説明

繊維製品の耐光堅牢度向上剤及び耐光堅牢度向上方法

【課題】 処理した繊維染色物の処理変色が少なく、耐光堅牢度向上効果に優れ、しかも、光と汗の複合による退色を防止する効果の優れた耐光堅牢度向上剤及び耐光堅牢度向上方法を提供する。
【解決手段】
下記に示した特定の化合物(I)を用いることを特徴とする繊維染色物の耐光堅牢度向上剤であり、その耐光堅牢度向上剤を用いることにより繊維染色物の耐光堅牢度特に汗耐光堅牢度を向上させる。
【化1】


(式中、Xは水素原子又はハロゲン原子を示す。Rは水素または炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基、Rは炭素数6〜18の直鎖又は分岐のアルキル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維染色物の堅牢度を向上するための技術に関する。さらに詳しくはセルロース繊維、ポリアミド繊維等の染色物の耐光堅牢度、特に汗耐光堅牢度を向上するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品染色物は光により染料が分解され退色するため、その耐光堅牢度を向上させる薬剤が求められている。最近では特に汗の存在により染料の分解が促進されることが確認されており、光と汗の複合作用に対する複合堅牢度(汗耐光堅牢度)への要求が高まっている。
【0003】
従来、繊維染色物の汗耐光堅牢度を向上させる努力がなされてきており、酸として作用する物質とその塩類を付与する方法(特許文献1)があるが、この方法では十分な効果が得られない。また、特定のベンゾトリアゾール誘導体により耐光堅牢度を向上させる方法(特許文献2)があり、耐光堅牢度に対してはある程度の向上効果は得られるが、汗耐光堅牢度に対してはこの方法では十分なものは得られない。
【特許文献1】特開平6−108383
【特許文献2】特許第2648744号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、近年の高度な要求を満足するために、従来の耐光堅牢度向上剤では得ることのできない優れた耐光堅牢度を達成し、しかも、光と汗の複合による退色を防止する効果にも優れた耐光堅牢度向上剤及び耐光堅牢度向上方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、耐光堅牢度向上効果に優れ、しかも、光と汗の複合による退色を防止する効果にも優れた耐光堅牢度向上剤について鋭意検討を行った結果、下記に示した特定の化合物(I)を用いることにより繊維染色物の耐光堅牢度特に汗耐光堅牢度を向上させることを見出し、本発明を完成した。
【化1】

