説明

緩衝部品のモデル化方法

【課題】簡単な近似方法により、精度の良い解析結果を得ることができる緩衝部品のモデル化方法を提供する。
【解決手段】トップマウント17の解析用モデル60を作成するに際し、剛性部材である内筒17a及び外筒17bをソリッド要素61,62でそれぞれモデル化し、弾性部材であるマウントラバー17cを3以上(例えば、4本)のバネ要素63でモデル化することにより、簡単な近似方法により、精度の良い解析結果を得ることができる。すなわち、3以上のバネ要素63によって各ソリッド要素61,62間を拘束するように連結することにより、簡単な近似により、解析用モデル60に擬似的な回転拘束力を付与することができる。従って、例えば、トップマウント17の軸Oに対する捩り方向や抉じり方向の特性等のように軸O方向(伸縮方向)以外の特性についても的確に解析することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両に適用されるエンジンマウントやサスペンション装置のトップマウント等のように互いに対向する一対の剛性部材の間に弾性部材が介装された緩衝部品のモデル化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両には、エンジンマウントやサスペンション装置のトップマウント等のクッションラバー部品に代表される緩衝部品が数多く使用されている。従って、例えば、このような車両の衝突時のCAE(Computer Aided Engineering)解析等を行うに際し、車体変形や車体加速度の解析精度等を向上するためには、解析用車両モデルにおいて、各緩衝部品を実機に近い状態で精度良くモデル化することが重要となってくる。
【0003】
この場合、特に、衝突解析用の車両モデルにおいては、通常走行時等には考慮する必要のない方向の特性の解析についても視野に入れて緩衝部品をモデル化する必要がある。例えば、サスペンション装置のトップマウントをモデル化する場合、サスペンション装置の軸方向(伸縮方向)の特性のみならず、軸に対する捩り方向の特性や抉じり方向の特性等についてまで解析とする必要がある。
【0004】
この種の緩衝部品のモデル化方法として、例えば、特許文献1には、半径方向に少なくとも3層以上に分割されると共に、円周方向に沿って均等角度で分割された複数の弾性体要素である一次ヘキサ要素(ソリッド要素)を弾性結合させることにより円筒状のゴムブッシュ部材をモデル化する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−46495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術のように、ソリッド要素を用いてクッションラバー等をモデル化するためには、詳細な実機材料特性の取得が必要となる。また、ソリッド要素を用いて柔らかいクッションラバー等の解析を行う場合、例えば、節点が底付きするような場面でエラーが発生し易く、計算安定性を確保するためには解析条件等を詳細に設定する必要がある。さらに、車両搭載状態で生じる初期荷重状態を再現するためには、各要素の応力状態を事前に解析する必要がある。
【0006】
従って、部位毎に特性が異なる相当数の緩衝部品が搭載された車両をモデル化するに際し、全てのクッションラバー等をソリッド要素で近似することは、各種設定作業等が煩雑化し現実的でない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、簡単な近似方法により、精度の良い解析結果を得ることができる緩衝部品のモデル化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、互いに対向する一対の剛性部材の間に弾性部材が介装された緩衝部品のモデル化方法であって、前記各剛性部材をソリッド要素或いはシェル要素でモデル化し、
前記弾性部材を3以上のバネ要素でモデル化したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の緩衝部品のモデル化方法によれば、簡単な近似方法により、精度の良い解析結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は車体の要部を示す概略構成図、図2はサスペンション装置のトップマウント要部を示す断面斜視図、図3はフロント側エンジンマウントの要部を示す分解斜視図、図4は解析装置の概略構成を示す機能ブロック図、図5はトップマウントの解析用モデルを示す斜視図、図6(a)はトップマウントの解析用モデルを示す側面図であり(b)は解析用モデルの変形状態の一例を示す説明図、図7(a)はフロント側エンジンマウントの解析用モデルを示す側面図であり(b)は(a)のI−I断面図、図8はトップマウントの解析用モデルの変形例を示す側面図である。
