説明

繊維集束剤用共重合体、繊維集束剤、繊維束、及び繊維強化樹脂

【課題】再分散性が良好であるとともに、配合安定性に優れた繊維集束剤を調製し、かつ、高強度の繊維強化樹脂を製造し得る繊維集束剤用共重合体を提供する。
【解決手段】その構造中に、カルボキシル基と、スルホン酸基及び/又は硫酸基とを有し、カルボキシル基の含有割合が0.5〜13mmol/g、スルホン酸基及び硫酸基の含有割合が0.002〜1mmol/gである繊維集束剤用共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維集束剤用共重合体、水性共重合体分散液、繊維集束剤、繊維束とその製造方法、及び繊維強化樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂(FRP)は、強度、化学的安定性等に優れているため、従来、浴槽、貯水タンク、ボート、自動車用部品等に広く用いられている。このFRPは、通常、マトリックスとなる樹脂と、ガラス繊維束とを構成成分として含むものである。このガラス繊維束は、一般に、ガラス繊維紡糸工程を経由して得られた数百本のガラス繊維を、繊維集束剤を使用して集束(結束)することによって作製することができる。
【0003】
一般的に用いられている繊維集束剤は、ポリ酢酸ビニル系エマルジョン等のフィルム形成剤を主成分とし、その他表面処理剤、潤滑剤、帯電防止剤等を添加してなる混合組成物である。また、関連する従来技術としては、(メタ)アクリル酸エステル、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸、N−アルキロールアクリルアミド、及びその他の単量体を共重合してなる共重合体を含有するガラス繊維サイズ剤(集束剤)が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1において開示された集束剤に用いられる共重合体は、その水分散体と、シランカップリング剤とを混合した場合、長期間経過後に凝集物を生ずることがある。従って、配合安定性の向上を図る必要性があった。また、水分散体を乾燥して共重合体(乾燥物)とした場合、この乾燥物は溶媒への再分散性が必ずしも良好であるとはいえなかった。従って、再分散性の向上を図る必要性があった。
【0005】
更に、近年、飛躍的に進歩発展するFRPの利用分野においては、これらの集束剤を用いて最終的に得られるFRPの強度をより高める必要性があるが、これまで十分な強度を有するFRPを必ずしも十分に提供し得ていないのが実情である。
【特許文献1】特開昭51−31880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、再分散性が良好であるとともに、配合安定性に優れた繊維集束剤を調製し、かつ、高強度の繊維強化樹脂を製造し得る繊維集束剤用共重合体、及び水性共重合体分散液、配合安定性に優れているとともに、高強度の繊維強化樹脂を製造し得る繊維集束剤、高強度の繊維強化樹脂を製造し得る繊維束とその製造方法、並びに高強度の繊維強化樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、共重合体の構造中に、カルボキシル基、及びスルホン酸基を、それぞれ所定の割合で含有させることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下に示す繊維集束剤用共重合体、水性共重合体分散液、繊維集束剤、繊維束とその製造方法、及び繊維強化樹脂が提供される。
【0009】
[1]その構造中に、カルボキシル基と、スルホン酸基及び/又は硫酸基とを有し、前記カルボキシル基の含有割合が0.5〜13mmol/g、前記スルホン酸基及び前記硫酸基の含有割合が0.002〜1mmol/gである繊維集束剤用共重合体。
【0010】
[2](a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構成単位を5〜80質量%、(b)エチレン系不飽和スルホン酸単量体、硫酸エステル単量体、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位を0.05〜15質量%、並びに(c)これらの単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位を5〜94.5質量%(但し、(a)+(b)+(c)=100質量%)含有する前記[1]に記載の繊維集束剤用共重合体。
【0011】
[3]ガラス転移点(Tg)が、−30〜180℃である前記[1]又は[2]に記載の繊維集束剤用共重合体。
【0012】
[4]前記エチレン系不飽和カルボン酸単量体が、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体と、エチレン性不飽和ジカルボン酸単量体とを含む混合成分であり、前記混合成分に含有される、前記エチレン系不飽ジカルボン酸単量体の割合が、20質量%以上である前記[2]又は[3]に記載の繊維集束剤用共重合体。
【0013】
[5]水性溶媒と、前記水性溶媒中に分散する、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の繊維集束剤用共重合体と、を含有する水性共重合体分散液。
【0014】
[6](A)前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の繊維集束剤用共重合体と、前記(A)繊維集束剤用共重合体の100質量部に対して、(B)シランカップリング剤、及び/又はアミノシランカップリング剤10〜200質量部と、(C)水990〜29700質量部と、を含有する繊維集束剤。
【0015】
[7]前記[6]に記載の繊維集束剤を用いて複数の繊維を集束してなる繊維束。
【0016】
[8]前記繊維が、無機繊維及び/又は有機繊維である前記[7]に記載の繊維束。
【0017】
[9]前記無機繊維が、ガラス繊維及び/又は炭素繊維である前記[8]に記載の繊維束。
【0018】
[10]前記[6]に記載の繊維集束剤を用いて、複数の繊維を集束することにより繊維束を得る繊維束の製造方法。
【0019】
[11]前記[7]〜[9]のいずれかに記載の複数の繊維束と、複数の前記繊維束を保持するマトリックスとなる樹脂と、を含有する繊維強化樹脂。
【0020】
