説明

繊維用集束剤

【課題】毛羽立ちや糸切れを抑えると共に繊維強化樹脂に用いた際の耐衝撃性が十分である繊維用集束剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】互いに相溶しない下記(A)及び(B)が水性媒体中に分散している繊維強化樹脂用の繊維に使用される水性分散体状の集束剤である。
(A):25℃での損失正接が0.01〜2であり、ガラス転移温度が−150〜25℃であるエラストマー。
(B):表面張力が(A)の表面張力未満であり、25℃での粘度が10〜20,000mPa・sである有機化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化樹脂用の繊維に使用される集束剤に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂に衝撃を加えた際、強化繊維周辺に発生した微小なクラックが、強化繊維に沿って生長し、破断に至ることが知られている。このため、強化繊維の表面を衝撃エネルギーを吸収できるゴム状物質で被覆することにより、クラックの生長を抑え、繊維強化樹脂の耐衝撃性を改良する試みがなされている(特許文献1、2)。
【0003】
また、繊維強化樹脂用の繊維は集束剤を処理した後、通常、加工のため金属ピンやローラー等に擦過されるが、これらの繊維は通常の有機繊維よりも脆いため、毛羽や糸切れが発生しやすい。このため、強化繊維の表面を平滑なエポキシ樹脂等で被覆することにより、毛羽や糸切れを抑える試みがなされている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平7−26150号公報
【特許文献2】特開2004−11030号公報
【特許文献3】特許第2957406号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1又は2で提案されている方法では、繊維強化樹脂の耐衝撃性の改良においては効果があるものの、ゴム状物質の摩擦係数が高いため、加工工程中に毛羽や糸切れが発生するという問題があった。
【0005】
また、特許文献3に記載されている方法では、毛羽や糸切れの改良においては効果があるものの、衝撃エネルギーを吸収できないため、繊維強化樹脂の耐衝撃性が良好でないという問題があった。
本発明の目的は、毛羽立ちや糸切れを抑えると共に繊維強化樹脂に用いた際の耐衝撃性が十分である繊維用集束剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、互いに相溶しない下記(A)及び(B)が水性媒体中に分散している繊維強化樹脂用の繊維に使用される水性分散体状の集束剤である。
(A):25℃での損失正接が0.01〜2であり、ガラス転移温度が−150〜25℃以下であるエラストマー。
(B):表面張力が(A)の表面張力未満であり、25℃での粘度が10〜20,000mPa・sである有機化合物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維用集束剤は、繊維の加工工程中において平滑性に優れ、繊維の毛羽立ちや糸切れを抑えることができる。また、耐衝撃性に優れた繊維強化樹脂を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の水性媒体分散体状の集束剤は、互いに相溶しないエラストマー(A)及び有機化合物(B)が水性媒体中に分散している。
本発明において(A)と(B)が互いに相溶しないとは、以下の試験において、不均一であって、2層以上の層を形成していることを言う。
(1)(A)と(B)を純分換算で10gずつガラス瓶に採取し、常温で10分間、攪拌
する。尚、(A)及び/又は(B)が水性分散体状の場合は、温度80℃、減圧度10mmHgで3時間水性媒体を除去する。
(2)40℃で48時間静置し、不均一であって、2層以上の層を形成しているかどうかを目視で判断する。
【0009】
上記の試験で、不均一にならず、2層以上の層を形成しない(A)と(B)を集束剤として用いると、衝撃エネルギー吸収性及び平滑性ともに不十分なものとなる。
【0010】
エラストマー(A)としては、共役ジエンエラストマー、アクリル樹脂エラストマー及びウレタン樹脂エラストマー等が挙げられる。これらは架橋されていてもかまわない。また、単独でも2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、強化繊維及びマトリックス樹脂との接着性の観点から、ウレタン樹脂エラストマー及び共役ジエンエラストマーが好ましい。
【0011】
共役ジエンエラストマーとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ブタジエン/スチレン共重合体及びブタジエン/アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。
【0012】
アクリル樹脂エラストマーとしては、エチレン/プロピレンゴム及びポリアクリル酸アルキル等が挙げられる。
【0013】
ウレタン樹脂エラストマーとしては、ポリイソシアネート成分(a1)、ポリオール成分(a2)、及びその他の成分(a3)とから構成されるエラストマーが挙げられる。ポリイソシアネート成分(a1)としては、2〜6個又はそれ以上(好ましくは2〜3個特に2個)のイソシアネート基を有する下記のポリイソシアネート及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
(a11)炭素数(イソシアネート基中の炭素を除く、以下同様)2〜18の脂肪族ポリイソシアネート:
エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチ ルカプロエート、2,6−ジイソシアナトエチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート及びビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート等のジイソシアネート;1,6,1 1−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート及びリジンエステルトリイソシアネート(例えばリジンとアルカノールアミンとの反応生成物のホスゲン化物、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート及び2−又は3−イソシアナトプロピル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート)等の3官能以上のポリイソシアネート;
【0014】
(a12)炭素数4〜15の脂環式ポリイソシアネート:
イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、 メチルシクロヘキシ
レンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキシレン−1,2−ジカルボキシレート及び2,5−又は2,6−ノルボルナンジイソシアネート等のジイソシアネート;ビシクロヘプタントリイソシアネート等の3官能以上のポリイソシアネート;
(a13)炭素数8〜15の芳香脂肪族ポリイソシアネート:
m−又はp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジエチルベンゼンジイソシアネート及びα,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等;
(a14)炭素数6〜20の芳香族ポリイソシアネート:
1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4, 4’−又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネー
ト(MDI)、m−及びp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン及び1,5−ナフチレンジイソシアネート等のジイソシアネート;粗製TDI及び粗製MDI(ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート)等の3官能以上のポリイソシアネート;
【0015】
(a15)ポリイソシアネートの変性体:
上記ポリイソシアネートの変性体、例えば、カルボジイミド、ウレタン、ウレア、イソシアヌレート、ウレトイミン、アロファネート、ビウレット、オキサゾリドン及び/又はウレトジオン基を有する変性体[MDI、TDI、HDI及びIPDI等のウレタン変性物(ポリオールと過剰のポリイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート末端ウレタンプレポリマー)、ビウレット変性物、イソシアヌレート変性物及びトリヒドロカルビルホスフェート変性物等]並びにこれらの混合物。
【0016】
これらのうちで好ましいものは、衝撃エネルギー吸収性の観点から、(a12)、(a13)及び(a14)であり、更に好ましくは、(a13)及び(a14)のうちのジイソシアネートである。
【0017】
ポリオール成分(a2)としては、数平均分子量[以下、Mnと略記。尚、Mnはゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される]400〜5,000の高分子ポリオール(a21)、Mn400未満の低分子ポリオール(a22)及びウレタン樹脂エラストマーを親水性にして乳化させやすくするための親水基含有低分子ポリオール(a23)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0018】
高分子ポリオール(a21)としては、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール及びポリエーテルジオール並びにこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0019】
ポリカーボネートジオールとしては、通常の方法すなわちジオール成分(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジオール等の単独又は2種以上の混合物等)とエチレンカーボネートを反応させ脱エチレングリコール化による方法、あるいは上記ジオール成分とアリールカーボネート、例えばジフェニルカーボネートとのエステル交換による方法で得られるもの等が挙げられる。
【0020】
ポリカーボネートジオールの具体例としては、炭素数4〜10の直鎖状アルキレン基を有するポリカーボネートジオール(例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール及びノナンジオールのポリカーボネートジオール)、炭素数4〜10の分岐状アルキレン基を有するポリカーボネートジオール(例えば、ジオール成分が2−メチルブタンジオール、2−エチルブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルペンタンジオール又は3−メチルペンタンジオールのポリカーボネートジオール)並びにこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0021】
ポリエステルジオールとしては、通常の方法すなわちジオール成分(前述と同様のもの)とジカルボン酸成分[脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等)等の単独又は2種以上の混合物等]とを反応(縮合)させることによる方法、あるいは、ラクトン(ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の単独又は2種以上の混合物等)を開環重合させることによる方法で得られるもの等が挙げられる。
【0022】
ポリエーテルジオールとしては、通常の方法すなわち先に例示したジオール成分等へのアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)[エチレンオキサイド(以下、EOと略記)、プロピレンオキサイド(以下、POと略記)、1,2−、2,3−もしくは1,3−ブチレンオキサイド(以下BOと略記)、テトラヒドロフラン、スチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイド、エピクロルヒドリン等の単独又は2種以上の混合物等]の付加を、無触媒で又は触媒(アルカリ触媒、アミン系触媒及び酸性触媒等)の存在下(とくにAO付加の後半の段階で)に常圧又は加圧下に1段階又は多段階で行なうことによる方法で得られるもの等が挙げられる。尚、AOを2種以上用いる場合の付加形態はブロックでもランダムでもよい。
【0023】
衝撃エネルギー吸収性の観点から、高分子ポリオール(a21)のうちで好ましいものは、ポリエーテルジオールであり、更に好ましくはEO、PO及びBOからなる群から選ばれる1種以上を用いたポリエーテルジオールである。(a21)の使用量は、(a2)の合計重量に基づいて通常40〜99%、好ましくは60〜95%である。前記及び以下において、特に限定しない限り、%は重量%を表す。
【0024】
低分子ポリオール(a22)としては、炭素数2〜15の多価アルコール類[2価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール及びジエチレングリコール);3価アルコール(例えばグリセリン及びトリメチロールプロパン);これらの多価アルコールのアルキレンオキサイド(EO及び/又はPO)低モル付加物(Mn400未満)等]が挙げられる。
