説明

線維芽細胞活性化タンパク質に特異的な抗体分子及びそれを含む免疫複合体

抗-FAP-抗体及び免疫複合体、該複合体を含有する医薬組成物、並びにその癌治療での使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗-FAP-α抗体分子及び該抗体と細胞毒性薬、例えばマイタンシノイドから成る細胞毒性免疫複合体、該免疫複合体を含んでなる医薬組成物、及びそれらの腫瘍治療における使用に関する。
抗新生物薬を腫瘍関連抗原に対する抗体に結合して、該腫瘍への標的化デリバリーによって該薬物の局所濃度を高めことによって、抗新生物薬の効率を改良する多くの試みが為されている。多くのこれらのアプローチは、成功が限定されており、文献ではその失敗を説明するためのいくつかの理由が論じられている。例えばドキソルビシン又はメトトレキセートのような化学量論的に作用する抗癌薬では、必要な細胞毒性を発揮するためにかなり高い細胞内濃度が必要である。多くの抗体-薬物-複合体ではこの濃度は、(a)多くの一般的な抗癌薬の不十分な効力、(b)抗原標的の低い細胞表面濃度、(c)抗原-抗体複合体の標的細胞への不十分な内部移行、及び(d)標的細胞内の該複合体からの遊離薬物の不十分な放出のため達成が困難であると考えられる(Chari et al., 1992)。
【0002】
上記2つの欠点、すなわち(a)と(b)は、Chariと同僚の研究で取り扱われた(Chari et a., 1992; Liu et al., 1996; U.S. Patent No. 5,208,020)。この著者らは抗体がジスルフィド結合によってマイタンシノイドに連結されている抗体複合体を開発した。マイタンシノイドはNocardia sp.由来のアンサマクロライド(Ansa macrolide)抗生物質の分類に属する。細菌発酵によって生成されるマイタンシンアンサミトシン(maytansine ansamitocin)P-3を前駆体分子として用いてマイタンシノイドDM1を製造する。マイタンシン及び誘導体は、ビンクリスチンと同様に抗-有糸分裂薬(チューブリン重合のインヒビター)として作用するが、ビンクリスチン又は他の確立した化学療法薬より顕著に高い効力である(DM1は約10-10M濃度でin vitroで細胞に対して毒性である)。遊離マイタンシノイドの高い細胞毒性と対照的に、その抗体複合体は抗原-ポジティブ細胞に比べて抗原-ネガティブ細胞に対しては数桁低い毒性を有する。ジスルフィド結合による連結は、ジスルフィド結合が標的細胞内で細胞内グルタチオンによって容易に開裂されて高毒性の遊離薬物を放出するという利点を有する。このアプローチは腫瘍関連抗原に対する抗体、例えば、C242-DM1複合体(Liu et al., 1996; Lambert et al., 1998)、及びHuN901-DM1(Chari et al., 2000)に適用されている。しかし、これらの複合体の適用は、それぞれの標的抗原の制限された発現のため限界がある。例えば、N901(CD56, N-CAM)によって認識される抗原は、主に神経内分泌由来の腫瘍によって発現され、C242抗原(CanAg)の発現は、GI管由来腫瘍にほとんど限定される。
このアプローチを改良するため、好ましい抗原発現パターン、標的細胞内で高くかつ特異的な細胞表面抗原濃度、及び該抗原混合型抗体複合体を細胞内へ輸送する効率的な内部移行プロセスを備えた適切な腫瘍関連抗原に適用することによって、抗-CD44-抗体-DM1免疫複合体が開発された(WO 02/094325)。
それにもかかわらず、未だに、正常組織内で低い発現及び多種の腫瘍内で高い発現を有する腫瘍関連標的抗原に対して阻害作用を有する革新的な免疫療法薬が要望されている。
【0003】
免疫組織化学分析により、線維芽細胞活性化タンパク質(以後、「FTP」とも称する)が正常組織内で制限された分布を示すことが分かった。非新生物成人損傷組織のうち、FAPの発現は、創傷を治癒している活性化線維芽細胞内、リウマチ性関節炎内、及び硬変中の活性化星状肝細胞内で観察されたが、正常な成人組織内では、膵島(A)細胞だけがFAPポジティブである。対照的に、FAP-ポジティブ間質性線維芽細胞は90%を超える悪性の乳房、卵巣、結腸直腸、肺、皮膚、前立腺及び膵臓腫瘍の間質内で見られる。骨及び軟組織肉腫細胞の一部もFAPポジティブである(Rettig et al., 1988)。多くの一般的な癌におけるその広い発現と正常組織内のその制限された発現パターンのため、線維芽細胞活性化タンパク質α(FAP-α;以後、FAPとも称する)は魅力的な抗原標的であると考えられる、FAP抗原のターゲティングを基礎とした免疫療法は成功していない。
【0004】
上皮癌の浸潤性増殖は、支持間質内のいくつかの特徴的な細胞及び分子の変化に関連する。多くのタイプの上皮癌の反応性間質の高度に一貫した分子形質は、反応性間質線維芽細胞の細胞表面分子であるFAPの誘発である(Garin-Chesa et al., 1990)。FAP抗原は、位置や組織学的タイプに関係なく、一連の上皮癌の間質内で選択的に発現されるので、FAPターゲティングによって間質を標的にするという概念は、上皮癌及び特定の他の状態の画像処理、診断及び治療のために開発された。この目的のため、FAPに特異的に結合するF19と称するモノクロナール抗体(ハイブリドーマ細胞系ATCC Accession No. HB 8269によって分泌される)が開発され、米国特許第5,059,523号及びWO 93/05804で開示された。この概念をさらに改良するため、抗体F19をヒト化し;得られた抗体がFAPに特異的に結合することがWO 99/57151に開示されている(下記参照)。
生体内分布画像処理研究で痕跡標識(131I-放射標識)マウスモノクロナールMAb F19を用いて腫瘍間質組織内のマウス抗-FAP MAbの選択的蓄積が実証されたが(Welt, et al., 1994; Tanswell, et al., 2001)、間質ターゲティングによる腫瘍阻害という概念は癌治療で成功していない:第一相試験131I-放射標識抗-FAP MAbシブロツズマブ(sibrotuzumab)(BIBH1)はシブロツズマブの反復注入投与が安全かつ良く耐えられることを実証したが(Scott et al., 2001; Hofheinz et al., 2003)、進行型の転移性結腸直腸癌の患者について行った非標識シブロツズマブによる第二相試験では、ほとんどの患者で継続する腫瘍の進行が注目された。従って、最小限の要求が満たされず、この研究は中断された。
【0005】
本発明の目的は、FAP抗原を発現する悪性腫瘍細胞を標的にする抗-FAP抗体を基礎とする改良された免疫療法薬を提供することだった。本発明のさらなる目的は、抗-FAP抗体を基礎とする改良された免疫療法薬を提供することだった。該免疫療法薬は腫瘍内でFAP-発現非悪性間質細胞を標的にし、このとき悪性細胞はFAPを発現しないが、にもかかわらず該免疫療法薬によって効率的に殺されなければならない。
本発明に内在する問題を解決するため、概念の証明に適した動物モデルをまず準備することが必須だった。間質細胞を標的にし、その結果、直接又は間接的に腫瘍細胞を殺すという概念を提供するために極めて重大である、動物実験の実行可能性はヒト及びマウスの両FAPと反応する抗-FAP抗体の入手可能性に基づく。このような交差反応性は、免疫不全マウス内で成長するヒト腫瘍異種移植片を基礎とする癌モデルで研究を行うための必要条件である。なぜなら、これらのモデルでは、腫瘍細胞はヒト由来であるが、間質細胞はマウス由来だからである。本発明の実験の結果は、高度に細胞毒性のマイタンシノイドに抱合した抗-FAP抗体はin vivoで腫瘍を非常に効率的に殺すことを示した。実験の結果から、発明者らは、腫瘍死滅は一方で、間質抗原であるというFAPの特性のため、間質細胞へのFAPのターゲティングに起因しうると導いた。他方、抗-FAP抗体マイタンシノイド複合体は、FAPを発現するヒト腫瘍異種移植片内で腫瘍細胞を殺すときに非常に有効であり、選択された実験設定内では、腫瘍抗原であるというFAPの特性に帰する効果であろうことが分かった。
【0006】
本発明は、新規な抗-FAP抗体分子及びマイタンシノイドに抱合したいずれかの該FAP-特異性抗体分子から成る免疫複合体に関する。
第一局面では、本発明は、以下から選択される抗-FAP-α抗体分子を提供する:
a. 以下によって定義されるマウスモノクロナール抗体:又はそのフラグメント若しくは誘導体;
i. 配列(配列番号1)のaa20〜136の領域を含む可変重鎖;
ii. 配列(配列番号2)のaa23〜129の領域を含む可変軽鎖及び
iii. IgG2aκサブクラス;
又はそのフラグメント若しくは誘導体;
b. a)で定義したマウスモノクロナールから誘導されるキメラ抗体;
c. a)で定義したマウスモノクロナールから誘導されるヒト化抗体;又はそのフラグメント若しくは誘導体。
a)で定義したモノクロナールマウス抗体を「MFP5」と命名した。
以降、本発明の上記抗-FAP抗体分子を「MFP5抗体」又は「MFP5抗体分子」と称する。
抗体MFP5はマウス及びヒトの両FAPと反応することが分かった。このことは、該MFP5抗体分子を用いて、本発明の免疫複合体の治療効力にとって重要である間質ターゲティングの効果を研究できるという点で、この特性をも有するMFP5抗体分子の最も有利な特徴を与える。マウス異種移植片モデルの腫瘍間質はマウス由来なので、この交差反応性の特徴は動物研究を行うために不可欠である。
【0007】
本発明の一実施形態では、キメラ抗体b)は、以下によって定義される:
i. 配列(配列番号1)のaa20〜136の領域を含む可変重鎖;
ii. 配列(配列番号2)のaa23〜129の領域を含む可変軽鎖及び
iii. ヒト由来である定常重鎖及び軽鎖。
