説明

緩衝器

【課題】緩衝器において、減衰力特性の設定の自由度を高めて所望の減衰力特性を得る。
【解決手段】油液が封入されたシリンダ2にピストンロッド6が連結されたピストン5を嵌装する。ピストン5の摺動によって伸び側及び縮み側通路11、12に生じる油液の流れを伸び側及び縮み側減衰力発生機構13、14によって制御して減衰力を発生させる。伸び側及び縮み側減衰力発生機構13、14では、背圧導入オリフィス32、48から背圧室30、46に油液を導入し、その内圧でリリーフバルブ28、44の開弁を制御する。ピストン速度低速域では、背圧室30、46の下流側の減衰バルブ34、50が開き、ピストン速度が上昇すると、リリーフバルブ28、44が開弁して減衰力の過度の上昇を抑制する。ピストン速度の上昇によってリリーフバルブ28、44が開弁したとき、そのピストン速度以上では、その開弁を維持することにより、安定した減衰力を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッドのストロークに対して作動流体の流れを制御することにより減衰力を発生させる油圧緩衝器等の緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば車両のサスペンション装置に装着される油圧緩衝器では、乗り心地や操縦安定性を向上させるために最適な減衰力特性を有することが望まれている。この種の油圧緩衝器では、一般的にピストンロッドのストロークに伴なうシリンダ内のピストンの摺動によって生じる作動流体の流れをオリフィス、ディスバルブ等からなる減衰力発生機構によって制御して減衰力を発生させ、オリフィスの流路面積、ディスクバルブの開弁特性等によって減衰力特性を調整する。
【0003】
また、特許文献1に記載された油圧緩衝器では、ディスクバルブの背面側に背圧室及びこの背圧室の圧力を下流側にリリーフするリリーフバルブとを備え、作動流体の一部を背圧室に導入して、背圧室の内圧をディスクバルブの閉弁方向に作用させることにより、ディスクバルブの開弁圧力を調整するようにしている。これにより、減衰力特性の設定の自由度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−10069公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、減衰力特性の設定の自由度をさらに高めて所望の減衰力特性が得られるようにした緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係る緩衝器は、作動流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に挿入されたピストンと、該ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延出されたピストンロッドと、前記ピストンの一方への摺動による上流側の室から下流側の室への作動流体の流れを制御するリリーフバルブと、該リリーフバルブの閉弁方向に内圧を作用させる背圧室と、前記上流側の室から作動流体を前記背圧室に導入する背圧導入オリフィスと、前記背圧室の圧力によって開弁して前記下流側の室への作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰バルブと、前記背圧室を前記下流側の室に連通させる下流側オリフィスとを備え、前記背圧導入オリフィスは、前記リリーフバルブの開度に応じて流路面積が一定又は小さくなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る緩衝器によれば、所望の減衰力特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係る緩衝器の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図2】図1に示す緩衝器の縦断面図である。
