説明

繊維及びその製造方法

【課題】リサイクル性及び耐久性が高く、内部に空洞を有する繊維及びその効率的な製造方法の提供。
【解決手段】内部に空洞100を有し、長さ方向に直交する断面形状が略円形である芯材の樹脂層11上に、長さ方向に直交する断面形状が略円環形である樹脂層12を一層以上有してなる繊維。芯材の樹脂層11の長さ方向に直交する方向における該繊維の断面積X(μm)に対する空洞の断面積Y(μm)の比(Y/X)の平均が5%以上、40%以下であることが好ましい。また、空洞の配向方向に直交する直径方向における前記空洞の平均長さをr(μm)とし、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上、100以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れ、内部に空洞を有する繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維の機能性や審美性を向上させるべく、様々な努力がなされている。例えば、繊維の断面形状を変化させ、吸水性を向上させたり、ポリマーを改質させることで、軽量性を高めたり、フィブリル性を向上させたり、深色性を向上させたりしている(例えば、特許文献1参照)。
一方、繊維の審美性を向上させるために、屈折率の異なる二種類のポリマーを交互に積層し、それらを保護層で被覆した光学干渉機能を有する複合繊維などが各種提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された中空構造の繊維の製糸方法は、繊維の軽量化のために、高い中空率を達成しようとすると、口金の吐出孔から溶融吐出されるポリマーの貼り合せの技術が必要であり、工程が煩雑であった。
また、繊維の強度を保ちながら、中空率を上げるために空隙が形成されているが、この空隙は、無機系微粒子などを含有させておき、樹脂の延伸製膜時に該無機微粒子と樹脂界面とが剥離することにより、内部に形成させている。また、主たる成分である樹脂(例えば、ポリエステル)に、その樹脂と相溶しない(非相溶の)別の樹脂を添加して混練することにより二相構造(例えば海島構造)を形成し、樹脂の延伸製膜時に主たる成分である樹脂と、そこに添加及び混練された別の樹脂との界面の剥離によって形成させている。
【0004】
しかしながら、このような空隙の形成方法によれば、繊維の表面近傍まで空隙が形成されることがあり、表面の平滑性が損なわれる問題があった。その結果、織物などに用いるために繊維を折り曲げたりした場合、表面(近傍)に形成された空隙に応力がかかりやすくなり、亀裂が発生し、それが拡大することによって繊維が破損するという問題があった。
また、繊維の内部に空隙が存在することは、該繊維の断熱性の向上に高く寄与しているため、表面近傍及び表面に形成された空隙による該繊維の亀裂や破損は、断熱性効果を著しく低下させることになる。
また、特許文献1に記載の技術は、主たる成分中に異種の成分を混入させ、それを核として空隙を発現させる方法であるため、該空隙の中に異種の成分が残り、それが反射率向上を阻害してしまうことがあった。また、樹脂と無機物、あるいは種類の異なる樹脂の系になるため、リサイクルが困難になる問題も顕在化しつつある。
【0005】
【特許文献1】特開2005−256243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、リサイクル性及び耐久性が高く、内部に空洞を有する繊維及びその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 内部に空洞を有し、長さ方向に直交する断面形状が略円形である芯材の樹脂層上に、長さ方向に直交する断面形状が略円環形である樹脂層を鞘材として一層以上有してなることを特徴とする繊維である。
<2> 芯材の樹脂層の長さ方向に直交する方向における該繊維の断面積X(μm)に対する空洞の断面積Y(μm)の比(Y/X)の平均が5%以上、40%以下である前記<1>に記載の繊維である。
<3> 空洞の配向方向に直交する直径方向における前記空洞の平均長さをr(μm)とし、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上、100以下である前記<1>から<2>のいずれかに記載の繊維である。
<4> 芯材の樹脂層が、結晶性を有するポリマーのみからなる前記<1>から<3>のいずれかに記載の繊維である。
<5> 該繊維の透過率をM(%)とし、該繊維の結晶性を有するポリマーと同一の結晶性を有するポリマーからなり、該繊維と同じ繊度であってかつ空洞を有しない繊維の透過率をN(%)としたときのM/N比が0.2以下であり、かつ、該繊維の光沢度が50以上である前記<4>に記載の繊維である。
<6> 空洞の配向方向に直交する直径方向の任意の断面における空洞の平均の個数をP個とし、結晶性ポリマー部の屈折率をN1とし、空洞の屈折率をN2とし、N1とN2との差をΔN(=N1−N2)とするとき、ΔNとPとの積が3以上である前記<4>から<5>のいずれかに記載の繊維である。
<7> 結晶性を有するポリマーが、一種のみからなる前記<4>から<6>のいずれかに記載の繊維である。
<8> 結晶性を有するポリマーが、ポリオレフィン類、ポリエステル類およびポリアミド類である前記<4>から<7>のいずれかに記載の繊維である。
<9> 芯材の樹脂層は、結晶性を有するポリマーのみからなる樹脂組成物を溶融紡糸し、
10〜36,000mm/minの速度で、かつ、
延伸温度をT(℃)、該結晶性を有するポリマーのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−30)≦T≦(Tg+50)
で表される延伸温度T(℃)で延伸して得られた前記<1>から<8>のいずれかに記載の繊維である。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の繊維の製造方法であって、結晶性を有するポリマーのみからなる芯材の樹脂層上に複数の樹脂層を積層して紡糸する積層紡糸工程と、前記芯材の樹脂層の長さ方向に延伸する延伸工程とを含み、
前記延伸工程は、
10〜36,000mm/minの速度で、かつ、
延伸温度をT(℃)、該結晶性を有するポリマーのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−30)≦T≦(Tg+50)
で表される延伸温度T(℃)で延伸することを特徴とする繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、リサイクル性及び耐久性が高く、内部に空洞を有する繊維及びその効率的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(繊維)
図1は、本発明の一例としての繊維の長さ方向に直交する方向における断面図である。図1に示すように、本発明の繊維10は、内部に空洞100を有する芯材の樹脂層11と、該芯材の樹脂層11を覆うようにして積層された一以上の樹脂層12(以下、被覆樹脂層12ということがある。)とを有してなる。