ヒト化抗体の「第一世代」という意味をもつキメラマウス/ヒト抗体の構築と生産は技術上周知である(Boulianne et al., 1984)。非ヒト抗体の可変部は典型的にヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常部(FC)の少なくとも一部に連結している。周知の手順に従って種々のヒト細胞から、好ましくは不死化B細胞からヒト定常部DNA配列を単離することができる(Kabat et al., 1991(前出)、及びWO 87/02671参照)。抗体分子は、FAP抗原に対する特異的結合性を示す限り、該定常部の全部又は一部のみを含んでよい。定常部の型と長さの選択は、補体結合又は抗体依存性細胞毒性のようなエフェクター機能が望ましいかどうかによって、また、抗体タンパク質の所望の薬理学的特性によって決まる。抗体分子は、典型的に2つの軽鎖/重鎖対から成る四量体であるが、二量体、すなわち1つの軽鎖/重鎖対から成る、例えばFab又はFvフラグメントでもよい。
さらに別の実施形態では、抗体は、ヒト重鎖定常部(IgG1)(配列番号3)に融合したMFP5の重鎖可変部と、ヒト軽鎖定常部(κ)(配列番号4)に融合したMFP5の軽鎖可変部とを有するキメラFAP-特異性抗体(cMFP5と命名)である。本発明の実験では、哺乳動物の細胞内でこの抗体を発現させて、ヌードマウス内で成長したヒト腫瘍異種移植片内の間質細胞の免疫組織化学染色に使用した。
当業者には、MFP5をキメラ化するための他のヒト定常部、例えば、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE又はIgM及びκ若しくはλ軽鎖定常部が入手可能である。
【0008】
本発明の一実施形態では、ヒト化抗体c)は、以下によって定義される:
i. 配列(配列番号1)のaa20〜136の領域を含む可変重鎖内に含まれるCDR及び
ii. 配列(配列番号2)のaa23〜129の領域を含む可変軽鎖内に含まれるCDR
iii. ヒト抗体由来である、前記CDRを支持する枠組、
iv. ヒト抗体由来である定常重鎖及び軽鎖。
非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含むキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖若しくはそのフラグメント(例えばFv、Fab、Fab'、F(ab')2又は抗体の他の抗原結合性配列)である。ヒト化抗体はヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体由来)であって、該レシピエント抗体の相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット又はウサギ等の非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基と置き換わっている、ヒト免疫グロブリンを含む。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFv枠組残基が対応する非ヒト残基と置き換わる。
c)で定義されたヒト化抗体では、MFP5の相補性決定領域(CDR)がヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖のそれぞれの遺伝子内に移植されている。
モノクロナール抗体の「相補性決定領域」(CDR)は、Chothia及びLesk(1987)に関連し、Kabatら(1991)により、特異的抗原結合に関与する当該アミノ酸配列と解釈される。配列特徴のKabat配列データベースを検索することによって、配列番号1及び配列番号2に含まれるような可変部の配列、CDR配列を日常的に決定することができる。
CDR-移植抗体の適切な枠組残基をマウス残基に戻して結合親和性を改良しうる。上述したように、当該技術に関係がある方法から、専門家は、MFP5のCDRを得る方法、適切なヒト免疫グロブリン遺伝子を選択して得る方法、これらの遺伝子内にCDRを移植する方法、選択した枠組残基を修飾する方法、適切な宿主細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞内でCDR-移植抗体を発現させる方法、並びに結果として生じた組換え抗体を結合親和性及び特異性について試験する方法が分かる(例えば上記参考文献参照)。
ヒト化抗体を得るため、げっ歯類(マウス)モノクロナール抗体を分泌する細胞のDNAから、重鎖のCDRと軽鎖のCDRによって形成される抗原結合部位を切除し、ヒト抗体の枠組をコードするDNA内に移植する。げっ歯類の抗体、例えばマウス抗体の可変ドメイン全体ではなく、その抗原結合部位CDRだけが移植されるので、結果として生じるヒト化抗体(「第二世代」抗体)はキメラ抗体より低い免疫原性である。
本発明の実験では、CDR移植法によってヒト化抗体の2つの変形を得た。これらの抗体は表面プラズモン共鳴分析で決定した場合、FAPに対して30〜40nMというKDの親和性を示す。 CDR移植法に代えて、いわゆる「リサーフェイシング(resurfacing)」技術によってMFP5をヒト化することもでき、これによりUS 5,639,641に記載されているように、表面に露出した残基を除きマウスの枠組は不変のままである。
軽鎖及び重鎖をコードする核酸分子は、標準的な方法によって化学的及び酵素的に(PCR増幅)合成され得る。まず、技術上既知の方法で適切なオリゴヌクレオチドを合成することができ(例えばGait, 1984)、これを用いて合成遺伝子を作製することができる。
オリゴヌクレオチドから合成遺伝子を作製する方法は技術上既知である(例えばStemmer et al., 1995; Ye et al., 1992; Hayden et Mandecki, 1988; Frank et al., 1987)。
【0009】
さらに別の実施形態では、抗体は、MFP5によって認識されるエピトープと重なるFAP配列内のエピトープを認識するMFP5抗体、好ましくはヒト化抗体である。例えば、競合結合によって重なりエピトープを決定することができる。競合結合はELISAで決定され、FAPタンパク質若しくはFAPペプチド又はFAPポジティブ細胞(Cell ELISA)で被覆したプレートを用いて、ビオチン化MFP5抗体の結合性を競合抗体の存在下で測定する。競合抗体又は抗体由来フラグメントの存在下、該抗体が共有エピトープを認識する場合、ビオチン化MFP5の結合性は低減する。MPF5エピトープペプチドを同定するため、FAP配列由来のフラグメント又は短ポリペプチド又は組換えタンパク質を合成し、又は産生させて、前記ペプチド/ポリペプチドに対するMFP5の結合性をELISA分析で測定することができる。該エピトープを含有するペプチド若しくはタンパク質フラグメント、又は該ペプチド/フラグメントをコードするDNA分子をそれぞれ用いて免疫化して、MFP5と同じエピトープと反応性の抗体を得ることができる。
抗体の重鎖及び軽鎖をコードする核酸分子を発現ベクターに(両鎖を1つのベクター分子に、又は各鎖を別のベクター分子に)クローン化してから宿主細胞内に導入する。原核生物又は真核生物の宿主細胞内での免疫グロブリン発現に好適な発現ベクター及び宿主細胞へのベクターの導入方法は技術上周知である。一般に、その中の免疫グロブリン遺伝子は、そのIg遺伝子の上流に位置する例えばヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ハムスターユビキチンプロモーター(WO 97/15664)、又はシミアンウイルスSV40プロモーターのような適切なプロモーターと機能的に関係がある。転写終止のため、ウシ成長ホルモン又はSV40の終止/ポリアデニル化部位のような適切な終止/ポリアデニル化部位を利用できる。さらに、CMV又はSV40エンハンサーのようなエンハンサー配列を含んでよい。通常、発現ベクターはさらに選択マーカー遺伝子、例えばジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、グルタミンシンセターゼ、アデニンデアミナーゼ、アデニル酸デアミナーゼ遺伝子、又はネオマイシン、ブレオマイシン、若しくはピューロマイシン耐性遺伝子を含む。種々の発現ベクターがStratagene, La Jolla, CA; Invitrogen, Carlsbad, CA; Promega, Madison, WI又はBD Biosciences Clontech, Palo Alto, CA等の会社から市販されている。例えば、発現ベクターpAD-CMV1(NCBI GenBank Accession No. A32111)又はpAD-CMV19 (NCBI GenBank Accession No. A32110)を発現用に使用できる。宿主細胞は、好ましくは哺乳動物の宿主細胞、例えばCOS、CHO、又はBHK細胞、さらに好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えばCHO-DUKX(Urlaub and Chasin, 1980)、CHO-DG44(Urlaub et al., 1983)、又はCHO-K1 (ATCC CCL-61)細胞である。次に、該抗体が産生される条件下で適切な培地中で宿主細胞を培養してから標準的手順に従って培養から抗体を単離する。宿主細胞内の組換えDNAからの抗体の作製手順及びそれぞれの発現ベクターは技術上周知である(例えばWO 94/11523、WO 97/9351、EP 0 481 790、EP 0 669 986参照)。
本発明のいくつかの比較実験で用いたヒト化抗-FAP抗体の例はBIBH1である。BIBH1は、WO 99/57151の配列番号2における通りのアミノ酸配列(軽鎖の可変部)を含み、さらにWO 99/57151の配列番号2に示される通りのアミノ酸配列(重鎖の可変部)を含み、かつさらにWO 99/57151の配列番号20に示される通りのアミノ酸配列(軽鎖の定常部)及びWO 99/57151の配列番号22に示される通りのアミノ酸配列(重鎖の定常部)を含む。
【0010】