[12]前記樹脂が、(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも一種である前記[11]に記載の繊維強化樹脂。
【発明の効果】
【0021】
本発明の繊維集束剤用共重合体、及びこれを用いた水性共重合体分散液は、再分散性が良好であるとともに、配合安定性に優れた繊維集束剤を調製し、かつ、高強度の繊維強化樹脂を製造し得るといった効果を奏するものである。
【0022】
また、本発明の繊維集束剤は、配合安定性に優れているとともに、高強度の繊維強化樹脂を製造し得るといった効果を奏するものである。
【0023】
本発明の繊維束は、高強度の繊維強化樹脂を製造し得るといった効果を奏するものである。また、本発明の繊維束の製造方法によれば、高強度の繊維強化樹脂を製造し得る繊維束を製造することができる。
【0024】
本発明の繊維強化樹脂は、高強度であるといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0026】
1.繊維集束剤用共重合体
本発明の繊維集束剤用共重合体の一実施形態は、その構造中に、(1)カルボキシル基と、(2)スルホン酸基及び/又は硫酸基と、を有し、カルボキシル基の含有割合が0.5〜13mmol/g、スルホン酸基及び硫酸基の含有割合が0.002〜1mmol/gのものである。以下、その詳細について説明する。
【0027】
(カルボキシル基)
本実施形態の繊維集束剤用共重合体は、その構造中にカルボキシル基を有するものである。ここで、本明細書にいう「カルボキシル基」には、「−COOH」と「−COO-」のいずれの基も含まれる。本実施形態の繊維集束剤用共重合体に含有される、カルボキシル基の割合は、0.5〜13mmol/g、好ましくは1〜12mmol/g、更に好ましくは2〜10mmol/gである。カルボキシル基の含有割合が0.5mmol/g未満であると、再分散性に劣るとともに、この繊維集束剤用共重合体を用いて得られる繊維集束剤の配合安定性が低下する。また、高強度の繊維強化樹脂を製造し得なくなる。一方、カルボキシル基の含有割合が13mmol/g超であると、この繊維集束剤用共重合体が高粘度となって作業性が悪化する。
【0028】
(スルホン酸基、硫酸基)
本実施形態の繊維集束剤用共重合体は、その構造中にスルホン酸基及び/又は硫酸基を有するものである。ここで、本明細書にいう「スルホン酸基」には「−SO3H」と「−SO3-」のいずれの基も含まれる。また、本明細書にいう「硫酸基」には「−OSO3H」と「−OSO3-」のいずれの基も含まれる。更に、本明細書にいう「スルホン酸基及び/又は硫酸基を有する」には、全ての共重合体分子にスルホン酸基及び/又は硫酸基を有する場合のみならず、少なくとも一部の共重合体分子にスルホン酸基及び/又は硫酸基を有する場合も包含される。本実施形態の繊維集束剤用共重合体に含有される、スルホン酸基及び硫酸基の割合は、0.002〜1mmol/g、好ましくは0.005〜0.8mmol/g、更に好ましくは0.01〜0.7mmol/gである。スルホン酸基及び硫酸基の含有割合が0.002mmol/g未満であると、再分散性に劣るとともに、この繊維集束剤用共重合体を用いて得られる繊維集束剤の配合安定性が低下する。また、高強度の繊維強化樹脂を製造し得なくなる。一方、スルホン酸基及び硫酸基の含有割合が1mmol/g超であると、この繊維集束剤用共重合体の耐水性が悪化する。
【0029】
本実施形態の繊維集束剤用共重合体としては、(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構成単位を5〜80質量%、(b)エチレン系不飽和スルホン酸単量体、硫酸エステル単量体、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位を0.05〜15質量%、並びに(c)これらの単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位を5〜94.5質量%(但し、(a)+(b)+(c)=100質量%)含有するものを好適例として挙げることができる。以下、各構成単位毎に説明する。
【0030】
(構成単位(a))
構成単位(a)は、エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構成単位である。このエチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロトン酸等を挙げることができる。なかでも(メタ)アクリル酸や、イタコン酸、マレイン酸、及び無水マレイン酸等のエチレン系不飽和ジカルボン酸(又はそのハーフエステル)単量体が特に好ましい。これらの単量体を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
また、このエチレン系不飽和カルボン酸単量体として、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体と、エチレン性不飽和ジカルボン酸単量体とを含む混合成分を用いることも好ましい。この混合成分に含有される、エチレン性不飽和ジカルボン酸単量体の割合は、20質量%以上であることが好ましく、20〜80質量%であることが好ましい。エチレン性不飽和ジカルボン酸単量体の含有割合を20質量%以上とすることにより、得られる繊維強化樹脂の強度、特に湿熱条件下における強度を高めることができる。
【0032】
本実施形態の繊維集束剤用共重合体に含有される、構成単位(a)の割合は、5〜80質量%であることが好ましく、10〜75質量%であることが更に好ましく、20〜70質量%であることが特に好ましい。構成単位(a)の含有割合が5質量%未満であると、再分散性に劣るとともに、この繊維集束剤用共重合体を用いて得られる繊維集束剤の配合安定性が低下する傾向にある。一方、構成単位(a)の含有割合が80質量%超であると、この繊維集束剤用共重合体が高粘度となって作業性が低下する傾向にある。
【0033】
(構成単位(b))