ここで、被覆樹脂層12を構成する樹脂層のうち、本発明の繊維10の長さ方向に直交する方向における断面の最外層に位置する樹脂層を保護層12aとする。
本発明の繊維における、長さ方向に直交する方向における断面の直径としては、一概に言えるわけではないが、0.1μm〜200μm が好ましく、1μm〜100μmがより好ましく、1μm〜80μm が特に好ましい。前記断面の直径が、0.1μm未満であると、延伸時に切れるということがあり、200μmを超えると繊維のしなやかさ、肌触りが劣る場合があったり、生産性が低下するということがある。
【0010】
<繊維の光沢度>
本発明の繊維の光沢度としては、60以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、80以上であることが更に好ましい。
ここで、前記光沢度は、変角光沢計により測定することができる。
【0011】
<繊維の断熱性>
本発明の繊維の断熱性としては、芯材層の空洞断面積が大きくなればなるほど、静止空気層が形成され、断熱性が良好になる。ただし、芯材層の空洞断面積が大きくなるほど繊維としての力学特性が悪化する。そのために、芯材層の空洞断面積の割合が、5%から40%が好ましく、更には8%から40%が好ましく、12%から40%がもっとも好ましい。前記被覆樹脂層の厚みとしては、目的に応じて適宜選択されるが、例えば、前記芯材の樹脂層の断面における半径の3%以上30%以下が好ましい。3%以上25%以下が更に好ましく、3%以上20%以下がもっとも好ましい。
【0012】
<繊維の耐久性>
本発明の繊維の耐久性としては、基本的には空洞を有する繊維は力学的な耐久性は低い。しかし、鞘材層を設けることにより大幅に力学的な耐久性を上げることができる。しかも、芯材層の樹脂と異なる樹脂を鞘材層に適用することもでき、例えばポリエステルの心材層にポリプロピレンなどの鞘材層を構成することにより、耐水性なども向上することができる。
【0013】
<芯材の樹脂層>
前記芯材の樹脂層は、繊維としたときに内部に空洞を有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、例えば、特開2005−256243号公報に開示された樹脂組成物によって形成されてもよいし、結晶性ポリマーからなる樹脂組成物によって形成されてもよい。これらのうち、無機微粒子や非相溶のポリマーを用いないで効率よく内部に空洞が形成される点で、結晶性ポリマーのみからなる樹脂組成物が特に好ましい。
前記芯材の樹脂層は、結晶性ポリマーのみからなる樹脂組成物(以下、芯材の樹脂組成物ということがある。)を溶融紡糸し、高速延伸することによって作製される。具体的には、前記芯材の樹脂組成物を乾燥し、押出成型機で溶融し、溶融紡糸口金から溶融吐出し、冷却風で冷却し、その後、巻き取って、高速延伸を行うことにより作製される。
前記芯材の樹脂組成物としては、結晶性ポリマーで形成され、ポリマー成分としては、該結晶性ポリマーのみであるが、ポリマー以外の成分としては、必要に応じて適宜選択した添加成分を含んでいてもよい。
前記芯材の樹脂組成物の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状やシート状が挙げられる。
また、前記芯材の樹脂組成物の構造としては、一種単独、二以上の材料で複合材料としてもよく、この例として、該芯材の樹脂組成物の切片を他のシートに組み込み、一体化して樹脂組成物としてもよい。
【0014】
<<結晶性ポリマー>>
一般に、ポリマーは、結晶性ポリマーと非晶性(アモルファス)ポリマーとに分けられる。前記結晶性ポリマーは、通常、100%結晶ということはなく、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶(アモルファス)領域とを含んでいる。
本発明において、前記結晶性ポリマーは、分子構造の中に少なくとも前記結晶性領域を含んでいればよく、結晶性領域と非結晶領域とが混在していてもよい。
【0015】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高密度ポリエチレン、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレンなど)、ポリアミド(PA)(例えば、ナイロン−6など)、ポリアセタール(POM)、ポリエステル(例えば、PET、PEN、PTT、PBT、PBNなど)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂、などが挙げられる。その中でも、力学強度や製造の観点から、ポリエステル、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、液晶ポリマー(LCP)が好ましく、ポリエステルがより好ましい。また、これらのうちの二種以上のポリマーをブレンドしたり、共重合させたりして使用してもよい。
【0016】
前記結晶性ポリマーの溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜700Pa・sが好ましく、70〜500Pa・sがより好ましく、80〜300Pa・sが更に好ましい。前記溶融粘度が、50〜700Pa・sであると、溶融製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形状が安定し、均一に製膜しやすくなる点で好ましい。また、前記溶融粘度が、50〜700Pa・sであると、溶融製膜時の粘度が適切になって押出ししやすくなったり、製膜時の溶融膜がレベリングされて凹凸を低減できたりする点で好ましい。
ここで、前記溶融粘度は、プレートタイプのレオメーターやキャピラリーレオメーターにより測定することができる。
【0017】
前記結晶性ポリマーの極限粘度(IV:Intrinsic Viscosity)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が更に好ましい。前記IVが、0.4〜1.2であると、製膜されたフィルムの強度が高くなり、効率よく延伸することができる。
【0018】
前記結晶性ポリマーの融点(Tm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40〜350℃が好ましく、100〜300℃がより好ましく、150〜260℃が更に好ましい。前記融点が、40〜350℃であると、通常の使用で予想される温度範囲で形を保ちやすくなる点で好ましく、高温での加工に必要とされる特殊な技術を特に用いなくても、均一な製膜ができる点で好ましい。
ここで、前記融点は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0019】
前記結晶性ポリマーの重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5,000〜2,000,000が好ましく、10,000〜1,500,000がより好ましく、20,000〜1,200,000が更に好ましい。前記重量平均分子量が、5,000〜2,000,000であると、延伸での空洞発現性と繊維としての力学安定性の点で好ましい。
