説明

繊維強化プラスチック製ばね

【課題】圧縮応力による破壊を防止することができる繊維強化プラスチック製ばねを提供する。
【解決手段】FRPばね1は、たとえば積層構造20を有する板ばねである。積層構造20は、たとえば第1繊維層21、圧縮側第2繊維層22、および、引張側第2繊維層23を有する3層構造である。第1繊維層21は、引張弾性率Eを有している。圧縮側第2繊維層22および引張側第2繊維層23は、引張弾性率Eよりも小さな引張弾性率Eを有している。第1繊維層21は、中立軸Saに対する上側領域である圧縮応力領域21Aと、中立軸Saに対する下側領域である引張応力領域21Bを有している。中立軸Saは、板厚方向の中心よりも圧縮応力発生領域側に位置している。中立軸Saから圧縮応力発生領域側の表面までの厚さが薄くなるから、片振りの曲げ荷重の負荷時の圧縮変形を小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片振りの曲げ荷重が加えられる繊維強化プラスチック製ばねに係り、特に、圧縮応力による破壊の防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば自動車分野では、曲げ荷重がかかる片振のばね(渦巻ばねや、ぜんまい、板ばね等)が用いられ、それらばねには軽量化および省スペース化が要求されている。たとえば軽量化のために、金属製ばねに代わり、繊維強化プラスチック製ばね(以下、FRPばね)を用いることが提案されている。
【0003】
たとえば特許文献1の技術は、FRPばねとしてFRPテーパーリーフスプリングを開示し、その技術では、長さの異なる複数のシートにガラス繊維あるいは炭素繊維を含浸させ、それらシートを重ね合わせることにより、テーパーリーフスプリングを製造している。また、特許文献2の技術は、FRPばねとしてFRPリーフスプリングを開示し、その技術では、リーフ中央部を炭素繊維から構成し、リーフ表面部をガラス繊維から構成することにより、柔軟性を有するFRPリーフスプリングを製造することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−81022号公報
【特許文献2】特開平7−77231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図4に示すように、支持部52で支持される板ばね51に片振りの曲げ荷重Pを加えた場合、荷重負荷側の上面には圧縮応力が発生し、荷重負荷側とは反対側の下面には引張応力が発生する。なお、符号Sは、板ばね51の板厚方向の中心に位置する中立軸である。
【0006】
たとえばFRP板ばねとして単層構造の炭素繊維強化プラスチック製ばね(CFRPばね)に片振りの曲げ荷重(図の矢印方向の荷重)を加えた場合、CFRPばねの圧縮強さは引張強さの1/2〜1/3程度で低いため、圧縮による座屈が生じ、圧縮応力発生領域で破壊が生じやすい。このように低い荷重で破壊するため、引張強さに優れたCFRPの特徴を十分に活用することができず、利用できるばねのエネルギー密度が実質的に小さくなってしまう。
【0007】
このようなFRPばねでは、圧縮応力側表面からの破壊防止について有効な技術が開発されていなかった。たとえば特許文献1の技術では、重ね合わされた複数のシートは同じ繊維を使用しており、圧縮応力側表面からの破壊防止技術は開示されていない。また、特許文献2の技術では、柔軟性のある板ばねが開示されているが、繊維の圧縮特性には着目していない。また、リーフ表面部をガラス繊維から構成しており、炭素繊維より引張り強度が低いガラス繊維を応力が高いリーフ表面部に配するのは効率的でない。
【0008】
したがって、本発明は、圧縮応力による破壊を防止することができる繊維強化プラスチック製ばねを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の繊維強化プラスチック製ばね(以下、FRPばね)は、片振りの曲げ荷重が加えられる繊維強化プラスチック製ばねであって、中立軸が板厚方向の中心よりも圧縮応力発生領域側に位置していることを特徴とする。
【0010】