構成単位(b)は、エチレン系不飽和スルホン酸単量体、硫酸エステル単量体、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位である。エチレン系不飽和スルホン酸単量体(及びその塩)としては、例えば、イソプレンスルホン酸、スチレン−3−スルホン酸、スチレン−4−スルホン酸、α−メチルスチレン−3−スルホン酸、α−メチルスチレン−4−スルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルアルキルスルホコハク酸、及びこれらの塩等を挙げることができる。なかでも、スチレンスルホン酸、アリルアルキルスルホコハク酸、及びこれらの塩が特に好ましい。これらの化合物を種単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
硫酸エステル単量体(及びその塩)としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルの硫酸塩、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアリルエーテルの硫酸塩、[({α−[2−(アリルオキシ)−1−({[アルキル(C=10〜14)]オキシ}メチル)エチル]−ω−ヒドロキシポリ(n=1〜100)(オキシエチレン)}を主成分とする{アルカノール(C=10〜14、分岐型)と1−(アリルオキシ)−2,3−エポキシプロパンの反応生成物}のオキシラン重付加物)の硫酸エステル化物]のアンモニウム塩;アンモニウム=α−{1−[(アリルオキシ)メチル]−n−アルキル(C=11,13)}−ω−(オキシドスルホニルオキシ)ポリ(n=1〜30)(オキシエチレン)を主成分とする[プロパ−2−エン−1−オール、1,2−エポキシ−n−アルカン(C=12,14)及びオキシランの反応生成物]とスルファミド酸の反応生成物;アンモニウム=ω−{[2−アリルオキシ−1−(ノニルフェノキシ)メチル]エトキシ}ポリ[(n=1〜100)エトキシ]スルホナート;を挙げることができる。なかでも、[({α−[2−(アリルオキシ)−1−({[アルキル(C=10〜14)]オキシ}メチル)エチル]−ω−ヒドロキシポリ(n=1〜100)(オキシエチレン)}を主成分とする{アルカノール(C=10〜14、分岐型)と1−(アリルオキシ)−2,3−エポキシプロパンの反応生成物}のオキシラン重付加物)の硫酸エステル化物]のアンモニウム塩、アンモニウム=α−{1−[(アリルオキシ)メチル]−n−アルキル(C=11,13)}−ω−(オキシドスルホニルオキシ)ポリ(n=1〜30)(オキシエチレン)を主成分とする[プロパ−2−エン−1−オール、1,2−エポキシ−n−アルカン(C=12,14)及びオキシランの反応生成物]とスルファミド酸の反応生成物が特に好ましい。これらの化合物を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
本実施形態の繊維集束剤用共重合体に含有される、構成単位(b)の割合は、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜15質量%であることが更に好ましく、1〜10質量%であることが特に好ましい。構成単位(b)の含有割合が0.1質量%未満であると、この繊維集束剤用共重合体を用いて得られる繊維集束剤の配合安定性が低下する傾向にある。一方、構成単位(b)の含有割合が20質量%超であると、得られる繊維強化樹脂の耐湿熱性が悪化する傾向にある。
【0036】
(構成単位(c))
構成単位(c)は、前述の構成単位(a)、及び構成単位(c)を構成するそれぞれの単量体と共重合可能な、「その他の単量体」に由来する構成単位である。「その他の単量体」は、非イオン性重合性単量体、及びイオン性重合性単量体のいずれでもよく、特に限定されない。
【0037】
非イオン性重合性単量体としては、20℃における水に対する溶解度が、3質量%以上であるものを好適例として挙げることができる。具体的には、アクリル酸メチル、N−ビニル−2−ピロリドン、イソプロペニルオキサゾリン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等を挙げることができる。なかでも、アクリル酸メチル、N−ビニル−2−ピロリドンがより好ましく、共重合性と親水性のバランスが良好であるアクリル酸メチルが特に好ましい。これらの化合物を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
イオン性重合性単量体としては、強酸基含有重合性単量体を好適例として挙げることができる。強酸基含有重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスフェート等の酸性リン酸エステル基含有重合性単量体を好適例として挙げることができる。これらの化合物を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。特に、この強酸基含有重合性単量体と、前述の非イオン性重合性単量体とを、「その他の単量体」として用いることが好ましい。
【0039】
「その他の単量体」としては、更に、メタクリル酸メチル;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル等の(メタ)アクリル酸と炭素数2〜18のアルコール(環式アルコールを除く)とのエステルである(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、エチルビニルベンゼン等のスチレン系重合性単量体;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル等のシクロヘキシル基含有重合性単量体;クロトン酸メチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類;ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類;(メタ)アクリル酸とポリプロピレングリコールとのモノエステル;(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジブチルアミノエチル、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の塩基性重合性単量体類;ビニルフェノール等の石炭酸系重合性単量体;(メタ)アクリル酸2−アジリジニルエチル、(メタ)アクリロイルアジリジン等のアジリジン基含有重合性単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