説明

繊維状柱状構造体集合体および粘着部材

【課題】高いせん断接着力を有する繊維状柱状構造体集合体を提供する。さらに、このような繊維状柱状構造体集合体を用いた粘着部材を提供する。
【解決手段】本発明の繊維状柱状構造体集合体は、複数の繊維状柱状構造体を備える繊維状柱状構造体集合体であって、該繊維状柱状構造体の表面に、ハマカー定数が10×10−20J以上であるコート材料から形成される表面コート層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状柱状構造体集合体および粘着部材に関する。より詳細には、本発明は、高いせん断接着力を有する繊維状柱状構造体集合体および粘着部材に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用途において、種々の特性を持つ粘着剤が使われている。しかし、そのほとんどの材料は、柔軟にバルク設計された粘弾性体である。粘弾性体からなる粘着剤は、そのモジュラスの低さから、被着体にぬれて馴染み、接着力を発現する。
【0003】
一方、新規な粘着剤として、微細な直径を有する柱状の繊維構造体が接着特性を示すことが知られている。ミクロオーダー、ナノオーダーの直径を有するため、被着体の表面凹凸に追従し、ファンデルワールス力によって接着力を発現することが明らかになっている。
【0004】
最近、繊維状柱状構造体としてカーボンナノチューブが粘着特性を示すことが報告されている(特許文献1および特許文献2参照)。カーボンナノチューブは、その直径がナノサイズであるため、被着体の表面凹凸に追従し、ファンデルワールス力によって接着力を発揮することが明らかとなっている。
【0005】
特許文献1の記載によれば、カーボンナノチューブの繊維一本での接着力は高く、単位面積当たりの接着力に換算すると汎用の粘着剤と同等の接着力が得られている。しかし、特許文献2の記載によれば、汎用の粘着剤と同様の評価を行うために1cm程度の接着面積にて接着性評価を行った場合、そのせん断接着力は低く、汎用の粘着剤に比べて微弱な接着力しか示さないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0071870号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0068195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高いせん断接着力を有する繊維状柱状構造体集合体を提供することにある。さらに、このような繊維状柱状構造体集合体を用いた粘着部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の繊維状柱状構造体集合体は、
複数の繊維状柱状構造体を備える繊維状柱状構造体集合体であって、
該繊維状柱状構造体の表面に、ハマカー定数が10×10−20J以上であるコート材料から形成される表面コート層を有する。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記表面コート層の厚みが0.5nm以上である。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記繊維状柱状構造体の直径が2000nm以下である。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記繊維状柱状構造体のアスペクト比が10以上である。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記コート材料が、MgO、CaO、Te、SiO、Ag、AgI、CdS、BaSO、Al、AgCl、AgBr、TiOs、Fe、Pb、C、Sn、SnO、Si、Cu、Ge、Ag、Au、Fe(OH)、Pt、BNから選ばれる少なくとも1種を含む。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記繊維状柱状構造体が長さ方向に配向している。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである。
【0015】
好ましい実施形態においては、本発明の繊維状柱状構造体集合体は、基材をさらに備え、上記繊維状柱状構造体の片端が該基材に固定されている。
【0016】
本発明の別の実施形態においては、粘着部材を提供する。本発明の粘着部材は、本発明の繊維状柱状構造体集合体を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高いせん断接着力を有する繊維状柱状構造体集合体を提供することができる。特に、汎用の粘着剤と同様の評価を行うために1cm程度の接着面積にて接着性評価を行った場合であっても、そのせん断接着力が十分に高い、繊維状柱状構造体集合体を提供することができる。さらに、このような繊維状柱状構造体集合体を用いた粘着部材を提供することができる。
【0018】
このような効果は、複数の繊維状柱状構造体を備える繊維状柱状構造体集合体において、該繊維状柱状構造体の表面に、ハマカー定数が10×10−20J以上であるコート材料から形成される表面コート層が設けられることによって発現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好ましい実施形態における繊維状柱状構造体集合体の概略断面図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態における繊維状柱状構造体集合体製造装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪繊維状柱状構造体集合体≫
図1は、本発明の好ましい実施形態における繊維状柱状構造体集合体の概略断面図(各構成部分を明示するために縮尺は正確に記載されていない)を示す。
【0021】
