説明

線間止水方法および線間止水装置

【課題】一度に複数の被覆電線の芯線に止水材を浸透させて止水処理を施すことができる線間止水方法および線間止水装置を提供すること。
【解決手段】ワイヤハーネスを構成する被覆電線20の芯線21に止水材Sを浸透させる線間止水方法であって、複数の被覆電線20を並列に配列させて保持する配列ステップと、それぞれの被覆電線20の被覆22にそれぞれ注入針26を差し込む差し込みステップと、前記注入針26を介して前記芯線21に止水材Sを注入する注入ステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスの被覆電線の芯線間の止水を行なうのに用いる線間止水方法および線間止水装置に関する(尚、本発明の説明における『止水』は、水の浸入を阻止することに限らず、水、油、アルコール、等を含む液体全般に有効に作用することを意味するが、ここでは一般的に名称として広く用いられている『止水』を用いて説明する)。
【背景技術】
【0002】
一端にて露出させた芯線に端子を圧着固定したワイヤハーネスにおいて、その芯線の露出部分から絶縁被覆の内側へ止水材を浸透させて線間止水を施すことが行なわれている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6に示すように、被覆電線(アース電線)51は、その芯線(導体)53の周囲に絶縁被覆(被覆材)54を有し、その端末部の一方に端子(アース接続端子)52が圧着される(即ち、加締められる)。
【0004】
被覆電線51への端子52の圧着は、絶縁被覆54が除去されて芯線53が露出されている被覆電線51の端末部を端子52のバレル55間にセットし、そしてバレル55を加締めて閉じ、これにより芯線53および絶縁被覆54を端子52に圧着固定する。
【0005】
このような端子52付の被覆電線51の芯線53間の止水を行なうのに用いられる線間止水方法では、被覆電線51の端末部の一方から絶縁被覆54の内側のエア(空気)を吸引する減圧工程を実行したまま、被覆電線51の端末部の他方に対し矢印方向60に流動性のある止水材を供給し、止水材を絶縁被覆54の内側に浸透させるようにしている。
【0006】
また、被覆電線の被覆に注射針を突き刺して被覆内に止水材を注入することも考えられている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
ところで、上記の従来技術は、いずれも1本の被覆電線に対して処理を行なう技術であるので、複数本の被覆電線を束ねたワイヤハーネスの止水処理を行なうには、手間および時間がかかってしまう。
【0008】
また、ワイヤハーネスを容器内に貫通させ、容器内に低粘度の止水材を注入してワイヤハーネスの線間の止水処理を行なう技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
しかし、この技術は、ワイヤハーネスを構成する複数の被覆電線を束ね、これら被覆電線間を止水する技術であり、被覆電線内の芯線間を止水することができない。
【0010】
【特許文献1】特開2004−355851号公報
【特許文献2】特開2000−357415号公報
【特許文献3】特開2002−78161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記問題を解決できる線間止水方法および線間止水装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するために、本発明に係る線間止水方法は、下記(1)を特徴としている。
(1) ワイヤハーネスを構成する被覆電線の芯線に止水材を浸透させる線間止水方法であって、
複数の被覆電線を並列に配列させて保持する配列ステップと、
それぞれの前記被覆電線の被覆にそれぞれ注入針を差し込む差し込みステップと、
前記注入針を介して前記芯線に止水材を注入する注入ステップと、
を含むこと。
【0013】
上記(1)の線間止水方法によれば、一度に複数の被覆電線の芯線に止水材を浸透させて止水処理を施すことができる。これにより、複数の被覆電線から構成されたワイヤハーネスにおける止水処理を極めて容易にかつ短時間に行なうことができる。
また、端子を装着した端部に限らず、任意の箇所にて被覆電線に止水処理を施すことができる。
【0014】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係る線間止水装置は、下記(2)〜(4)を特徴としている。
(2) ワイヤハーネスを構成する被覆電線の芯線に止水材を浸透させる線間止水装置であって、
互いに突き合わされることにより、並列に配列された複数の前記被覆電線を保持する一対のケースと、
前記ケースの一方に設けられ、前記ケース同士を突き合わせることにより、前記被覆電線の被覆に差し込まれる複数の注入針と、
前記注入針に連通する流路に止水材を注入する止水材注入器と、
を有すること。
(3) 上記(2)の線間止水装置であって、
前記ケースには、互いに突き合わされることにより、前記被覆電線の外周を保持するU字状の切欠部が形成されていること。
(4) 上記(2)または(3)の線間止水装置であって、
前記ケースには、互いに突き合わされることにより、前記被覆電線を挟持して外周をシールするクッション材が設けられていること。
【0015】
上記(2)の線間止水装置によれば、一度に複数の被覆電線の芯線に止水材を浸透させて止水処理を施すことができる。これにより、複数の被覆電線から構成されたワイヤハーネスにおける止水処理を極めて容易にかつ短時間に行なうことができる。
