説明

締付用ナット

【課題】締付用ナットを回転させた際に、径方向内側に向けて締付ける力が締付用ナットの内周に形成された変換部に働くことを防止し、回転効率を向上させ、被締付部材を確実に締付けることができる締付用ナット及びこれを備えた工具ホルダ、並びに締付用ナットを締付けるスパナを提供する。
【解決手段】締付用ナット50の外周部の、雌螺子51に対応する領域の少なくとも一部に、スパナ100と接触しない環状溝59を外周に沿って環状に形成した締付用ナット50である。また、締付用ナット50の外周部を把持する把持部に、締付用ナット50の雌螺子51に対応する領域の少なくとも一部と接触しない非接触領域122を当該把持部に沿って環状に形成してなるスパナ120である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被締付部材の外周に回転可能に配置され、前記被締付部材の締付けまたは締付けの解放を行う締付用ナット、及びこの締付用ナットを備えた工具ホルダ、並びに前記締付用ナットを回転させて被締付部材を締付けるためのスパナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、締付用ナットを被締付部材の外周部に装着し、当該締付用ナットを回転させることにより、前記被締付部材を締付けるものが多種知られている。この締付用ナットの内周部には、締付用ナットの回転運動を直進運動に変換する変換部(例えば、螺子等)が形成されており、前記直進運動により締付用ナットが被締付部材の軸方向に進退し、この被締付部材の締付けまたは解放を行っている。
【0003】
この締付機構を利用した一例として、コレットを介して工具を把持する工具ホルダ本体と、この工具ホルダ本体に回転可能に装着され、当該回転により工具ホルダ本体と共に前記コレットを締付ける締付用ナットと、を備えた工具ホルダがある。
【0004】
この構成を備えた工具ホルダでは、通常、締付用ナットの内周部に前記回転運動を直進運動に変換する螺子やニードルローラ部等が形成されている。また、締付用ナットの外周部にはローレット加工が施され、かつ締付用ナットを回転させるためのスパナが係合する凹部や係合溝が形成されている。そして、前記スパナを締付用ナットの凹部や係合溝に係合させて、当該締付用ナットを回転させることにより、締付用ナットで前記工具ホルダ本体を締付けて、工具ホルダ本体に前記工具を確実に把持させている。
【0005】
このような工具ホルダ(チャック)として、例えば、工具ホルダ本体(チャック本体)に装着される締付用ナット(アウタースリーブ)の外周面を、スパナが係合する溝やローレットが形成されていない完全円筒面とし、この完全円筒面をベルトスパナのベルトの巻回部分とした構成を備えたものがある。この構成を備えた工具ホルダは、工具ホルダの高速回転時に動バランスを崩すようなスパナが係合する溝が全く存在しないため、動バランスが向上すると共に、高速回転時において不可避であった風切り音がなくなり、またビビリ振動も激減させることができるという効果を備えている。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平5−26208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の工具ホルダは、スパナを用いて締付用ナットを回転させる(締付ける)と、回転力と共に締付用ナットを径方向内側に向けて締付ける力が働き、締付用ナットの内周に形成された螺子やニードルローラ部を外周から押圧することになる。このため、この部分での摩擦力が増大し、締付用ナットを回転させ難くなり、作業性が低下してしまう。また、締付用ナットの締付けが弱くなり、工具ホルダに工具を強固に把持させることが困難になる虞もある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、締付用ナットを回転させた際に、締付用ナットを径方向内側に向けて締付ける力が、締付用ナットの内周部に形成された螺子やニードルローラ部等のような回転運動を直進運動に変換する変換部に働くことを防止でき、回転効率を向上させ、被締付部材を確実に締付けることができる締付用ナットを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、この締付用ナットを備えた工具ホルダを提供することを目的とする。
