説明

繊維構造体、繊維強化複合材、繊維構造体の製造方法及び繊維強化複合材の製造方法

【課題】繊維構造体の三次元曲げの曲げ易さを保障できるようにする。
【解決手段】シート形状の繊維構造体11は、基本厚みtを有する基本部111と、基本部111の厚みtよりも厚い第1増厚部112と、第1増厚部112よりも厚い第2増厚部114とからなる。第1増厚部112には複数の切り込みK1が設けられており、第2増厚部114には複数の切り込みK2が設けられている。切り込みK1,K2は、繊維構造体11の厚み方向に繊維構造体11を貫通している。矢印Yの方向における切り込みK1の散在の密度は、第2増厚部114に近いほど、高くなるように設定されている。繊維構造体11Aは、シート形状の繊維構造体11を三次元的に折り曲げた三次元曲げ構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂強化用の繊維構造体、繊維構造体によって樹脂を強化した繊維強化複合材、繊維構造体の製造方法及び繊維強化複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等からなるシート形状の繊維構造体を強化材として樹脂を強化した繊維強化複合材を折り曲げ形状に形成するには、繊維強化複合材の所望の形状がもたらされるように繊維構造体を予め折り曲げておく必要がある。繊維構造体が樹脂の強化に優れた連続繊維によって構成されている場合には、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が殆ど伸びないために、繊維構造体の曲げ方によっては非常に曲げ難い場合がある。例えば、平らなシート形状の繊維構造体を最初に90°に折り曲げた後に、この折り曲げ線を曲げるように繊維構造体を曲げるのは、前記折り曲げ線における連続繊維が伸びないために、非常に難しい。平らなシート形状の繊維構造体を最初に曲げたときの曲げを二次元曲げと言うことにすると共に、二次元曲げにおける曲げ方向線を曲げたときの曲げを三次元曲げと言うことにすると、繊維構造体の三次元曲げは、非常に難しい。
【0003】
特許文献1では、殆ど伸びのない連続繊維で構成された繊維構造体の所定領域の連続繊維を切断しておき、これにより繊維構造体を曲げ易くする技術思想が開示されている。
【特許文献1】特開2004−34592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維構造体を曲げ易くするための前記切断の位置は、繊維構造体の三次元曲げの方向を考慮して決めなければならない。しかし、特許文献1では、連続繊維を切断しておく前記所定領域としては変形が必要な領域との記載があるのみであり、繊維構造体の三次元曲げの曲げ易さが保障されてはいない。
【0005】
本発明は、繊維構造体の三次元曲げの曲げ易さを保障できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1乃至請求項3の発明は、連続繊維からなる強化繊維層によって樹脂を強化した繊維強化複合材の強化材であって、二次元曲げ領域と、三次元曲げ方向に曲げられる三次元曲げ領域とを生じる三次元曲げ構造を付与される繊維構造体の製造方法を対象とし、請求項1の発明では、連続繊維を配列して前記強化繊維層を形成する層形成工程と、前記繊維構造体の前記二次元曲げ領域と前記三次元曲げ領域とに散在するように、且つ前記三次元曲げ領域の変形量の小さい方から大きい方へ向かうにつれて密度を高めるように、前記二次元曲げ領域と前記三次元曲げ領域との前記強化繊維層に切り込みを入れる切り込み付与工程と、前記切り込み付与工程を経て製造された繊維構造体に三次元曲げ構造を付与する変形工程とを備える。
【0007】
このような工程を経て散在された切り込みは、繊維構造体の三次元曲げの曲げ易さを保障し、三次元曲げ構造の繊維構造体の生産性が向上する。
好適な例では、前記層形成工程は、前記三次元曲げ領域に補強繊維層を形成する工程を含む。