繊維状柱状構造体集合体10は、基材1と、複数の繊維状柱状構造体2を備える。繊維状柱状構造体の片端2aは、基材1に固定されている。繊維状柱状構造体2は、長さ方向Lに配向している。繊維状柱状構造体2は、好ましくは、基材1に対して略垂直方向に配向している。
【0022】
繊維状柱状構造体2は、その表面に、ハマカー定数が10×10−20J以上であるコート材料から形成される表面コート層3を有する。
【0023】
なお、図1に示す例とは異なり、繊維状柱状構造体集合体が基材を備えない場合であっても、複数の繊維状柱状構造体は互いにファンデルワールス力によって集合体として存在し得るので、本発明の繊維状柱状構造体集合体は、基材を備えない集合体であっても良い。
【0024】
本発明の繊維状柱状構造体集合体は、複数の繊維状柱状構造体を備える繊維状柱状構造体集合体であって、該繊維状柱状構造体の表面に、ハマカー定数が10×10−20J以上であるコート材料から形成される表面コート層を有する。
【0025】
繊維状柱状構造体の材料としては、任意の適切な材料を採用し得る。例えば、アルミ、鉄などの金属;シリコンなどの無機材料;カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどのカーボン材料;エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどの高モジュラスの樹脂;などが挙げられる。樹脂の具体例としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、アセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドなどが挙げられる。樹脂の分子量などの諸物性は、本発明の目的を達成しうる範囲において、任意の適切な物性を採用し得る。
【0026】
繊維状柱状構造体の直径は、好ましくは0.3nm〜2000nmであり、より好ましくは1nm〜1000nmであり、さらに好ましくは2nm〜500nmである。繊維状柱状構造体の直径が上記範囲内に収まることにより、該繊維状柱状構造体の表面に適度な厚みの表面コート層を適切に設けることができ、高いせん断接着力を有する繊維状柱状構造体集合体を提供することができる。
【0027】
繊維状柱状構造体のアスペクト比は、好ましくは10以上であり、より好ましくは100以上であり、さらに好ましくは1000以上である。繊維状柱状構造体のアスペクト比の上限は、本発明の効果を発現する上では大きければ大きいほど良いが、現実的に製造することを勘案すれば、好ましくは10000000以下であり、より好ましくは1000000以下である。繊維状柱状構造体のアスペクト比が上記範囲内に収まることにより、該繊維状柱状構造体の表面に適度な厚みの表面コート層を適切に設けることができ、高いせん断接着力を有する繊維状柱状構造体集合体を提供することができる。
【0028】
繊維状柱状構造体の任意の適切な長さに設定され得る。繊維状柱状構造体の長さは、好ましくは1μm〜100000μmであり、より好ましくは5μm〜10000μmであり、さらに好ましくは10μm〜1000μmである。繊維状柱状構造体の長さが上記範囲内に収まることにより、該繊維状柱状構造体の表面に適度な厚みの表面コート層を適切に設けることができ、高いせん断接着力を有する繊維状柱状構造体集合体を提供することができる。
【0029】
繊維状柱状構造体の比表面積、密度は、任意の適切な値に設定され得る。
【0030】
繊維状柱状構造体の形状としては、その横断面が任意の適切な形状を有していれば良い。例えば、その横断面が、略円形、楕円形、n角形(nは3以上の整数)等が挙げられる。また、上記繊維状柱状構造体は、中空であっても良いし、充填材料であっても良い。
【0031】
表面コート層の厚みは、好ましくは0.5nm〜1000nmであり、より好ましくは1nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜100nmである。表面コート層の厚みが上記範囲内に収まることにより、均一な表面コート層を設けることができるとともに、繊維状柱状構造体同士の融着を防止することができ、高いせん断接着力を有する繊維状柱状構造体集合体を提供することができる。
【0032】
表面コート層は、ハマカー定数が10×10−20J以上であるコート材料から形成される。ここで、ハマカー定数(Hamaker定数)とは、ファンデルワールス定数(Van der Waals定数)とも呼ばれ、凝集促進因子として知られる定数である。真空中でのある物質のハマカー定数をA、粒子の単位面積中の分子数をQ、ロンドン定数(London定数)をΛとすると、A=π2Q2Λなる式で関係づけられる。ハマカー定数の具体的な求め方としては、物質間の引力を直接に求める方法、臨界凝集濃度から計算する方法、表面張力の測定から求める方法などが挙げられる。各種物質のハマカー定数は一般によく知られている。
【0033】
表面コート層を形成するコート材料のハマカー定数が10×10−20J以上であることにより、高いせん断接着力を有する繊維状柱状構造体集合体を提供することができる。特に、汎用の粘着剤と同様の評価を行うために1cm程度の接着面積にて接着性評価を行った場合であっても、そのせん断接着力が十分に高い、繊維状柱状構造体集合体を提供することができる。
【0034】
本発明においては、ハマカー定数が10×10−20J以上であるコート材料を選択することが重要である。
【0035】
コート材料としては、ハマカー定数が10×10−20J以上の材料であれば任意の適切な材料を採用し得る。このようなコート材料としては、例えば、MgO、CaO、Te、SiO、Ag、AgI、CdS、BaSO、Al、AgCl、AgBr、TiOs、Fe、Pb、C、Sn、SnO、Si、Cu、Ge、Ag、Au、Fe(OH)、Pt、BNが挙げられる。コート材料は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0036】