(a22)の使用量は、(a2)の合計重量に基づいて通常10%以下、好ましくは8%以下である。
【0025】
ウレタン樹脂エラストマーを親水性にして乳化させやすくするための親水基含有低分子ポリオール(a23)としては、例えばカルボキシル基含有ジオール(2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸及び酒石酸等)が挙げられる。
これらのうちで好ましいものは2,2−ジメチロールプロピオン酸及び2,2−ジメチロールブタン酸である。(a23)の使用量は、(a2)の合計重量に基づいて通常1〜50%、好ましくは2〜20%である。
【0026】
(a3)としては、高分子ポリオール(a21)と共に使用される化合物(a31)、鎖伸長剤(a32)及び停止剤(a33)等が挙げられる。
【0027】
高分子ポリオール(a21)と共に使用される化合物(a31)としては、炭素数2〜10のジアミン類(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、トルエンジアミン及びピペラジン)、ポリアルキレンポリアミン類(例えばジエチレントリアミン及びトリエチレンテトラミン)、ヒドラジンもしくはその誘導体(二塩基酸ジヒドラジド;例えばアジピン酸ジヒドラジド)、炭素数2〜10のアミノアルコール類(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール及びトリエタノールアミン)、並びに前述の親水基含有低分子ポリオール(a22)と同様の効果を有するカルボキシル基含有モノアミン(グリシン、アラニン及びバリン等)、並びにカルボキシル基含有ジアミン(リジン及びアルギニン等)等が挙げられる。
(a31)の使用量は、(a1)のイソシアネート基の当量に基づいて通常0.2当量以下、好ましくは0.1当量以下である。
【0028】
鎖伸長剤(a32)としては(a31)で挙げた炭素数2〜10のジアミン類及び炭素
数2〜10のアミノアルコール類が挙げられる。停止剤(a33)としては、炭素数1〜8のモノアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、セロソルブ類及びカルビトール類等)、炭素数1〜10のモノアミン類(モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モノオクチルアミン等のモノもしくはジアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のモノもしくはジアルカノールアミン等)等が挙げられる。(a32)及び(a33)の使用量の合計は、(a1)のイソシアネート基の当量に基づいて通常0.8当量以下、好ましくは0.6当量以下である。
【0029】
また、ウレタン樹脂エラストマーは、前述の親水基含有低分子ポリオール(a23)、又は(a23)と同様の効果を有する前述のカルボキシル基含有モノアミンもしくはカルボキシル基含有ジアミンを使用する場合は、それらの親水基(カルボキシル基等)を中和する塩基性化合物を含有していてもよい。塩基性化合物としては、アミン類[例えばアンモニア、アルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン及びジプロピルアミン等)、アルカノールアミン(トリエタノールアミン、ジエタノールアミン及びアミノエチルプロパノール等)及び脂環式アミン(モルホリン等)]並びにアルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウム等)水酸化物等が挙げられる。これらの中で好ましいものは、乳化安定性の観点からアミン類であり、更に好ましくはアンモニア、トリエチルアミン及びアミノエチルプロパノールである。
【0030】
ウレタン樹脂エラストマーは公知の方法で製造できる。例えば、ワンショット法又は多段法で前記原料を用いてウレタン化反応させることにより得られる。ウレタン化の反応温度は通常30〜200℃、好ましくは50〜180℃である。反応時間は通常0.1〜30時間、好ましくは0.1〜8時間である。
【0031】
ウレタン化反応は、通常、無溶剤系又はポリイソシアネートに不活性な有機溶剤中で行われる。有機溶剤としてはアセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド、トルエン、ジオキサン及び酢酸エチルエステル等が挙げられる。
【0032】
ウレタン化反応において、ポリイソシアネート中のイソシアネート当量と、ポリオール成分(a2)等に含まれる活性水素基の当量の比(イソシアネート当量/活性水素基の当量)は、通常0.9〜3、好ましくは1.1〜2、特に好ましくは1.2〜1.6である。また、上記ウレタン化反応により得られるポリウレタン樹脂中のイソシアネート基含有量は、通常0〜10%、好ましくは0.5〜10%である。
【0033】
また、前述の親水基含有低分子ポリオール(a23)、又は(a23)と同様の効果を有する前述のカルボキシル基含有モノアミンもしくはカルボキシル基含有ジアミンを使用する場合は、これらのカルボキシル基を中和させた後、水中に分散させてもよい。この後、水及び/又は鎖伸長剤(a32)で鎖伸長することもできる。
【0034】
本発明におけるエラストマー(A)の25℃での損失正接は、通常、0.01〜2であり、好ましくは0.02〜1である。損失正接が0.01〜2の範囲であれば、衝撃エネルギー吸収性が良好であり、繊維強化樹脂の耐衝撃性に優れる。損失正接は通常の粘弾性試験機を用いて測定できる。
【0035】
エラストマー(A)のガラス転移温度(Tg)は通常−150〜25℃であり、衝撃エネルギー吸収性の観点から、好ましくは−150〜0℃、更に好ましくは−150〜−20℃である。ガラス転移温度はJIS K7121(1987)記載のDSC法により測定することができる。
【0036】
有機化合物(B)としては、エポキシ基を有する化合物(B1)、エステル基を有する化合物(B2)、ポリオール(B3)、油性成分(B4)、及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。有機化合物(B)のうち、繊維とマトリックスの界面接着性の観点から好ましいのはエポキシ基を有する化合物(B1)である。
【0037】
エポキシ基を有する化合物(B1)としては、ジグリシジルエーテル(B11)、ジグリシジルエステル(B12)、ジグリシジルアミン(B13)及び脂環式ジエポキシド(B14)等の1分子中に2個又はそれ以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられる。ジグリシジルエーテル(B11)としては、2価フェノールのジグリシジルエーテル(B111)及び2価アルコールのジグリシジルエーテル(B112)が挙げられる。
