説明

緩み止めねじ

【課題】確実な緩み止め作用が得られ且つ繰り返し使用においても緩み止め作用を十分に発揮することを可能にした緩み止めねじを提供する。
【解決手段】頭部2と脚部3とからなり、脚部3にねじ山を形成し、JISに示された呼び寸法の雌ねじ20が形成されたねじ穴4にねじ込まれるねじにおいて、雄ねじ10のねじ山基部側が雌ねじ20のねじ山に接して干渉するとともに雄ねじ10のねじ山頂部側が雌ねじ20のねじ山に接しない形状とし、しかも、このねじ山のフランク面11が外方に膨らんだ円弧形状の曲面状の輪郭を有する構成の緩み止めねじであるので、雄ねじの基部側が雌ねじのフランク面を押し込むように接触するので、ねじ穴のフランク面に対して雄ねじのフランク面が確実に干渉し、強固な緩み止め作用が得られる。これにより、従来のようにねじの脚部に接着剤を塗布する必要が無く、接着剤塗布工程も不要になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの下穴に雌ねじがあらかじめ形成されたねじ穴に脚部に雄ねじが形成されたねじをねじ込んで部品をワークに取り付けた後、ねじの緩みを阻止するための特有のねじ山を有する緩み止めねじに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、デジタルカメラ、携帯電話及びテレビゲーム機等においてはその組立作業の際にねじの呼びM10以下の小ねじが多く採用されている。これら小ねじは組み立てられる製品の中に精密な電子部品が組み込まれていることから雌ねじを形成しながらねじ込まれる所謂、タッピンねじを使用することは製品不良を生じる可能性が高いことから敬遠される傾向にある。そのため、これら製品に使用されるねじは通常の小ねじが多く採用されているのが現状である。
【0003】
しかしながらこのような一般的な小ねじの場合、図5に示すように、部品(B)をワーク(W)に取り付ける作業においては、ねじ締結後にこれの頭部102の座面と雄ねじ110のフランク面111との間で生じる軸力により雌ねじ120と雄ねじ110のフランク面121、111が図6(ロ)に示すように、接触することから生じる摩擦抵抗の作用で緩み止め作用を発揮するようになっている。そして、小ねじ101の頭部座面がねじ浮き状態にならずにねじ込まれた状態においては緩み止め作用が発揮されるが、製品が振動を受けたり、締結トルク不足等で図6(イ)に示すように、少しでも互いのフランク面111、121の接触が外れると、初期緩みが生じ、その後は緩み止め力が無くなり、ねじ101がねじ穴104から抜けてしまうことが生じている。そのため、この緩みを阻止するようにねじ101の脚部103の雄ねじ110に接着剤(図示せず)を塗布して使用しているのが現状となっている。
【0004】
また、雌ねじのフランク面の形状が図4に示すように、雌ねじ成形時におけるその雌ねじ220の肉を滑らかに流れるように作用させる丸みを帯びた曲面状の輪郭形状となっているものもある(特許第3992746号参照)。この輪郭は通常の60°山を基本としており、一方、この雌ねじ220に嵌る雄ねじ210のフランク面211も同様の輪郭形状となっている。この輪郭は一般的な小ねじの雄ねじ210の谷側の角(a)と雄ねじ210の山側の角(b)を通過する曲面状の輪郭となっており、雌ねじ220と雄ねじ210はねじ込み完了時において互いのねじ山片側のフランク面211、221全てで接するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3992746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的に広く使用されている小ねじの脚部に接着剤を塗布して緩み止めを行う場合、ねじ込み作用の前にねじの脚部に必ず接着剤を塗布しなければならず、そのための塗布工程が必要になっていた。また、この工程を無くすためにはあらかじめ、ねじの脚部に接着剤を塗布した状態にする必要があるが、この接着剤が乾かないようにして長時間の流動性を保持させるために特殊な加工が必要となっており、これによるねじのコスト上昇が生じている。更に、ねじが傾斜してねじ込まれたり、ねじ浮き状態となる等のねじ締め不良が発生した場合、これを修正しようとしても、既に接着剤が硬化しているので、ねじを緩めて取り外すことができなかったり、無理に緩めようとすると、ねじの頭部が潰れたり、製品が壊れる等不良品の発生要因ともなっていた。一方、図4に示すようなタッピンねじのフランク面形状を一般的な小ねじのフランク面に採用した場合、一般的な小ねじと雌ねじとの嵌め合わせに比べて緩み止め抵抗は向上するが、この従来の雌ねじとの嵌め合わせにおいては接触面積が少ないことから十分な緩み止め作用が得られない。また、ねじ穴の形状もねじのフランク面に合う曲面形状とした場合は、接触面積が広くなり、緩み止め作用は向上するが、この場合も一旦緩むと、雌ねじとの間に隙間が生じることから依然としてねじの抜け落ちが生じている。しかも、これを繰り返し使用すると、摩擦により雌ねじと雄ねじの表面は剥離により細かい粉が発生し、これが電子部品に悪影響を与えている等の課題が依然として生じている。