【0009】
さらにまた、本発明は、締付用ナットを回転させた際に、締付用ナットを径方向内側に向けて締付ける力が、前記変換部に働くことを防止でき、締付用ナットの回転効率を向上させることができるスパナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため本発明は、被締付部材の外周部に回転可能に配置されると共に、内周部に前記回転運動を直進運動に変換する変換部を備え、当該直進運動により前記被締付部材の軸方向に進退し、当該被締付部材の締付けまたは解放を行う締付用ナットであって、前記締付用ナットの外周部を内周部に向けた力で把持する機器に把持されて回転可能であり、前記締付用ナット外周部の前記変換部に対応する領域の少なくとも一部に、前記機器と接触しない非接触領域を、当該外周に沿って環状に形成してなる締付用ナットを提供するものである。
【0011】
この構成を備えた締付用ナットは、前記変換部に対応する領域の少なくとも一部に、前記機器と接触しない非接触領域が、外周面に沿って環状に形成されている。したがって、締付用ナットを回転させた際に、当該締付用ナットを径方向内側に向けて締付ける力がこの非接触領域に働くこと防止することができる。このため、締付用ナットの回転効率が向上し、被締付部材を確実に締付けることができる。
【0012】
前記非接触領域は、例えば、凹状の環状溝から構成することができる。
【0013】
また、前記非接触領域は、前記変換部に対応する領域の全域に亘って形成することもできる。このように構成にすれば、さらに締付用ナットの回転効率が向上し、被締付部材をより確実に締付けることができる。
【0014】
また、本発明にかかる締付用ナットは、前記外周部の前記変換部と対応しない領域に、前記機器が接触するための接触領域を設けることもできる。このような構成にすれば、締付用ナットを回転させた際に、締付用ナットを径方向内側に向けて締付ける力が、前記変換部に働くことがないため、締付用ナットの回転効率を向上させることができ、被締付部材を確実に締付けることができる。
【0015】
前記変換部は、例えば、螺子や、リテーナに保持された複数のニードルローラから構成することもできる。
【0016】
そしてまた、前記被締付部材は、工具把持部に挿入された工具を把持可能な工具ホルダ本体から構成することができる。このように構成することで、前記利点に加え、工具ホルダは、その工具把持部に挿入された工具を確実に把持することができる。
【0017】
さらにまた、本発明は、工具把持部に挿入された工具を把持可能な工具ホルダ本体と、前述した締付用ナットを備え、前記工具ホルダ本体の外周部に配置された前記締付用ナットの回転に応じて、前記工具ホルダ本体を締付けまたは解放し、前記工具の把持または解放を行う工具ホルダを提供するものである。
【0018】
この構成を備えた工具ホルダは、締付用ナットを回転させた際に、当該締付用ナットを径方向内側に向けて締付ける力が前記非接触領域に働くことを防止することができる。このため、締付用ナットの回転効率を向上させることができ、工具ホルダ本体を確実に締付けることができる。したがって、工具を強固に把持することができる。
【0019】
そしてまた、本発明は、被締付部材の外周部に回転可能に配置されると共に、内周部に前記回転運動を直進運動に変換する変換部を備え、当該直進運動により前記被締付部材の締付けまたは解放を行う締付用ナットの外周部を把持し、当該締付用ナットを回転させるためのスパナであって、前記締付用ナット外周部を把持する把持部に、当該締付用ナット外周部の前記変換部に対応する領域の少なくとも一部と接触しない非接触領域を、当該把持部に沿って環状に形成してなるスパナを提供するものである。
【0020】
この構成を備えたスパナは、締付用ナットを回転させた際に、締付用ナットを径方向内側に向けて締付ける力がこの非接触領域に対応する変換部に働くことを防止することができるため、締付用ナットの回転効率を向上させることができ、被締付部材を確実に締付けることができる。また、前記非接触領域は、例えば、凹状の環状溝から構成することができる。
【0021】
そしてまた、前記非接触領域は、前記変換部に対応する領域の全域に亘って形成することもできる。このような構成にすることで、締付用ナットの回転効率をさらに向上させることができ、被締付部材をより確実に締付けることができる。