【0008】
強化繊維層を形成する層形成工程中に補強繊維層を形成する工程を含む製造方法は、補強繊維層の形成を容易にする。
好適な例では、前記三次元曲げ方向の曲げ部分に補強繊維層を追加する追加工程を備える。
【0009】
請求項4乃至請求項6は、連続繊維からなる強化繊維層によって樹脂を強化した繊維強化複合材の強化材であって、二次元曲げ領域と、三次元曲げ方向に曲げられる三次元曲げ領域とを生じる三次元曲げ構造を付与される繊維構造体であって、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される。
【0010】
上記のように散在する切り込みは、繊維構造体の三次元曲げの曲げ易さを保障する。
請求項7及び請求項8の発明は、繊維構造体によって樹脂を強化した繊維強化複合材の製造方法を対象とし、請求項7では、連続繊維を配列して前記強化繊維層を形成する層形成工程と、前記繊維構造体の前記二次元曲げ領域と前記三次元曲げ領域とに散在するように、且つ前記三次元曲げ領域の変形量の小さい方から大きい方へ向かうにつれて密度を高めるように、前記二次元曲げ領域と前記三次元曲げ領域との前記強化繊維層に切り込みを入れる切り込み付与工程と、前記切り込み付与工程を経て製造された繊維構造体に三次元曲げ構造を付与する変形工程と、前記変形工程を経て三次元曲げ構造を付与された繊維構造体を樹脂に含浸させる含浸工程とを備える。
【0011】
このような製造方法は、三次元曲げ構造を有する繊維強化複合材の生産性の向上に寄与する。
好適な例では、前記層形成工程は、前記三次元曲げ領域に補強繊維層を形成する工程を含む。
【0012】
強化繊維層を形成する層形成工程中に補強繊維層を形成する工程を含む製造方法は、繊維強化複合材の形成を容易にする。
請求項9及び請求項10は、繊維構造体によって樹脂を強化した繊維強化複合材であって、請求項7及び請求項8のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、繊維構造体の三次元曲げの曲げ易さを保障できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
図1(a),(b)は、シート形状の繊維構造体11を示す。繊維構造体11は、基本厚みtを有する基本部111と、基本部111の厚みtよりも厚い第1増厚部112と、第1増厚部112よりも厚い第2増厚部114とからなる。第1増厚部112には複数の切り込みK1が設けられており、第2増厚部114には複数の切り込みK2が設けられている。切り込みK1,K2は、繊維構造体11の厚み方向に繊維構造体11を貫通している。
【0015】
切り込みK2は、矢印Yで示す方向に均等に散在していると共に、矢印Xで示す方向にも均等に散在している。矢印Yの方向における切り込みK1の散在の密度は、第2増厚部114に近いほど、高くなるように設定されている。矢印Yの方向における切り込みK2の密度は、矢印Yの方向における切り込みK1の密度よりも高くなるように設定されている。又、矢印Yの方向における切り込みK2の密度は、矢印Yの方向における切り込みK1の最大密度と同等以上となるように設定されている。
【0016】
図1(c),(d)は、繊維構造体11に三次元曲げを行なった三次元曲げ構造の繊維構造体11Aを示す。図2(a),(b)は、繊維構造体11に二次元曲げを行なった二次元曲げ構造の繊維構造体11Bを示す。図示の例では、繊維構造体11Bの二次元曲げ構造は、矢印Xの方向に向かう途中で屈曲させた構造となっている。繊維構造体11Aの三次元曲げ構造は、二次元曲げ構造の繊維構造体11Bを矢印Yの方向に向かうにつれて湾曲するように曲げた構造と実質的に同じである。三次元曲げとは、或る曲げ方向の二次元曲げと、これとは別の曲げ方向とを行なうことである。
【0017】