【図3】図1に示す緩衝器の伸び側減衰力発生機構を拡大して示す縦断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る緩衝器の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図5】図4に示す緩衝器の伸び側のリリーフバルブが開弁した状態を示す縦断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る緩衝器の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図7】本発明に係る緩衝器の減衰力特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態について、図1乃至図3を参照して説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る緩衝器1は、いわゆる複筒式の緩衝器であって、シリンダ2の外周に外筒3が設けられてシリンダ2と外筒3との間に環状のリザーバ4が形成された二重筒構造となっている。シリンダ2内には、ピストン5が摺動可能に挿入され、このピストン5によってシリンダ2内がシリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bとの2室に画成されている。ピストン5には、ピストンロッド6の一端の小径部6Aがナット7によって連結されており、ピストンロッド6の他端側は、シリンダ2及び外筒3の上端部に設けられたロッドガイド8及びオイルシール9を摺動可能かつ液密的に貫通して外部へ延出されている。シリンダ2の下端部には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを区画するベースバルブ10が設けられており、シリンダ2内には、作動流体として油液が封入され、リザーバ4内には、油液及びガスが封入されている。
【0010】
ピストン5には、シリンダ上下室2A、2B間を連通する伸び側通路11及び縮み側通路12が設けられている。また、ピストン5には、ピストンロッド6の伸び行程時に伸び側通路11の上流側の室となるシリンダ上室2A側から下流側の室となるシリンダ下室2B側への作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる伸び側減衰力発生機構13及びピストンロッド6の縮み行程時に縮み側通路12の上流側の室となるシリンダ下室2B側から下流側の室となるシリンダ上室2A側への油液の流れを制御して減衰力を発生させる縮み側減衰力発生機構14が設けられている。
【0011】
ベースバルブ10には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを連通させる伸び側通路15及び縮み側通路16が設けられている。伸び側通路15には、リザーバ4側からシリンダ下室2B側への作動流体の流れのみを許容する逆止弁17が設けられ、縮み側通路16には、シリンダ下室2B側からリザーバ4側への作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる縮み側ディスクバルブ18が設けられている。
【0012】
伸び側減衰力発生機構14について図3も参照して説明する。
ピストン5のシリンダ下室2B側の端部に、バルブ部材19が保持部材20を介して取付けられている。バルブ部材19は、円筒部21及び底部22を有する有底円筒状で、底部22の内側に円筒部21と同心で小径の円筒状の案内部23が立設されている。案内部23の先端部には、内側に拡径部24が形成されている。保持部材20は、円筒部25の一端部に外側フランジ部26を有する凸形状で、円筒部25がバルブ部材19の案内部23の拡径部24内に嵌合し、外側フランジ部26が案内部23の先端部及びピストン5の端面に当接する。バルブ部材19及び保持部材20は、案内部23及び円筒部25にピストンロッド6の小径部6Aが挿入され、小径部6Aの先端部にネジ込まれたナット7の締付によってピストン5に固定される。保持部材20の外側フランジ部26の外周部には、周方向に1つまたは複数の切欠26Aが設けられている。
【0013】
