説明

繊維製品のプリント方法

【課題】立体成形された繊維製品の種々の部位にスクリーン捺染を施すことができ、更に、簡便且つ低コストに実施することのできる繊維製品のプリント方法を提供する。
【解決手段】流体によって膨張可能な支持体30をプリント対象となる繊維製品40の内部に挿入し、該支持体30を膨張させて繊維製品40を立体的に支持する。図柄を製版したスクリーン10を枠体から切り離して該立体的に支持された繊維製品40上に貼付し、該スクリーン10を介して繊維製品40にインキを吹き付けることで図柄をプリントする。これにより、複雑な曲面や縫い目の凹凸がある部分にも容易にスクリーン捺染を施すことができる。また、特殊な形状の型を作製する必要がないため低コストに実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品のプリント方法に関し、特に、シャツやズボン等の衣類のように、縫製等によって立体的に成形された繊維製品にスクリーン捺染を利用して図柄をプリントする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維製品に図柄をプリントする方法の一つにスクリーン捺染が知られている。一般的なスクリーン捺染は、次のような手順で行われる。まず、アルミ枠や木枠に張設したスクリーンに感光性樹脂から成る薄膜を形成し、該薄膜上にポジフィルムを貼り付けて露光・現像することで、所望の図柄部分以外の目が塞がれたスクリーンを作製する。続いて、プリント対象となる繊維製品上に上記スクリーンを枠ごと載置し、インキ(捺染糊)を載せてスキージで摺動する。これにより、スクリーンの樹脂で遮蔽されていない部分のみをインキが通過して繊維製品の表面に転移し、上記所望の図柄が該繊維製品上にプリントされる。
【0003】
しかし、上記のようなスクリーン捺染を行うためにはプリント対象面を平坦にする必要があるため、縫製済みのズボンやジャケット等の立体的形状を有する繊維製品にスクリーン捺染を施すことは困難であった。
【0004】
一方、特許文献1には、縫製済みソックス等の筒形の繊維品に図柄をプリントするための方法が記載されている。該方法では、まず、ゴム等の拡張可能な物質から成る円筒形の支持体を前記繊維品の内部に挿入し、更に、プリントしたい図柄に対応した複数の開口を設けた円筒形の型を該繊維品の上に被せる。続いて、前記支持体を空気等で膨張させることによって繊維品を型の内部に密着させ、型の外部からスプレー等によって染料を付与する。この方法によれば、ソックス等の平らにすることのできない繊維品の表面に模様を付けることができる。
【0005】
【特許文献1】特開平6-341072号公報([0015]-[0024],図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、ソックスやシャツの袖、ズボンの足など、単純な円筒形状の部分にしかプリントを施すことができず、例えば、ズボンの腰部から脚部に亘る領域やジャケットの肩から背部に亘る領域等の複雑な立体形状を有する部分にはプリントを施すことができなかった。また、上記方法では、図柄に対応した開口を設けた型を円筒状に成形する必要があるため、型の製造に手間とコストが掛かり、小ロット生産には適さないものであった。更に、型としてアルミ等に複数の開口を設けたものを使用するため、比較的単純な図柄しかプリントすることができず、スクリーン捺染を利用した場合のように精緻な図柄をプリントすることは困難であった。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、立体成形された繊維製品の種々の部位にスクリーン捺染を施すことができ、更に、簡便且つ低コストに実施することのできる繊維製品のプリント方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る繊維製品のプリント方法は、立体的に成形された繊維製品にスクリーン捺染を施すための方法であって、
a)流体によって膨張可能な支持体を前記繊維製品の内部に挿入し、該支持体を膨張させて該繊維製品を立体的に支持する繊維製品支持ステップと、
b)所望の図柄を製版したベアスクリーンを前記立体的に支持された繊維製品上に貼付するスクリーン貼付ステップと、
c)該ベアスクリーンを介して該繊維製品にインキを吹き付けるインキ付与ステップと、
を有することを特徴としている。
【0009】