図1(c),(d)に示す三次元曲げ構造の繊維構造体11Aの二次元曲げ方向とは、X方向のことであり、三次元曲げ方向とは、Y方向のことである。繊維構造体11Aの曲げ部分115は、第2増厚部114に対応し、繊維構造体11Aの側壁116は、第1増厚部112に対応する。つまり、曲げ部分115及び側壁116は、三次元曲げによって、第2増厚部114及び第1増厚部112がX方向に伸びた部分である。曲げ部分115(第2増厚部114)及び側壁116(第1増厚部112)は、三次元曲げ方向に曲げられる領域内に生じる伸び変形領域である。
【0018】
図3に示すように、繊維構造体11は、樹脂強化用の繊維束121,131からなる複数の強化繊維層12,13と、樹脂強化用の繊維束141,151からなる複数の補強繊維層14,15と、熱可塑性樹脂製の繊維束161,171,181,191からなる複数の樹脂繊維層16,17,18,19と、抜け止め糸20と、拘束糸21とから構成されている。繊維束121〜191、抜け止め糸20及び拘束糸21は、連続繊維からなる。拘束糸21は、樹脂繊維層16の外側で抜け止め糸20を跨ぐように折り返されている。つまり、拘束糸21は、強化繊維層12,13、補強繊維層14,15、及び樹脂繊維層16〜19を積層状態に結合する。
【0019】
繊維束121〜151としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維束が用いられる。抜け止め糸20及び拘束糸21も炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維が用いられる。
【0020】
図4(a),(b)は、三次元曲げ構造の繊維構造体11Aに樹脂(本実施形態では熱可塑性樹脂)を含浸させて形成された繊維強化複合材10を示す。
図5は、繊維強化複合材10の製造工程(繊維構造体11,11Aの製造工程を含む)のフローチャートである。以下に積層工程について説明する。
【0021】
図6(a)に示すように、矩形状の枠体22に所定ピッチで立設された多数のピン23に繊維束161を折り返し係合させてX方向に引き揃えて配列することによって樹脂繊維層16が形成される。繊維束161は、同じ層(樹脂繊維層16)内で平行に配列されている。
【0022】
樹脂繊維層16の形成後、ピン23に繊維束121を折り返し係合させてX方向に引き揃えて配列することによって樹脂繊維層16の上に強化繊維層12が形成される。繊維束121は、同じ層(強化繊維層12)内で平行に配列されている。
【0023】
強化繊維層12の形成後、図6(b)に示すように、ピン23に繊維束171を折り返し係合させてX方向に引き揃えて配列することによって強化繊維層12の上に樹脂繊維層17が形成される。繊維束171は、同じ層(樹脂繊維層17)内で平行に配列されている。
【0024】
樹脂繊維層17の形成後、ピン23に繊維束131を折り返し係合させてY方向に引き揃えて配列することによって樹脂繊維層17の上に強化繊維層13が形成される。繊維束131は、同じ層(強化繊維層13)内で平行に配列されている。
【0025】
強化繊維層13の形成後、図7(a)に示すように、ピン23に繊維束181を折り返し係合させてX方向に引き揃えて配列することによって繊維層13の上に樹脂繊維層18が形成される。繊維束181は、同じ層(樹脂繊維層18)内で平行に配列されている。
【0026】
樹脂繊維層18の形成後、ピン23に繊維束141を折り返し係合させてY方向に引き揃えて配列することによって樹脂繊維層18の上に第1補強繊維層14が形成される。繊維束141は、同じ層(第1補強繊維層14)内で平行に配列されている。第1補強繊維層14は、強化繊維層12,13と共に第1増厚部112を構成する。
【0027】
第1補強繊維層14の形成後、図7(b)に示すように、ピン23に繊維束191を折り返し係合させてY方向に引き揃えて配列することによって第1補強繊維層14の上に樹脂繊維層19が形成される。繊維束191は、同じ層(樹脂繊維層19)内で平行に配列されている。
【0028】