【0022】
また、本発明は、被締付部材の外周部に回転可能に配置されると共に、内周部に前記回転運動を直進運動に変換する変換部を備え、当該直進運動により前記被締付部材の締付けまたは解放を行う締付用ナットの外部を把持し、当該締付用ナットを回転させるためのスパナであって、前記締付用ナット外周部の前記変換部と対応しない領域を把持して、当該締付用ナットを回転させるスパナを提供するものである。
【0023】
この構成を備えたスパナは、締付用ナットを回転させた際に、締付用ナットを径方向内側に向けて締付ける力が、前記変換部に働くことがないため、締付用ナットの回転効率を向上させることができ、被締付部材を確実に締付けることができる。
【0024】
前記被締付部材は、工具把持部に挿入された工具を把持可能な工具ホルダ本体から構成することができる。このように構成することで、前記利点に加え、スパナにより締付用ナットを回転させた際に、工具ホルダは、その工具把持部に挿入された工具を確実に把持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかる締付用ナットは、これを回転させた際に、径方向内側に向けて締付ける力が、締付用ナットの内周に形成された回転運動を直進運動に変換する変換部に働くことを防止できる。この結果、締付用ナットの回転効率を向上させ、被締付部材を確実に締付けることができる。
【0026】
また、本発明にかかる工具ホルダは、締付用ナットを回転させた際に、径方向内側に向けて締付ける力が、締付用ナットの内周に形成された回転運動を直進運動に変換する変換部に働くことを防止できる。この結果、締付用ナットの回転効率を向上させ、被締付部材に工具を確実に締付けることができる。
【0027】
そしてまた、本発明にかかるスパナは、締付用ナットを回転させた際に、締付用ナットを径方向内側に向けて締付ける力が、締付用ナットの変換部に働くことがない。この結果、締付用ナットの回転効率を向上させることができ、被締付部材を確実に締付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明の好適な実施の形態にかかる締付用ナット、及びこの締付用ナットを備えた工具ホルダ、並びにスパナについて図面を参照して説明する。なお、以下に記載される実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施の形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。また、本実施の形態では、工具ホルダの工具挿入口側を「先端」とし、機械主軸に装着される側を「基端」として記載する。
【0029】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明にかかる締付用ナットを備えた被締付部材としての工具ホルダについて説明する。
【0030】
図1は、実施の形態1にかかる工具ホルダの一部断面図、図2は、図1に示す工具ホルダの締付用ナットをスパナで締付ける状態を示す一部断面図である。なお、前記各図では、説明を判り易くするため、各部材の厚さやサイズ、拡大・縮小率等は、実際のものとは一致させずに記載した。
【0031】
図1及び図2に示すように実施の形態1にかかる工具ホルダ1は、図示しない工具を把持可能な工具ホルダ本体10と、工具ホルダ本体10の内部に形成されたコレット挿入孔11に挿入されるコレット30と、工具ホルダ本体10の外周部に回転可能に配置されて、工具ホルダ本体10に把持された工具の締付け及び解放を行う締付用ナット50と、を備えて構成されている。
【0032】
工具ホルダ本体10の基端側には、図示しない機械主軸のテーパ孔の内周面と対応する(相補する)テーパ形状を有するテーパシャンク部12が形成されている。また、工具ホルダ本体10の略中央部には、このテーパシャンク部12に連続してフランジ部14が形成されており、その先端側には、工具を把持するための工具把持部13が、フランジ部14に連続して形成されている。
【0033】
フランジ部14は、機械主軸のテーパ孔にテーパシャンク部12を挿入し、機械主軸に工具ホルダ1を装着させた際に、基端側の端面が機械主軸の端面に当接するよう構成されている。また、フランジ部14は、その外周部に、周知のマニピュレータ把持用溝15が形成され、かつ周方向180度の位置に、機械主軸の図示しない係合突起と係合して工具ホルダ1が機械主軸と一体に回転するための係合凹部16が形成されている。