性単量体類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、アリルトリエトキシシラン等のケイ素原子に直結する加水分解性ケイ素基含有重合性単量体;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン含有重合性単量体;(メタ)アクリル酸とエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1、3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、等の多価アルコールとのエステル化物等の分子内に重合性不飽和基を2個以上有する多官能(メタ)アクリル酸エステル類;ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート等の分子内に重合性不飽和基を2個以上有する多官能アリル化合物;(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸メタリル、ジビニルベンゼン等の多官能重合性単量体;トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;メタクリル酸2−(O−[1’−メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル等のブロック化2−アクリロイルオキシエチルイソシアナート類を好適例として挙げることができる。これらの単量体を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
本実施形態の繊維集束剤用共重合体に含有される、構成単位(c)の割合は、5〜94.5質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることが更に好ましく、20〜70質量%であることが特に好ましい。構成単位(c)の含有割合が5質量%未満であると、得られる繊維強化樹脂の耐湿熱性が悪化する傾向にある。一方、構成単位(c)の含有割合が94.5質量%超であると、この繊維集束剤用共重合体を用いて得られる繊維集束剤の配合安定性が低下するとともに、高強度の繊維強化樹脂を製造し難くなる傾向にある。
【0041】
また、本実施形態の繊維集束剤用共重合体のガラス転移点(Tg)は、−30〜180℃であることが好ましく、−20〜160℃であることが更に好ましく、−10〜150℃であることが特に好ましい。ガラス転移点(Tg)がこの温度範囲内であると、繊維束のべたつきがなく、また、より高強度の繊維強化樹脂を製造することが可能となるために好ましい。
【0042】
(繊維集束剤用共重合体の製造方法)
本実施形態の繊維集束剤用共重合体を製造するための重合方法は、特に限定されず、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等、公知の重合方法を用いることができる。なかでも、共重合体がエマルジョンの状態で得られる乳化重合が好ましい。
【0043】
乳化重合に使用する乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を挙げることができる。また、フッ素系の界面活性剤を使用することもできる。これらの乳化剤は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用することもできる。具体的には、アニオン系界面活性剤を好適に用いることができる。例えば、炭素数10以上の長鎖脂肪酸塩、ロジン酸塩等が好適に用いられる。より具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸のカリウム塩及び/又はナトリウム塩等を挙げることができる。
【0044】
重合反応を行うことによって得られる共重合体の分子量を調節するために、連鎖移動剤を使用することもできる。この連鎖移動剤としては、tert−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、四塩化炭素、チオグリコール類、ジテルペン、ターピノーレン、γ−テルピネン類等を使用することができる。
【0045】
各種単量体、乳化剤、ラジカル重合開始剤、及び連鎖移動剤等は、反応容器に全量を一括投入してから重合を開始してもよいし、反応継続中に連続的又は間欠的に追加・添加してもよい。重合反応は、酸素を除去した反応器を用いて行うことが好ましい。また、重合反応温度は、0〜100℃とすることが好ましく、0〜80℃とすることが更に好ましい。重合反応途中で、原料の添加法、温度、撹拌等の条件等を適宜変更してもよい。重合方式は、連続式であっても回分式であってもよい。重合反応時間は、0.01〜30時間程度とすればよい。
【0046】
2.水性共重合体分散液
次に、本発明の水性共重合体分散液の一実施形態について説明する。本実施形態の水性共重合体分散液は、水性溶媒と、この水性溶媒中に分散する前述の繊維集束剤用共重合体と、を含有するものである。以下、その詳細について説明する。
【0047】
(水性溶媒)
本実施形態の水性共重合体分散液に含有される水性溶媒は、水を主成分とする溶媒である。「水を主成分とする」とは、水性溶媒中の水の含有割合が、20質量%以上であることをいい、30質量%以上であることが好ましい。なお、この水性溶媒に含有されることのある水以外の溶媒は、本実施形態の水性共重合体分散液の特性が損なわれない限りにおいて、特に限定されない。
【0048】
(繊維集束剤用共重合体)
本実施形態の水性共重合体分散液に含有される繊維集束剤用共重合体は、これまで述べてきた、本発明の実施形態である繊維集束剤用共重合体である。本実施形態の水性共重合体分散液は、この繊維集束剤用共重合体を含有するものであるため、保存中に不溶性の凝集物を生じ難く、配合安定性に優れているとともに、高強度の繊維強化樹脂を製造することができる。なお、この繊維集束剤用共重合体は、その構造中に極性基(カルボキシル基、スルホン酸基及び/又は硫酸基)を所定の割合で含有するものであるため、例えばアミノ基等の極性基を有する樹脂をマトリックス樹脂として用いた場合に、特に高強度の繊維強化樹脂を製造することができる。更には、繊維集束剤用共重合体は、その構造中に極性基を含有するものであるため、この繊維集束剤用共重合体を含有する水性共重合体分散液を含む繊維集束剤を用いて複数の繊維を集束し、繊維束を製造するに際しては、帯電し難く、高速巻き取りが可能となる。