ここで、前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC Gel Permeation Chromatography)法により測定することができる。
【0020】
−ポリエステル−
ここで、前記結晶性ポリマーのうち、力学強度や製造の観点から、本発明において特に好ましく用いられるポリエステルについて説明する。
前記ポリエステルは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とするポリマーである。したがって、前記結晶性ポリマーとして好適な前記ポリエステルとしては、前記例示したPET(ポリエチレンテレフタエレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)だけでなく、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合反応によって得られる高分子化合物が全て含まれる。
【0021】
前記ジカルボン酸成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、オキシカルボン酸、多官能酸などが挙げられ、中でも、芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0022】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられ、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0023】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸が挙げられる。前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキシンジカルボン酸などが挙げられる。前記オキシカルボン酸としては、例えば、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。前記多官能酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0024】
前記ジオ−ル成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコールなどが挙げられ、中でも、脂肪族ジオールが好ましい。
【0025】
前記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられ、中でも、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールが特に好ましい。前記脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。前記芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどが挙げられる。
【0026】
前記ポリエステルの溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜700Pa・sが好ましく、70〜500Pa・sがより好ましく、80〜300Pa・sが更に好ましい。前記溶融粘度が大きいほうが延伸時に空洞を発現しやすいが、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定する点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、破断しづらくなる点で好ましい。更に、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形態が維持しやすくなって、安定的に成形できたり、製品が破損しにくくなったりするなど、物性が高まる点で好ましい。
【0027】
前記ポリエステルの極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が更に好ましい。前記IVが大きいほうが延伸時に空洞を発現しやすいが、前記IVが、0.4〜1.2であると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定する点で好ましい。また、前記IVが、0.4〜1.2であると、製膜時に溶融樹脂のフィルターを設置した場合であっても、フィルターに負荷がかかりにくく、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなる点で好ましい。更に、前記IVが、0.4〜1.2であると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、装置に負荷がかかりにくい点で好ましい。加えて、前記IVが、0.4〜1.2であると、製品が破損しにくくなって、物性が高まる点で好ましい。
【0028】
前記ポリエステルの融点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐熱性や製膜性などの観点から、150〜300℃が好ましく、180〜270℃がより好ましい。
【0029】
なお、前記ポリエステルとして、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とが、それぞれ一種で重合してポリマーを形成していてもよく、前記ジカルボン酸成分及び/又は前記ジオール成分が、二種以上で共重合してポリマーを形成していてもよい。また、前記ポリエステル樹脂として、二種以上のポリマーをブレンドして使用してもよい。
【0030】
前記二種以上でのポリマーのブレンドにおいて、主たるポリマーに対して添加されるポリマーは、前記主たるポリマーに対して、溶融粘度及び極限粘度が近く、添加量が少量であるほうが、製膜時や溶融押出し時に物性が高まり、押出ししやすくなる点で好ましい。
【0031】
また、前記ポリエステル樹脂の流動特性の改良、光線透過性の制御、塗布液との密着性の向上などを目的として、前記ポリエステル樹脂に対してポリエステル系以外の樹脂を添加してもよい。
【0032】
このように、前記芯材の樹脂層は、従来技術において添加されていた無機系微粒子、相溶しない樹脂などの空洞形成剤を特に添加しなくても、簡便な工程で空洞を形成させることができる。さらに、不活性ガスを予め樹脂の中に溶け込ませるための特殊な設備も必要としない。なお、繊維の製造方法については、後記する。
【0033】
ここで、前記芯材の樹脂層は、空洞の発現に寄与しない成分であれば、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分としては、フィラー、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、核剤、染料、顔料、難燃剤、離型剤、分散剤、カップリング剤などが挙げられる。前記その他の成分が空洞の発現に寄与したかどうかは、空洞内又は空洞の界面部分に、結晶性ポリマー以外の成分(例えば、後記する各成分など)が検出されるかどうかで判別できる。
【0034】