また、ケースによって保持した状態にて止水材を注入することができるので、被覆電線が屈曲するなどの不具合がなく、したがって、被覆電線へ注入針を確実に差し込んで止水材を注入することができ、また、止水材の硬化後においても、被覆電線の屈曲による止水材が固化した止水部分の破損を防止することができる。
また、端子を装着した端部に限らず、任意の箇所にて被覆電線に止水処理を施すことができる。
上記(3)の線間止水装置によれば、被覆電線の外周をU字状の切欠部によって更に確実に位置決めして保持することができ、止水材を確実に注入することができ、更に、止水部分の破損を防止することができる。
上記(4)の線間止水装置によれば、クッション材によって被覆電線を確実に挟持して位置決めした状態に保持することができるとともに、被覆電線の周囲におけるシール性を確実に確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の線間止水方法によれば、一度に複数の被覆電線の芯線に止水材を浸透させて止水処理を施すことができる。これにより、複数の被覆電線から構成されたワイヤハーネスにおける止水処理を極めて容易にかつ短時間に行なうことができる。
また、端子を装着した端部に限らず、任意の箇所にて被覆電線に止水処理を施すことができる。
また、本発明の線間止水装置によれば、一度に複数の被覆電線の芯線に止水材を浸透させて止水処理を施すことができる。これにより、複数の被覆電線から構成されたワイヤハーネスにおける止水処理を極めて容易にかつ短時間に行なうことができる。
また、ケースによって保持した状態にて止水材を注入することができるので、被覆電線が屈曲するなどの不具合がなく、したがって、被覆電線へ注入針を確実に差し込んで止水材を注入することができ、また、止水材の硬化後においても、被覆電線の屈曲による止水材が固化した止水部分の破損を防止することができる。
また、端子を装着した端部に限らず、任意の箇所にて被覆電線に止水処理を施すことができる。
【0017】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
ここでは、複数の芯線および当該芯線の束の周囲に沿って形成された絶縁被覆を有する複数の被覆電線を束ねたワイヤハーネスを例に挙げて、その被覆電線の芯線の間に止水材を浸透させる本発明の線間止水方法および線間止水装置を説明する。
【0019】
本発明に係る線間止水方法および線間止水装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1から図4は本発明の実施形態に係る線間止水装置を説明する図であって、図1は線間止水装置の斜視図、図2は線間止水装置の断面図、図3は線間止水装置の側面図、そして図4は線間止水装置の平面図である。
【0021】
図1〜図4に示すように、線間止水装置10は、3本の被覆電線20に止水処理を施すもので、上下に組み合わされる下ケース11と上ケース12とからなる樹脂製のケース13を備えている。
下ケース11および上ケース12は、一端側が連結部14にて回動可能に連結されており、この連結部14と反対側の他端側には、互いに係合する係合部11a,12aが形成されている。
【0022】
また、下ケース11および上ケース12には、その両側部に、間隔をあけて形成された3つのU字状の切欠部11b,12bが形成されており、下ケース11と上ケース12とを突き合わせることにより、それぞれの切欠部11b,12bの円弧状の底部からなる孔部が形成されるようになっている。
【0023】
そして、この切欠部11b,12bによって被覆電線20がケース13の両側部にて保持されて位置決めされる。
【0024】
この被覆電線20は、ワイヤハーネスを構成するもので、芯線21が絶縁被覆22で覆われている。
【0025】
また、下ケース11および上ケース12には、クッション材23,24が設けられており、下ケース11と上ケース12との間の被覆電線20がクッション材23,24によって挟持され、その外周がシールされる。
【0026】
また、上ケース12には、下ケース11側へ向かって突出する3本の注入針26が設けられており、これら注入針26は、上ケース12に形成された流路25に接続されている。流路25は、上ケース12の外面にて開口する注入口27を有しており、この注入口27には、十字の切り込みを有する、例えば、ゴム等から形成されたシール部材28が設けられている。
【0027】
この上ケース12の流路25には、シール部材28が設けられた注入口27から止水材注入器30によって止水材(液状または固体状から液状にした止水材)Sが注入可能とされている。止水材注入器30は、シリンダ31と、このシリンダ31に摺動可能に嵌合されたピストン32とを有し、シリンダ31の先端に形成された吐出口33が、注入口27のシール部材28に差し込み可能とされている。
【0028】
そして、止水材注入器30の吐出口33を注入口27のシール部材28に差し込んだ状態にて、ピストン32をシリンダ31内に押し込むと、シリンダ31内に充填された止水材Sが吐出口33から押し出され、流路25へ送り出される。
【0029】
次に、ワイヤハーネスを構成する被覆電線20に止水処理を施す場合について説明する。
【0030】
図5(a),(b)はワイヤハーネスの被覆電線への線間止水装置の装着の仕方を示すそれぞれ側面図である。
【0031】
図5(a)に示すように、線間止水装置10の下ケース11と上ケース12とを開いた状態にて、ワイヤハーネスの複数の被覆電線20を、下ケース11上に配置させる。
【0032】