さらなる局面では、MFP5抗体分子はMFP5抗体フラグメントである。抗体フラグメント、例えばFabフラグメントを得るため、日常的な技術を利用して、例えばパパインを用いて消化を果たすことができる。パパイン消化の例は、WO 94/29348及びUS 4,342,566に記載されている。抗体のパパイン消化は、典型的に2つの同一の抗原結合フラグメント、いわゆるFabフラグメント(それぞれ単一の抗原結合部位と残りのFcフラグメントを有する)を生成する。ペプシン処理が、2つの抗原結合部位を有し、かつ未だに該抗原と架橋できるF(ab')2フラグメントを生じさせる。
抗体の消化によって得られるFabフラグメントは、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメイン(CH1)をも含む。Fab'フラグメントは、それらが抗体ヒンジ部由来の1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に追加残基を含む点でFabフラグメントと異なる。Fab'-SHは、本明細書では、定常ドメインのシステイン残基がフリーなチオール基を有するFab'の名称である。F(ab')2抗体フラグメントは元は、Fab'フラグメントの対(該Fab'フラグメントの対間にヒンジシステインを有する)として生成した。それぞれのコーディングDNAフラグメントを生成する分子生物学的方法によって抗体フラグメントを作製することもができる。
【0011】
MPF5抗体分子は、それらが抗原の関連部分に対する特異的な結合性を示す限り、定常部のすべて又は一部だけ含んでよい。定常部の型と長さの選択は、補体結合又は抗体依存性細胞毒性のようなエフェクター機能が望ましいかどうかによって、また、抗体タンパク質の所望の薬理学的特性によって決まる。抗体分子は、典型的に2つの軽鎖/重鎖対から成る四量体であるが、二量体、すなわち1つの軽鎖/重鎖対から成る、例えばFab又はFvフラグメントでもよく、或いは単量体の単鎖抗体でよい(scFv; Johnson and Bird, 1991)。
別の実施形態では、MFP5抗体分子はいわゆる「抗体様分子」(MFP5抗体の誘導体とみなされる)でよく、これは免疫グロブリンの短配列又はフラグメントを含有するポリペプチドである。特に、これらは免疫グロブリンの相補性決定領域(CDR)と同一又は類似の1つ以上の抗原結合部を含有するポリペプチドである。該分子はミニボディ又は単ドメイン抗体、例えばいわゆる「ナノボディ」でもよく、それらは、2つの逆平行鎖を形成するように配置された隣接枠組ポリペプチド配列のCDR2又はCDR3ポリペプチド配列相互連絡枠組を含んでなる微小骨格である(例えばWO 03/050531及びRevets et al., 2005に記載)。抗体様分子(又はMFP5抗体誘導体)の他の例は、免疫グロブリンスーパーファミリー抗体(IgSF; Srinivasan 2005)、ラクダ化抗体又は他のCDR含有分子若しくはCDR移植分子又は「ドメイン抗体」(dAb)である。dABはヒト抗体の重鎖可変部(VH)又は軽鎖可変部(VL)に対応する、抗体の機能性結合単位である。ドメイン抗体は約13kDa、又は完全抗体の大きさの1/10未満の分子量を有する。ヒトVH及びVL dAbの一連の大きく、高機能性のライブラリーが開発されている。dAbは「二重ターゲティング」にも有用である。すなわち、dAbは1つの分子内でFAPに加え、第2の標的にも結合する。dAbライブラリー、選択及びスクリーニング方法、二重ターゲティングのため及び血清半減期を延長するためのdAb形式は、例えば米国特許第6,696,245号、WO 04/058821、WO 04/003019及びWO 03/002609に記載されている。
一般的な抗体フラグメント及び誘導体(抗体様分子)は、細菌、酵母菌、及び哺乳動物細胞系内で良く発現する。
或いは、MFP5抗体様分子はいわゆる「SMIP」(「スモールモジュラー免疫医薬品(Small Modular Iimmunopharmaceutical)」)でよい。この分子は、その結合ドメインFvとして、定常ドメインCH1のない単鎖ヒンジ及びエフェクタードメインに連結している単一のポリペプチド鎖を用いる(WO 02/056910)。この分子を単量体又は二量体として調製できるが、この分子は、伝統的な抗体の二量体の二量体構造を想定しない。
【0012】
さらなる局面では、本発明は、下記式(I)の免疫複合体に関する。
A(LB)n (式(I))
式中
Aは上述した通りのMFP5抗体分子であり;
Lはリンカー成分であり;
Bは細胞毒性薬であり;及び
nはn=1〜10の10進数である。
以後、MFP5抗体(分子)を含有する免疫複合体を「MFP5(免疫)複合体」と称する。
マウスモノクロナール抗体MFP5を含有する免疫複合体は、活性化間質線維芽細胞と関連する種々の腫瘍の破壊に有効であることが分かったので、MPF5複合体は該腫瘍の治療に有用である。或いは、MFP5免疫複合体を使用する代わりに、MFP5抗体(分子)をそのまま、すわわち非複合型形態で使用し得る。
細胞に毒性である化合物Bは細胞毒性薬である。
本発明により、上記MFP5抗体分子をいずれかの適切な細胞毒性薬、特に腫瘍細胞の細胞毒性(例えばアポトーシス又は有糸分裂静止)を誘発する細胞毒性薬に化学的に結合して本発明の免疫複合体を形成する。正常な薬理学的クリアランス機構の結果として、薬物複合体で使用される抗体は、限定量だけ標的細胞に接触かつ結合する。従って、複合体に使用される細胞毒性薬は、治療効果を引き出すのに十分な細胞死滅をもたらすように高い細胞毒性でなければならない。US 2004/0241174に記載されているように、該細胞毒性薬の例として、タキサン(例えばWO 01/38318及びWO 03/097625参照)、DNA-アルキル化薬(例えば、CC-1065類似体)、アントラサイクリン、チューブリン類似体、デュオカルマイシン類似体、ドキソルビシン、アウリスタチンE、及び反応性ポリエチレングリコール成分を含む細胞毒性薬が挙げられる(例えば、Sasse et al. 2000; Suzawa et al., 2000; Ichimura et al., 1991; Francisco et al., 2003; US 5,475,092, US 6,340,701, US 6,372,738, 及び US 6,436,931, US 2001/0036923, US 2004/0001838, US 2003/0199519及びWO 01/49698参照)。
【0013】
好ましい実施形態では、細胞毒性薬はマイタンシノイド、すなわちマイタンシンの誘導体である(CAS 35846538)。
US 2004/02241174に記載されているように、マイタンシノイドには、マイタンシン、マイタンシノール、マイタンシノールのC-3エステル、並びに他のマイタンシノール類似体及び誘導体が含まれることが技術的に知られている(例えば、US 5,208,020及びUS 6,441,163参照)。マイタンシノールのC-3エステルは自然発生し、又は合成によって誘導され得る。さらに、自然発生及び合成の両C-3マイタンシノールエステルは、簡単なカルボン酸とのC-3エステル、又はN-メチル-L-アラニンの誘導体とのC-3エステルとして分類され、後者は前者より毒性が高い。合成マイタンシノイド類似体も技術上既知であり、例えば、Kupchanら(1978)に記載されている。マイタンシノール並びにその類似体及び誘導体の製造方法は、例えば、US 4,151,042に記載されている。
本発明の免疫複合体で使うのに適したマイタンシノイドは、技術上既知の方法を用いて天然源から単離され、合成により製造され、或いは半合成により製造され得る。さらに、最終的な複合体分子内で十分な細胞毒性が保存される限り、いずれの適宜の様式によってもマイタンシノイドを修飾することができる。この点に関し、マイタンシノイドは、抗体が結合できる適切な官能基を欠いている。望ましくは連結成分を利用してマイタンシノイドを抗体につなげて複合体を形成する。連結成分は、特定部位でマイタンシノイドの細胞毒性を活性化し得る化学結合を含む。適切な化学結合は技術上周知であり、ジスルフィド結合、酸に不安定な結合、感光性結合、ペプチダーゼに不安定な結合、スルフヒドリル基とマレイミド基で形成されるチオエーテル結合、及びエステラーゼに不安定な結合が挙げられる。好ましい実施形態では、連結成分はジスルフィド結合又はチオエーテル結合を含む。本発明によれば、連結成分は、好ましくは反応性化学基を含む。特に好ましい反応性化学基はN-スクシンイミジルエステル及びN-スルホスクシンイミジルエステルである。好ましい実施形態では、反応性化学基をチオール基間のジスルフィド結合によってマイタンシノイドに共有結合させることができる。従って、ここで述べるように修飾されるマイタンシノイドは好ましくはチオール基を含む。当業者にはチオール基が水素原子に結合しているイオウ原子を含み、かつ典型的に当該技術ではスルフヒドリル基とも呼ばれ、「-SH」又は「RSH」と表せることが分かるだろう。
反応性化学基を含む連結成分を含んでなる特に好ましいマイタンシノイドは、連結成分がジスルフィド結合を含有し、かつ反応性化学基がN-スクシンイミジル又はN-スルホスクシンイミジルエステルを含む、マイタンシノールのC-3エステル及びその類似体である。マイタンシノイドの多くの位置が連結成分と化学的に結合する位置として役立ち得る。例えば、ヒロドキシル基を有するC-3位、ヒドロキシメチルで修飾されたC-14位、ヒドロキシで修飾されたC-15位及びヒロドキシ基を有するC-20位はすべて有用である。最も好ましくは連結成分をマイタンシノイドのC-3位につなげる。最も好ましくは、本発明の免疫複合体に関連して使用するマイタンシノイドは、N2'-デアセチル-N2'-(-3-メルカプト-1-オキソプロピル)-マイタンシン(DM1)又はN2'-デアセチル-N2'-(4-メルカプト-4-メチル-1-オキソプロピル)-マイタンシン(DM4)である。
本発明の文脈では、他のマイタンシノイドを使用できるように、他の化学結合を有する連結成分も使用できる。他の化学結合の特定例として、酸に不安定な結合、チオエーテル結合、感光性結合、ペプチダーゼに不安定な結合及びエステラーゼに不安定な結合が挙げられる。連結成分のあるマイタンシノイドの製造方法は例えば、US 5,208,020、US 5,416,064、及びUS 6,333,410に記載されている。