樹脂繊維層19の形成後、ピン23に繊維束151を折り返し係合させてY方向に引き揃えて配列することによって樹脂繊維層19の上に第2補強繊維層15が形成される。繊維束151は、同じ層(第2補強繊維層15)内で平行に配列されている。第2補強繊維層15は、強化繊維層12,13及び第1補強繊維層14と共に第2増厚部114を構成する。
【0029】
以上により層形成工程が終了する。
次に、挿入工程について説明する。
拘束糸21は、積層された強化繊維層12,13、樹脂繊維層16〜19、第1,2補強繊維層14,15に挿入される。つまり、挿入針の先端にある孔に拘束糸21を係止した状態で、繊維層12〜19の積層方向に挿入針が挿入され、挿入針の孔が樹脂繊維層16を貫通する位置まで挿入針が前進される。その後、挿入針が僅かに後退され、拘束糸21がU字状のループを形成した状態となる。次いで、抜け止め糸針が拘束糸21のU字状のループ内を通過され、繊維層12,13の端部まで到達した時点で停止される。このとき、抜け止め糸20が抜け止め糸針の先端に係止される。そして、抜け止め糸針が引き戻され、抜け止め糸20が拘束糸21のU字状のループ内に挿通された状態となる。この状態で挿入針が引き戻される。これにより、抜け止め糸20が拘束糸21により締め付けられて繊維構造体11が製作される。
【0030】
挿入工程の終了後、前記挿入針に代えて取り付けられたニードルパンチ(図示略)が繊維構造体11の厚み方向(積層方向)に挿入されて引き戻される。これにより繊維構造体11には切り込みK1,K2が付与される。切り込みK1,K2は、連続繊維の繊維束121〜191を切断している。
【0031】
切り込み付与工程の終了後、繊維構造体11は、固定型と可動型とを備えたプレス型(図示略)の固定型内に入れられ、プレス型に入れられた繊維構造体11は、加熱されると共に、可動型のプレス動作によって加圧を受ける(加熱・加圧工程)。この場合の加熱温度は、樹脂繊維層16〜19の材質である熱可塑性樹脂の溶融温度以上である。加熱・加圧工程は、繊維構造体11に三次元曲げ構造を付与する変形工程であり、且つ繊維構造体11に熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程である。
【0032】
樹脂繊維層16〜19が完全に溶融すると見なされる時間が経過すると、加熱・加圧を受けた繊維構造体11は、プレス型内で冷却される(冷却工程)。加熱・加圧を受けた繊維構造体11が冷却されて熱可塑性樹脂が固化すると、図4(a),(b)に示す繊維強化複合材10が形成される。
【0033】
図1(c)に示す曲げ部分115(第2増厚部114)は、層形成工程において平行に配列された繊維束121〜191が三次元曲げによっても平行性を失わない二次元曲げ領域である。換言すると、二次元曲げ領域は、隣り合う一対の繊維束の間隔が一定である領域である。
【0034】
側壁116(第1増厚部112)は、層形成工程において平行に配列された繊維束121〜191が三次元曲げによって少なくとも部分的に平行性を失う三次元曲げ領域である。換言すると、三次元曲げ領域は、隣り合う一対の繊維束の間隔が一定でない領域を少なくとも部分的に含む領域である。
【0035】
第1補強繊維層14は、二次元曲げ領域と三次元曲げ領域とにわたって設けられている。
繊維構造体11Aの二次元曲げ領域と三次元曲げ領域とに散在された切り込みK1,K2の密度は、三次元曲げ領域の変形量の小さい方(基板部111側)から大きい方(曲げ部分115側)へ向かうにつれて高くなるように設定されている。