【0034】
工具把持部13は、内部に工具を把持するためのコレット30が挿入されるコレット挿入孔11が開口されている。また、工具把持部13の先端側には、後に詳述する締付用ナット50の内周部に形成されている雌螺子51に螺合する雄螺子17が、工具把持部13の外周面に沿って形成されている。この工具把持部13の外周部には、締付用ナット50が回転可能に装着される。
【0035】
コレット30は、テーパーコレットであり、軸方向に、互いに等しい角度をおいて複数のすり割り32が形成されている。このすり割り32が形成されたコレット30は、弾性変形を伴った径の拡縮により、工具のシャンクを解放したり把持したりすることができる。コレット30の先端側外周面には、締付けナット50が取付けられるテーパ部33が形成されており、このテーパ部33の基端側には、締付用ナット50の係合凸部52が係合する係合凹部34が、外周面に沿って形成されている。
【0036】
締付用ナット50は、工具ホルダ1に挿入されたコレット30の先端に配置される係止部材54と、係止部材54の外周面に対して、連結用の球体56を介して相対的に回転自在に設けられ、コレット30を内周部(径方向内側)に向けて締付けて固定するナット本体55と、を備えて構成されている。
【0037】
係止部材54は、工具ホルダ本体10の先端側に設けられる環状部材からなり、その内周面の先端部には、先端に向けて内径が徐々に小さくなるテーパ面57が形成されている。係止部材54の基端には、コレット30の係合凹部34に係合する係合凸部52が、軸心に向けて、内周面に沿って突出形成されている。係合凸部52と、テーパ面57との間には、コレット30の先端側に形成されたテーパ部33に接触するテーパ面58が形成されている。
【0038】
ナット本体55の内周部には、工具ホルダ本体10の外周部先端に形成された雄螺子17に螺合する雌螺子51が形成されている。この雌螺子51は、工具ホルダ本体10の外周部に形成された雄螺子17に螺合してナット本体55を回転させ、この回転運動を直進運動に変換して、ナット本体55を工具ホルダ本体10の軸方向に対して移動させる。このナット本体55は、その回転によって、係止部材54及びコレット挿入孔11をその軸方向に押圧し、これによってコレット30も同様に半径方向に圧縮されて工具を固定する。ナット本体55の外周部であって、雌螺子51と対応した全領域には、外周面に沿って凹状の環状溝59が形成されている。この環状溝59は、図2に示すように、スパナ100で、締付用ナット50を回転させる際に、スパナ100の把持部101が接触しない非接触領域を形成することになる。一方、この環状溝59の両側(先端側及び基端側)は、締付用ナット50をスパナ100で回転させる際に、スパナ100の把持部101が接触する接触領域60A及び60Bとなる。
【0039】
なお、図2において、符号102は、くさび部材103を保持する保持器であり、くさび部材103を収容する遊び領域とくさび領域を有している。くさび部材103は、スパナ100の一方向への回転によりくさび領域に位置して、締付用ナット50の外周部と、前記くさび領域の壁面との間に喰い込むよう構成されており、この動作によって締付けナット50を回転させる。また、スパナ100が前記一方向と逆方向に回転することにより、遊び領域に移動するよう構成されている。
【0040】
また、スパナとしては、例えば、特開平7-68473号公報等に記載されているような従来のものも使用できる。
【0041】
この構成を備えた工具ホルダ1に工具を挿着するには、工具ホルダ1に保持されたコレット30の先端側から、図示しない工具のシャンクを挿入する。次に、ナット本体55をスパナ100により回転させ、係止部材54をコレット30側へと移動させる。この動作により、コレット30のテーパ部33と締付用ナット50の係止部材54のテーパ面58とが摺接し、また、コレット30の外周面と、工具ホルダ本体10のコレット挿入孔11の内周面とが摺接してコレット30が縮径方向に弾性変形し、工具のシャンクを締め付け始める。
【0042】