【0014】
マイタンシノイドの連結成分は、典型的かつ好ましくは、抗体をマイタンシノイドに結合するために用いるより大きいリンカー分子の一部である。本発明の関係では、リンカー分子がマイタンシノイド及び抗体にそれぞれの細胞毒性及びターゲティング特性の保持を与える限り、いずれの適切なリンカー分子も使用できる。リンカー分子は、化学結合(上述したような)を介して、マイタンシノイドと抗体が相互に化学的に結合(例えば、共有結合)するようにマイタンシノイドを抗体につなぐ。望ましくは、リンカー分子がジスルフィド結合又はチオエーテル結合を介してマイタンシノイドを抗体に化学的に結合する。最も好ましくは、抗体はジスルフィド結合によってマイタンシノイドに化学的に結合する。
特に好ましいリンカー分子として、例えば、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)(例えば、Carlsson et al., (1978)参照)、4-(2-ピリジルジチオ)ブタン酸N-スクシンイミジル(SPDB)(例えば、US 4,563,304参照)、4-(2-ピリジルジチオ)ペンタン酸N-スクシンイミジル(SPP)(例えば、CAS登録番号341498-08-6)、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸N-スクシンイミジル(SMCC)(例えば、Yoshitake et al., Eur. J. Biochem., 101, 395-399 (1979)参照)、及び4-メチル-4-[2-(5-ニトロ-ピリジル)-ジチオ]ペンタン酸N-スクシンイミジル(SMNP)(例えば、US 4,563,304参照)が挙げられる。本発明の複合体で使うのに好ましいリンカー分子はSPP、SMCC、及びSPDBである。
リンカーの選択は治療状況によって決まる。すなわち開裂できるリンカーを有する複合体の投与は、特に低用量でいわゆる「バイスタンダー効果」、すなわち免疫複合体の抗体部分によって直接標的とされない周囲細胞に及ぼす毒素の細胞毒性効果という利益を有するが、開裂できないリンカーを含有するリンカー系(例えばチオエステルリンカーSMCC)は、低毒性とより大きい治療窓を有する抗体薬物複合体の可能性を与える。
例として、下記式のマイタンシノイドから本発明のMFP5抗体マイタンシノイド複合体を調製し得る。
【0015】
式(II)
【化1】

【0016】
(式中、
R1はH又はSR4を表し(ここで、R4はメチル、エチル、直鎖アルキル、分岐アルキル、環式アルキル、単純若しくは置換アリール、又はヘテロ環を表す);
R2はCl又はHを表し;
R3はH又はCH3を表し;かつ
mは1、2、又は3を表す。)
好ましくは、R1がH、CH3又はSCH3であり、R2がClであり、R3がCH3であり、かつm=2である。
R1=H、R2=Cl、R3=CH3、かつm=2のマイタンシノイドは文献中DM1と示される。
一実施形態では、本発明の免疫複合体は下記式(III)を有する。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、
Aは、前記定義通りのMFP5抗体分子であり;
(L')は任意のリンカー成分であり;
pは、p=1〜10の10進数である。)
好ましくは、pは2〜4、さらに好ましくは約2.5〜3.5である。
上述したように、このようなマイタンシノイドの製造方法は技術上周知であり(特にUS 5,208,020、実施例1参照);それらは抗-CD44抗体マイタンシノイド複合体の製造についてWO 02/094325にも記載されている。
便宜上、第1工程で、属Nocardia又はActinosynnemaに属する微生物、例えばATCC 31565、ATCC 31281の細菌発酵によってマイタンシノイドC-3エステルアンサミトシンP3を生じさせ得る(US 4,356,265; US 4,450,234; WO 01/77360)。酢酸エチル又はトルエンのような有機溶媒を用いて培養からアンサミトシンP3を抽出し、さらに例えばシリカゲルを用いて吸着クロマトグラフィーで精製することができる。次に、それをLiAlH4(US 4,360,462)、或いはさらに最近示唆されているように、LiAl(OMe)3H又は他のLiAl若しくはNaAlヒドリド(WO 02/16368)を用いてマイタンシノールに還元することができる。次に、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)と触媒量の塩化亜鉛を用いて(US 4,137,230; US 4,260,609)、該マイタンシノールをC-3位にてN-メチル-L-アラニン又はN-メチル-L-スシテイン誘導体でエステル化してジスルフィド含有マイタンシノイドを得ることができる(US 5,208,020; US 5,416,064; US 6,333,410)。好ましい実施形態では、下記式の化合物N-メチル-N-(3-メチルジチオプロパノイル)-L-アラニンでマイタンシノールをエステル化してR1=SR4、R4=CH3、R2=Cl、R3=CH3、かつm=2の式(II)のマイタンシノイドを得る。
【0019】
【化3】

【0020】
次に、ジチオトレイトール(DTT)によるジスルフィド結合の開裂によってフリーなチオール基を遊離させて例えばDM1を得ることができる。
いずれの方法を用いても、例えば抗-CD44マイタンシノイド複合体の製造について記載されている方法を用いて(WO 02/094325)、本発明の免疫複合体を形成することができる。細胞内開裂すると、遊離マイタンシノイドが複合体A(LB)nから放出される。本発明の複合体A(LB)nから放出される遊離薬物は式B-X(式中、Xは、該開裂反応の性質によって、原子又は化学基である)を有し得る。好ましくは、Xは、例えばリンカー成分がちょうど、2つのイオウ原子間の共有結合、又はヒロドキシル基であるときのように、水素原子である。リンカー成分が化学基の場合、開裂部位はリンカー成分内でもよく、開裂によって式B-L"-X(式中、Xは、開裂反応の性質によって、原子又は化学基である)の遊離薬物が生成する。好ましくは、Xは水素原子又はヒロドキシル基である。
好ましい実施形態では、式(I)の免疫複合体は、細胞内開裂によって放出される毒性化合物B、B-X又はB-L"-Xより低毒性である。in vitro細胞毒性の試験方法は技術上周知である(Goldmacher et al., 1985; Goldmacher et al., 1986; US 5,208,020, 実施例2も参照)。好ましくは、免疫複合体(I)は、開裂によって放出される遊離薬物より10倍以上、さらに好ましくは100倍以上、1000倍以上でさえ低毒性である。
好ましくは、MFP5抗体分子マイタンシノイド複合体は、上述したように、ジスルフィド結合によってつながり、マイタンシノイド分子を送達できる当該複合体である。このような細胞結合性複合体は、既知の方法、例えばモノクロナール抗体をピリジル-ジチオプロピオン酸スクシンイミジル(SPDP)又はピリジル-ジチオペンタン酸スクシンイミジル(SPP)で修飾して調製される(Carlsson et al, 1978)。次に、生じたチオピリジル基をチオール含有マイタンシノイドによる処理で置換してジスルフィド連結複合体を生成する。或いは、アリールジチオマイタンシノイドの場合、抗体複合体の形成は、予め抗体分子に導入したスルフヒドリル基によるマイタンシノイドのアリール-チオールの直接置換によって達成される。どちらの方法でもジスルフィドブリッジで連結された1〜10のマイタンシノイド薬を含有する複合体が容易に調製される。この文脈では、式A(LB)n中の10進数nは、所定製剤のすべての複合体分子が、抗体分子に結合している同一整数のLB残基を有するわけではないので、平均数であると解釈する。
マイタンシノイドは、好ましくはジスルフィド成分によってMFP5抗体に連結され、かつ下記式(IV)を有する。
【0021】
式(IV)
【化4】

【0022】
(式中、抗体への連結は、式IVに示されるイオウ原子を介して、抗体分子内に存在する第2のイオウ原子に対してである。結合に利用できるこのようなイオウ原子を生じさせるため、上で概要を述べたような適切なリンカーの導入によって抗体分子を修飾することができる。好ましくは、-S-CH2CH2-CO-、-S-CH2CH2CH2CH2-CO-、又は-S-CH(CH3)CH2CH2-CO-基を介してマイタンシノイドを抗体分子に連結する。該リンカー基中のイオウ原子がマイタンシノイドとジスルフィド結合を形成しながら、抗体分子のアミノ酸残基の側鎖上に存在するアミノ官能にカルボニル官能が結合し得る。
そうして、1つ以上のマイタンシノイド残基が抗体分子に連結し得る。好ましくは、2〜4個のマイタンシノイド残基が抗体分子に連結する。
【0023】
さらなる実施形態では、本発明は、式(I)の免疫複合体の製造方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
(a)フリー又は保護したチオール基をMFP5抗体分子中に導入する工程;
(b)抗体(a)の抗体分子をマイタンシノイドと反応させる工程、及び
(c)結果として生じたMFP5免疫複合体を回収する工程。
さらなる実施形態では、本発明は、本発明のMFP5抗体分子又は式(I)の本発明の免疫複合体を、好ましくは医薬的に許容しうる担体、賦形剤、又は希釈剤と共に含んでなる医薬組成物に関する。
適切な医薬的に許容しうる担体、希釈剤、及び賦形剤は周知であり、臨床状況の正当な理由に応じて当業者によって決定される。適切な担体、希釈剤、及び/又は賦形剤の例として以下のものが挙げられる:(1)約1mg/ml〜25mg/mlのヒト血清アルブミンを含有するダルベッコのリン酸緩衝食塩水(pHは約7.4)、(2)0.9%の食塩水(0.9%w/vのNaCl)、及び(3)5%(w/v)のデキストロース。本発明の免疫複合体に有用な医薬組成物の例はUS 2004/0241174に記載されている。
FAPを発現する細胞、特にヒト腫瘍細胞又はヒト間質線維芽細胞をマイタンシノイドの標的にする全種類の臨床又は非臨床適用のため、本発明の医薬組成物を使用できる。