【0007】
本発明の目的は、このような課題を解消するとともに確実な緩み止め作用が得られ且つ繰り返し使用においても緩み止め作用を十分に発揮することを可能にした緩み止めねじを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、頭部2と脚部3とからなり、脚部3にねじ山を形成し、このねじ山をねじ込み可能なJISに示された呼び寸法の雌ねじ20が形成されたねじ穴4にねじ込まれるねじにおいて、雄ねじ10のねじ山基部側が前記雌ねじ20のねじ山に接して干渉するとともに雄ねじ10のねじ山頂部側が前記雌ねじ20のねじ山に接しない形状とし、しかも、このねじ山のフランク面11が外方に膨らんだ円弧形状の曲面状の輪郭を有する構成の緩み止めねじを形成したことで達成される。
【0009】
前記発明において、雄ねじは前記雌ねじ20のねじ山に接する最もねじ山外周側の位置が雄ねじ10のねじ山高さを基準としたときねじ山基部側から2/3以内となっているので、雌ねじのねじ山に対して雄ねじのねじ山基部側のフランク面は確実な干渉作用を発揮することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、雄ねじの基部側があらかじめ雌ねじが形成されている雌ねじのフランク面を押し込むように接触するので、ねじ穴のフランク面に対して雄ねじのフランク面が確実に干渉することができ、強固な緩み止め作用が得られる。これにより、従来のようにねじの脚部に接着剤を塗布する必要が無く、接着剤を塗布するという工程も不要になる。また、あらかじめ塗布された接着剤が乾かないよう長時間の流動性を維持させるための特殊な加工が不要になり、コストが削減される。更に、ねじ締め不良が発生し、これを修正することも容易になり、ねじの頭部が潰れたり、製品が壊れるといった不良品の発生もなくなる。しかも、従来のタッピンねじのような雄ねじの谷側の角と雄ねじの山側の角を通過する曲面状の輪郭をそのまま適用したフランク面形状ではなく、雄ねじの基部側が最も大きく膨らんでいることからねじ穴の雌ねじに効率よく接触して干渉させることができ、ねじ穴に対して雄ねじの緩みを確実に阻止することができる。その上、この緩み止め作用はねじの頭部が部品から少し離れた状態所謂、初期緩みが生じても 、完全に緩んで抜け落ちる所謂、後期緩みの発生が無い。また、このねじを繰り返し同一ねじ穴に使用しても、十分な緩み止め作用が生じるとともに摩擦による雌ねじと雄ねじとの細かい粉の発生が少ない等の特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の小ねじの雄ねじとねじ穴との関係を示す拡大要部断面図である。
【図2】本発明の実施の形態である小ねじの正面図である。
【図3】本発明に係る小ねじの脚部をねじ穴にねじ込んだ状態を示す拡大部分断面図である。
【図4】本発明の従来例を示すねじ山の輪郭概略図である。
【図5】本発明のもう一つの従来例であるJISに示された小ねじをねじ穴にねじ込んだ状態を示す断面図である。
【図6】図5の要部拡大断面正面図で、(イ)はねじ穴への小ねじのねじ込み状態を示し、(ロ)ねじ穴への小ねじのねじ込み完了状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について最良の実施の形態を図1乃至図3に基づき説明する。図2及び図3において、1は十字形状の駆動穴(図示せず)を有する頭部2とこの頭部2と一体に形成された脚部3とからなるねじであり、この脚部3にはその外周に沿い雄ねじ10としてのねじ山が形成されている。このねじ山は頭部2の中心に形成された駆動穴にドライバビット(図示せず)からの駆動力が伝達されることによってワーク(W)のねじ穴4にあらかじめ形成された雌ねじ20に沿いねじ込まれる構成になっている。この雌ねじ20は基本的には通常、JIS規格(日本工業規格)でその寸法がねじ1の大きさ(呼び寸法)によって夫々個々に設定されており、この雌ねじ20の山角は通常の60°となっている。
