説明

線維芽細胞で占められた代用結合組織の調製

代用結合組織のin vitro増殖のための方法、線維芽細胞で占められた前記代用結合組織、このような方法によって得られ得る代用結合組織、及び創傷上にこのような代用結合組織が適用される創傷の閉鎖のための方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の代用結合組織をin vitroで増殖するための方法、線維芽細胞で占められた前記代用結合組織、この方法によって得られ得る代用結合組織、及び前記代用結合組織を適用して創傷を塞ぐ方法に関する。さらに本発明は、創傷上に前記代用結合組織を適用することを含む創傷を負った被験体を治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工の代用皮膚組織は、創傷、例えば火傷、慢性創傷、整形外科及び/又は外科手術の創傷及び傷痕の治療に重要である。多くのこのような代用物は、開発中又は最近市場に導入された。
【0003】
皮膚組織は2つ細胞層、即ち、外側の表皮層(上皮組織;表皮とも呼ばれる)と内側の真皮層(結合組織;真皮とも呼ばれる)を含む。真皮層は、基底膜を介して上皮層と接している。上皮層は感染及び水分損失に対するバリアを提供し、一方で真皮層は皮膚の弾力性及び機械的完全性(mechanical integrity)に関与する。真皮層は、表皮層の栄養摂取を担う血管及び真皮組織から表皮組織中に横切る皮膚知覚神経を含む。更に、更なる皮膚コンポーネント、例えば、毛包、及び/又は汗腺は、表皮及び真皮層に穴を作る。基底膜は、大きな細胞外タンパク質マトリクスであり、皮膚組織構造の維持及び表皮に存在する基底ケラチノサイトの固着において重要な役割を担う。線維芽細胞は、真皮の主なコンポーネントであり、創傷修復時に生じる細胞外マトリクスの合成及び再編成において重要な役割を担う。
【0004】
創傷の閉鎖及び感染に対する保護のために重要である上皮(例えば、表皮)の再生は、結合組織構造内深くにある上皮細胞の残余に依存する(表皮細胞の場合、例えば、乳頭間隆起及び毛包)。創傷の端からの上皮層の内方成長による創傷の閉鎖は、幅数cmよりも大きい創傷にとっては不十分である。
【0005】
従って、このような場合、創傷の閉鎖は、上皮バリア作用を修復し、且つ実際に治癒創傷に組み込まれる材料を必要とする。それと対照的に、幾つかの材料は、感染に対する一時的バリアの提供及び水分損失の制御によって上皮の再生にとって改善された環境を作るために単に創傷を覆い得る。
【0006】
同種培養細胞から形成された幾つかの代用皮膚組織は、生体材料との組み合わせで、創傷の被膜を提供し、創傷の閉鎖を促進するための治療としての商業的に入手可能である(例えば、Apligraf(登録商標)(Organogenesis Inc., Canton, MA, USA, and Novartis Pharmaceuticals Corporation, East Hanover, NJ, USA)、Transcyte(登録商標)(Advanced Tissue Sciences Inc., LaJolla, California, USA)、及びDermagraft(登録商標)(Advanced Tissue Sciences Inc. LaJolla, California, USA))。ここにおいて、“同種(allogenic)”という用語は、同一種の1以上の異なる別個の被験体由来の組織又は細胞を意味する。
【0007】
例えば、Apligraf(登録商標)は、ウシのコラーゲンゲルと生きた新生児の同種線維芽細胞の下にある新生児の同種ケラチノサイトの角化上皮層から成る。Transcyte(登録商標)は、新生児の線維芽細胞で播種されたナイロンメッシュのファブリックから成り、Dermagraft(登録商標)は、ポリマーの足場上で新生児の同種線維芽細胞を培養することによって製造される(新生児細胞は全て一群の男児の皮環状切除によって得られた一群の包皮由来である)。死体同種移植片(非営利の皮膚バンクから)は、無傷な死んだ皮膚から成り、一時的被膜を提供するが、直接的な創傷の閉鎖は提供しない。
【0008】
単に創傷被膜を提供し、創傷の修復プロセスを促進する上記の製品と対照的に、創傷の閉鎖を提供する代用皮膚も商業的に入手可能である(例えばAlloderm(登録商標)(LifeCell, Woodlands, TX USA)、Integra(登録商標)(Integra Life Science Corporation, Plainsboro, NJ, USA))。
【0009】
Alloderm(登録商標)は、特定の免疫応答を回避するために表皮層が除去され且つ真皮層の細胞成分が抽出された、加工されたヒト死体皮膚である。創傷上への適用の後、それは宿主細胞によって再び占められ、血管が再生され、組織中に組み込まれる。従って、それは真皮の再生のためのテンプレートとして機能し、感染に対するバリアを提供するため、又は水分損失の制御のためのカバーを提供しない。
【0010】
Intergra(登録商標)は、架橋したウシのコラーゲン及びグリコサミノグリカンから成る二層構造を有し、1つの面は、表皮機能を提供するシリコン膜で覆われている。創傷上への適用の後、コラーゲン層は、血管のネオ真皮層(neodermal layer)を形成するために創傷とバイオ統合される(biointegrate)。この過程は、約3〜6週間かかる。この過程に続いて、シリコン膜は除去され得、超薄スプリット皮膚移植片が適用される。従って、Integra(登録商標)を用いた創傷の閉鎖は、二段階プロセスである。
【0011】
真皮コンポーネントのみからなる移植片(例えば、Alloderm(登録商標)など)は、感染及び水分損失を受け易い。更に、表皮は、創傷の端から生成されなければならず、線維芽細胞は真皮へ移動しなければならない。それと対照的に、表皮コンポーネントのみからなる移植片(例えば、Epibase(登録商標)(Genevrier Biotechnologie, Sophia-Antipolis Cedex, France)など)は、一般的に非常に脆弱である。基底膜は、創傷床に存在する真皮で形成されなければならず、これは何週間もかかるプロセスである。さらに、このような移植片は、あまり分化していない。従って、このような移植片のバリアは、皮膚又は完全な皮膚移植片に劣る。
【0012】
更に、Alloderm(登録商標)は、自己被膜を供給しないという欠点を有する;Integra(登録商標)は、非ヒトマトリクスを含み、時間のかかる二段階工程を必要とし、死体同種移植片は、宿主免疫応答、従って移植片拒絶を引き起こし得る。
【0013】
容易且つ迅速に形成され、同種材料を含まない単なる創傷被膜よりもむしろ即座の創傷閉鎖を提供する同種移植片又は代用皮膚組織は、未だ商業的に入手可能ではない。このような材料が創傷閉鎖を提供し、宿主によって拒絶されないことが重要である。さらに、拒絶の危険性、拒絶に起因する炎症、及び交差感染を防ぐために、このような材料がヒト包皮細胞などの同種細胞を包含しないことが重要である。さらに、このような代用皮膚は、このような非ヒトマトリクスと結合した組織を回避するために、ウシコラーゲンマトリクスのような非ヒトマトリクスを包含しないことが好ましい。
【0014】
Dong-Youn Lee等(J. Dermatol. Sci. (2000) 23: 132-137)は、表皮の除かれた(de-epidermised)真皮(DED)と線維芽細胞の集合したコラーゲンマトリクスを組み合わせた代用真皮を報告する。人の包皮からケラチノサイト及び線維芽細胞が単離され培養された。第二継代細胞が代用真皮の調製のために使用された。線維芽細胞の集まったコラーゲンマトリクスを得るために、線維芽細胞は、3×10細胞/mlの量で使用されなければならない。このような量の細胞を得ることは大きなバイオプシー又は線維芽細胞の大規模な継代培養を必要とするため、このような量の細胞は、自己由来代用真皮の商業的調製のために適切ではない。従って、この方法は同種材料についてのみ(同種包皮組織)、又は調製に比較的長期要することが可能な場合のみ適用可能である。