ここで、ナット本体55がスパナ100によって回転させられると、回転力と共に径方向内側に向けて締付ける力を受けることになる。この時、ナット本体55の雌螺子51と対応した外周部の全領域には、前記環状溝59が形成されているため、この部分にスパナ100が接触することがない。したがって、ナット本体55の雌螺子51部分に、スパナ100から径方向内側に向けて締付ける力が作用することを防止することができる。この結果、締付用ナット50の回転効率を向上させ、工具ホルダ本体10に、コレット30を介して工具を確実に締付けることができる。
【0043】
また、スパナ100により、締付用ナット50のナット本体55を前記とは逆方向に回転させ、締付用ナット50の締付けを緩めて工具ホルダ本体10から工具を取外す際も同様に、締付用ナット50の雌螺子51部分に、スパナ100から径方向内側に向けて締付ける力が作用することを防止することができる。
【0044】
なお、実施の形態1では、ナット本体55の外周部の雌螺子51と対応した全領域に環状溝59を形成した場合について説明したが、これに限らず、環状溝59は、雌螺子51が形成されている領域に対応するナット本体55の外周部の少なくとも一部に、その外周に沿って環状に形成されていればよい。
【0045】
そしてまた、図3に示すように、締付用ナット50のナット本体55の外周部に環状溝59を設けずに、接触領域60Aにのみ接触する幅を備えたスパナ110を使用してもよい。すなわち、このスパナ110は、締付用ナット50の外周部の雌螺子51と対応しない領域を把持して、締付用ナット50を回転させるものである。また、スパナ110で接触領域60Bを把持してもよい。
【0046】
なお、図3において、符号112は、くさび部材113を保持する保持器であり、くさび部材113を収容する遊び領域とくさび領域を有している。くさび部材113は、スパナ110の一方向への回転によりくさび領域に位置して、締付用ナット70の外周部と、前記くさび領域の壁面との間に喰い込むよう構成されており、スパナ110が前記一方向と逆方向に回転することにより、遊び領域に移動するよう構成されている。
【0047】
この場合も前記同様に、ナット本体55の雌螺子51と対応した外周部の全領域にスパナ100が接触することがない。したがって、ナット本体55の雌螺子51部分に、スパナ100から径方向内側に向けて締付ける力が作用することを防止することができ、締付用ナット50の回転効率を向上させ、工具ホルダ本体10に、コレット30を介して工具を確実に締付けることができる。
【0048】
また、実施の形態1では、工具ホルダ1にコレット30を挿入する場合について説明したが、これに限らず、工具ホルダ1の工具挿入孔に工具を直接挿入し、工具ホルダ1を締付用ナット50で締付けるタイプの物等、様々な形態の工具ホルダに応用可能であることは勿論である。
【0049】
そしてまた、実施の形態1では、被締付部材として工具ホルダを使用した場合について説明したが、これに限らず、締付用ナットを被締付部材の外周部に装着し、当該締付用ナットを回転させることにより、前記被締付部材を締付ける構成を備えていれば、被締付部材は任意に選択することができる。
【0050】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2にかかるスパナについて図面を参照して説明する。
【0051】
図4は、工具ホルダの締付用ナットをスパナで締付ける状態を示す一部断面図、図5は、図4のV−V線に沿ったスパナの一部断面図、図6は、図5に示すスパナの一部拡大断面図である。
【0052】
実施の形態2で使用する締付用ナット150は、従来の工具ホルダに装着される従来の締付用ナットであり、実施の形態1で説明したように、その外周部に環状溝59は形成されていない。
【0053】
図4〜図6に示すように、実施の形態2にかかるスパナ120は、締付用ナット150の外径よりも若干大きい内径を有して締付用ナット150を挿入可能な断面円形状の開口部124を備えたスパナ本体125と、このスパナ本体125に一体的に設けられたハンドル126によって構成されている。そして開口部124の内周面127の周方向両側には、後述するくさび機構が、互いに間隔をおいて並設されている。この間隔は、締付用ナット150の内周面に形成されている雌螺子51に対応する全領域に相当しており、前述した非接触領域122を構成している。
【0054】