【0038】
(B111)としては、炭素数6〜30の2価フェノールとエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)で両末端がジグリシジルエーテルであるもの等が挙げられる。
2価フェノールとしては、ビスフェノール(ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールS及びハロゲン化ビスフェノールA等)、カテキン、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、オクタクロロ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テトラメチルビフェニル及び9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フロオレン等が挙げられる。
【0039】
(B112)としては、炭素数2〜100のジオールとエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)で両末端がジグリシジルエーテルであるもの等が挙げられる。
2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAのAO(EO、PO及び/又はBO)(1〜20モル)付加物等が挙げられる。
【0040】
ジグリシジルエステル(B12)としては、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸のジグリシジルエステル(B121)、及び炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸のジグリシジルエステル(B122)等が含まれる。
(B121)としては、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸(B122)とエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)であって、グリシジル基を2個有するもの等が挙げられる。
(B122)としては、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸の芳香核水素添加物(ヘキサヒドロフタル酸及び4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸等)又は炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸とエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)であって、グリシジル基を2個有するもの等が挙げられる。
【0041】
ジグリシジルアミン(B13)としては、炭素数6〜20で、2〜4個の活性水素原子をもつ芳香族アミン(アニリン及びトルイジン等)とエピクロルヒドリンとの反応で得られるN−グリシジル化物(N,N−ジグリシジルアニリン及びN,N−ジグリシジルトルイジン等)等が挙げられる。
【0042】
脂環式ジエポキシド(B14)としては、炭素数6〜50で、エポキシ基の数2の脂環式エポキシド{ビニルシクロヘキセンジオキシド、リモネンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、エチレングリコールビスエポキシジシクロペンチルエーテル、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート及びビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)ブチルアミン等}が挙げられる。
【0043】
これらのうち、平滑性の観点から、(B11)が好ましく、更に好ましくは(B111)及び(B112)である。
【0044】
エステル基を有する化合物(B2)としては、以下の化合物及び特開2006−97167号公報に記載されているものが挙げられる。
【0045】
(B21)一価エステル化合物;
例えば、2−エチルヘキシルステアレート、イソデシルステアレート、イソステアリルオレート、イソエイコシルステアレート、イソエイコシルオレート、イソテトラコシルオレート、イソアラキジルオレート、イソステアリルパルミテート、オレイルオレート、ラウリルイソステアレート、ラウリルアルコールEO2モル付加物のラウリン酸エステル及びオレイルアルコールPO2モル付加物のステアリン酸エステル。
(B22)二価エステル化合物;
例えば、グリセリンジオレエート、ペンタエリスリトールテトラオレエート、ジオレイルアジペート、ジイソトリデシルアジペート、ステアリルアルコールEO10モル付加物のアジピン酸ジエステル及びビスフェノールEO5モル付加物のジオレイン酸エステル。
(B23)多価エステル化合物;
例えば、グリセリントリオレート、ソルビトールテトラステアレート及びトリメリット酸トリラウレート。
(B24)その他のエステル類;
例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジオレイルチオジプロピオネート及びジイソステアリルチオジプロピオネート。
【0046】
これらの(B2)のうち、毛羽立ちの観点から好ましいのは一価エステル化合物(B21)及び二価エステル化合物(B22)である。
【0047】
ポリオール(B3)としては、前記のポリオール成分(a2)が挙げられる。これらのうち、繊維とマトリックスの界面接着性の観点から好ましいのは高分子ポリオール(a21)である。
【0048】
油性成分(B4)としては、以下のものが挙げられる。
(B41)鉱物油;例えば、精製スピンドル油及び流動パラフィン。
(B42)動植物油;例えば、牛脂、マッコウ鯨油、菜種油、ヤシ油及びヒマシ油。
(B43)シリコーン化合物;例えば、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン及びフェニル変性シリコーン。
(B44)天然及び合成ワックス;例えば、カルナバワックス、みつろう、パラフィンワックス及びポリオレフィンワックス[オレフィンの炭素数2〜18、Mw=1,000〜
10,000のワックス、例えばポリエチレンワックス])。
【0049】
これら(B4)のうち、毛羽立ちの観点から好ましいのは、鉱物油(B41)、動植物油(B42)である。
【0050】
有機化合物(B)の25℃での表面張力はエラストマー(A)の25℃での表面張力よりも低いことが必要である。(B)の表面張力が(A)未満であると表面平滑性に優れた集束剤となる。その理由は、(A)と(B)とが互いに相溶しないため、表面張力がより低い(B)が繊維表面上の最外層にブリードアウトし易くなり、結果的に表面平滑性が優れた繊維束になるものと推定している。表面平滑性の観点から有機化合物(B)の表面張力は、(A)よりも1〜20mN/m低いことが好ましい。