本発明の抗体分子及び/又は免疫複合体と医薬的に許容しうる担体を含有する医薬組成物は、FAPを発現する活性化間質線維芽細胞及び/又は腫瘍に関連する腫瘍疾患の治療に有用である。特に、本発明の医薬組成物は、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、乳癌、頭頚部癌、卵巣癌、肺癌、浸潤性膀胱癌、膵臓癌及び脳の転移性癌、頭頚部の扁平上皮癌(SCC)、食道SCC、肺SCC、皮膚SCC、メラノーマ、乳腺癌(AC)、肺AC、子宮頚部SCC、膵臓AC、結腸AC、又は胃AC、甲状腺癌、前立腺癌、骨肉腫(OS)又は軟組織肉腫から成る群より選択される腫瘍疾患の治療に有用である。さらに、FAPを発現する良性腫瘍、例えばデスモイド腫瘍を本発明の免疫複合体で治療できる。
さらなる実施形態では、本発明は、前述した通りの医薬組成物を患者に適用することを含む癌の治療方法に関する。特に、本発明のこの局面は、癌の治療が必要な患者の癌の治療方法であって、上記癌適応症のため、治療的に有効な量の上述した通りの免疫複合体、又は上述した通りの医薬組成物を投与することを含む方法に関する。
癌の離床治療のため、本発明の式(I)の免疫複合体を無菌性及び内毒素レベルについて試験する溶液の形態で供給することができる。免疫複合体投与の適切なプロトコルは以下の通りである:1〜6週間の間、毎週静脈内大量瞬時投与として、又は5日間連続注入として複合体を与えてよい。大量瞬時投与量は、5〜10mlのヒト血清アルブミンを添加した50〜100mlの通常食塩水中で投与できる。連続注入は、24時間当たり、25〜50mlのヒト血清アルブミンを添加した250〜500mlの通常食塩水中で投与できる。投与量は一般的に、適用毎に10mg〜400mg/m2(体表面積)である。投与毎の患者に適用する用量は有効であるのに十分高くなければならないが、用量規制毒性(DLT)未満でなければならない。一般に、DLT未満の十分に良く耐えられる用量が最大耐量(MTD)とみなされる。専門家にはMTDの決定方法が分かる(Lambert et al., 1998)。毎週投与では、MTDを100〜200mg/m2の範囲と予測することができる。或いは、投与間隔はより長くてよく、例えば、2〜4週間、好ましくは3週間でよい。この場合、MTDを200〜300mg/m2の範囲と予測できる。或いは、5回の毎日投与後、数週間中断後治療を繰返すという適用でよい。この場合、投与毎のMTDを100mg/m2未満と予測できる。例えば、複合体を単一の静脈内注入として3mg/分の速度で21日毎に投与することができる。7サイクルまでの治療を適用した。臨床状況が要求する場合、適用量は上記範囲外で良いこともあると解釈すべきである。例えば、MTDが指示量より高いことが分かった場合、単一投与は400mg/m2より高い用量でよく、或いは毎週200mg/m2より多くてよい。複合体の適用量はリンカーの型によっても左右され;開裂できるリンカーでは、上述したように、放出される毒素によって達成される「バイスタンダー効果」が高いほど、開裂できない複合体を使用するときより低用量でよい。
用量、投与経路、適用スキーム、治療の繰返しと持続期間は一般的に疾患の性質(腫瘍の型、グレード、及び段階など)及び患者(体質、年齢、性別など)によって決まり、かつ治療責任のある医師によって決定されるだろう。固形腫瘍の治療のほかに、本発明の治療適用は外科的処置に対するアジュバントとして、最小限の残存疾患を治療するために有利であり得る。
FAPの発現が原因として関与する疾患の治療、例えばリウマチ性関節炎の治療のために本発明の抗体及び免疫複合体を使用することもできる。
さらなる実施形態では、本発明は、本発明の抗体及び/又は式(I)の免疫複合体の、癌及びリウマチ性関節炎の治療用医薬組成物製造のための使用に関する。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〕
抗-FAP抗体マイタンシノイド免疫複合体の作製
1.1. 抗体の作製
1.1.1. 抗-FAP抗体BIBH1:
モノクロナール抗体F19由来のヒト化抗体BIBH1(シブロツズマブとも示される)をWO 99/57151に記載されている通りに得る。この抗体はヒトFAPと反応するが、マウスFAPと反応しない。
1.1.2. 抗-FAPモノクロナール抗体MFP5:
マウス及びヒトFAPの高い相同性のため免疫化用にFAP-/-ノックアウトマウス(Niedermeyer et al. 2000)株C57BL/6を使用すること以外、VFF18についてWO 95/33771に記載されている通りに、マウスモノクロナールMFP5を分泌するハイブリドーマ細胞系MFP5を作製する。免疫化のために用いる抗原はCD8-マウスFAP融合タンパク質(配列番号5;Niedermeyer 1998)である。ヒトFAPを発現する組換えヒト線維肉腫細胞系HT1080(HT1080; ATCC CCL 121)、クローンv1.33(ヒトFAPをコードするcDNAでHT1080細胞をトランスフェクトすることによって得た)に関する細胞ELISAアッセイ(実施例2参照)を用いて、分泌された抗体MFP5のヒトFAPに対する交差反応性を検証する。結果を実施例2、図1に示す。
タンパク質Aセファロースカラム上で細胞培養上清から抗体を精製する。
1.1.3. キメラ抗体cMFP5:
抗体MFP5を分泌するハイブリドーマ細胞系MFP5からmRNAを抽出する。引き続きRT-PCR反応において、既知リーダー配列に相同性の特異的プライマー(フォワードプライマー)並びにマウスの重鎖及び軽鎖免疫グロブリンの定常部に相同性の特異的プライマー(バックワードプライマー)を用いて、可変軽鎖DNA及び可変重鎖DNAを増幅する(Jones and Bendig, 1991)。次に、該可変鎖配列をそのとおりに、ヒトκ軽鎖及びヒトIgG1重鎖定常部配列を含有する哺乳動物発現ベクターにクローン化する。次に、HEK293細胞内で過渡的にキメラMFP5抗体を発現させ、タンパク質Aセファロースカラム上で精製する。
1.2. 抗体-DM1複合体の作製:
Chari et al., 1992; Liu et al., 1996; US 5,208,020に記載されている通りにマウスモノクロナール抗体MFP5及びヒト化組換え抗体BIBH1をマイタンシノイドDM1に連結する。この複合体をそれぞれBIBH1-DM1及びMFP5-DM1と命名する。以後の実施例では、特に断らない限り、名称「MFP5-DM1」はMFP5-SPP-DM1、すなわちジスルフィド-連結免疫複合体を意味する。
抗体DM1複合体サンプルのフラクションを抗体分子毎に連結したDM1分子の数について検定する(252nm及び280nmの両方で吸光度を測定することによって、連結したDM1分子を決定する)。プールした溶液中のDM1/MAb比は2.6〜3.25であることが分かり、複合型抗体の収率は、出発抗体に基づいて少なくとも50%である。
【0025】
〔実施例2〕
親抗体の結合性と比較したBIBH1-DM1及びMFP5-DM1のin vitro結合性の分析
BIBH1及びMFP5抗体並びにそれぞれの抗体複合体BIBH1-DM1及びMFP5-DM1の抗原ポジティブ及び抗原ネガティブHT1080細胞に対する結合性を細胞-ELISAアッセイで決定する。組換えHT1080 v1.33細胞系についてヒトFAPに対する結合性をモニターし、組換え細胞系HT1080クローン13.6についてマウスFAPに対する結合性をモニターする。HT1080 13.6の作製のため、マウスFAP cDNAをクローン化し(Niedermeyer et al. 1998)、発現プラスミドpZeoSV2(+)(Invitrogen)に連結する。HT1080 v1.33について述べたように安定クローンが生成され、マウスFAP特異性モノクロナール抗体3D11によって、マウスFAPにポジティブなクローンが分泌される(Niedermeyer et al., 2000)。細胞ELISAのため、96-ウェルマイクロタイタープレートのウェル当たり100μlの種々の細胞濃度の細胞懸濁液を播種し、インキュベーター(37℃、5%のCO2)内で細胞を一晩インキュベートする。次の日、細胞を100%のエタノールで固定する。抗体BIBH1及びMFP5並びに複合体BIBH1-DM1及びMFP5-DM1の希釈度を二通り加えて2時間インキュベートする。PBS/Tweenで3回洗浄後、BIBH1抗体の検出のため、希釈したウサギ抗-ヒト-IgG-ペルオキシダーゼ複合体を加え、MFP5抗体の検出のため、希釈したヤギ抗-マウス-Ig-ペルオキシダーゼ複合体を加える。RTで2時間インキュベーション後、プレートを再びPBS/Tweenで3回洗浄し、かつTMB染色溶液を添加して、結合した抗-FAP-抗体を検出する。図1に示されるように、DM1との接合は抗体BIBH1及びMFP5の結合親和性を変えない。さらに、図1は、MFP5はヒト及びマウスFAPの両方に結合するが、BIBH1はそうでないことを示す:
A:ヒトFAPを発現するHT1080 v1.33に対する結合性。DM1への接合後、抗体の結合親和性が保持される。
B:マウスFAPを発現するHT1080 13.6に対する結合性。マウス特異性抗体MFP5だけが結合する。
C:ネガティブコントロール。親細胞系HT1080は内因性FAP発現を示さない。
【0026】
〔実施例3〕
in vitro細胞毒性アッセイ
96-ウェルマイクロタイタープレートのウェル当たり100μlの、HT1080及び種々の細胞濃度のFAPポジティブクローンHT1080 v1.33の細胞懸濁液を播種し、インキュベーター(37℃、5%のCO2)内で細胞を一晩インキュベートする。次の日、細胞毒性複合体MFP5-DM1の希釈度を二通り加えてさらに3日間細胞をインキュベートする。残存細胞をMTSで染色してマイクロタイタープレート分光光度計でシグナルを読む。シグモイド曲線フィットを用いるグラフ化ソフトウェアGraphPad Prism(GraphPad Software, Inc., San Diego, CA, USA)を用いて、50%の細胞毒性効果をもたらす濃度(EC50)を計算する。
