説明

繊維構造物

【課題】耐久性のある制電性、排泄物臭などの消臭性および抗菌性に優れた繊維構造物を提供する。
【解決手段】無機微粒子を含有するポリアルキレンオキサイドセグメントを主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個のアクリル基および/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる被膜が繊維表面に形成されており、該重合性単量体/無機微粒子の重量混合比が1/0.4〜1.0であり、かつ該被膜の表面および/または内部に光触媒半導体、カルボン酸化合物、金属、多孔質物質からなる組成物を含有し、さらに該被膜の表面および/または内部、もしくは繊維内部に抗菌剤を含有することを特徴とする繊維構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐久性のある制電性、排泄物臭などの消臭性および抗菌性に優れた繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、国民の生活水準の向上に伴い、健康および衛生に関する意識もますます高まってきており、衣食住の各分野においては、消臭、抗菌機能などを付与した製品や技術が実用化されている。
【0003】
特に、衣料用品の分野では、これらを実際に身体に着用することから、様々な加工技術が開発されており、また、インテリア用品を含めた他用途への展開も着実に進められている。
【0004】
合成繊維は、化学的、物理的特性に優れる反面、疎水性繊維であるため、静電気による衣類の身体へのまとわり付き、着脱時の不快な静電気音の発生、汗の吸い取り難さなどの欠点を有しているのが現状である。
【0005】
また、生活臭において、特に不快な悪臭の一つに排泄物の臭いがある。排泄物臭には尿が元になり発生するアンモニア臭、排便の中に含まれるメチルメルカプタン臭、ジメチルジサルファイド臭、ジメチルトリサルファイド臭、インドール臭、スカトール臭、硫化水素臭、酢酸臭などがある。これらの臭気の複合臭気が排泄物臭の正体であり、これらの各臭気に対して消臭効果が得られる衣類が切望されている。
【0006】
また、衣類の衛生面で必要特性として抗菌性が挙げられ、様々な報告がなされている。
【0007】
衣類などに消臭性、抗菌性を付与するために、光触媒と無機系や有機系抗菌剤を含有する繊維製品が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、該特許文献には耐久性のある制電性の記載はなく、消臭速度が遅いという問題があった。また、ポリアルキレングリコールを主鎖に持つビニル化合物の重合体で繊維表面を被覆すると同時に無機微粒子を混合し、吸水、制電、SR性を付与する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、該文献には消臭性、抗菌性の記載はなく、該特許文献で好ましい配合比とされている親水化化合物1に対し無機微粒子0.1〜0.3では該重合体被膜の形成が不十分であり、排泄物臭の消臭効果は全く期待できない。
【特許文献1】特開2004−052208号公報
【特許文献2】特公昭63−29037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、耐久性のある制電性、排泄物臭などの消臭性および抗菌性に優れた繊維構造物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)無機微粒子を含有するポリアルキレンオキサイドセグメントを主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個のアクリル基および/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる被膜が繊維表面に形成されており、該重合性単量体/無機微粒子の重量混合比が1/0.4〜1.0であり、かつ該被膜の表面および/または内部に光触媒半導体、カルボン酸化合物、金属、多孔質物質からなる組成物を含有し、さらに該被膜の表面および/または内部、もしくは繊維内部に抗菌剤を含有することを特徴とする繊維構造物。
【0010】
(2)前記無機微粒子が、酸化珪素であることを特徴とする前記(1)に記載の繊維構造物。
【0011】
(3)前記光触媒半導体が、TiO2、ZnO、SrTiO3、CdS、CdO、CaP、InP、In23、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe23、Ta25、WO3、SbO2、Bi23、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS2、MoS3、InPb、RuO2、CeO2からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の繊維構造物。
【0012】