前記くさび機構は、スパナ本体125の内周面127に、その周方向に回動可能に設けられた内環状のリテーナ128と、このリテーナ128を一周方向に付勢するばね131と、このばね131を抑える蓋体132と、リテーナ128に形成された複数の収容溝129に各々収容された円筒状のくさび部材130と、を備えて構成されている。
【0055】
リテーナ128に形成された収容溝129は、くさび部材130を回転可能かつ周方向に移動不能に収容する構成を備え、周方向に適宜間隔で複数形成されている。この構成により、複数のくさび部材130は、リテーナ128と一体となって周方向に移動する。
【0056】
また、スパナ本体125の内周面127には溝133が形成されており、この溝133には、遊び領域134及びくさび領域135が構成される。また、符号136は、くさび部材130が遊び領域134から時計方向側のくさび領域135に移動するのを防止するストッパであり、これによりくさび部材130が、遊び領域134と反時計方向側のくさび領域135との間のみを移動することを確保することができる。
【0057】
ばね131は、ほぼ円環状に形成したものであり、一端がリテーナ128の上面に形成された嵌合溝(図示省略)に嵌合され、他端が蓋体132に形成された嵌合溝(図示省略)に嵌合される。このように構成することにより、リテーナ128は常時、くさび部材130が遊び領域134からくさび領域135の方に移動する方向に付勢されている。
【0058】
この構成を備えたスパナ120は、一方向に回転したときのみ締付用ナット150とロックされ、締付用ナット150を回転させることになる。この時、前述したくさび機構は、開口部124の内周面127の周方向両側に、互いに間隔(非接触領域122)をおいて配置されているため、スパナ120で締付用ナット150を回転させた際に、ナット本体55の雌螺子51と対応した外周部にスパナ120が接触することがない。したがって、ナット本体55の雌螺子51部分に、スパナ120から径方向内側に向けて締付ける力が作用することを防止することができる。この結果、締付用ナット150の回転効率を向上させ、工具ホルダ本体10に、コレット30を介して工具を確実に締付けることができる。
【0059】
なお、実施の形態2では、スパナ120の内周面127に、締付用ナット150の雌螺子51に対応する全領域に相当する部分に、非接触領域122を形成した場合について説明したが、これに限らず、非接触領域122は、雌螺子51が形成されている領域に対応する少なくとも一部に、その内周面に沿って環状に形成されていればよい。
【0060】
また、実施の形態2では、くさび部材130によって締付用ナット150の外周面をロックする構成のスパナ120について説明したが、これに限らず、締付用ナット150の外周部を把持する把持部に、締付用ナット150の雌螺子51に対応する領域の少なくとも一部と接触しない非接触領域を備えていれば、他の構成を備えていてもよい。
【0061】
また、実施の形態2では、工具ホルダの締付用ナットを締付ける(回転させる)スパナについて説明したが、これに限らず、本発明にかかるスパナは、任意の被締付部材に回転可能に装着された締付用ナットを回転させることができる。
【0062】
(実施の形態3)
次に、本発明にかかる締付用ナットを備えた被締付部材としての工具ホルダについて説明する。
【0063】
図7は、実施の形態3にかかる工具ホルダの一部断面図であり、締付用ナットを十分に締付けていない状態を示す図、図8は、実施の形態3にかかる工具ホルダの一部断面図であり、締付用ナットを十分に締付けた状態を示す図である。
【0064】
なお、実施の形態3では、実施の形態1で説明した工具ホルダと同様の部材には、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0065】
図7及び図8に示すように、実施の形態3にかかる工具ホルダ2の、実施の形態1にかかる工具ホルダ1と異なる点は、工具ホルダ本体20の先端側に形成された工具把持部23の構成と、締付用ナット70の構成である。
【0066】
工具把持部23は、内部に工具挿入孔21を備えており、その外周部は、先端にいくにしたがって径が若干小さくなるテーパ状を有している。この工具把持部23の外周部には、螺旋状に公転する多数のニードルローラ71を介して締付用ナット70が回転可能に装着されている。
【0067】