【0036】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)繊維構造体11を構成する強化繊維層12,13、補強繊維層14,15及び樹脂繊維層16〜19は、繊維構造体11の三次元曲げによって生じる伸び変形領域(曲げ部分115及び側壁116)三次元曲げ方向に散在するように切り込みK1,K2を入れられている。このような切り込みK1,K2が繊維構造体11にないとすると、繊維構造体11に三次元曲げ構造を付与しようとしても、繊維構造体11を伸ばすことが難しく、繊維構造体11に皺ができてしまう。三次元曲げ方向(Y方向)に散在する切り込みK1,K2は、三次元曲げ方向(Y方向)に繊維構造体11を曲げて繊維構造体11に三次元曲げ構造を付与しようとした場合に繊維構造体11の伸び(Y方向への伸び)を許容するため、繊維構造体11に皺を作ることなく繊維構造体11に三次元曲げ構造を付与することができる。つまり、繊維構造体11に三次元曲げ構造を付与する際の曲げ易さが保障される。繊維構造体11に三次元曲げ構造を付与する際に曲げ易いということは、三次元曲げ構造を有する繊維構造体11の生産性の向上に寄与する。
【0037】
三次元曲げ方向(Y方向)における切り込みK1,K2の密度は、三次元曲げ領域の変形量の小さい方(基板部111側)から大きい方(曲げ部分115側)へ向かうにつれて高くなる。このように密度に変化をもたせて切り込みK1,K2を散在させる構成は、切り込みK1,K2の平均密度を減らして繊維構造体11の強度低下を抑制する上で有利である。
【0038】
(2)三次元曲げによって繊維構造体11が伸ばされて薄くなると、三次元曲げ構造の繊維構造体11Aの強度が低下する。補強繊維層14,15は、三次元曲げによる繊維構造体11Aの伸び変形領域(曲げ部分115)の強度低下を補償する。
【0039】
(3)密度に変化をもたせて切り込みK1,K2を散在させた三次元曲げ構造の繊維構造体11Aを強化材として用いた繊維強化複合材10は、強度に優れている。
(4)補強繊維層14,15は、強化繊維層12,13の形成を行なう層形成工程中に、強化繊維層12,13の形成と同様の方法で行われるため、補強繊維層14,15の形成が容易である。
【0040】
(5)拘束糸21の挿入針は、樹脂繊維層16〜19と強化繊維層12,13と補強繊維層14,15との積層構造体を挿通し易い。しかも、樹脂繊維層16〜19は、樹脂強化用の連続繊維(繊維束121〜151)を配列して強化繊維層12,13と補強繊維層14,15とを形成する過程で、熱可塑性樹脂製の連続繊維(繊維束161〜191)を配列して形成することができ、樹脂繊維層16〜19の形成が容易である。従って、繊維構造体11の生産性が向上する。
【0041】
(6)生産性に有利な繊維構造体11を加熱・加圧して繊維強化複合材10を製造する方法は、繊維強化複合材10の生産性の向上に寄与する。
次に、図8及び図9の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合を用い、その詳細説明は省略する。
【0042】
図8(a),(b)は、シート形状の繊維構造体11Cを示す。繊維構造体11Cは、第1の実施形態における強化繊維層と樹脂繊維層とを積層した構造となっており、繊維構造体11Cの厚みは、どこも同じである。切り込みK1,K2の散在具合は、第1の実施形態の場合と同じである。
【0043】
図8(c),(d)は、繊維構造体11Cに三次元曲げを行なった三次元曲げ構造の繊維構造体11Dを示す。図9(a),(b)は、三次元曲げ構造の繊維構造体11Dの曲げ部分115に補強繊維層24を付加した繊維構造体11Eを示す。曲げ部分115は、三次元曲げによって伸ばされて薄くなる。補強繊維層24は、曲げ部分115の引き伸ばしによる強度低下を補償する。曲げ部分115に補強繊維層24を追加する追加工程は、挿入工程完了後、且つ切り込み付与工程前に行われる。
【0044】
図9(c),(d)は、繊維構造体11Cに二次元曲げを行なった二次元曲げ構造の繊維構造体11Fを示す。図示の例では、繊維構造体11Fの二次元曲げ構造は、矢印Xの方向に向かう途中で屈曲させた構造となっている。繊維構造体11Dの三次元曲げ構造は、二次元曲げ構造の繊維構造体11Fを矢印Yの方向に向かうにつれて湾曲するように曲げた構造と実質的に同じである。
【0045】
繊維構造体11E形成後の繊維強化複合材の形成は、第1の実施形態の場合と同様に行われる。
第2の実施形態では、第1の実施形態における(1)(2),(3),(5),(6)と同様の効果が得られる。