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フェノール系化合物、イオウ系化合物、リン系化合物が挙げられ、中でも、公知のヒンダードフェノールが挙げられる。前記ヒンダードフェノールとしては、例えば、イルガノックス1010、同スミライザーBHT、同スミライザーGA−80などの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
また、前記酸化防止剤を一次酸化防止剤として利用し、更に二次酸化防止剤を組み合わせて適用することもできる。前記二次酸化防止剤としては、例えば、スミライザーTPL−R、同スミライザーTPM、同スミライザーTP−Dなどの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
【0035】
前記離型剤としては、カルナバワックス等の植物系ワックス、蜜蝋、ラノリン等の動物系ワックス、モンタンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の石油系ワックス、ひまし油及びその誘導体、脂肪酸及びその誘導体等の油脂系ワックスが挙げられ、高級脂肪酸誘導体としては、ラウリン酸、ステアリン酸、モンタン酸等の高級脂肪酸と一価又は二価以上のアルコールとのエステル等が挙げられる。
【0036】
前記難燃剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、臭素系難燃剤が特に好ましい。臭素系難燃剤としては、高分子量有機ハロゲン化合物、低分子量有機ハロゲン化合物等の有機ハロゲン系難燃剤を単独で使用しても、二種以上併用してもよい。また、リン系、無機系等の難燃剤を用いてもよい。
【0037】
<空洞>
前記芯材の樹脂層は、空洞を有し、前記空洞のアスペクト比に特徴を有している。
前記空洞とは、樹脂成形体内部に存在する、真空状態のドメインもしくは気相のドメインを意味する。
【0038】
図3A〜3Cは、アスペクト比を説明するための図であって、図3Aは、前記芯材の樹脂層の斜視図であり、図3Bは、図3Aにおける前記芯材の樹脂層のA−A’断面図であり、図3Cは、図3Aにおける前記芯材の樹脂層のB−B’断面図である。
【0039】
前記アスペクト比とは、前記繊維10の表面10aに直交し、かつ、前記空洞の配向方向に直交する方向における空洞100の平均の長さをr(μm)(図3B参照)とし、前記芯材の樹脂層の表面に直交し、かつ、前記空洞の配向方向における空洞100の平均の長さをL(μm)(図3C参照)とした際のL/r比を意味する。
前記アスペクト比としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、10以上100以下であることが好ましく、15以上100以下がより好ましく、20以上100以下が更に好ましい。
【0040】
なお、前記空洞の配向方向とは、延伸が一軸のみの場合には、その一軸の延伸方向(第一の延伸方向)を示す。通常は、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸を行うため、この縦延伸の方向が前記空洞の配向方向(第一の延伸方向)に相当する。
また、延伸が二軸以上の場合には、空洞形成を目的とした延伸方向のうち少なくとも一方向を示す。通常は、二軸以上の延伸においても、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸が行われ、かつ、この縦延伸により空洞を形成することが可能であるため、この縦延伸の方向が前記空洞の配向方向(第一の延伸方向)に相当する。
【0041】
<芯材層の空洞の占有面積>
また、本発明の繊維は、その長さ方向に直交する任意の断面における繊維の芯材層の断面積をX(μm)とし、前記断面における空洞の断面積をY(μm)としたとき、これらの比(Y/X)の平均が0.05以上、0.4以下であることが好ましい。
なお、前記断面における各断面積は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0042】
また、前記芯材の樹脂層は、膜厚方向の空洞の平均の個数P、結晶性ポリマー部と空洞との屈折率差ΔN、及び、前記ΔNと前記Pとの積に、特徴を有している。
前記膜厚方向の空洞の個数とは、前記芯材の樹脂層10の表面10aに直交し、かつ、前記空洞の配向方向に直交する方向を含む面(図3AにおけるA−A’断面)において、膜厚方向に含まれる空洞100の個数を意味する。
また、前記結晶性ポリマー部とは、前記繊維において空洞以外の部分(結晶性ポリマーよりなる部分)を指す。
前記膜厚方向の空洞の平均の個数Pとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、5個以上が好ましく、10個以上がより好ましく、15個以上が更に好ましい。
ここで、前記膜厚方向の空洞の個数は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像により測定することができる。
【0043】
前記結晶性ポリマー部と空洞との屈折率差ΔNとは、具体的には、結晶性ポリマー部の屈折率をN1として、空洞の屈折率をN2とした際に、N1とN2との差であるΔN(=N1−N2)の値を意味する。
ここで、結晶性ポリマー部や空洞の屈折率N1、N2は、アッベ屈折計などにより測定することができる。
前記前記ΔNと前記Pとの積は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、7以上が更に好ましい。
【0044】
このように、前記芯材の樹脂層は、その内部に前記空洞を有していることにより、例えば、反射率や光沢性などにおいて、様々な優れた特性を有している。言い換えると、前記芯材の樹脂層の内部の空洞の態様を変化させることで、反射率や光沢性などの特性を調節することができる。
【0045】
−光沢度−
前記芯材の樹脂層の光沢度としては、60以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましく、80以上であることが更に好ましい。
ここで、前記光沢度は、変角光沢計により測定することができる。
【0046】
<被覆樹脂層>
本発明において、鞘材とは、前記被覆樹脂層のことである。
前記被覆樹脂層の材料としては、前記芯材の樹脂層における空洞の機能を著しく損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、例えば、耐久性、特に耐水性、耐加水分解性、引っ張り弾性率、および折れ曲げ性の点で、疎水的なポリマー、たとえばポリオレフィン類やフッ素樹脂が好ましい。また、芯材層との密着の観点では、芯材層と同じ樹脂が好ましい。ここで、前記芯材の樹脂層における空洞の機能とは、該空洞の界面における光の屈折によって発現する干渉色や反射、および断熱性である。即ち、前記被覆樹脂層は、前記干渉色や反射の発現を妨げない光透過率や、断熱性を有することが好ましい。