ピストン5のシリンダ下室2B側の端面には、外周側に環状のシート部27が突出している。シート部27の突出高さは、ピストン5に固定された保持部材20の外側フランジ部26の厚さよりも大きく、外側フランジ部26よりもリリーフバルブ28に向けて突出している。シート部27の内側に伸び側通路11が開口している。シート部27には、環状のディスクバルブであるリリーフバルブ28の外周部が着座している。リリーフバルブ28の背面側の外周部には、環状の弾性シール部材29が固着され、弾性シール部材29の外周部がバルブ部材19の円筒部21の内周面に、摺動可能かつ液密的に当接して、バルブ部材19の内部に背圧室30を形成している。リリーフバルブ28とバルブ部材19の底部22との間には、テーパ状の圧縮コイルバネからなる付勢部材である弁バネ31が介装されており、弁バネ31は、そのバネ力によってリリーフバルブ28を閉弁方向に付勢してシート部27に着座させる。
【0014】
リリーフバルブ28の内周縁部とバルブ部材19の案内部23との間には、環状の隙間が形成され、この隙間によってシート部27の内周側のポート室11A(伸び側通路11に連通する)と背圧室30とを常時接続する一定の流路面積を有する背圧導入オリフィス32が形成されている。ここで、常時一定とは、シート部27にリリーフバルブ28が着座しているときと離座したときの流路面積が一定であることをいう。リリーフバルブ28は、伸び側通路11に連通するポート室11Aの圧力を受けてバルブ部材19の底部22側へ移動し、シート部27から離座することにより、ほとんど撓むことなく開弁してポート室11Aをシリンダ下室2Bに直接連通する。このとき、背圧室30の内圧がリリーフバルブ28の閉弁方向に作用する。また、リリーフバルブ28の内周縁部が円筒状の案内部23の外周面に沿って移動することにより、背圧導入オリフィス32の流路面積は一定に維持される。
【0015】
バルブ部材19の底部22には、背圧室30とシリンダ下室2Bとを連通させるための通路33が設けられ、底部22の外側には、通路33を開閉する減衰バルブ34が設けられている。減衰バルブ34は、常閉のディスクバルブであり、背圧室30の内圧によって開弁して、その開度によって背圧室30とシリンダ下室2Bとの間の流路面積を調整する。減衰バルブ34には、背圧室30とシリンダ下室2Bとの間を常時連通する下流側オリフィス34Aが設けられている。また、減衰バルブ34には、シリンダ下室2B側から背圧室30側への油液の流れのみを許容する背圧用逆止弁34Bが設けられており、背圧用逆止弁34Bの流路面積は、背圧用オリフィス34Cによって一定に絞られている。減衰バルブ34は、複数積層されたディスクによって構成されており、下流側オリフィス34A、背圧用逆止弁34B及び背圧用オリフィス34Cは、減衰バルブ34を構成するディスクに通路となる切欠きを設けることによって形成されている。
【0016】
伸び側減衰力発生機構13に設けられた各オリフィスの流路面積は、次の関係となるように設定する。
(1)(背圧導入オリフィス32の流路面積の下限の条件)ピストン速度の上昇によって減衰バルブ34が開弁したとき、その直後に、リリーフバルブ28が閉弁状態を維持するように、減衰バルブ34の開弁状態での流路面積より背圧導入オリフィス32の流路面積が大となるように設定する。
(2)(背圧導入オリフィス32の流路面積の上限の条件)(1)ピストン速度よりさらにピストン速度が上昇したときには、リリーフバルブ28が開弁し、そのピストン速度以上では、リリーフバルブ28の上流側のポート室11Aと背圧室30との圧力バランスによってリリーフバルブ28が開弁状態で維持されるように、すなわち、背圧室30の圧力が高くなりすぎないように背圧導入オリフィス32の流路面積を設定する。
(3)背圧導入オリフィス32の流路面積は、下流側オリフィス34Aの流路面積より大きく、下流側オリフィス34Aと背圧用オリフィス34Cとの合計流路面積よりも小さくする。
【0017】
次に、縮み側減衰力発生機構14について主に図1を参照して説明する。
縮み側減衰力発生機構14の構造は、上述の伸び側減衰力発生機構13と同様であり、ピストン5のシリンダ上室2A側の端部に、バルブ部材35が保持部材36を介して取付けられている。バルブ部材35は、円筒部37及び底部38を有する有底円筒状で、底部38に案内部39が立設されている。案内部39の先端部には、内周側に拡径部40が形成されている。保持部材36は、円筒部41の一端部に外側フランジ部42を有する凸形状で、円筒部41がバルブ部材35の案内部39の拡径部40内に嵌合し、外側フランジ部42が案内部39及びピストン5の端面に当接する。バルブ部材35及び保持部材36は、案内部39及び円筒部41にピストンロッド6の小径部6Aが挿入され、ナット7の締付によってピストン5に固定される。保持部材36の外側フランジ部42の外周部には、周方向に1つまたは複数の切欠42Aが設けられている。