【0015】
Ghosh等(Ann. Plastic Surgery (1997) 39: 390-403)は、以下の方法によって調製された代用真皮組織を開示する。DEDは、その網様面を上にして組織培養皿のウェル中に配置され、リングが網様面の上に配置され、真皮とリングの間の密なフィットを確実にするために、その表面を強く下に押さえられた。線維芽細胞とケラチノサイトは、スプリットの厚みの皮膚移植片から単離され、連続的に継代培養され、次いで細胞懸濁物が調製された。線維芽細胞はリングに添加され24時間培養された。次いで、リングが除かれ、線維芽細胞は更に7日間培養された。次いで、DEDはその乳頭状表面を空気に曝露するために裏がえされた。再度リングが表面中に押し付けられ、リングはここでケラチノサイトで満たされた。これらは24時間培養され、次いでリングが除去され、ケラチノサイトは更に7日間培養された。線維芽細胞がDEDに集まり、表皮層が完全に分化したことが示された。この方法は、代用真皮組織の調製のための十分な細胞の量を得るために、線維芽細胞及びケラチノサイトが連続的に継代培養されなければならないという明らかな欠点を有する。各継代培養は、約1週間かかり、この工程は比較的長期間を要する。更に、線維芽細胞が集まったDEDを得るために、DEDは代用の調製中に裏がえされなければならず、これは不便である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、創傷閉鎖のための、特に創傷床の促進された再集団を与えるための、結合組織層、好ましくは自己由来の真皮層のin vitro調製のための単純且つ迅速な速い方法を提供することが本発明の第1の目的である。好ましくはこの結合組織層は、また創傷被膜を与えるために完全に分化した上皮層で覆われる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従って、第1の側面において、本発明は代用結合組織のin vitro増殖のための方法に関し、前記代用結合組織は線維芽細胞で占められ、以下の工程を含む:a)第一及び第二接触面を有する、生きた細胞の実質的に無い結合組織層を供給する工程(該第一接触面は該第二接触面と対向している);b)該線維芽細胞を含む容器中に該結合組織層を配置し、該線維芽細胞を該結合組織層の該第一接触面に接触させる工程;及びc)工程b)と少なくとも一時的に同時に、該結合組織層(該結合組織層は該容器中に配置されている)の該第二接触面を、前記結合組織層の該第一接触面を通過することによって前記線維芽細胞を該結合組織層中に誘引するための環境を提供する走化性因子と接触させる工程。本発明に従った代用結合組織は、その必要のある被験体における創傷上への適用に適している。
【0018】
工程a)において、第一及び第二接触面(第一接触面は第二接触面に対向する)を有する生きた細胞の実質的に無い結合組織層(以下、“結合組織層”とも呼ばれる)が提供される。前記“生きた細胞の実質的に無い結合組織層”(以下、結合組織層とも呼ばれる)は、当該技術分野に公知の生きた細胞の実質的に無い任意の結合組織層であり得る(例えば、Molecular Biologu of the Cell, 2nd edition, Chapter 14, ed. Alberts et al., Garland Publishing, Inc., New York, USA(参照によって援用される)を参照)。ここで使用されるように、“生きた細胞の実質的に無い結合組織層”は、全ての生きた細胞を実質的に除去又は殺すために処理されたドナー生物由来のこのような結合組織層(例えば表皮の除かれた結合組織、例えば、真皮(DED、又はいわゆるセカンドカット(second cut)DED))、及び例えば、コラーゲン、エラスチン、グリコサミノグリカン、ポリエステル及び/又はポリカーボネートから構築される人工的に作られた結合組織型足場を意味する。このコンテクストにおいて使用されるように、生きた細胞の実質的に無いとは、5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、さらにより好ましくは0.5%未満、最も好ましくは0%の細胞生存率を意味する。
【0019】
前記生きた細胞の実質的に無い結合組織層は、例えば、表皮層を除き、下にある真皮層の細胞の全てを実質的に除去又は殺すための皮膚の処理によって得られ得る。当業者は、このような結合組織層を得るための方法を認識している。以下に記載されるように、前記生きた細胞の実質的に無い結合組織層は、好ましくはドナー生物から得られ得る。好ましくは、結合組織層及び細胞基底膜の構造は無傷である。従って、生きた細胞の実質的に無い結合組織層は得られ、これは線維芽細胞(好ましくは、その代用結合組織を受ける被験体の線維芽細胞)によって再び占められる。生きた細胞の実質的に無い結合組織は、最適な創傷閉鎖を提供するために、その代用結合組織を受ける被験体の創傷にフィットするように成形及びサイズが合わせられる。
【0020】
工程b)において結合組織層は、線維芽細胞含有容器中に配置され、線維芽細胞を結合組織層の第一接触面に接触させる。第一接触面は、好ましくは下向きであり(第二接触面が上向きであることを示す)、そこに含まれる線維芽細胞を介して容器と、好ましくはその底部分(底部分は好ましくは水平方向に向けられる)で、より好ましくは接触し、さらにより好ましくは完全に接触している。
【0021】
生きた細胞の実質的に無い結合組織層は、第一及び第二接触面を有する。結合組織層に接着した基底膜の無い場合、第一又は第二の接触面は任意に選択され得る。しかし、基底膜が結合組織層の1つの面に存在する場合、線維芽細胞と接触される第一接触面は、そこに接着する基底膜を有しない面を表す(線維芽細胞は、生きた細胞の実質的に無い結合組織層を占めるために基底膜を実質的に透通することができないため)。従って、基底膜が存在する場合、線維芽細胞は、結合組織層のいわゆる網様表面(そこに接着した基底膜を有さない結合組織層の面)と接触する。従って、そこに接着した基底膜を有する結合組織層の面(乳頭状表面とも呼ばれる)は、環境を提供する走化性因子と接触する第二接触面である。
【0022】
容器は、例えば細胞培養皿、ペトリ皿、ウェルを含むプレートのウェル、フラスコ、トランスウェル(transwell)などの当該技術分野に公知の任意の容器であり得る。前記容器は、プラスチック又は硝子又は細胞を含有するために適した任意の他の材料で作製され得る。容器は、好ましくは、平底部分を含む。線維芽細胞は、容器の底部上に付着する単層を形成し得る。
【0023】
前記線維芽細胞は、例えば、細胞培養皿、フラスコ又はトランスウェルにおける培養などの当該技術分野に公知の任意の方法によって調製され得る。
【0024】
工程c)において、結合組織層(結合組織層は容器中に配置される)の第二接触面は、少なくとも一時的に工程b)と同時に、前記結合組織層の第一接触面を通過することによって結合組織層中に前記線維芽細胞を誘引するための環境を提供する走化性因子と接触される。好ましくは、第二接触面は、上を向いており、環境を提供する走化性因子は、簡便にその上に供給され得る。
【0025】
ここで使用されるように、“環境を提供する走化性因子”は、結合組織層中への線維芽細胞の移動を達成することができる任意の環境を示す。このような環境を提供する走化性因子の非制限的な例は、上皮細胞、表皮細胞、ケラチノサイト、このような細胞の細胞抽出物又は培養上清、無傷の上皮層、特に無傷の表皮層、又はケモカイン、増殖因子、サイトカインなど、又はそれらの1つ以上の混合物など、線維芽細胞を誘引するための化学的環境を提供するための当該技術分野に知られる単離された因子である。
【0026】
ここで使用される“少なくとも一時的に同時に”という用語は、容器中の線維芽細胞を結合組織層の第一接触面と接触させること、及び環境を提供する走化性因子を結合組織層の第二接触面と接触させることを少なくとも一時的に(即ち、短期間)同時に起こすことを意味する。結合組織層の線維芽細胞での集合を達成するために十分な幾らかの期間に、両方の接触工程が同時に起こる限り、それは何れかの接触工程が他の接触工程無しに起こり得ないことを意味するのでない。
