説明

繊維集合体の製造方法

【課題】均一で、品位に優れた繊維集合体を得ることができる、生産性に優れた製造方法を提供する。
【解決手段】紡糸原液供給ノズル2と電極6を有し、該ノズル2と該電極6との間にベルトコンベアである捕集手段3を備え、静電紡糸を行うことにより捕集手段3上に繊維集合体を得ることを特徴とする繊維集合体の製造方法。又捕集手段3と電極6との間に、電極6と電気的に繁がっている立体障害手段7を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維集合体の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、均一で、品位に優れた極細繊維不織布を得るに適した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノファイバーと呼ばれる極細繊維の開発が盛んに進められており、その一つの方法として静電紡糸の検討がなされている(例えば特許文献1参照)。かかる静電紡糸に用いた製造方法として、紡糸ノズルから吐出された繊維をステンレス等からなるローラーを捕集手段とするものが開示されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、かかる製造方法は、湾曲面に繊維が捕集されるため、湾曲面に沿った形で繊維が堆積され、ローラーより剥離した際、カールが発生し品位が安定しないという問題点があった。一方、一般的な不織布製造装置で用いられているベルトコンベアを捕集手段として用いた静電紡糸装置による製造方法も開示されている(例えば特許文献3〜5参照)。かかる捕集手段として、シリコーン樹脂やフッ素樹脂を含有する捕集表面に繊維を捕集することで捕集繊維の剥離性を高めている。捕集面が平面であるため、剥離した際のカールは解消されるが、捕集部はアースされているのみであり、安定した紡糸状態を得るには不十分である。かかる問題点は生産性を向上させるため、コンベアの速度を高めた場合、顕著に現われる。
【特許文献1】特開2002−249966号公報
【特許文献2】特開2005−194675号公報
【特許文献3】特開2006−112023号公報
【特許文献4】特開2006−169644号公報
【特許文献5】特開2006−241629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来技術の課題を背景としてなされたもので、均一で、品位に優れた繊維集合体を得ることができる、生産性に優れた製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、(1)紡糸原液供給ノズルと電極を有し、該ノズルと該電極との間に捕集手段を備え、静電紡糸を行うことにより捕集手段上に繊維集合体を得ることを特徴とする繊維集合体の製造方法、(2)前記捕集手段がベルトコンベアであることを特徴とする(1)記載の繊維集合体の繊維集合体の製造方法、(3)前記捕集手段を繊維集合体積層物の基材層とすることを特徴とする(1)記載の繊維集合体の製造方法、(4)前記原液供給ノズルに印加される電圧と前記電極に印加される電圧が正負異なることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の繊維集合体の製造方法、(5)前記捕集手段と電極との間に、立体障害手段を備えていることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載の繊維集合体の製造方法、(6)前記電極と前記立体障害手段が電気的に繋がっていることを特徴とする(1)〜(5)いずれかに記載の繊維集合体の製造方法、(7)前記立体障害手段が1個又は複数個のローラーであることを特徴とする(5)記載の繊維集合体の製造方法、である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、高い生産性で、品位に優れた極細繊維集合体が得られるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に記述する。
本発明の製造方法は、紡糸原液供給ノズルと電極を有し、該ノズルと該電極との間に捕集手段を備えていることが好ましい。かかる構成の製造方法であれば、極めて高い品位の極細繊維布帛が得られるからである。すなわち、静電紡糸法にて、高電圧に印加されたノズルから紡出される繊維は帯電しており、これを捕集手段の背後に設置した電極によって積極的に引き寄せることにより、捕集手段に対し安定して接触し、均一で欠点が少ない極細繊維布帛が得られる。
【0007】
本発明の製造方法から繊維集合体を製造する場合の紡糸溶液は、少なくとも高分子化合物と溶媒からなる紡糸原液を用いる。
【0008】
高分子化合物としては特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリロニトリル、ポロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレングリコール、ポリグリコール酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドベンザゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、セルロース、ポリペプチド、ポリヌクレオシド、ポリヌクレオチド、タンパク質、酵素などを使用することができる。これらの以外の高分子化合物も使用可能であり、これらの高分子化合物を含め、2種以上の高分子化合物を混合して用いることも可能である。
【0009】
溶媒としては、使用する高分子によって変わるため、特に限定するものではない。例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,4−ジオキサン、ピリジン、蟻酸、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、などを使用することができる。これら以外の溶媒も使用可能であり、これらの溶媒を含め、2種以上の溶媒を混合して用いることも可能である。
【0010】
紡糸状態、得られる極細繊維の性能を高めるために無機塩、有機塩、酸化防止剤、光触媒などの添加剤を加えることが可能である。
【0011】
本発明の製造方法を行う紡糸環境空間の水分量(絶対湿度)が2g/m〜12g/mが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法は、前記捕集手段がベルトコンベアであることが好ましい。ベルトコンベアを採用することにより、連続生産に適する生産性が高い製造方法となるからである。また、ベルトコンベアのベルトは、導電性であることが好ましい。導電性であることにより、紡糸原液供給ノズルから紡出された繊維を、電極が有効に引き寄せることができるからである。また、ベルトコンベアのベルトは、ベルト自体は導電性であっても、材料自体が絶縁性、不帯電性であるもの、例えば合成ゴム等を材料とする空隙を有するベルト、例えばメッシュ、寒冷紗等が好ましい。かかるベルトであれば、紡糸原液供給ノズルから紡出された繊維を、捕集手段に向けて有効に引き寄せ、捕集手段に捕集後、不織布を搬送する際、ベルトから剥離しやすく、トラブルが発生し難いからである。
