釈度の逆数であると定義した。
【0056】
SAPは、以下の方法を使用するELISAによって検出することもできる。
Maxisorb96穴プレート(Nalge Nunc International、ニューヨーク州ロチェスター)を、40℃のもと、モノクローナル抗SAP抗体(SAP−5、Sigma)の入った50mMの炭酸ナトリウム緩衝液pH9.5で被覆した。次いで、プレートを、4%のBSAを含有するトリス緩衝食塩水pH7.4(TBS)(TBS−4%BSA)中でインキュベートして、非特異的結合を抑制した。血清および精製タンパク質をTBS−4%BSAで1000倍に希釈して、SAPが凝固しないようにし、37℃で60分間インキュベートした。次いで、プレートを0.05%のTween−20を含有するTBSで洗浄した。TBS−4%BSAで5000倍に希釈したポリクローナルウサギ抗SAP抗体(BioGenesis)を検出用抗体として使用した。洗浄した後、TBS−4%BSAで希釈した100pg/mlのビオチン標識ヤギ(Fab)2抗ウサギ(Southern Biotechnology Inc.)を60分間かけて加えた。ビオチン標識した抗体をExtrAvidinペルオキシダーゼ(Sigma)によって検出した。希釈していないペルオキシダーゼ基質3,3,5,5−テトラメチルベンジジン(TMB、Sigma)を室温で5分間インキュベートした後、1N HClによって反応を停止させ、450nmで読み取った(BioTek Instruments、米バーモント州ウィヌースカ)。アッセイは、200pg/mlまで感度があった。
実施例4
【0057】
血清アミロイドPの特異性
血清アミロイドPは、構成血漿タンパク質であり、ヒトの主要な急性相タンパク質であるCRPと近い関係にある。他の血漿タンパク質も線維細胞への分化を抑制することができるかどうかを評価するため、精製した市販のSAP、CRP、C4b、またはタンパク質Sの存在下、PBMCを無血清培地で培養した。市販のSAPは、非置換アガロースのカルシウム依存的なアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製した。試験したタンパク質のうち、SAPだけが線維細胞への分化を抑制することができ、阻害活性は、10μg/mlで最高に達した(図4)。希釈曲線は、市販のSAPの活性が約6.6×10単位/mgであることを示唆した(図4)。血清および血漿は、30〜50μg/mlのSAPを含有する。線維細胞は、約0.15〜0.25μg/mlのSAPになるはずの0.5%の血漿希釈度で出現し始めたが、これは、精製SAPの閾値濃度に匹敵する。異なる2通りの手順を使用して精製したSAPが、線維細胞への分化を抑制することを示すデータは、SAPが線維細胞への分化を抑制することを強く示唆している。
【0058】
これらのデータは、SAPが線維細胞の発育を抑制し得ることを示唆しており、このことを示す方法でSAPが精製されているが、血漿および血清からSAPを枯渇させると抑制が無効になるかどうかを判定したものではない。アガロースビーズ(BioGel A、BioRad)を使用して、血漿からSAPを枯渇させた。血漿を100mMのトリスpH8、150mMのNaCl、5mMのCaCl緩衝液で20%に希釈し、40℃で2時間、1mlのアガロースビーズと混合した。次いで、遠心分離によってビーズを除去し、この過程を繰り返した。次いで、この枯渇処理した血漿の、線維細胞への分化を抑制する能力を評価した。100mMのトリスpH8、150mMのNaCl、5mMのCaCl緩衝液で20%に希釈した対照血漿の希釈曲線は、未処理の血漿で認められるものと類似していた。対照的に、ビーズで処理した血漿は、中程度の血漿レベルでは線維細胞への分化をそれほど抑制することができなかった。これらのデータ、ならびに精製SAPが線維細胞への分化を抑制できることは、SAPが、線維細胞への分化を抑制する血清および血漿中の活性因子であることを強く示唆している(図5を参照のこと)。
【0059】
血漿のSAPの、抗SAP抗体で被覆したタンパク質Gビーズを使用する枯渇処理も行った。SAPを除去すると、血漿の、線維細胞への分化を抑制する能力が、血漿、または対照抗体で被覆したビーズで処理した血漿と比べて有意に低下した(p<0.05)(図5B)。対照抗体で被覆したビーズは、血漿からいくらかの線維細胞抑制活性を除去したが、これは、血漿と共に培養した細胞と有意に異なってはいなかった。このことはおそらく、SAPがタンパク質Gビーズ中のアガロースに結合していることを反映している。これらのデータ、ならびに精製SAPが線維細胞への分化を抑制できることは、SAPが、線維細胞への分化を抑制する血清および血漿中の活性因子であることを強く示唆している。