本発明の繊維状柱状構造体集合体においては、繊維状柱状構造体と表面コート層との間に、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な中間層が設けられていても良い。このような中間層の厚みは、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下であり、さらに好ましくは3nm以下である。このような中間層としては、任意の適切な金属や無機物質が挙げられ、好ましくはCrが挙げられる。
【0037】
繊維状柱状構造体の直径や長さ、および表面コート層の厚みは、任意の適切な装置によって測定すれば良い。好ましくは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)によって測定される。例えば、繊維状柱状構造体集合体から少なくとも10本、好ましくは20本以上の繊維状柱状構造体をSEMあるいはTEMによって測定し、繊維状柱状構造体の直径や長さ、および表面コート層の厚みを評価すれば良い。
【0038】
基材としては、任意の適切な材料を採用し得る。例えば、石英ガラス、シリコン(シリコンウェハなど)などの無機材料;汎用樹脂、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどの樹脂;などが挙げられる。樹脂の具体例としては、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミドなどが挙げられる。樹脂の分子量などの諸物性は、本発明の目的を達成し得る範囲において、任意の適切な物性を採用し得る。
【0039】
基材の厚みは、目的に応じて、任意の適切な値に設定され得る。例えば、シリコン基板の場合は、好ましくは100〜10000μm、より好ましくは100〜5000μm、さらに好ましくは100〜2000μmである。例えば、ポリプロピレン基板の場合は、好ましくは1〜1000μm、より好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは5〜100μmである。
【0040】
上記基材は単層であっても良いし、多層体であっても良い。
【0041】
≪繊維状柱状構造体集合体の製造方法≫
本発明の繊維状柱状構造体集合体を製造する方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。本発明の繊維状柱状構造体集合体を製造する方法の好ましい実施形態の一例としては、複数の繊維状柱状構造体を備える繊維状柱状構造体集合体を製造する工程(I)と、繊維状柱状構造体の表面に表面コート層を設ける工程(II)とを含む。工程(I)と工程(II)はいずれの工程が先であっても良い。
【0042】
工程(I)では、複数の繊維状柱状構造体を備える繊維状柱状構造体集合体を製造する。代表的な例として、繊維状柱状構造体がポリスチレンやポリプロピレンなどの樹脂である場合、および、繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである場合について、以下に説明する。
【0043】
工程(I)において、繊維状柱状構造体がポリスチレンやポリプロピレンなどの樹脂である場合には、例えば、樹脂を加熱、あるいは溶液により低粘度とし、ポリカーボネート製フィルターをかぶせて、フィルターの孔に樹脂を充填する。次いで、該フィルターを室温まで冷却、あるいは溶剤を除去することにより、フィルターの孔中に柱状構造部を形成する。フィルターを塩化メチレンに浸漬して溶解することにより、柱状構造体が得られる。
【0044】
工程(I)において、繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである場合には、例えば、平滑な基板の上に触媒層を構成し、熱、プラズマなどにより触媒を活性化させた状態で炭素源を充填し、カーボンナノチューブを成長させる、化学蒸着気相法(Chemical Vapor Deposition:CVD法)によって、基板からほぼ垂直に配向した繊維状柱状構造体集合体を製造する方法が挙げられる。この場合、基板を取り除けば、長さ方向に配向している繊維状柱状構造体集合体が得られる。
【0045】
上記基板としては、任意の適切な基板を採用し得る。例えば、平滑性を有し、カーボンナノチューブの製造に耐え得る高温耐熱性を有する材料が挙げられる。このような材料としては、例えば、石英ガラス、シリコン(シリコンウェハなど)、アルミニウムなどの金属板などが挙げられる。
【0046】
繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体を製造するための装置としては、任意の適切な装置を採用し得る。例えば、熱CVD装置としては、図2に示すような、筒型の反応容器を抵抗加熱式の電気管状炉で囲んで構成されたホットウォール型などが挙げられる。その場合、反応容器としては、例えば、耐熱性の石英管などが好ましく用いられる。
【0047】
繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体の製造に用い得る触媒(触媒層の材料)としては、任意の適切な触媒を用い得る。例えば、鉄、コバルト、ニッケル、金、白金、銀、銅などの金属触媒が挙げられる。
【0048】
繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体を製造する際、必要に応じて、基板と触媒層の中間にアルミナ/親水性膜を設けても良い。
【0049】
アルミナ/親水性膜の作製方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、基板の上にSiO膜を作製し、Alを蒸着後、450℃まで昇温して酸化させることにより得られる。このような作製方法によれば、Alが親水性のSiO膜と相互作用し、Alを直接蒸着したものよりも粒子径の異なるAl面が形成される。基板の上に、親水性膜を作製することを行わずに、Alを蒸着後に450℃まで昇温して酸化させても、粒子径の異なるAl面が形成され難いおそれがある。また、基板の上に、親水性膜を作製し、Alを直接蒸着しても、粒子径の異なるAl面が形成され難いおそれがある。