【0011】
図1において符号1は車体を示す。この車体1の前部にはエンジンルーム1aが設けられ、エンジンルーム1aの後部は、トーボード3によってキャビン2と区画されている。また、エンジンルーム1aの車幅方向両側には、左右一対のフロントサイドフレーム4L,4Rが配設されている。なお、各サイドフレーム4L,4Rの後部はトーボード3の傾斜に沿って下方且つ後方に延出され、フロアパネル(図示せず)の車幅方向両側に配設されたサイドシル5L,5Rの前端部に各々連結されている。
【0012】
また、両フロントサイドフレーム4L,4Rの前端部間がフロントクロスメンバ或いはバンパビーム等のクロス部材6を介して互いに連結されている。さらに、エンジンルーム1aの下部にサブフレーム7が配設されている。このサブフレーム7は、各フロントサイドフレーム4L,4Rの下方に配設されて車体前後方向に延出する左右一対のサブサイドメンバ8L,8Rと、両サブサイドフレーム8L,8Rの前端に連設するサブフロントクロスメンバ9と、両サブサイドフレーム8L,8Rの後端に連設するサブリヤクロスメンバ10とで枠状に形成されている。また、両サブサイドフレーム8L,8Rの前端部が、フロントサイドフレーム4L,4Rにサブフレーム用支持ブラケット11を介して連結され、後端部がフロントサイドフレーム4L,4Rに直接固定されている。
【0013】
また、エンジンルーム1a内には、エンジン本体12とトランスミッション13とが結合して構成されたパワーユニット14が搭載されている。なお、本実施形態ではエンジン本体12として水平対向エンジンが示されており、トランスミッション13がエンジン本体12の後部に連結されて車体後方に延出されている。パワーユニット14の重心はエンジン本体12側の車幅方向略中央部にあり、この重心を囲む前端部と両側部との3箇所が、緩衝部品としての各エンジンマウント15F,15L,15Rを介してサブフレーム7に支持固定されている。
【0014】
また、各フロントサイドフレーム4L,4Rの車幅方向外側には、前輪用のサスペンション装置16が配設され、このサスペンション装置16の頂部に設けられた緩衝部品としてのトップマウント17が車体側部材(図示せず)に固設されている。
【0015】
ここで、例えば、図2に示すように、トップマウント17は、ショックアブソーバ16aの上部に固定される剛性部材としての内筒17aと、内筒17aの外周側で車体側部材に締結固定される剛性部材としての外筒17bと、内筒17aと外筒17bの間に介装される弾性部材としてのマウントラバー17cとを有して構成されている。
【0016】
また、例えば、図1,3に示すように、フロント側エンジンマウント15Fは、エンジン本体12に固設される取付ブラケット20と、取付ブラケット20に連結されたアーム部材21と、アーム部材21の先端部に固設された緩衝部品としてのマウント部材22とを備えている。マウント部材22は、剛性部材としての外筒22aと、この外筒22aの内周に同軸上に配設された剛性部材としての内筒22bと、これら両筒22a,22bの間に介装される弾性部材としてのクッションラバー22cとを有して構成されている。一方、サブフロントクロスメンバ9の車幅方向中央には、車体側ブラケット23が固設されている。この車体側ブラケット23は、所定間隔を隔てて対設された一対のブラケット部材24を有し、これら両ブラケット部材24の上部には支持孔24aが穿設されている。そして、これら両ブラケット部材24間にマウント部材22が挿通され、内筒22bと支持孔24aとに挿通する支持軸25、及び、この支持軸25の先端部に螺設されているねじに螺入するナット26を介して、マウント部材22が車体側ブラケット23に回動自在に支持されている。
【0017】
このような車両の衝突解析等を行う解析装置50は、例えば、図4に示すように、車両の各構成部材をモデル化するために必要な情報を入力するための入力部51と、入力部51からの各部材等についての入力情報に基づいて解析対象となる各部材をFEMモデル等の解析用モデルにモデル化するためのモデル作成部52と、衝突解析等のシミュレーションのための条件を入力する条件入力部53と、モデル作成部52で作成した解析用モデルに対して条件入力部53で入力された条件を与えて、有限要素法等による解析を実行するシミュレーション実行部54と、シミュレーション実行部54での解析結果をディスプレイにグラフィック表示したりデータをプリンタで印字する等の出力処理を行う出力部55とを備えて要部が構成されている。
【0018】
このような解析装置50において、モデル作成部52は、特に、緩衝部品を、一対のソリッド要素或いはシェル要素と、3以上のバネ要素とを用いて近似する。
【0019】