【0013】
本発明の製造方法は、前記捕集手段が、極細繊維を積層する基材層であることも好ましい形態の一つである。すなわち、積層することになり、積層工程が簡略できると共に、基材層が保護層となって、最終製品となるまでの工程中でも極細繊維層を有効に保護することができるからである。
基材層の形態は特に限定されず、編物、織物、不織布、多孔膜、紙、フィルム等の形態であってもよいが、表面平滑性、通気性、極細繊維保護性能のバランスから不織布であることが特に好ましい。また、材質は特に限定されず、ポリアクリロニトリル、ポロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレングリコール、ポリグリコール酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドベンザゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、セルロースなどのような高分子化合物やアルミニウム、鉄などのような金属類、炭素を使用することができる。また、これらを組み合わせたものも使用することができる。用いられる用途に応じて適宜使用する。
【0014】
本発明の製造方法は、捕集手段と電極との間に、立体障害手段を備えていることが好ましい。本発明は、電極により、紡出された極細繊維を引き寄せて安定に捕集することを要旨とするところ、電極の作用により、捕集手段自体が引き寄せられ、捕集面が湾曲化して不安定となることを防止して平面を維持し、高い品位の極細繊維布帛又はその積層体が得られるからである。なお、本発明でいう立体障害手段は、物理的に捕集手段が電極に引き寄せることを物理的に防止するもので足り、例えば布帛や紙のような形状のものを、張ってもよい。
【0015】
本発明の製造方法は、原液供給ノズルに印加される電圧と電極に印加される電圧が正負異なることが好ましい。ノズルより紡出された繊維は高電荷を有しており、繊維が捕集手段に捕集された際、捕集手段に電荷が蓄えられる。この電荷を積極的に除去することは安定した紡糸状態を作り上げる。そのためには原液供給ノズルに印加される電圧と正負異なる電圧を電極に印加されることが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法に用いる立体障害手段は、前記立体障害手段が1個又は複数個のローラーであることが好ましい。ローラーであれば、ベルト又は基材層との摩擦が小さく、これらの摩耗がし難くなるからである。
【0017】
本発明の製造方法は、極細繊維集合体を製造する際、特に効果を発揮する。極細繊維は、比表面積が大きいため荷電し易く、周辺物の帯電に敏感であり、更に気流乱れ等の外乱の影響を受けやすいため、捕集手段に接触する点が乱れ易いところ、ノズルより紡出された高度に荷電された繊維を、電極を設置して、これにより引き寄せる本発明の製造方法によれば、捕集手段の接触点を安定化させることができるからである。ここでいう極細繊維とは0.001μm〜1μmをいい、より本発明が効果を発揮するのは、0.005μm〜0.5μm、更に効果を発揮するのは、0.01μm〜0.2μmである。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0019】
(参考例)
(ポリアクリロニトリル溶液の作製)
ポリアクリロニトリル(Polysciense製、重量平均分子量:15万)をN,N−ジメチルホルムアミドに10重量%になるように溶解し、ポリアクリロニトリル溶液を作製した。これを紡糸溶液とした。
【0020】
(極細繊維積層体の作製)
(実施例1)
図1に示すような製造装置にて、溶液槽1にシリンジ、紡糸ノズル2に先端がフラットな内径0.9mmのステンレス製針、捕集手段3にポリエチレンテレフタレート不織布、立体障害手段7にステンレス製ローラを用いた。参考例に示すポリアクリロニトリル溶液を溶液槽1に入れ、ノズル2に14kVの正電圧を印加し、電極6に2kVの負電圧を印加し、図1に示す方向に進行した不織布3上に平均繊維径0.15μmの繊維を紡糸した。不織布上に集中して紡出され、品位の高いものが得られた。
【0021】
(比較例1)
電極6の負電圧を印加しない以外は実施例1と同様に行った。ノズルから吐出された紡糸液は、ノズル直下中心に紡出されず、広範囲に散逸するように紡出され、品位の悪いものであった。
【0022】
(比較例2)
立体障害手段7を有せず、電極6の負電圧を印加しない以外は実施例1と同様に行った。ノズルから吐出された紡糸液は、ノズル直下中心に紡出されず、広範囲に散逸するように紡出され、品位の悪いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の製造方法によれば、高い生産性で、品位の高い極細繊維布帛又はその積層体をえることが可能となり、高い品位が求められる用途においても使用することが可能となり、産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明における製造装置の模式図の一例
【符号の説明】
【0025】
1:溶液槽
2:紡糸ノズル
3:捕集手段
4:巻出ロール
5:巻取ロール
6:電極
7:立体障害手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸原液供給ノズルと電極を有し、該ノズルと該電極との間に捕集手段を備え、静電紡糸を行うことにより捕集手段上に繊維集合体を得ることを特徴とする繊維集合体の製造方法。
【請求項2】
前記捕集手段がベルトコンベアであることを特徴とする請求項1記載の繊維集合体の製造方法。
【請求項3】
前記捕集手段を繊維集合体積層物の基材層とすることを特徴とする請求項1記載の繊維集合体の製造方法。
【請求項4】
前記原液供給ノズルに印加される電圧と前記電極に印加される電圧が正負異なることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の繊維集合体の製造方法。
【請求項5】
前記捕集手段と電極との間に、立体障害手段を備えていることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の繊維集合体の製造方法。
製造方法
【請求項6】
前記電極と前記立体障害手段が電気的に繋がっていることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の繊維集合体の製造方法。
【請求項7】
前記立体障害手段が1個又は複数個のローラーであることを特徴とする請求項5記載の繊維集合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−214825(P2008−214825A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56775(P2007−56775)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】