MFP5-DM1は、抗原-ポジティブ細胞系HT1080 v1.33の死滅において非常に有効であり、約0.04nMのEC50値を有する。抗原-ネガティブ細胞系HT1080は、該複合体によって、ずっと高濃度でしか(約59nMのEC50)効果を受けない。
【0027】
〔実施例4〕
ヒトFAPを発現するヒト腎臓腫瘍異種移植片に対するMFP5-DM1免疫複合体のin vivo抗-腫瘍効力
組換えヒト腎臓腫瘍HEK293 FAP(ヒト胚性腎臓細胞, ATCC, Cat. No. CRL-1573, Park et al., 1999に記載されている通りにヒトFAP cDNAでトランスフェクトした)を適用するヌードマウスモデルでMFP5-DM1のin vivo抗-腫瘍効力を試験する。10%のウシ胎児血清及びサプリメントを含有するRPMI 1640培地内で細胞を培養する。1×107の腫瘍細胞(100μl)を100μlのマトリゲルに加え、6週齢メスNMRI-nu/nuマウスの右脇腹に皮下移植する。腫瘍が291mm3の平均サイズに達した時、治療を開始する。治療は、5日間連続で毎日(1周期)与える300μgのDM1/kgの用量レベルのMFP5-DM1の静脈内注射から成る。PBS-治療動物は腫瘍成長コントロールとして働く。腫瘍サイズを測定することによって腫瘍成長をモニターする。治療の開始後いつでも腫瘍が完全に消失したとき、腫瘍応答を完全応答と評定する。
観察期間中、両群の平均腫瘍体積を測定する。MFP5-DM1で治療した群では、日42のT/C(治療動物のメジアン腫瘍体積をコントロール動物のメジアン腫瘍体積で除した)が顕著に減少し;多くの動物が完全な腫瘍退行を示す。得られた結果から、FAPを発現するヒト腫瘍に対してMFP5-DM1が優れた抗-腫瘍活性を示すことが分かる。
【0028】
〔実施例5〕
FAPを発現するヒト肉腫異種移植片に対するMFP5-DM1免疫複合体のin vivo抗-腫瘍効力
A. ヒトFAPを発現するHT1080ヒト線維肉腫に対するMFP5-DM1免疫複合体のin vivo抗-腫瘍効力
FAP-発現ヒト腫瘍細胞系HT1080 v1.33(ヒト線維肉腫)を適用するヌードマウス異種移植片モデルでMFP5-DM1のin vivo抗-腫瘍効力を試験する。10%のウシ胎児血清及びサプリメントを含有するRPMI 1640培地内で細胞を培養する。5×106の腫瘍細胞を6週齢メスNMRI-nu/nuマウスの右脇腹に皮下移植する。腫瘍が29〜38mm3の平均サイズに達した時、治療を開始する。治療は、5日間連続で毎日与えるMFP5-DM1の静脈内注射から成る。2つの異なる用量(30μgのDM1/kg及び300μgのDM1/kg)のMFP5-DM1を平行して6匹のマウス群で試験する。PBS-治療動物は腫瘍成長コントロールとして働く。腫瘍サイズを測定することによって腫瘍成長をモニターする。
治療の開始後いつでも腫瘍が完全に消失したとき、腫瘍応答を完全応答と評定する。得られた結果は、MFP5-DM1がHT1080 v1.33異種移植ヌードマウスで優れた抗-腫瘍応答を誘発することを示す。
B. ヒトFAPを発現するヒト悪性線維性組織球腫に対するMFP5-DM1免疫複合体のin vivo抗-腫瘍効力
抗原-ポジティブヒト腫瘍MFSH(MFSH細胞系:ヒト悪性線維性組織球腫(Takeya et al. 1995; Iwasaki et al. 1992))を適用するヌードマウスでMFP5-DM1のin vivo抗-腫瘍効力を試験する。
10%のウシ胎児血清及びサプリメントを含有するRPMI 1640培地内で細胞を培養する。1×107の腫瘍細胞をマトリゲルと共に6週齢メスNMRI-nu/nuマウスの右脇腹に皮下移植する。治療実験のため腫瘍フラグメントの継代によって腫瘍を維持する。腫瘍が116〜131mm3の平均サイズに達した時、治療を開始した。治療は、3週間毎週与えるMFP5-DM1の静脈内注射から成る。3つの異なる用量レベル(100μgのDM1/kg、200μgのDM1/kg及び400μgのDM1/kg)のMFP5-DM1を平行して試験する。PBS治療動物は腫瘍成長コントロールとして働く。最高用量レベルのMFP5-DM1免疫複合体の抗体量に対応する用量レベルで非複合型抗体MFP5で1群を治療する。腫瘍サイズを測定することによって腫瘍成長をモニターする。
これらの結果は、4週間にわたって1週間に1回投与した場合、MFP5-DM1複合体がMSFH異種移植ヌードマウス内で抗-腫瘍応答を用量依存応答で誘発することを示す。この実験で非複合型抗体は抗腫瘍効果を示さない。
C. ヒトFAPを発現するヒト骨肉腫異種移植片に対するMFP5-DM1免疫複合体のin vivo抗-腫瘍効力
ヒト骨肉腫由来の腫瘍を適用するヌードマウス異種移植片モデルでMFP5-DM1のin vivo抗-腫瘍効力を試験する。治療実験のため腫瘍フラグメントの継代によって腫瘍を維持する。
継代した腫瘍を6週齢メスNMRI-nu/nuマウスの右脇腹に皮下移植する。腫瘍が75〜95mm3の平均サイズに達した時、治療を開始する。マウスを無作為に3つの異なる治療群に分ける(3種の用量レベル、1群当たり8匹のマウス)。
治療は、日1に開始して5日間連続で毎日与えるMFP5-DM1の静脈内注射から成る。3つの異なる用量レベル(30μgのDM1/kg、100μgのDM1/kg及び200μgのDM1/kg)のMFP5-DM1を試験する。コントロール動物は治療されず(PBS)、又は最高用量レベルのMFP5-DM1免疫複合体の抗体量に対応する用量レベルの非複合型抗体MFP5で治療される。腫瘍サイズを測定することによって腫瘍成長をモニターする。
得られた結果は、5日間連続で毎日投与した場合、MFP5-DM1複合体が骨肉腫異種移植ヌードマウス内で抗-腫瘍応答を用量依存応答で誘発することを示す。この実験で非複合型抗体は抗腫瘍効果を示さない。
【0029】
〔実施例6〕
ヒトFAPを発現しないヒト腫瘍異種移植片に対するMFP5-DM1免疫複合体のin vivo抗-腫瘍効力
FAPを発現しない、ヒト膵臓癌(実施例5A)、ヒト非小細胞肺癌(実施例5B)及びヒト頭頚部癌(実施例5C)由来のヒト腫瘍細胞を接種したヌードマウスでMFP5-DM1のin vivo抗-腫瘍効力を試験する。キメラMFP5を用いて標準的な免疫組織化学で、マウス由来の間質線維芽細胞上のFAPの発現を検証する。
治療実験のため、ヒト膵臓癌及び肺癌の腫瘍フラグメントの継代によって腫瘍を維持する。
A:ヌードマウスにおけるヒト膵臓癌異種移植片モデル:
継代した腫瘍を6週齢メスNMRI-nu/nuマウスの右脇腹に皮下移植する。腫瘍が85〜108mm3の平均サイズに達した時、治療を開始した。マウスを無作為に以下の治療群に分ける(1群当たり8匹のマウス):
群1:コントロール(PBS)
群2:MFP5-DM1(400μgのDM1/kg/日)
群3:MFP5-DM1(200μgのDM1/kg/日)
群4:MFP5-DM1(100μgのDM1/kg/日)
群5:MFP5コントロール(28mg/kg/日)。
治療は日0に開始して1週間に1回(4週間連続)与えるMFP5-DM1の静脈内注射から成る。3つの異なる用量レベルのMFP5-DM1を試験する:100μgのDM1/kgに対応する7mg/kgのMPF5、200μgのDM1/kgに対応する14mg/kgのMPF5及び400μgのDM1/kgに対応する28mg/kgのMPF5。コントロール動物は治療されず(PBS)、又は非複合型抗体(MPF5コントロール抗体,28mg/kg)で治療される。腫瘍サイズを測定することによって腫瘍成長をモニターする。観察期間中の各群の相対的腫瘍体積を図2に示す(群毎の相対的腫瘍体積が示され、治療群が示される;この図中、BIA 12はMFP5複合体を意味し、BIA 13は非複合型抗体MFP5を意味する)。
コントロール抗体又は7mg/kgのMFP5-DM1という低用量レベルで治療した腫瘍は、日31に、コントロール抗体で86%及び低用量で71%というT/C(治療/コントロール)で未治療腫瘍と同様の成長を示す。14mg/kg/日のMFP5-DM1及び28mg/kg/日のMFP5-DM1で治療した群では、14mg/kg/日のMFP5-DM1で治療した群3では日31のT/Cが22%で、28mg/kg/日のMFP5-DM1で治療した高用量群4では日31のT/Cが6%という、用量依存性効力が観察される。
これらの結果は、4週間にわたって1週間に1回投与した場合、MFP5-DM1がヒト膵臓癌で異種移植したマウス内で優れた抗-腫瘍応答を用量依存応答で誘発することを示す。この実験で非複合型抗体は抗腫瘍効果を示さない。
B:ヌードマウスにおけるヒト非小細胞肺癌異種移植片モデル
継代した腫瘍を6週齢メスNMRI-nu/nuマウスの右脇腹に皮下移植する。腫瘍が92〜120mm3の平均サイズに達した時、治療を開始した。
マウスを無作為に以下の治療群に分ける(1群当たり8匹のマウス):
群1:コントロール(PBS)
群2:MFP5-DM1(400μgのDM1/kg)
群3:MFP5-DM1(200μgのDM1/kg)
群4:MFP5-DM1(100μgのDM1/kg)
群5:MFP5コントロール(28mg/kg)。
治療は日0に開始して1週間に1回(4週間連続)与えるMFP5-DM1の静脈内注射から成る。3つの異なる用量レベルのMFP5-DM1を平行して試験する:100μgのDM1/kgに対応する7mg/kg/日のMPF5 DM1複合体、200μgのDM1/kgに対応する14mg/kgのMPF5 DM1複合体、及び400μgのDM1/kgに対応する28mg/kgのMPF5 DM1複合体。コントロール動物は治療されず(PBS)、又は非複合型抗体(MPF5コントロール抗体,28mg/kg)で治療される。腫瘍サイズを測定することによって腫瘍成長をモニターする。観察期間中の各群の相対的な腫瘍体積を図3に示す(群毎の相対的腫瘍体積が示され、治療群が示される。この図中、BIA 12はMFP5複合体を意味し、BIA 13は非複合型抗体MFP5を意味する)。コントロール抗体で治療した腫瘍は日21に107%のT/C比で未治療腫瘍と同様の成長を示した。7、14又は28mg/kg/日のMFP5-DM1で治療した群では、用量依存性効力が観察される。日21のT/C比が28mg/kg/日のMFP5-DM1で治療した群2では7.6%、14mg/kg/日のMFP5-DM1で治療した群3では29%及び7mg/kg/日のMFP5-DM1治療した群4では54%という、用量依存性効力が観察される。