具体的に説明すると、モデル作成部52は、例えば、図5に示すように、サスペンション装置16のトップマウント17の解析用モデル60を作成するに際し、一対の剛性部材である内筒17a及び外筒17bをソリッド要素61,62を用いてそれぞれモデル化し、これらの間に介装される弾性部材であるマウントラバー17cを4本のバネ要素63を用いてモデル化する。
【0020】
この場合において、図5及び図6(a)に示すように、荷重が付与されていない状態での内筒17a及び外筒17bは、サスペンション装置16の伸縮方向に沿う軸Oに対して垂直な平板状の要素で近似され、これら各ソリッド要素61,62の対向面が互いに平行となるよう配置されることが望ましい。そして、これらソリッド要素61,62の対向面に対して、各バネ要素63は、直交配置され、端部が法線方向に結合されていることが望ましい。さらに、図5に示すように、各バネ要素63は、軸Oを中心とする同一円周上に等間隔毎に配置されていることが望ましい。また、各バネ要素63には、マウントラバー17c全体としての各軸方向の並進特性が等分付与されることが望ましい。すなわち、マウントラバー17c全体としての各軸方向の並進特性Fa=(fax,fay,faz)であるとすると、図示の例において、各バネ要素63には、並進特性Fm’=(fmx/4,fmy/4,fmz/4)がそれぞれ設定されることが望ましい。
【0021】
また、モデル作成部52は、例えば、図7に示すように、フロント側エンジンマウント15Fの解析用モデル70を作成するに際し、一対の剛性部材である外筒22a及び内筒22bをソリッド要素71,72でそれぞれモデル化し、これらの間に介装されるクッションラバー22cを各4本を1群とする多層(例えば、3層)のバネ要素73でモデル化する。
【0022】
この場合において、荷重が付与されていない状態での外筒22a及び内筒22bは、同心の筒状要素で近似され、これら各ソリッド要素71,72の対向面が互いに平行となるよう配置されていることが望ましい。そして、これらソリッド要素71,72の対向面に対して、各バネ要素73は、直交配置され、端部が法線方向に結合されていることが望ましい。さらに、図7(a)に示すように、各群を構成するバネ要素73は、ソリッド要素71,72の中心軸O’に対して放射状に等間隔毎に配置され、また、図7(b)に示すように、各群は、中心軸O’に沿って等間隔毎に配置されていることが望ましい。また、各バネ要素73には、クッションラバー22c全体としての各軸方向の並進特性が等分付与されることが望ましい。すなわち、クッションラバー22c全体としての並進特性Fb=(fbx,fby,fbz)であるとすると、図示の例において、各バネ要素73の並進特性Fb’=(fbx/12,fby/12,fbz/12)が設定されることが望ましい。
【0023】
このような実施形態によれば、トップマウント17の解析用モデル60を作成するに際し、剛性部材である内筒17a及び外筒17bをソリッド要素61,62でそれぞれモデル化し、弾性部材であるマウントラバー17cを3以上(例えば、4本)のバネ要素63でモデル化することにより、簡単な近似方法により、精度の良い解析結果を得ることができる。すなわち、3以上のバネ要素63によって各ソリッド要素61,62間を拘束するように連結することにより、簡単な近似により、解析用モデル60に擬似的な回転拘束力を付与することができる。従って、例えば、トップマウント17の軸Oに対する捩り方向や抉じり方向の特性等のように、軸O方向(伸縮方向)以外の特性についても的確に解析することができる(例えば、図6(b)参照)。また、マウントラバー17cを単純なバネ要素63の組み合わせによって近似することにより、ソリッド要素等を用いて近似する場合に比べ、煩雑な詳細作業等を行う必要がなく、エラー等を発生させることなく安定的な解析を実現することができる。
【0024】
この場合において、各ソリッド要素61,62の対向面を平行配置し、これらの対向面に対して各バネ要素63を直交配置することにより、トップマウント17の実機材料特性(すなわち、各軸方向の並進特性(fax,fay,faz))を、各バネ要素63に対して容易に分割付与することができる。さらに、各バネ要素63を同一円周上に等間隔毎に配置すれば、トップマウント17の実機特性の各バネ要素63に対する配分を容易に設定することができる。そして、トップマウント17の実機特性を各バネ要素63に等分付与することにより、トップマウント17の解析用モデル60をより簡易に作成することができる。
【0025】
勿論、上述したフロント側エンジンマウント15Fの解析用モデル70においても、トップマウント17の解析用モデル60と同様の効果を奏することができる。
【0026】