(4)前記光触媒半導体が、酸化チタン系化合物であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維構造物。
【0013】
(5)前記光触媒半導体が、チタンとケイ素の複合酸化物、アパタイト被覆型酸化チタンの少なくとも一種であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維構造物。
【0014】
(6)前記カルボン酸化合物が、下記化学式で示される脂肪族ポリカルボン酸であって、分子量が1000以上10000以下であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維構造物。
【0015】
【化1】

【0016】
(ただし、式中のRは水素、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、水酸基のいずれかであり、nは1以上500以下の正数を示す。)
(7)前記金属が、銀、銅および亜鉛から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維構造物。
【0017】
(8)前記多孔質物質が、シリカ、活性炭、およびアルミノケイ酸塩化合物から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の繊維構造物。
【0018】
(9)前記抗菌剤が、ピリジン系抗菌剤であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の繊維構造物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、洗濯耐久性に優れる制電性、消臭性、抗菌性を兼ね備えた繊維構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、前記課題、つまり衣類などに必要な特性である制電性、消臭性、抗菌性を有する繊維構造物について、鋭意検討した結果、繊維構造物に無機微粒子を特定単量体に混合して繊維表面で重合させて重合体被膜を形成し、さらに該被膜の表面および/または内部に光触媒半導体、カルボン酸化合物、金属、多孔質物質からなる組成物を有し、さらに該被膜の表面および/または内部、もしくは繊維内部に抗菌剤を含有させた繊維構造物を形成することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0021】
本発明の繊維構造物は、繊維構造物を構成する単繊維に重合体被膜が形成されているものであり、この重合体被膜は、ポリアルキレンオキサイドセグメントを主体とする主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリルおよび/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる被膜である。
【0022】
本発明におけるポリアルキレンオキサイドセグメントを主体とする主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリル基および/またはメタクリル基を有する単量体としては、例えばポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジアクリレートなどを、単独あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0023】
かかる重合性単量体を重合するために重合開始剤を使用することができ、重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリ、アゾビスイソブチロニトリル、硫酸アンモニウムなど、一般的なビニル重合開始剤を使用することができる。かかる重合開始剤を用いて、80〜160℃の飽和水蒸気または過飽和水蒸気雰囲気中で0.5〜10分間の処理をすることにより、繊維表面に連続または非連続的皮膜を形成させることができる。かかる被膜の厚みは樹脂付着量によってコントロールすることができる。すなわち、重合性単量体および重合触媒の混合液を作成する際の樹脂有効成分濃度と繊維構造物を樹脂液に含浸させてマングルで絞る際の絞り率、つまりマングルの加圧圧力を適宜調整することにより樹脂付着量つまり被膜の膜厚をコントロールすることができる。一般的には、一定圧力で絞り樹脂有効成分濃度を変更することによりコントロールするものであり、樹脂有効成分濃度を低くする、または絞り率を高くすれば被膜の厚みは薄くなる傾向にある。
【0024】
かかる樹脂被膜を単繊維表面に被覆させることにより、耐久性のある制電性が得られるものである。
【0025】