実施例5
【0060】
抗体およびタンパク質
精製されたヒトCRP、血清アミロイドP、タンパク質S、およびC4bは、Calbiochem(米カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。CD1a、CD3、CD11a、CD11b、CD11c、CD14、CD16、CD19、CD34、CD40、Pan CD45、CD64、CD83、CD90、HLA−DR/DP/DQ、マウスIgM、マウスIgG1、およびマウスIgG2aに対するモノクローナル抗体は、BD Pharmingen(BD Biosciences、米カリフォルニア州サンディエゴ)から得た。ケモカイン受容体抗体は、R and D Systems(米ミネソタ州ミネアポリス)から購入した。ウサギ抗コラーゲンIはChemicon International(米カリフォルニア州テメキュラ)から、モノクローナルC4b結合タンパク質はGreen Mountain Antibodies(米バーモント州バーリントン)から、ヒツジ抗ヒトC4b結合タンパク質はThe Binding Site(英バーミンガム)から、モノクローナル抗CRPはSigma(米ミズーリ州セントルイス)から得た。ポリクローナルウサギ抗タンパク質Sは、Biogenesis(英国ドーセット州プール市)から得た。
実施例6
【0061】
細胞の分離
Ficoll−Paque(Amersham Biosciences、米ニュージャージー州ピスカタウェイ)による400×gでの遠心分離に40分間かけて、バフィーコート(Gulf Coast Regional Blood Center、米テキサス州ヒューストン)から末梢血単各細胞を単離した。magnetic Dynabeads(Dynal Biotech Inc.、米ニューヨーク州レークサクセス)を使用するネガティブ選択を利用して、以前に記載したとおりに、指定された白血球サブセットの枯渇処理を行った。簡潔に述べると、PBMCを一次抗体と共に40℃で30分間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、ヤギ抗マウスIgGで被覆したDynabeadsと共に30分間インキュベートした後、磁気選択によって抗体で覆われた細胞を除去した。この過程を2回繰り返した。ネガティブ選択した細胞の純度は、モノクローナル抗体標識によって判定したところ、決まって98%を超えていた。
実施例7
【0062】
細胞培養および線維細胞分化アッセイ
細胞を、次のような無血清培地、すなわち、10mMのHEPES(GibcoBRL/Life)、2mMのグルタミン、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン、0.2%のウシ血清アルブミン(BSA、Sigma)、5μg/mlのインスリン(Sigma)、5μg/mlの鉄で飽和させたトランスフェリン(Sigma)、および5ng/mlの亜セレン酸ナトリウム(Sigma)を補充したRPMI(GibcoBRL Life、Invitrogen、米カリフォルニア州カールスバッド)中でインキュベートした。正常ヒト血清(Sigma)、正常ヒト血漿(Gulf Coast Regional Blood Center)、またはウシ胎児血清(Sigma)、カラム画分、患者の血清および滑液、または精製タンパク質を所定の濃度で加えた。患者試料は、ヒューストンのテキサス大学医学部にある、研究者に開放されている貯蔵所から入手した。この貯蔵所は、患者の情報を守秘し、NIH指針をすべて満たしている。
【0063】