前記被覆樹脂層の厚みとしては、目的に応じて適宜選択されるが、例えば、前記芯材の樹脂層の断面における半径の3%以上30%以下が好ましい。前記被覆樹脂層の厚みが前記芯材の樹脂層の断面における半径の3%未満であると、力学特性が十分に付与できないということがあり、前記被覆樹脂層の厚みが前記芯材の樹脂層の断面における半径の30%以下を超えると、断熱性の低下、繊維としてのしなやかさや肌触りが不足したり、生産性が低下するということがある。
【0047】
<<保護層>>
本発明では、前記被覆樹脂層を構成する樹脂層のうち、本発明の繊維の長さ方向に直交する方向における断面の最外層に位置する樹脂層を保護層とすることが好ましい。特に、被覆樹脂層が保護層を兼ねられる場合が多いので、保護層を設けなくてもよい。
【0048】
(被覆樹脂・保護層樹脂)
前述した被覆材である被覆用樹脂組成物を選択する際には、製造時および製造後に素線(芯材層をこのように呼ぶ場合もある)へダメージを与えないものが重要である。溶融押出法で被覆を行う場合、樹脂溶融によって被覆材に加えられた熱が、被覆工程で、素線へ伝播して素線に悪影響を与えてしまうため、組成物を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度が一定の範囲内に収まることが好ましい。
【0049】
本発明で使用される、好ましい流動開始温度を有する熱可塑性樹脂としては、前述した特徴を有するものであれば特に制限されるものではない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ナイロン(ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−11など)、ポリ塩化ビニル、エチレンアクリル酸エチル共重合体、ポリエステル化合物などが挙げられ、その中でも好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルである。これらの熱可塑性樹脂はその分子量、分子量分布、枝分かれ度、架橋度、末端官能基の種類などを変えることにより、種々の溶融挙動を示し、流動開始温度の値を制御することが可能となる。
また、これらの樹脂を適宜混合して好ましい流動開始温度の範囲に調整してよい。また同様に流動開始温度を低下するために、前述したポリマーの共重合体を用いたり、酢酸ビニル成分を共重合したりしてもよい。または、可塑剤などの添加剤量を調整することにより、流動開始温度を制御してもよい。
【0050】
ここで、前記被覆樹脂層は、前記保護層であるか否かにかかわらず、前記芯材の樹脂層を保護するために、繊維として引っ張られても切れないことが好ましいため、前記芯材の樹脂層に対する密着性が高いことが要求される。
そこで、前記被覆樹脂層の樹脂組成物の溶解性パラメータと、前記芯材の樹脂層の樹脂組成物の溶解性パラメータとの差が7(cal/cm1/2以下であることが好ましい。
ここで、前記溶解性パラメータ(Solubility Parameter)とは、物質間の混合性の尺度となる特性値であり、溶解性パラメータをδとし、物質の凝固エネルギー(モル蒸発エネルギー)をEとし、分子容(モル体積)をVとしたとき、下記式(x)によって表される。
δ=(E/V)1/2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式(x)
また、この溶解性パラメータについては、例えば、J.Brandrup、E.Hなどの「PolymerHandbook(4th.edition)、VII/671〜VII/714」に記載されている。
【0051】
(繊維の製造方法)
以下、本発明の繊維の製造方法について説明する。
本発明の繊維の製造方法としては、前記芯材の樹脂層に対して前記被覆樹脂層が同心円状の断面となるように被覆したプリフォーム(前駆体)を作製するプリフォーム作製工程(溶融紡糸工程)と、芯材の樹脂層の内部に空洞を発現させる延伸工程とを有する方法や、前記芯材の樹脂層を溶融紡糸する紡糸工程と、溶融紡糸された未延伸糸を延伸して内部に空洞を発現させる延伸工程と、延伸された繊維の表面に一層以上の被覆樹脂層を形成するコーティング工程とを有する方法などが挙げられる。これらの中でも、前者のプリフォーム作製工程(溶融紡糸工程)、及び延伸工程を有する方法が製造効率の点で好ましい。また、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、その他の工程を組み合わせてもよい。
【0052】
[プリフォーム作製工程(溶融紡糸工程)]
前記溶融紡糸工程は、同心円状に各樹脂層が積層された円筒形状のプリフォームを作製する工程である。前記溶融紡糸工程としては、コーティング法、溶融複合紡糸法などが挙げられ、これらのうちでも、溶融複合紡糸法が好ましい。
前記コーティング法は、被覆樹脂層の樹脂組成物を溶剤に溶かして、芯材の樹脂層に塗布した後、乾燥して溶剤を蒸発させる製法である。
前記溶融複合紡糸法としては、ラム押出複合紡糸法、連続複合紡糸法等が更に挙げられる。
【0053】
前記ラム押出複合紡糸法は、芯材の樹脂層、及び複数の被覆樹脂層を構成する重合体のロッドを形成し、それらをシリンダに挿入し、シリンダの一端においてこのロッドを溶融しながらピストンにより他端から押圧して押し出し、複合紡糸ダイ(図2A参照)に形成された芯材の樹脂層の材料の流入孔1、及び複数の被覆樹脂層の材料の各流入孔2〜7に、それぞれの重合体が所定の厚みになるように定量的に供給し、順次積層して多層構造とした後に、ガイドパイプ8によって隔絶された吐出口より吐出する方法であり、吐出された糸状体は定速で引き取られながら冷却され、プリフォームが作製される。
【0054】
前記連続複合紡糸法は、押出機で連続的に各層を構成する重合体を溶融し、必要に応じて脱揮を行った後、図2Aに示すような複合紡糸ダイに、前述したラム押出複合紡糸法と同様にして定量的に供給し、順次積層して多層構造とした後にダイより吐出する方法であり、吐出された糸状体は定速で引き取られながら冷却され、プリフォームが作製される。
【0055】
特に、連続複合紡糸法は、ポリマーの重合から紡糸までを一貫して連続的に紡糸することが容易であり、生産性に優れるとともに紡糸の工程以前に連続脱揮工程を導入することにより、残留モノマーや不純物等を十分に取り除くことができるため、透過性が高く、光学耐久性に優れた繊維が得られることから好適である。
【0056】
[延伸工程]
図2Bに示すように、上記のようにして得られたプリフォーム21は、例えば、220〜260℃に調整された加熱炉30内に挿入され、巻取り機32に巻き取られながら熱延伸処理が施され、本発明の繊維が作製される。
具体的には、前記プリフォーム(未延伸糸)が少なくとも一軸に延伸される。そして、前記延伸工程により、プリフォーム(未延伸糸)が延伸されるとともに、その内部に第一の延伸方向を長軸とした空洞が形成されることで、本発明の繊維が得られる。
【0057】
延伸により空洞が形成される理由としては、前記芯材の樹脂層を構成する少なくとも一種類の結晶性を有するポリマーが、微結晶核状態が形成され、延伸時に伸張し難い結晶を含む相で、硬い微結晶間のアモルファス相の樹脂が引きちぎられるような形で剥離延伸されることにより、これが空洞形成源となって空洞が形成されるものと考えられる。
なお、このような延伸による空洞形成は、結晶性を有するポリマーが一種類の場合だけではなく、二種類以上の結晶性を有するポリマーが、ブレンド又は共重合されている場合であっても可能である。