【0027】
この方法において、結合組織層(例えば、DED)は、Ghosh等(上記)の方法の場合のように、線維芽細胞で占められた代用結合組織を得るために、裏返される必要はないため、この方法は、今までに知られた方法よりもより便利である。更に、連続的に継代培養される必要のない線維芽細胞の初代単離物が有利に使用され得るため、このような代用物調製のために必要な時間は、Dong-Youn Lee等(上記)に開示される方法と比較して短縮され得る。従って、該方法は、線維芽細胞で占められた代用結合組織を得るための公知の方法よりもより簡便且つ速く、完全に自己由来の代用結合組織の迅速な調製を可能にする。細胞で占められた結合組織の調製のために、被験体からの単一の小さなバイオプシーのみが必要である(その代用物が完全に自己由来であるために)。更に、このような代用結合組織が創傷上に適用される場合、特に線維芽細胞で占められた代用結合組織が上皮層で覆われる場合、創傷修復の速さが、いかなる不都合な傷痕組織形成無く(肥厚性瘢痕形成のない)上昇されることが示された。本発明に従った代用結合組織に加えて、創傷の水分損失及び感染に対する感受性を防ぐために、任意の便利な創傷被膜のための調製物が使用され得る。当業者は、上記の商業的調製物の1つ以上のような創傷被膜を提供するための適切な調製物を承知する。
【0028】
“自己由来(autologous)”という用語は、当該技術においてよく知られ、被験体自身の組織を示す。
【0029】
好ましい実施形態において、線維芽細胞含有容器は、線維芽細胞を含有する細胞培養皿又はトランスウェルである。細胞培養容器は、例えば従来型の細胞培養皿、ウェルを有するプレートにおけるウェル、又は好ましくはトランスウェルなどの当該技術分野において公知の任意の細胞培養容器であり得る。好ましくは、本発明に従って、線維芽細胞は、結合組織層と接触される前に、細胞培養容器において線維芽細胞培地中で約50%コンフルエンスに培養される。線維芽細胞の結合組織層中への移動及び線維芽細胞での結合組織の占有を達成するために、結合組織層の第二接触面、即ち、線維芽細胞と接触していない結合組織層の面が環境を提供する走化性因子と接触させられる。線維芽細胞の培養に適した培地は、当該技術分野によく知られており、従って、当業者によって容易に決定され得る。細胞培養容器、例えば細胞培養皿又はトランスウェルにおける線維芽細胞は、細胞培養容器、例えば細胞培養皿又はトランスウェルからの線維芽細胞の放出を成し遂げるために、トリプシン処理に供され得る。線維芽細胞の増幅が必要である場合、後者は特に重要である。初代細胞培養物を用いた線維芽細胞で占められた結合組織層の構築のために、トリプシン処理は必要ない。
【0030】
結合組織層の第二接触面は、容器からの線維芽細胞と実質的に接触しないように維持される。従って、結合組織層は、線維芽細胞と環境を提供する走化性因子の間にバリアを提供する。環境を提供する走化性因子の化学引誘作用に起因して、線維芽細胞は結合組織層の第一接触面から結合組織層の第二接触面へ向かって、それらが中間領域を占めるように、誘引される傾向がある。
【0031】
好ましい実施形態において、線維芽細胞は、初代細胞培養物である。これは、代用結合組織の調製のために必要な時間を最小限に抑えるが、結合組織層を占めるための十分な線維芽細胞を供給する。従って、線維芽細胞は、被験体から単離され、3〜6日培養され、次いで結合組織層の第一接触面と接触され得、一方でまた、少なくとも一時的に同時に結合組織層の第二接触面を環境を提供する走化性因子(例えば、無傷の上皮層)と接触させる。従って、自己由来の代用結合組織が約2〜3週間で簡便に調製され得る。
【0032】
一実施形態において、前記環境を提供する走化性因子は、1つ以上の走化性因子を含有する培地によって提供される。1つ以上の走化性因子は、線維芽細胞についての化学誘引物質を表し、これらは、結合組織層に移動し集合する。前記1つ以上の走化性因子を含有する培地は、走化性因子を含有する任意の培地であり得る(例えば、ケモカイン、増殖因子、サイトカイン等、又はそれらの1つ以上の混合物を含有する溶液又はゲル、油、クリーム、又はペースト等の他の培地)。
【0033】
更なる実施形態において、環境における少なくとも1つの走化性因子は、上皮細胞由来である(例えば、上皮細胞の細胞抽出物又は細胞培養上清など)。このような細胞抽出物又は細胞培養上清は、ケモカイン、サイトカイン、増殖因子又は他の走化性因子の複合混合物を含み、これは線維芽細胞を結合組織層中に誘引するための環境を提供する走化性因子として特に適している。
【0034】
好ましい実施形態において、前記環境を提供する走化性因子は、上皮細胞を含有する。このような上皮細胞は、結合組織層が線維芽細胞で占められるように、線維芽細胞を結合組織層中へ誘引するケモカイン、サイトカイン、増殖因子及び他の走化性因子の複合混合物を分泌する。また、線維芽細胞によって分泌される増殖因子及びサイトカインは、上皮の増殖、分化及び結合組織構造に亘る移動を促進し、上皮細胞は、十分に分化した上皮層を形成し、これは、創傷閉鎖に加えて創傷被膜を提供し得る。
【0035】
他の実施形態において、上皮細胞は、上記と同一の理由でケラチノサイトを含有する。ケラチノサイトは、上皮細胞の主なコンポーネントを構成し、上記と同一のことがケラチノサイトについて当てはまる。
【0036】
上皮細胞が表皮細胞であることが好ましい。殆どの創傷は、皮膚創傷であり、これらは本発明に従った方法の主なターゲットである。更に、表皮細胞は、被験体にとって最小限の不快感とストレスで入手することが比較的容易である。
【0037】
更に好ましい実施形態において、前記環境を提供する走化性因子は、無傷の上皮層を含有する。この無傷の上皮層は、結合組織層の第二接触面上の、多層の十分に分化した上皮層の形成を確実にし、最適な創傷閉鎖だけでなく、最適な創傷被膜もこのようにして得られた代用結合組織によって確実にされる。
【0038】
真皮創傷を閉鎖するための代用真皮組織を増殖する場合、表皮層は、上皮層として扱われる。しかし、他の上皮組織は、本発明に従って使用され得る(例えば、口腔、胃、腸、目の結膜、尿路、及び呼吸経路の被膜及び粘膜上皮)。
【0039】
前記上皮層は、例えば、舌、食道、口腔、目の角膜、気道又は腸キャビティなどの任意の上皮組織由来であり得るが、好ましくは、皮膚組織由来の表皮層である。皮膚組織の調製のために、表皮層が使用される。
【0040】
前記上皮層は、生きた細胞の実質的に無い結合組織層上において増殖される。上皮層が環境を提供する走化性因子として使用される場合、被験体の無傷の上皮層が結合組織層の第二接触面上に配置される。本発明に従うと、前記無傷の上皮層は、約3週間で少なくとも約20倍に拡張され得るため、結合組織層の第二接触面と接触している無傷の上皮層の表面積は、生きた細胞の実質的に無い結合組織層の対応する表面積の1/20であり得る。無傷の上皮層は、好ましくは、その生理学的定位において結合組織層の第二接触面上に配置される。従って、上皮層が表皮層である場合、結合組織層と基底膜を介して自然に接触している前記表皮層の面が、結合組織層の第二接触面と接触しており、一方で表皮層中の増殖及び分化を促進するために、基底膜を介して結合組織層と自然に接触していない前記表皮層の面が空気と接触していることが好ましい。無傷の上皮層を得るための任意の方法が使用され得る;当業者は、被験体の無傷の上皮層を得るために適した方法を認識する(例えば、ディスパーゼ又はサーモリシンを用いた皮膚の酵素消化、或いはカルシウム若しくはマグネシウムの無い溶液又はEDTA含有溶液中の皮膚のインキュベーション)。
【0041】