本発明において、「ベアスクリーン」とは、枠体等に張設されていない状態のスクリーンを意味しており、上記「所望の図柄を製版したベアスクリーン」とは、枠体に張設した状態で製版を行った後に枠体から取り外されたものであってもよく、あるいは自動製版機等を用いてはじめから枠体に張設しない状態で製版されたものであってもよい。なお、「製版」とは、スクリーン上の所望の図柄に対応する部分以外の目を塞ぐことにより該図柄部分のみが開口したスクリーン孔版を作製することを意味する。また、上記「繊維製品」とは、布帛、ニット地、不織布等から成るものを含み、「立体的に成形された繊維製品」とは、平らなパーツ(身頃、袖等)を縫合することによって立体的に作り上げられたもののほか、編糸を立体的に編み上げることによって形成されたものを含む。また、「図柄」とは、絵のほか、ロゴ等の文字や符号を含むものとする。
【0010】
なお、上記インキ付与ステップで用いられる「インキ」とは、顔料又は染料等の色材を含有する着色用インキの他、抜染剤を含有する抜染用インキ、又は抜染剤及び該抜染剤によって脱色されない色材を含有する着抜(着色抜染)用インキを含むものとする。抜染用インキを用いた場合は、上記繊維製品の地色を該インキを付与した部分のみ脱色することができ、着抜用インキを用いた場合は、前記地色の脱色と同時に脱色した部分を別の色で着色することができる。
【0011】
以上の方法によれば、立体成型された繊維製品を上記膨張可能な支持体によって立体的に支持すると共に、従来、枠体に張設して使用されていたスクリーンを、枠体に取り付けない状態で繊維製品に貼付するようにしたことで、立体的な形状を有する繊維製品の種々の領域にスクリーンを密着させることができる。また、上記インキ付与ステップにおいて、従来のスキージによるインキの押し出しに代えてスプレーガン等によるインキの吹き付けを行うことにより、複雑な形状を有する面に対しても容易にインキを付与することができる。
【0012】
なお、上記スクリーン貼付ステップにおいては、上記ベアスクリーンが上記繊維製品の立体形状に沿うように、該ベアスクリーンの周縁に一箇所以上の切り込みを入れることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、上記構成を有する本発明に係る繊維製品のプリント方法によれば、立体成形された繊維製品の種々の部位に容易にプリントを施すことが可能となる。また、特殊な形状の型を作製する必要がないため低コストに実現することができ、更に、スクリーン捺染を利用したプリントを行うため、細緻な図柄を施すことも可能である。
【0014】
また、本発明に係る繊維製品のプリント方法は、上記繊維製品支持ステップにおいて、上記繊維製品と支持体の間に可撓性を有する樹脂製のシートを介挿することが望ましい。これにより、繊維製品の皺を伸ばしてプリント対象面を滑らかな状態とすることができる。その結果、繊維製品と上記ベアスクリーンの密着性が増し、一層鮮明なプリントを施すことが可能となる。なお、前記可撓性樹脂シートは、薄すぎると上記の効果が不十分となり、厚すぎると扱いにくくなるため0.3〜1.0mmの厚さを有するものを使用する。
【0015】
なお、上記ベアスクリーンは、目が粗すぎると細緻な図柄がプリントできず、細かすぎるとスプレーした際にインキが通過し難くなるため、360〜800メッシュのものを用いることが望ましい。また、近年主流となっている不撚糸を用いたスクリーンでは、コシが強く曲面に密着させ難いため、柔軟性の高い撚糸から成るスクリーンを使用することが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例】
【0017】
ここでは、ジーンズ等のズボンを対象として本発明のプリント方法を実施する場合について説明する。本実施例のプリント方法は以下の手順で行われる。
【0018】
(1)スクリーン製版
まず、アルミ枠20にポリエステル製の撚糸から成る500メッシュ又は600メッシュのスクリーン10を張設し、該スクリーン10上に感光製乳剤を塗布する。その後、該スクリーン10上に図柄を施したポジフィルムを載置して露光し、感光しなかった部分の乳剤を除去することによって該図柄11に対応する部分のみが開口したスクリーン10を作製する(図1(a))。
【0019】
(2)スクリーンの切り取り