5%のCOを含む加湿インキュベーター中で、体積がそれぞれ2mlまたは200μlの24穴または96穴の組織培養プレート(Becton Dickinson、米ニュージャージー州フランクリンレークス)に入った1mlあたり2.5×10細胞のPBMCを、37℃で指示どおりの時間培養した。小さなリンパ球または付着単球と異なる、引き伸ばされた紡錘型の形態を有する付着細胞として生存培養物中に存在する形態によって、異なる5箇所の直径900μm視野にある線維細胞を数えた。あるいは、細胞を風乾し、メタノール固定し、ヘマトキシリンエオシン染色を施した(Hema3 Stain、VWR、米テキサス州ヒューストン)。上記の判断基準、および楕円形の核の存在を利用して線維細胞を数えた。線維細胞のカウントは、ウェルあたり2.5×10細胞の細胞を平底96穴プレートで6日間培養したものについて行った。さらに、免疫ペルオキシダーゼ染色によって線維細胞の同一性を確認した(以下を参照のこと)。試料の線維細胞抑制活性は、無血清培地に加えたときに試料が線維細胞への分化を50%抑制した希釈度の逆数であると定義した。
実施例8
【0064】
血清タンパク質および血漿タンパク質の精製と特性決定
冷凍ヒト血清もしくは血漿100mlを37℃ですばやく解凍し、1倍「Complete」プロテアーゼ阻害剤(Roche、米インディアナ州インディアナポリス)、1mMのベンズアミジンHCl(Sigma)、および1mMのPefabloc(AEBSF:フッ化4−(2−アミノエチル)−ベンゼンスルホニル塩酸塩、Roche)を加えた。後続のステップはすべて、氷上または4℃で実施した。血漿を、以前に述べたとおりに、クエン酸バリウムに吸着させた。10,000×gで15分間の遠心分離にかけて、沈殿を収集し、100mMのBaClプラス阻害剤20mlに再懸濁し、遠心分離にかけ直した。2回洗浄した後、ペレットを、5mMのEDTAおよび1mMのベンズアミジンHClを含有する10mMのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4に再懸濁して20mlとし、同じ緩衝液4リットルを3回交換しながら24時間かけて透析した。
【0065】
Econo system(Bio−Rad、米カリフォルニア州ハーキュレス)を使用するクロマトグラフィーを行って、流速1ml/分で1mlの試料を収集した。透析処理したクエン酸バリウム沈殿を5ml容Hi−Trap Heparinカラム(Amersham Biosciences)に装入し、280nmでの吸光度が基点に戻るまで、カラムを10mMのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4で十分に洗浄した。結合している材料を、100、200、300、および500mMのNaClを含む10mMのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4各15mlで段階的に勾配をかけて溶離した。単球の線維細胞への分化を阻害した画分は、200mMのNaClで溶出された。これらをプールし(2ml)、5ml容Econo−Pak High Qカラムに装入した。10mMのリン酸緩衝液でカラムを洗浄した後、結合している材料を上記のように段階的な勾配をかけて溶離したが、活性画分は、300mMのNaClで溶出された。
【0066】
Aquacide II(Calbiochem)を使用して、High Qクロマトグラフィーの活性画分を200μlに濃縮し、次いで以前に述べたとおりに4〜20%の未還元性ポリアクリルアミドゲル(BMA、BioWhittaker、米メイン州ロックランド)上に載せた。電気泳動にかけた後、ゲルのレーンを切断して5mmの切片とし、1mMのベンズアミジンHClを含有する200μlの20mMリン酸ナトリウム、150mM NaCl、5mM EDTA pH7.4と混合し、エッペンドルフ試験管に入れて小さな乳棒で砕き、4℃で3日間転倒型ミキサーに入れておいた。ゲルから溶出されたタンパク質の活性を分析した。アミノ酸配列を得るため、ゲル切片から溶出されたタンパク質を、100μMのチオグリコール酸を含む上部チャンバー(Sigma)中の4〜20%のゲル上に載せた。電気泳動にかけた後、ゲルを直ちにクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱染色し、ゲルからバンドを切除した。アミノ酸の配列決定は、Baylor College of Medicine、免疫学科、Protein Sequencing FacilityのRichard Cook博士が行った。
実施例9
【0067】
ウェスタンブロッティング