【0049】
本実施形態の水性共重合体分散液の固形分濃度は、10〜50質量%であることが好ましく、15〜40質量%であることが更に好ましい。固形分濃度が10質量%未満であると、生産性が低下する傾向にある。一方、固形分濃度が50質量%超であると、粘度が高くなる傾向にある。また、本実施形態の水性共重合体分散液の粘度は、1〜4000mPa・sであることが好ましく、5〜3000mPa・sであることが更に好ましい。水の粘度は約1mPa・sであるため、水性共重合体分散液の粘度を1mPa・s未満に調整することは困難である。なお、粘度が4000mPa・s超であると、作業性が低下する傾向にある。
【0050】
(水性共重合体分散液の調製方法)
本実施形態の水性共重合体分散液は、例えば、従来公知の方法により調製することができる。
【0051】
3.繊維集束剤
次に、本発明の繊維集束剤の一実施形態について説明する。本実施形態の繊維集束剤は、(A)前述の繊維集束剤用共重合体と、この(A)繊維集束剤用共重合体の100質量部に対して、(B)シランカップリング剤、及び/又はアミノシランカップリング剤10〜200質量部と、(C)水990〜29700質量部と、を含有するものである。以下、その詳細について説明する。
【0052】
((A)繊維集束剤用共重合体)
本実施形態の繊維集束剤に含有される共重合体は、これまで述べてきた、本発明の実施形態である繊維集束剤用共重合体である。本実施形態の繊維集束剤は、この繊維集束剤用共重合体を含有するものであるため、保存中に不溶性の凝集物を生じ難く、配合安定性に優れているとともに、高強度の繊維強化樹脂を製造することができる。なお、この繊維集束剤用共重合体は、その構造中に極性基(カルボキシル基、スルホン酸基及び/又は硫酸基)を所定の割合で含有するものであるため、例えばアミノ基等の極性基を有する樹脂をマトリックス樹脂として用いた場合に、特に高強度の繊維強化樹脂を製造することができる。更には、繊維集束剤用共重合体は、その構造中に極性基を含有するものであるため、この繊維集束剤用共重合体を含有する繊維集束剤を用いて複数の繊維を集束し、繊維束を製造するに際しては、帯電し難く、高速巻き取りが可能となる。
【0053】
((B)シランカップリング剤、アミノシランカップリング剤)
本実施形態の繊維集束剤は、シランカップリング剤、及び/又はアミノシランカップリング剤(以下、「(B)成分」ともいう)を含有するものである。シランカップリング剤としては、3−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を好適例として挙げることができる。また、アミノシランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等を好適例として挙げることができる。これらのカップリング剤を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
本実施形態の繊維集束剤に含有される、(B)成分(シランカップリング剤とアミノシランカップリング剤の合計)の割合は、(A)繊維集束剤用共重合体の100質量部に対して、10〜200質量部、好ましくは20〜180質量部、更に好ましくは30〜150質量部である。(B)成分の含有割合が10質量部未満であると、高強度の繊維強化樹脂を製造し得なくなる。一方、(B)成分の含有割合が200質量部超であると、配合安定性が低下する。
【0055】
((C)水)
本実施形態の繊維集束剤は、水を含有するものである。本実施形態の繊維集束剤に含有される水の割合は、(A)繊維集束剤用共重合体の100質量部に対して、990〜29700質量部、好ましくは1000〜25000質量部、更に好ましくは1500〜20000質量部である。水の含有割合が990質量部未満であると、粘度が高くなり、作業性が低下する。一方、水の含有割合が29700質量部超であると、高強度の繊維強化樹脂を製造し得なくなる。
【0056】
(その他の成分)
本実施形態の繊維集束剤は、繊維集束剤用共重合体と、シランカップリング剤及び/又はアミノシランカップリング剤と、水とを必須成分として含むものであるが、必要に応じて、潤滑剤、帯電防止剤、水性(共)重合体等のその他の成分を含有してもよい。
【0057】
潤滑剤は、繊維束に適度な滑り性を与え、工程通過時の摩擦を低減して繊維を保護するための成分である。潤滑剤の具体例としては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、木ろう等の植物系ワックス;みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス;モンタンワックス、セレシン、石油ワックス等の鉱物系ワックス;ポリエチレン等のポリアルキレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンエステル、クロロナフタレン、ソルビタール、ポリクロロポリフルオロエチレン等の合成ワックス;パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド、テトラエチレンペンタミンのステアリン酸縮合物、トリエチレンテトラミンのペラルゴン酸縮合物等のアミンアミドとその塩;アルキルイミダゾリン誘導体;ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸エステル系、脂肪酸エーテル系、芳香族エステル系、芳香族エーテル系界面活性剤;変性シリコーンオイル等を挙げることができる。
【0058】
本実施形態の繊維集束剤は、帯電防止剤を添加しなくとも帯電防止効果を発揮するものであるが、更に、帯電防止剤を別途添加してもよい。帯電防止剤の具体例としては、塩化リチウム、塩化アルミニウム等の無機塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0059】
水性(共)重合体の具体例としては、ウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリカルボン酸、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体、エチレン酢酸ビニル、アクリルエマルジョン等を挙げることができる。