【0058】
前記延伸の方法としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸が挙げられるが、いずれの延伸方法においても、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸が行われることが好ましい。
【0059】
一般に、縦延伸においては、ロールの組合せやロール間の速度差により、縦延伸の段数や延伸速度を調節することができる。
前記縦延伸の段数としては、一段以上であれば特に制限はないが、より安定して高速に延伸することができる点で、二段以上に縦延伸することが好ましい。また、二段以上に縦延伸することは、一段目の延伸によりネッキングの発生を確認したうえで、二段目の延伸により空洞を形成させることができる点においても、有利である。
ここで、前記ネッキングとは、前記プリフォームの延伸時に生じるくびれ状の変形を意味し、前記延伸時において、前記プリフォームがその厚みが不連続に減少することが確認されることにより、「ネッキングが発現した」と定義する。
【0060】
−−延伸速度−−
前記縦延伸の延伸速度としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜36,000mm/minが好ましく、800〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜12,000mm/minが更に好ましい。前記延伸速度が、10mm/min以上であると、充分なネッキングを発現させやすい点で好ましい。また、前記延伸速度が、36,000mm/min以下であると、均一な延伸がしやすくなり、樹脂が破断しづらくなり、特に、高速延伸を目的とした大型な延伸装置を必要とせず、コストを低減できる点で好ましい。
【0061】
また、前記延伸の方法としては、例えば、一段延伸、二段延伸が挙げられ、そのいずれでも本発明に好適に適用できるが、製造の歩留まりや機械の制約の点から、二段延伸がより好ましい。
より具体的には、一段延伸の場合の延伸速度としては、1,000〜36,000mm/minが好ましく、1,100〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜12,000mm/minが更に好ましい。
【0062】
二段延伸の場合には、一段目の延伸を、ネッキングを発現させることを主なる目的とした予備的な延伸とすることが好ましい。前記予備的な延伸の延伸速度としては、10〜300mm/minが好ましく、40〜220mm/minがより好ましく、70〜150mm/minが更に好ましい。
【0063】
そして、二段延伸における、前記予備的な延伸(一段目の延伸)によりネッキングを発現させた後の二段目の延伸速度は、前記予備的な延伸の延伸速度と変えることが好ましい。前記予備的延伸によりネッキングを発現させた後の、二段目の延伸速度としては、600〜36,000mm/minが好ましく、800〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜15,000mm/minが更に好ましい。
【0064】
−−延伸温度−−
延伸時の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、
延伸温度をT(℃)、ガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−30)≦T≦(Tg+50)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが好ましく、
(Tg−25)≦T≦(Tg+45)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することがより好ましく、
(Tg−20)≦T≦(Tg+40)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが更に好ましい。
【0065】
一般に、延伸温度(℃)が高いほど延伸張力も低めに抑えられて容易に延伸できるが、前記延伸温度(℃)が、{ガラス転移温度(Tg)+50}℃以下であると、空洞が形成される体積割合が高くなり、アスペクト比が10以上になりやすい点で好ましい。また、前記延伸温度(℃)が、{ガラス転移温度(Tg)−30}℃以上であると、充分に空洞が発現する点で好ましい。
【0066】
ここで、前記延伸温度T(℃)は、非接触式温度計により測定することができる。また、前記ガラス転移温度Tg(℃)は、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0067】
なお、前記延伸工程において、延伸後の繊維は、形状安定化などの目的で、更に熱を加えて熱収縮させたり、張力を加える等の処理をしたりしてもよい。
【0068】
また、前記プリフォームの作製は、前記延伸工程と独立に行ってもよく、連続的に行ってもよい。
【0069】
前記プリフォームを延伸することにより、本発明の芯材層を得ることができる。該芯材層に次に述べる被覆工程を経ることにより本発明の繊維が形成される。
本発明の繊維の製造に用いられる被覆ラインは、従来から知られている電気ケーブルや石英ガラス製光ファイバと同様な被覆ラインを使用することができる。
【0070】
図4にその被覆ラインの概略図を示す。素線(空洞を有する芯材繊維)110は、送出機120より送り出され、冷却装置130により5〜35℃の温度まで冷却することが、被覆する際に素線110へのダメージを抑制するために好ましいが、この冷却装置130は省略することも可能である。その後に、被覆装置140により素線110に被覆材を被覆してケーブル150が得られる。ケーブル150は、水槽160で冷水により冷却された後に、水分除去装置170によりその表面の水分が除去される。なお、ケーブル150の冷却は、水槽に限定されず、他の装置を用いてもよい。そして、ローラ180により搬送されて巻取機190に巻き取られる。
なお、被覆方法としては溶融押出し方法、活性エネルギー線硬化型樹脂を用いて、塗布・硬化させて被覆層を得る方法等を用いることができる。本発明においては、溶融押出し方法を用いることが好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
<プリフォーム(未延伸繊維)の形成>
<<芯材の樹脂層組成物>>
芯材の樹脂層を構成する樹脂組成物(芯材の樹脂組成物)として、ポリブチレンテレフタレート100%樹脂PBT1(富士フイルム社内で作製)を採用した。この組成物の極限粘度(IV)をウベローデ型粘度計(旭製作所社製)により測定したところ、0.72(Pa・s)であった。また、前記PBT1のガラス転移温度Tg(℃)及び融点Tm(℃)を示差熱分析装置(セイコーII社製)により測定した。
【0073】
<延伸工程>
次に、得られたプリフォームを40℃の加温雰囲気下で、120mm/minの速度で一軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、6,000mm/minの速度で、初めと同一方向に更に一軸延伸して空洞を含有する芯材層に相当する繊維(素線ともいう)を作製した。