【0018】
ピストン5のシリンダ上室2A側の端面には、外周側に環状のシート部43が突出している。シート部43の突出高さは、ピストン5に固定された保持部材36の外側フランジ部42の厚さよりも大きく、外側フランジ部42よりもリリーフバルブ44に向けて突出している。シート部43の内側に縮み側通路12が開口している。シート部43には、環状のディスクバルブであるリリーフバルブ44の外周部が着座している。リリーフバルブ44の背面側の外周部には、環状の弾性シール部材45が固着され、弾性シール部材45の外周部がバルブ部材35の円筒部37の内周面に、摺動可能かつ液密的に当接して、バルブ部材35の内部に背圧室46を形成している。リリーフバルブ44とバルブ部材35の底部38との間には、テーパ状の圧縮コイルバネからなる付勢部材である弁バネ47が介装されており、弁バネ47は、そのバネ力によってリリーフバルブ44を閉弁方向に付勢してシート部43に着座させる。
【0019】
リリーフバルブ44の内周縁部とバルブ部材35の案内部39との間には、環状の隙間が形成され、この隙間によってシート部43の内周側のポート室12A(縮み側通路12に連通する)と背圧室46とを常時接続する一定の流路面積を有する背圧導入オリフィス48が形成されている。ここで常時一定とは、シート部43にリリーフバルブ44が着座しているときと離座したときの流路面積が一定であることをいう。リリーフバルブ44は、縮み側通路12に連通するポート室12Aの圧力を受けてバルブ部材35の底部38側へ移動し、シート部43から離座することにより、撓むことなく開弁してポート室12Aをシリンダ上室2Aに連通する。このとき、背圧室46の内圧がリリーフバルブ44の閉弁方向に作用する。また、リリーフバルブ44の内周縁部が円筒状の案内部39の外周面に沿って移動することにより、背圧導入オリフィス48の流路面積は一定に維持される。
【0020】
バルブ部材35の底部38には、背圧室46とシリンダ上室2Aとを連通させるための通路49が設けられ、底部38の外側には、通路49を開閉する減衰バルブ50が設けられている。減衰バルブ50は、常閉のディスクバルブであり、背圧室46の内圧によって開弁して、その開度によって背圧室46とシリンダ上室2Aとの間の流路面積を調整する。減衰バルブ50には、背圧室46とシリンダ上室2Aとの間を常時連通する下流側オリフィス50Aが設けられている。また、減衰バルブ50には、シリンダ上室2A側から背圧室46側への油液の流れのみを許容する背圧用逆止弁50Bが設けられており、背圧用逆止弁50Bの流路面積は、背圧用オリフィス50Cによって一定に絞られている。減衰バルブ50は、複数積層されたディスクよって構成されており、下流側オリフィス50A、背圧用逆止弁50B及び背圧用オリフィス50Cは、減衰バルブ50を構成するディスクに通路となる切欠きを設けることによって形成されている。
【0021】
縮み側減衰力発生機構14に設けられた各オリフィスの流路面積は、次のように設定する。
(1)(背圧導入オリフィス48の流路面積の下限の条件)ピストン速度の上昇によって減衰バルブ50が開弁したとき、その直後にリリーフバルブ44が閉弁状態を維持するように、減衰バルブ50の開弁状態での流路面積より背圧導入オリフィス48の流路面積が大となるように設定する。
(2)(背圧導入オリフィス48の流路面積の上限の条件)(1)ピストン速度よりさらにピストン速度が上昇したときには、リリーフバルブ44が開弁し、そのピストン速度以上では、リリーフバルブ44の上流側のポート室12Aと背圧室46との圧力バランスによってリリーフバルブ44が開弁状態で維持されるように、すなわち、背圧室46の圧力が高くなりすぎないように背圧導入オリフィス48の流路面積を設定する。
(3)背圧導入オリフィス48の流路面積は、下流側オリフィス50Aの流路面積より大きく、下流側オリフィス50Aと背圧用オリフィス50Cとの合計流路面積よりも小さくする。
【0022】
以上のように構成した本実施形態の作用について、次に説明する。
