説明

繊維強化型中空糸膜

【課題】 透水性能が優れた繊維強化型中空糸膜の提供。
【解決手段】 組紐外表面に半透膜層を有しており、前記半透膜層が下記(a)〜(c)成分を含む液状製膜組成物から形成されたものである繊維強化型中空糸膜。
(a)ポリサルホン系樹脂及び/又はポリエーテルスルホン系樹脂15〜30質量%
(b)良溶媒40〜80質量%
(c)貧溶媒1〜45質量%(ポリアルキレングリコールは含まない)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透水性能が優れた繊維強化型中空糸膜に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸多孔質膜は、一般に紡糸原液(液状製膜組成物)となるポリマー溶液を二重紡糸口金から押し出した後、凝固・乾燥させることにより製造されるもので、食品分野、医薬品分野、電子工業分野、水処理分野等の各種分野において汎用されている。
【0003】
中空糸多孔質膜を比較的濁度の低い水処理分野に適用する場合は、例えば、所要数を束ねた中空糸多孔質膜をケースハウジング内に収容し、膜モジュールとして利用されている。しかしながら、比較的濁度の高い水処理分野に適用する場合は、ケーシングフリーの膜モジュール(ケーシングを使用せず、中空糸膜が露出した状態の膜モジュール)として利用されている。
【0004】
このようなケーシングフリーの膜モジュールの場合、1本の中空糸多孔質膜は非常に細く、機械的強度の低いものであるため、使用を継続する間に中空糸多孔質膜が破断し、水処理能力が低下するという問題がある。更に、機械的強度が低いため、激しいエアーバブリング洗浄や逆圧洗浄が行えず、処理能力を充分に回復することが困難であるという問題もある。
【0005】
中空糸多孔質膜の強度を高める方法として、組紐の外表面に半透膜層を形成したものが知られているが、透水性能の点で改善の余地がある。
【特許文献1】特開2007−245107号公報
【特許文献2】特開2007−245108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透水性能が優れている繊維強化型中空糸膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、組紐外表面に半透膜層を有しており、前記半透膜層が下記(a)〜(c)成分を含む液状製膜組成物から形成されたものである繊維強化型中空糸膜を提供する。。
(a)ポリサルホン系樹脂及び/又はポリエーテルスルホン系樹脂15〜30質量%
(b)良溶媒40〜80質量%
(c)貧溶媒1〜45質量%(ポリアルキレングリコールは含まない)
請求項2の発明は、(b)成分の良溶媒が、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドから選ばれるものである請求項1記載の繊維強化型中空糸膜を提供する。
請求項3の発明は、(c)成分の貧溶媒がエチレングリコールである請求項1又は2記載の繊維強化型中空糸膜を提供する。
請求項4の発明は、(c)成分の貧溶媒がグリコール類とポリビニルピロリドンの組み合わせである請求項1又は2記載の繊維強化型中空糸膜を提供する。
請求項5の発明は、(c)成分の貧溶媒がエチレングリコールとポリビニルピロリドンの組み合わせである請求項1又は2記載の繊維強化型中空糸膜を提供する。
請求項6の発明は、組紐が、内径0.2〜3.0mmで、外径0.5〜5.0mmのものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維強化型中空糸膜を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維強化型中空糸膜は、透水性能が優れており、組紐を含んでいるため機械的強度も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<繊維強化型中空糸膜>
本発明の繊維強化型中空糸膜は、基材となる組紐の外表面に特定の液状製膜組成物により形成された半透膜層を有している。半透膜層は、一部が組紐内部に侵入した構造であってもよいが、組紐の内表面には形成されていない。
【0010】
半透膜層の厚みは、50〜500μmが好ましく、100〜400μmがより好ましく、150〜300μmが更に好ましい。
【0011】
本発明の繊維強化型中空糸膜は、外径が好ましくは1.5〜3.0mm、より好ましくは1.8〜2.5mmで、内径が好ましくは0.5〜1.5mm、より好ましくは0.7〜1.3mmである。
【0012】
〔組紐〕
組紐は、フッ素樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル、セルロース、セルロースアセテート等の天然又は合成樹脂繊維、ステンレス、黄銅、銅等の金属繊維、ガラス繊維、炭素繊維等からなるものを用いることができる。