(式中、Xは水素原子又はハロゲン原子を示す。Rは水素または炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基、Rは炭素数6〜18の直鎖又は分岐のアルキル基である。)
【0006】
さらに、本発明は上記化合物を耐光堅牢度向上剤として処理することを特徴とする繊維染色物の耐光堅牢度向上方法及び汗耐光堅牢度向上方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下にこの発明についてさらに詳しく説明する。本発明の耐光堅牢度向上剤は一般式[I]に属する有効成分化合物の少なくとも一種を含有することを必須とし、それ以外の成分が含まれていても特に問題はない。
【0008】
一般式[I]で表される化合物の具体例としては、オクチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、イソオクチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、2−エチルヘキシル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、オクチル−3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、イソオクチル−3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、2−エチルヘキシル−3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、ラウリル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、ラウリル−3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、ステアリル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、ステアリル−3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネートなどが挙げられ、特にオクチル−3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート、イソオクチル−3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネートが好ましい。
【0009】
これらの必須成分は、単独で使用してもよいし、二種以上併用してもよい。これら必須以外の成分としては特に制限はないが、ヒンダートアミン系光安定剤を含有してもよい。ヒンダートアミン系光安定剤の具体例としてはビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケートなどが挙げられる。
【0010】
本発明の汗耐光堅牢度向上剤の処理方法としては、特に制限はないが、溶剤希釈、乳化分散、乳化可溶化して染色物に処理し易い形態にして処理するのが良く、特に乳化剤を用いて水に乳化分散させた形態が最も扱いやすく、処理が容易であるため好ましい。
【0011】
上記希釈溶剤としては、希釈できるものであれば特に制限はなく、ヘキサン、1−メトキシ−2−プロピルアセテートなどが用いられる。
【0012】
水に乳化もしくは可溶化させる場合に用いる乳化剤としては特に制限はなく、乳化もしくは可溶化可能な乳化剤であれば問題なく使用することができる。その具体例としてはポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン油脂エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのノニオン性活性剤、ラウリル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩などのアニオン性活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウムなどのカチオン性活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイドなどの両性活性剤などを挙げることができ、これらは単独で使用してもよいし、二種以上併用してもよい。
【0013】
また、乳化方法としても特に制限はなく、転相乳化、機械乳化、液晶乳化等、いずれの乳化方法を用いてもよい。
【0014】
次に本発明における汗耐光堅牢度向上剤の処理方法について説明する。繊維に処理する方法は繊維の形態に応じて、浸漬処理、パディング処理あるいはスプレーによる噴霧処理等、いずれの方法でもよい。
【0015】
また、本発明の汗耐光堅牢度向上剤は単独で処理しても良いし、平滑剤等の仕上げ剤を併用してもよい。
【0016】
対象とする繊維は特に限定されないが、セルロース系繊維の染色物に対して著しい効果が認められる。また、染料についてもとくに限定されないが、反応染料に著しい効果が認められる。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明する。
【0017】
<染色布の準備>
綿(メリヤス)を下記の染料配合を用いて染色した。浴比は1:20、60℃で1時間染色した。Sumifix Supra Yellow 3RF 150% 0.1%o.w.f.、Sumifix Supra Red 3BF 150% 0.1%o.w.f.、Sumifix Supra Blue BRF 150% 0.1%o.w.f.(何れも住化ケムテックス株式会社製)芒硝40g/l、ソーダ灰15g/l
染色後、水洗及び乾燥し染色布1とした。
【0018】
<汗耐光堅牢度向上剤の処理>
本発明汗耐光堅牢度向上剤実施例1〜3及び比較例1〜2を処理し、試験布とした。
【0019】
実施例1
オクチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート 1.0gをヘキサン100gに溶解し処理浴とした。染色布に対して1dip・1nip、pick up率50%でパディング処理し、100℃で乾燥し、試験布とした。
【0020】
実施例2
オクチル−3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート 1.0gをヘキサン100gに溶解し処理浴とした。染色布に対して1dip・1nip、pick up率50%でパディング処理し、100℃で乾燥し、試験布とした。
【0021】
実施例3
オクチル−3−(3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート 0.5gをポリオキシエチレントリデシルエーテル(エチレンオキサイド10モル付加物)0.5gを用いて水100gに乳化分散させ処理浴とした。染色布に対して1dip・1nip、pick up率100%でパディング処理し、100℃で乾燥し、試験布とした。
【0022】
比較例1
アロンA−6330(ポリカルボン酸系共重合体(Na塩)40%品/東亜合成株式会社製)1.25gを水100gに溶解し処理液とした。染色布に対して1dip・1nip、pick up率100%でパディング処理し、100℃で乾燥し、試験布とした。
【0023】
比較例2
α−[3−[3−(2−H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]−1−オキソプロピル]−w−ヒドロキシプロピル(オキソ−1,2−エタンジイル)1.0gをヘキサン100gに溶解し処理浴とした。染色布に対して1dip・1nip、pick up率50%でパディング処理し、100℃で乾燥し、試験布とした。
【0024】
比較例3
従来より、ポリエステル染色布の耐光堅牢度向上剤として使用される汎用のベンゾトリアゾール化合物の2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを比較とした。2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール1.0gをヘキサン100gに溶解し処理浴とした。染色布に対して1dip・1nip、pickup率50%でパディング処理し、100℃で乾燥し、試験布とした。処理布はやや白化したが以下の耐光堅牢度試験は実施した。
【0025】
比較例4
従来より、ポリエステル染色布の耐光堅牢度向上剤として使用される汎用のベンゾトリアゾール化合物の2−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールを比較とした。2−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール1.0gをヘキサン100gに溶解し処理浴とした。染色布に対して1dip・1nip、pick up率50%でパディング処理し、100℃で乾燥したが、処理布に粉噴きが見られ白化したため、以下の耐光堅牢度試験は実施しなかった。
【0026】
<耐光堅牢度試験>
得られた耐光堅牢度向上剤処理布を試験布としJISL 0842に従い、紫外線フェードメーターを用いブラックパネル温度63℃にて20時間耐光試験を行った。
【0027】
<汗耐光堅牢度試験>
得られた耐光堅牢度向上剤処理布を試験布とし、下記アルカリ性人工汗液に浴比1:50で30分間浸漬し、取り出した後、ろ紙にはさんで軽く2〜3回押付け余分な汗液を脱液した後、紫外線フェードメーターを用いブラックパネル温度63℃にて10時間の汗耐光堅牢度試験を行った。
【0028】
<アルカリ性人工汗液の調整>
蒸留水約900ml中に、塩化ナトリウム5g、リン酸二ナトリウム(12水塩)5g、乳酸5g、L−ヒスチジン塩酸塩(1水塩)0.5g、DL−アスパラギン酸0.5g、D−パントテン酸ナトリウム5g、ブドウ糖(無水)5gを溶かし、1N水酸化ナトリウムを用いてpH8.0に調整し、全量を1Lとした。
【0029】
<耐光堅牢度及び汗耐光堅牢度の評価>
耐光堅牢度試験及び汗耐光堅牢度試験後の照射部の変退色をJISL 0888B法に準じて変退色用グレースケールを用いて評価した。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0033】
同様に以下の染料で染色した染色布に対して、同様の試験を行った結果を表2〜6に示す。染色布2:Sumifix Supra Yellow 3RF 150% 0.67%o.w.f.、Sumifix Supra Red 3BF 150% 0.67%o.w.f.、Sumifix Supra Blue BRF 150% 0.67%o.w.f.、染色布3:Sumifix Brill.Red BB 150% 3.0%o.w.f.、染色布4:Sumifix Supra Rubine E−XF 3.0%o.w.f.、染色布5:sumifix Red 2B gran.3.0%o.w.f.染色布6:Sumifix Supra Navy Blue BF gran.3.0%o.w.f.
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】


【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(I)を含む、繊維及び繊維製品の汗耐光堅牢度向上剤。
【化1】

(式中、Xは水素原子又はハロゲン原子を示す。Rは水素または炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基、Rは炭素数6〜18の直鎖又は分岐のアルキル基である。)
【請求項2】
請求項1記載の汗耐光向上剤を用いてなる耐光堅牢度向上剤。
【請求項3】
請求項1記載の汗耐光堅牢度向上剤を処理することを特徴とする繊維染色物の耐光堅牢度及び汗耐光堅牢度向上方法。

【公開番号】特開2009−30214(P2009−30214A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217615(P2007−217615)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(391003473)センカ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】