説明

繊維形成用樹脂組成物と同組成物を用いた溶融紡糸方法

【課題】製糸性と得られる繊維の強度及び伸度に優れ、しかも太さ斑の小さい蓄光顔料を含有したポリオレフィン系樹脂の繊維形成用樹脂組成物と同繊維形成用樹脂組成物を使用した複合溶融紡糸方法を提供する。
【解決手段】蓄光顔料を含有するポリオレフィン系樹脂からなる繊維形成用樹脂組成物にあって、前記蓄光顔料の粒子径が30μm以下であり、カールフィッシャー水分測定装置を用いて測定した前記繊維形成用樹脂組成物の300℃における水分率と200℃における水分率との差が200ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光顔料を含有した繊維を紡糸するために使用される繊維形成用樹脂組成物及びその繊維形成用樹脂組成物と熱可塑性樹脂組成物とを複合紡糸する蓄光顔料を含有した複合繊維の溶融紡糸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種繊維に高付加価値を付与するために、単に繊維を染色するだけではなく蓄光顔料を繊維に含有させることが試みられてきた。
【0003】
蓄光顔料として、式M1-X Al2 4-X (但し、式中のMはカルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素、Xは−0.33≦X≦0.60の範囲の数値を示す)で表される化合物を含有させた繊維製品が特開平8−127937号公報(特許文献1)に開示されている。この特許文献1に開示されている繊維製品は、前記式で表される蓄光顔料を添加したポリプロピレンを芯成分とし、高密度ポリエチレンを鞘成分として複合紡糸されている。特許文献1によれば、前記式で表される蓄光顔料を使用することにより、耐光性に優れ長時間の残光特性を有する繊維製品が得られるとしている。
【0004】
また、蓄光顔料を含有するポリエステル樹脂またはポリオレフィン樹脂を芯成分とし、蓄光顔料を含有しないポリエステル樹脂を鞘成分とした芯鞘型複合繊維が特開2004−52203号公報(特許文献2)に開示されている。この特許文献2に開示されている芯鞘型複合繊維は、鞘成分を構成するポリエステル樹脂がカルボン酸成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を0.3〜2.5モル%、アジピン酸成分を3〜15モル%共重合し、繰り返し単位の82.5〜96.7モル%がエチレンテレフタレートとなるように構成されている。特許文献2によれば、このようにして得られた親鞘型複合繊維は、通常のポリエステル繊維の染色条件で染色しても、染色工程中での高温の熱水によって蓄光顔料が加水分解することなく、染色後も十分な輝度を有した繊維が得られるとしている。
【0005】
更に、蓄光顔料を含有する繊維ではないが、上記特許文献1と同様の蓄光顔料を含有する蓄光シートが特開2004−154941号公報(特許文献3)に開示されている。この特許文献3に開示されている蓄光シートは、水分率が500ppm以下で、かつ、平均粒子径が0.1〜20μmの蓄光顔料を、20質量%以上含有する熱可塑性樹脂層から構成されている。特許文献3によれば、平均粒子径が0.1〜20μmという微粉状の蓄光顔料を熱可塑性樹脂に含有させるので、前記熱可塑性樹脂をシート化する際、大きな粒子径の蓄光顔料を含有させたものよりもシートの外観が良いものが得られるとしている。また、水分率が500ppm以下の蓄光顔料を使用するので、蓄光性顔料由来の水分がシート成形の際に発泡することによるシート外観の悪化を防ぐことができるとしている。
【特許文献1】特開平8−127937号公報
【特許文献2】特開2004−52203号公報
【特許文献3】特開2004−154941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に蓄光顔料は水分を含みやすく、特にアルカリ土類金属のアルミン酸塩からなる蓄光顔料は結晶水を含有している。そのため、特許文献1及び特許文献2に記載された繊維は、その紡糸時の設定温度によっては蓄光顔料から結晶水が遊離し、押出機の供給口から抜けきれない水分が、紡糸ノズルから水蒸気となって吐出されることにより、糸切れや糸斑が発生し、安定して紡糸できないという問題があった。
【0007】