好ましくは、本発明に従って、上皮層は、結合組織層を介してケラチノサイト増殖培地と少なくとも約24時間接触され、増殖に必要な化合物の取り込み及び放出を可能にする。この場合、結合組織層及び上皮層の層状アセンブリは、例えば、その結合組織層をケラチノサイト培養培地中に浸けたケラチノサイト培養培地中に配置される。従って、上皮層は、組織構造が維持されるように無傷で存続し、これはその拡張を促進する。この方法における上皮層の増殖によって、細胞懸濁物の時間のかかるかつ高価でない増幅工程が含まれ、且つ非常にわずかなバイオプシー材料が必要とされる。特に、表皮層の場合、表皮層の完全な分化を刺激するために、空気に暴露された結合組織層の第二接触面と接触する面に対向する面で表皮層が増殖されることが好ましい。しかし、上皮層はまた、沈んだ条件下でも増殖され得る。これは、幾つかの場合、例えば表皮組織を増殖する場合、完全よりもむしろ部分的な分化を結果的に生じ得、又は他のタイプの上皮組織(例えば、粘膜組織)のための最適培養条件を提供し得る。
【0042】
上皮層は、好ましくは、例えば増殖因子含有培養培地などの増殖因子の存在下で生きた細胞の実質的に無い結合組織層上に予め増殖される。当業者は、適切な増殖因子含有培養培地を確立及び調製することが容易に可能である。しかし、ダルベッコの改良MEM培地/Hams F12培地、血清又は代用血清及び1つ以上の増殖因子を含有する培養培地を使用することが好ましい。血清は被験体由来であることが好ましい(このようにして同種材料に付随した危険性を回避し得るため)。代替的に、代用血清が、この目的のために使用され得る。代用血清は、当該技術分野によく知られている。その例は、ultroserG、ultroserHY、ウシ脳下垂体抽出物(全てLife technologiesから入手可能)制御加工血清代用物(controlled process serum replacements; CPSR;Sigmaから入手可能)及びウシ胚流動体(bovine embryonic fluid)(Sigma)である。ここで使用されるように、“増殖因子”という用語は、上皮層の最適な増殖及び分化を刺激する全ての物質、例えば、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、上皮増増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子アルファ、血管内皮増殖因子、顆粒単球コロニー刺激因子、テストステロン及びエストロゲン等のホルモン、及びインターロイキン−1α、インターロイキン−8、及び増殖関連オンコジーン−α等のサイトカインを包含することを意味する。培養培地中の増殖因子レベルは、0.1〜50、好ましくは0.2〜25、より好ましくは0.5〜15、そして最も好ましくは1〜10ng/mlの範囲であることが好ましい。更に、前記培養培地が更にビタミンCを含有することが好ましく、これは増殖及びセラミド6合成を促進し、セラミド6は、優れたバリア形成に重要である角質層のコンポーネントである。更に、好ましい前記培養培地は、さらにヒドロコルチゾン、インシュリンを含み、最良の結果はこのように得られる。必要に応じて、前記培養培地は、さらに1つ以上の抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンピシリン等、又はその組み合わせ)を含有する。
【0043】
上皮層は、上皮層及び生きた細胞の実質的に無い結合組織層の層状アセンブリを得るために、次いで結合組織層の第二接触面上で増殖される。
【0044】
少なくとも24時間後、生きた細胞の実質的に無い結合組織層及び上皮層のアセンブリは、ケラチノサイト培養培地から除かれ、生きた細胞の実質的に無い結合組織層の第一接触面は、細胞培養容器、好ましくは細胞培養皿、又はトランスウェル(その中で生きた細胞の実質的に無い結合組織層中に線維芽細胞を誘引するために、線維芽細胞が線維芽細胞培養培地中で接着及び培養された)上に配置される。このようにして得られた培養培地中で細胞培養容器に接着した線維芽細胞、生きた細胞の実質的に無い結合組織層、及び上皮層のアセンブリは、次いでさらに1〜3週間接触された。1〜3週間の更なるインキュベーションの後、パンチバイオプシーの表皮層の元の輪郭は依然として目に見え、一方で完全に分化した表皮層が生きた細胞の実質的に無い結合組織上に発現した。このようにして増殖した代用組織は、被験体に移植され得、一方で組織は実際に好ましい被験体自身の組織であり、従って移植片拒絶についての危険性を全く与えない。代用組織が無傷の上皮層(異なる時に得られたバイオプシー)よりも早い時期において単離された線維芽細胞から構築される場合、結合組織層の第二接触面と接触している無傷の上皮層は、ケラチノサイト培養培地に中で少なくとも24時間最初に培養される必要はない。この場合、生きた細胞の実質的に無い結合組織層及び上皮層は、生きた細胞の実質的に無い結合組織層の第一接触面を介して線維芽細胞上に直接配置され得る。
【0045】
約3週間におけるこのような単純な様式において、自己由来の上皮層が約20倍に拡張され得ることが見出された。この期間において、約1.5cmの自己由来上皮層が約3mmの直径を有する上皮層のパンチバイオプシーを用いて得られ得る。当該技術分野において公知の殆どの他の皮膚モデルは、上皮層の増殖を開始するために、ケラチノサイトの単細胞懸濁物を利用する。これは、より時間消費的且つ高価であるだけでなく、上皮層を構築する前にケラチノサイトを増幅するために一般的に要求される高い播種密度に起因した、著しく多量の出発皮膚も必要とする。
【0046】
皮膚の創傷が本発明に従った方法の主なターゲットであり、無傷の表皮層は、被験体にとって最小限の不快感とストレスで得ることが容易であるため、無傷の上皮層は無傷の表皮層であることが好ましい。
【0047】
本発明に従った方法の好ましい実施形態において、上皮細胞、ケラチノサイト、又は無傷の上皮層は、前記被験体から得られ、これらは自己由来組織を提供する。
【0048】
本発明に従った方法の好ましい実施形態において、上皮細胞、ケラチノサイト、又は無傷の上皮層は、前記被験体の1つ以上の皮膚バイオプシーから得られる。無傷の上皮層を得るための任意の方法が使用され得る;当業者は、無傷の上皮層、特に被験体の無傷の表皮層を得るための適切な方法を認識している(例えば、ディスパーゼ又はサーモリシンを用いた皮膚の酵素消化、或いはカルシウム若しくはマグネシウムの無い溶液又はEDTA含有溶液中での皮膚のインキュベーション)。当業者は、上皮又は表皮細胞、特に無傷の表皮層からケラチノサイトを得るための適切な方法も認識している(例えば、Ghosh等(上記)参照)。
【0049】
好ましい実施形態において、結合組織層の第二接触面は、基底膜を含む。上皮細胞の場合、ケラチノサイト又は無傷の上皮層が本発明に従った代用結合組織の調製において環境を提供する走化性因子として使用され、この基底膜は、それが上皮細胞の結合組織層への接着を可能にするため重要である。
【0050】
ここで使用されるように、“基底膜”という用語は、自然及び人工の基底膜の両方を含むことを意味する。生きた細胞の実質的に無い結合組織層がドナー生物由来である場合、生きた細胞の実質的に無い結合組織層に自然に結合した基底膜が存在することが好ましい。しかし、人工結合組織型足場が使用される又はドナー生物由来の生きた細胞の実質的に無い結合組織層からの自然基底膜が存在しない又は損傷している場合、人工の基底膜が構築され得る(例えば、上皮層の結合組織層への接着を可能にする、単独又は混合のフィブロネクチン、フィブリン、コラーゲン、又は任意の他の物質の層)。
【0051】
更に、線維芽細胞が前記被験体の1つ以上の皮膚バイオプシーから得られることが好ましい。上記のように、皮膚バイオプシーは、被験体にとっての最小限の不快感で得ることが比較的容易である。更に、以下に記載されるように、このような線維芽細胞の更なる培養を可能にするために、このようなバイプシーからの線維芽細胞を単離することは比較的容易である。
【0052】
無傷の上皮層は、皮膚バイオプシーから除去され得、残る皮膚組織は、少なくともそこからの線維芽細胞を単離するためにディスパーゼ及びコラゲナーゼで処理され得る。ディスパーゼ及びコラゲナーゼは、例えば、コラーゲン等の構造的結合組織コンポーネントを消化し、幾つかの細胞種、最重要である線維芽細胞を、無傷にする。代替的に、残留する皮膚組織は、インタクト培養され得、線維芽細胞は、残留皮膚組織の酵素消化によって得られるよりも遅い速度ではあるが組織から外に自然に移動させられ得る。線維芽細胞に加え、結合組織中に存在する幾つかの他の細胞種が単離及び増殖され得る(例えば、内皮細胞)。従って、細胞は、治療される被験体の自己由来である。結合組織細胞混合物を得るために、得られる消化物全体が組織培養に移されることが好ましい。これは、時間消費的精製方法を用いる必要性を回避し、自然の結合組織細胞組成物のより優れた模倣を結果生じる。