本発明での中立軸は、引張応力および圧縮応力が発生せず、伸びも縮みもしない軸である。本発明での引張弾性率は、引張試験で得られる引張応力−ひずみ曲線での最初の直線部分(原点を通過する直線部分、あるいは、曲線の原点での接線)を利用して次の関係式により得られる値である(参考文献:FRP設計便覧、(社)強化プラスチック協会、1979年)。
E=Δσ/Δε
なお、Eは引張弾性率(単位:N/mm2)、Δσは直線状の2点間の平均原断面積による応力差(単位:N/mm2)、Δεは上記2点間のひずみの差である。
【0011】
本発明のFRPばねでは、中立軸が板厚方向の中心よりも圧縮応力発生領域側に位置しているから、中立軸から圧縮応力発生領域側の表面までの厚さが薄くなる。これにより、圧縮応力発生領域が小さくなるから、片振りの曲げ荷重の負荷時の圧縮変形を小さくすることができる。したがって、圧縮応力による破壊を防止することができる。また、引張応力発生領域が大きくなるから、片振りの曲げ荷重の負荷時の引張変形が大きくなるが、FRPばねは引張変形に強いから、引張応力による破壊を防止することができる。このように引張強さに優れているというFRPばねの特性を有効利用することにより、発生応力による破壊を防止することができる。よって、ばね全体の破壊応力を高くすることができるから、利用できるエネルギー密度を大きくすることができる。
【0012】
本発明のFRPばねは、種々の構成を用いることができる。たとえば引張弾性率の異なる繊維が積層された積層構造を用いることができる。具体的には、第1繊維層と、第1繊維層の圧縮応力発生領域側の面および引張応力発生領域側の面のそれぞれに形成された第2繊維層、、、第N繊維層(Nは2以上の自然数)とを備え、第1繊維層の引張弾性率E、第2繊維層の引張弾性率E、、、第N繊維層の引張弾性率Eはその順で小さくなるように設定されている態様を用いることができる。この態様では、最小の引張弾性率Eを有する第N繊維層をばねの表層部に配置しており、その第N繊維層は曲がりやすいから、座屈による折損等の破壊を効果的に防止することができる。
【0013】
たとえば引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図、、、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図が引張圧縮試験により取得され、応力ひずみ線図のぞれぞれから引張ひずみエネルギーU’jtと圧縮ひずみエネルギーU’jcとのひずみエネルギー比V’j(=U’jt/U’jc、jは1≦j≦Nを満たす自然数)が算出され、所定の片振りの曲げ荷重負荷時の第1繊維層の引張応力発生領域の引張ひずみエネルギーU1tと第1繊維層の前記圧縮応力発生領域の圧縮ひずみエネルギーU1cとのひずみエネルギー比V1(=U1t/U1c)がひずみエネルギー比V’1と等しくて、かつ所定の片振りの曲げ荷重負荷時の引張応力発生領域側の第j繊維層の引張ひずみエネルギーUjtと圧縮応力発生領域側の第j繊維層の圧縮ひずみエネルギーUjcとのひずみエネルギー比Vj(=Ujt/Ujc、jが2以上の場合)がひずみエネルギー比V’jと等しくなるように中立軸の位置が設定されている態様を用いることができる。
【0014】
上記態様では、片振りの曲げ荷重の負荷時のFRPばねでの応力分布に対応して、異なる引張弾性率を有する各繊維層の厚さを設定することにより中立軸の位置を設定することができるので、引張強さに優れたFRPばねの特性を十分に有効利用することができる。したがって、ばね全体の破壊応力をさらに高くすることができ、その結果、利用できるエネルギー密度をさらに大きくすることができる。
【0015】
たとえば圧縮ひずみエネルギーUjcおよび引張ひずみエネルギーUjtが数1〜数3の数式に基づいて算出され、ひずみエネルギー比V’jとひずみエネルギー比Vjとが等しくなるように、第1繊維層の圧縮応力発生領域および引張応力発生領域の厚さh1c,h1t、ならびに、圧縮応力発生領域側および引張応力発生領域側の第j繊維層の厚さhjc,hjt(jが2以上の場合)が設定されている態様を用いることができる。なお、数1の数式について、せん断によるひずみエネルギーは、曲げによるひずみエネルギーに比べて小さいから、せん断によるひずみエネルギーを無視することができる。
【0016】
【数1】