【0046】
本発明では以下のような実施形態も可能である。
○第1,2の実施形態において、繊維構造体11,11Cに図2及び図9(c),(d)のように二次元曲げを行なって繊維構造体11Fを形成した後、繊維構造体11Fに三次元曲げを行なって三次元曲げ構造の繊維構造体11A〔図1(c)参照〕,11D〔図8(c)参照〕を得るようにしてもよい。
【0047】
○補強繊維層24を追加する追加工程は、切り込み付与工程後に行なってもよい。
○Y方向に対して斜交する方向に繊維束を引き揃えて補強繊維層を形成するようにしたり、X方向に繊維束を引き揃えて補強繊維層を形成するようにしてもよい。又、図6,7に示すピンとは別に、枠体22の内側に複数のピンを配置してこれらのピンに繊維束を折り返し係合させて補強繊維層を形成するようにしてもよい。
【0048】
○第2の実施形態において、三次元曲げ領域である側壁116にも補強繊維層24を設けてもよい。
○第1,2の実施形態において、樹脂繊維層16〜19を形成する代わりに、熱可塑性樹脂フィルムを用いてもよい。
【0049】
○強化繊維層によって強化する樹脂は、熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂)であってもよい。この場合、三次元曲げ構造を有する繊維構造体を成形型内に入れておき、この成形型内に熱硬化性樹脂を注入して繊維構造体に含浸させた後、熱硬化性樹脂を加熱硬化させればよい。
【0050】
前記した実施形態から把握できる技術思想について以下にその効果とともに記載する。
〔1〕連続繊維からなる強化繊維層によって樹脂を強化した繊維強化複合材の強化材であって、二次元曲げ領域と、三次元曲げ方向に曲げられる三次元曲げ領域とを生じる三次元曲げ構造を付与される繊維構造体において、
前記強化繊維層は、前記繊維構造体の前記二次元曲げ領域と前記三次元曲げ領域とに散在するように切り込みを入れられており、前記切り込みの密度は、前記三次元曲げ領域の変形量の小さい方から大きい方へ向かうにつれて高くなる繊維構造体。
【0051】
上記のように散在する切り込みは、繊維構造体の三次元曲げの曲げ易さを保障する。
〔2〕前記三次元曲げ領域に補強繊維層が設けられている前記〔1〕項に記載の繊維構造体。
【0052】
三次元曲げによって繊維構造体が伸ばされて薄くなると、三次元曲げ構造の繊維構造体の強度が低下する。補強繊維層は、三次元曲げによる繊維構造体の強度の低下を抑制する。
【0053】
〔3〕前記〔1〕,〔2〕項のいずれか1項に記載の繊維構造体によって樹脂を強化した繊維強化複合材。
3次元曲げ構造の繊維構造体を強化材とする繊維強化複合材の形成が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1の実施形態を示し、(a)は、シート形状の繊維構造体の斜視図。(b)は、図1(a)のA−A線断面図。(c)は、三次元曲げ構造を有する繊維構造体の斜視図。(d)は、図1(c)のB−B線断面図。
【図2】(a)は、二次元曲げ構造を有する繊維構造体の斜視図。(b)は、図2(a)のC−C線断面図。
【図3】シート形状の繊維構造体の側断面図。
【図4】(a)は、繊維強化複合材の斜視図。(b)は、図4(a)のD−D線断面図。
【図5】繊維構造体の製造方法、及び繊維強化複合材の製造方法を示すフローチャート。
【図6】(a),(b)は、樹脂繊維層及び強化繊維層の形成を説明するための平面図。
【図7】(a),(b)は、補強繊維層の形成を説明するための平面図。
【図8】第2の実施形態を示し、(a)は、シート形状の繊維構造体の斜視図。(b)は、図8(a)のE−E線断面図。(c)は、三次元曲げ構造を有する繊維構造体の斜視図。(d)は、図8(c)のG−G線断面図。
【図9】(a)は、三次元曲げ構造を有する繊維構造体の斜視図。(b)は、図9(c)のH−H線断面図。(c)は、二次元曲げ構造を有する繊維構造体の斜視図。(d)は、図9(c)のF−F線断面図。