本発明の無機微粒子としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、カオリナイト、タルク、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウムなどであり、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。該粒子の粒子径としては5〜400nmであることが、より好ましくは10〜200nmのものを使用する。該粒子範囲の無機粒子は、市販されている特定粒子範囲の無機粒子を使用することもできるが、分散液の状態で使用するのが好ましい。かかる分散液は特に限定されるものではないが、例えばケイ素の重合反応によって反応媒体にシリカの核粒子が生成し、その粒子成長をコントロールすることによって、特定の粒子径を形成したものなどが好ましい。
【0026】
本発明の重合性単量体と無機微粒子の重量混合比は、単量体1に対して好ましくは0.4以上、より好ましくは0.4〜1.0であり、0.4より少なくても1.0より多くても被膜形成性が悪くなり、制電性能が不十分になる。該無機粒子は該重合体被膜に均一もしくはランダムに含有されるものである。
【0027】
本発明の繊維構造物は該重合体被膜の表面および/または内部に光触媒半導体、カルボン酸化合物、金属、多孔質物質からなる組成物を有しているものである。
【0028】
本発明の光触媒半導体は、光を照射すると光触媒半導体が励起され、酸化、還元作用で有害物質を分解し、消臭、抗菌、防カビおよび防汚の効果を発揮するものである。かかる光触媒半導体としては、TIO2 、ZnO、SrTiO3 、CdS、CdO、CaP、InP、In2 3 ,CaAs、BaTiO3 、K2 NbO3 、Fe2 3 、Ta2 5 、WO3 、SaO2 、Bi2 3 、NiO、Cu2 O、SiC、SiO2 、MoS2 、MoS3 、InPb、RuO2 、CeO2 などを使用することができ、これらの光触媒半導体の単一または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に高い光触媒作用を有し、化学的に安定で、かつ、無害である酸化チタン系化合物が好ましく使用される。かかる酸化チタンとしては通常の酸化チタンのほかに含水酸化チタン水和酸化チタン、水酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸から選ばれた少なくとも一種を使用することができる。これらのなかでもアナターゼ型結晶形を有する酸化チタンが、優れた光触媒活性を発揮し、さらにその粒子径としては、1〜30nmのものが好ましく使用される。
【0029】
かかる酸化チタンなどの光触媒半導体の粒子径は、粉末X線解析で得られるピークの反値幅より下記のシェラーの式を用いて算出する。
【0030】
Lc=0.9λ/(W・cosθ)
式中、Lcは粒子径(nm)、λはX線の波長(nm)、Wはピークの半値幅(rad)、θはピーク位置の角度である。
【0031】
さらにアパタイト被覆型酸化チタンと呼ばれるリン酸カルシウムなどの無機物を酸化チタン表面に被覆せしめたものや、チタンをケイ素などの無機物で酸化チタンの結晶格子中にケイ素が入った複合酸化物の状態にせしめた光触媒が好ましく使用される。触媒の固体表面にチタンなどの触媒がむき出しになっていない分、適度な活性コントロールが可能となり、後述のバインダー樹脂や本発明のカルボン酸化合物を分解しにくくなるため好ましい。
【0032】
光触媒半導体の繊維布帛物に対する付着量は、好ましくは0.03〜15%(重量%)、より好ましくは0.05〜10重量%の範囲である。0.03%未満では、本発明の機能性の効果が得られにくい、また15%を越えると、機能性は満足できるものの、風合いが硬くなり繊維構造物として適しないものとなる。
【0033】
本発明のカルボン酸化合物は、アンモニア、トリメチルアミンなどの塩基性悪臭に対して大きな消臭効果がある。カルボン酸化合物としては、カルボキシル基を含有している化合物であるならば特に限定しないが、なかでも下記式で示される脂肪族ポリカルボン酸化合物が、消臭機能、コストおよび安全性の面で優れていることから、好ましく使用される。
【0034】
【化2】

【0035】
(ただし、式中のRは水素、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、水酸基のいずれかであり、nは1以上500以下の正数を示す。)
ここで、置換アルキル基、置換アルケニル基は、水酸基、エーテル基、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、アミド基、スルホン基、スルホンアミド基などを含むものが好ましく用いられる。Rは同種であっても、異種であっても良い。
【0036】
中でも、水酸基を有する水酸化合物や、スルホン基を有するスルホン酸化合物などを用いる場合は、カルボキシル基と同様の消臭効果が期待できる。これらの化合物の場合はカルボン酸化合物に比して、皮膚刺激性などの安全性が劣るきらいがあるので、注意しなければならない。
【0037】
上記式で示される脂肪族ポリカルボン酸化合物の分子量は、1000以上100000以下が好ましいが、さらに好ましくは1500以上80000以下、より好ましくは2000以上50000以下である。また、上記式中のnは1以上500以下の正数を意味する。
【0038】