なお、Mは曲げモーメント、Eは引張弾性率、Iは断面二次モーメント、κは形状係数、Qはせん断力、Gはせん断弾性係数、Aはばねの断面積、lはばねの長さ、xは長さ方向の座標軸、bはばねの幅である。
【0017】
【数2】

なお、σjcは圧縮応力、ρは中立軸の曲率半径、ηは中立軸を原点としたときの厚さ方向の座標軸、h0cは0である。
【0018】
【数3】

なお、σjtは引張応力、ρは中立軸の曲率半径、ηは中立軸を原点としたときの厚さ方向の座標軸、−h0tは0である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のFRPばねによれば、発生応力による破壊を防止することができるから、ばね全体の破壊応力を高くすることができ、これにより利用できるエネルギー密度を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製ばねの構成を表し、(A)は斜視図、(B)は側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製ばねの各繊維層の厚さを決定する手法について説明するための図であり、(A)は数値計算を説明するための図であって、単純曲げの状態を表す図、(B)は第1繊維層と同じ引張弾性率を有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図、(C)は第2繊維層と同じ引張弾性率を有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製ばねの一例の部分構成を表す側断面図である。
【図4】片振りの曲げ荷重負荷時の従来の繊維強化プラスチック製ばねでの応力分布を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製ばね(以下、FRPばね)の構成を表し、(A)は斜視図、(B)は側面図である。図2は、本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック製ばねの各繊維層の厚さを決定する手法について説明するための図である。
【0022】
FRPばね1は、たとえばリーフ部11と目玉部12を有する板ばねである。FRPばね1は、たとえば中立軸Saが板厚方向の中心よりも圧縮応力発生領域側に位置している積層構造20を備えている。中立軸Saは、片振りの曲げ荷重の負荷時に引張応力および圧縮応力が発生せず繊維が伸びも縮みもしない軸である。図1,2では、FRPばね1の上面が片振りの曲げ荷重(図4の符号P)が加えられる表面であり、積層構造20の中立軸Saに対する上側領域が、圧縮応力が発生する圧縮応力領域であり、積層構造20の中立軸Saに対する下側領域が、引張応力が発生する引張応力領域である。図2(A)の符号Hは、FRPばね1の積層構造20の板厚を示し、ηは中立軸Saを原点としたときの厚さ方向の座標軸を示している。
【0023】
積層構造20は、たとえば第1繊維層21、圧縮側第2繊維層22、および、引張側第2繊維層23を有する3層構造である。第1繊維層21、圧縮側第2繊維層22、および、引張側第2繊維層23は、たとえば繊維がばねの長手方向に配向しているUD(一方向)繊維層である。
【0024】
第1繊維層21は、引張弾性率Eを有している。圧縮側第2繊維層22および引張側第2繊維層23は、引張弾性率Eよりも小さな引張弾性率Eを有している。中立軸Saは、たとえば第1繊維層21内に位置している。第1繊維層21は、中立軸Saに対する上側領域である圧縮応力領域21Aと、中立軸Saに対する下側領域である引張応力領域21Bを有している。
【0025】
積層構造20の各繊維層21〜23としては、たとえばプリプレグを用いることができる。樹脂は、熱硬化性および熱可塑性のいずれでもよい。積層構造20の各繊維層21〜23は、フィラメントワインディング法により形成してもよい。積層構造20の各繊維層21〜23を構成する繊維としては、たとえば炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維(ケブラー繊維)、ボロン繊維等の強化繊維を用いることができる。炭素繊維としては、たとえばPAN系とピッチ系のいずれも用いることができる。第1繊維層21の引張弾性率Eと、第2繊維層22,23の引張弾性率Eとが異なるように設定するためには、たとえば繊維の種類を変更してもよいし、ばねの長手方向に対する繊維の配向方向を変更してもよい。また、UD繊維層の代わりに、繊維が所定角度で交差して配置されているクロス繊維層を用いてもよい。
【0026】
本実施形態のFRPばね1では、第1繊維層21の圧縮応力発生領域側の面に圧縮側第2繊維層22が配置され、第1繊維層21の引張応力発生領域側の面に引張側第2繊維層23が配置されており、FRPばね1は、本発明のFRPばねにおいてNが2の場合である。FRPばね1では、板厚方向の中心よりも圧縮応力発生領域側に位置している中立軸Saの位置は、たとえば次のように設定されている。
【0027】
たとえば図2(A)に示すFRPばね1の単純曲げの状態では、各繊維層21〜23に曲げモーメントが発生する。第1繊維層21の圧縮応力発生領域21Aの圧縮応力σ1cによる曲げモーメントM1cは、数2の数式においてj=1の場合であって、数4の数式で表される。第1繊維層21の引張応力発生領域21Bの引張応力σ1tによる曲げモーメントM1tは、数3の数式においてj=1の場合であって、数5の数式で表される。
【0028】
【数4】

【0029】
【数5】

【0030】
圧縮側第2繊維層22の圧縮応力σ2cによる曲げモーメントM2cは、数2の数式においてj=2の場合であって、数6の数式で表される。引張側第2繊維層23の引張応力σ2tによる曲げモーメントM2tは、数3の数式においてj=2の場合であって、数7の数式で表される。
【0031】
【数6】