ピストンロッド6の伸び行程時には、シリンダ2内のピストン3の摺動にともない、シリンダ上室2A側の油液が加圧されて、ピストン5の伸び側通路11を通ってシリンダ下室2B側へ流れ、主に伸び側減衰力発生機構13によって減衰力が発生する。このとき、ピストンロッド6がシリンダ2から退出した分の油液がリザーバ4からベースバルブ10の伸び側通路15の逆止弁17を開いてシリンダ下室2Bへ流れ、リザーバ4内のガスが膨張することによって、シリンダ2内の油液の体積補償を行なう。
【0023】
伸び側減衰力発生機構13では、油液は、リリーフバルブ28の開弁前においては、伸び側通路11すなわちポート室11Aから背圧導入オリフィス32、背圧室30、通路33、減衰バルブ34を通ってシリンダ下室2B側へ流れ、リリーフバルブ28の開弁によってポート室11Aからシリンダ下室2Bへ直接流れる。
【0024】
このとき、ピストン速度が微低速域の場合は、リリーフバルブ28及び減衰バルブ34は開弁せず、下流側オリフィス34Aによってオリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。
【0025】
ピストン速度が上昇して低速域に達すると、背圧導入オリフィス32と下流側オリフィス34Aとの流路面積の差によって背圧室30の圧力が上昇して、減衰バルブ34が開弁してバルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生して、減衰力特性曲線の傾きが緩やかになる。このとき、減衰バルブ34の開弁により、背圧室30の圧力が一旦低下するが、背圧導入オリフィス32の流路面積が充分大きいため、背圧室30の内圧が下流側のシリンダ下室2Bよりも高圧に維持されるので、リリーフバルブ28は閉弁したままとなる。
【0026】
その後、ピストン速度の上昇に対して、背圧導入オリフィス32と減衰バルブ34との流路面積の差によって背圧室30の圧力が再度上昇し、ピストン速度中速域に達するまでは、背圧室30の内圧によってリリーフバルブ28が閉弁状態で維持される。
【0027】
ピストン速度が更に上昇して高速域に達すると、背圧導入オリフィス32の絞りにより、ポート室11Aと背圧室30との差圧がリリーフバルブ28の開弁圧力に達して、リリーフバルブ28が弁バネ31のバネ力に抗してシート部27から離座して開弁する。リリーフバルブ28の開弁によってバルブ特性の減衰力が発生して、減衰力特性の傾きを更に緩やかにして、ピストン速度高速域における減衰力の過度の上昇を抑制する。リリーフバルブ28の開弁後は、ポート室11Aの油液は、シリンダ下室2Bへ直接流れるものと、背圧導入オリフィス32を通って背圧室30へ流れるものとに分流し、ポート室11Aと背圧室30との圧力バランスによってリリーフバルブ28の開度が決定される。これにより、リリーフバルブ28は、背圧室30の圧力の上昇によって急激に閉じることがなく、開弁状態を維持するので、安定したバルブ特性の減衰力を得ることができる。
【0028】
ピストンロッド6の縮み行程時には、シリンダ2内のピストン5の摺動にともない、シリンダ下室2B側の油液が加圧されて、ピストン5の縮み側通路12を通ってシリンダ上室2A側へ流れ、主に縮み側減衰力発生機構14によって減衰力が発生する。このとき、ピストンロッド4がシリンダ2内に侵入した分の油液がベースバルブ10の縮み側通路16のディスクバルブ18を開いてリザーバ4へ流れ、リザーバ4内のガスを圧縮することによってシリンダ2内の油液の体積補償を行なう。
【0029】
縮み側減衰力発生機構14では、油液は、リリーフバルブ44の開弁前においては、縮み側通路12すなわちポート室12Aから背圧導入オリフィス48、背圧室46、通路49、減衰バルブ50を通ってシリンダ上室2A側へ流れ、リリーフバルブ44の開弁によってポート室12Aからシリンダ上室2Aへ直接流れる。
【0030】
このとき、上記伸び側減衰力発生機構13の場合と同様、ピストン速度が微低速域の場合は、リリーフバルブ44及び減衰バルブ50は開弁せず、下流側オリフィス50Aによってオリフィス特性(減衰力がピストン速度の2乗にほぼ比例する)の減衰力が発生する。
【0031】
ピストン速度が上昇して低速域に達すると、背圧導入オリフィス48と下流側オリフィス50Aとの流路面積の差によって背圧室46の圧力が上昇し、減衰バルブ50が開弁してバルブ特性(減衰力がピストン速度にほぼ比例する)の減衰力が発生して、減衰力特性曲線の傾きが緩やかになる。このとき、減衰バルブ50の開弁により、背圧室46の圧力が一旦低下するが、背圧導入オリフィス48の流路面積が充分大きいため、背圧室46の内圧が下流側のシリンダ上室2Aよりも高圧に維持されるので、リリーフバルブ44は閉弁したままとなる。