上記工程によって製版が完了したスクリーン10を枠20から切り離し、適当な大きさにトリミングする。なお、使用後の洗浄を容易にするため、スクリーン10を枠20から切り離す前にスクリーン10の表面(プリント対象面と対向しない側の面)にフッ素系コーティング剤等の撥水剤を塗布しておくことが望ましい。その後、トリミングしたスクリーン10の裏面(プリント対象面と対向する面)にスプレー糊を吹き付け、該スクリーン10の周縁に図柄11を避けて複数箇所の切り込み12を入れる(図1(b))。このような切り込み12を入れることにより、スクリーン10がプリント対象面の形状に沿い易くなる。
【0020】
(3)ズボンの支持
次に、図2に示すようなバルーン(支持体)30を用いてプリント対象となる縫製済みズボン40を立体的に支持する。該バルーン30は、ガラス繊維強化樹脂製のシート材から成る複数のパーツを縫合して成るものであり、空気を導入及び排出するための空気口31を備え、該空気口31はユーザが手動で開閉できる構造となっている。該バルーン30は、膨張させた際の圧力に耐え得るよう多重に縫製を施してあり、更に、縫い目から空気が漏れることのないよう、バルーン30の外側からビニール用接着剤を塗布することによって縫い目部分の凹み(前記パーツ同士の境界に相当する部分)が封止されている。
【0021】
該バルーン30によってズボン40を支持する際には、まず、空気口31からバルーン30に少量の空気を導入した状態でズボン40の中に入れ、その後、更にバルーン30に空気を送り込むことにより、ズボン40を本来の立体形状になるまで膨らませる。その際、空気の導入量を適宜調節することで種々のサイズのズボンに対応させることができる。
【0022】
なお、このとき厚さ0.5mm程度の可撓性を有する塩化ビニル又はポリエチレン製のシート50をズボン40とバルーン30の間に介挿することが望ましい(図3)。これにより、生地に発生する皺を伸ばし、プリント対象面とスクリーン10の密着性を高めてプリントの仕上がりを向上させることができる。なお、該可撓性シート50には、予めズボン40の内面と接する側にスプレー糊を吹き付けておくとより望ましい。これにより、該可撓性シート50をズボン40の生地と密着させることができ、プリント対象面をより滑らかな状態とすることができる。
【0023】
(4)スクリーンの貼付
上記工程によって立体的に支持されたズボン40の適当な部分に上述のスクリーン10を貼付する。このとき、必要に応じて、更にスクリーン10の周縁に切り込み12を入れ、スクリーン10がズボン40の形状に沿うようにする。図4は、スクリーン10をズボン40の腰部から左脚部に亘る領域に貼付した状態を示す。その後、ズボン40に貼付したスクリーン10の周縁及び切り込み部分に紙テープを貼付して密着させ、更に、ズボン40上のプリントを施さない部分(ここではズボン40の右足側等)に、インキの付着を防止するため、適当な紙や樹脂性シート等でマスキングを施しておく。
【0024】
(5)インキの調製
顔料及びバインダー樹脂等を混合することにより着色用のインキを調製する。なお、バインダー樹脂としては、ウレタン系樹脂又はシリコーン系樹脂等いかなるものを用いてもよく、必要に応じて架橋剤を添加してもよい。
【0025】
(6)インキの吹き付け
以上により調製されたインキをピースガンにセットし、上記スクリーン10を介してズボン40に吹き付ける。これにより、スクリーン10上の図柄11に対応する部分のみを通過してプリント対象面にインキが付与される。図5は、インキ吹き付け後のズボン40からスクリーン10を取り外した状態を示す側面図である。本実施例の方法によれば、脚部のような単純な筒状の部分のみならず、図のように腰部から脚部に亘る複雑な曲面や縫い目の凹凸がある部分にも容易にプリントを施すことができる。
【0026】
(7)加熱処理(ベーキング)
吹き付け終了後、ズボン40からスクリーン10を取り外し、バルーン30の空気口31を開放してバルーン30内の空気を排出する。その後、空気の抜けたバルーン30をズボン40から取り出し、該ズボン40のプリントを施された部分を加熱処理してインキを繊維に固着させる。
【0027】
(8)スクリーンの洗浄
使用後のスクリーン10は、図6に示すように、別のスクリーン60を張設した枠70の上に載置して洗浄する。これにより多数の切り込み12の入った使用済みスクリーン10を容易に洗浄することができる。また、該スクリーン10は、上述のように予め撥水剤によってコーティングされているため簡単にインキを落とすことができる。なお、このとき捺染台洗浄用の洗剤(例えば、株式会社佐野製の「スーパークレンズ」)を使用済みのスクリーン10に吹き付け、スポンジ等で軽くこすることでスクリーン10を傷めることなく、より素早くインキを洗い落とすことができる。