【0060】
(繊維集束剤の調製方法)
本実施形態の繊維集束剤は、必要に応じて上述の潤滑剤や帯電防止剤を添加した、繊維集束剤用共重合体、シランカップリング剤及び/又はアミノシランカップリング剤、及び水を撹拌混合することにより調製することができる。
【0061】
4.繊維束
次に、本発明の繊維束の一実施形態について説明する。本実施形態の繊維束は、これまで述べてきた、本発明の実施形態である繊維集束剤を用いて複数の繊維を集束してなるものである。以下、その詳細について説明する。
【0062】
(繊維集束剤)
本実施形態の繊維束は、前述の本発明の実施形態である繊維集束剤を用いて製造されたものである。そして、この繊維集束剤には、その構造中に極性基(カルボキシル基、スルホン酸基)を所定の割合で含有する繊維集束剤用共重合体が含まれている。従って、本実施形態の繊維束は、高強度の繊維強化樹脂を製造し得るものである。特に、アミノ基等の極性基を有する樹脂をマトリックス樹脂として用いた場合に、より高強度の繊維強化樹脂を製造することができる。
【0063】
繊維集束剤によって集束される繊維としては、無機繊維や有機繊維を挙げることができる。無機繊維としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等を挙げることができる。また、有機繊維には、例えばポリ乳酸繊維等の生分解性樹脂からなる繊維が含まれる。これらの繊維を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの繊維は、例えば50〜4000本の単位で集束される。繊維に付与される繊維集束剤の量は特に限定されないが、繊維の全量に対して、0.1〜2質量%(但し、固形分として)とするのが好ましい。なお、繊維集束剤の固形分とは、繊維集束剤に含有される水以外の成分のことをいう。
【0064】
繊維の直径は特に限定されないが、3〜20μmであることが好ましく、5〜15μmであることが更に好ましい。また、繊維束の長さも特に限定されない。繊維束の形状は、連続したロービングでもよいし、特定の長さにカットされたチョップドストランドでもよい。
【0065】
(繊維束の製造方法)
本実施形態の繊維束は、具体的には、ローラーコーターを用いて、繊維集束剤を繊維に塗布した後、繊維ストランドとして巻き取り、次いで、所定の乾燥条件で乾燥すること等によって製造することができる。
【0066】
5.繊維強化樹脂
次に、本発明の繊維強化樹脂の一実施形態について説明する。本実施形態の繊維強化樹脂は、前述の本発明の実施形態である複数の繊維束と、これら複数の繊維束を保持するマトリックスとなる樹脂とを含有するものである。以下、その詳細について説明する。
【0067】
(繊維束)
本実施形態の繊維強化樹脂は、前述の本発明の実施形態である繊維束を用いて製造されたものである。そして、この繊維束を構成する繊維集束剤には、その構造中に極性基(カルボキシル基、スルホン酸基及び/又は硫酸基)を所定の割合で含有する繊維集束剤用共重合体が含まれている。従って、本実施形態の繊維強化樹脂は、この繊維束を用いて製造されているため、例えば、室温等の常態条件から、高湿・高温等の湿熱条件に至る、広範な条件下で高い強度を有するものである。特に、アミノ基等の極性基を有する樹脂をマトリックスに用いた場合に、より高強度の繊維強化樹脂とすることができる。
【0068】
本実施形態の繊維強化樹脂に含有される繊維束の量は、0.1〜80質量%であることが好ましく、1〜60質量%であることが更に好ましく、10〜50質量%であることが特に好ましい。繊維束の含有量が上記の数値範囲内であると、機械強度がより良好とともに、繊維強化樹脂の表面に繊維痕の浮き出しが少なくなり、外観が良好となる傾向にある。
【0069】
繊維束の長さは、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることが更に好ましく、10mm以上であることが特に好ましく、20mm以上であることがより好ましい。繊維束の長さが0.5mm以上であると、得られる繊維強化樹脂の強度がより向上する傾向にある。なお、繊維束の長さに上限はなく、所望の特性や加工性に応じて適宜設定される。また、繊維束は、繊維強化樹脂中で相互に連結していてもよい。
【0070】
(樹脂)
本実施形態の繊維強化樹脂には、前述の複数の繊維束を保持してマトリックスを構成する樹脂が含有される。マトリックスとなる樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、及びポリカーボネートを挙げることができる。なかでも、ポリアミドが好ましい。これらの樹脂を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
本実施形態の繊維強化樹脂に含有される樹脂の量は、1〜99質量%であることが好ましく、3〜50質量%であることが更に好ましく、5〜20質量%であることが特に好ましい。樹脂の含有量が上記の数値範囲内であると、得られる繊維強化樹脂の外観、及び機械的強度が良好となる傾向にある。
【0072】
(その他の成分)
本実施形態の繊維強化樹脂は、複数の繊維束と、これを保持するマトリックスとなる樹脂とを必須成分として含むものであるが、必要に応じて、重合性単量体、無機充填剤、重合開始剤、重合禁止剤、顔料、増粘剤、内部離型剤等のその他の成分を含有させてもよい。
【0073】