【0050】
繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体の製造に用い得る触媒層の厚みは、微粒子を形成させるため、好ましくは0.01〜20nm、より好ましくは0.1〜10nmである。繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体の製造に用い得る触媒層の厚みが上記範囲内にあることによって、該繊維状柱状構造体は優れた機械的特性および高い比表面積を兼ね備えることができ、さらには、該繊維状柱状構造体は優れた粘着特性を示す繊維状柱状構造体集合体となり得る。触媒層の形成方法は、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、金属触媒をEB(電子ビーム)、スパッタなどにより蒸着する方法、金属触媒微粒子の懸濁液を基板上に塗布する方法などが挙げられる。
【0051】
繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体の製造に用い得る炭素源としては、任意の適切な炭素源を用い得る。例えば、メタン、エチレン、アセチレン、ベンゼンなどの炭化水素;メタノール、エタノールなどのアルコール;などが挙げられる。
【0052】
繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体の製造における製造温度としては、任意の適切な温度を採用し得る。たとえば、本発明の効果を十分に発現し得る触媒粒子を形成させるため、好ましくは400〜1000℃、より好ましくは500〜900℃、さらに好ましくは600〜800℃である。
【0053】
工程(II)では、繊維状柱状構造体の表面に表面コート層を設ける。繊維状柱状構造体の表面に表面コート層を設ける方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、化学蒸着法、物理蒸着法などが挙げられる。好ましくは、真空蒸着法である。
【0054】
≪粘着部材≫
本発明の粘着部材は、本発明の繊維状柱状構造体集合体を含む。本発明の粘着部材は、好ましくは、本発明の繊維状柱状構造体集合体に基材が備えられたものである。本発明の粘着部材は、より好ましくは、本発明の繊維状柱状構造体集合体に基材が備えられ、該繊維状柱状構造体集合体を構成する繊維状柱状構造体の片端が該基材に固定されている。
【0055】
本発明の粘着部材は、具体的には、例えば、粘着シート、粘着フィルムが挙げられる。
【0056】
粘着部材の基材としては、石英ガラス、シリコン(シリコンウェハなど)、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。エンジニアリングプラスチックおよびスーパーエンジニアリングプラスチックの具体例としては、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミドが挙げられる。分子量などの諸物性は、本発明の目的を達成し得る範囲において、任意の適切な物性を採用し得る。
【0057】
基材の厚みは、目的に応じて、任意の適切な値に設定され得る。例えば、シリコン基板の場合は、好ましくは100〜10000μm、より好ましくは100〜5000μm、さらに好ましくは100〜2000μmである。例えば、ポリプロピレン基板の場合は、好ましくは1〜1000μm、より好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは5〜100μmである。
【0058】
上記基材の表面は、隣接する層との密着性,保持性などを高めるために、慣用の表面処理、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理などの化学的または物理的処理,下塗剤(例えば、上記粘着性物質)によるコーティング処理が施されていてもよい。
【0059】
上記基材は単層であっても良いし、多層体であっても良い。
【0060】
繊維状柱状構造体集合体を基材に固定する場合、その方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、繊維状柱状構造体の製造に使用した基板を基材としてそのまま用いてもよい。また、基材に接着層を設けて固定してもよい。さらに、基材が熱硬化性樹脂の場合は、反応前の状態で薄膜を作製し、繊維状柱状構造体の一端を薄膜層に圧着させた後、硬化処理を行って固定すれば良い。また、基材が熱可塑性樹脂や金属などの場合は、溶融した状態で繊維状柱状構造体の一端を圧着させた後、室温まで冷却して固定すれば良い。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
<せん断接着力の測定方法>
スパッタによりAu/Cr(コート厚:20nm/1nm)コートを行ったガラス(MATSUNAMI スライドガラス27mm×56mm)に、1cm単位面積に切り出した繊維状柱状構造体集合体の先端が接触するように載置し、5kgのローラーを一往復させて繊維状柱状構造体集合体の先端をガラスに圧着した。その後、30分間放置した。引張り試験機(Instron Tensil Tester)で引張速度50mm/minにてせん断試験を行い、得られたピークをせん断接着力とした。
【0063】
[実施例1]
(繊維状柱状構造体がポリスチレンである繊維状柱状構造体集合体)
ポリスチレン樹脂(TCI製、厚み30um)をホットプレート上で200℃に加熱し、溶融させた。溶融したポリスチレン樹脂にポリカーボネート製フィルター(ミリポア社製、孔径:0.2μm)をかぶせて、フィルターの孔にポリプロピレン樹脂を充填した。次いで、該フィルターを室温まで冷却することにより、フィルターの孔中に柱状構造部を形成した。フィルターを塩化メチレンに10分間浸漬して溶解することにより、基材から除去した。これにより、繊維状柱状構造体集合体(1A)を得た。繊維状柱状構造体集合体(1A)は、直径が0.2μmであり、高さが20μmであった。