また、特許文献3は、上述のとおり蓄光顔料を含有する蓄光シートに関する技術があって、特に蓄光シートにおける蓄光顔料の水分率を500ppm以下にすることで、蓄光顔料由来の水分によるシート成形時の不具合を回避することを目的としているものである。すなわち、この特許文献3に記載された発明にあっては、蓄光顔料に含まれている水分率に着目し、蓄光シートの成形時における水分による影響を排除しようとするものであり、こうした蓄光顔料に含まれる水分率を制御する特許文献3の蓄光シートの成形技術を単に溶融紡糸技術に適用しようとしても、シート成形と溶融紡糸との製法上における機構の相違、特に溶融樹脂を紡糸口金の極めて微細な吐出孔から高速で紡糸する溶融紡糸工程での製糸安定性を確保することは極めて難しい。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決し、糸切れや糸斑が発生することなく安定して紡糸可能な繊維形成用樹脂組成物を得るとともに、その繊維形成用樹脂組成物を用いた溶融紡糸方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的は、本願請求項1〜6に記載した構成を採用することにより効果的に達成することができる。
即ち、本発明の第1の主要な構成は、請求項1に記載したように蓄光顔料を含有するポリオレフィン系樹脂からなる繊維形成用樹脂組成物であって、前記蓄光顔料の粒子径が30μm以下であり、JIS K 0068に準じカールフィッシャー水分測定装置を用いて測定した前記繊維形成用樹脂組成物の300℃における水分率と200℃における水分率との差が200ppm以下であることを特徴としている。
【0010】
また、前記蓄光顔料が、式M1-X Al2 4-X (但し、式中のMはカルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素、Xは−0.33≦X≦0.60の範囲の数値を示す)で表される化合物であることが望ましい。
【0011】
更に、本発明の第2の主要な構成は、請求項4に記載したように蓄光顔料を含有するポリオレフィン系樹脂からなる繊維形成用樹脂組成物と、熱可塑性樹脂組成物とを複合紡糸する溶融紡糸方法であって、前記蓄光顔料の粒子径が30μm以下であり、前記繊維形成用樹脂組成物のカールフィッシャー水分測定措置を用いて測定した300℃における水分率と200℃における水分率との差が200ppm以下であることを特徴とする溶融紡糸方法にある。
【0012】
このとき使用する蓄光顔料としては、式M1-X Al2 4-X (但し、式中のMはカルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素、Xは−0.33≦X≦0.60の範囲の数値を示す)で表される化合物であることが望ましい。また、前記繊維形成用樹脂組成物は、溶融状態のポリオレフィン系樹脂に前記蓄光顔料を加え、シリンダー内部温度を250℃〜300℃に設定して混練して得ることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明にあって、繊維形成用樹脂組成物に含有されている蓄光性顔料の粒子径は30μm以下である。このため、前記繊維形成用組成物を用いて紡糸した際の、粒子径の影響による製糸性の低下を防ぐことができるとともに、紡糸後の繊維強度の低下を防ぐことができる。
【0014】
また、本発明の繊維形成用樹脂組成物は、カールフィッシャー水分測定装置を用いて測定した300℃における水分率と200℃における水分率との差が200ppm以下とされる。蓄光性顔料に含まれる結晶水は、通常、200℃以下では遊離せず、300℃以上で外部に放出される。本発明の蓄光顔料を含む繊維形成用樹脂組成物の紡糸温度は、例えば熱分解が低く安定して製糸可能なボリプロピレンやポリエチレンで260℃〜300℃である。従って、蓄光性顔料に含まれる水分は、蓄光性顔料から遊離はするものの外部には大量に放出されることはないが、それでも300℃における水分率と200℃における水分率とでは、その差が大きくなる。そこで、通常は上述の繊維形成用樹脂組成物は、例えば溶融状態にあるポリオレフィン系樹脂に蓄光顔料などの添加物を加えて高温下で混練し、混練の間に蓄光顔料に含まれる結晶水を放出させて除去する。
【0015】
このときのシリンダー内部の温度を制御することにより、蓄光顔料などに含まれる水分率を調整できる。本発明にあっては、カールフィッシャー水分測定装置を使って、前記混練されて得られた繊維形成用樹脂組成物を200℃と300℃の温度にて測定したときに得られる各水分率の差を200ppm以下となるように、前述のようにして蓄光顔料などに含まれる水分率を調整する。300℃における水分率と200℃における水分率の差が、200ppmを超えると、溶融紡糸した際に蓄光顔料から遊離する結晶水により、押出機の供給口から抜け切れない水分が、紡糸ノズルから水蒸気となって吐出されることにより、糸切れを起こしたり、糸斑が発生したりするため、安定して紡糸できない。