締付用ナット70は、回動自在に保持されるナット本体75と、ナット本体75と工具ホルダ本体20の工具把持部23との間に組み込まれる複数のニードルローラ71から構成されている。各ニードルローラ71の軸線は、工具把持部23の軸線に対して若干の傾斜を持つよう構成されている。このニードルローラ71はナット本体75を回転させ、この回転運動を直進運動に変換して、ナット本体75を工具ホルダ本体20の軸方向に対して移動させる。このナット本体75は、その回転によって、工具ホルダ本体20をその半径方向に押圧し、これによって工具挿入孔21の径が収縮して工具を固定する。
【0068】
ナット本体75の外周部であって、ニードルローラ71と対応した全領域より基端側には、スパナ100で締付用ナット70を回転させる際に、スパナ100の把持部101が接触する接触領域60Cが、外周に沿って形成されている。なお、実施の形態3では、ナット本体75の外周部の、ニードルローラ71と対応した全領域が、スパナ100が接触しない非接触領域となっている。
【0069】
この構成を備えた工具ホルダ2に工具を挿着するには、工具ホルダ2に形成された工具挿入孔21の先端側から、図示しない工具のシャンクを挿入する。次に、ナット本体75をスパナ100により回転させる。ナット本体75がスパナ100によって回転させられると、ナット本体75は、回転力と共に径方向内側に向けて締付ける力を受けることになる。この時、ニードルローラ71と対応した外周部の全領域には、スパナ100が接触しないため、この部分には、スパナ100から径方向内側に向けて締付ける力が作用することがない。また、ナット本体75の工具ホルダ本体20の軸方向に対する移動により、工具ホルダ本体20に対するニードルローラ71の位置が移動しても、接触領域60Cがナット本体75のニードルローラ71よりも基端側に形成されているため、ナット本体75の回転に支障を来たすことはない。この結果、締付用ナット70の回転効率を向上させ、工具ホルダ本体20に工具を確実に締付けることができる。
【0070】
また、スパナ100により、締付用ナット70のナット本体75を前記とは逆方向に回転させ、締付用ナット70の締付けを緩めて工具ホルダ本体20から工具を取外す際も同様に、ニードルローラ71に、スパナ100から径方向内側に向けて締付ける力が作用することがないので、前記と同様の効果が得られる。
【0071】
なお、実施の形態3では、ナット本体75の外周部のニードルローラ71と対応した全領域に、スパナ100が接触しない非接触領域を形成した場合について説明したが、これに限らず、前記非接触領域は、ニードルローラ71が形成されている領域に対応するナット本体75の外周部の少なくとも一部に、その外周に沿って環状に形成されていればよい。
【0072】
また、実施の形態3では、被締付部材として工具ホルダを使用した場合について説明したが、これに限らず、締付用ナットを被締付部材の外周部に装着し、当該締付用ナットを回転させることにより、前記被締付部材を締付ける構成を備えていれば、被締付部材は任意に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる工具ホルダの一部断面図である。
【図2】図1に示す工具ホルダの締付用ナットをスパナで締付ける状態を示す一部断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態にかかる締付用ナットをスパナで締付ける状態を示す一部断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2にかかる工具ホルダの締付用ナットをスパナで締付ける状態を示す一部断面図である。
【図5】図4のV−V線に沿ったスパナの一部断面図である。
【図6】図5に示すスパナの一部拡大断面図である。
【図7】本発明の実施の形態3にかかる工具ホルダの一部断面図であり、締付用ナットを十分に締付けていない状態を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態3にかかる工具ホルダの一部断面図であり、締付用ナットを十分に締付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1、2 工具ホルダ
10、20 工具ホルダ本体
13、23 工具把持部
17 雄螺子
30 コレット