【0032】
その後、ピストン速度の上昇に対して、背圧導入オリフィス48と減衰バルブ50との流路面積の差によって背圧室46の圧力が再度上昇し、ピストン速度中速域に達するまでは、背圧室46の内圧によってリリーフバルブ44が閉弁状態で維持される。
【0033】
ピストン速度が更に上昇して高速域に達すると、背圧導入オリフィス48の絞りにより、ポート室12Aと背圧室46との差圧がリリーフバルブ44の開弁圧力に達して、リリーフバルブ44が弁バネ47のバネ力に抗してシート部43から離座して開弁する。リリーフバルブ44の開弁によってバルブ特性の減衰力が発生して、減衰力特性の傾きを更に緩やかにして、ピストン速度高速域における減衰力の過度の上昇を抑制する。リリーフバルブ44の開弁後は、ポート室12Aの油液は、シリンダ上室2Aへ直接流れるものと、背圧導入オリフィス48を通って背圧室46へ流れるものとに分流し、ポート室12Aと背圧室46との圧力バランスによってリリーフバルブ44の開度が決定される。これにより、リリーフバルブ44は、背圧室46の圧力の上昇によって急激に閉じることがなく、開弁状態を維持するので、安定したバルブ特性の減衰力を得ることができる。
【0034】
このようにして、減衰バルブ34、50の開弁による背圧室30、46の急激な圧力変動を抑制することにより、ピストン速度の上昇に対して、減衰バルブ34、50及びリリーフバルブ28、44を同時に開弁させることなく、所定のタイミングで順次開弁させることができ、ピストン速度の微低速域から高速域にわたって所望の減衰力特性を得ることができる。その結果、緩衝器1の減衰力特性は、図7中に実線で示すように、ピストン速度の低中速域において、必要な減衰力を立ち上げると共に、高速域においては、減衰力特性曲線の傾斜を緩やかにして過度の減衰力の上昇を抑制することができ、車両の操縦安定性及び乗り心地の向上に適した減衰力特性を得ることができる。なお、図7中、破線は、特許文献1に記載されたもののように背圧室を備えた従来の油圧緩衝器の減衰力特性を示している。
【0035】
次に、伸び行程時における縮み側減衰力発生機構14及び縮み行程時における伸び側減衰力発生機構13の作用について説明する。
ピストンロッド6の伸び行程時において、縮み側減衰力発生機構14では、減衰バルブ50の背圧用逆止弁50Bが開いて、背圧用オリフィス50Cを介してシリンダ上室2A側の圧力を背圧室46に導入する。これにより、背圧室46を加圧状態に維持することができ、リリーフバルブ44の開弁を防止すると共に、縮み行程に移行する際に迅速に背圧室46の圧力を上昇させることができ、安定した減衰力を発生させることができる。
【0036】
また、ピストンロッド6の縮み行程時において、伸び側減衰力発生機構13では、減衰バルブ34の背圧用逆止弁34Bが開いて、背圧用オリフィス34Cを介してシリンダ下室2B側の圧力を背圧室30に導入する。これにより、背圧室30を加圧状態に維持することができ、リリーフバルブ28の開弁を防止すると共に、伸び行程に移行する際に迅速に背圧室30の圧力を上昇させることができ、安定した減衰力を発生させることができる。
【0037】
次に本発明の第2実施形態について主に図4及び図5を参照して説明する。なお、以下の説明においては、要部のみを図示し、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同様の符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0038】
図4及び図5に示すように、第2実施形態では、伸び側及び縮み側減衰力発生機構13、14のバルブ部材19、35の案内部23、39は、リリーフバルブ28、44の内周縁部に対向する先端部の外周面に先細りのテーパ部23A、39Aが形成されている。これにより、リリーフバルブ28、44が開弁したとき、その開度に応じて背圧導入オリフィス32、48の流路面積が小さくなる。伸び側減衰力発生機構13のリリーフバルブ28の全開時の状態を図5に示す。
【0039】