これらの結果は、4週間にわたって1週間に1回投与した場合、MFP5-DM1が異種移植ヌードマウスにおけるヒト肺腫瘍に対して優れた抗-腫瘍応答を用量依存応答で誘発することを示す。この実験で非複合型抗体は抗腫瘍効果を示さない。治療動物由来のヘマトキシリンで染色した腫瘍切片は腫瘍細胞の劇的減少を示す。
C:ヌードマウスにおけるヒト頭頚部癌異種移植片モデル
ヒト腫瘍細胞系FaDu(ヒト頭頚部癌)を適用するヌードマウス異種移植片モデルでMFP5-DM1のin vivo抗-腫瘍効力を試験する。10%のウシ胎児血清とサプリメントを含有するRPMI 1640培地で細胞を培養する。6〜8週齢のメスNMRI-nu/nuマウスの右脇腹に1×106の腫瘍細胞を皮下移植する。腫瘍が72〜78mm3のメジアンサイズに達した時、治療を開始した。
マウスを無作為に以下の群に分ける(1群当たり6匹のマウス):
群1:コントロール(PBS)
群2:MFP5-DM1(200μgのDM1/kg/日)
群3:MFP5-DM1(400μgのDM1/kg/日)
群45:MFP5コントロール(17mg/kg/日)。
治療は、日0に開始して1週間に1回(4週間連続)与えるMFP5-DM1の静脈内注射から成る。2つの異なる用量レベルのMFP5-DM1を試験する:200μgのDM1/kgに対応する8.5mg/kgのMPF5及び400μgのDM1/kgに対応する17mg/kgのMPF5。コントロール動物は治療されず(PBS)、又は非複合型抗体(MPF5コントロール抗体,17mg/kg)で治療される。腫瘍サイズを測定することによって腫瘍成長をモニターする。観察期間中の各群の相対的腫瘍体積を図4に示す(群毎の相対的腫瘍体積が示され、治療群が示される)。
コントロール抗体で治療した腫瘍は未治療腫瘍と同様の成長を示す。8.5mg/kg/日のMFP5-DM1及び17mg/kg/日のMFP5-DM1で治療した群では、8.5mg/kg/日のMFP5-DM1で治療した群2では日32のT/Cが40%で、17mg/kg/日のMFP5-DM1で治療した高用量群3では日32のT/Cが10%という用量依存性効力が観察される。
これらの結果は、4週間にわたって1週間に1回投与した場合、MFP5-DM1がヒト頭頚部癌で異種移植したマウスで優れた抗-腫瘍応答を用量依存応答で誘発することを示す。この実験で非複合型抗体は抗腫瘍効果を示さない。
【0030】
〔実施例7〕
3つの異なるリンカーを含有するMPF5-マイタンシノイド免疫複合体の、ヒトFAPを発現しないヒト腫瘍異種移植片に対するそのin vivo抗-腫瘍効力の比較
MFP5マイタンシノイド複合体の作用機序を解明するため、同じマイタンシノイド、DM1を使用するが、SPP(ジスルフィド結合)で連結する代わりに、「開裂できない」チオエステルリンカーSMCCによって毒素を抗体に連結し、並びに開裂できるジスルフィド含有SPDBリンカーによって連結した修飾マイタンシノイド、DM4を用いて追加のMFP5複合体を作製する。(最近の研究は、SPDB-DM4複合体が、バイスタンダー細胞を強力に殺す代謝物を生成するが、同じ抗体のSMCC-DM1複合体は生成しないことを示した。)
この実施例の実験のため、MFP5-DM1、ジスルフィド結合を含有する複合体について上述したように、MFP5-SPDB-DM4及びMFP5-SMCC-DM1を作製し、in vitro及びin vivoで特徴づけする。MFP5-DM4で使用するSPDBリンカーは、MFP5-DM1で使用するSPPリンカーと同様、開裂できるジスルフィド結合を含むが、SMCCリンカーには開裂できないチオエーテル結合が存在する。
増殖アッセイでは、MFP5-DM4とMFP5-SMCC-DM1が両方ともMFP5-DM1と同様に高い効力及び選択性を示す(FAP-発現HT1080細胞に対してそれぞれEC50=29pM及び22pM;>1μM(FAPα-ネガティブ親細胞に対して))。
膵臓腺癌モデルでは、それぞれ800μgのマイタンシノイド/kgに等価な単用量のMFP5-DM1又はMFP5-DM4が腫瘍の退行をもたらし、8匹の治療動物のうち3匹は完全に退行した(図5A)。図5Aは、治療中の異種移植したヒト膵臓腫瘍の成長キネティクスを示す。マウスをクエン酸緩衝液(■);mAbFAP5-DM1(□)、mAbFAP5-DM4(●)、mAbFAP5-SMCC-DM1(○)で静脈内治療する。8匹のマウスのメジアンとして腫瘍サイズを表す。矢印は治療を示す。図5Aに示されるように、残存腫瘍が最終的に成長を再開するが、治療後75の日である実験の最後まで遅速で維持された。対照的に、開裂できないMFP5-SMCC-DM1複合体は同じ用量レベルで如何なる有意な効力をも示さない。
肺癌モデルでは(図5B)、3週間毎週1回複合体を1kg当たり400μgのマイタンシノイドで投与する。図5Bは、治療中の異種移植したヒト肺腫瘍の成長キネティクスを示す。マウスをクエン酸緩衝液(■);mAbFAP5-DM1(□)、mAbFAP5-DM4(●)、mAbFAP5-SMCC-DM1(○)で静脈内治療した。8匹のマウスのメジアンとして腫瘍サイズを表す。矢印は治療を示す。この場合もやはり、MFP5-DM1及びMFP5-DM4複合体が腫瘍の退行をもたらし、それぞれ治療動物の4/8及び4/8で完全に退行し、日62である実験の最後まで残存腫瘍の成長速度は低い。両群で2つの腫瘍の再成長が観察される。
頭頚部癌細胞系FaDuを用いて、さらなる異種移植片実験を行う。ヌードマウス内の皮下FaDu異種移植片は他の腫瘍モデルに比べて宿主内であまり顕著な間質反応を誘発しないが、FAPα発現は、腫瘍間質線維芽細胞内で一貫して上方制御される。600μgのマイタンシノイド/kgの用量で複合体を単投与後、MFP5-DM1及びMFP5-DM4複合体は有意な効力を示し、それぞれ治療動物の1/8及び2/8で完全な腫瘍の退行が観察されるが、MFP5-SMCC-DM1複合体は効力を示さない。図5Cは、治療中の異種移植したヒト頭頚部腫瘍の成長キネティクスを示す。マウスをクエン酸緩衝液(■);mAbFAP5-DM1(□)、mAbFAP5-DM4(●)、mAbFAP5-SMCC-DM1(○)及び非複合型抗体(△)で静脈内治療する。8匹のマウスのメジアンとして腫瘍サイズを表す。矢印は治療を示す。すべての実験で、治療は良く耐えられ、コントロール群と同様に動物が増量する。この知見の理由は、開裂できるリンカーが高いバイスタンダー効果の可能性があるという事実によるだろう(開裂できないリンカーは普通低毒性なので、より大きい治療窓を提供するが)。
この実施例で示した3つの腫瘍異種移植片モデルの実験は、この実験の所定用量と条件では、SPP-DM1又はSPDB-DM4を含有するMFP5複合体は腫瘍成長の遅延又は腫瘍退行の誘発において非常に有効であるが、SMCC-DM1複合体は本質的に効力がないことを実証する。これらの結果は、バイスタンダー死滅仮説をさらに実証するが、バイスタンダー効果(悪性腫瘍細胞、上皮細胞)と間質線維芽細胞に対する直接効果が協力して、この実験で観察される抗腫瘍応答を果たすことができる。
【0031】
〔実施例8〕
MFP5のヒト化
MFP5 VLドメインの構造モデルを確立するため、Brookhaven国立研究所のタンパク質データバク(Protein Data Bank)(PDB)から構造鋳型を選択する。マウスモノクロナール抗体エントリー「1FOR」から83%の配列同一性/88%の類似性及び2.8Åの分解能でVLドメインを選択する。MFP5 VHドメインのため、主要モデリング鋳型として71%の配列同一性と81%の類似性を有するマウスモノクロナール抗体構造「2C1P」を選択する。個別モデルとしてH-CDR3の構造を決定するため、ループグラフトについてマウスモノクロナール抗体構造「1MAM」を選択する。ヒトコンセンサス枠組に最もよく適合するのは、型ヒトVk及びヒトVH3のものであり、15の該構造がPDBで入手可能である。ヒトVk3ドメインの構造モデルを確立するため、ヒト抗体構造「1DNO」を選択する。ヒトVH1ドメインのモデリングのため、PDBエントリー「1VGE」を選択し、さらに「1WT5」の構造を用いてN-末端の原型を作り、PDBエントリー「1FVC」を用いてCDR H3ループの原型を作る。マウスMFP5 CDR領域をヒト抗体枠組に埋め込むことによってループグラフティングを達成し、以下のヒト化鎖構成物を合成する:
配列番号6:重鎖(hVH01);配列番号7:軽鎖、変形1(hVK03-変形1);配列番号8:軽鎖、変形2(hVK03-変形2)。
ヒト化可変部を免疫グロブリン発現ベクター(pcDNA3.1 Invitrogen,それぞれヒトIgG1重鎖及びヒトκ軽鎖定常部を含有)にクローン化し、hVH01+hVK03-変形1及びhVH01+hVK03-変形2の組合せで過渡的に同時トランスフェクトし、両組合せをHEK293フリースタイル発現システム(Invitrogen)で過渡的に発現させてタンパク質Aカラム上で精製する。
得られたヒト化抗-FAP抗体のFAPに対する親和性を表面プラズモン共鳴(Biacore)で決定すると、KD値が30〜40nMである。Biacore 2000でCM5-バイオセンサー-チップ上でアミンカップリングキットを用いて約200共鳴単位の抗-マウスIgG抗体を固定化する(全材料はBiacore AB, Uppsala, Sweden)。5.2μg/mlで3分間溶液を適用してMFP5をセンサーチップに結合する。3.7〜300nMの濃度で5分間、組換えヒトFAPの会合と解離を測定する。ランニング緩衝液は1.25%のCM-デキストラン(Fluka)及び0.025%のウシ血清アルブミン(Serva)で補充したHBS-EP(Biacore)で、20μl/分の流量で用いる。30秒間50mMのHClを用いて表面再生を行う。BIAevaluationソフトウェア、バージョン4.1(Biacore)の個別治癒フィットアルゴリズムを用いて親和性パラメーターを計算する。