重合性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族環を持つエステル基を有する(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロヘキサン環を持つエステル基を有する(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のビシクロ環を持つエステル基を有する(メタ)アクリレート;トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル(メタ)アクリレート等のトリシクロ環を持つエステル基を有する(メタ)アクリレート;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等のフッ素原子を持ったエステル基を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等の疎水性(メタ)アクリル系単官能性単量体;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール鎖を持ったエステル基を有する(メタ)アクリレート;グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の環状エーテル構造を持ったエステル基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド等の親水性ノニオン性(メタ)アクリル系単官能性単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸金属塩等の親水性アニオン性(メタ)アクリル系単官能単量体等を挙げることができる。これらの単量体を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
重合性単量体の含有割合は、繊維強化樹脂中、3〜98質量%であることが好ましく、5〜60質量%であることが更に好ましく、10〜30質量%であることが特に好ましい。重合性単量体の含有割合が上記の数値範囲内であると、得られる繊維強化樹脂の流動性が向上するとともに、その重合収縮が小さくなり、寸法安定性が向上する傾向にある。なお、重合性単量体は、共重合させることによりマトリックスを構成することができる。
【0075】
無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、シリカ、溶融シリカ、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、タルク、マイカ、クレー、ガラスパウダー等の公知の材料を挙げることができる。これらの材料を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0076】
無機充填剤の含有割合は、繊維強化樹脂中、80質量%以下であることが好ましく、5〜60質量%であることが更に好ましく、20〜50質量%であることが特に好ましい。無機充填剤の含有割合が80質量%以下であると、得られる繊維強化樹脂の表面の光沢が向上し、外観が良好となる傾向にある。
【0077】
重合開始剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物等の公知の化合物を挙げることができる。これらの化合物を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
増粘剤としては、例えば、重合体粉末や酸化マグネシウム等の金属酸化物等、公知の材料を使用することができる。また、内部離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩や、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等の界面活性剤等の公知の材料を使用することができる。
【0079】
(繊維強化樹脂の製造方法)
本実施形態の繊維強化樹脂を製造するには、先ず、樹脂、繊維束、及び必要により添加されるその他の成分を、ミキサー等の低粘度用の公知の混合装置;ニーダー、連続式混練機、押出機等の高粘度用の公知の混合装置等を用いて混合・混練することにより、混合組成物を得る。次いで、得られた混合組成物を、圧縮成形法、射出成形法、鋳型成形法、ハンドレーアップ法、レジントランスファー法、スプレーアップ法、引き抜き成形法等の公知の成形方法により、所望の形状となるように成形すれば、本実施形態の繊維強化樹脂を得ることができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0081】
[ガラス転移点(Tg)(計算値)]:共重合体を構成する単量体成分((a)成分、(b)成分、(c)成分、・・・)の質量分率(Wa、Wb、Wc、・・・)と、各単量体成分の単独重合体のガラス転移点(Tga、Tgb、Tgc、・・・)の値から、下記式(1)に基づき算出した。
1/Tg(計算値)=Wa/Tga+Wb/Tgb+Wc/Tgc+・・・ (1)
【0082】
[配合安定性]:表2に示すように、水で希釈して5%濃度とした繊維集束剤用共重合体の分散液50部と、水30部に対して、水で希釈して5%濃度としたγ−アミノプロピルトリエトキシシランの水溶液20部を撹拌下に添加し、撹拌後、凝集物発生の有無を目視にて観察した。配合安定性を、以下に示す基準で三段階に評価した。
×:凝集物が多量に発生し、沈降物が認められるがゲル化した
△:凝集物の発生が認められた
○:凝集物がほとんど認められなかった
【0083】
[再分散性]:20%濃度の繊維集束剤用共重合体の分散液を、40℃、24時間乾燥することにより、約0.1gの繊維集束剤用共重合体の乾燥物を得た。得られた繊維集束剤用共重合体の乾燥物を、表2に記載の繊維集束剤100g中に入れ、室温にて6時間撹拌後、120メッシュ金網でろ過し、残さの質量(R)を測定した。使用した繊維集束剤用共重合体の乾燥物の質量(X)に対する、再分散した繊維集束剤用共重合体の乾燥物の質量(X−R)の割合(再分散割合(%)=((X−R)/X)×100)に応じ、再分散性を、以下に示す基準で三段階に評価した。
○:再分散割合が50%以上
△:再分散割合が10〜49%
×:再分散割合が10%未満
【0084】
[引張強度(常態)]:JIS K7054に準拠し、繊維強化樹脂で作製した試験片の引張強度(MPa)を測定した。
【0085】
[引張強度(湿熱)]:JIS K7054に準拠し、繊維強化樹脂で作製した試験片を121℃のオートクレーブ内に6時間載置した後、引張強度(MPa)を測定した。
【0086】
(実施例1)