【0051】
尚、表面張力は協和界面科学株式会社製「全自動界面張力計PD−W」を用いて、懸滴法で、25℃で測定10回の平均値を求めることにより得られる。また、試料の粘度が1000mPa・s以上の場合は、懸滴法が適切でないので、以下に示すような方法で臨界表面張力を測定し、これを表面張力の代わりに用いる。
(1)エタノールと水をエタノール/水=100/0〜20/80の数種類の体積混合比で混合して数種類の混合液を調製する。
(2)ガラス板(例えば長さ76mm×幅26mm×厚さ1mm)上に試料を塗布し、必要に応じて水性媒体等を乾燥除去し、試料の乾燥皮膜を作成する。
(3)上記の全自動界面張力計を接触角測定モードにし、(1)で調製した混合液を(2)の乾燥皮膜上に滴下し、25℃で接触角を10回測定し、平均値を求める。(1)のエタノール/水の比率を変化させることにより、表面張力を変化させ、接触角の平均値が0°になる(1)の混合液の表面張力を求め、これを試料の臨界表面張力とする。
【0052】
また、有機化合物(B)の25℃での粘度は通常、10〜20,000mPa・sであり、平滑性の観点から好ましくは20〜15,000mPa・sである。ここでいう粘度はJIS K7117−1:1999(ISO2555:1990に対応)に準拠して、ブルックフィールド型粘度計(BL型)により測定されるものである。粘度が10mPa・s未満であると集束性が不足し、20,000mPa・sを超えると平滑性が悪くなるため毛羽立ちやすくなる。
【0053】
(A)と(B)の重量割合[(A)/(B)]は、平滑性及び衝撃エネルギー吸収性の観点から、好ましくは20/80〜95/5であり、更に好ましくは50/50〜90/10である。
【0054】
水性媒体としては、公知の水性媒体(特開2006−124877号公報等)が含まれる。これらは2種以上を併用してもよい。
これらのうち、安全性等の観点から、水及び親水性有機溶媒(アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール及びエタノール等)の混合溶媒が好ましく、更に好ましくは水である。
【0055】
コスト等の観点から、流通時は高濃度の分散体、繊維束の製造時は低濃度の分散体が好ましい。すなわち、高濃度の分散体として流通することで輸送コスト及び保管コスト等を低下させ、繊維処理時に希釈することで、繊維への付着量の調整が容易にできる。
保存安定性等の観点から、高濃度の分散体中の水性媒体の含有量は、(A)及び(B)の合計重量に基づいて、30〜400%が好ましく、更に好ましくは40〜200%である。
一方、繊維束の製造時に集束剤の付着量を適量にする観点等から、低濃度の分散体中の水性媒体の含有量は、(A)及び(B)の合計重量に基づいて、900〜100,000%が好ましく、更に好ましくは1,300〜20,000%である。
【0056】
本発明の水性媒体分散体状の集束剤を製造する方法としては、以下の方法が挙げられる。
(1):(A)及び(B)をあらかじめ1〜200℃で混合後、水性媒体中に1〜90℃で投入しながら攪拌、分散する方法。
(2):(A)及び(B)をあらかじめ1〜200℃で混合後、1〜90℃で水性媒体を投入しながら攪拌、分散する方法。
(3):(A)を乳化重合法等により水性媒体中で製造後、1〜90℃で(B)を加えて攪拌、分散する方法。
(4):(1)又は(2)の方法で(A)と(B)とを別々に水性媒体に分散させた後、
1〜90℃で混合する方法。
【0057】
(A)及び/又は(B)を水性媒体に分散させる際に、分散性を向上させる目的で、界面活性剤(C)を併用することができる。また、界面活性剤を併用することによって集束剤としての平滑性が向上し毛羽立ちが少なくなるという効果も期待できる。
界面活性剤(C)としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤等の公知の界面活性剤(特開2006−124877号公報、国際公開WO2003/37964号パンフレットに記載のもの等)が使用できる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0058】
尚、界面活性剤(C)としては、上記公知文献に記載されているもの以外に、炭素数2〜6の多価(2〜8価)アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール及びソルビタン等)のAO付加物[重量平均分子量(以下、Mwと略記)500〜100,000]、炭素数10〜20のアルキルフェノールのAO付加物(Mw500〜5,000)の硫酸エステル塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩及びアルカノールアミン塩等)、炭素数14〜62のアリールアルキルフェノール[スチレン化フェノール、スチレン化クミルフェノール及びスチレン化クレゾール等]のAO付加物(Mw500〜5,000)の硫酸エステル塩等が挙げられる。
尚、界面活性剤(C)において、AOは、EO単独、又は、EOとPO及び/又はBOの併用の場合を含む。PO及びBOの少なくとも一方を含む場合、ランダム付加物、ブロック付加物及びこれらの混合付加物が含まれる。
【0059】
界面活性剤(C)のうち、アニオン界面活性剤、非イオン活性剤及びアニオン界面活性剤と非イオン界面活性剤との混合物が好ましく、更に好ましくはアルキルフェノールのAO付加物、アリールアルキルフェノールのAO付加物、アルキルフェノールのAO付加物の硫酸エステル塩、アリールアルキルフェノールのAO付加物の硫酸エステル塩及びこれらの混合物、特に好ましくはアリールアルキルフェノールのAO(EO及びPO)付加物及びアリールアルキルフェノールのAO(EO及びPO)付加物の硫酸エステル塩及びこれらの混合物である。
【0060】
界面活性剤(C)を含有する場合、界面活性剤(C)の含有量は、分散安定性及び平滑性の観点から、(A)及び(B)の合計重量に基づいて、1〜30%が好ましく、更に好ましくは1〜20%である。
【0061】
製造に使用する混合装置に制限はなく、撹拌羽根(羽根形状:カイ型、三段パドル等)、ナウターミキサー、リボンミキサー、コニカルブレンダー、モルタルミキサー、万能混合機(万能混合攪拌機5DM−L、株式会社三英製作所製等)及びヘンシェルミキサー等が使用できる。
【0062】
本発明の集束剤は、(A)及び(B)以外のその他の樹脂(D)を含有してもよい。その他の樹脂(D)を含有すると、集束性がより良好になる。
その他の樹脂(D)としては、(A)及び(B)以外の熱可塑性樹脂並びに熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0063】