【0016】
本発明のようにポリオレフィン系樹脂を主成分とする繊維形成用樹脂組成物の紡糸温度の範囲内であって、しかも蓄光顔料から遊離する結晶水の量が増加する200℃と300℃の各測定水分率の差を200ppm以下として紡糸すれば、前記繊維形成用樹脂組成物から前記繊維形成用樹脂組成物に含まれる水分が遊離しやすくなり、紡糸ノズルから水蒸気となって吐出されることにより生じる糸切れや糸斑の発生を確実に防止することができ、安定した紡糸が可能となる。
【0017】
ポリオレフィン系樹脂と蓄光顔料とをシリンダー内で混練して繊維形成用樹脂組成物を製造するとき、シリンダーの内部温度が250℃より高いと蓄光顔料の結晶水の遊離が促進して効率的な除去が可能となるが、300℃を超えると繊維形成用樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂の熱分解が生じやすくなり、紡糸性や糸の物性が低下しやすくなり、以降の溶融紡糸工程における製糸安定性が得にくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の繊維形成用樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂と蓄光顔料とを含み、300℃における水分率と200℃における水分率の差が200ppm以下であることが必要である。
【0019】
ここでの水分率とは、カールフィッシャー水分測定装置(型式CA−06、三菱化学株式会社製)を用いて測定した水分率を指す。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンや、ポリエチレン、ポリブテン−1、ポリメチルペンテンなどのα−オレフィンのホモポリマー、コーポリマーなどの疎水性樹脂が挙げられ、300℃の高温においても、熱分解性が低く、安定して製糸可能である点でポリプロピレン、ポリエチレンが好ましい。
【0021】
300℃の高温での熱分解性については、熱重量測定装置(TG−DTA)による重量変化により、判定することができ、この重量変化が少ないほうが、熱分解性が低く安定である。ここでの熱重量測定装置(TG−DTA)による重量変化は、セイコーインスツルメンツ株式会社製TG/DTA6200を用いて測定した重量変化を指す。
【0022】
蓄光顔料としては、硫化化合物を主体として各種金属を賦活してなる蓄光顔料、アルカリ土類金属のアルミン酸塩に希土類元素で賦活した蓄光性蛍光体材料等が挙げられるが、化学的安定性、輝度特性の点からアルカリ土類金属のアルミン酸塩に希土類元素で賦活した蓄光性蛍光体材料、特に、M1-X Al2 4-X で表される化合物で、Mはカルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物を母結晶にしたものを用い、更にXが−0.33≦X≦0.60の範囲にある蓄光蛍光性材料であることが好ましく、その一例として、根本特殊化学株式会社製の蓄光顔料(商品名:ルミノーバ)が挙げられる。
【0023】
本発明の繊維形成用樹脂組成物は蓄光顔料を含み、熱可塑性樹脂と共に溶融紡糸に用いられるものであるが、通常、蓄光顔料は200℃未満では放出されず、200℃以上、300℃以下の温度で遊離して放出する結晶水を含有している。
【0024】
また、一般的に、蓄光顔料の粒子径は繊維形成時に大きな影響を及ぼすので、繊維形成には30μmを越すような粗大粒子を除去することが望ましい。より具体的には、素材粒子観察において#400メッシュのステンレス製金網に未通過粒子が無いことが望ましく、未通過粒子が存在すると糸切れを起こす原因となる。
【0025】
蓄光顔料を含む繊維形成用樹脂組成物を溶融紡糸する際に、前記蓄光顔料から遊離する水分のうち、押出機の供給口から抜け切れない水分が、紡糸ノズルから水蒸気となって吐出されることにより、糸切れや糸斑が発生し、安定した紡糸が困難となる。
【0026】
このため本発明では、300℃における水分率と200℃における水分率との差が200ppm以下であることが、繊維形成用樹脂組成物を用いて安定に溶融紡糸するために必要である。
【0027】