【0032】
【数7】

【0033】
第1繊維層21の圧縮応力発生領域21Aでの曲げモーメントM1cを数1に代入することにより、圧縮ひずみエネルギーU1cが算出され、第1繊維層21の引張応力発生領域21Bでの曲げモーメントM1tを数1に代入することにより、引張ひずみエネルギーU1tが算出される。これにより、第1繊維層21の引張応力発生領域21Bの引張ひずみエネルギーU1tと第1繊維層21の圧縮応力発生領域21Aの圧縮ひずみエネルギーU1cとのひずみエネルギー比V1(=U1t/U1c)が得られる。
【0034】
また、圧縮側第2繊維層22での曲げモーメントM2cを数1に代入することにより、圧縮ひずみエネルギーU2cが算出され、引張側第2繊維層23での曲げモーメントM2tを数1に代入することにより、引張ひずみエネルギーU2tが算出される。これにより、引張側第2繊維層23の引張ひずみエネルギーU2tと圧縮側第2繊維層22の圧縮ひずみエネルギーU2cとのひずみエネルギー比V2(=U2t/U2c)が得られる。
【0035】
応力ひずみ線図は、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックおよび引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックのそれぞれに引張圧縮試験を行うことにより得られる。図2(B)は、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図、図2(C)は、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図である。図2(B)において、−ε1cは繊維強化プラスチックの破壊時の圧縮ひずみ、ε1tは繊維強化プラスチックの破壊時の引張ひずみである。図2(C)において、−ε2cは繊維強化プラスチックの破壊時の圧縮ひずみ、ε2tは、繊維強化プラスチックの破壊時の引張ひずみである。
【0036】
圧縮ひずみエネルギーは、応力ひずみ線図を原点から圧縮ひずみまで積分することにより算出される。具体的には、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの圧縮ひずみエネルギーU’1cは、図2(B)の圧縮側の網目部分の面積であり、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの圧縮ひずみエネルギーU’2cは、図2(C)の圧縮側の網目部分の面積である。引張ひずみエネルギーは、応力ひずみ線図を原点から引張ひずみまで積分することにより算出される。具体的には、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの引張ひずみエネルギーU’1tは、図2(B)の引張側の網目部分の面積であり、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの引張ひずみエネルギーU’2tは、図2(C)の引張側の網目部分の面積である。
【0037】
引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの引張ひずみエネルギーU’1tと圧縮ひずみエネルギーU’1cとのひずみエネルギー比V’1(=U’1t/U’1c)が算出され、引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの引張ひずみエネルギーU’2tと圧縮ひずみエネルギーU’2cとのひずみエネルギー比V’2(=U’2t/U’2c)が算出される。
【0038】
FRPばね1の設計では、数値計算により得られたひずみエネルギー比V1と、引張圧縮試験による応力ひずみ線図で得られたひずみエネルギー比V’1とが等しくなり、かつ数値計算により得られたひずみエネルギー比V2と、引張圧縮試験による応力ひずみ線図で得られたひずみエネルギー比V’2とが等しくなるように、第1繊維層21の圧縮応力発生領域21Aの厚さh1cおよび引張応力発生領域21Bの厚さh1tを設定するとともに、圧縮側第2繊維層22の厚さh2cおよび引張側第2繊維層23の厚さh2tを設定する。この場合、全ての層21〜23の厚さの和(=h1c+h1t+h2c+h2t)が、予め定めていた積層構造20の板厚Hとなるように設定することにより、各繊維層の層厚の具体値が得られる。
【0039】
図3は、FRPばね1の一例の部分構成を表す側断面図である。たとえば繊維として炭素繊維を用い、第1繊維層21の繊維の引張弾性率を210GPa、圧縮側第2繊維層22および引張側第2繊維層23の繊維の引張弾性率を150GPa、繊維体積含有率Vfを67%、ばねの板厚Hを15mmに定めた場合、中立軸を圧縮発生領域側の表面から5.6mmの位置に設定するためには、第1繊維層21の板厚4mm、圧縮側第2繊維層22の板厚2mm、引張側第2繊維層23の板厚9mmに設定すればよい。
【0040】