【0053】
好ましくは、本発明に従った方法において、線維芽細胞及び上皮細胞、ケラチノサイト又は無傷の上皮層は、前記被験体由来であり、単一のバイオプシーが線維芽細胞と上皮若しくは表皮細胞又は無傷の上皮若しくは表皮層の両方を供給するのに十分である。従って、完全に自己由来の代用結合組織が移植片拒絶の最小限の可能性及び被験体にとっての最小限のストレスで得られ得る。例えば、首や耳からの皮膚などの極度に光加齢な皮膚領域さえも含む皮膚の全ての領域から得られるバイオプシーを用いて、90歳よりも高い年齢の被験体からであってもそれは容易に形成され得るため、被験体の年齢は代用結合組織の構築にとっての限定的要因ではない。
【0054】
好ましくは、無傷の上皮層はバイオプシーから除去され、残留する皮膚組織は、ディスパーゼ及びコラゲナーゼで少なくともそこからの線維芽細胞を単離するために処理される。ディスパーゼ及びコラゲナーゼは、例えば、コラーゲン等の構造結合組織コンポーネントを消化し、幾つかの細胞種、最重要である線維芽細胞を無傷にする。代替的に、残留皮膚組織は、インタクト培養され得、残留皮膚組織の酵素消化によって得られるよりも遅い速度ではあるが、線維芽細胞が組織から外への自然移動を可能にし得る。線維芽細胞は、自然の結合組織層における状況を模倣するために、生きた細胞の実質的に無い結合組織層を再び占めるように増殖する。線維芽細胞に加えて、結合組織中に存在する幾つかの他の細胞種が単離され、増殖され得る(例えば、内皮細胞)。従って、細胞は治療される被験体に対して自己由来である。得られる消化物の全体が、結合組織細胞混合物を得るために、組織培養物に移動されることが好ましい。これは、時間消費の精製方法を使用する必要性を回避し、自然結合組織細胞組成物のより優れた模倣を結果生じる。
【0055】
更なる実施形態において、本発明に従った方法は、遺伝子治療を提供するために、線維芽細胞、上皮細胞、ケラチノサイト又は無傷の上皮層中に1つ以上のヌクレオチド配列を導入する工程をさらに含む。前記1つ以上のヌクレオチド配列は、DNA配列、RNA配列、又はそれらの任意の組合せであり得る。前記ヌクレオチド配列は、例えば、組換えDNA技術やin vitro合成等の当該技術分野にいて公知の任意の方法によって調製され得る。前記ヌクレオチド配列は、例えば、一時的トランスフェクション又はトランスフォーメーション等の当該技術分野に公知の任意の方法によって導入され得、上皮層の細胞及び/又は線維芽細胞の染色体中に組み込まれ得、又は自律複製ヌクレオチド配列、例えば自律複製ベクターとして前記細胞及び/又は線維芽細胞中に維持され得る。前記ヌクレオチド配列は、好ましくは、例えばプロモーター及びターミネーター等の制御配列に作動可能に的に結合される。前記ヌクレオチド配列は、例えば、特定の疾患の治療のための、例えば目的のタンパク質をコードし得る。糖尿病の治療のために、例えばインシュリン発現ヌクレオチド配列が導入され得る。同様に、水泡性(水泡形成)疾患の治療のために、例えば、基底膜領域タンパク質(例えば;コラーゲンVII)発現ヌクレオチド配列が導入され得、又はガン治療を補助するために、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が導入され得る。代替的に、前記ヌクレオチド配列は、例えば特定mRNAを標的及び不活性化するための、アンチセンス配列を提供し得る。この方法において、アンチセンス腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)は、乾癬及び関節炎等の炎症性疾患におけるTNF-αの過剰発現に対抗するために導入され得る。
【0056】
前記生きた細胞の実質的に無い結合組織層がドナー生物由来であり、前記被験体がドナー生物でないことが好ましい。好ましくは、このような前記生きた細胞の実質的に無い結合組織は、ドナー生物の皮膚由来である。このような皮膚は、一般的に、表皮層、基底膜及び真皮層を含む。本発明に従って、前記皮膚は、表皮層を除去し、一方で真皮層及び好ましくは基底膜の構造を無傷にするように処理される。好ましくは、真皮細胞は、実質的に真皮層から除去される。熟練の技術者は、現在の目的のための皮膚の処置のために適切な方法を認識する。このような目的のための使用され得る方法は、例えば、表皮層の注意深い擦り取りの続く、カルシウム及びマグネシウムの無い生理食塩水を用いた皮膚の処理、又は例えば、ディスパーゼ及び/又はサーモリシンを用いた表皮層の酵素除去であり得る。皮膚は、殺された又は死んだ生物から得られ得、この場合、このような皮膚は死体皮膚と呼ばれる。
【0057】
完全にヒトコンポーネントから上皮層を作製し、且つ非ヒト材料の使用を回避するために(それに付随した危険性(例えば、Kreutzfeld-Jacob疾患)の危険性を排除するため)、このような皮膚はヒトの皮膚であることが非常に好ましい。このようなヒトの皮膚の例は、例えば、包皮又は死亡したドナーの皮膚である。
【0058】
第二の側面において、本発明は、本発明に従った方法によって得られ得る代用結合組織、特に本発明に従った方法によって得られ得る代用真皮組織、さらに特別には代用皮膚に関する。
【0059】
代用結合組織、特に代用真皮組織は、少なくとも線維芽細胞で占められ、他の細胞も包含し得る。好ましくは、プロダクトにおける全ての細胞は、治療される被験体に対し自己由来であり、一方で結合組織層の非細胞構造は、依然として同種の結合組織層ドナー起源、好ましくはヒト起源である。
【0060】
代用真皮組織の場合、それは、例えば、内皮細胞等の更なる真皮細部を含み得る。代用真皮組織は、表皮層を含んでも含まなくてもよい。代用真皮組織が表皮層を含む場合、それは、代用皮膚又は代用皮膚組織とも呼ばれ得る。好ましくは、それは、上皮層等を含み、これは、完全に分化され、自然表皮と非常に類似する(無傷の上皮層が代用結合組織の調製のために使用される場合、その最終構造は、自然表皮と非常に類似する)。上皮層は好ましくは、基底層、棘層、顆粒層、角質層から成る。角質層は、感染及び過剰な水分損失の危険性を軽減する表皮のバリア機能のために重要である。これは、慢性的及び/又は大きな傷を有する被験体にとって非常に重要である。ケラチノサイトの増殖は、自然の健康な表皮において見られるのと同様の頻度で基底層においてのみ見られる。ケラチンは、創傷閉鎖間のケラチノサイトの移動に重要であり、例えば、ケラチン6及び16は、創傷閉鎖間に表皮において見られるのと同程度に上方制御される。角質化されたエンベロープ形成及び通常の表皮分化のために必要なタンパク質(例えば、ロリクリン(loricrin)、インボルクリン(involucrin)、小さなプロリンリッチタンパク質2(SPRR2)及びケラチン10)の発現は、創傷閉鎖間の表皮と同様に代用皮膚組織の拡張する側面においてのみ上方制御される。潜在的な抗炎症制御タンパク質、例えば、皮膚誘導型抗ロイコプロテイナーゼは、代用皮膚組織において上方制御される。さらに、代用皮膚組織は、血管形成を促進すると思われる多くのケモカイン及び血管新生因子(例えば、CCL2/MCP-1、CXCL8/IL-8、CCL27/CTACK、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(例えば、FGFs)及び肝細胞増殖因子(HGF))を分泌する。
【0061】
移植片の正常な色素形成が得られるように、色素形成細胞(メラニン細胞)を表皮に組み込むことが可能である。これは、尋常性白斑などの色素障害の治療のための代用真皮組織の使用を可能にする。
【0062】
好ましくは、線維芽細胞は、自然の健康な真皮において見られるのと同様の頻度で真皮全体を占める。これらの線維外細胞は、筋線維芽細胞に分化せず、従って肥厚性瘢痕形成の危険性を低減する。内皮細胞を真皮中に組み込むことが可能であり、これはさらに血管形成を促進し、移植片拒絶の可能性を低減し得る。