熱可塑性樹脂としては、国際公開WO2003/09015号パンフレット、国際公開WO2004/067612号パンフレット又は特開2005−120282号公報等に記載の熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタンウレア、ポリエステル、ポリアミド及びアクリル樹脂等)等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、前述のエポキシ基を有する化合物(B1)のうち(B)の条件を満たさないもの、特開2007-39868号公報等に記載の(メタ)アクリレート変
性樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。尚、(メタ)アクリレートとは、メタクリレート及びアクリレートを意味する。
【0064】
その他の樹脂(D)としては、成形体強度の観点から、ポリウレタンウレア、ポリアミド、エポキシ樹脂、(メタ)アクリレート変性樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が更に好ましい。
その他の樹脂(D)を含有する場合、(D)の含有量は、繊維強化樹脂に用いた際の成型品強度及び毛羽立ちの観点から、(A)及び(B)の合計重量に基づいて、1〜50%が好ましく、更に好ましくは1〜30%である。
【0065】
本発明の集束剤には、公知の添加剤(特開2006−124877号公報等に記載の平滑剤、防腐剤及び酸化防止剤等)を含有してもよい。
添加剤を含有する場合、添加剤の含有量は、(A)及び(B)の合計重量に基づいて、0.01〜10%が好ましく、更に好ましくは0.1〜5%である。
【0066】
本発明の集束剤を適用できる繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維等の公知の繊維(国際公開WO2003/47830号パンフレット等)が挙げられ、成形体強度の観点から、好ましくは炭素繊維、アラミド繊維及びガラス繊維であり、更に好ましくは炭素繊維である。
【0067】
本発明の繊維束は、これらの繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種を、上記の集束剤で処理して、繊維3000〜3万本程度を束ねた繊維束として得られる
【0068】
集束剤による繊維の処理方法としては、スプレー法又は浸漬法等が挙げられる。
繊維上への(A)及び(B)の付着量は、繊維の重量に基づいて、0.05〜5%が好ましく、更に好ましくは0.2〜2.5%である。この範囲であると、成形体強度が更に優れる。
【0069】
繊維製品は、上記繊維束を加工して繊維製品としたものであり、織物、編み物、不織布(フェルト、マット及びペーパー等)、チョップドファイバー及びミルドファイバー等が含まれる。
【0070】
複合中間体は繊維束又は繊維製品とマトリックス樹脂とからなる。必要により、触媒を含有してもよい。触媒を含有すると、成形体強度が更に優れる。
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂(国際公開WO2003/09015号パンフレットに記載のもの等)がが挙げられ、好ましくはその他の樹脂(D)、更に好ましくはポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂である。
触媒としては、公知(特開2005−213337号公報等)のエポキシ樹脂用硬化剤及び硬化促進剤等が挙げられる。
【0071】
マトリックス樹脂と繊維束との重量比(マトリックス樹脂/繊維束)は、成形体強度等の観点から、10/90〜90/10が好ましく、更に好ましくは20/80〜70/30、特に好ましくは30/70〜60/40である。
触媒を含有する場合、触媒の含有量は、成形体強度等の観点から、マトリックス樹脂に対して0.01〜10%が好ましく、更に好ましくは0.1〜5%、特に好ましくは1〜3%である。
【0072】
複合中間体は、熱溶融(溶融温度:60〜150℃)したマトリックス樹脂、又は溶剤
(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン及び酢酸エチル等)で希釈したマトリックス樹脂を、繊維束又は繊維製品に含浸させることで製造できる。溶剤を使用した場合、複合中間体を50〜200℃で0.1〜3時間乾燥させて溶剤を除去するのが好ましい。
【0073】
成形体は、繊維束又は繊維製品とマトリックス樹脂とを別々に型内に導入し成形及び/又は硬化するか複合中間体を成形及び/又は硬化して得られる。
マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合、150〜300℃で型内で加熱成形し、常温で固化させることで成形体とすることができる。
マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、50〜250℃で型内で加熱成形し、硬化させることで成形体とすることができる。硬化は完結している必要はないが、成形体が形状を維持できる程度に硬化していることが好ましい。成形後、更に加熱して完全に硬化させてもよい。 加熱成形の方法は特に限定されず、例えばフィラメントワイディング成形法(回転するマンドレルに張力をかけながら巻き付け、加熱成形する方法)、プレス成型法(プリプレグシートを積層して加熱成形する方法)、オートクレーブ法(プリプレグシートを型に圧力をかけ押しつけて加熱成形する方法)、及びチョップドファイバーもしくはミルドファイバーをマトリックス樹脂と混合して射出成形する方法等が挙げられる。
【0074】
[実施例]
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、特に記載がない限り、部は重量部を示す。
【0075】
[試験方法]
(A)の損失正接はオリエンテック社製「粘弾性試験機Model DDV−25FP」を用いて、雰囲気温度25℃、10Hzの周波数条件で測定した。
【0076】
(A)のガラス転移温度は、セイコーインスツルメンツ社製「示差走査熱量計ModelRDC220」を用いて、JIS K7121(1987)記載のDSC法に従って測定した。
【0077】
(A)の表面張力は協和界面科学株式会社製「全自動界面張力計PD−W」を用いて、以下に示すような臨界表面張力を測定し、これを表面張力の代わりに用いた。
(1)エタノールと水をエタノール/水=100/0〜20/80の数種類の体積混合比で混合して数種類の混合液を調製する。
(2)ガラス板(例えば長さ76mm×幅26mm×厚さ1mm)上に試料を塗布し、必要に応じて水性媒体等を乾燥除去し、試料の乾燥皮膜を作成する。
(3)上記の全自動界面張力計を接触角測定モードにし、(1)で調製した混合液を(2)の乾燥皮膜上に滴下し、25℃で接触角を10回測定し、平均値を求める。(1)のエタノール/水の比率を変化させることにより、表面張力を変化させ、接触角の平均値が0°になる(1)の混合液の表面張力を求め、これを試料の臨界表面張力とする。