このように構成したことにより、背圧導入オリフィス32、48の流路面積が一定の上記第1実施形態に対して、リリーバルブ28、44の開弁圧力すなわち開弁時のピストン速度は変わらないが、開弁後にその開度に応じて背圧導入オリフィス32、48の流路面積が小さくなることにより、背圧室30、46の圧力が低くなり、リリーフバルブ28、44が開き易くなるので、減衰力特性曲線の傾きを更に緩やかにすることができる。
【0040】
次に本発明の第3実施形態について主に図6を参照して説明する。なお、以下の説明においては、要部のみを図示し、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同様の符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0041】
図6に示すように、本実施形態では、伸び側減衰力発生機構13の伸び側通路11のポート室11Aへの開口に逆止弁51が設けられている。逆止弁51は、ピストン5と保持部材20との間で内周部がクランプされたディスクバルブであり、外周側が撓んで開弁することによって伸び側通路11のシリンダ上室2A側からポート室11A側への油液の流れのみを許容する。これにより、逆止弁51は、背圧導入オリフィス32の背圧室30側への油液の流れのみを許容する。また、逆止弁51には、伸び側通路11の油液の流れを常時許容するオリフィス51Aが設けられている。オリフィス51Aの流路面積は、背圧導入オリフィス32よりも充分小さくなっている。
【0042】
また、縮み伸び側減衰力発生機構13の縮み側通路12のポート室12Aへの開口に逆止弁52が設けられている。逆止弁52は、ピストン5と保持部材36との間で内周部がクランプされたディスクバルブであり、外周側が撓んで開弁することによって縮み側通路12のシリンダ下室2B側からポート室12A側への油液の流れのみを許容する。これにより、逆止弁52は、背圧導入オリフィス48の背圧室46側への油液の流れのみを許容する。また、逆止弁52には、縮み側通路12の油液の流れを常時許容するオリフィス52Aが設けられている。オリフィス52Aの流路面積は、背圧導入オリフィス48よりも充分小さくなっている。
【0043】
このように構成したことにより、ピストンロッド6の伸び行程時には、伸び側通路11を流通する油液は、ピストン速度微低速域では、逆止弁51のオリフィス51Aを通り、ピストン速度が上昇すると逆止弁51を開弁させて、ポート室11Aへ流れる。ピストンロッド6の縮み行程時には、縮み側通路12を流通する油液は、ピストン速度微低速域では、逆止弁52のオリフィス52Aを通り、ピストン速度が上昇すると逆止弁52を開弁させて、ポート室12Aへ流れる。
【0044】
また、上記第1実施形態の場合と同様、ピストンロッド6の伸び行程時において、縮み側減衰力発生機構14では、減衰バルブ50の背圧用逆止弁50Bが開いて、背圧用オリフィス50Cを介してシリンダ上室2A側の圧力を背圧室46に導入して背圧室46を加圧状態に維持する。このとき、背圧導入オリフィス48の流路面積が大きいと、背圧室46の圧力が背圧導入オリフィス48を介して下流側のシリンダ下室2B側へリリーフされることにより、背圧室46の圧力が上昇し難くなると共に減衰力が低下することになる。これに対して、逆止弁52により、油液が背圧室46から背圧導入オリフィス48を介してシリンダ下室2B側へリリーフされるのを抑制することができるので、安定した減衰力を得ることができ、背圧導入オリフィス48の流路面積を充分大きく設定することが可能になる。
【0045】
ピストンロッド6の縮み行程時において、伸び側減衰力発生機構13では、減衰バルブ34の背圧用逆止弁34Bが開いて、背圧用オリフィス34Cを介してシリンダ下室2B側の圧力を背圧室30に導入して背圧室30を加圧状態に維持する。このとき、背圧導入オリフィス32の流路面積が大きいと、背圧室30の圧力が背圧導入オリフィス32を介して下流側のシリンダ上室2A側へリリーフされることにより、背圧室30の圧力が上昇し難くなると共に減衰力が低下することになる。これに対して、逆止弁51により、油液が背圧室30から背圧導入オリフィス32を介してシリンダ上室2A側へリリーフされるのを抑制することができるので、安定した減衰力を得ることができ、背圧導入オリフィス32の流路面積を充分大きく設定することが可能になる。
なお、本実施形態は、上述の例では、第1実施形態との組み合わせとして説明しているが、図4及び図5に示す第2実施形態との組合せとしてもよい。