【0028】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更が許容されるものである。例えば、上記実施例ではジーンズ等のズボンにプリントを施す場合について説明したが、その他の立体成形された繊維製品、例えば、シャツやジャケット等の上着にも本発明のプリント方法を適用することができる。この場合、図2に示したような腰部と脚部に対応した形状を有するズボン用のバルーンの代わりに、図7に示すような胴部と腕部に対応した形状を有する上着用のバルーンを使用する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例に係るスクリーンを示す図であり、(a)は製版直後の状態を示し、(b)はプリント対象面に貼り付ける直前の状態を示す。
【図2】同実施例のプリント方法におけるズボン支持用のバルーンを示す正面図。
【図3】同実施例のプリント方法において、ズボンとバルーンの間に可撓性シートを挟み込んだ状態を示す斜視図。
【図4】同実施例のプリント方法において、スクリーンをズボンに貼付した状態を示す斜視図。
【図5】同実施例のプリント方法において、インキの吹き付け後にズボンからスクリーンを取り外した状態を示す側面図。
【図6】同実施例のプリント方法におけるスクリーンの洗浄方法を説明する図。
【図7】本発明のプリント方法におけるバルーンの別の例を示す平面図。
【符号の説明】
【0030】
10、60…スクリーン
11…図柄
20、70…枠
30…バルーン
31…空気口
40…ズボン
50…可撓性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体的に成形された繊維製品にスクリーン捺染を施すための方法であって、
a)流体によって膨張可能な支持体を前記繊維製品の内部に挿入し、該支持体を膨張させて該繊維製品を立体的に支持する繊維製品支持ステップと、
b)所望の図柄を製版したベアスクリーンを前記立体的に支持された繊維製品上に貼付するスクリーン貼付ステップと、
c)該ベアスクリーンを介して該繊維製品にインキを吹き付けるインキ付与ステップと、
を有することを特徴とする繊維製品のプリント方法。
【請求項2】
上記スクリーン貼付ステップにおいて、上記ベアスクリーンが上記繊維製品の立体形状に沿うように、該ベアスクリーンの周縁に一箇所以上の切り込みを入れることを特徴とする請求項1に記載の繊維製品のプリント方法。
【請求項3】
上記繊維製品支持ステップにおいて、上記繊維製品と支持体の間に可撓性を有する厚さ0.3〜1.0mmの樹脂製シートを介挿することを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維製品のプリント方法。
【請求項4】
上記ベアスクリーンとして360〜800メッシュのスクリーンを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維製品のプリント方法。
【請求項5】
上記ベアスクリーンを繊維製品上に貼付する前に、上記所望の図柄を製版したベアスクリーンの繊維製品と対向しない側の面に撥水剤を塗布することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維製品のプリント方法。
【請求項6】
上記インキ付与ステップの後、上記繊維製品から取り外したベアスクリーンを枠体に張設した他のスクリーンの上に載置して洗浄することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の繊維製品のプリント方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の繊維製品のプリント方法に使用される膨張可能な支持体であって、
繊維強化プラスチック製シートから成る複数のパーツを縫合し、該縫合部を接着剤で封止して成る本体部と、
該本体部に流体を導入及び排出するための開閉自在な流体入出部と、
を有することを特徴とする繊維製品プリント用支持体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−179924(P2008−179924A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16031(P2007−16031)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(507028804)株式会社テラダスクリーン (1)
【Fターム(参考)】