この状態にて、連結部14を中心として上ケース12を下ケース11側(図5(a)中矢印イ方向)に回動させて突き合わせ、係合部11a,12aを互い係合させる。
【0033】
このようにすると、図5(b)に示すように、下ケース11および上ケース12のU字状の切欠部11b,12bの円弧状の底部によって被覆電線20がケース13の両側部にて保持されて位置決めされる。
【0034】
また、このとき、上ケース12に設けられた注入針26が被覆電線20に突き刺さり、更に、下ケース11および上ケース12のクッション材23,24によって被覆電線20が挟持され、その外周が位置決めされた状態に保持されるとともにシールされる。
【0035】
この状態にて、シリンダ31内に低粘度の止水材Sを充填させた止水材注入器30の吐出口33を注入口27のシール部材28に差し込み、ピストン32をシリンダ31へ押し込む。
【0036】
このようにすると、シリンダ31内の止水材Sが吐出口33から押し出され、流路25へ送り出され、各注入針26から被覆電線20の芯線21内に浸透する。そして、この芯線21に浸透した止水材Sは、その後、硬化し、これにより、芯線21間が止水材Sによって埋められた状態となり、確実に止水処理が施される。
【0037】
このように、上記実施形態によれば、一度に複数の被覆電線20の芯線21に止水材Sを浸透させて止水処理を施すことができる。これにより、複数の被覆電線20から構成されたワイヤハーネスにおける止水処理を極めて容易にかつ短時間に行なうことができる。
【0038】
また、下ケース11および上ケース12からなるケース13によって保持した状態にて止水材Sを注入することができるので、被覆電線20が屈曲するなどの不具合がなく、したがって、被覆電線20へ注入針26を確実に差し込んで止水材Sを注入することができ、また、止水材Sの硬化後においても、被覆電線20の屈曲による止水材Sが固化した止水部分の破損を防止することができる。
【0039】
また、端子を装着した端部に限らず、任意の箇所にて被覆電線20に止水処理を施すことができる。
【0040】
更には、被覆電線20の外周をU字状の切欠部11b,12bによって更に確実に位置決めして保持することができ、止水材Sを確実に注入することができ、更に、止水部分の破損を防止することができる。
【0041】
また、クッション材23,24によって被覆電線20を確実に挟持して位置決めして保持することができるとともに、被覆電線20の周囲におけるシール性を確実に確保することができる。
【0042】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0043】
上記実施形態では、ワイヤハーネスを構成する3本の被覆電線20に止水処理を施す場合を例にとって説明したが、一度に止水処理する被覆電線20の本数は3本に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る線間止水装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る線間止水装置の断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る線間止水装置の側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る線間止水装置の平面図である。
【図5】ワイヤハーネスの被覆電線への線間止水装置の装着の仕方を示すそれぞれ側面図である。
【図6】従来の線間止水方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0045】
10:線間止水装置
11:下ケース(ケース)
11b,12b:切欠部
12:上ケース(ケース)
20:被覆電線
21:芯線
23,24:クッション材
25:流路
26:注入針
30:止水材注入器
S:止水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスを構成する被覆電線の芯線に止水材を浸透させる線間止水方法であって、
複数の被覆電線を並列に配列させて保持する配列ステップと、
それぞれの前記被覆電線の被覆にそれぞれ注入針を差し込む差し込みステップと、
前記注入針を介して前記芯線に止水材を注入する注入ステップと、
を含むことを特徴とする線間止水方法。
【請求項2】
ワイヤハーネスを構成する被覆電線の芯線に止水材を浸透させる線間止水装置であって、
互いに突き合わされることにより、並列に配列された複数の前記被覆電線を保持する一対のケースと、
前記ケースの一方に設けられ、前記ケース同士を突き合わせることにより、前記被覆電線の被覆に差し込まれる複数の注入針と、
前記注入針に連通する流路に止水材を注入する止水材注入器と、
を有することを特徴とする線間止水装置。
【請求項3】
前記ケースには、互いに突き合わされることにより、前記被覆電線の外周を保持するU字状の切欠部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載した線間止水装置。
【請求項4】
前記ケースには、互いに突き合わされることにより、前記被覆電線を挟持して外周をシールするクッション材が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した線間止水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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