【0032】
〔実施例9〕
甲状腺癌におけるFAPの発現
リンパ節転移のない患者由来の38の甲状腺癌サンプル(LN-;3の未分化癌、6の濾胞状癌、2の髄様癌及び37の乳頭状癌を含む)及びリンパ節転移のある患者由来の10の甲状腺癌サンプル(LN+;9の乳頭状癌及び1の未分化癌を含む)内のFAPαのmRNA発現レベルを、オリゴヌクレオチドチップ技術を用いて決定し、可視化する(コントロールセットとして、29の正常な甲状腺組織サンプルを用いた)。図6は、FAPαが癌サンプル内で過剰発現することを示し、FAPαはリンパ節転移のある患者由来の腫瘍で有意に過剰発現する。
BioExpressTMデータベースから抽出した正規化遺伝子発現データを基礎とする統計演算パッケージRでボックス-及びウィスカープロットを作成する(Gene Logic Inc., Gaithersburg, MD, USA)。ボックス内の目立つ中心線がメジアンを示し、その左右の境界線が第一及び第三の四分位のデータを示す。ウィスカーは、四分位間の範囲の1.5倍を超えない最も極端なデータ点に伸長する。ヒトサンプル集団はBioExpressTMデータベースの創作者によって開示されている。それぞれのハイブリダイゼーションはAffymetrix HG-U133A/Bオリゴヌクレオチドチップで行われる(Affymetrix Inc., Santa Clara, CA, USA)。
【0033】
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【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1A】細胞ELISAにおけるFAP-ポジティブ線維肉腫細胞に対する抗-FAP抗体及びそのDM1複合体の結合親和性の比較(ヒトFAPを発現するHT1080 v1.33に対する結合性)。
【図1B】細胞ELISAにおけるFAP-ポジティブ線維肉腫細胞に対する抗-FAP抗体及びそのDM1複合体の比較(マウスFAPを発現するHT1080 13.6に対する結合性)。
【図1C】細胞ELISAにおけるFAP-ポジティブ線維肉腫細胞に対する抗-FAP抗体及びそのDM1複合体の比較(ネガティブコントロール)。
【図2】ヒト膵臓腫瘍を異種移植したヌードマウスにおけるMFP5-DM1治療の効力。
【図3】ヒト肺腫瘍を異種移植したヌードマウスにおけるMFP5-DM1治療の効力。
【図4】ヒト頭頚部腫瘍を異種移植したヌードマウスにおけるMFP5-DM1治療の効力。
【図5A】ヒト膵臓癌を異種移植したヌードマウスの治療において3つの異なるリンカーを有するMFP5マイタンシノイド複合体の効力の比較。
【図5B】ヒト肺癌を異種移植したヌードマウスの治療において3つの異なるリンカーを有するMFP5マイタンシノイド複合体の効力の比較。
【図5C】ヒト頭頚部腫瘍を異種移植したヌードマウスの治療において3つの異なるリンカーを有するMFP5マイタンシノイド複合体の効力の比較。
【図6】甲状腺癌におけるFAPの発現。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下から選択される抗-FAP-α抗体分子、又はそのフラグメント若しくは誘導体:
a. 以下によって定義されるマウスモノクロナール抗体:
i. 配列(配列番号1)のaa20〜136の領域を含む可変重鎖;
ii. 配列(配列番号2)のaa23〜129の領域を含む可変軽鎖及び
iii. IgG2aκサブクラス;
又はそのフラグメント若しくは誘導体;
b. a)で定義したマウスモノクロナールから誘導されるキメラ抗体;
c. a)で定義したマウスモノクロナールから誘導されるヒト化抗体。
【請求項2】
前記キメラ抗体b)が以下によって定義される、請求項1の抗体分子:
i. 配列(配列番号1)のaa20〜136の領域を含む可変重鎖;
ii. 配列(配列番号2)のaa23〜129の領域を含む可変軽鎖及び
iii. ヒト由来である定常重鎖及び軽鎖。
【請求項3】
前記キメラ抗体が、ヒト重鎖定常部(配列番号3)に融合した、配列(配列番号1)のaa20〜136の領域を含む重鎖可変部と、ヒト軽鎖定常部(配列番号4)に融合した、配列(配列番号2)のaa23〜129の領域を含む軽鎖可変部とを有する、請求項2の抗体分子。
【請求項4】
前記ヒト化抗体c)が以下によって定義される、請求項1の抗体分子:
i. 配列(配列番号1)のaa20〜136の領域を含む可変重鎖内に含まれるCDR及び
ii. 配列(配列番号2)のaa23〜129の領域を含む可変軽鎖内に含まれるCDR、
iii. ヒト抗体由来である、前記CDRを支持する枠組、
iv. ヒト抗体由来である定常重鎖及び軽鎖。
【請求項5】
マウス及びヒトの両FAP-αと反応する、請求項1〜4のいずれか1項の抗体分子。
【請求項6】
請求項1のa)で定義したマウスモノクロナール抗体によって認識されるエピトープと重なるFAP配列内のエピトープを認識する、請求項1〜5のいずれか1項の抗体。
【請求項7】
ヒト化抗体である、請求項6の抗体。
【請求項8】
下記式(I):
A(LB)n (式(I))
(式中、
Aは、請求項1〜7のいずれか1項の定義通りの抗-FAP-α抗体、又はそのフラグメント若しくは誘導体であり;
Lはリンカー成分であり;
Bは細胞毒性薬であり;及び
nはn=1〜10の10進数である)
の免疫複合体。
【請求項9】
前記リンカー成分が細胞内で開裂できる化学結合を有する、請求項8の免疫複合体。
【請求項10】
前記細胞毒性薬Bがマイタンシノイドである、請求項8又は9の免疫複合体。
【請求項11】
前記マイタンシノイドがDM1である、請求項10の免疫複合体。
【請求項12】
前記マイタンシノイドがDM4である、請求項10の免疫複合体。
【請求項13】
前記リンカーが3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)、4-(2-ピリジルジチオ)ペンタン酸N-スクシンイミジル(SPP)、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸N-スクシンイミジル(SMCC)から選択される、請求項8の免疫複合体。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項の免疫複合体の製造方法であって、以下の工程を含む方法:(a)1つ以上のフリー又は保護したチオール基を、請求項1で定義した抗体分子中に導入する工程;
(b)工程(a)で得た抗体分子をマイタンシノイドと反応させる工程;
(c)結果として生じた抗体マイタンシノイド複合体を回収する工程。
【請求項15】
請求項8〜13のいずれか1項の免疫複合体の、癌の治療用医薬組成物製造のための使用。
【請求項16】
前記癌が、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、乳癌、頭頚部癌、卵巣癌、肺癌、浸潤性膀胱癌、膵臓癌、脳の転移性癌、甲状腺癌、頭頚部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌、肺扁平上皮癌、皮膚扁平上皮癌、メラノーマ、乳腺癌、肺腺癌、子宮頚部扁平上皮癌、膵臓扁平上皮癌、結腸扁平上皮癌、又は胃扁平上皮癌、前立腺癌、骨肉腫又は軟組織肉腫及びFAPを発現する良性腫瘍から選択される、請求項15の使用。
【請求項17】
請求項8〜13のいずれか1項の免疫複合体と、医薬的に許容しうる担体、希釈剤、又は賦形剤とを含んでなる医薬組成物。
【請求項18】
癌の治療用の請求項17の医薬組成物。
【請求項19】
前記癌が、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、乳癌、頭頚部癌、卵巣癌、肺癌、浸潤性膀胱癌、膵臓癌、脳の転移性癌、甲状腺癌、頭頚部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌、肺扁平上皮癌、皮膚扁平上皮癌、メラノーマ、乳腺癌、肺腺癌、子宮頚部扁平上皮癌、膵臓扁平上皮癌、結腸扁平上皮癌、又は胃扁平上皮癌、前立腺癌、骨肉腫又は軟組織肉腫及びFAPを発現する良性腫瘍から選択される、請求項18の医薬組成物。
【請求項20】
リウマチ性関節炎の治療用の請求項17の医薬組成物。
【請求項21】
癌の治療方法であって、治療的に有効な量の、請求項8〜13のいずれか1項の免疫複合体又は請求項18で定義した医薬組成物を癌の治療が必要な患者に投与することを含む方法。
【請求項22】
前記癌が、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、乳癌、頭頚部癌、卵巣癌、肺癌、浸潤性膀胱癌、膵臓癌、脳の転移性癌、頭頚部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌、肺扁平上皮癌、皮膚扁平上皮癌、メラノーマ、乳腺癌、肺腺癌、子宮頚部扁平上皮癌、膵臓扁平上皮癌、結腸扁平上皮癌、又は胃扁平上皮癌、前立腺癌、骨肉腫又は軟組織肉腫及びFAPを発現する良性腫瘍から選択される、請求項21の方法。
【請求項23】
リウマチ性関節炎の治療方法であって、治療的に有効な量の、請求項8〜13のいずれか1項の免疫複合体又は請求項17で定義した医薬組成物をリウマチ性関節炎の治療が必要な患者に投与することを含む方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図4】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−522329(P2009−522329A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548985(P2008−548985)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/070185
【国際公開番号】WO2007/077173
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】