【0074】
<被覆工程>
被覆樹脂として、プリフォーム作製に用いたPBT1のペレットをクロスダイヘッド付の被覆押し出し機(ダイス直径1.5mm、ニップル直径0.5mm)を用いた被覆ライン(図4参照)により、素線110の搬送速度を500m/minとして被覆を行い、厚みが5μmの被覆層を有する本発明の繊維を得た。
本実施例1の繊維の断面の写真画像を、図5に示す。
【0075】
(実施例2)
<プリフォームの作製>
実施例1において、芯材の樹脂層組成物をポリブチレンテレフタレート100%樹脂PBT2(富士フイルム社内で作製)に変えた以外は、実施例1と同様にしてプリフォームを作製した。
なお、前記PBT2の極限粘度(IV)を実施例1と同様にして測定したところ、0.86(Pa・s)であった。また、前記PBT2のガラス転移温度Tg(℃)、融点Tm(℃)を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。
【0076】
<延伸工程>
次に、得られたプリフォームを40℃の加温雰囲気下で、2400mm/minの速度で、一段で一軸延伸して空洞を含有する芯材層に相当する繊維(素線ともいう)を作製した。
【0077】
<被覆工程>
被覆樹脂として、PET(富士フイルム社内で作製)に変えた以外は、実施例1と同様にして被覆を行った。
なお、前記PETの極限粘度(IV)を実施例1と同様にして測定したところ、0.6(Pa・s)であった。また、前記PETのガラス転移温度Tg(℃)、融点Tm(℃)を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。
厚みが3μmの被覆層を有する本発明の繊維を得た。
【0078】
(実施例3)
<プリフォームの作製>
実施例1において、芯材の樹脂層組成物をポリブチレンテレフタレート100%樹脂PHT(富士フイルム社内で作製)に変えた以外は、実施例1と同様にしてプリフォームを作製した。
なお、前記PHTの極限粘度(IV)を実施例1と同様にして測定したところ、0.7(Pa・s)であった。また、前記PHTのガラス転移温度Tg(℃)、融点Tm(℃)、を実施例1と同様にして測定した。測定結果を表1に示す。
【0079】
<延伸工程>
次に、得られたプリフォームを30℃の加温雰囲気下で、100mm/minの速度で一軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、6,000mm/minの速度で、初めと同一方向に更に一軸延伸して空洞を含有する芯材層に相当する繊維(素線ともいう)を作製した。
【0080】
<被覆工程>
被覆樹脂として、アイソタクティックポリプロピレン(Aldrich社製、重量平均分子量19万、数平均分子量5万、ガラス転移温度−13℃、Tm:170から175℃)に変えた以外は、実施例1と同様にして被覆を行った。厚みが5μmの被覆層を有する本発明の繊維を得た。
【0081】
(実施例4)
<プリフォームの作製>
実施例1において、芯材の樹脂層組成物をアイソタクティックポリプロピレン(Aldrich社製、重量平均分子量19万、数平均分子量5万、ガラス転移温度−13℃、Tm:170から175℃)に変えた以外は、実施例1と同様にしてプリフォームを作製した。
【0082】
<延伸工程>
次に、得られたプリフォームを35℃の加温雰囲気下で、100mm/minの速度で一軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、6,000mm/minの速度で、初めと同一方向に更に一軸延伸して空洞を含有する芯材層に相当する繊維(素線ともいう)を作製した。
【0083】
<一次被覆工程>
被覆樹脂として、アイソタクティックポリプロピレン(Aldrich社製、重量平均分子量19万、数平均分子量5万、ガラス転移温度−13℃、Tm:170から175℃)に変えた以外は、実施例1と同様にして被覆を行った。厚みが5μmの被覆層を有する本発明の繊維を得た。
【0084】
<二次被覆工程>
被覆樹脂として、LDPE(Aldrich社製、重量平均分子量は不明だが、MI値が25g/10min、ガラス転移温度−125℃、Tm:146℃)に変えた以外は、実施例1と同様にして被覆を行った。厚みが3μmの被覆層を有する本発明の繊維を得た。
【0085】
(比較例1)
<繊維の作製>
<プリフォーム(未延伸繊維)の形成>
<<芯材の樹脂層組成物>>
芯材の樹脂層を構成する樹脂組成物(芯材の樹脂組成物)として、ポリブチレンテレフタレート100%樹脂PBT1(富士フイルム社内で作製)を採用した。この組成物の極限粘度(IV)をウベローデ型粘度計(旭製作所社製)により測定したところ、0.72(Pa・s)であった。また、前記PBT1のガラス転移温度Tg(℃)及び融点Tm(℃)を示差熱分析装置(セイコーII社製)により測定した。
【0086】
<延伸工程>
次に、得られたプリフォームを100℃の加温雰囲気下で、120mm/minの速度で一軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、6,000mm/minの速度で、初めと同一方向に更に一軸延伸して芯材層に相当する繊維(素線ともいう)を作製した。しかし、空洞は発現しなかった。
【0087】
<被覆工程>
被覆樹脂として、プリフォーム作製に用いたPBT1のペレットをクロスダイヘッド付の被覆押し出し機(ダイス直径1.5mm、ニップル直径0.5mm)を用いた被覆ライン(図4参照)により、素線11の搬送速度を500m/minとして被覆を行い、厚みが5μmの被覆層を有する本発明の繊維を得た。
【0088】
(比較例2)
<繊維の作製>
実施例4と同様にして素線まで作製し、被覆工程を行わなかったものを、比較例2の繊維とした。
【0089】
実施例1〜4及び比較例1及び2において作製した繊維について、表1にまとめて示す。
【0090】
【表1】

【0091】
<測定及び評価>
前記実施例1〜4及び比較例1及び2の繊維について、下記の評価を行った。測定結果を表2に示し、評価結果を表3に示す。
【0092】
<<透過率の測定>>
日立製作所製分光光度計U−4100を用いて透過率を測定した。前記得られた繊維の表面の法線方向から5度傾けて光を入射させ、該繊維を透過する光の強度を、該繊維を透過させないブランクの値と比較した。波長は550nmを使用した。
また、得られた繊維に対しても、前記樹脂組成物の透過率の測定と同様にして透過率を測定した。
なお、前記樹脂組成物の透過率と、繊維の透過率との比については、Lambert−Beerの法則に従い、前記樹脂組成物の透過率を、繊維の厚み(断面径)と同じ寸法に換算して、算出した。
【0093】
<<アスペクト比の測定>>
繊維の表面に直交し、かつ、縦延伸方向に直交する断面(図3B参照)と、前記繊維の表面に直交し、かつ、前記縦延伸方向に平行な断面(図3C参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300〜3,000倍の適切な倍率で検鏡し、前記各断面写真において計測枠をそれぞれ設定した。この計測枠は、その枠内に空洞が50〜100個含まれるように設定した。