さらに、繊維状柱状構造体集合体(1A)の表面に、スパッタにより、Au/Cr(コート厚:1nm/1nm)コートを行い、最外層としてAu(ハマカー定数=45×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(1B)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(1B)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0064】
[実施例2]
(繊維状柱状構造体がポリスチレンである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(1A)の表面に、スパッタにより、SiO(コート厚:10nm)コートを行った以外は、実施例1と同様に行い、最外層としてSiO(ハマカー定数=15×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(2B)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(2B)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0065】
[実施例3]
(繊維状柱状構造体がポリスチレンである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(1A)の表面に、スパッタにより、Au/Cr(コート厚:10nm/1nm)コートを行った以外は、実施例1と同様に行い、最外層としてAu(ハマカー定数=45×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(3B)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(3B)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0066】
[実施例4]
(繊維状柱状構造体がポリプロピレンである繊維状柱状構造体集合体)
ポリプロピレン樹脂(旭洋紙パルプ(株)製、厚み30um)をホットプレート上で200℃に加熱し、溶融させた。溶融したポリプロピレン樹脂にポリカーボネート製フィルター(ミリポア社製、孔径:2μm)をかぶせて、フィルターの孔にポリプロピレン樹脂を充填した。次いで、該フィルターを室温まで冷却することにより、フィルターの孔中に柱状構造部を形成した。フィルターを塩化メチレンに10分間浸漬して溶解することにより、基材から除去した。これにより、繊維状柱状構造体集合体(4A)を得た。繊維状柱状構造体集合体(4A)は、直径が2μmであり、高さが18μmであった。
さらに、繊維状柱状構造体集合体(4A)の表面に、スパッタにより、Au/Cr(コート厚:10nm/1nm)コートを行い、最外層としてAu(ハマカー定数=45×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(4B)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(4B)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0067】
[実施例5]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
シリコン基板(エレクトロニクス エンド製、厚み525um)上にスパッタによりFe/Al薄膜(1nm/10nm)を形成した。その後、触媒付シリコンウェハをカットして30mmφの石英管内に設置し、水分350ppmに保ったヘリウム/水素(120/80sccm)混合気体を30分間、石英管に流して管内を置換した。その後、電気管状炉を用いて35分間で765℃まで段階的に昇温させ、765℃にて安定させた。ヘリウム/水素/エチレン(105/80/15sccm、水分率350ppm)の混合ガスを管内に充填させ、35分間放置してカーボンナノチューブを成長させた。得られた繊維状柱状構造体集合体(5A)は長さ600um、層数ピークが2層に存在し、割合は69%であった。
さらに、繊維状柱状構造体集合体(5A)の表面に、スパッタにより、Au/Cr(コート厚:1nm/1nm)コートを行い、最外層としてAu(ハマカー定数=45×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(5B)を得た。
ポリプロピレン樹脂(旭洋紙パルプ株式会社製、厚み30μm)をホットプレート上で200℃に加熱し、溶融させた。繊維状柱状構造体集合体(5B)の片端(上端)を溶融させたポリプロピレン樹脂に圧着した後、室温に冷却して固定した。このようにして、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(5C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(5C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0068】
[実施例6]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(5A)の表面に、スパッタにより、SiO(コート厚:10nm)コートを行った以外は、実施例5と同様に行い、最外層としてSiO(ハマカー定数=15×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(6B)、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(6C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(6C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0069】