【0013】
組紐の内径及び外径は特に制限されるものではないが、取り扱い易さや製造技術上の問題から、内径が好ましくは0.2〜3.0mm、より好ましくは0.5〜2.0mmで、外径が好ましくは0.5〜5.0mm、より好ましくは1.0〜3.0mmのものを用いることができる。
【0014】
〔液状製膜組成物〕
(a)成分のポリマー成分は、ポリサルホン系樹脂及びポリエーテルスルホン系樹脂のいずれか一方又は両方を組み合わせて用いることができる。
【0015】
組成物中の(a)成分の含有量は、15〜30質量%であり、15〜25質量%が好ましく、16〜24質量%がより好ましく、17〜23質量%が更に好ましい。
【0016】
(b)成分の良溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドから選ばれるもの等を挙げることができる。
【0017】
組成物中の(b)成分の含有量は、40〜80質量%であり、45〜75質量%が好ましく、50〜70質量%がより好ましく、50〜60質量%が更に好ましい。
【0018】
(c)成分の貧溶剤は、グリコール類(ポリアルキレングリコールは含まない)、ジオール類、グリセリン及びポリビニルピロリドンから選ばれるものであり、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール等のグリコール類、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール等のジオール類、グリセリン、ポリビニルピロリドン等を挙げることができるが、エチレングリコール単独、エチレングリコール等のグリコール類とポリビニルピロリドンの組み合わせ(特にエチレングリコールとポリビニルピロリドンの組み合わせ)が好ましい。
【0019】
組成物中の(c)成分の含有量は、1〜45質量%であり、1〜40質量%が好ましく、2〜35質量%がより好ましく、3〜30質量%が更に好ましい。
【0020】
本発明で用いる液状製膜組成物は、本発明の課題を解決できる範囲内で、(a)〜(c)成分以外の公知の製膜用成分を含有することができる。
【0021】
<繊維強化型中空糸膜の製造方法>
本発明の繊維強化型中空糸膜の製造方法の一実施形態を説明する。まず、第1工程として、液状製膜組成物を中空糸状の組紐の表面に付着させる工程の処理をする。
【0022】
第1工程の処理としては、ノズルを用い、ノズル内を走行する中空糸状の組紐外表面に液状製膜組成物を塗布する方法、液状製膜組成物を入れた容器中に中空糸状の組紐を浸漬し、所要時間放置する方法、液状製膜組成物を入れた容器中に中空糸状の組紐を連続的に潜らせる方法、中空糸状の組紐の編組工程(組紐を編む工程)において、編まれている状態の組紐表面に液状製膜組成物を連続的に噴霧、噴射又は塗布する方法等を適用できる。
【0023】
第1工程の処理時間は、液状製膜組成物の種類及び濃度、組紐の密度、中空糸状多孔質膜の透水性能等に応じて、所望の厚みの半透膜層が形成されるように調整する。
【0024】
具体的には、各実施例に記載のものと同一の組紐及び同一の液状製膜組成物を用いる場合は、各実施例における半透膜層の厚みを基準として、液状製膜組成物の濃度を増減したり、液状製膜組成物への浸漬時間を増減することで、半透膜層の厚みを増減させることができる。
【0025】
第2工程は、組紐の表面に付着した液状製膜組成物を凝固させる工程である。この工程の処理には、湿式法や乾式法等を適用できるが、瞬時に成形できる湿式法や半乾式湿式法が好ましい。
【0026】
湿式法を適用する場合は、水等の凝固浴中に組紐を浸漬した後、乾燥する方法を適用できる。乾式法を適用する場合は、液状製膜組成物の濃度、溶媒の種類に応じて、1段処理するか、又は温度及び湿度条件を変化させて2段以上の処理をすることができる。処理温度及び湿度は、温度30〜200℃、好ましくは60〜150℃、相対湿度30〜95%、好ましくは60〜90%であり、処理時間は0.5〜60分間、好ましくは2〜30分間である。
【0027】
本発明の繊維強化型中空糸膜は、内圧式や外圧式の中空糸膜(中空糸膜モジュール)として、各種水処理に適用することができる。
【実施例】
【0028】
(1)純水透過速度
長さ1mの中空糸膜の片端を封じ、中空糸膜の片端の内側にP1(=0.1MPa)の圧力をかけて純水をデッドエンド濾過し、濾過時間、透過する純水量及び他方の片端の圧力P2を測定した。膜間圧力は、(P1+P2)/2で算出し、単位圧力(=0.1MPa)、単位時間、単位膜面積(外表面積換算)あたりに透過する純水量を算出した。
【0029】
(2)エアー発生圧力