繊維形成用樹脂組成物中の蓄光顔料濃度は、特に限定されないが、10質量%〜75質量%の濃度が好ましい。更に好ましい濃度は、20質量%〜70質量%である。蓄光顔料濃度が、75質量%を超えると、蓄光顔料の硬度が高い為に加工機内の磨耗が起こりやすくなる。また、10質量%未満であると、繊維に成形された際、蓄光顔料濃度が低すぎるために、残光輝度が低くなりやすい。
【0028】
繊維形成用樹脂組成物は、融点、及びガラス転移温度が250℃〜300℃であれば、ポリオレフィン系樹脂と蓄光顔料以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の繊維形成用樹脂組成物は、例えば、溶融状態のポリオレフィン系樹脂に、蓄光顔料などの添加物を加え、混練する方法で得ることができる。
【0030】
このとき、シリンダー内部温度を250℃〜300℃に設定することで、蓄光顔料から結晶水を遊離させ、300℃における水分率と200℃における水分率の差が200ppm以下である繊維形成用樹脂組成物が得られる。
【0031】
シリンダー内部温度が250℃未満では蓄光顔料の結晶水を取り除くのに不十分な温度であり、また300℃を超えると繊維形成用樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂の熱分解により紡糸性や糸の物性が低下しやすくなるので好ましくない。
【0032】
次に、本発明の繊維形成用樹脂組成物と熱可塑性樹脂組成物とを複合紡糸する溶融紡糸方法について説明する。
本発明の繊維形成用樹脂組成物は単独でも溶融紡糸可能であるが、蓄光顔料は一般に高価であるから、繊維中の含有量を低く抑え、コスト低減を図るために複合紡糸することが好ましく、特に芯鞘型複合紡糸とすることがより好ましい。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、融点が200℃〜300℃のポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ナイロンなどの、ホモポリマー、共重合体、およびこれらの変性体が挙げられる。
【0034】
紡糸手段には特に制限は無く、一般に良く知られた紡糸製造装置を用いて溶融紡糸を行うことができる。溶融紡糸温度としては、300℃以下とすることが好ましい。300℃を超えると、繊維形成用樹脂組成物に使用されるポリオレフィン系樹脂が熱劣化を起こすため製糸性が低下する。
【0035】
溶融紡糸して得られた未延伸糸は、延伸倍率2〜4倍、延伸温度70℃〜100℃、熱セット温度100℃〜200℃の条件下で延伸を行い、蓄光繊維を得ることができる。このとき延伸倍率が2倍未満であると得られる繊維の強度が低くなり、4倍を超えると製糸安定性が低下しやすい。延伸温度が70℃未満では、均一延伸ができないため繊維軸方向に太細斑が発生し、繊維強度の低下や、染色時の色斑を起こす。延伸温度が100℃を超える場合も、均一延伸が行われず、同様の問題が発生しやすい。
【0036】
さらに、熱セット温度が100℃未満であると、熱収縮率が高くなり、製品に加工した後の寸法安定性が不十分なものとなりやすい。また、延伸温度が200℃を超えると製糸安定性が低下する。さらに好ましい延伸温度範囲は75℃〜90℃、熱セット温度は100℃〜180℃である。
また、紡糸、延伸を連続したプロセスで行っても同様な蓄光性繊維を得ることができる。
【実施例】
【0037】
次に実施例、比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
なお、実施例、比較例中の各種評価方法は、下記の方法で行った。
(繊維の強度及び伸度)
島津製作所製オートグラフSD−100Cで、試料長20cm、引張速度20cm/分で測定した値である。
(糸斑)
糸斑は、計測器工業株式会社製のイーブンネステスターKET−80Cを用いて、糸速15m/分、チャートスピード10cm/分の条件下でチャートを描かせ、ウースターノルマル値を測定して得られた数値であり、太さ斑の大きさを示す指標となるものである。
(製糸性)
紡糸の際に、1錘・1時間あたりの糸切れが1回以上生じた場合を×とした。
(粗大粒子観察)
顔料50gをアルコール150ml中で攪拌し、ステンレス製、#400メッシュの金網を通過させ、未通過品を顕微鏡で観察した。
【0038】
〔実施例1〕
蓄光顔料(商品名:ルミノーバ G−400FFS、根本特殊化学株式会社製)を、カールフィッシャー水分測定装置(型式CA−06、三菱化学株式会社製)にて温度200℃及び300℃の水分率を測定した結果、各々の水分率は1,084ppm、1,411ppmであり、その水分率差は327ppmであった。前記蓄光顔料は、300℃において分解しないため、結晶水などの水分を含んでいると考えられる。前記蓄光顔料について、粗大粒子観察を行った結果、粗大粒子は観察されなかった。