本実施形態では、中立軸Saが板厚方向の中心よりも圧縮応力発生領域側に位置しているから、中立軸Saから圧縮応力発生領域側の表面までの厚さが薄くなる。これにより、圧縮応力発生領域が小さくなるから、片振りの曲げ荷重の負荷時の圧縮変形を小さくすることができる。したがって、圧縮応力による破壊を防止することができる。また、引張応力発生領域が大きくなるから、片振りの曲げ荷重の負荷時の引張変形が大きくなるが、FRPばね1は引張変形に強いから、引張応力による破壊を防止することができる。このように引張強さに優れたFRPばね1の特性を有効利用することにより、発生応力による破壊を防止することができる。よって、ばね全体の破壊応力を高くすることができるから、利用できるエネルギー密度を大きくすることができる。
【0041】
特に、最小の引張弾性率Eを有する圧縮側第2繊維層22および引張側第2繊維層23をばねの表層部に配置しており、第2繊維層22,23は曲がりやすいから、座屈による折損等の破壊を効果的に防止することができる。また、片振りの曲げ荷重の負荷時のFRPばね1での応力分布に対応して、異なる引張弾性率を有する各繊維層21〜23の厚さを設定することにより中立軸Saの位置を設定することができるので、引張強さに優れたFRPばね1の特性を十分に有効利用することができる。したがって、ばね全体の破壊応力をさらに高くすることができ、その結果、利用できるエネルギー密度をさらに大きくすることができる。
【符号の説明】
【0042】
1…FRPばね(繊維強化プラスチック製ばね)、20…積層構造、21…第1繊維層、21A…圧縮応力領域、21B…引張応力領域、22…圧縮側第2繊維層、23…引張側第2繊維層、Sa…中立軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片振りの曲げ荷重が加えられる繊維強化プラスチック製ばねにおいて、
中立軸が板厚方向の中心よりも圧縮応力発生領域側に位置していることを特徴とする繊維強化プラスチック製ばね。
【請求項2】
第1繊維層と、前記第1繊維層の圧縮応力発生領域側の面および引張応力発生領域側の面のそれぞれに形成された第2繊維層、、、第N繊維層(Nは2以上の自然数)とを備え、
前記第1繊維層の引張弾性率E、前記第2繊維層の引張弾性率E、、、前記第N繊維層の引張弾性率Eはその順で小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック製ばね。
【請求項3】
前記引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図、前記引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図、、、前記引張弾性率Eを有する繊維強化プラスチックの応力ひずみ線図が引張圧縮試験により取得され、前記応力ひずみ線図のぞれぞれから引張ひずみエネルギーU’jtと圧縮ひずみエネルギーU’jcとのひずみエネルギー比V’j(=U’jt/U’jc、jは1≦j≦Nを満たす自然数)が算出され、
所定の片振りの曲げ荷重負荷時の前記第1繊維層の前記引張応力発生領域の引張ひずみエネルギーU1tと第1繊維層の前記圧縮応力発生領域の圧縮ひずみエネルギーU1cとのひずみエネルギー比V1(=U1t/U1c)が前記ひずみエネルギー比V’1と等しくて、かつ前記所定の片振りの曲げ荷重負荷時の前記引張応力発生領域側の第j繊維層の引張ひずみエネルギーUjtと前記圧縮応力発生領域側の第j繊維層の圧縮ひずみエネルギーUjcとのひずみエネルギー比Vj(=Ujt/Ujc、jが2以上の場合)が前記ひずみエネルギー比V’jと等しくなるように前記中立軸の位置が設定されていることを特徴とする請求項2に記載の繊維強化プラスチック製ばね。
【請求項4】
前記圧縮ひずみエネルギーUjcおよび前記引張ひずみエネルギーUjtが数1〜数3の数式に基づいて算出され、
前記ひずみエネルギー比V’jと前記ひずみエネルギー比Vjとが等しくなるように、前記第1繊維層の前記圧縮応力発生領域および前記引張応力発生領域の厚さh1c,h1t、ならびに、前記圧縮応力発生領域側および前記引張応力発生領域側の第j繊維層の厚さhjc,hjt(jが2以上の場合)が設定されていることを特徴とする請求項3に記載の繊維強化プラスチック製ばね。
【数1】

なお、Mは曲げモーメント、Eは引張弾性率、Iは断面二次モーメント、κは形状係数、Qはせん断力、Gはせん断弾性係数、Aはばねの断面積、lはばねの長さ、xは長さ方向の座標軸、bはばねの幅である。
【数2】

なお、σjcは圧縮応力、ρは中立軸の曲率半径、ηは中立軸を原点としたときの厚さ方向の座標軸、h0cは0である。
【数3】

なお、σjtは引張応力、ρは中立軸の曲率半径、ηは中立軸を原点としたときの厚さ方向の座標軸、−h0tは0である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202454(P2012−202454A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66145(P2011−66145)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】