水中に浸漬した中空糸膜(長さ1m)の両端の内側にエアーを徐々にかけ、中空糸膜の外表面から最初にエアーが発生する圧力を測定した。この圧力は、一般的にバブルポイントとして定義され、膜細孔径の算出に使用されているが、ピンホールを内在した膜等においては、バブルポイントよりも小さくなる。バブルポイントは、膜細孔径、膜と水との接触角、水の表面張力を用いて容易に算出できる。
【0030】
実施例1
ポリエーテルスルホン(住友化学製)22質量%、N-メチルピロリドン53質量%、エチレングリコール10質量%、ポリビニルピロリドン15質量%からなる製膜溶液(液状製膜組成物)を用いた。この製膜溶液を60℃に加温し、コーティング容器にギアポンプで圧送するとともに、コーティング容器の中央に、内径1.0mm、外径1.9mm、厚み0.45mmのテトロンスリーブ(組紐、繊維密度38目/インチ)を、9m/分の速度にて走行させて、テトロンスリーブ外表面側から製膜溶液を塗布した。
【0031】
塗布されたテトロンスリーブは、走行中スリットを通過し、過剰塗布溶液の除去/真円度、編肉度調整を行った後、60℃の水中で凝固/洗浄し、繊維強化型中空糸膜を得た。
【0032】
実施例2
ポリエーテルスルホン(住友化学製)22質量%、N-メチルピロリドン50質量%、エチレングリコール13質量%、ポリビニルピロリドン15質量%からなる製膜溶液(液状製膜組成物)を用い、実施例1と同様にして繊維強化型中空糸膜を得た。
【0033】
実施例3
ポリエーテルスルホン(住友化学製)22質量%、N-メチルピロリドン58質量%、エチレングリコール5質量%、ポリビニルピロリドン15質量%からなる製膜溶液(液状製膜組成物)を用い、1m/分の速度で走行させた以外は実施例1と同様にして繊維強化型中空糸膜を得た。
【0034】
比較例1
ポリエーテルスルホン(住友化学製)18質量%、ジメチルスルホキシド37質量%、ポリエチレングリコール(#200)45質量%からなる製膜溶液(液状製膜組成物)を用いた。この製膜溶液を80℃に加温し、コーティング容器にギアポンプで圧送するとともに、コーティング容器の中央に、内径1.0mm、外径1.9mm、厚み0.45mmのテトロンスリーブ(組紐、繊維密度38目/インチ)を、1m/分の速度にて走行させて、テトロンスリーブ外表面側から製膜溶液を塗布した。
【0035】
塗布されたテトロンスリーブは、走行中スリットを通過し、過剰塗布溶液の除去/真円度、編肉度調整を行った後、30℃の水中で凝固/洗浄し、繊維強化型中空糸膜を得た。
【0036】
比較例2
酢酸プロピオン酸セルロース(イーストマンケミカル製)21質量%、ジメチルスルホキシド72質量%、ポリエチレングリコール(#6000)5質量%、塩化カルシウム2質量%からなる製膜溶液(液状製膜組成物)を用いた。この製膜溶液を用いて、比較例1と同様の方法にて、中空糸膜を得た。
【0037】
上記実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた中空糸膜について、純水透過速度(0.1MPa下の値)及びエアー発生圧力を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組紐外表面に半透膜層を有しており、前記半透膜層が下記(a)〜(c)成分を含む液状製膜組成物から形成されたものである繊維強化型中空糸膜。
(a)ポリサルホン系樹脂及び/又はポリエーテルスルホン系樹脂15〜30質量%
(b)良溶媒40〜80質量%
(c)貧溶媒1〜45質量%(ポリアルキレングリコールは含まない)
【請求項2】
(b)成分の良溶媒が、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドから選ばれるものである請求項1記載の繊維強化型中空糸膜。
【請求項3】
(c)成分の貧溶媒がエチレングリコールである請求項1又は2記載の繊維強化型中空糸膜。
【請求項4】
(c)成分の貧溶媒がグリコール類とポリビニルピロリドンの組み合わせである請求項1又は2記載の繊維強化型中空糸膜。
【請求項5】
(c)成分の貧溶媒がエチレングリコールとポリビニルピロリドンの組み合わせである請求項1又は2記載の繊維強化型中空糸膜。
【請求項6】
組紐が、内径0.2〜3.0mmで、外径0.5〜5.0mmのものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維強化型中空糸膜。

【公開番号】特開2008−178869(P2008−178869A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330439(P2007−330439)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】