【0063】
従って、自己由来の代用真皮組織は、好ましくは、完全な厚みの皮膚に類似し、ここでそれは、表皮コンポーネント及び真皮コンポーネントから成り、これは、それを比較的強い移植片にする。無細胞真皮コンポーネントのみから成る移植片(例えば、Alloderm(登録商標))は、感染及び水分損失を受け易く、さらに表皮は、創傷の端から生成されなければならない。それと対照的に、表皮コンポーネントのみから成る移植片は、一般的に非常に脆性である。基底膜は、創傷床に存在する真皮と共に形成されなければならず、これは数何週間〜数ヶ月かかるプロセスである。さらにこれらの移植片は、表皮層、基底膜、及び細胞性真皮層から構成される完全な皮膚移植片と同程度に、完全に分化されない。従って、表皮層のみから成るこのような移植片のバリア性の側面は、完全な皮膚移植片に劣る。
【0064】
代用結合組織、特に代用真皮組織は、従来動物又はヒトの皮膚において実施される研究のために使用され得ることも想定される。このような研究の例は、哺乳類、特にヒトについての毒性研究、及び例えばアレルギー反応についての研究のような免疫学的研究である。さらに、代用組織は、コスメティック製品の試験のために使用され得る(このような目的のための動物試験の使用を軽減、回避、又は排除するため)。
【0065】
さらなる側面において、本発明は、創傷の閉鎖のための方法に関し、クレーム19に従った代用結合組織を創傷上に適用する工程を含む。代用結合組織は、創傷にフィットするように調製され得、創傷閉鎖を提供するために適用され得る。従って、代用結合組織、特に代用真皮組織は、創傷端上に移動し、最終的に被験体の皮膚と浸ることが見出された。従って、創傷は完全に回復する。重要なことに、代用真皮組織は、被験体の皮膚から区別できなかった。
【0066】
創傷は任意の創傷であり得るが、好ましくは慢性創傷又は急性創傷である。好ましくは、慢性創傷は、静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡、持続性火傷からなる群から選択される。好ましくは、急性創傷は、外科創傷、不慮の創傷、褥瘡、火傷から成る群から選択される。このような創傷は、本発明に従った代用結合組織、特に代用真皮組織を用いて容易に閉鎖されることが見出された。
【0067】
さらに、本発明は創傷を負った被験体を治療するための方法に関し、前記創傷上に本発明に従った代用結合組織を適用することを含む。従って、その必要のある被験体は、創傷床を刺激するため、従って修復を刺激するために細胞で占められた代用結合組織で治療され得る。代用結合組織が真皮及び表皮層を含む完全な厚みの代用真皮組織であることが好ましい。本発明に従った代用結合組織の増殖は、2〜3週間かかり得る。
【実施例】
【0068】
実施例及び図面
以下、本発明は、本発明の実施形態を単に例証するために示され、それをいかなる方法においても限定しない以下の実施例、及び本発明に従った代用真皮組織の調製のための方法の実施形態を表す図1によって説明される。
【0069】
図1の左部分を参照し、リファレンス番号4は、間に位置する基底膜7を有する表皮層5及び結合組織層6を含む死体皮膚を示す。この段階において、死体皮膚4は、多くの細胞を含む。死体皮膚4から細胞は、例えば以下の実施例1に示されるカルシウム及びマグネシウムの無いペニシリン及びストレプトマイシンを含む燐酸緩衝生理食塩水を用いた処理によって除去され、結果として生きた細胞の実質的に無い結合組織層1を生じる(矢印I)。生きた細胞の実質的に無い結合組織層1は、互いに対向する第一接触面2及び第二接触面3を有する。第二接触面3は、好ましくは基底膜7を含み、これは例えば生きた細胞の実質的に無い結合組織層1から表皮層5を穏やかに擦り取ることによって達成され得る。この実質的に生きた細胞の無い結合組織層1(必要に応じて、その第二接触面3に接着した基底膜7を有する)は、例えば以下の実施例1に示されるように使用まで保存され得る。
【0070】
ここで図1の右部分を参照して、完全な厚みの皮膚パンチバイオプシー8が示され、これはヒト起源であり得る。パンチバイオプシー8は、表皮層9及び真皮層10を含み、これらは基底膜11を介して隔離されている。表皮層9は、上皮細胞12を含む。真皮層10は、線維芽細胞13を含む。パンチバイオプシー8から表皮層9及び真皮層10は例えば以下の実施例2に記載されるように、例えばディスパーゼ処理によって互いに分離される(矢印II)。無傷の表皮層9は、注意深く除去される(矢印IIの左の分離する側を参照)。それに接着した基底膜11を含む真皮層10は無傷で存続する(矢印IIの右の分離する側を参照)。
【0071】
生きた細胞の実質的に無い結合組織層1は、容器14中に配置され(矢印III)、これは任意の細胞培養容器であり得るが、この場合トランスウェルであり得る。無傷の表皮層9は、表皮層9及び生きた細胞の実質的に無い結合組織層1の層状アセンブリ15を得るために、生きた細胞の実質的に無い結合組織層1上に配置される(矢印IV)。生きた細胞の実質的に無い結合組織層1が基底膜7を含む場合、表皮層9は、生きた細胞の実質的に無い結合組織層1及び表皮層9が基底膜7によって分離されるように、第二接触面3に接着した基底膜7上に配置される。培養培地16は、それが下から表皮層9と接触するまで添加され、表皮層9の角質層側17は上向きである。上記は、例えば実施例3に開示される。
【0072】
ここで矢印IIの右側の分離する側を参照し、パンチバイオプシー8からの表皮層9の除去の後、線維芽細胞13は、例えばディスパーゼ/コラゲナーゼを用いた処理によって真皮層10から分離される。線維芽細胞13は、例えば以下の実施例4に記載されるように、第二容器17中で培養される(矢印V参照)。
【0073】
数日間の線維芽細胞13の増殖の後(この場合、それは初代細胞培養に関する)、層状アセンブリ15は、例えば以下の実施例5に記載されるように、表皮層9が上向きで空気と接触するように第二容器17中の増殖した線維芽細胞13上に配置される(矢印VI及びVII)。表皮層9は、生きた細胞の実質的に無い結合組織層1の第一接触面2を通過することによって、生きた細胞の実質的に無い結合組織層1中に線維芽細胞13を誘引するための環境を提供する走化性因子を構成する。結果物は、線維芽細胞で占められた代用真皮組織18を得るために、生きた細胞の実質的に無い結合組織層1の線維芽細胞13とのポピュレーションを可能にするために、さらに数日間増殖された(矢印VIII)。
【0074】
実施例1 生きた細胞の実質的に無い結合組織層の調製
Euro Skin Bank (Beverwijk, The Netherlands)からのグリセロール保存されたヒト死体皮膚は、カルシウム及びマグネシウムフリーのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄された。死体皮膚は、カルシウム及びマグネシウムフリーのペニシリン(100IU/ml)及びストレプトマイシン(100μg/ml)含有PBS中で、37℃で1週間インキュベートされた(この週の間カルシウム及びマグネシウムの無いペニシリン及びストレプトマイシン含有PBSは、3度取替えられた)。表皮はブラントな金属スパチュラを用いて穏やかに擦り取られ、生きた細胞の実質的に無い真皮層及びその乳頭表面に接着した基底膜を無傷で残すことが出来た。基底膜を含む真皮層はカルシウム及びマグネシウムの無いペニシリン及びストレプトマイシン含有PBS中で6ヶ月間まで、4℃でそれが使用されるまで保存された。
【0075】
実施例2 無傷の表皮層の調製
3mmの完全な厚みの皮膚パンチバイオプシーは、被験体から無菌的条件下で、例えば太ももなどの光老化されていない皮膚の健康な領域から取られた。そうするために、その皮膚領域は最初にクロルヘキシジン溶液(水の中に1%)を用いて洗浄され、乾燥させられた。平方センチメートル毎の創傷を閉鎖するために、3mmのバイオプシーが得られた。
【0076】