分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を用い測定した値である。
【0039】
また、本発明においては、糞便臭の中に含まれるメチルメルカプタン臭、ジメチルジサルファイド臭およびジメチルトリサルファイド臭などの硫黄系の悪臭を消臭するために、上記カルボン酸化合物に対し、金属を添加することを重要条件とする。かかる金属としては、銀、銅および亜鉛から選ばれた少なくとも一種が好ましく、これらの金属はイオンの形態でポリカルボン酸化合物中に存在することがさらに好ましく、Ag、Cu、Cu2+、Zn2+などが好ましい。この条件を満たす商品としては、ナガセケムテックス(株)製のSZ−2B−ZC(商品名)が好ましく使用される。
【0040】
さらに、本発明においては、インドール臭およびスカトール臭の消臭を可能にするために、上記ポリカルボン酸化合物および金属に加えて、さらに多孔質物質を添加することを重要条件とするものである。
【0041】
かかる多孔質物質の具体例としては、各種アルミノケイ酸塩化合物、各種シリカゲル系化合物(富士シリシア化学(株)#740、#550、#530(商品名)など、シリカゲル、シリカ・アルミナ、シリカ・マグネシアなど)、活性炭類(太閤活性炭(株)#SA1000(商品名)など)、活性炭、活性炭素繊維、アルミナ系化合物(アルミナなど)、白土類(アルミナ・ボリア酸性白土、活性白土など)、天然ケイ素質系(セピオライト、パリゴルスカイト、天然および合成ゼオライト、バーミキュライトなど)、各種合成ケイ酸塩、ゼオライト、アパタイト、ハイドロキシアパタイト、二酸化ケイ素と酸化亜鉛の非晶性物質、その他、リン酸ケイ素、リン酸アルミニウム、リン酸チタン、ケイ藻土などが好ましく使用される。
【0042】
また、多孔質状の金属(複合)酸化物も好ましく使用される。金属酸化物としては、CuO、CuO、MgO、Al、ZnO,AgO、SnO、SiO、SrTiOなどの金属酸化物や、Ti,Cu、Mg、Al、Zn、Ag、Zrから選ばれた2種以上の元素の複合酸化物などが挙げられる。これらの多孔質物質は金属(複合)酸化物の表面電荷により臭気成分が吸着することから、好ましく用いられる。
【0043】
これらの多孔質物質であれば、インドール臭およびスカトール臭の消臭に効果があるが、かかる多孔質物質の中でも、比表面積が100m/g以上であること、および平均1次粒子径が5μm以下であることの少なくともいずれかを満足するものが、さらに優れたインドール臭およびスカトール臭の消臭効果を発揮するので好ましく使用される。かかる消臭効果においては、特にアルミノケイ酸塩化合物、シリカおよび活性炭を添加した場合には、特に消臭効果が著しいことが実験で判明した。
【0044】
かかる比表面積の好ましい範囲としては、より好ましくは150m/g以上5000m/g以下、特に好ましくは200m/g以上1000m/g以下である。同じく平均1次粒子径の好ましい範囲としては、より好ましくは0.01μm以上、5μm以下であり、特に好ましくは0.1μm以上、3μm以下である。
【0045】
平均1次粒子径(メジアン径)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
【0046】
なお、上記多孔質物質の比表面積は、QUANTA CHROME社製 QUANTA SORB OS−8の装置を用いて、比表面積測定方法に従って測定した値である。
【0047】
本発明において好ましく使用されるアルミノケイ酸塩化合物は、シリカ、アルミナ、金属酸化物からなるシリカの4面体およびそれと頂点を共有して連結するアルミナ8面体層とが層状に組み合わされた構造を有する多孔質のケイ酸塩鉱物であって、ベントナイト、ゼオライト、ケイ酸アルミニウムなどを使用することができるが、これらは1種のものに限定されず、多数の種類のものを組み合わせて用いることも勿論可能である。
【0048】
上記多孔質物質は、その細孔に分子などを容易に吸着する性能を有することが知られており、また層間に分子が入り込むことで層間が押し広げられ、単独では層間に挿入されにくい物質の吸着も期待することができる。
【0049】
本発明において多孔質物質として使用するシリカとしては、なかでも富士シリシア化学株式会社の#550が特に好ましく使用される。
【0050】
また、脂肪族ポリカルボン酸化合物、多孔質物質および金属を併用した系に、酸化チタン系光触媒などの酸化分解性を有する触媒を添加した場合には、いったん中和および吸着した悪臭を光触媒作用により酸化分解し、その後再び消臭剤としての機能を回復するという消臭機能の半永久的サイクルが実現する可能性があるため好ましい。
【0051】
本発明の繊維構造物においては、驚くべきことに、無機微粒子を含有するポリアルキレンオキサイドセグメントを主体とする主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個以上のアクリルおよび/またはメタクリル基を有する単量体を重合せしめてなる重合性被膜の表面および/または内部に光触媒半導体、カルボン酸化合物、金属、多孔質物質からなる組成物を含有することにより、該被膜による消臭機能の洗濯耐久性の向上とともに、悪臭物質を効果的に吸着することが可能となり、消臭機能を格段に向上することができる。