50、70、150 締付用ナット
51 雌螺子
59 環状溝
60A、60B、60C 接触領域
71 ニードルローラ
100、110、120 スパナ
122 非接触領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締付部材の外周部に回転可能に配置されると共に、内周部に前記回転運動を直進運動に変換する変換部を備え、当該直進運動により前記被締付部材の軸方向に進退し、当該被締付部材の締付けまたは解放を行う締付用ナットであって、
前記締付用ナットの外周部を内周部に向けた力で把持する機器に把持されて回転可能であり、
前記締付用ナット外周部の前記変換部に対応する領域の少なくとも一部に、前記機器と接触しない非接触領域を、当該外周に沿って環状に形成してなる締付用ナット。
【請求項2】
前記非接触領域が凹状の環状溝からなる請求項1記載の締付用ナット。
【請求項3】
前記非接触領域が、前記変換部に対応する領域の全域に亘って形成されてなる請求項1または請求項2記載の締付用ナット。
【請求項4】
前記締付用ナット外周部の前記変換部と対応しない領域に、前記機器が接触するための接触領域を設けた請求項1記載の締付用ナット。
【請求項5】
前記変換部が螺子からなる請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の締付用ナット。
【請求項6】
前記変換部がリテーナに保持された複数のニードルローラからなる請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の締付用ナット。
【請求項7】
前記被締付部材は、工具把持部に挿入された工具を把持可能な工具ホルダ本体からなる請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の締付用ナット。
【請求項8】
工具把持部に挿入された工具を把持可能な工具ホルダ本体と、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の締付用ナットを備え、
前記工具ホルダ本体の外周部に配置された前記締付用ナットの回転に応じて、前記工具ホルダ本体を締付けまたは解放し、前記工具の把持または解放を行う工具ホルダ。
【請求項9】
被締付部材の外周部に回転可能に配置されると共に、内周部に前記回転運動を直進運動に変換する変換部を備え、当該直進運動により前記被締付部材の締付けまたは解放を行う締付用ナットの外周部を把持し、当該締付用ナットを回転させるためのスパナであって、
前記締付用ナット外周部を把持する把持部に、当該締付用ナット外周部の前記変換部に対応する領域の少なくとも一部と接触しない非接触領域を、当該把持部に沿って環状に形成してなるスパナ。
【請求項10】
前記非接触領域が凹状の環状溝からなる請求項9記載のスパナ。
【請求項11】
前記非接触領域が、前記変換部に対応する領域の全域に亘って形成されてなる請求項9または請求項10記載のスパナ。
【請求項12】
被締付部材の外周部に回転可能に配置されると共に、内周部に前記回転運動を直進運動に変換する変換部を備え、当該直進運動により前記被締付部材の締付けまたは解放を行う締付用ナットの外部を把持し、当該締付用ナットを回転させるためのスパナであって、
前記締付用ナット外周部の前記変換部と対応しない領域を把持して、当該締付用ナットを回転させるスパナ。
【請求項13】
前記被締付部材は、工具把持部に挿入された工具を把持可能な工具ホルダ本体からなる請求項9ないし請求項12のいずれか一項に記載のスパナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−56592(P2009−56592A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274164(P2008−274164)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【分割の表示】特願2002−202903(P2002−202903)の分割
【原出願日】平成14年7月11日(2002.7.11)
【出願人】(390016344)ビッグアルファ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】