【0078】
(B)の表面張力は粘度が1000mPa・s以上のときは上記の臨界表面張力を求めた。1000mPa・s以下のときは、懸滴法で10回の測定値の平均値を求めた。
【0079】
(B)の粘度は、以下の条件で2回測定した平均値とした。
機種:BL型粘度計(東機産業社製)
測定温度:25℃
粘度が10〜100mPa・sのとき :ローターNo1、回転数60rpm
粘度が100〜1000mPa・sのとき:ローターNo2、回転数30rpm
粘度が1000mPa・s以上のとき :ローターNo3、回転数6rpm
【0080】
(A)と(B)との相溶性は以下の方法で測定した。
(1)(A)と(B)を純分換算で10gずつガラス瓶に採取し、常温で10分間攪拌する。尚、(A)及び/又は(B)が水性分散体状の場合は、温度80℃、減圧度10mmHgで3時間水性媒体を除去する。
(2)40℃で48時間静置し、不均一であって、2層以上の層を形成しているかどうかを目視で判断する。
【0081】
毛羽は、以下の条件で測定した。
直径2mmのクロムめっきされたステンレス棒を15mm間隔で、その表面を炭素繊維束(1)が120°の接触角で接触しながら通過するようにジグザクに5本配置した。このステンレス棒間に炭素繊維束(1)をジグザグにかけ、1kg重の張力をかけた。巻き取りロール直前で炭素繊維束(1)を1kg重の荷重をかけた10cm×10cmのウレタンフォーム2枚で挟み、1m/分の速度で5分間擦過させた。この間にスポンジに付着した毛羽の重量を測定した。数値が小さいほど毛羽特性が優れる。
【0082】
シャルピー衝撃強度の評価は以下のようにして行った。
炭素繊維束(1)を一方向に引き揃えてこれにビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(エポキシ当量190)/BF3モノエチルアミン塩=100/3の重量比に調合した
マトリックス樹脂を50℃に加熱して含浸させる。このときマトリックス樹脂と繊維束(1)の重量比[マトリックス樹脂/繊維束(1)]が30/70となるように炭素繊維束(1)の量を調節する。含浸後、2mm厚みになるように繊維束を重ね、150℃、1時間加圧下(0.49MPa)で硬化させ、更に140℃、そのままの圧力で4時間硬化させる。こうして得た硬化物をダイヤモンドカッターで切断して、厚さ2mm、幅10mm、長さ80mmのテストピースについてJIS K7077(1991)に従ってシャルピー衝撃強度を測定した。数値が大きいほど、耐衝撃性が優れている。
【0083】
実施例及び比較例では、エラストマーとして、以下の(A−1)〜(A−3)を使用した。
【0084】
製造例1[ウレタン樹脂エラストマー水分散体(A−1)の合成]
ポリプロピレングリコール(三洋化成工業社製「ニューポールPP−2000」、Mn約2,000)200部、ジメチロールプロピオン酸25部、イソホロンジイソシアネート80部、ジブチルチンジラウレート0.2部を加え、90℃で7時間反応させた。ここにトリエチルアミン21部を加えて中和した。このプレポリマーを660部の水中に25℃で攪拌下加え、更にエチレンジアミン4.5部を加え、50℃で2時間反応させて、990部のウレタン樹脂エラストマー水分散体(A−1)を得た。(A−1)を100℃で2時間乾燥して水分を除去た後に測定した損失正接、ガラス転移温度及び表面張力の値を表1に示す。
【0085】
製造例2[ウレタン樹脂エラストマー(A−2)の合成]
ポリテトラメチレングリコール(三菱化学社製PTMG2000、Mn約2,000)200部、1,4ブタンジオール10部、トルエンジイソシアネート38.6部、ジブチルチンラウレート0.2部を加え、90℃で7時間反応させた。ここにイソプロパノール0.6部を加えて50℃で2時間反応させて、ウレタン樹脂エラストマー(A−2)を得た。(A−2)の損失正接、ガラス転移温度及び表面張力の測定結果を表1に示す。
【0086】
SBRエラストマーの水分散体(A−3)として、SBRラテックス「ナルスターSR−113」(日本A&L社製:純分48%)を使用した。(A−3)を100℃で2時間乾燥して水分を除去た後に測定した損失正接、ガラス転移温度及び表面張力の測定結果を
表1に示す。
【0087】
アクリルエラストマー(A−4)として、日本ゼオン社製NipolAR54を使用した。(A−4)の損失正接、ガラス転移温度及び表面張力の測定結果を表1に示す。
【0088】
製造例3[ウレタン樹脂エラストマー水分散体(A−5)の合成]
ポリプロピレングリコール(三洋化成工業社製「サンニックスPP−4000」、Mn約4,000)400部、ジメチロールプロピオン酸25部、イソホロンジイソシアネート80部、ジブチルチンジラウレート0.2部を加え、90℃で7時間反応させた。ここにトリエチルアミン21部を加えて中和した。このプレポリマーを1060部の水中に25℃で攪拌下加え、更にエチレンジアミン4.5部を加え、50℃で2時間反応させて、1590部のウレタン樹脂エラストマー水分散体(A−5)を得た。(A−5)を100℃で2時間乾燥して水分を除去た後に測定した損失正接、ガラス転移温度及び表面張力の値を表1に示す。
【0089】
製造例4[ウレタン樹脂エラストマー水分散体(A−6)の合成]
ポリプロピレングリコール(三洋化成工業社製「サンニックスPP−1000」、Mn約1,000)100部、ジメチロールプロピオン酸25部、イソホロンジイソシアネート80部、ジブチルチンジラウレート0.2部を加え、90℃で7時間反応させた。ここにトリエチルアミン21部を加えて中和した。このプレポリマーを470部の水中に25℃で攪拌下加え、更にエチレンジアミン4.5部を加え、50℃で2時間反応させて、700部のウレタン樹脂エラストマー水分散体(A−6)を得た。(A−6)を100℃で2時間乾燥して水分を除去た後に測定した損失正接、ガラス転移温度及び表面張力の値を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
有機化合物(B)として、以下の(B−1)〜(B−7)を使用した。これらの粘度及び表面張力の測定結果を表2に示す。また、界面活性剤(C)、その他の樹脂(D)として以下のものを使用した。
【0092】
(B−1):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 エピコート828)
(B−2):ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(共栄社化学社製 エポライト400E)
(B−3):ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(共栄社化学社製 エポライト400P)
(B−4):ビスフェノールA PO付加物(三洋化成工業社製 ニューポールBP−5P)