【0052】
本発明の繊維構造物の被膜の厚みは5〜40nmであることが好ましい。これは透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、100000倍で観察することにより確認することができる。
【0053】
またさらに、洗濯耐久性を向上させるため、バインダー樹脂を併用することも好ましい。この際のバインダーとしては被膜性が強いもので有れば特に限定するものではないが、シリコーン系バインダー、アクリル系バインダー、メラミン系バインダーおよびポリウレタン系バインダーが洗濯耐久性および安全性の観点から好ましい。またバインダーの種類に応じて、架橋剤の併用も好ましく行われる。
【0054】
本発明の繊維構造物は該重合体被膜の表面および/または内部に光触媒半導体、カルボン酸化合物、金属、多孔質物質からなる組成物を含有し、さらに該被膜の表面および/または内部、もしくは繊維内部に抗菌剤を含有しているものである。
【0055】
本発明の抗菌剤は、無機系抗菌剤並びにピリジン系や第4級アンモニウム塩系の有機系抗菌剤が用いられ、特にピリジン系抗菌剤が好ましく用いられる。
【0056】
ピリジン系抗菌剤としては、2−ピリジルチオール−1−オキシド亜鉛、2−クロロ−4−トリクロロメチル−6−(2−フリルメトキシ)ピリジン、2−クロロ−6−トリクロロメチルピリジン、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、1,4−(1−ジヨードメチルスルフォニル)ベンゼン、10,10’−オキシビスフェノキシアルシン、6−(2−チオフェンカルボニル)−1H−2−ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、などが好ましく用いられる。
【0057】
該抗菌剤は光触媒半導体、カルボン酸化合物、金属、多孔質物質からなる組成物と同時に該重合性被膜の表面および/または内部に含有されるものであり、また繊維内部に含有させることにより、抗菌性の洗濯耐久性を向上さすことができる。
【0058】
本発明の繊維構造物としては、合成繊維および天然繊維などを特に限定することなく用いることができる。なかでも、安価である利点から、ポリエステル系繊維が好ましく用いられる。ポリエステル系繊維の素材ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などが好ましく使用される。また、他成分と共重合したポリエステルも好ましく用いられ、他成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびメトオキシポリオキシエチレングリコールなどが好ましく使用される。さらにポリエステル系繊維の他に、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド、ポリアクリル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールなどの合成繊維、アセテート、レーヨンなどの半合成繊維、羊毛、絹、木綿、麻などの天然繊維を用いることも好ましい。
【0059】
本発明の繊維構造物は、布帛状物はもちろん、わた状物、帯状物、紐状物、糸状物など、その構造、形状はいかなるものであっても差し支えない。また織物、編物、不織布は、複数の種類の繊維を混紡、混繊、交織、交編をした複合材料であってもよい。また、これらの繊維製品であってもかまわない。
【0060】
また、繊維の横断面形状は如何なる形のものであってもよいが、該繊維の種類が合成繊維もしくは半合成繊維、再生繊維の場合、通常の丸形断面の他、中空、H型、X型、W型、星型から選ばれた少なくとも1つの形状を有していることが好ましい。
【0061】
次に、本発明の組成物を繊維上に付与せしめる方法の一例について説明する。
【0062】
本発明の無機微粒子を含有する被膜を形成させる方法としては、重合性単量体、重合開始剤および無機微粒子を混合した水系加工液に、繊維布帛を浸漬して、マングルなどで絞って所定の付着量に調整した後、80〜160℃の飽和水蒸気または過飽和水蒸気の雰囲気で0.5〜10分、好ましくは1〜4分の処理を行い、しかる後に非イオン系界面活性剤と炭酸ナトリウムなどを含む洗浄液中で40〜80℃の温度で1〜5分間洗浄、水洗して未反応の単量体や重合開始剤を除去し、100〜130℃で乾燥、140〜200℃でヒートセット方法などを採用することができる。また該水系液を付与した後、100〜130℃で乾燥した後に、水蒸気処理する方法も採用することもできる。かかる被膜形成加工をした後に、脂肪族ポリカルボン酸化合物、多孔質物質、金属および抗菌剤を所望の割合で混合した水系加工液に繊維構造物を浸漬して、マングルなどで絞り、100〜130℃の温度で乾燥、140〜200℃でヒートセットを実施する方法、あるいは前記水系加工液を適当な粘度に調整して、ナイフコーターやグラビアロールコーター、捺染、スプレーなどで繊維に塗布した後、乾燥、ヒートセットする方法などを採用することができる。また抗菌剤としてピリジン系抗菌剤を使用する場合は、染色工程において染色同時、もしくは染色後浴中処理などで抗菌剤を付与する方法を採用することもできる。