【0039】
ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン樹脂(SA01、日本ポリプロ(株)製、MFR=9、融点165℃)を用い、45mmφ2軸押出機にてシリンダー設定温度280℃として、蓄光顔料を添加量40質量%にて混練し、繊維形成用樹脂組成物を得た。同繊維形成用樹脂組成物を蓄光顔料の水分率測定と同様に、200℃及び300℃の水分率を測定した結果、107ppm、200ppmであり、その水分率差は93ppmであった。
【0040】
前記繊維形成用樹脂組成物を芯成分に配し、鞘成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分として5−スルホイソフタル酸ジメチルエステル、ナトリウム塩(DMS)を1.0モル%、アジピン酸成分としてアジピン酸ジエチロールを5モル%共重合したポリエチレンテレフタレート樹脂(融点244℃)を使用し、芯鞘比率(容積比)1/1.6で、285℃の温度で溶融し、直径0.30mmの丸断面、24ホールのノズルにより複合紡糸し、引取速度1400m/分で巻き取った。
【0041】
さらに、前記未延伸糸を延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍で延伸し、引き続き160℃の温度で熱セットし、133dtex/24フィラメントの繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示した。また、繊維形成用樹脂組成物のMFRを測定したところ、12.4であった。
【0042】
〔実施例2〕
実施例1において、45mmφ2軸押出機シリンダーの設定温度を250℃とした以外は、実施例1と同様に混練し、繊維成形用樹脂組成物を得た。繊維成形用樹脂組成物の200℃及び300℃の寸分立を測定下結果、118ppm、293ppmであり、その水分率差は175ppmであった。前記繊維成形用樹脂組成物を、実施例1と同様に製糸した。結果を表1示す。また、繊維成形用樹脂組成物のMFRを測定したところ、10.4であった。
【0043】
〔比較例1〕
実施例1の45mmφ2軸押出機のシリンダー温度を220℃とした以外は、実施例1と同様に混練し、繊維形成用樹脂組成物を得た。得られた繊維形成用樹脂組成物の200℃及び300℃の水分率を測定した結果、230ppm、470ppmであり、その水分率差は240ppmであった。
【0044】
得られた繊維形成用樹脂組成物を、実施例1と同様に製糸した結果、溶融紡糸の際に糸切れが発生し、また繊維の太さ斑が生じ、製糸性が不良であった。結果を表1に示す。また、繊維形成用樹脂組成物のMFRを測定したところ、9.1であった。
【0045】
〔比較例2〕
実施例1の蓄光顔料を湿度80%、温度25℃の雰囲気中に36時間放置し、200℃及び300℃の水分率を測定した結果、3,225ppm、4,825ppmであり、その水分率差は1,600ppmであった。この蓄光顔料を用いて、実施例1の45mmΦ2軸押出機シリンダー設定温度を300℃とした以外は、実施例1と同様に混練し、繊維形成用樹脂組成物を得た。
【0046】
得られた繊維形成用樹脂組成物の200℃及び300℃の水分率を測定した結果、161ppm、474ppmでありその水分率差は313ppmであった。得られた繊維形成用樹脂組成物を用い、実施例1と同様に製糸した。結果を表1に示す。同表1に示すように、比較例1と同様に繊維の太さ斑が生じ、製糸性が不良であった。また、繊維形成用樹脂組成物のMFRを測定したところ、19.4であった。
【0047】
〔比較例3〕
実施例1の蓄光顔料を湿度80%、温度25℃の雰囲気中に12時間放置し、200℃及び300℃の水分率を測定した結果、3,210ppm、3,982ppmでありその水分率差は、772ppmであった。この蓄光顔料を用いて、実施例1の45mmφ2軸押出機シリンダー設定温度を280℃とした以外は、実施例1と同様に混練し、繊維形成用樹脂組成物を得た。
【0048】
得られた繊維形成用樹脂組成物の200℃及び300℃の水分率を測定した結果、358ppm、774ppmでありその水分率差は416ppmであった。得られた繊維形成用樹脂組成物を用い、実施例1と同様に製糸した。その結果を表1に示す。製糸性に関しては、比較例1及び2と同様に不良であり、繊維強度及び伸度は比較例1及び2より低く、繊維の太さ斑に関しても比較例及び2よりも多いことが理解できる。なお、繊維形成用樹脂組成物のMFRを測定したところ、12.1であった。