ウェスタンブロッティングについては、血漿および血清試料を10mMのリン酸ナトリウムpH7.4で500倍に希釈した。ヘパリンカラムおよびHigh Qカラムからの画分は希釈しなかった。試料を、20mMのDTTを含有するLaemmeli試料緩衝液と混合し、5分間かけて100℃に加熱した。試料を4〜20%のトリス/グリシンポリアクリルアミドゲル(Cambrex)上に載せた。未変性ゲル用の試料は、DTTまたはSDSなしで分析した。タンパク質を、20%のメタノールを含有するトリス/グリシン/SDS緩衝液中のPVDF(Immobilon P、Millipore、米マサチューセッツ州ベッドフォード)膜に移した。フィルターを、4℃で18時間かけて、5%のBSA、5%の無脂肪乳タンパク質、および0.1%のTween20を含有するトリス緩衝食塩水(TES)pH7.4でブロックした。所定の最適希尺度(データ非表示)を使用して、一次抗体およびビオチン標識二次抗体を、5%のBSA、5%の無脂肪乳タンパク質、および0.1%のTween20を含有するTBS pH7.4で60分間かけて希釈した。5%のBSAおよび0.1%のTween20を含有するTBS pH7.4で希釈したExtrAvidinペルオキシダーゼ(Sigma)を使用してビオチン標識抗体を同定し、化学発光法(ECL、Amersham Biosciences)を使用して結果を可視化した。
実施例10
【0068】
免疫組織化学
ガラス製8穴顕微鏡スライド(Lab−Tek、Nalge Nunc International、米イリノイ州ネーパーヴィル)上で培養した細胞を風乾した後、15分間アセトン固定した。内発性のペルオキシダーゼを0.03%のHで15分間かけて失活させ、次いで、2%のPBS中BSAの中で60分間インキュベートして非特異的結合をブロックした。スライドを、2%のBSAを含有するPBS中の一次抗体を加えて60分間インキュベートした。アイソタイプを一致させた、関連性のない抗体を対照として使用した。次いで、スライドを15分間かけてPBSで3回洗浄し、ビオチン標識ヤギ抗マウスIg(BD Pharmingen)と共に60分間インキュベートした。洗浄した後、ExtrAvidinペルオキシダーゼ(Sigma)によってビオチン標識抗体を検出した。染色の発色は、DAB(ジアミノベンジジン、Sigma)で3分間かけて行い、マイヤーのヘマラム(Sigma)で30秒間の対比染色を行った。
実施例11
【0069】
線維細胞上の表面マーカーの発現
8穴スライドガラスのウェルに入った無血清培地中で、1mlあたり(1ウェル400μl)2.5×10細胞のPBMCを6日間培養した。次いで、細胞を風乾し、アセトン固定し、免疫ペルオキシダーゼ染色を施した。細胞は、アイソタイプを一致させた対照抗体と比較して、示される抗原を陽性または陰性で記録した。
実施例12
【0070】
分別にかけたヒト血漿からのタンパク質および線維細胞抑制活性の回収
血漿は、BaCl沈殿法、ヘパリンクロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーによって分別した。タンパク質濃度は、吸光分光分析によって280nmで評価した。線維細胞への分化の抑制は、形態によって評価した。試料の線維細胞抑制活性は、無血清培地に加えたときに試料が線維細胞への分化を50%抑制した希釈度の逆数であると定義した。
実施例13
【0071】
IL−12
実験では、in vitroで線維細胞への分化を促進し得ることがわかった。詳細には、末梢血単核細胞を、様々なサイトカインの存在下、無血清培地で培養した(図6Aを参照のこと)。約5ng/mlを上回るIL−12濃度が、培養中の線維細胞数を抑えた(図6Bを参照のこと)。このことは、IL−12が、線維細胞前駆体から成熟線維細胞への分化を抑制し得ることを示唆している。
実施例14
【0072】
ラミニン1