コンデンサー、温度計、滴下ロート、及び撹拌機付きのガラス製反応容器(容量2リットル)に、イオン交換水250部、スチレンスルホン酸ナトリウム0.5部、過硫酸アンモニウム0.7部を入れ、内部の空気を窒素で置換した後、撹拌しつつ、内部温度を70℃に調整した。イオン交換水50部、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム2部、過硫酸アンモニウム0.1部、メタクリル酸35部、イタコン酸3部、ブチルアクリレート9.5部、メチルメタクリレート40部、及びスチレン10部を別容器で混合撹拌して得られた乳化物を、前記ガラス製反応容器内に3時間連続滴下した。滴下中は、窒素を導入しながら80℃で反応を行った。滴下終了後、更に85℃で2時間撹拌し、次いで、25℃まで冷却して反応を終了した。重合転化率は99%以上であった。また、凝固物の発生はほとんど認められなかった。その後、25℃を保った撹拌状態で、カルボキシル基の含有割合に対して、0.2化学当量のアンモニア水を徐々に添加し、繊維集束剤用共重合体の分散液を得た。得られた繊維集束剤用共重合体の分散液の固形分濃度は22%、粘度は10mPa・sであった。また、繊維集束剤用共重合体の再分散性の評価結果は「○」であった。
【0087】
得られた繊維集束剤用共重合体の分散液を固形分換算で2.5部、水96.5部、及びγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(固形分換算)1部を混合し、繊維集束剤を調製した。なお、調製した繊維集束剤の配合安定性の評価結果は「○」であった。
【0088】
調製した繊維集束剤を、直径10μmのガラス繊維の100部に対して、2部付与し、600本のガラス繊維を集束してストランドを得た。得られたストランドを通常のチョップカット法で切断した後、乾燥することにより、長さ5mmのチョップドストランドを得た。
【0089】
得られたチョップドストランド30部と、ナイロン6樹脂70部とを260℃で混練し、ペレット化した。ペレット化した混練物を用いて、インジェクションモールディング法によって、JIS K7054に規定された試験片(繊維強化樹脂)を作製した。作製した繊維強化樹脂の引張強度(常態)は210MPa、引張強度(湿熱)は91MPaであった。
【0090】
(実施例2、3、比較例1〜3)
表1に示す配合処方としたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様にして、繊維集束剤用共重合体、繊維集束剤、チョップドストランド、及び繊維強化樹脂を得た。得られた繊維集束剤用共重合体の再分散性、及び繊維集束剤の配合安定性の評価結果、並びに繊維強化樹脂の引張強度(常態及び湿熱)の測定結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
表1に示すように、実施例1〜3の繊維集束剤用共重合体及び繊維集束剤は、比較例1〜3の繊維集束剤用共重合体及び繊維集束剤に比べて、再分散性及び配合安定性に優れたものであることが明らかである。また、実施例1〜3の繊維強化樹脂は、比較例1〜3の繊維強化樹脂に比べて、常態及び湿熱のいずれの条件下であっても優れた引張強度を有するものであることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の繊維集束剤用共重合体を用いれば、高強度の繊維強化樹脂を製造することができる。この繊維強化樹脂は、例えば、自動車部品、鉄道部品、電子部品、宇宙・航空産業用部品、医療用品、スポーツ用品等の構成材料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その構造中に、カルボキシル基と、スルホン酸基及び/又は硫酸基とを有し、
前記カルボキシル基の含有割合が0.5〜13mmol/g、前記スルホン酸基及び前記硫酸基の含有割合が0.002〜1mmol/gである繊維集束剤用共重合体。
【請求項2】
(a)エチレン系不飽和カルボン酸単量体に由来する構成単位を5〜80質量%、
(b)エチレン系不飽和スルホン酸単量体、硫酸エステル単量体、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位を0.05〜15質量%、並びに
(c)これらの単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位を5〜94.5質量%(但し、(a)+(b)+(c)=100質量%)
含有する請求項1に記載の繊維集束剤用共重合体。
【請求項3】
ガラス転移点(Tg)が、−30〜180℃である請求項1又は2に記載の繊維集束剤用共重合体。
【請求項4】
前記エチレン系不飽和カルボン酸単量体が、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体と、エチレン性不飽和ジカルボン酸単量体とを含む混合成分であり、
前記混合成分に含有される、前記エチレン系不飽ジカルボン酸単量体の割合が、20質量%以上である請求項2又は3に記載の繊維集束剤用共重合体。
【請求項5】
水性溶媒と、
前記水性溶媒中に分散する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維集束剤用共重合体と、
を含有する水性共重合体分散液。
【請求項6】
(A)請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維集束剤用共重合体と、
前記(A)繊維集束剤用共重合体の100質量部に対して、
(B)シランカップリング剤、及び/又はアミノシランカップリング剤10〜200質量部と、
(C)水990〜29700質量部と、
を含有する繊維集束剤。
【請求項7】
請求項6に記載の繊維集束剤を用いて複数の繊維を集束してなる繊維束。
【請求項8】
前記繊維が、無機繊維及び/又は有機繊維である請求項7に記載の繊維束。
【請求項9】
前記無機繊維が、ガラス繊維及び/又は炭素繊維である請求項8に記載の繊維束。
【請求項10】
請求項6に記載の繊維集束剤を用いて、複数の繊維を集束することにより繊維束を得る繊維束の製造方法。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の複数の繊維束と、
複数の前記繊維束を保持するマトリックスとなる樹脂と、
を含有する繊維強化樹脂。
【請求項12】
前記樹脂が、(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも一種である請求項11に記載の繊維強化樹脂。

【公開番号】特開2007−23454(P2007−23454A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210817(P2005−210817)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】