バイオプシーはPBS中で洗浄され、ディスパーゼを染み込んだガーゼスワブ(gauze swab)(Grade II; Boehringer)上に表皮側を上向きにして配置された。そのバイオプシーは終夜4℃でインキュベートされた。バイオプシーはPBSを含む9cmの培養皿中に配置された。無傷の表皮層は、滅菌ピンセットで注意深く除去された。角質層における疎水性脂質コンポーネントに起因して、表皮層は角質層側を上向きにして浮かび、従って測定される表皮層の方向付け及び無菌の平坦なスプーンで容易にすくい上げられることを可能にする。
【0077】
実施例3 表皮層及び真皮層のアセンブリの調製
実施例1において得られた真皮層は、それが適用される創傷にフィットするようにカットされ(1cm×2cm)培養培地I(ダルベッコの改良MEM培地(DMEM)/Hams F12(3:1)、1% ultroserG(Biosepra S.A., Cergy-Saint-Christophe, France)、10−7Mインスリン、10−6Mヒドロコルチゾン、10−6Mイソプレテロノール(isopreteronol)、100 IU/mlペニシリン、4ng/mlKGF及び1ng/mlEGF含有100μg/mlストレプトマイシン)中で終夜インキュベートされた。
【0078】
真皮層は、無菌のステンレス鋼グリッド上にその基底膜面を上にして配置された。培養培地Iは、培地が真皮層の底面に達するまで添加され、真皮層の上面(乳頭表面又はいわゆる第二接触面)は、空気に暴露された基底膜を含んでいる。
【0079】
1日目において、実施例2で得られた無傷の表皮層は、表皮層、基底膜及び真皮層の層状アセンブリを形成するように、その角質層面を上向きにして基底膜(第二接触面)の上に配置された。真皮層上の表皮層は、4日まで空気に曝露されて培養され、培養培地Iは下から表皮層に接触した。次いで、表皮層は、更なる3〜5日間(7日目(3日後)における1の必要に応じた培養培地の取替えを伴って)4ng/mlKGF及び1ng/ml EGFを含有する培養培地II(DMEM/Hams F12 (3:1)、0.2% ultroserG (Biosepra S.A.、Cergy-Saint-Christophe、France)、10−7M インスリン、10−6M ヒドロコルチゾン、10−6M イソプレテロノール、0.1 Mセリン、10−6M カルニチン、必須脂肪酸を含有する脂質混合物(終濃度:25μM パルミチン酸、15μM リノール酸、7μM アラキドン酸(キャリアタンパク質として24μMの本質的に脂肪酸の無いウシ血清アルブミンを用いた))、130μg/ml ビタミンCホスフェート、1μM ビタミンE(DL−α−トコフェロール−Ac)、100 IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン)で下から接触された。
【0080】
7〜9日目において、表皮層は真皮層上の元の表皮シートの端から約1〜2mm拡張した。
【0081】
実施例4 被験体の線維芽細胞を用いた線維芽細胞培養物の調製
バイオプシーから表皮層を除去した後、残存する真皮はHankの緩衝塩溶液(2.5mlディスパーゼタイプII、75mgコラゲナーゼ及び7.5ml Hankの溶液;フィルター滅菌された)中の0.5mlのディスパーゼ/コラゲナーゼ中37℃で2時間インキュベートされた。次いで2mlの線維芽細胞培地(1%ultroserG(Biosepra S.A.、Cergy-Saint-Christophe, France)、100 IU/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシン含有DMEM)が添加され、消化された真皮は6分間1100rpmで遠心分離された。ペレットは2mlの線維芽細胞培地中に再懸濁され、組織培養0.4μm孔サイズのトランスウェル(Costar)に移された。線維芽細胞は40〜60%コンフルエンスまで7〜9日間線維芽細胞培地中で細胞培養トランスウェル中で培養された。培地は4日目及び必要に応じて7日目に取替えられた。
【0082】
実施例5 線維芽細胞上への代用真皮組織の培養
表皮層、基底膜及び生きた細胞の実質的に無い真皮層の層状アセンブリは、細胞培養トランスウェル中で培養された線維芽細胞上に空気に接触している表皮層を上向きにして配置され、結果物は培養培地II中で更に7〜14日間増殖された。KGF及びEGFは真皮層上の表皮シートの端から表皮が3〜5mm拡張するまで培養培地II中に維持され、次いで除かれた。従って、2〜3週間の全培養期間の後、増殖している表皮は第二接触面上で真皮層(それに接着した基底膜を有する)を完全に覆い、線維芽細胞は代用真皮組織を得るために真皮中に移動した。この増殖期間の間、培養培地IIは週に二回取替えられた。ペニシリン及びストレプトマイシンは可能性のある悪い薬剤反応を回避するために、最後の培地更新から省かれた。
【0083】
実施例6 代用真皮組織を用いた被験体の治療
被験体1
71歳の男性被験体は、静脈うっ滞下腿潰瘍を6ヶ月よりも長く患った。潰瘍は約1cm×2cmであり、周りの皮膚は炎症していた。
【0084】
2×3mmの皮膚パンチバイオプシーがその被験体の太ももから採取され、実施例1〜5に開示される方法が自己由来の代用真皮組織を調製するために使用された。代用真皮組織はバイオプシーを採取した後3週間で移植のための準備が整った。それは潰瘍の上に配置され、滅菌されたガーゼ及び包帯の補助と共に適所に保持された。被験体は最初の5日間出来る限り脚を動かさないようにアドバイスされた。
【0085】
移植を適用した後1日以内に、被験体の感じた痛みのレベルは顕著に低下した。
【0086】
移植の8日後、自己由来の代用真皮組織は創傷床上で明確に目視でき、代用皮膚組織の表皮は被験体の周りの皮膚上に移動していた。周りの皮膚の炎症が移植前よりも低いことは顕著であった。
【0087】
移植の3週間後、炎症は潰瘍部分全体に亘って低下した。代用真皮組織は、僅かに赤くなり、それが血液供給を発達しており、且つ血管形成が起こっていることを示した。
【0088】
移植の5週間後、代用真皮組織の小さな領域だけが依然として周りの組織から区別することができた。代用真皮組織のこの領域は、僅かに赤く、それが優れた血液供給を有することを示した。代用真皮組織の残りはこの時点で被験体の皮膚から区別できなかった。以前に潰瘍があった領域は、もはや炎症していなかった。
【0089】
移植の7週間後、潰瘍は完全に治癒し、代用真皮組織は周りの組織から殆ど区別できなかった。従ってコスメティック結果は優れていた。
【0090】
被験体2
73歳の女性被験体は二つの静脈うっ滞下腿潰瘍を6ヶ月よりも長く患った。潰瘍は両方各約2cmであり周囲の皮膚は炎症していた。
【0091】
5×3mmの皮膚パンチバイプシーが被験体の太ももから採取され、実施例1〜5に開示された方法が二つの自己由来代用真皮組織を調製するために使用された。バイオプシーを採取した3週間後、代用真皮組織は移植のための準備が整っていた。それらは各々1つの潰瘍の上に配置され滅菌されたガーゼ及び包帯の補助と共に適所に保持された。被験体は最初の5日間出来る限り脚を動かさないようにアドバイスされた。
【0092】
被験体1と同様に、代用真皮組織を適用した後1日以内に、被験体は顕著に低下した痛みを経験した。
【0093】
移植の5日後、自己由来の代用真皮組織は創傷床上で明らかに目視可能であった。
【0094】
移植の2週間後、代用真皮組織の小さな領域のみが依然として周囲の組織から区別することができた。代用真皮組織のこの領域は僅かに赤く、それが優れた血液供給を有することを示した。代用真皮組織の残りはこの時点で被験体の皮膚と区別できなかった。
【0095】
移植の3週間後、潰瘍は完全に回復し、代用真皮組織は周りの組織から区別できなかった。以前に潰瘍があった領域はもはや炎症していなかった。従って、コスメティック結果は優れていた。
【0096】
被験体3
50歳の男性被験体は10ヶ月間かかとに褥瘡を有した。その創傷は約3cmであった。
【0097】
2×3mmの皮膚パンチバイオプシーが被験体の太ももから採取され、実施例1〜5に開示される方法が自己由来の代用真皮組織を調製するために使用された。バイオプシーを採取した3週間後、代用真皮組織は移植のための準備が整っていた。それは創傷上に配置され、滅菌されたガーゼ及び包帯の補助と共に適所に保持された。被験体は最初の5日間出来る限り足を動かさないようにアドバイスされた。