[実施例7]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(5A)の表面に、スパッタにより、Au/Cr(コート厚:10nm/1nm)コートを行った以外は、実施例5と同様に行い、最外層としてAu(ハマカー定数=45×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(7B)、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(7C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(7C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0070】
[実施例8]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
シリコン基板(エレクトロニクス エンド製、厚み525um)上にスパッタによりFe/Al薄膜(2nm/10nm)を形成した。その後、触媒付シリコンウェハをカットして30mmφの石英管内に設置し、水分350ppmに保ったヘリウム/水素(120/80sccm)混合気体を30分間、石英管に流して管内を置換した。その後、電気管状炉を用いて35分間で765℃まで段階的に昇温させ、765℃にて安定させた。ヘリウム/水素/アセチレン(105/80/15sccm、水分率350ppm)の混合ガスを管内に充填させ、30分間放置してカーボンナノチューブを成長させた。得られた繊維状柱状構造体集合体(8A)は長さ600um、層数ピークが7層に存在し、割合は61.7%であった。
さらに、繊維状柱状構造体集合体(8A)の表面に、スパッタにより、Au/Cr(コート厚:1nm/1nm)コートを行い、最外層としてAu(ハマカー定数=45×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(8B)を得た。
ポリプロピレン樹脂(旭洋紙パルプ株式会社製、厚み30μm)をホットプレート上で200℃に加熱し、溶融させた。繊維状柱状構造体集合体(8B)の片端(上端)を溶融させたポリプロピレン樹脂に圧着した後、室温に冷却して固定した。このようにして、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(8C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(8C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0071】
[実施例9]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(8A)の表面に、スパッタにより、SiO(コート厚:10nm)コートを行った以外は、実施例8と同様に行い、最外層としてSiO(ハマカー定数=15×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(9B)、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(9C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(9C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0072】
[実施例10]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(8A)の表面に、スパッタにより、Au/Cr(コート厚:10nm/1nm)コートを行った以外は、実施例8と同様に行い、最外層としてAu(ハマカー定数=45×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(10B)、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(10C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(10C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0073】
[比較例1]
(繊維状柱状構造体がポリスチレンである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(1A)の表面に何らコートを行わない以外は、実施例1と同様に行い、表面コート層を有さない繊維状柱状構造体集合体(C1B)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(C1B)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0074】
[比較例2]
(繊維状柱状構造体がポリスチレンである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(1A)の表面に、スパッタにより、KBr(コート厚:10nm)コートを行った以外は、実施例1と同様に行い、最外層としてKBr(ハマカー定数=7.16×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(C2B)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(C2B)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0075】
[比較例3]