ここで、上述の実施形態においては、弾性部材を3以上のバネ要素のみで近似した一例について説明したが、バネ要素と共にダンパ要素を併用することにより弾性部材を、より実機に忠実に近似することも可能である。この場合、例えば、トップマウント17の近似に際し、図8(a)に示すように、各バネ要素63と直列にダンパ要素64を介装させることが可能である。また、例えば、図8(b)に示すように、各バネ要素63と並列にダンパ要素64を介装することも可能である。そして、これら図8(a),(b)に示すように、弾性部材(トップマウント17)の特性等に応じて、適宜、ダンパ要素64を介装することにより、弾性部材をより忠実に近似することが可能となる。
【0027】
なお、上述の実施形態においては、緩衝部品としてトップマウント17及びフロント側エンジンマウント15Fをモデル化した場合の一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、同様のモデル化方法を、他の各種緩衝部品に適用してもよいことは勿論である。例えば、左右のエンジンマウント15L,15R等についても、同様のモデル化方法を好適に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】車体の要部を示す概略構成図
【図2】サスペンション装置のトップマウント要部を示す断面斜視図
【図3】フロント側エンジンマウントの要部を示す分解斜視図
【図4】解析装置の概略構成を示す機能ブロック図
【図5】トップマウントの解析用モデルを示す斜視図
【図6】(a)はトップマウントの解析用モデルを示す側面図であり(b)は解析用モデルの圧力と変形状態の一例を示す説明図
【図7】(a)はフロント側エンジンマウントの解析用モデルを示す側面図であり(b)は(a)のI−I断面図
【図8】トップマウントの解析用モデルの変形例を示す側面図
【符号の説明】
【0029】
1 … 車体1
1a … エンジンルーム
2 … キャビン
3 … トーボード
4L,4R … フロントサイドフレーム
5L,5R … サイドシル
6 … クロス部材
7 … サブフレーム
8L,8R … サブサイドメンバ
9 … サブフロントクロスメンバ
10 … サブリヤクロスメンバ
11 … サブフレーム用支持ブラケット
12 … エンジン本体
13 … トランスミッション
14 … パワーユニット
15F,15L,15R … エンジンマウント(緩衝部品)
16 … サスペンション装置
16a … ショックアブソーバ
17 … トップマウント(緩衝部品)
17a … 内筒(剛性部材)
17b … 外筒(剛性部材)
17c … マウントラバー(弾性部材)
20 … 取付ブラケット
21 … アーム部材
22 … マウント部材
22a … 外筒(剛性部材)
22b … 内筒(剛性部材)
22c … クッションラバー(弾性部材)
23 … 車体側ブラケット
24 … ブラケット部材
24a … 支持孔
25 … 支持軸
26… ナット
50 … 解析装置
51 … 入力部
52 … モデル作成部
53 … 条件入力部
54 … シミュレーション実行部
55 … 出力部
60 … 解析用モデル
61,62 … ソリッド要素
63 … バネ要素
64 … ダンパ要素
70 … 解析用モデル
71,72 … ソリッド要素
73 … バネ要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対の剛性部材の間に弾性部材が介装された緩衝部品のモデル化方法であって、
前記各剛性部材をソリッド要素或いはシェル要素でモデル化し、
前記弾性部材を3以上のバネ要素でモデル化したことを特徴とする緩衝部品のモデル化方法。
【請求項2】
前記各剛性部材をモデル化した前記ソリッド要素或いは前記シェル要素の対向面を平行配置し、
前記弾性部材をモデル化した前記各バネ要素を前記対向面に対して直交配置したことを特徴とする請求項1記載の緩衝部品のモデル化方法。
【請求項3】
前記弾性部材をモデル化した前記各バネ要素を同一円周上に等間隔毎に配置したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の緩衝部品のモデル化方法。
【請求項4】
前記弾性部材の各軸方向の並進特性を、モデル化した前記各バネ要素に対して等分付与したことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の緩衝部品のモデル化方法。
【請求項5】
前記バネ要素に加えダンパ要素を具備して前記弾性部材をモデル化したことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の緩衝部品のモデル化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−92225(P2010−92225A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260905(P2008−260905)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】