内皮および基底膜を横断する過程は、単球に対する活性化シグナルおよび分化シグナルを誘発する。したがって、細胞外マトリックスタンパク質が線維細胞への分化に影響を及ぼしたかどうかを判定するために実験を行った。50mMの炭酸緩衝液pH9.5に入れた細胞外マトリックスタンパク質を、4℃で18時間かけて96穴組織培養プレートに結合させた。ProNectin−FおよびProNectin−LをPBSに希釈させた。プレートをPBS中で洗浄し、2%のウシ血清アルブミンを含有するPBS中、37℃で60分間インキュベートして、非特異的な結合を防いだ。プレートをPBSで洗浄し、次いで組織培養培地で洗浄した。次いで、末梢血単核細胞(PBMC)を加え、4日間培養した。線維細胞の分化は、コラーゲン、フィブロネクチン、およびビトロネクチンを含む広範な種類のECMタンパク質上で培養しても影響を受けなかった。しかし、PBMCをラミニン1(Sigma−Aldrich、米ミズーリ州セントルイス)またはProNectin−F(三洋化成工業株式会社、京都府)と共に培養すると、線維細胞数が有意に減少した(図7Aを参照のこと)(p<0.0001)。ProNectin−Fは、絹タンパク質構造物であり、フィブロネクチンの正準RGD接着配列の繰返しである。ProNectin−Lは、ProNectin−Fと類似した構造であり、ラミニンのα1鎖由来のアミノ酸配列IKVAVを有する。
【0073】
他のラミニンタンパク質が線維細胞への分化を抑制し得るかどうかを判定するため、追加の実験を実施した。第2の市販ラミニンであるラミニン10/11(Chemicon、米カリフォルニア州テメキュラ)は、ラミニン1ほど線維細胞への分化を抑制することができなかった(図7Bを参照のこと)。
【0074】
このデータは、IKVAV領域の外側にあり、ラミニン10および11には不在である、ラミニン1に特異的な配列が、線維細胞への分化に対する抑制作用を司っている可能性を示唆している。
実施例15
【0075】
抗体試験
SAPおよびCRPは、食作用を増強し、様々な細胞上のFcγ受容体に結合する。CRPは、FcγRII(CD32)に高い親和性で結合し、FcγRI(CD64)に低い親和性で結合するが、FcγRIII(CD16)は結合しなかった。SAPは、FcγRIおよびFcγRIIに優先的に、これらすべての古典的Fcγ受容体に結合する。単球は、FcγRIを構成性に発現させる。この受容体は、単量体IgGを結合するので、in vivoで飽和状態になる。単量体ヒトIgGの存在が、SAPによる線維細胞への分化の抑制を妨げるかどうかを判定するために、ある濃度範囲の単量体IgGの存在下、PBMCを無血清培地で60分間培養した。次いで、図8Aに示した濃度のSAPを加え、細胞を4日間培養した。上の実施例で述べたように、IgGなしの2.5μg/mlのSAPが、線維細胞への分化を強力に抑制した(図8Aを参照のこと)。それぞれ約0.001〜10%の血清に相当する、0.1〜1000μg/mlの範囲の単量体IgGは、線維細胞形成のSAPによる抑制にほとんど影響を及ぼさなかった。
【0076】
Fc受容体の連結および架橋が単球からの線維細胞への分化にも影響を及ぼすかどうかを判定するため、3種の試験用試料、すなわち、可溶性免疫複合体(オボアルブミン−抗体)、オプソニン処理されたヒツジ赤血球(SRBC)を含む粒状免疫複合体、および熱凝集IgGを使用した。PBMCを、オボアルブミンまたは抗オボアルブミンmAbと共に4日間培養すると、この2種のタンパク質が、単独では、試薬を加えなかった培養物と比べても単球からの分化にそれほど影響を及ぼさなかったことが示された(図9Aを参照のこと)。しかし、オボアルブミン:抗オボアルブミン免疫複合体を加えると、分化による線維細胞数が有意に減少した(図9Aを参照のこと)。PBMCをオプソニン処理したSRBCと共に培養したとき、同様の作用が認められた。ウサギ抗SRBCでオプソニン処理したSRBCは、20:1および40:1のSRBC:単球比で、SRBCのみと共に培養した細胞と比べて有意に線維細胞への分化を抑制した(図9Bを参照のこと)。最後に、熱凝集F(ab)でなく、熱凝集IgGと共に培養したPBMCも、線維細胞への分化の強力な抑制を示した(図9Cを参照のこと)。全体として、これらのデータは、Fc受容体の連結および架橋が、単球の線維細胞への分化を抑制するものであることを示唆している。
【0077】