(B−5):ポリプロピレングリコール(三洋化成工業社製 ニューポールPP−400)(B−6):オレイルオレート
(B−7):ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製 PEG−400)
(C−1):スチレン化フェノール PO及びEO付加物(ローディア日華社製 Soprophor 796/P)
(D−1):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 エピコート834)
【0093】
【表2】

【0094】
実施例1
純分換算で80部の(A−1)を容器に仕込み、撹拌下に系内温度25℃で、(B−1)20部を投入し、25℃で60分間混合して純分換算で100部の水性分散体(S−1)を得た。
尚、使用した(A)と(B)の相溶性を予め試験し、結果を表3に示した。
以下の実施例2〜9も同様に相溶性を予め試験し、結果を表3に示した。
実施例2
(B−1)の代わりに(B−3)を用いる以外は、実施例1と同様にして、水分散体(
S−2)を得た。
【0095】
実施例3
純分換算で60部の(A−1)を容器に仕込み、撹拌下に系内温度25℃で、(B−3)20部及び(D−1)20部を投入し、50℃で120分間混合して純分換算で100部の水性分散体(S−3)を得た。
【0096】
実施例4
(A−1)の仕込み量を純分換算で50部にし、(B−1)20部の代わりに(B−3)50部を用いる以外は、実施例1と同様にして水分散体(S−4)を得た。
【0097】
実施例5
(B−1)の代わりに(B−5)を用いる以外は、実施例1と同様にして水分散体(S−5)を得た。
【0098】
実施例6
(A−2)300部、(B−3)100部及び(C−1)100部を万能混合機(株式会社三英製作所製「万能混合攪拌機」)に仕込み、70℃で30分間均一混合した。この中に水500部を、系内の温度を50℃に保ちながら、6時間かけて滴下して、1000部の水分散体(S−6)を得た。
【0099】
実施例7
(B−3)の代わりに(B−6)を用いる以外は、実施例6と同様にして水分散体(S−7)を得た。
【0100】
実施例8
(B−3)の代わりに(B−4)を用いる以外は、実施例6と同様にして水分散体(S−8)を得た。
【0101】
実施例9
(A−1)の代わりに(A−3)を、(B−1)の代わりに(B−2)を用いる以外は、実施例1と同様にして水分散体(S−9)を得た。
【0102】
実施例10
(A−2)の代わりに(A−4)を、(B−3)の代わりに(B−1)を用いる以外は実施例6と同様にして水分散体(S−10)を得た。
【0103】
実施例11
(A−1)の代わりに(A−5)を用いる以外は、実施例4と同様にして水分散体(S−11)を得た。
【0104】
実施例12
(A−1)の代わりに(A−6)を用いる以外は、実施例4と同様にして水分散体(S−12)を得た。
【0105】
実施例13
(A−1)の仕込み量を純分換算で20部に(B−1)の仕込み量を80部に変更する以外は実施例1と同様にして水分散体(S−13)を得た。
【0106】
実施例14
(A−1)の仕込み量を純分換算で90部に、(B−3)の仕込み量を10部に変更する以外は実施例4と同様にして水分散体(S−14)を得た。
【0107】
比較例1
(B−1)300部、(B−6)50部及び(C−1)100部を万能混合機(株式会社三英製作所製「万能混合攪拌機」)に仕込み、70℃で30分間均一混合した。この中に水550部を、系内の温度を50℃に保ちながら、6時間かけて滴下し、1000部の比較用水分散体(H−1)を得た。
【0108】
比較例2
(A−1)を比較用水分散体(H−2)とした。
【0109】
比較例3
(B−3)の代わりに(B−7)を用いた以外は実施例4と同様にして比較用水分散体(H−3)を得た。
【0110】
【表3】

【0111】
実施例の水分散体(S−1)〜(S−14)並びに比較例の水分散体(H−1)〜(H−3)を集束剤として用いて、これらの集束剤中の純分が1.5%になるように水で希釈し、炭素繊維(繊度800tex、フィラメント数12000本)を浸漬して集束剤を含浸させ、150℃で3分間熱風乾燥させて得られた炭素繊維束(1)について、毛羽及び
シャルピー衝撃強度を評価した結果を表4に示す。
尚、上記炭素繊維束(1)における(A)及び(B)の付着量は、繊維の重量に基づいていずれも1.5%であった。
【0112】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の繊維用集束剤で処理して得られるガラス繊維束、炭素繊維束又はアラミド繊維束、及びそれを加工してなる繊維製品は、毛羽立ちが少なく、かつ高強度の繊維強化樹脂に好適である。この繊維強化樹脂は各種の土木・建築用材料、輸送機用材料、スポーツ用品材料、発電装置用材料などとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相溶しない下記(A)及び(B)が水性媒体中に分散している繊維強化樹脂用の繊維に使用される水性分散体状の集束剤。
(A):25℃での損失正接が0.01〜2であり、ガラス転移温度が−150〜25℃であるエラストマー。
(B):表面張力が(A)の表面張力未満であり、25℃での粘度が10〜20,000mPa・sである有機化合物。
【請求項2】
前記(A)が、ウレタン樹脂エラストマーである請求項1記載の集束剤。
【請求項3】
前記(B)がエポキシ基を有する有機化合物である請求項1又は2記載の集束剤。
【請求項4】
前記(A)及び前記(B)の重量割合[(A)/(B)]が、20/80〜95/5である請求項1〜3いずれか記載の集束剤。
【請求項5】
前記繊維強化樹脂用の繊維が、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる1種以上である請求項1〜4いずれか記載の集束剤。
【請求項6】
ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる1種以上の繊維を、請求項1〜5いずれか記載の集束剤で処理して得られる繊維束。
【請求項7】
請求項6に記載の繊維束からなる繊維製品。
【請求項8】
請求項6に記載の繊維束又は請求項7に記載の繊維製品と樹脂とからなる複合中間体。
【請求項9】
請求項6に記載の繊維束又は請求項7に記載の繊維製品と樹脂とを成形及び/又は硬化してなる成形体。
【請求項10】
請求項8に記載の複合中間体を成形及び/又は硬化してなる成形体。

【公開番号】特開2009−121013(P2009−121013A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266944(P2008−266944)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】