【0063】
本発明の効果を阻害しない範囲で、帯電防止剤、吸水剤、吸湿剤、撥水剤、撥油剤、防汚剤、着色剤、増摩剤などで処理してもかまわない。
【0064】
本発明の繊維構造物は、衣料品としてスポーツウエア、ホームウエア、コート、ブルゾン、ブラウス、シャツ、スカート、スラックス、室内運動着、パジャマ、寝間着、肌着、オフィスウェア、作業服、食品白衣、看護白衣、患者衣、介護衣、学生服、厨房衣などが挙げられる。雑貨用品としては、エプロン、タオル、手袋、マフラー、靴下、帽子、靴、サンダル、かばん、傘などが挙げられる。インテリア用品としては、カーテン、じゅうたん、マット、こたつカバー、ソファーカバー、クッションカバー、ソファー用側地、便座カバー、便座マット、テーブルクロスなどが挙げられる。寝具用品としては、布団用側地、布団用詰めわた、毛布、毛布用側地、枕の充填材、シーツ、防水シーツ、布団カバー、枕カバーなどが挙げられる。介護用品としては、サポーター、コルセット、リハビリ用靴や、肌着、おむつカバー、小物などが挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0066】
なお、実施例中における各種の品質評価方法は下記の方法を用いた。
(制電性)
JIS L 1094B法(摩擦帯電圧測定法)に規定される方法で、20℃×30%RHの雰囲気中で、対象布を木綿として摩擦帯電圧を測定し、(kV)で表示した。数値が大きいほど、制電性が悪いことを示す。
(検知管法による消臭性評価)
試料を3g入れた500mlの容器に初期濃度が300ppmになるようにアンモニアガスを入れて密閉し、30分放置後、ガス検知管で残留アンモニア濃度を測定した。そして下記の式に従い消臭率(%)を算出した。
【0067】
消臭率(%)=(1−ガス検知管測定濃度/初期濃度)×100
同様の方法で酢酸40ppm、30分後、硫化水素20ppm、30分後、メチルメルカプタン40ppm、2時間後の各々の残留ガス濃度を測定し、各気体の消臭率を算出した。数値が大きいほど、消臭性が良好なことを示す。
(抗菌評価方法)
評価方法は、統一試験法を採用し、試験菌体はMRSA臨床分離株を用いた。試験方法は、滅菌試験布に上記試験菌を注加し、18時間培養後の生菌数を計測し、殖菌数に対する菌数を求め、次の基準にしたがった。
【0068】
log(B/A)>1.5の条件下、log(B/C)を菌数増減値差とし、2.2以上を合格とした。
【0069】
ただし、Aは無加工品の接種直後分散回収した菌数、Bは無加工品の18時間培養後分散回収した菌数、Cは加工品の18時間培養後分散回収した菌数を表す。
(洗濯耐久性)
自動反転渦巻き式電気洗濯機を用い、JIS K 337で規定される弱アルカリ性合成洗剤を0.2%の濃度になるように溶解し、温度40±2℃、浴比1:50、5分間強反転で洗濯し、その後排水、オーバーフローさせながらすすぎを2分間行う操作を2回繰り返し、これを洗濯1回として20回相当の洗濯を行って、洗濯による耐久性の試験とした。
【0070】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート繊維(84デシテックス、48フィラメント)をタテ糸、ヨコ糸に使用しタテ125×ヨコ88(本/2.54cm)の生機密度で平織物を製織した後、常法に従い精練、乾燥、中間セットし、市販の分散染料を用いて染色加工を行った。その後、次に重合性単量体/無機微粒子の重量比が1/0.4に調整した下記処理液に浸漬し、絞り率80%になるようマングルで絞り、106℃の飽和水蒸気雰囲気中にて3分間処理を行い、非イオン系界面活性剤1g/lと炭酸ナトリウム1g/lを含む水溶液中で60℃、1分洗浄し、湯水洗後、130℃で乾燥した。
重合性単量体:ポリエチレングリコールジメタクリレート 20g/l
(ポリアルキレンオキサイドセグメントの分子量1000)
無機微粒子:酸化ケイ素
(スノーテックス:粒径40〜50nm、日産化学社製) 8g/l
過硫酸アンモニウム 2g/l
次に下記処理液に浸漬し、絞り率80%になるようマングルで絞り、130℃、2分で乾燥後、ピンテンターで170℃、1分間仕上げセットを行った。
光触媒:二酸化チタン(STS−21:粒径20nm、石原産業社製) 10g/l
脂肪族ポリカルボン酸塩 20g/l
(SZ−2B−ZC、ナガセケムテックス社製)
多孔質物質 10g/l
(サイリシア#550:比表面積500m2/g、粒径2.7μm、富士シリシア社製)
硫酸銅 4g/l
抗菌剤:2−ピリジルチオール−1−オキシド亜鉛 5g/l
アクリル系樹脂(T−23M、共栄社製) 15g/l
得られた加工布は、表1に示すとおり、制電性、消臭性、抗菌性を有するとともに、耐洗濯性にも優れるものであった。