免疫複合体が線維細胞への分化を抑制するという所見は、1種または複数のFcγRが線維細胞への分化に影響を及ぼすことを示唆している。線維細胞への分化におけるFcγRの役割を調べるため、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、またはFcγRIII(CD16)に対する阻止抗体の存在下または不在下でPBMCを培養した後、SAPを加え、または対照としてCRPを加えた。試料を3種のFcγRそれぞれに対する阻止mAbと共にプレインキュベートしたとき、SAPは、後から線維細胞への分化をそれほど抑制することができなかった。しかし、外部から加えたSAPなしでも、FcγRI(CD64)阻止mAbの、線維細胞への分化に対する作用は甚大であった。PBMCをFcγRIIまたはFcγRIIIでなく、FcγRIに対する阻止mAbと共にインキュベートすると、アイソタイプを一致させた対照mAbと共に培養した細胞、またはmAbなしで培養した細胞と比べて線維細胞への分化が促進された(P<0.01)(図10を参照のこと)。これらのデータは、SAPまたはIgGが、培養系中の一部の細胞によって4日間かけて産生されたかもしれないこと、あるいはSAPまたはIgGが血液由来の細胞によって保持されたことを示唆している。ウェスタンブロッティングでは、細胞をin vitroで4日間培養した後にSAPまたはIgGの存在は示されなかった。このことは、FcγRI阻止mAbが線維細胞への分化に直接的に作用を及ぼすこと、あるいはSAPまたはIgGが細胞培養の早期の期間中にしか存在していなかったことを示唆している。
【0078】
本発明の単に例示的な実施形態を上で詳述しているが、本発明の真意および意図する範囲から逸脱することなく、これら実施例の変更形態および変形形態が考えられることは承知されよう。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】線維芽細胞様細胞への急速な分化に対する血清および血漿の影響を示す図である。 図1Aでは、無血清培地で、1mlあたり2.5×10の末梢血単核細胞(PBMC)を、0.1%のヒト血清の存在下または不在下で3または6日間培養し、次いで、線維芽細胞様細胞が出現したかどうか顕微鏡で調べた。帯は100μmである。 図1Bでは、無血清培地で、1mlあたり2.5×10のPBMCを、ヒト血漿の希釈物中で6日間培養した。次いで、細胞を風乾し、固定し、染色し、形態によって線維細胞を数えた。結果は、2.5×10PBMCあたりの線維細胞数の平均±SDとして示す(n=5実験)。星印は、0血漿からの統計学的有意差を示す。
【図2】線維芽細胞様細胞上の表面分子の発現を示すグラフである。PBMCを、スライドガラス上の無血清培地で6日間培養した。細胞を風乾し、免疫組織化学によって分析した。使用したモノクローナル抗体は、表示したとおりであり、ビオチン結合ヤギ抗マウスIg、次いでExtrAvidinペルオキシダーゼによって同定した。細胞にマイヤーヘマトキシリンで対比染色を施して、核を確認した。陽性の染色は、褐色の染色によって確認したが、核は、青色に対比染色される。CD83への書き込みは、樹状細胞への陽性染色を示すために用いた。
【図3】血漿中に存在する、線維細胞への分化を抑制する分子の特性決定を示す図である。クエン酸血漿をBaCl2で処理し、沈殿した物質を遠心分離によって収集し、10mMのEDTAおよびプロテアーゼ阻害剤を含有する10mMのリン酸ナトリウムを用いて透析した。次いで、この物質をヘパリンクロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーによって分別した。 図3Aでは、画分を4〜20%の変性ゲル上でのPAGEによって分析し、クーマシーブルーで染色した。Mは、分子量マーカーを示す。レーン1は血漿を含み、レーン2はBaCl上清を含み、レーン3は洗液1を含み、レーン4は洗液2を含み、レーン5はBaCl沈殿を含み、レーン6はBaCl沈殿を含み、レーン7はヘパリン通過物を含み、レーン8はヘパリン画分を含み、レーン9はHigh Q通過物を含み、レーン10はHigh Q画分を含み、レーン11はゲル精製された画分を含んでいた。レーン1〜5は、リン酸ナトリウム緩衝液で500倍に希釈し、レーン6〜11は希釈しなかった。 High Qイオン交換カラムから溶出された活性画分およびゲル切片を、図3Bでは未変性ゲル上、図3Cでは変性ゲル上での4〜20%PAGEによって分析した。NMは未変性ゲルマーカーを示し、RMは変性ゲルマーカーを示し、図3Cではレーン1〜3が対照ゲル試料であり、レーン4が活性画分を含んでいた。図3Dでは、ウサギ抗SAP抗体を使用して、画分をウェスタンブロッティングによって評価した。レーン1〜11は、図3Aと対応している。