(繊維状柱状構造体がポリプロピレンである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(4A)の表面に何らコートを行わない以外は、実施例4と同様に行い、表面コート層を有さない繊維状柱状構造体集合体(C3B)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(C3B)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0076】
[比較例4]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(5A)の表面に何らコートを行わない以外は、実施例5と同様に行い、表面コート層を有さない繊維状柱状構造体集合体(C4B)、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(C4C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(C4C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0077】
[比較例5]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(5A)の表面に、スパッタにより、KBr(コート厚:10nm)コートを行った以外は、実施例5と同様に行い、最外層としてKBr(ハマカー定数=7.16×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(C5B)、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(C5C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(C5C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0078】
[比較例6]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(8A)の表面に何らコートを行わない以外は、実施例8と同様に行い、表面コート層を有さない繊維状柱状構造体集合体(C6B)、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(C6C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(C6C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0079】
[比較例7]
(繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである繊維状柱状構造体集合体)
繊維状柱状構造体集合体(8A)の表面に、スパッタにより、KBr(コート厚:10nm)コートを行った以外は、実施例8と同様に行い、最外層としてKBr(ハマカー定数=7.16×10−20J)の表面コート層を有する繊維状柱状構造体集合体(C7B)、ポリプロピレン基材付繊維状柱状構造体集合体(C7C)を得た。
繊維状柱状構造体集合体(C7C)について、せん断接着力の測定を行った。
結果を表1にまとめた。
【0080】
【表1】

【0081】
表1より、繊維状柱状構造体の表面にハマカー定数が10×10−20J以上であるコート材料から形成される表面コート層を設けた場合は、せん断接着力が顕著に向上したことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の繊維状柱状構造体集合体は、優れた粘着特性を有することから、粘着剤として好適に使用され得る。
【符号の説明】
【0083】
1 基材
2 繊維状柱状構造体
2a 繊維状柱状構造体の片端
3 表面コート層
10 繊維状柱状構造体集合体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維状柱状構造体を備える繊維状柱状構造体集合体であって、
該繊維状柱状構造体の表面に、ハマカー定数が10×10−20J以上であるコート材料から形成される表面コート層を有する、
繊維状柱状構造体集合体。
【請求項2】
前記表面コート層の厚みが0.5nm以上である、請求項1に記載の繊維状柱状構造体集合体。
【請求項3】
前記繊維状柱状構造体の直径が2000nm以下である、請求項1または2に記載の繊維状柱状構造体集合体。
【請求項4】
前記繊維状柱状構造体のアスペクト比が10以上である、請求項1から3までのいずれかに記載の繊維状柱状構造体集合体。
【請求項5】
前記コート材料が、MgO、CaO、Te、SiO、Ag、AgI、CdS、BaSO、Al、AgCl、AgBr、TiOs、Fe、Pb、C、Sn、SnO、Si、Cu、Ge、Ag、Au、Fe(OH)、Pt、BNから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から4までのいずれかに記載の繊維状柱状構造体集合体。
【請求項6】
前記繊維状柱状構造体が長さ方向に配向している、請求項1から5までのいずれかに記載の繊維状柱状構造体集合体。
【請求項7】
前記繊維状柱状構造体がカーボンナノチューブである、請求項1から6までのいずれかに記載の繊維状柱状構造体集合体。
【請求項8】
基材をさらに備え、前記繊維状柱状構造体の片端が該基材に固定されている、請求項1から7までのいずれかに記載の繊維状柱状構造体集合体。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれかに記載の繊維状柱状構造体集合体を含む、粘着部材。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−40664(P2012−40664A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185813(P2010−185813)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】