【0071】
実施例2
ポリエチレンテレフタレート45%/綿55%の45番手紡績糸をタテ糸、ヨコ糸に使用しタテ125×ヨコ88(本/2.54cm)の生機密度で平織物を製織した後、常法に従い精練、漂白、マーセライズを行い、市販の分散/直接染料を用いて染色加工を行ったものを供試布とする以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0072】
得られた加工布は、表1に示すとおり、制電性、消臭性、抗菌性を有するとともに、耐洗濯性にも優れるものであった。
【0073】
実施例3
重合性単量体と無機微粒子の重量比が1/0.9に調整した下記処理液とする以外は実施例1と同様の処理を行った。
重合性単量体:ポリエチレングリコールジメタクリレート 20g/l
(ポリアルキレンオキサイドセグメントの分子量1000)
無機微粒子:酸化ケイ素
(スノーテックス:粒径40〜50nm、日産化学社製)18g/l
過硫酸アンモニウム 2g/l
得られた加工布は、表1に示すとおり、制電性、消臭性、抗菌性を有するとともに、耐洗濯性にも優れるものであった。
【0074】
実施例4
光触媒を下記処理液とする以外は実施例1と同様の処理を行った。
光触媒:チタンとケイ素の複合酸化物 10g/l
(TR−T2:粒径7nm、大京化学社製)
得られた加工布は、表1に示すとおり、制電性、消臭性、抗菌性を有するとともに、耐洗濯性にも優れるものであった。
【0075】
比較例1
実施例1で使用した加工布を未処理品として評価を行い、その結果を表1に示した。
【0076】
比較例2
実施例2で使用した加工布を未処理品として評価を行い、その結果を表1に示した。
【0077】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子を含有するポリアルキレンオキサイドセグメントを主鎖の両末端または一方の末端あるいは主鎖の側鎖として少なくとも2個のアクリル基および/またはメタクリル基を有する重合性単量体を重合せしめてなる被膜が繊維表面に形成されており、該重合性単量体/無機微粒子の重量混合比が1/0.4〜1.0であり、かつ該被膜の表面および/または内部に光触媒半導体、カルボン酸化合物、金属、多孔質物質からなる組成物を含有し、さらに該被膜の表面および/または内部、もしくは繊維内部に抗菌剤を含有することを特徴とする繊維構造物。
【請求項2】
前記無機微粒子が、酸化珪素であることを特徴とする請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項3】
前記光触媒半導体が、TiO2、ZnO、SrTiO3、CdS、CdO、CaP、InP、In23、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe23、Ta25、WO3、SbO2、Bi23、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS2、MoS3、InPb、RuO2、CeO2からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造物。
【請求項4】
前記光触媒半導体が、酸化チタン系化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項5】
前記光触媒半導体が、チタンとケイ素の複合酸化物、アパタイト被覆型酸化チタンの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項6】
前記カルボン酸化合物が、下記化学式で示される脂肪族ポリカルボン酸であって、分子量が1000以上10000以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の繊維構造物。
【化1】

(ただし、式中のRは水素、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、水酸基のいずれかであり、nは1以上500以下の正数を示す。)
【請求項7】
前記金属が、銀、銅および亜鉛から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項8】
前記多孔質物質が、シリカ、活性炭、およびアルミノケイ酸塩化合物から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項9】
前記抗菌剤が、ピリジン系抗菌剤であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の繊維構造物。

【公開番号】特開2008−156771(P2008−156771A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345972(P2006−345972)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】