【0013】
このねじ穴4の雌ねじ20は通常これに対応する雄ねじ10が嵌るのに十分な大きさとなっており、即ち、雄ねじ10はJISに示された呼び寸法の雌ねじ20が形成されたねじ穴4にねじ込まれるようになっている。この同一呼び寸法において雌ねじ20と雄ねじ10のフランク面21、11の間には隙間(t)(図1及び図6(イ)を参照)が生じている。この隙間(t)は雌ねじ20及び雄ねじ10の呼び寸法毎に設定されている寸法許容差に応じて必然的に生じるものである。
【0014】
また、この雄ねじ10のフランク面11は図1及び図3に示すように、外方に膨れた断面円弧形状の輪郭を有しており、この円弧形状のフランク面11は雄ねじ10の基部側に達するにつれてJIS規格に定められているフランク面(直線上の二点鎖線で示す)からの厚みが大きくなるように設定されている。この円弧形状のフランク面11はねじ山頂部側が雌ねじ20のフランク面21には接しない幅となっており、この雄ねじ10が前記雌ねじ20のねじ山に接する最もねじ山外周側の位置は雄ねじ10のねじ山高さを基準としたときねじ山基部側から多くとも2/3以内となるように設定されている。
【0015】
そして、この位置からねじ山基部にかけては雌ねじ20のフランク面21に押圧干渉しながら雄ねじ10と雌ねじ20とをねじ込み嵌め合わせたときに雄ねじ10が雌ねじ20を押圧するのに必要な円弧形状を得るように点(K)を中心とする距離(L)による断面円弧形状のフランク面11となっている。これら点(K)、距離(L)は雄ねじ10を嵌め合わせたときに雌ねじ20のねじ山先端側を押圧干渉すればよく、これらは必要とする形状を得るために任意に設定すればよい。これにより、雄ねじ10のねじ山基部側が前記雌ねじ20のねじ山に接するとともに雄ねじ10のねじ山頂部側が前記雌ねじ20のねじ山に接しない形状となり、このねじ山のフランク面11が外方に膨らんだ円弧形状の曲面状に形成された構成が得られる。
【0016】
このような構成において、あらかじめ形成されているねじ穴4にこれに対応するねじ1をドライバビットを介してねじ込むと、ねじ1の脚部3に形成されているねじ山はねじ穴4の雌ねじ20に沿いねじ込みが開始される。このとき、このねじ1は図3に示すように雌ねじ20のフランク面21に雄ねじ10のフランク面11の基部側の部分が接触しながらねじ込まれることになり、雌ねじ20のねじ山の頂部側が雄ねじ10のフランク面11で押圧干渉されながらねじ込まれる。このようにしてねじ込まれてねじ込み所定トルクに達すると、ねじ締め作業が終了することになる。
【0017】
このような作業を繰り返してワークにねじ1がねじ込まれ固定された後、何らかの原因による緩みが発生しても、このねじ1は常時緩み止め作用が生じていることから、ねじ1が緩んで抜け落ちることが無くなる。また、仮にねじ1が緩んでいることが発見され、再ねじ込みを行っても緩み止め作用は十分に発揮される。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、雄ねじ10にこれのねじ山基部側が最も膨れた断面円弧形状のフランク面11を形成しているので、このようなねじ以外の例えば、ナットとの嵌め合わせに使用されるボルトにも当然適用できるものである。
【符号の説明】
【0019】
1 ねじ
2 頭部
3 脚部
4 ねじ穴
10 雄ねじ
11 フランク面
20 雌ねじ
21 フランク面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部(2)と脚部(3)とからなり、脚部にねじ山を形成し、このねじ山をねじ込み可能なJISに示された呼び寸法の雌ねじ(20)が形成されたねじ穴(4)にねじ込まれるねじにおいて、雄ねじ(10)のねじ山基部側が前記雌ねじのねじ山に接して干渉するとともに雄ねじのねじ山頂部側が前記雌ねじのねじ山に接しない形状とし、しかも、このねじ山のフランク面(11)が外方に膨らんだ円弧形状の曲面状の輪郭を有する構成であることを特徴とする緩み止めねじ。
【請求項2】
雄ねじは前記雌ねじのねじ山に接する最もねじ山外周側の位置が雄ねじのねじ山高さを基準としたときねじ山基部側から2/3以内となっていることを特徴とする請求項1記載の緩み止めねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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