【図4】線維細胞の生成がSAPによって抑制され、CRPまたは他の血漿タンパク質によっては抑制されないことを示すグラフである。無血清培地で、1mlあたり2.5×10のPBMCを、精製した市販のSAP(黒四角)、CRP(白四角)、タンパク質S(白ひし形)、またはC4b(白丸)の存在下で6日間培養し、次いで、線維芽細胞様細胞が出現したかどうかを調べた。次いで、細胞を風乾し、固定し、染色し、形態によって線維細胞を数えた。結果は、2.5×10のPBMCあたりの線維細胞の平均±SDである(n=3通りの独立した実験)。
【図5】線維細胞分化アッセイにおける血漿からのSAPの除去の影響を示すグラフである。 図5Aは、BioGelアガロースビーズを用いての血漿からのSAPの除去が線維細胞への分化に及ぼす影響を示す。様々な希釈度の血漿(白四角)またはBioGelによって枯渇処理した血漿(黒四角)を供給したアッセイで見られた線維細胞の数を示す。星印は、2種の曲線間の統計学的有意差を示す。 図5Bは、血漿なし、または等希釈度の血漿、BioGel SAP枯渇処理血漿、もしくは抗SAP抗体枯渇処理血漿を用いて実施したアッセイで生成した線維細胞の数を示す。星印は、統計学的有意差を示す。
【図6】単球からの線維細胞への分化に対する様々なサイトカインの作用を示す図である。図6Aは、様々なサイトカインの作用を示す。図6Bは、IL−12の作用をより詳細に示す。
【図7】線維細胞形成に対する細胞外マトリックスタンパク質の作用を示す図である。50mMの炭酸緩衝液pH9.5に入れた細胞外マトリックスタンパク質を、96穴組織培養プレートに4℃で18時間かけて結合させた。ProNectin−FおよびProNectin−LをPBSで希釈した。プレートをPBS中で洗浄し、2%のウシ血清アルブミンを含有するPBS中で、37℃で60分間インキュベートして、非特異的結合を防いだ。プレートをPBSで洗浄し、次いで組織培養培地で洗浄した。次いで、末梢血単核細胞(PBMC)を加え、4日間培養した。様々な細胞外マトリックスタンパク質での結果を図7Aに示す。ラミニン−1、ラミニン−10/11、およびProNectin−Lの作用を図7bにより詳細に示す。
【図8】単球に結合し、その分化を抑制するSAPの能力に対する単量体IgGの作用を示す図である。PBMCを、ある濃度範囲の単量体IgGの存在下、無血清培地で60分間培養した。次いで、示した濃度のSAPを加え、細胞を4日間培養した。
【図9】Fc受容体の連結および架橋が線維細胞への分化に及ぼす作用を示す図である。可溶性の免疫複合体(オボアルブミン−抗体)、オプソニン処理されたヒツジ赤血球(SRBC)を含む粒状免疫複合体、および熱凝集IgGを使用した。図9Aでは、PBMCを、オボアルブミンもしくは抗オボアルブミンmAbのみ、またはオボアルブミン:抗オボアルブミン免疫複合体と共に4日間培養した。図9Bは、20:1および40:1のSRBC:単球比での、SRBC単独、およびウサギ抗SRBCでオプソニン処理したSRBCの作用を示す。最後に、図9Cは、熱凝集IgGおよび熱凝集F(ab)がPBMCに及ぼす作用を示す。9Aおよび9Bの星印は、統計学的有意差を示す。
【図10】単球の分化に対する抗FcγR抗体の作用を示す図である。星印は、対照との統計学的有意差を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎臓標的部位での線維細胞形成を抑制するのに十分な量の、Fcγ受容体に結合して単球から線維細胞への分化を阻害する、血清アミロイドP(SAP)またはその部分を含む線維細胞抑制組成物。
【請求項2】
腎臓線維症の治療または予防のための医薬調剤における、Fcγ受容体に結合して単球から線維細胞への分化を阻害する、血清アミロイドP(SAP)またはその部分を含む組成物の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−16824(P2011−16824A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196332(P2010−196332)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【分割の表示】特願2004−563958(P2004−563958)の分割
【原出願日】平成15年12月22日(2003.12.22)
【出願人】(505226389)ウイリアム、マーシュ、ライス、ユーニヴァーサティ (3)
【Fターム(参考)】