【0049】
〔実施例3〕
比較例3で作成した繊維形成用樹脂組成物を、再度、シリンダー設定温度を280℃とした45mmφ2軸押出機で溶融加工を行い、繊維形成用樹脂組成物を得た。得られた繊維形成用樹脂組成物の200℃及び300℃の水分率を測定した結果、76ppm、246ppmであり、その水分率差は170ppmであった。
【0050】
繊維形成用樹脂組成物のMFRを測定したところ、41.9であった。同繊維形成用樹脂組成物を用いて、繊維として実施例1と同様に製糸した結果を表1に示す。本実施例にあっても、繊維の太さ斑なく良好に製糸できた。
【0051】
【表1】

【0052】
図1〜図3に、上記実施例1〜3及び比較例1〜3の水分率差に基づく伸度、太さ斑及び繊維強度の変化を示している。
これらの図から、カールフィッシャー水分測定装置を用いて測定した前記繊維形成用樹脂組成物の300℃における水分率と200℃における水分率との差が200ppmを越えると、繊維の伸度(%)及び強度(cn/dtex)が低くなり、太さ斑(U%)も多くなることが伺える。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、本発明の技術思想を適用できる樹脂組成物等に対しては、本発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】蓄光顔料を含有するポリオレフィン系樹脂からなる繊維形成用樹脂組成物の水分率差に基づく本発明の実施例と比較例との繊維伸度の差異を説明するグラフである。
【図2】蓄光顔料を含有するポリオレフィン系樹脂からなる繊維形成用樹脂組成物の水分率差に基づく本発明の実施例と比較例との繊維太さ斑(U%)の差異を説明するグラフである。
【図3】蓄光顔料を含有するポリオレフィン系樹脂からなる繊維形成用樹脂組成物の水分率差に基づく本発明の実施例と比較例との繊維強度の差異を説明するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄光顔料を含有するポリオレフィン系樹脂からなる繊維形成用樹脂組成物であって、前記蓄光顔料の粒子径が30μm以下であり、カールフィッシャー水分測定装置を用いて測定した前記繊維形成用樹脂組成物の300℃における水分率と200℃における水分率との差が200ppm以下であることを特徴とする繊維形成用樹脂組成物。
【請求項2】
前記蓄光顔料が、式M1-X Al2 4-X (但し、式中のMはカルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素、Xは−0.33≦X≦0.60の範囲の数値を示す)で表される化合物である請求項1に記載の繊維形成用樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂と蓄光顔料を押出機で混練する際にシリンダー内部温度を250℃〜300℃として混練することにより得た請求項1又は2に記載の繊維形成用樹脂組成物。
【請求項4】
蓄光顔料を含有するポリオレフィン系樹脂からなる繊維形成用樹脂組成物と熱可塑性樹脂組成物とを複合紡糸する溶融紡糸方法であって、前記蓄光顔料の粒子径が30μm以下であり、前記繊維形成用樹脂組成物のカールフィッシャー水分測定措置を用いて測定した300℃における水分率と200℃における水分率との差が200ppm以下であることを特徴とする溶融紡糸方法。
【請求項5】
前記蓄光顔料が、式M1-X Al2 4-X (但し、式中のMはカルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素、Xは−0.33≦X≦0.60の範囲の数値を示す)で表される化合物である請求項4に記載の溶融紡糸方法。
【請求項6】
前記繊維形成用樹脂組成物を、ポリオレフィン系樹脂と蓄光顔料を押出機で混練する際にシリンダー内部温度を250℃〜300℃として混練し製造することを含んでなる請求項4又は5に記載の溶融紡糸方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−50706(P2008−50706A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225745(P2006−225745)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】