次に、計測枠に含まれる空洞の数を計測し、前記縦延伸方向に直交する断面の計測枠(図3B参照)に含まれる空洞の数をm個、前記縦延伸方向に平行な断面の計測枠(図3C参照)に含まれる空洞の数をn個とした。
そして、前記縦延伸方向に直交する断面の計測枠(図3B参照)に含まれる空洞の1個ずつの長さ(r)を測定し、その平均の長さをrとした。また、前記縦延伸方向に平行な断面の計測枠(図3C参照)に含まれる空洞の1個ずつの長さ(L)を測定し、その平均の長さをLとした。
即ち、r及びLは、それぞれ下記の(1)式及び(2)式で表すことができる。
r=(Σr)/m ・・・(1)
L=(ΣL)/n ・・・(2)
そして、L/rを算出し、アスペクト比とした。
【0094】
<<空洞の平均の個数P>>
まず、走査型電子顕微鏡により、縦延伸方向に直交する断面を撮影した。
そして、断面写真において繊維径方向に直線を引き、前記直線に接する空洞の個数を計測した。この作業を20本の直線について行い、平均を求めた。
【0095】
<<結晶性ポリマー部と空洞との屈折率差ΔN>>
結晶性を有するポリマー部の屈折率N1は、別途フィルムを作製しアッベ屈折計により測定した。空洞部の屈折率N2は、別途空洞部が空気であることから空気の屈折率=空洞部の屈折率N2=1とした。測定波長は589nmである。そして、その差ΔN(=N1−N2)を算出した。
【0096】
<<空洞の断面積比>>
芯材層の断面SEMの写真を用いて画像処理を行い、全ての空洞を用いて、全体断面積と空洞部の断面積を別々に求め、空洞の断面積比を算出、評価した。
【0097】
<保温性の評価>
保温性の評価は、本発明の織編物を製造し、熟練者5名にて以下の評価基準に基づき評価した。
[評価基準]
○:かなり暖かいと感じる
△:暖かくなったと感じる
×:変化無し
【0098】
<<耐久性の評価>>
保温性の評価で用いた織編物を40℃の一定温度に設定したウォーターバスの中に入れ、30rpmの回転数で1時間攪拌させた。いったん取り出し、脱水機で水分をとり、50℃の乾燥機で1時間乾燥させた。このサイクルを100回おこなった。そして、下記評価基準に基づき耐久性を評価した。
【0099】
[評価基準]
○:100サイクル前と変化無し
△:100サイクル前に比べ、肌触りが悪く感じるが、見た目にはそれほど変化がない。
×:100サイクル前に比べ、明らかに肌触り、見た目が変化した。
【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
表3に示すように、実施例1から4は、リサイクル性及び耐久性が高いといった性能を示すことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1は、本発明の繊維の構成を示す断面図である。
【図2A】図2Aは、本発明の繊維の製造方法における紡糸工程の一例を示す図である。
【図2B】図2Bは、本発明の繊維の製造方法における紡糸工程の一例を示す図である。
【図3A】図3Aは、アスペクト比を説明するための図であって、繊維の斜視図である。
【図3B】図3Bは、アスペクト比を説明するための図であって、図3Aにおける繊維のA−A’断面図である。
【図3C】図3Cは、アスペクト比を説明するための図であって、図3Aにおける繊維のB−B’断面図である。
【図4】図4は、被覆ラインの概略図である。
【図5】図5は、実施例1の繊維の断面の写真画像である。
【符号の説明】
【0104】
10 繊維
10a 表面
11 芯材の樹脂層
12 被覆樹脂層
100 空洞
L 配向方向における空洞の長さ
r 繊維の直径方向における空洞の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空洞を有し、長さ方向に直交する断面形状が略円形である芯材の樹脂層上に、長さ方向に直交する断面形状が略円環形である樹脂層を鞘材として一層以上有してなることを特徴とする繊維。
【請求項2】
芯材の樹脂層の長さ方向に直交する方向における該繊維の断面積X(μm)に対する空洞の断面積Y(μm)の比(Y/X)の平均が5%以上、40%以下である請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
空洞の配向方向に直交する直径方向における前記空洞の平均長さをr(μm)とし、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上、100以下である請求項1から2のいずれかに記載の繊維。
【請求項4】
芯材の樹脂層が、結晶性を有するポリマーのみからなる請求項1から3のいずれかに記載の繊維。
【請求項5】
該繊維の透過率をM(%)とし、該繊維の結晶性を有するポリマーと同一の結晶性を有するポリマーからなり、該繊維と同じ繊度であってかつ空洞を有しない繊維の透過率をN(%)としたときのM/N比が0.2以下であり、かつ、該繊維の光沢度が50以上である請求項4に記載の繊維。
【請求項6】
空洞の配向方向に直交する直径方向の任意の断面における空洞の平均の個数をP個とし、結晶性ポリマー部の屈折率をN1とし、空洞の屈折率をN2とし、N1とN2との差をΔN(=N1−N2)とするとき、ΔNとPとの積が3以上である請求項4から5のいずれかに記載の繊維。
【請求項7】
結晶性を有するポリマーが、一種のみからなる請求項4から6のいずれかに記載の繊維。
【請求項8】
結晶性を有するポリマーが、ポリオレフィン類、ポリエステル類およびポリアミド類である請求項4から7のいずれかに記載の繊維。
【請求項9】
芯材の樹脂層は、結晶性を有するポリマーのみからなる樹脂組成物を溶融紡糸し、
10〜36,000mm/minの速度で、かつ、
延伸温度をT(℃)、該結晶性を有するポリマーのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−30)≦T≦(Tg+50)
で表される延伸温度T(℃)で延伸して得られた請求項1から8のいずれかに記載の繊維。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の繊維の製造方法であって、結晶性を有するポリマーのみからなる芯材の樹脂層上に複数の樹脂層を積層して紡糸する積層紡糸工程と、前記芯材の樹脂層の長さ方向に延伸する延伸工程とを含み、
前記延伸工程は、
10〜36,000mm/minの速度で、かつ、
延伸温度をT(℃)、該結晶性を有するポリマーのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−30)≦T≦(Tg+50)
で表される延伸温度T(℃)で延伸することを特徴とする繊維の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−191383(P2009−191383A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31035(P2008−31035)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】