【0046】
上記第1乃至第3実施形態では、伸び側及び縮み側の双方に背圧室を有する減衰力発生機構が設けられているが、いずれか一方に設けるようにしてもよい。また、上記第1乃至第3実施形態では、本発明をリザーバ4を有する複筒式の緩衝器に適用した場合について説明しているが、本発明は、これに限らず、シリンダ内にフリーピストンによってガス室を形成した単筒式の緩衝器に適用してもよい。そして、減衰力発生機構は、ピストン部に限らず、ピストンロッドストロークによって作動流体の流れが生じる流路であれば、シリンダの外部等の他の部位に設けてもよい。さらに、作動流体は、油液に限らず、ガスであってもよく、この場合はリザーバ4、ベースバルブ10及びフリーピストン等は不要となる。
【0047】
また、上記第1乃至第3実施形態では、弁バネ31を用いてそのバネ力によってもリリーフバルブを閉弁方向に付勢しているが、必ずしもなくてもよい。弁バネ31を用いることにより、リリーフバルブの開弁をさらに安定させることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 緩衝器、2 シリンダ、5 ピストン、6 ピストンロッド、28、44 リリーフバルブ、30、46 背圧室、32、48 導入オリフィス、34、50 減衰バルブ、34A、50A 下流側オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に挿入されたピストンと、該ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延出されたピストンロッドと、前記ピストンの一方への摺動による上流側の室から下流側の室への作動流体の流れを制御するリリーフバルブと、該リリーフバルブの閉弁方向に内圧を作用させる背圧室と、前記上流側の室から作動流体を前記背圧室に導入する背圧導入オリフィスと、前記背圧室の圧力によって開弁して前記下流側の室への作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰バルブと、前記背圧室を前記下流側の室に連通させる下流側オリフィスとを備え、前記背圧導入オリフィスは、前記リリーフバルブの開度に応じて流路面積が一定又は小さくなることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
ピストン速度の上昇によって前記リリーフバルブが開弁したとき、そのピストン速度以上では、前記リリーフバルブが開弁状態で維持されるように、前記背圧導入オリフィス及び前記下流側オリフィスの流路面積を設定したことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
ピストン速度の上昇によって前記減衰バルブが開弁したとき、そのピストン速度以上では、前記リリーフバルブの上流側と前記背圧室との圧力バランスによって前記リリーフバルブが開弁状態で維持されるように、前記背圧導入オリフィスの流路面積を設定したことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記背圧導入オリフィスの背圧室側への流れのみを許容する逆止弁を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の緩衝器。
【請求項5】
前記下流側の室から前記背圧室側への作動流体の流通を許容し、かつ、前記ピストンが他方へ摺動するとき、前記下流側の室から背圧用オリフィスを介して前記背圧室に作動流体を導入する背圧用逆止弁を設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の緩衝器。
【請求項6】
前記背圧導入オリフィスの流路面積は、前記下流側オリフィスの流路面積より大きく、前記下流側オリフィスと前記背圧用オリフィスとの合計流路面積よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の緩衝器。
【請求項7】
前記リリーフバルブを閉弁方向に付勢する付勢部材を設けたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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