【0098】
被験体1と同様に、代用真皮組織を適用した後一日以内に、被験体は顕著に低下した痛みを経験した。
【0099】
移植の5日後、自己由来の代用真皮組織は創傷床上で明らかに目視可能であった。
【0100】
移植の10日後、代用真皮組織の小さな領域のみが、依然として周囲の組織から区別可能であった。代用真皮組織のこの領域は僅かに赤く、それが優れた血液供給を有することを示した。代用真皮組織の残りは、この時点で被験体の皮膚から区別できなかった。移植の16日後、創傷は完全に治癒し、代用真皮組織は周囲の組織から区別できなかった。従ってコスメティック結果は優れていた。
【0101】
被験体4
78歳の女性被験体は14年より長い間1つの静脈うっ滞下腿潰瘍を患った。潰瘍は約130cmであった。
【0102】
6cmの楕円径のバイオプシーが被験体の腹部領域から採取され、後に組織培養研究所において40×3mmのバイオプシーで生検された。この後、実施例1〜5に開示される方法が各々約4cmの自己由来の代用真皮組織を調製するために、使用された。バイオプシーを採取した3週間後に、代用真皮組織は移植のための準備が整っていた。それらは各々潰瘍上に配置され、滅菌されたガーゼ及び包袋の補助と共に適所に保持された。患者が最初の5日間出来る限り脚を動かさないようにアドバイスされた。
【0103】
被験体1と同様に、代用真皮組織の適用後1日以内に、患者は顕著に低下した痛みを経験した。
【0104】
移植の5日後、自己由来の代用真皮組織は創傷床上で明らかに目視可能であった。
【0105】
移植の2週間後、代用真皮組織の約50%が接着し、依然として周囲の組織から区別可能であった。代用真皮組織のこの領域は、僅かに赤く、それが優れた血液供給を有することを示した。代用真皮組織の残りは、この時点で緩くなり、廃棄された。しかし、この間、創傷治癒は潰瘍が明らかに治るような程度に促進された。
【0106】
移植の8週間後、潰瘍は殆ど閉鎖され(8cmだけが依然として開いており、依然として回復している)、代用真皮組織は周囲組織から区別できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、本発明に従った代用皮膚組織の調製のための方法の実施形態を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
代用結合組織のin vitro増殖のための方法であって、前記代用結合組織は線維芽細胞で占められ(populated)、以下の工程を含む:
a)第一及び第二接触面を有する生きた細胞の実質的に無い結合組織層を供給する工程(該第一接触面は該第二接触面と対向している);
b)線維芽細胞を含む容器中に該結合組織層を配置し、該線維芽細胞を該結合組織層の該第一接触面に接触させる工程;及び
c)工程b)と少なくとも一時的に同時に、該結合組織層(該結合組織層は該容器中に配置されている)の該第二接触面を、前記結合組織層の該第一接触面を通過することによって前記線維芽細胞を該結合組織層中に誘引するための環境を提供する走化性因子と接触させる工程。
【請求項2】
線維芽細胞を含む該容器が線維芽細胞を含む細胞培養皿又はトランスウェルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該結合組織層の該第二接触面が該容器からの線維芽細胞と実質的に接触しないように維持される、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
該線維芽細胞が初代細胞培養物である前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
環境を提供する前記走化性因子が1つ以上の走化性因子を含む培地によって供給される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
該環境における少なくとも1つの走化性因子が上皮細胞由来である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
環境を提供する前記走化性因子が上皮細胞を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
該上皮細胞がケラチノサイトを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該上皮細胞が表皮細胞である、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
環境を提供する前記走化性因子が無傷の上皮層を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
該無傷の上皮層が無傷の表皮層である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該上皮細胞、ケラチノサイト、又は無傷の上皮層が前記被験体由来である、請求項6〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
該上皮細胞、ケラチノサイト、又は無傷の上皮層が前記被験体の1つ以上の皮膚バイオプシーから得られる、請求項6〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
該結合組織層の該第二接触面が基底膜を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
該線維芽細胞が前記被験体の1つ以上の皮膚バイオプシーから得られる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
該線維芽細胞、該上皮細胞、ケラチノサイト、又は無傷の上皮層が前記被験体由来である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
1つ以上のヌクレオチド配列を該線維芽細胞、上皮細胞、ケラチノサイト、及び/又は無傷の上皮層に導入する工程を更に含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記生きた細胞の実質的に無い結合組織層がドナー生物由来であり、前記被験体が前記ドナー生物でない、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかの方法によって得られ得る代用結合組織。
【請求項20】
請求項19に記載の代用結合組織を創傷上に適用する工程を含む、創傷の閉鎖のための方法。
【請求項21】
該創傷が慢性創傷又は急性創傷である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
該慢性創傷が静脈潰瘍、動脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡および持続性火傷から成る群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
該急性創傷が外科創傷、不慮の創傷、褥瘡および火傷から成る群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記創傷上に請求項19に記載の代用結合組織を適用することを含む、創傷を被っている被験体を治療するための方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−517581(P2007−517581A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549168(P2006−549168)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000026
【国際公開番号】WO2005/068614
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(506240894)
【Fターム(参考)】