【符号の説明】
【0055】
10…繊維強化複合材。11,11A,11C,11D,11E…繊維構造体。115…伸び変形領域である曲げ部分。116…伸び変形領域である側壁。12,13…強化繊維層。121〜151…連続繊維である繊維束。14,15,24…補強繊維層。K1,K2…切り込み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続繊維からなる強化繊維層によって樹脂を強化した繊維強化複合材の強化材であって、二次元曲げ領域と、三次元曲げ方向に曲げられる三次元曲げ領域とを生じる三次元曲げ構造を付与される繊維構造体の製造方法において、
連続繊維を配列して前記強化繊維層を形成する層形成工程と、
前記繊維構造体の前記二次元曲げ領域と前記三次元曲げ領域とに散在するように、且つ前記三次元曲げ領域の変形量の小さい方から大きい方へ向かうにつれて密度を高めるように、前記二次元曲げ領域と前記三次元曲げ領域との前記強化繊維層に切り込みを入れる切り込み付与工程と、
前記切り込み付与工程を経て製造された繊維構造体に三次元曲げ構造を付与する変形工程とを備える繊維構造体の製造方法。
【請求項2】
前記層形成工程は、前記三次元曲げ領域に補強繊維層を形成する工程を含む請求項1に記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項3】
前記三次元曲げ方向の曲げ部分に補強繊維層を追加する追加工程を備える請求項1に記載の繊維構造体の製造方法。
【請求項4】
連続繊維からなる強化繊維層によって樹脂を強化した繊維強化複合材の強化材であって、二次元曲げ領域と、三次元曲げ方向に曲げられる三次元曲げ領域とを生じる三次元曲げ構造を付与される繊維構造体において、
請求項1に記載の製造方法によって製造された繊維構造体。
【請求項5】
連続繊維からなる強化繊維層によって樹脂を強化した繊維強化複合材の強化材であって、二次元曲げ領域と、三次元曲げ方向に曲げられる三次元曲げ領域とを生じる三次元曲げ構造を付与される繊維構造体において、
請求項2に記載の製造方法によって製造された繊維構造体。
【請求項6】
連続繊維からなる強化繊維層によって樹脂を強化した繊維強化複合材の強化材であって、二次元曲げ領域と、三次元曲げ方向に曲げられる三次元曲げ領域とを生じる三次元曲げ構造を付与される繊維構造体において、
請求項3に記載の製造方法によって製造された繊維構造体。
【請求項7】
繊維構造体によって樹脂を強化した繊維強化複合材の製造方法において、
連続繊維を配列して強化繊維層を形成する層形成工程と、
前記繊維構造体の二次元曲げ領域と三次元曲げ領域とに散在するように、且つ前記三次元曲げ領域の変形量の小さい方から大きい方へ向かうにつれて密度を高めるように、前記二次元曲げ領域と前記三次元曲げ領域との前記強化繊維層に切り込みを入れる切り込み付与工程と、
前記切り込み付与工程を経て製造された繊維構造体に三次元曲げ構造を付与する変形工程と、
前記変形工程を経て三次元曲げ構造を付与された繊維構造体を樹脂に含浸させる含浸工程とを備える繊維強化複合材の製造方法。
【請求項8】
前記層形成工程は、前記三次元曲げ領域に補強繊維層を形成する工程を含む請求項7に記載の繊維強化複合材の製造方法。
【請求項9】
繊維構造体によって樹脂を強化した繊維強化複合材において、
請求項7に記載の製造方法によって製造された繊維強化複合材。
【請求項10】
繊維構造体によって樹脂を強化した繊維強化複合材において、
請求項8に記載の製造方法によって製造された繊維強化複合材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−46956(P2010−46956A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214458(P2008−214458)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】